Prologue: ……夕食を終えたあとの、休日の夜。私は梨花ちゃんと話をするために美雪ちゃん、菜央ちゃんと一緒に古手神社を訪れた。 協力してくれるかどうかはともかく……どうしても、古手神社の頭首である彼女に聞いてもらいたいことがあったからだ。 一穂(私服): ごめんなさい……梨花ちゃん。こんな遅い時間に、無理を言っちゃって。 梨花(私服): 気にしなくてもいいのです。沙都子たちには村の寄合に行くと言ってきたので、多少遅くなっても大丈夫なのですよ。 美雪(私服): ありがとね、助かるよ。とりあえず、今から一穂が話す内容を最後まで聞いてくれるかな。 そう言ってから美雪ちゃんは、目配せを送ってくる。私は頷き返すと顔を上げ、口を開いていった。 一穂(私服): えっと……実は、私……。 梨花(私服): ……みー。つまり、一穂の話を簡単にまとめると……。 梨花(私服): あなたは、こことは違う「世界」の記憶をいくつも持っている……そういうことなのですか? 一穂(私服): ……うん。どういう理屈でそうなったのかは、自分でもよくわからないけど……。 梨花(私服): …………。 私の答えを聞いて梨花ちゃんは、思案に暮れるように眉間にしわを寄せている。 あまりにも信じがたい事実を告げられて、どう受け止めていいのかわからないと言いたげだ。……困惑して当然だろう。 美雪(私服): とりあえず信じるか否かはさておいて……梨花ちゃんとしては、今の話の内容をどう思う?キミの意見を聞かせてくれると嬉しいな。 梨花(私服): ……その前に確認させてくださいなのです。美雪と菜央は、一穂の話を信じられるのですか? 梨花(私服): 一穂が、複数の「世界」を渡り歩いて……それぞれの#p雛見沢#sひなみざわ#rで、異なるボクたちと接してきたという……妄想のような内容を。 美雪(私服): …………。 美雪ちゃんはその問いかけに対し、一瞬表情を消して黙り込む。 そして苦笑交じりに肩をすくめると、再び口を開いていった。 美雪(私服): 実は、この話を最初に聞いた時一穂にも言ったんだけど……正直私だって、全てを無条件に信じるってわけじゃないよ。 美雪(私服): なにしろ、いろんな話を聞かされたからねー。ドラゴンが出てくるファンタジーな「世界」とか、どこかの学園での妙な「世界」とか……。 美雪(私服): TVドラマで見たような話もあったりして、梨花ちゃんが言った通り「妄想」にしか思えなくて正直困っちゃったよ。でも……。 美雪ちゃんはそこで、いったん言葉を切る。そして表情を改めると、真剣な面持ちで梨花ちゃんに向き直っていった。 美雪(私服): 私の親友の黒沢千雨……彼女のことを知ってるって聞かされたらもう信じるしかない、って思ったんだ。 梨花(私服): みー……黒沢、千雨……? 美雪(私服): まぁ、知らなくて当然か。実は私、最初は幼なじみの女の子と2人で雛見沢の調査を行うつもりでいたんだ。 美雪(私服): ただ、その子のお母さんの具合が悪くなって単身で来ることになっちゃったんだけど……。 菜央(私服): 一穂の話だとその千雨……? って子が美雪と一緒に雛見沢を訪れた「世界」もあったそうなのよ。 菜央(私服): 一緒に暮らして、分校にも通った上部活にまで参加してたらしくて……あたしたちは、全く記憶にないんだけどね。 一穂(私服): …………。 そう……美雪ちゃんと菜央ちゃんが、梨花ちゃんに相談しようと言いだしたのも、「彼女」のことがきっかけだった。 ……今朝のこと。私は眠りが浅かったせいか、リビングに顔を出した時は半分寝ぼけていた。 一穂(私服): おはよう……美雪ちゃん、菜央ちゃん。って、あれ……? 美雪(私服): おっはよー……って、一穂?リビングをきょろきょろと見回して、何を探してるのさ? 一穂(私服): あ……えっと、千雨ちゃんはまだ起きてきてないのかな、って……。 美雪(私服): えっ……?一穂、今なんて言った……?! 菜央(私服): ……千雨って、誰のことよ。 朝食の準備をしていた美雪ちゃんの顔色が変わり、その名前を「知らない」はずの菜央ちゃんにも怪訝な顔をされて……私は、失言を悟った。 一穂(私服): (しまった……! この「世界」には、千雨ちゃんがいなかったんだ……!) 慌ててごまかそうにも、口にしてしまった事実は取り消すことができず……私は2人から詰問されて、仕方なく正直に答えた。 私が、千雨ちゃんのいた「世界」の記憶を持っていること。そして他にも、様々な「雛見沢」を渡り歩いてきたという事実を……。 菜央(私服): ……。はいそうですか、とは簡単に受け止めづらい話ね。でも……。 美雪(私服): ……うん。それが事実だとしたら、今後どうすべきかを考えなきゃいけないね。 ……2人は真面目に、私の話を聞いてくれた。そして対処策を講じるため、ひとつの提案を持ちかけていった。 美雪(私服): ここは思い切って、梨花ちゃんに相談してみよう。彼女に聞けば、何かがわかるかもしれないしさ。 ……そんな話し合いを経て、今に至っていた。 菜央(私服): あたしとしては、なんでもっと早く一穂がそんな大事なことを打ち明けて相談してくれなかったのか……。 菜央(私服): その点だけは、正直ちょっとだけ不満だけどね。 一穂(私服): っ……ごめんなさい。でも……。 梨花(私服): ……一穂を責めないであげてください。相談できない気持ちは、よくわかるのですよ。 申し訳なくて思わず謝る私をかばうように、梨花ちゃんがそう言って取りなしてくれる。 そして、顔を伏せ……呟くように小さな声で続けていった。 梨花(私服): 勇気を出して打ち明けても、もしかしたら信じてもらえないかもしれない……。それを想像しただけで、怖くて……不安で……。 梨花(私服): 思わず足がすくんで挫けてしまうのは、臆病ではないと思うのですよ……。 そう言って梨花ちゃんは、きゅっ……と小さなこぶしを握りしめる。 その表情は何かを思い出すと同時に、痛みをこらえるようでもあって……。 何かあったんだろうか、と私は困惑しつつ同じように首をかしげている菜央ちゃんとお互いの顔を見合わせた。 美雪(私服): ……っと、そうだ! と、その時美雪ちゃんが何かを思い出したのか、自分の膝を叩いて声を上げる。 そして、一斉に向けられた3人の視線を受け止めながら、にこやかに笑っていった。 美雪(私服): 一穂、梨花ちゃんに見せたいものがあるんだよね。それって、今も持ってる? 一穂(私服): あ……う、うん。ちょっと待って……。 重苦しくなりかけた空気を変えてくれた彼女にそっと内心で感謝しながら、私はポケットからビー玉サイズの水晶を取り出す。 一穂(私服): これ……『スクセノタマワリ』って言って以前に前原くんからもらったものなんだけど、梨花ちゃんは……何か知ってる? 梨花(私服): みー、聞いたことがない名の代物ですが……とりあえず、見せてくださいなのです。 小さな水晶玉を受け取り、梨花ちゃんはじっと見つめる。そして、 梨花(私服): っ……これは……? 何か思い当たるものがあったのか、大きく目を見開きながら息をのんで固まった。 美雪(私服): 見覚え、あったりする? 梨花(私服): みー……その前に、ちょっと電話をさせてくださいなのです。 梨花(私服): これはボクだけじゃなくあの子にも、ちゃんと見てもらったほうがいいと思うのですよ。 美雪(私服): あの子……? そして梨花ちゃんが、神妙な様子で電話をかけてから数分後……やって来たのは羽入ちゃんだった。 梨花(私服): ……来たわね、羽入。沙都子には、うまく言ってごまかしてくれた? 羽入(私服): はいなのです。町会の寄合であなたが忘れ物をしたので、それを届けに行くと言ってきたのですよ。 羽入(私服): それで……梨花?僕にぜひ見てもらいたいものがあると話していましたが……どれですか? 梨花(私服): これよ。……見て頂戴。 不安げな表情で居間へ入ってきた彼女に、梨花ちゃんは私から受け取った水晶玉……『スクセノタマワリ』を差し出した。 梨花(私服): 一穂たちが持っていたの。なんでも別の「世界」にいた圭一から、直接渡されたものなんですって。 羽入(私服): っ、そんな……?! 受け取った途端、羽入ちゃんも同様に驚いた反応を見せる。それを見た梨花ちゃんは、さも予想通りだと言いたげに頷いていった。 梨花(私服): やっぱり……あなたも見覚えがあるのね。 羽入(私服): は、はいなのです……!でも、古手家の秘宝である『カムノミコトノリ』をどうして一穂たちが持っているのですか?! 美雪(私服): カムノ……なんだって? 菜央(私服): 古手家の秘宝って言ったわよね。つまり2人は、これが何か知ってるの……? 梨花&羽入: …………。 2人から尋ねられて、梨花ちゃんと羽入ちゃんは視線を交差させる。 そして互いに頷き合うとこちらへ顔を戻し、意を決したように告げていった。 梨花(私服): ……とぼけるのは、もう止めにしましょう。実は私も、おそらく一穂と同じように……別の「世界」の記憶があるわ。 一穂(私服): えっ……? 美雪(私服): 別の「世界」ってことは……まさか……?! 驚く私たちに向けて、梨花ちゃんは無言で頷く。つまり彼女も、複数の「世界」を渡り歩いてここにいるということ……?! 梨花(私服): で、以前に私は……こことは違う「世界」に存在を飛ばされて、羽入と引き離されたことがあったんだけど。 梨花(私服): その際に、祭具殿の中で見つけた『カムノミコトノリ』という水晶玉……古手家の秘宝とこれがそっくりなのよ。 羽入(私服): そっくりどころではありません……!形も色も、さらにこの中に秘められた力の波長は『カムノミコトノリ』と瓜二つなのです。 羽入(私服): つまり名前は違えども、ほぼ同じものだと思って然るべきかもしれませんのです! 菜央(私服): 同一ではないけど、同質ってこと……?同じ製法で作られたとか、同じ人が作ったとか……。 美雪(私服): それに、どっちが本物かあるいは模倣品って可能性もあるけど……それ以上に気になるのは、出自だね。 美雪(私服): 前原くんは、どうしてこんなすごいものを持ってたんだろう?古手家の秘宝だって知ってたのかな……? 梨花(私服): ……圭一から受け取った、って言っていたわね。誰からもらったものなのか、本人に聞いた? 一穂(私服): う、うん……この「世界」に来た時に。けど前原くん、これが何なのかさえも忘れちゃってて……。 美雪(私服): おそらくだけど……所有権を手放したことで、他のみんなと同じように「世界」から記憶改変の影響を受けることになったのかもしれないね。 美雪(私服): となると、前原くんから情報を入手するのはもう不可能ってことか……。 菜央(私服): 一穂が言うには、前原さんは梨花のいない「世界」で古手家の頭首代行を務めていた「絢花」って人からもらったんじゃないかって話だけど……。 菜央(私服): あなたの身の回りで、そんな名前の人に聞き覚えはあったりする? 梨花(私服): 古手家の分家筋の存在については、以前聞いたことはあるけど……。 梨花(私服): かなり昔に雛見沢と縁を切ったことくらいで、それ以上は特に何も知らないわ。 梨花(私服): それに、古手家の親類縁者は思いつく限り身の回りには存在していないし……羽入はどう? 羽入(私服): あぅあぅ、僕の記憶にもないのです。古手家の倉庫の中にある過去の文献を調べれば、記録が残っているのかもしれませんが。 一穂(私服): ……っ……。 美雪(私服): なら、決まりだね。私と菜央は羽入を手伝って、倉庫の中の文献を調べてみるよ。 美雪(私服): 梨花ちゃん。古手家の『カムノミコトノリ』が、一穂の持ってる『スクセノタマワリ』と本当に同じものなのか、確かめる方法ってある? 菜央(私服): あたしたちが『スクセノタマワリ』って呼んでるこれが、『カムノミコトノリ』そのものの可能性もあるってこと? 美雪(私服): うん。その可能性はあるかなって。 梨花(私服): ……だとしたら、本物の『カムノミコトノリ』の所在を確認するのが先決ね。 一穂(私服): 本物って……それがどこにあるのか、梨花ちゃんは知ってるの? 梨花(私服): えぇ。 こくり、と梨花ちゃんは頷く。そして静かな口調で……おもむろに告げていった。 梨花(私服): 以前の「世界」で『カムノミコトノリ』を見つけたのは、祭具殿の中。……おそらくこの「世界」でも同じはずよ。 Part 01: 夜が明けてから、次の日の朝。私たちは再び古手神社へと向かった。 美雪(私服): 『あまり人目につくと、面倒だからね。二手に分かれて取りかかろう』 美雪ちゃんの提案で、古手家の倉庫は彼女と菜央ちゃん、羽入ちゃん。祭具殿は私と梨花ちゃんが担当することになった。 梨花(私服): っ……鍵、開いたわ。 そう言って梨花ちゃんは外した南京錠を地面に置き、祭具殿の扉を片側だけ開けて中へ足を踏み入れる。……私もおそるおそる、その後に続いた。 一穂(私服): ……っ、……! 薄暗がりの中に浮かび上がってきたのは、おびただしい数の拷問器具。そして――、 一穂(私服): 『オヤシロさま』……。 厳かな面立ちをしたその像を見つめていると、まるで見張られているかのような錯覚にとらわれる。 そのせいか、なんだかすごく悪いことをしている気分で後ろめたさを覚えながら……私は梨花ちゃんの所在を求めて周囲を見回した。 一穂(私服): えっと……梨花ちゃんは、どこに……? 梨花(私服): ……ここよ、一穂。 声が下の方から聞こえて、私は目を向ける。彼女はオヤシロさまの像の足下にしゃがみ込んで、そこにあった祭壇のようなものを見つめていた。 梨花(私服): おかしいわね……以前の「世界」だと、ここに『カムノミコトノリ』があったのよ。 首をかしげる梨花ちゃんの言葉の通り、祭壇には何かが置かれていた形跡が残っている。 いや……むしろ痕跡と呼ぶべきだろう。木製の棚の一部が経年の変色から逃れて、元の色をさらしていたからだ。 梨花(私服): 持ち出されたのは最近か、もっと前か……といっても私たちは警察の鑑識じゃないから、その辺りの判断はできないわね。 一穂(私服): じゃあ、いったい誰がここから持ち出していったの……? 梨花(私服): それも、現時点ではなんとも言えないわ。この祭具殿の中に入ることは村の禁忌だから、人の出入りはない……と言いたいけど……。 梨花(私服): 実は誰も気づかないところに抜け穴があって、簡単に入ることができるのよ。 一穂(私服): 抜け穴……? 梨花(私服): ほら、見て。……あれのことよ。 そう言って梨花ちゃんは、天井を指さす。確かに彼女が示した通り、そこには人が侵入できそうな壊れた格子窓があった。 梨花(私服): 『オヤシロさまの#p祟#sたた#rり』……なんてご大層なことを言って脅かしておいても、実際はこんな程度の管理体制よ。 梨花(私服): 裏を返せば、管理を厳密にする必要性は特別なかった……とも言えるけど。 そう言いながら、梨花ちゃんは祭壇のそばに置かれた空っぽの花瓶にそっと触れる。 古い物ばかりに囲まれた室内の中でも、小さなそれだけは目立つほどに新しいように見えた。 梨花(私服): ……。お供えも、もう必要ないわね。だって、今は隣にいるんだから。 一穂(私服): 梨花ちゃん……? 梨花(私服): なんでもないわ。……こっちの話よ。 梨花ちゃんはそう答えて、ふっと微笑みながら花瓶から手を離す。 今の言葉の意味はよくわからなかったけど……それを尋ねるよりも早く、彼女は立ち上がっていった。 梨花(私服): いずれにしても、形状はビー玉にしか見えない『カムノミコトノリ』を盗み出したってことは……何らかの意図があったと考えたほうがよさそうね。 一穂(私服): 何らかの意図……って、どういうこと? 梨花(私服): さっき確かめてみたんだけど、この祭具殿の中には換金が比較的容易な宝物もいくつかあるのよ。 梨花(私服): でも、それには手をつけた形跡がなかった。つまり犯人は『カムノミコトノリ』を狙い、金目的以外で盗み出した……ってことでしょうね。 一穂(私服): ……盗まれたってことは、確定? 梨花(私服): えぇ。水晶玉が自然消滅するものでなければ、それしか考えようがないわ。 一穂(私服): ……っ……。 梨花(私服): まぁ、なにはともあれ……『カムノミコトノリ』が見つからない以上、ここにいても仕方がない。 梨花(私服): ここはいったん閉めて、古手家の倉庫で手がかりを探している羽入たちの様子を見に行きましょう。 一穂(私服): うん、そうだね。美雪ちゃんたちが倉庫で何かを見つけてくれてるかもしれないし。 美雪(私服): だっめだー……全然、見つからない!もうお手上げだよ! 夕焼けの中、美雪ちゃんの悲鳴に似た叫び声があがる。 元々の担当の3人に加え、私と梨花ちゃんも『西園寺』関連の資料を探してみたものの……成果はなく、時間だけが無為に過ぎてしまった。 菜央(私服): とりあえず、文献を片っ端からみんなで手分けして読みあさってはみたけど……どの本にも、西園寺家の名前はなかったわね。 一穂(私服): そ、そうだね……うぅ、昔の読みにくい文字を見すぎて目がしょぼしょぼするよ……ふぁぁ……。 ぐったりとした疲労に肩を落としながら、私は目をこすって大あくびをする。他の4人もうんざりと言いたげな様子が表情に出ていた。 美雪(私服): っていうか、ここに書いてある資料から出てくる名字は園崎とか公由とか……。 美雪(私服): あとはご近所の表札で見たよくあるものばっかりで、「西園寺」ってのはどこにも見当たらなかったよ。 一穂(私服): この畠山って名字は、見たことがないけど……。 梨花(私服): 一応、聞き覚えはあるわ。おそらくどこかに引っ越した昔の住人ね。 美雪(私服): っていうか、西園寺って名前の人は昔から#p雛見沢#sひなみざわ#rにいたの? 私たちと同じように移住組……って可能性もあるんじゃない? 菜央(私服): そんなところまで手を伸ばし始めたら、もうあたしたちには確かめようがないわ。……文字通りのお手上げよ。 羽入(私服): あぅあぅ……移転してきた世帯の記録については、ひょっとしたら……。 ふと、羽入ちゃんが呟く。そして、独りごちるように小さな声で続けていった。 羽入(私服): 古手神社の『隠し宝物殿』の文献だったら、それが書かれているかもしれないのですよ……。 美雪(私服): 隠し宝物殿……って、そんなのがあるの? 羽入(私服): あります……というよりも、「あった」と言ったほうが正しいかもなのです。 羽入(私服): 祭具殿より後につくられたそうですが、どういうわけか過去に起こったいざこざの際に置き捨てられてしまったようで……。 羽入(私服): 今では文献にのみ、存在が言及されているのですよ。 梨花(私服): ……それは私も初耳ね。どうして、今まで教えてくれなかったの……? 羽入(私服): お、怒らないでくださいなのです。たまたま話す機会がなかっただけなのですよ……! 不満をあらわに、詰め寄る梨花ちゃん。それに対して羽入ちゃんは、あぅあぅと慌てた様子で弁明をしてみせていった。 羽入(私服): そもそも、なんでそれが作られたのか僕もわからないのです……! 何が収められていたのか、置き捨てられてしまった経緯も、原因も……! 梨花(私服): ……まったく、頼りにならないわね。あんたがそんな感じだから、私も――。 美雪(私服): はいはい、2人とも落ち着いて。言い争ったところで、得るものはないんだからさ。 菜央(私服): それにしても……隠し宝物殿なんてずいぶんとご都合主義な代物ね。とってつけた感があって、存在自体が怪しいわ。 美雪(私服): あはは。そう感じても仕方ないと思うけど、実際は突然ってわけじゃないんじゃない? 一穂(私服): ? それって……どういうこと? 美雪(私服): ほら、新種の魚発見とかよく言うでしょ?だけど、別に人間が発見するより前から魚はいたわけだしさ。 美雪(私服): 基本的には、それと同じこと。新種って呼ばれた魚からすると、自分たちは以前からいましたけど? ってなるんだしさ。 菜央(私服): 確かに……未発見の大陸って名前、現地の人から見て考えたら失礼極まりない言い方よね。 梨花(私服): ……話をはぐらかさないで、美雪。私が聞きたいのは、羽入がなぜ隠し宝物殿の存在を黙っていたのかってことなんだから。 羽入(私服): あぅあぅあぅ~!だってだって、どこにあったとか何が入っていたとか、僕は覚えていないので何も答えられないのですよ~! 梨花(私服): だとしても、存在くらいは教えてくれていたっていいじゃない。……気が回らないわね。 羽入(私服): そんなことを言われても、曖昧な情報だけを伝えて梨花を困らせたくなかったのですよ~! 一穂(私服): え、ええっと……その。羽入ちゃんも悪気があったわけでは……あれ? 悲鳴をあげる羽入ちゃんの背後から、こちらへと向かってくる気配を感じて……私はそっと、目を向ける。 一穂(私服): (誰か、こっちに来てる……?って、あれは……) 人の姿を2つ認めた私が、目をこらしてそれを確かめたところ……それは私たちのよく知る子たちだった。 一穂(私服): えっと……前原くんと、沙都子ちゃん……? Part 02: 圭一(私服): おっ、梨花ちゃんじゃねぇか。それに、一穂ちゃんたちも……? 沙都子(私服): あの……倉庫の中身を外に出して、いったい何をしているんですの? そう言って前原くんと沙都子ちゃんは、倉庫の前に荷物を広げた私たちの様子を怪訝そうに見つめてくる。 突然の彼らの来訪に、どう答えるべきかわからず……私たちは曖昧な笑みで顔を見合わせるしかなかった。 沙都子(私服): 大掃除は年末にやったはずですわよね?まだ半年も経っていませんのに……。 梨花(私服): お帰りなさいなのです、沙都子。今日は#p興宮#sおきのみや#rで野球の試合があったはずですが、もう終わったのですか……? 沙都子(私服): えぇ、コールドゲームで瞬殺でしたわ。圭一さんも大活躍でしたのよ、をーっほっほっほっ! 梨花(私服): ……それはよかったのですよ、にぱー☆ 大勝利の余韻で高笑いする沙都子ちゃんに、梨花ちゃんはごく自然な笑みで対応している。 このまま野球の話題で乗り切れば、現状を有耶無耶にごまかすことも可能かもしれない。そんな期待がふと、胸の内にわきかけたが……。 沙都子(私服): ……で、なんで季節外れの大掃除なんてしていたんですの? 言ってくだされば、私たちも手伝いましたのに。 梨花(私服): みー……。 羽入(私服): あぅあぅ……。 瞬く間に話題が戻って、梨花ちゃんと羽入ちゃんは顔を見合わせる。……やっぱり、ごまかせなかった。 一穂(私服): あ、えっと……それは……。 菜央(私服): ちょっと、探しものをしてるのよ。 フォローを入れようとする私に代わって、菜央ちゃんがさらりと口を挟む。そして、隣の美雪ちゃんに目配せを送った。 沙都子(私服): 探しもの……何を、ですの? 美雪(私服): いやー……ちらっと聞いた、#p雛見沢#sひなみざわ#rのどこかにお宝が眠ってるって噂話を確かめようと思ってね。 沙都子(私服): えっ……そんな話、初めて聞きましたわ。お宝って、どんなものでして? 美雪(私服): それも、今のところは不明!ただ、梨花ちゃんなら何か知らないかなーって思ってさ。 美雪(私服): それで相談したら、心当たりがあるって言われて倉庫の中をこうして探してたんだよねー♪ いたずらっぽく笑いながら、美雪ちゃんは視線を羽入ちゃんへと向ける。 美雪(私服): ねー、羽入。さっきキミが言ってた『隠し宝物殿』について書いてある文献だけど……どれがそうなの? 羽入(私服): ちょ、ちょっと待ってくださいなのです!あぅあぅ……えっと……。 彼女は慌てて文献を次々に手に取り、あれでもない、これでもない、と探し始める。 その落ち着かない振る舞いが、逆に自然に見えて違和感がない。……さすが美雪ちゃんだ。 沙都子(私服): 『隠し宝物殿』……なんだか面白そうですわね。 圭一(私服): そうか?俺は嫌な予感と期待が半々なんだが……ただ、「隠し」って言葉には惹かれるな。 圭一(私服): 隠されると探したくなるっていうか……なんだか、男心をくすぐられる感じだぜ。 沙都子(私服): 女心もかなりくすぐられますわよ?そもそも宝物という単語が魅力的ですもの。 圭一(私服): ははっ。まぁ、レナがこの場にいてそう言ったら、ちょっと意味が変わってくるかもしれねぇけどな。 沙都子(私服): 確かにその通りですわね……をっほっほっほっ! 宝物、というキーワードに惹かれたのか、沙都子ちゃんと前原くんは興味深そうに羽入ちゃんの様子を背後からのぞき込んでいる。 一穂(私服): (……よかった。このままなら、うまくごまかせるかも……) 美雪(私服): …………。 ほっと胸をなで下ろした私がふと顔を向けると、目が合った美雪ちゃんが会心の笑みを返してくる。 ……彼女は、嘘を言っていない。隠したのは、情報源が私であるということだけだ。 「世界」云々のことを知る人が増えて、事態を複雑にしすぎないためにも……この程度の「嘘」は仕方がないのかもしれない。 梨花(私服): …………。 実際、梨花ちゃんは安堵したように息をついている。そんな彼女の様子を見る限り、これが一番無難な対応なのだろう……きっと。 菜央(私服): ……ねぇ羽入、もう夕方よ。探しものの続きは、次の機会にしましょう。 美雪(私服): そうだね。正直、ちょっと疲れちゃったしさ。今夜の夕飯は簡単に……。 圭一(私服): ん……なんだ、この本? 美雪ちゃんたちがそう言って、収拾をつけようとしたその時……腰をかがめた前原くんが、ふいに声を上げる。 そして、足下にあった古めかしい本のひとつを手に取り、ぱらぱらとめくりはじめた。 圭一(私服): なになに……古手神社の、宝物殿……の、地図? 一穂(私服): えっ……? 圭一(私服): これって、敷地の離れにある祭具殿のことじゃないよな。地図を見る限り、ここから離れているし……。 一穂(私服): ま……前原くん! それ、貸してっ! 圭一(私服): のわっと?! 私は半ば強引に、前原くんの手から本をひったくる。 そして、すぐそばにいる梨花ちゃんに差し出していった。 一穂(私服): り……梨花ちゃん!ひょっとしてこれが、『隠し宝物殿』の場所を示した文献じゃない……?! 梨花(私服): っ……確認してみるのです、みー! 羽入(私服): あぅあぅ……!ぼ、僕にも見せてくださいなのです!! 文献を探すふりをしていた羽入ちゃんも、慌ててこちらへと駆け寄ってくる。 梨花(私服): みー……この地図に書かれている場所は、確かに祭具殿と違うのです。 梨花(私服): もし、この場所を見つけることができればその中に古い文献……。 梨花(私服): あるいはさっき見つからなかった『カムノミコトノリ』が見つかる可能性も……! 美雪(私服): お、おぅ……2つが揃うと、どうなっちゃうの?なんかすごいことが起きるとか……? 菜央(私服): さぁ……?なんにせよ、凄いパワーを持つ宝物が複数あることに越したことはないわね。 圭一(私服): へ……?な、なんだ? 何が起きるっていうんだ……? 沙都子(私服): ……いったい梨花たちは、何を盛り上がっているんですの? 圭一(私服): さ、さぁ……?よくわからねぇけど……俺、お手柄なのか? 沙都子(私服): 最終的に、鬼が出るか蛇が出るかによるのでは……? 圭一(私服): それって両方とも、宝なんかじゃねぇだろうが……! Part 03: ――再びやってきた、休日の昼前。 私たちの姿は、再び古手神社にあった。 一穂(私服): よし、お昼のおにぎりもたくさん持ったし……美雪ちゃん、菜央ちゃん!『隠し宝物殿』の捜索、頑張ろうねっ! 梨花(私服): みー。野外活動の経験豊富な美雪と勘のいい菜央が頑張ってくれると、とても心強いのですよ。 美雪(山登り): お、おぅ……期待される以上は、それなりに役目を果たさないとだね。 美雪(山登り): とはいえ、地図があっても土砂崩れとかで地形が変わってる可能性もあるし……辿りついても、現存してるかどうかは微妙かな。 羽入(巫女): あぅあぅ……美雪は乗り気ではないのですか? 菜央(私服): 大丈夫よ。一穂の「お昼はおにぎりが食べたい!」要望を聞いて早起きして、大量に握らされたせいで眠いだけでしょ。 美雪(山登り): んー、眠くはないよ。これでも『隠し宝物殿』発見のために、全力投球をするつもりでいるって。 美雪(山登り): ただ……。 魅音(私服): 諸君、本日は晴天なり!絶好の宝探し日和である!! レナ(私服): はぅ~! どんな宝物があるのかな?かぁいい宝物だといいな~♪ 美雪(山登り): ……なんか人数、増えてない? 圭一(トレジャーハント): へへっ、腕が鳴るぜ!俺、映画で見たあの探検家みたいなことを一度でいいからしてみたかったんだよなー! 沙都子(トレジャーハント): をーっほっほっほっ!たとえどんなに恐ろしい罠が待ち受けていようとも、私にお任せあれ、ですわ! 沙都子(トレジャーハント): 必ずやトラッパーとしての知識を駆使して、皆さんを金銀財宝の場所へとご案内して差し上げましてよ~! 圭一(トレジャーハント): おうっ! 頼りにしているぜ、トラップマスター! ……#p雛見沢#sひなみざわ#rのお年寄りたちも知らない秘密の場所を発見して、宝物を見つけ出す。 その宝とは、私が見てきた別の「世界」の存在を裏付ける西園寺家に関する情報や、不思議な力を持つ『カムノミコトノリ』のことだ。 ただ、秘匿性の高さから事情を理解した面子のみで宝探しに臨む……予定、だったんだけど……。 集合場所に来てみれば、なぜか前原くんに沙都子ちゃん、おまけにレナさんや魅音さんまでがいて……。 圭一(トレジャーハント): ちなみに宝物を見つけたら、全員で山分けだからな!そのあたりのことは、きっちり決めておこうぜ! 沙都子(トレジャーハント): あらあら。こういう場合、早い物勝ちと相場が決まっていますのよ?をーっほっほっほっ! しかも何かを勘違いしたのか、前原くんと沙都子ちゃんに至ってはまるでトレジャーハンターのような装備で……。 一穂(私服): え、えっと……前原くんと沙都子ちゃん、すごく……勘違いしてるんじゃ……? 梨花(私服): みー……問題ないのです。 そう言って、冷や汗が止まらない私の背中を梨花ちゃんがぽん、と叩いていった。 梨花(私服): 沙都子たちはモチベーションが高ければ高いほど、真剣かつ精力的に動き回ってくれるはずなのです。 梨花(私服): 知らぬが仏、真実を伝えないほうが役に立ってくれるのですよ。にぱー☆ 美雪(山登り): おぅ……その代わり、本当のことを知った時に落差と怨嗟はすさまじいものになるんじゃない……? 菜央(私服): まぁ……もしかすると、本当に宝を発見できる可能性もゼロじゃないんじゃない? 美雪(山登り): えっ……それ、本当に? 菜央(私服): えぇ。だって『隠し宝物殿』って、この中の誰も実体を見たことがないんだから。羽入だって、そうよね? 羽入(巫女): あ、あぅあぅ……確かに僕も、存在を知るだけなのです。 羽入(巫女): もしそんな情報が目につくところに残っていたら、鷹野たちが真っ先に探りを入れていると思うのですよ。 美雪(山登り): あぁ……鷹野さん、そういうのが好きだったもんねー。 菜央(私服): だとしたら、本当に『隠し宝物殿』に金銀財宝があってもおかしくない……そうでしょ? 美雪(山登り): おぅ、物は言いよう……あとでみんなから怒られても、私は知らないからね。 美雪(山登り): とはいえ、それを言い始めたら例の文献や『カムノミコトノリ』があるって確証もないわけだけどさ……。 魅音(私服): ねー、なんの話? 一穂(私服): わぁっ……! 背後から話しかけられて思わず飛び退くと、そこには魅音さんが笑顔で立っている。 今の話……聞いていなかったよね?もし聞かれていたら、えっと……なんて言えば……? 一穂(私服): あ、えっと……もし宝物殿が見つかっても、宝物が何もなかったら、どうしよう……って……。 魅音(私服): あっはっはっはっ!まぁ確かに宝物があるって確信はないけどさー。 魅音(私服): けど、裏山の探検なんて普段でもできそうだけど、なかなか機会がないし……暇つぶしにはもってこいだよ! 魅音(私服): とりあえず、宝探しと言えば……レナ!あんたの領分だよ! 頼りにしてるからね!! レナ(私服): はぅ~……任せて、魅ぃちゃん! レナさんは嬉しそうに、力強く頷いてみせる。そしてくるくるっと軽やかに二回転してから、菜央ちゃんに向き直っていった。 レナ(私服): 頑張って素敵なお宝を見つけようね、菜央ちゃん! 一緒に頑張ろう♪ 菜央(私服): ほわっ……う、うん!あたし、全力で見つけ出すからっ! 美雪(山登り): おぅ……ダメだコリャ。菜央が完全に目的を忘れた目をしてるよ。 美雪(山登り): ……それはそうと、いったい誰がレナたちに宝物殿探しの話を伝えたのさ? 羽入(巫女): あ、あぅあぅ……。 美雪(山登り): 犯人発見。キミだったのか、羽入……! 羽入(巫女): ご、ごめんなさいなのですごめんなさいなのです……! 羽入(巫女): 結局、沙都子にはごまかしきれなくて……ある程度の事情を話したら、圭一にも伝わって……! 羽入(巫女): そこからさらにさらに、レナと魅音にまで知られてしまって……あぅあぅあぅ~! 美雪(山登り): おぅ……伝言ゲームの途中で、どんどん話がねじ曲がったと。……まぁ、その様子が容易に想像できるけどさ。 一穂(私服): ま、まぁ……人数が多いと手分けして捜索ができると思うし、にぎやかなほうが楽しいんじゃない……かな……? 美雪(山登り): 一穂……そう自分に言い聞かせて、無理やり納得しようとしてない? 一穂(私服): ぅぐっ? あ、あははは……。 美雪ちゃんの鋭いツッコミに、私は何も返せず乾いた笑いを浮かべる。 ……でも、何か手がかりが見つかってほしい。そう思うのもまた、紛れもなく本心だった。 Part 04: ……神社を出発してから、数時間後。 沙都子(トレジャーハント): あった! ありましたわ!……梨花、この洞窟が入口でよろしくて?! 梨花(私服): みー……地図の通りなのです。ここが、『隠し宝物殿』で間違いないのですよ。 興奮した様子で飛び跳ねる沙都子ちゃんの横で、梨花ちゃんも目を見開きながら信じられない、と言いたげに書き写した地図を何度も確かめている。 事情を知る私と美雪ちゃん、菜央ちゃんも予想を超える展開に唖然となり……お互いに顔を合わせながら声も出てこなかった。 圭一(トレジャーハント): ほ、本当か……? 本当にあったのか?ダミーだって可能性はないのか? 圭一(トレジャーハント): あちこちで迷ったり、道が通れなくて遠回りしたり、うっかり足を踏み入れた場所に大穴が開いていたり、さらには妙な音が聞こえてきたり……! 圭一(トレジャーハント): ようやく辿りついたこの場所がダミーだったら、さすがの俺も心が折れちまうからなぁぁっ?! 魅音(私服): って大丈夫、圭ちゃん?なんだか目の焦点が合っていないんだけど……?! レナ(私服): はぅ……先頭を切って進んでくれた圭一くんが、一番被害に遭っていたから……。 梨花(私服): ……みー。圭一の足と心がガクガクになっているのですよ。 痛々しい視線を前原くんに向ける中、美雪ちゃんだけは手元の本に目を落としてうん……と呟いていった。 美雪(山登り): 確かに、ここにある文献と照らし合わせてもここがその場所のはずだよ……たぶん……。 一穂(私服): ありがとう、前原くん!あとで一緒に、おにぎりを食べようね! 圭一(トレジャーハント): お……おにぎりより、休憩を、休憩をくれぇぇ……。い、いや! 先に宝を確認しないと休むに休めねぇ! 魅音(私服): ……けど、こんなところに洞窟なんてあった?言っちゃなんだけど、子どもの足でも十分に辿り着ける距離だったよね。 魅音(私服): 私が知る限り、町会にはこれまで一度もこれについての報告が上がっていなかったと思うんだけど……うーん……? 一穂(私服): それに……いろんなところをぐるぐる回って行ったりきたりしたから、ちゃんと日暮れ前に#p雛見沢#sひなみざわ#rへ戻れるかな……? 沙都子(トレジャーハント): 心配ご無用! そんなこともあろうかと思って、ちゃあんと途中に目印を残してまいりましたわ! 一穂(私服): わぁ……すごいすごい!なんだかヘンゼルとグレーテルみたいだね。 沙都子(トレジャーハント): それだと、目印のパンくずを鳥に食べられて帰れなくなってしまうではありませんの!私のは、もっとちゃんとした目印でしてよ! 一穂(私服): ご、ごめんなさい……! 菜央(私服): まったく……って、あら?意外なものを発見したわ。 レナ(私服): はぅ……お花? 菜央(私服): これはイチリンソウね。ニリンソウとよく似てるけど、毒性が強いから食べられないわ。 菜央(私服): このシャクナゲも綺麗だけど、有毒植物だから気をつけて。 レナ(私服): はぅ~、すごいすごい!菜央ちゃんってお花にも詳しかったんだね~? 菜央(私服): っ……こ、この村に来てせっかくだから、と思って色々調べてたら、なんとなく興味がわいてきて……。 菜央(私服): 写真付きで詳しく載ってる図鑑があるから、今度図書館まで見に行かない? レナ(私服): うん、見に行こう!でもこんな花が雛見沢に咲いていたんだね。初めて見たかも……はぅ。 菜央(私服): 確かに、村のあたりだとあまり見ないわね……風で種子が飛んできたのかしら? 美雪(山登り): ねぇ……菜央。キミが花の種類だけならともかく、毒性のあるなしに妙に詳しくなってることが心配なんだけど……。 菜央(私服): いざと言う時に必要かもしれないじゃない。 沙都子(トレジャーハント): 備えあればなんとやら、と言いますものね。……私も、少々頂戴していくことにしますわ。 圭一(トレジャーハント): おい沙都子。まさかそれ、トラップに使うんじゃないだろうな?そんなのに引っかかったら死人が出るぞ? 沙都子(トレジャーハント): あら、もしもの状況があるかもしれませんわよ? 圭一(トレジャーハント): 俺が引っかけられる可能性の方が高いと思うんだが……。それより、早く宝を見てみようぜ。 梨花(私服): ……魅ぃ、そろそろ洞窟の中に行くのですよ。 魅音(私服): え? あ……待って待って! どこか納得がいかない様子の魅音さんを最後尾にして、私たちは洞窟の中へと入っていく。 そして懐中電灯を手に奥へと進むと、段々と奥が明るくなっていることに気がついた。 一穂(私服): なんか……思ってたよりも、暗くないんだね。 美雪(山登り): ひょっとして、外に繋がってるんじゃない?だとしたら結構、短い洞窟かも……ん? そんなことを話しながら歩いていると、やがて美しい水晶がびっしりと壁から生えた……幻想的な場所へと辿りついた。 一穂(私服): この水晶……光ってるよ……?! 菜央(私服): どういう仕組みなのかしら……?自然に光を放つ鉱物なんて、かなり珍しいものだと思うんだけど。 レナ(私服): はぅ……すごく、綺麗……。 一穂(私服): えっと……本当にここが、古手家の『隠し宝物殿』……? 梨花(私服): みー……なんだか、ボクが思い描いていたイメージとずいぶん違うのです。 梨花(私服): 羽入、ここで本当に合っているのですか……?……羽入? 梨花ちゃんの戸惑う声に、私たちも振り返る。すると、さっきまで近くにいたはずの羽入ちゃんの姿が……どこにも見えなかった。 一穂(私服): (ひょっとして、はぐれちゃった……?) レナ(私服): はぅ……羽入ちゃん?いたら返事をして……! 菜央(私服): 入口に置いてきちゃったのかしら。とりあえず、いったん引き返して……。 菜央(私服): きゃぁっ?! 突然、洞窟全体が轟音とともに揺れて……動くよりも早く私は美雪ちゃんに抱えられて、地面に伏せる。 美雪(山登り): っ……地震?! 全員伏せて! 魅音(私服): みんな、頭を守って! 沙都子(トレジャーハント): わわわっ! 圭一(トレジャーハント): 沙都子、危ねぇ! 揺れ続ける視界の中、魅音さんが菜央ちゃんを抱えるレナさんを、前原くんが沙都子ちゃんを抱き寄せて伏せる。 私と美雪ちゃんも、近くにいた梨花ちゃんを引き寄せて身を低くした。 一穂(私服): ……ッ……! 揺れそのものは、数秒程度だったはずだ。 けれど、それが収まった後もしばらく私たちは動けず……息を詰めたまま身をすくめたまま留まって……。 梨花(私服): みー……収まった、のですか? 美雪ちゃんの腕の中にいた梨花ちゃんがもぞもぞと頭を出して声をあげるのを合図に、私たちはようやくほっと息を吐き出した。 魅音(私服): みんな、大丈夫?! レナ(私服): はぅ、大丈夫……ありがと、魅ぃちゃん。菜央ちゃん、平気? 菜央(私服): え、えぇ。あたしは全然……。 沙都子(トレジャーハント): け、圭一さん……!ちょっ、重い! 重いですわ!! 圭一(トレジャーハント): ……沙都子。 沙都子(トレジャーハント): な、なんですの?もう揺れは収まったんですからどいていただけましてっ? 圭一(トレジャーハント): 確かに揺れは収まったが……一難去って、また一難って感じだぜ? 沙都子(トレジャーハント): はぁ? なんのことを……ぁ……。 先頭の前原くんの視線は、洞窟の奥に……いや……。 そのさらに奥、闇の中から光る眼球を見据えていた……! 美雪(山登り): ……こいつらって、もしかしなくても『ツクヤミ』っ? 魅音(私服): くっくっくっ……探検ってのは、そう来なくっちゃねぇ!みんな、かまえて! いくよ! 圭一(トレジャーハント): 相手は未知の生物……ってワケでもないが、確かに探検っぽくなってきたな! 沙都子(トレジャーハント): もしかしてこの方々は、宝を守る番人を気取っていますの? 沙都子(トレジャーハント): では、倒した上で守っているお宝を頂戴いたしますわッッ!! Epilogue: 一穂(私服): よ、よかった……全部倒せたぁ……。 息を整えながら、ほっと胸をなで下ろす。 沙都子ちゃんが宝を守る番人だと言っていたが、その通りだったのかもしれない。……その証拠に、いつもより強かった気がする。 でも、誰も大きなダメージを負うことなく倒すことができたと思う……それで十分だ。 一穂(私服): あれ……?奥の方に、何かがあるような……って、像? 戦っているうちに、私だけ洞窟の先へと進んでしまったらしい。 洞窟の中に水晶の明かりはあるものの、さすがに暗くて……はっきりとは、見えない。 人工物であることは間違いなさそうなので、そっと手を伸ばしてみた。 一穂(私服): …………。 指先がひた、と冷たい像に触れて――。 一穂(私服): えっ……?! 像に触れた瞬間、まばゆい光が洞窟を照らし始めて……反射的に顔を背ける。 そしてしばらくしてから、おそるおそる向きを戻して目を開けると……。 一穂(私服): あ、あれ……? そこには、壁があった。行く手は何もない……たぶん、終着点。 でも、さっき見えたはずの像のようなものはどこにも見つからない……? 一穂(私服): 今の光……なんだったんだろう。美雪ちゃん、菜央ちゃん、どう思……ぇ……? そう尋ねながら、背後を振り返った先には……。 一穂(私服): ……っ……?! 誰も、いなかった。美雪ちゃんと菜央ちゃん、レナさんに魅音さんに前原くん、そして沙都子ちゃんや梨花ちゃんも……。 背後には何も……動くものが、なかった。気づけば洞窟の中、いるのはたった一人だけ。 一穂(私服): (私、だけ……?!) 一穂(私服): み、美雪ちゃん……っ? 菜央ちゃん……?!みんな、どこに行ったの?! 周囲を見渡しても、誰もいない。声を張りあげても、反響するのは私の声のみ。 みんなそこにいたはずだ! そこにいた! 戦っていた!なのに、どうしてみんな消えてしまったの?! 一穂(私服): っ……! レナさん! 魅音さん!沙都子ちゃん! 梨花ちゃん! 前原くん……!! ただひとり洞窟内に残された私は、突き落とされたようなおぞましい恐怖を抱えながら悲鳴まじりに仲間たちの名前を呼び続ける。 ……だけど、それに応える声はなかった。 羽入:巫女: 『……一穂』 ――風の音に紛れてしまいそうな、小さなその声を除いて……。 一穂(私服): 羽入、ちゃん……?! 背後から静かに響く声に、私は勢いよく振り返る。 私の背後には先ほどと変わらぬ壁があり、そして……巫女服姿の羽入ちゃんの姿がなぜかぼんやりとした輪郭で……目に映っていた。 一穂(私服): ぇ、っと……いつの間に着替えたの? 安堵を上回る違和感に私が立ちすくんでいると、やや俯いていた羽入ちゃんがゆっくりと顔をあげる。そして――。 羽入(巫女): 『ようやく……あなたと2人きりで話せる機会ができました。私はこの時が来るのを、待っていました』 一穂(私服): は……羽入、ちゃん……? 羽入(巫女): 『名は異なれど、古手家由来の秘宝を手にする異世界からこの地を訪れた者よ。すでにあなたは、私の存在に違和感を抱いているものと思います』 一穂(私服): ……うん。 ゆっくりと、頷いて……認める。梨花ちゃんたちの手前、言葉にするのは憚られたけど……。 私はずっと、「彼女」に対して引っかかるものを感じ続けていた……。 一穂(私服): もういつの記憶か、わからないんだけど……梨花ちゃん、言ってたんだ。 一穂(私服): 古手家の親類縁者は思いつく限り、身の回りには存在してないって。 一穂(私服): 他の親戚はみんな、過去の事故とかでいなくなったって……。 羽入(巫女): 『…………』 一穂(私服): なのにあなたは、存在してる……梨花ちゃんの遠い親戚の子として。 一穂(私服): それってやっぱり……矛盾してる、よね? 羽入(巫女): 『……その通りです』 羽入(巫女): 『西園寺家の娘の存在を知ったことで……私の異質さが浮き彫りになるとは、誤算でした』 一穂(私服): 西園寺、家……? その名前を耳にして、はっと息をのむ。……確か羽入ちゃんは、梨花ちゃんとともに西園寺の名を「知らない」と言っていたはずだ。 ということはやはり、目の前にいる彼女は「羽入ちゃん」ではない。でも、だとしたらいったい何者なんだろう……? 疑問を抱きながら緊張で身をすくめていると、羽入ちゃん(?)を取り囲む水晶の光が……なんだかチカチカと反射しているように感じる。 眩しい。目が痛い。視界が歪む。頭が痛い。考えれば考えるほど痛みが増して……。 ひた、と。 動けない私に、羽入ちゃんは一歩……近づいて。 羽入(巫女): 『……あなたに、お願いがあります』 羽入(巫女): 『梨花を守るため、そしてこの「世界」に存在するあなたの大切な人たちを守るために――』 彼女が紡ぎ出す声の響きは楽器のように美しく、そして……。 羽入(巫女): 『西園寺家の……古手絢花を、殺してください』 人の声とは思えないほど……冷たかった。