Part 01: 沙都子:冬服: ……にーにー! にーにー! 沙都子:冬服: 起きてくださいまし、にーにー! 圭一(お菓子の国): お、おぉ……? 沙都子(冬服): まったく、テッペーを置いてこんなところでぐーすかとお昼寝なんて……お菓子の国随一の騎士の名が呆れましてよ! 圭一(お菓子の国): テッペー? お菓子の国……騎士……?お、おい沙都子。いったい何の話だ? 馬: ぶるるるるるるっ!! 圭一(お菓子の国): うわっ、馬?! 沙都子(冬服): なにを寝ぼけているんですの?にーにーの愛馬のテッペーではありませんの。 馬: ぶるるるるっ。 圭一(お菓子の国): いや、待て……ここ、何処だ?! 沙都子(冬服): ……昨日の怪物が投げつけてきたロッキーロードを全て華麗に避けたと胸を張って言っていましたけど……。 沙都子(冬服): もしや、頭にでも食らって記憶がおかしくなったんですの?しっかりしてくださいまし。 圭一(お菓子の国): ロッキーロード……? 沙都子(冬服): あるいは、スティルトンクッキーを食べたせいで変な夢でも見て、現実がごちゃごちゃになったとか? 圭一(お菓子の国): い、いや……だから何の話だ?! 沙都子(冬服): ……本当に覚えていませんのね。 沙都子(冬服): あなたはひっきりなしに怪物退治を頼まれるお菓子の国の若き騎士の筆頭! 沙都子(冬服): 国の平和を脅かす怪物退治がお仕事ですのよ。 圭一(お菓子の国): ……お菓子の国? 怪物退治? 圭一(お菓子の国): いや、待て……沙都子、俺は……いったい何者だ? 沙都子(冬服): ……? 何を言っているんですの。にーにーは、にーにーでしてよ。 圭一(お菓子の国): にーにー……? 沙都子(冬服): まだ寝ぼけておいでですの?私はあなたの妹、サトコですわ。 圭一(お菓子の国): へっ……? 圭一(お菓子の国): (沙都子が、俺の妹?) 圭一(お菓子の国): い、いやいや待て待て!沙都子のにーにーは、俺じゃなくて……! 沙都子(冬服): ……俺じゃなくて? 圭一(お菓子の国): 俺、じゃなくて……。 圭一(お菓子の国): (いや、あれ……?サトコのにーにーは……) 圭一(お菓子の国): (俺……だったよな……?) 沙都子(冬服): はぁ……あれほどスティルトンクッキーは大事な時には食べるなと申しましたのに、よりによって、なんでこんな時に……! 圭一(お菓子の国): ? 何か大事なことでもあるか? 沙都子(冬服): 今日、にーにーは女王陛下の依頼を受けて国境付近で暴れる怪物退治を行く予定でしたのよ。 圭一(お菓子の国): え……? 沙都子(冬服): まぁ、いつもの行動を取ればきっと思い出しますわ。剣は……落としていないみたいですわね。 圭一(お菓子の国): へっ?! うおっ! 剣なんていつの間に……。 沙都子(冬服): 剣はいつも持ち歩いているではありませんの。 沙都子(冬服): はい、テッペーの手綱。 馬: ぶるるるっ! 圭一(お菓子の国): いや、俺……馬なんて乗れないぞ?! 圭一(お菓子の国): っていうか、この馬の名前はテッペーかっ?理由はわからねぇが、嫌な感じがするぜ……。 沙都子(冬服): ……馬鹿なことをおっしゃっていないで、少し歩き回って目を覚ましてくださいまし。 沙都子(冬服): いってらっしゃいませ、にーにー! 圭一(お菓子の国): え、えぇ……? Part 02: 圭一(お菓子の国): …………。 圭一(お菓子の国): 歩いている内に、思い出してきたぞ……俺はケイイチで、お菓子の国の騎士。 圭一(お菓子の国): で、お前は……。 馬: ぶるるるるるっ。 圭一(お菓子の国): テッペー……そう、俺の愛馬のテッペーだ。俺はサトコを養うために騎士になったんだ。 圭一(お菓子の国): 怪物退治に参加するようになって次から次へと怪物と戦うようになってそれで……。 馬: ぶるるるるっ。 圭一(お菓子の国): なぁ、お前何か知らないか? 馬: ぶるるっ。 圭一(お菓子の国): はは……馬だと喋れないか。そうだったな、すまねぇ。 圭一(お菓子の国): いやでも、テッペーって、確か……。 圭一(お菓子の国): くそっ、思い出せない!はぁ……どうすりゃいいんだ、この状況。 レナ:キャスト: 助けてーっ! 圭一(お菓子の国): ? なんだ今の声。いや、あの声まさか……! 馬: ひひーん! 圭一(お菓子の国): の、乗れってか?! わかった、わかった!乗ればいいんだろ?! 振り落とすなよっ! 怪物: おおおおおお!!! レナ(キャスト): はぁっ……! はぁっ、はぁっ……! 圭一(お菓子の国): なっ……レナが怪物に襲われている?!くそっ、間に合えっ……! 怪物: ぐおおおおおおおおおおお!!! 圭一(お菓子の国): うぉおおおおおおおお?! 怪物: ぎゃーっ! 圭一(お菓子の国): んなっ?剣でぶった斬ったら、消えた……! 圭一(お菓子の国): 思ったより、弱い……?いや、俺が強いのか? レナ(キャスト): あ、ありがとうございます……助かりました! 圭一(お菓子の国): 大丈夫か、レナ? レナ(キャスト): ……えっ? 圭一(お菓子の国): あ、えっと……違ったか? レナ(キャスト): あ、あの……私はレナ。この国の女王です。 圭一(お菓子の国): そうかそうか、女王かー……。 圭一(お菓子の国): って、レナが女王様だとぉ?! レナ(キャスト): ……? はい。 レナ(キャスト): はぅ……ごめんなさい、女王なのにその風格が備わっていないと皆からもよく言われていまして……。 レナ(キャスト): それに、何度か式典で顔を合わせていたので覚えていただけていると思って……お恥ずかしい。 圭一(お菓子の国): い、いやいや、そういうつもりじゃ……ないです!すみません、失礼しました! レナ(キャスト): いえ、お気になさらずに。 レナ(キャスト): あなたはこの国でも名高い騎士、ケイイチですね。どうかあなたを見込んで、依頼をさせてください。 レナ(キャスト): 最近、怪物が突如現れ……この国の平和を乱しているのです。 レナ(キャスト): 案内を兼ねた助っ人として、2人の冒険者をお供につけましょう。彼女たちはこの先の道であなたを待っているはずです。 レナ(キャスト): どうか、このかぁいい国をお願いします。 圭一(お菓子の国): わかりました! では、行って参ります!行くぞ、テッペー! 馬: ひひーん! 圭一(お菓子の国): (……なんだ、これ。なにもかもさっぱりわからないが……) 圭一(お菓子の国): (……めちゃくちゃ楽しい!ファンタジーの世界を冒険しているって感じで!) 圭一(お菓子の国): (俺って、こういうシチュエーションにちょっと憧れていたんだよな……RPGってやつ?) 圭一(お菓子の国): (いや、むしろこっちの方が現実か?現実で学生やっていた方が夢で……その可能性もなくはないな) 圭一(お菓子の国): (……あれ?でも俺とここで顔を合わせたのに、先の街道でお供が待っているってどういうことだ?) 圭一(お菓子の国): (……ま、いっか! 冒険の始まりだ!) 圭一(お菓子の国): 行くぞテッペー! 馬: ひひーん! そして俺の冒険は始まった! どこかで見たような顔の女の子たちをお供にして、山を越え川を越え、海を越えて……そして……! ついに巨大な怪物を打ち払い、女王陛下のもとへ凱旋する時が来た!! 壮年の男性: あの怪物を倒した勇者が来ているって、本当か? 若い女性: えぇ、あそこに馬に乗っておられる人がそうよ!ほら見なさい、あの凜々しい横顔を! 小さな子供: 騎士ケイイチ、バンザーイ! どこもかしこも俺を讃える声で溢れている……まさにこれこそ、勇者の凱旋! 圭一(お菓子の国): ふふふふ……! 馬: ひひーん。 報告のため、城へ向かうテッペーの足取りも軽いというもの。 頭の中は与えられるだろう褒美のことでいっぱい。だってそれさえあれば、サトコとの生活は安泰だ。 苦労をかけっぱなしの妹にうまいものをいっぱい食わせてやって、それで、それで……。 あれ、でも……。 俺、どうやって怪物を倒したんだっけ? Part 03: 沙都子(冬服): はぁ、お菓子の国の騎士とかなんとかって……なんて夢を見ているんですの、圭一さん? 圭一(冬服): ……そうだよなぁ、夢だよなぁ。 沙都子(冬服): しっかりなさってくださいまし!あなたは前原圭一で、ただの学生。 沙都子(冬服): お菓子の国のケイイチでも、怪物退治が仕事の騎士でもありませんわ~! 圭一(冬服): だよな……いや、そうなんだけどよ。 沙都子(冬服): それにしても……わざわざそんな話をするために来たなんて、よっぽど面白い夢だったんですのね。 圭一(冬服): あぁ……なんか今でも、周りを見渡したらお菓子でできた世界に戻っているんじゃないかってそんなこと思っちまうんだよ。 圭一(冬服): それで沙都子の間抜け面を見て、安心しようと……。 沙都子(冬服): ……頭の心配をしてさしあげたのに、ずいぶんな言い方ですわね。 沙都子(冬服): 2、3度叩いて、正気に戻してあげまして?叩けそうなものと言えば、今はこのお豆腐しかありませんけど……。 圭一(冬服): 豆腐の角で頭ぶつけろってか?それはそれで嫌だな……。 沙都子(冬服): こほん……まぁでも、怪物退治の報償で私に美味しいものを食べさせたいと思ってくださったのは、少し嬉しい気分ですけど……。 沙都子(冬服): あ……そう言えば一穂さんも、圭一さんと似たような話をおっしゃっていましたわね。 圭一(冬服): えっ? 一穂ちゃんもか? 沙都子(冬服): えぇ……詳しい話は聞いていませんが。お菓子の国がなんとか言っていたのを漏れ聞きましたわ。 沙都子(冬服): あ……もしかして、2人でこっそり甘いものでも食べに行ったんですの?だから同じ夢を見たとか……。 圭一(冬服): い、いや。そんなことはしてないんだが……。 圭一(冬服): でも言われてみたら、確かに夢の中で一穂ちゃんと……。 圭一(冬服): あと他にも、誰かと会ったような?お、思い出せない……! 沙都子(冬服): そういうものではありませんの?夢なんて、一度目が覚めてしまったら大概は思い出せないものですわ。 沙都子(冬服): でも楽しそうですわね。お菓子だらけの国なんて。 沙都子(冬服): でもレナさんがお菓子の国のお姫様で、他にも知り合いがたくさん出てくるのはわかりましたが……。 沙都子(冬服): 私が圭一さんの妹……とか。 沙都子(冬服): ぷぷぷぷっ!おかしすぎて笑ってしまいますわ~!お菓子の国だけに! 圭一(冬服): ……おい。何をうまいこと言ったみたいにドヤ顔なんだ。 沙都子(冬服): 私が圭一さんの妹だったら、頼りないにーにーのせいで苦労しそうですわね~。 圭一(冬服): それは俺のセリフだろ? 沙都子(冬服): あーら。その妹に世話を焼かれていたのはどこの世界のどなたですの? 圭一(冬服): ぐっ……! それは夢の話だ夢の話! 沙都子(冬服): そう言うことにしてさしあげますわ。それにしても……。 沙都子(冬服): 馬の名前がテッペーなんて、なんだか人の名前みたいですわね。 圭一(冬服): え……? 沙都子(冬服): よく知りませんけど、競馬とかだと馬の持ち主の名前をつけたりするんでしたっけ? 圭一(冬服): お、おい……お前……テッペーって……。 沙都子(冬服): ? なんですの? 圭一(冬服): あ、いや……。 圭一(冬服): (思い出した。テッペーって沙都子の叔父の……) 羽入(冬服): あぅあぅ! 沙都子、見つけたのです! 圭一(冬服): 羽入……? 沙都子(冬服): あら、羽入さん? どうしてこちらに? 羽入(冬服): お豆腐を買いに行っただけなのに、帰りが遅い沙都子を迎えに来たのですよ。 沙都子(冬服): あら、もうそんなに時間がたちましたの?圭一さんの長話に付き合わされたせいで時間の感覚がなくなっていましてよ。 羽入(冬服): 梨花が心配しているのですよ。もしかしてお豆腐の数を間違えて、慌てて買いに戻っているのではとか。 沙都子(冬服): えっ?数は間違えてないはずですが、えーっと……。 圭一(冬服): あ、羽入ちゃん。実は……。 羽入(冬服): ……しー、なのですよ。圭一。 圭一(冬服): えっ? 羽入(冬服): 現実はお菓子のように甘くない。だったら楽しい夢は、楽しい夢のままで。 圭一(冬服): ……。羽入、何か知っているのか? 羽入(冬服): あぅあぅ……何も知らないのですよ。 羽入(冬服): ただ……楽しい夢なら、楽しい夢のままで大事にしてほしいと思うのですよ。 圭一(冬服): ……確かに、現実はお菓子みたいに甘くないけどよ。 圭一(冬服): でも現実だって、お菓子はあるんだぜ? 圭一(冬服): だったら……お菓子の夢の中も楽しいことばっかりじゃないんじゃないか? 羽入(冬服): ……それは……。 沙都子(冬服): 絹ごし豆腐3つに、おあげが5つ……間違いありませんのよ? 羽入(冬服): はい。間違いないのです。 沙都子(冬服): ですわよね! それくらいの数は間違えませんわ!さ、早く帰らないとお豆腐が凍ってしまいますわー! 羽入(冬服): あぅあぅ……今行くのです! 圭一(冬服): 待ってくれ、羽入ちゃん! 羽入(冬服): ……圭一。今の話、梨花にはしないであげてほしいのです。 圭一(冬服): えっ……? 羽入(冬服): たとえ、仮初めの甘い世界だとしても……それでも。 羽入(冬服): 乗り越えた記憶は、きっといつかあなたの力になるのです。 圭一(冬服): ……今の話、どういうことだ?乗り越えた記憶はいつか力になるって……。 圭一(冬服): お菓子の国とか沙都子が妹とか、あり得ないことを色々取り除いて俺が乗り越えたことって……。 圭一(冬服): 俺はいつか怪物と戦う……そういうことなのか? 羽入(冬服): …………。 圭一(冬服): ……羽入。 沙都子(冬服): ではさようならですわ、圭一さん。 羽入(冬服): あうあう。またなのですよ~! 圭一(冬服): …………。 圭一(冬服): そうか。その怪物がなんなのかはわからねぇけど……。 圭一(冬服): 俺はいずれ……何かと戦わないといけないのか? 圭一(冬服): ……いや……。 圭一(冬服): 夢の中の俺が勝てたなら……。 圭一(冬服): 現実でも勝ってやろうじゃねぇか……!!