Prologue: 平成元年、12月――。 クリスマスイブを数日後に控えたその日は、冬のまっただ中らしく朝からずっと冷え込んでいた。 梨花(高校生冬服): っ……、雪まで降ってきたわね……。 綿の塊のような雪が止めどなく降ってくる空を恨めしく見上げながら、私はため息をつく。 直後、ぱっと視界に広がる白いもや。……今の気温がどれだけ低いのかをいやが上にも思い知らされる。 梨花(高校生冬服): もう……雪が降るってわかっていたら、寮を出る前にちゃんと傘を持っていったのに……。 普段は必ず確かめる、朝の天気予報。今日に限ってうっかり見逃してしまったので、そんな後悔の呟きが口をついて出る。 これでも雪国の育ちだから、寒さには一般の生徒よりも強いつもりでいたのだけど……寮暮らしが続いたせいか年々辛抱が利かなくなっているようで、実にふがいない。 梨花(高校生冬服): ……早く寮に戻りましょう。もたもたしていると、身体が芯まで冷えて風邪を引いちゃうわ。 そうひとりごちて私は、学園寮へ戻る足を速める。 そして寮の入口のドアを開けて中に飛び込むと、暖房が効いた室内の空気がむわっと私の全身を包み込んでくれた。 梨花(高校生冬服): はぁ……帰ってきた……。 防寒着を脱ぎ、玄関口で雪を払い落としながら人心地ついた思いで大きく息を吐き出す。 突き刺すような寒さからは逃れられたものの、全身の奥に染み渡った冷えはまだ残っている感じだ。……寒暖の差で血流が活気づいたせいか、指が痒い。 梨花(高校生冬服): 部屋に戻ったら、すぐお風呂に……って……。 寮の廊下を歩いて自分の部屋へと向かう途中で、はたと思い出す。そういえば昨夜、シャンプーを切らした沙都子のために自分のを貸してあげたのだっけ。 なくて困るわけではないが、せっかくだから一回の入浴で髪も洗っておいたほうが二度手間にならなくてすむし……。 梨花(高校生冬服): 沙都子は……もう戻っているわよね……? そう考えた私は、さほど遠回りでもないので沙都子の部屋に立ち寄ることにした。 梨花(高校生冬服): 沙都子、いる……? 部屋のドアの前に来て呼びかけながらノックすると、中から沙都子らしき女の子の声が「どうぞー?」と返ってくる。 それを聞いた私は、同室の子がいる可能性を考慮しつつそっとドアを開け、中に足を踏み入れて……。 梨花(高校生冬服): ……。その格好は、……なに……? 視界に飛び込んできた沙都子の姿を見るや、思わず呆気にとられてしまった。 沙都子(高校生クリスマス): いかがでして、梨花?去年の衣装なので、ちゃんと着られるか不安でしたけど……。 沙都子(高校生クリスマス): 少し手直ししてもらったおかげで、前と変わらずにバッチリですわ~! 梨花(高校生冬服): ……っ……。 そう言いながら、楽しげな笑顔ではしゃいでいる沙都子とは対照的に……私は目を丸くしたまま固まってしまう。 なぜなら彼女は、普段の制服や部屋着ではなくサンタクロースを模した(?)赤と白で彩られた「実にきわどい」衣装に身を包んでいたからだ。 梨花(高校生冬服): その格好は、なんなの……?! 他に告げるべき言葉が思いつかなくて、私はさっき反射的に口にした台詞を繰り返す。 すると彼女は、いたずらっぽく笑うとしたり顔で壁に掲げたカレンダーを指さしていった。 沙都子(高校生クリスマス): なんなのって……決まっているではありませんの。もうすぐクリスマスだから、TPOをわきまえて季節に合わせた服を身にまとっているだけですわ。 梨花(高校生冬服): ……その薄着というか、肌面積の多い格好のどこがこの寒い季節に合わせた服だってのよ。 絶対ツッコミ待ちだ、と頭ではわかっているがそれでも言わずにはいられず、私は彼女に言葉を返す。 ……なんだか、いろんな意味で全身に伝わる寒さがさらに強くなった気分だ。今すぐお風呂に入りたい。超入りたい……! 沙都子(高校生クリスマス): ……? ずいぶんと寒そうですわね、梨花。今日ってそんなに気温が低かったですの? 梨花(高校生冬服): 窓の外を見なさい、窓の外を!夕方から雪が降り続いて、積もりそうな勢いよ! 沙都子(高校生クリスマス): あら、本当ですのね。今日は部屋にこもって自習でしたから、全然気づきませんでしたわ。をーっほっほっほっ! そう言って沙都子は、高笑いで返してくる。……皮肉か? 図書館の自習室の方が集中できそうだから、とそちらを選んだ私に対しての嫌味なのか、こんちくしょう。 梨花(高校生冬服): (そんなわけがないとわかってはいるけど、なんだか腹が立つわね……) きっと寒さによって気が短くなっているのだろう、と強引に自分を納得させて、私は大きくため息をつく。 すると沙都子は、「これですわ」と机の上に置いてあった1枚のプリントを私に差し出してきた。 梨花(高校生冬服): 「クリスマスパーティーの案内」……? 沙都子(高校生クリスマス): あら、あなたには届いていませんでしたの? 毎年恒例の生徒会主催によるクリスマスパーティーが今度の週末に開かれるんですのよ。 梨花(高校生冬服): 毎年恒例って……あの元生徒会長が開催してから、まだ3回目じゃない。 沙都子(高校生クリスマス): をーっほっほっほっ、それを言うのは野暮ですわ。そういう大層な肩書きをつけた方が、箔がついてよろしいではありませんの。 梨花(高校生冬服): はいはい。……けど、私たちはもう生徒会を引退したんだから、無関係ではないにしても参加資格はないんじゃない? 沙都子(高校生クリスマス): 私も最初はそう思っていたんですけどね。現生徒会長さんから、梨花共々ぜひにと誘われまして。 沙都子(高校生クリスマス): あなたも問題なければ、ご一緒にいかがでして? なんで沙都子に案内が行って私にはないのだ、とちょっとだけ不満を覚えたが……理由はおそらく、私たちが常に一緒にいると思われたからだろう。 その証拠によく見ると、案内の宛名には沙都子と並んで私の名前も書かれてある。……手抜きとも感じられるが、まぁよしとしよう。 梨花(高校生冬服): まぁ……別に都合はつけられると思うけど、そのイベントとその衣装にどういう関係があるの? 沙都子(高校生クリスマス): だって、生徒会主催のクリスマスパーティーに参加するためにはこの衣装を身にまとわなければいけないという、決まりができてしまいましたのよ。 梨花(高校生冬服): 初耳なんだけど。 沙都子(高校生クリスマス): 先週、生徒総会で決まったそうですわ。満場一致で、反対する人はひとりもいなかったと。 梨花(高校生冬服): そんなスチャラカなルール、誰が提案したのよ?!……って、聞くまでもなかったわね。 反射的に突っ込んでからすぐに疑問を撤回し、私は再び大きくため息をつく。 現在の生徒会役員は真面目で人が良く、堅実で誠実という言葉がピタリとはまる人材揃いなのでそんな阿呆なものを提案するとはとても思えない。 ……つまり提案するのは私の知る限り、「元」の肩書きのつく誰かだろう。念のために言っておくが、沙都子ではない。 梨花(高校生冬服): (あのバカ元会長、引退後は学園側を挑発するような真似は慎むようにってあれだけ私が釘を刺しておいたのに……!) だいたい、沙都子も沙都子だ。なんでもかんでも素直に応じるのではなく、嫌なものははっきり嫌と断ってもらいたい。 …………。 あぁ、この感じを見る限り嫌じゃないのか。……さすがは詩音の妹分だ、実に頭が痛い。 梨花(高校生冬服): まったく……あなたも呑気なものよね。私たちはもうすぐ大学受験が控えているのよ?そんなおふざけに乗らなくてもいいじゃない。 沙都子(高校生クリスマス): いえ、もうすぐだから……ですわ。こういった息抜きも、たまには必要でしてよ。 梨花(高校生冬服): 息抜きって……そんな余裕な態度でいてもいいの?もし、私が受かってあんただけが落ちたりしたら一生笑ってやるんだから。 沙都子(高校生クリスマス): あら……言いますわね、梨花。だったら私が受かって梨花が落ちたとしても、慰めてなんかあげませんのよ。 梨花・沙都子: 「「むぅぅうううぅぅぅっっ……!」」 そう言い合いながら、私と沙都子はしかめっ面を作ってお互いを睨みつける。 でも、それは対立までには至らず……私たちはそれぞれ表情を緩めて笑みを返した。 梨花(高校生冬服): (……まぁ、昔ならいざ知らず今の沙都子が本番前に気を緩めるなんてありえないか……) やれることを一生懸命にやっているからこそ、オンとオフの切り替えをハッキリとさせる。……そんな頼もしさが、最近の彼女には確かにあった。 梨花(高校生冬服): 沙都子の言う通りかもね……泣いても笑っても、この学園寮で過ごせるのはあと数ヶ月。 梨花(高校生冬服): 少しくらい息抜きをしても、罰は当たらないかもしれないわ。 沙都子(高校生クリスマス): をーっほっほっほっ!それでこそ、私の大好きな梨花ですのよ! 沙都子(高校生クリスマス): でも、安心しましたわ。あなたもこの学園への入学当初と比べると、ずいぶんと柔軟になりましたわね~♪ 梨花(高校生冬服): くすくす……それを言い出したら沙都子なんてまるで別人じゃない。 梨花(高校生冬服): あんたが受ける志望校を聞いて唖然とした詩音の顔、今でも目に浮かんでくるわ。 そう言って私たちは、一緒にお風呂に行こうと部屋を出る。そして歩きながら、#p雛見沢#sひなみざわ#rの仲間たちとの思い出話に花を咲かせていた……。 Part 01: 昭和58年、#p興宮#sおきのみや#r駅前――。 買い物のために訪れた興宮の町は、もうすぐクリスマスということでにぎやかに華やいでいた。 菜央(冬服): やっぱりクリスマスは、時代と場所が変わってもだいたい同じように見えるわね。 一穂(冬服): うん……確かに。駅前や商店街を通ると、クリスマスソングがあちこちで聞こえてくるよ。 そう言って菜央ちゃんに相づちを打ちながら、私は町の周囲に目を向ける。 興宮の町には、よくある町全体でBGMを流すスピーカーといったものはないらしい。 ただ、その代わりにあちこちの店頭ではそれぞれ違う曲調のクリスマスらしい音楽が、呼びこみを兼ねて奏でられていた。 菜央(冬服): あっ……この曲、聞いたことがあるわ。クリスマスの時期になると必ず流れる、定番曲よ。 一穂(冬服): そうなの?私はそういうの、あんまり詳しくないけど……とっても素敵な歌だね。 菜央(冬服): この歌って、鉄道会社のCMソングで爆発的に人気になったらしいの。以来、冬の季節を象徴する曲になったんだって。 菜央(冬服): あと、クリスマス時期の歌とくれば……サンタクロースを恋人になぞらえたアレかしら。アレもあたしは大好きな歌のひとつよ。 一穂(冬服): へぇ……菜央ちゃんって、歌も詳しいんだ。 菜央(冬服): お母さんが教えてくれたのよ。いつもいろんな曲のCDを借りてきてくれて一緒に聞いたり、カラオケで歌ったりして……。 菜央(冬服): あ、そうそう。町でクリスマスソングを流す風潮が定着したのも、この昭和58年頃って言ってたわ。 菜央(冬服): それまでは童謡とかが中心で、ポップや洋楽もあまりなかったらしくて……。 一穂(冬服): ふぅん……そういうちょっとしたところにも、時代性が出たりするんだね。 そんな感じに、私たちは買い物袋をぶら下げながらクリスマスの歌のことで盛り上がる。 菜央ちゃんの話は、いつもすごく新鮮で勉強になることばかりだ。本当に年に似合わず、彼女はすごく博識だと心から感心する。 ただ……そんな私たちをよそに後ろの美雪ちゃんは会話に参加するどころか、ガタガタと全身を震わせて実に寒そうな様子だった。 美雪(冬服): クリスマスの歌なんて、どうでもいいじゃん!うぅ……寒い……寒すぎる……っ! 一穂(冬服): だ、大丈夫……美雪ちゃん? 美雪(冬服): 大丈夫じゃないよ、もうピンチだよ!ねー、早く帰ろう~……! このままだと寒さで、全身が凍り付いちゃうってー! 菜央(冬服): 大げさね……せめて風邪を引くとかにしておきなさいよ。ここが南極とか、シベリアだったらまだしもだけど。 美雪(冬服): 私にとっては雪が積もってるだけで、極寒の氷結地獄だよ~! うぅ、やっぱり家で留守番しておけば良かった……。 菜央(冬服): じっとしてても寒いから身体を動かしたい、って言ったのはあんたでしょ? まったく……。 一穂(冬服): あ、あははは……。 弱音を通り越した泣き言を盛んにぼやく美雪ちゃんの様子に、私と菜央ちゃんは顔を見合わせて苦笑と呆れ顔を交わす。 いつも元気で活動的な美雪ちゃんだけど、そんな彼女は寒い冬が大の苦手らしい。家や分校でも、ストーブの前から離れようとしないほどだ。菜央 一穂(冬服): (美雪ちゃんは犬タイプで、菜央ちゃんが猫タイプだと思ってたけど……寒さに関しては、まるで逆だね) 菜央(冬服): とにかく、もうすぐ入江先生が迎えに来てくれるから。それまで少しだけ辛抱してなさい……一穂、今は何時? 一穂(冬服): あ、ちょっと待ってね。えーっと……。 私は手袋をまくって、魅音さんから譲ってもらったお古の腕時計を見る。 冬期の#p雛見沢#sひなみざわ#rでは、徒歩はもちろん自転車も御法度だ。だから遠出をして買い物をしたい時は、誰かに頼んで車を出してもらうことになる。 一番頻度が高いのは富竹さんで、次に入江先生。ただ、入江先生の場合は診察などで忙しい人なのでお願いするのは少し申し訳ないんだけど……。 入江: 『往診のついでなので、気にしないでください。雪中の運転も嫌いではありませんので』 そう言って入江先生は、電話をすればよほどの場合でもない限り車を出してくれる。……その優しさが、とてもありがたかった。 一穂(冬服): もうすぐ約束の時間だけど……車は見えないね。往診に時間がかかって、遅れてるのかな? 菜央(冬服): かもね。……美雪、あとちょっとだけ我慢できる? 美雪(冬服): ……いや、もう我慢できないっ!私は図書館の中に、戦略的撤退を敢行しますッ! 菜央(冬服): あっ、こら……待ちなさいよ、美雪?! 美雪(冬服): いーや、待ちません!入江先生が来たら、呼びに来てっ! んじゃ! そう言って美雪ちゃんは、図書館へと駆け出していった。 一穂(冬服): あぁっ、美雪ちゃん……って足速っ?! 菜央(冬服): しょうがないわね……。 仕方なく私は彼女のあとを追いかけて、菜央ちゃんもついていくことになった。 一穂(冬服): 入江先生……待ち合わせ場所を移動しても大丈夫かな? 菜央(冬服): 入口のロビーからだったら、車が来ても確認できるわ。それを見逃さないようにしましょう……あら? 館内に飛び込んでいった美雪ちゃんより少し遅れて中に入ろうとした私たちは、入口付近に違和感を覚えてはたと立ち止まる。 菜央(冬服): あそこのベンチ、……誰か座ってるわね? 一穂(冬服): ホントだ。身体に雪が積もってるみたいだけど、大丈夫かな……? そう、不審に思って近づいてみると……ベンチに座っていたのはなんと詩音さんだった。 菜央(冬服): 詩音さん……ど、どうしたんですか?! 詩音(冬服): 菜央さんですか……私、疲れました……なんだかとても、眠いんです……。 そう言って詩音さんは、頭に雪を積もらせながらがっくり……と項垂れる。 一穂(冬服): わ……わぁぁああぁあっ?!しっかりしてください、詩音さん!! Part 02: そして、図書館の館内――。 暖房でぬくもりに満ちた中、飲食ルームで缶コーヒーをあおり飲みながら詩音さんは安堵の息をほぅ……と大きくついてみせた。 詩音(冬服): あー……生き返ったぁ……。葛西の車が来るまでちょいと一休みのつもりでベンチに腰を下ろしていたんですが……。 詩音(冬服): 危うくなんとかの犬と少年みたいに、天国からやってきた天使のお迎えについていくところでしたよ。……なんちゃって。 一穂(冬服): い、いや……冗談に聞こえないんですが……。 さっき見た詩音さんの顔色は、とても青白かった。発見が数時間、いや数分遅れただけでもかなり危険だったのでは……と身震いすら覚える。 一穂(冬服): あの……#p雛見沢#sひなみざわ#rって、冬に遭難する人がいたりするんですか? 詩音(冬服): うーん、凍えて低体温症でぽっくり逝っちゃう人はごくまれに……いや、たまにかな? それでも毎日出ているわけではないので、安心してください。 shakechadera: ジャンプ 美雪(冬服): ちっとも安心できないよ! 聞くところによると、年に数回視界が遮られるほどの吹雪になることがあるらしい。 ……寒さに弱い美雪ちゃんはもちろんだけど、私たちもしっかりと注意しておこう。 詩音(冬服): まぁ、今日みたいな豪雪は珍しいほうですよ。ここに着いた時はそれほどでもなかったんですが、短時間で一気に来た感じですね。 美雪(冬服): ほら見ろそれ見ろ。今日は地元民の詩音でさえ、凍えるレベルだったんだよ。 菜央(冬服): あんたは少し黙ってなさい、美雪。……それにしても詩音さん、どうしてあんなところで休憩してたんですか? 一穂(冬服): うん……そうだね。どうせなら、暖房の効いた館内で休んでおけばもっとゆっくりできたのに。 ごく当たり前に抱いたその疑問を、私たちは詩音さんに投げかける。 すると詩音さんは、少しばつが悪そうに目を背けながら……頭をかいて答えてくれた。 詩音(冬服): えっと、その……図書館の中だと快適すぎて、一度眠ったら起きられないと思ったんですよ。 菜央(冬服): ……? 閲覧室って仮眠くらいなら、そこまでうるさく言われたりしないんじゃない? 一穂(冬服): だね。村のおじいさんも、ソファの上でいびきをかいて寝てたりするしね。 美雪(冬服): いや、あれは起こしたほうがいいと思うよ。周りにいる他の来館者の迷惑になるからね。……っていうか詩音、なんでそんなに疲れてるの? 詩音(冬服): いえ……ここしばらく、エンジェルモートが鬼忙しくて……身体だけじゃなく心までもが疲れ切っているんです。 詩音(冬服): ですからちょっと気を抜くと、気がつかないうちに何時間も寝てしまいそうで……外だと軽い居眠りで済むかな、と。 美雪(冬服): ……居眠りどころか、永眠しかけてたじゃんか。 そんな美雪ちゃんのツッコミに苦笑で答えながら、詩音さんはううーん、と背伸びする。 ただ、彼女の疲労度は……一休みしただけではとても回復できていない様子がありありだった。 一穂(冬服): あの……美雪ちゃん、菜央ちゃん。 美雪(冬服): んー……言いたいことはわかってるよ。 菜央(冬服): しょうがないわね……。 私の問いかけに対して美雪ちゃんは苦笑を返し、菜央ちゃんはため息をつきながら頷く。 何も言わなくても意図を受け取って、私の考えに賛同してくれる……。そんな2人のことが、本当に私は大好きだった。 一穂(冬服): あの……詩音さん。 詩音(冬服): ? はい、なんでしょうか……? 一穂(冬服): もしよかったら私たち、詩音さんのバイトを手伝いましょうか……? 詩音(冬服): えっ……? 一穂(冬服): 何人かバイトの代わりがいれば、少なくとも休憩するだけの時間ができると思います。 一穂(冬服): バイト代が減らない程度に休みを入れないと、このままだと身体を壊しちゃいますよ……? 詩音(冬服): いや……別にバイト代はそれなりに確保してもらっていますから、多少減っても痛いというわけではないんですが……。 詩音(冬服): でも……悪いですよ。せっかくの楽しいクリスマスシーズンなのにバイトに明け暮れてもらうのは、さすがに……。 美雪(冬服): そうは言ってもさ……凍死しかけるくらいに疲れてるキミのことを、私たちだって放っておけないよ。 菜央(冬服): まぁあたしたちの手伝いなんて、せいぜい猫の手レベルかもしれないから……あまり期待はできないでしょうけどね。 詩音(冬服): いやいや、猫どころかトラかクマレベルです!……毎回お姉や私がご面倒をかけているのに、いいんですか? そう言って申し訳なさそうな詩音さんに対して、私たちは笑顔で頷く。 それを見て彼女は意を決したように立ち上がると、こちらに向き直り……そして……。 詩音(冬服): ……よろしくお願いします。 いつも飄々とした態度の詩音さんには珍しいほど、真摯な表情で深々と頭を下げてきた……。 Part 03: 美雪(クッキング): ……うん、確かに引き受けたよ。詩音が困ってるのは丸わかりだったし、これまでに色々と恩義もあったからね。 美雪(クッキング): だから、あの時の判断は間違ってなかったと思う。当然後悔もない……けど……! エプロン姿で調理に従事して、膨大な食材をものすごい速さで捌きながら……美雪ちゃんは吼えるように叫んでいった。 美雪(クッキング): なんなのさ、この忙しさは……!もはや接客サービスじゃなくて野戦病院なみの修羅場じゃんか!! お客A: あのー、注文いいですか~? 詩音(エンジェルモート): は、はーい……すぐに伺いまーす! お客B: あっ……フォーク、落としちゃった。すみません、交換してもらえませんか? 菜央(エンジェルモート): しょ、少々お待ちください。今、お持ちしますので……! お客C: おーいウェイトレスさん、この料理は注文していないんだけどー? 一穂(エンジェルモート): ご、ごめんなさい……っ! 足を止めるどころか、息をつく間も見つけづらいほど注文への応対、給仕、片付けの作業が立て続けで……。 美雪ちゃんの言う通り、まさに野戦病院という表現がぴったりとはまるほどの激忙ぶりだった。 詩音(エンジェルモート): 言ったじゃないですか……マジで倒れるレベルだって!だから私も、お願いするのを躊躇ったんですよ……! 美雪(クッキング): そんなこと言われたって、さすがにここまでだとは思わないじゃんか! まぁなんとかできそうだって考えちゃうじゃんか?! 菜央(エンジェルモート): あたしたち……これまで何度かバイトを手伝ったけど、それと比べても今回が最上だって断言できそうだわ。 一穂(エンジェルモート): あ、あははは……目の回るような忙しさだねぇ……。 詩音(エンジェルモート): ……ホントに目が回っていますよ、一穂さん。私が言うのもなんですが、大丈夫ですか……? 詩音(エンジェルモート): って、はい! 8番と11番テーブルの料理、できあがりましたよ! 美雪(クッキング): 気遣っておきながら一方で働かせるなんて、キミは鬼か?! 詩音(エンジェルモート): こっちもこっちで手が離せないんです!お姉はお姉で、ゲストハウスでのイベントとおもちゃ屋の対応で地獄を見ていますし……! 詩音(エンジェルモート): 恨み言なら、終わった後でゆっくり聞きます!だから今だけは、とにかく頼らせてください! 一穂(エンジェルモート): じゃ……じゃあわ、私が……。 菜央(エンジェルモート): ……大丈夫よ、一穂。あんたは少し、休んだ方がいいわ。 一穂(エンジェルモート): ご、ごめんなさい……。 厨房の隅にへたり込んでいる私に代わり、菜央ちゃんは元気よく料理を手にして厨房から出る。 なんとか次の休憩まで、と頑張っていたけど、交代でシフトに入るはずだったバイトの子が急病で来られなくなるという連絡があり……。 そのせいで支えていたものがポッキリと折れて、立ち上がれなくなってしまったのだ。 一穂(エンジェルモート): ごめんなさい……美雪ちゃん。迷惑をかけちゃって、私……。 美雪(クッキング): いいって、気にしない!少なくともさっきまではしっかり働いてたんだから、今は体力を回復させることだけ考えて! そう言って美雪ちゃんは食材をひたすらに刻み、和え……矢継ぎ早に形を作っていく。 彼女といい、菜央ちゃんといい……大きくもなく華奢ですらある2人の身体のどこに、ここまでの体力が潜んでいるのだろう。 頼もしさを感じるからこそ、私は2人のことが羨ましく……そして申し訳ない思いだった。 美雪(クッキング): いやー……にしても外は雪だらけなのに、この時期ってこんなにも来客があるんだねー。クリスマスって家で祝うものじゃないの? 詩音(エンジェルモート): だって外食だと、調理や片付けの手間が省けていいじゃないですか。前者はともかく、後者は急に現実を見せられる感じになるそうですから。 菜央(エンジェルモート): ……あたしたちはエンドレスかつ複数で、リアルを目の前に突きつけられてるんだけどね。 詩音(エンジェルモート): あとは……これ、菜央さんに対しての恨み言じゃないですからね? むしろ感謝しているのでそのつもりで聞いてください。 詩音(エンジェルモート): これだけ忙しくなったのって……実は例のクリスマス向けの限定メニューが大当たりしたのが原因なんですよ。 一穂(エンジェルモート): 限定メニュー……って? 詩音(エンジェルモート): 穀倉のライバル店に対抗するために、レナさんと菜央さんが色々と素敵な料理をこの前考えてくれましたよね? 詩音(エンジェルモート): あれが大当たりで、穀倉でも話題になって……向こうもとんでもない来客になっているんですよ。 菜央(エンジェルモート): えっ……そうなの? 詩音(エンジェルモート): 私は仕事に関して、嘘は言いませんよ。疑うなら売上データをあとで見せてあげてもいいです。 詩音(エンジェルモート): ホント、感謝感激雨あられ……ほんの少しだけこんちきしょー、ってやつです。 菜央(エンジェルモート): 結局責められてるように聞こえるんだけど……。 美雪(クッキング): とにかく、なんとかあと数日を乗り切ろう!一穂……どう? 少しは動けそう? 一穂(エンジェルモート): な、なんとか……! 菜央(エンジェルモート): 重たいものは持たなくてもいいから、気楽にね。……あと、片付けは急いでやらなくてもいいわ。 一穂(エンジェルモート): えっ……けど、いつまでも食器を出しっぱなしだと、待ってるお客さんを席に案内できないよ……? 菜央(エンジェルモート): 卑怯な手段だけど、それでいいの。すぐに片付けて席を空けてるより、食器がある方が待ってるお客さんのイライラが軽減される……。 菜央(エンジェルモート): そういうデータがあるんだって、以前お母さんが教えてくれたわ。……だから時間をかけて、丁寧にやりなさい。 一穂(エンジェルモート): わ、わかった……! 美雪(クッキング): っ……な、なんとか今日を乗り切った……。 詩音(エンジェルモート): ……本当に、お疲れ様でした。3人が手伝ってくれたおかげで、生き残ることができました……。 菜央(エンジェルモート): その表現が、大げさに聞こえないのが怖いかも……かも……。 一穂(エンジェルモート): ……はふぅ……っ……。 菜央(エンジェルモート): 大丈夫、一穂?ずっと床に横になってるけど、起きられる? 美雪(クッキング): 寝かせておいてあげよう……せめてあと1時間くらいはさ。 詩音(エンジェルモート): とりあえず……泣いても笑ってもあと数日です。バイト代は思いっきりはずませてもらいますので、どうか最後までお付き合いを……、えっ? 魅音(エンジェルモート): た……大変だー! そう叫びながら、半泣き顔で駆け込んできたのは魅音さんだった。 美雪(クッキング): …………。 詩音(エンジェルモート): ……はぁ……。 菜央(エンジェルモート): あたし……この先の展開がもう読めちゃったかも……かも。 美雪(クッキング): ……どうしたんだい、魅音くん。なんとなく想像はできるけど、何があった? 魅音(エンジェルモート): 聞いてよ美雪、みんなっ! 魅音(エンジェルモート): ゲストハウスで開かれるクリスマスケーキの販売会で売る予定だったケーキが、到着前に途中の交通事故で全部おじゃんになっちゃって……。 魅音(エンジェルモート): このままだと大問題になっちゃうよー!あと、子ども会が開くパーティーのスタッフが思ったより集められなくて、それから……。 詩音(エンジェルモート): ――なんでトラブルが複数っ?運が悪いにしても限度がありますよ、お姉っ! 魅音(エンジェルモート): そ、そんなことを言われても……っ……!私だって、どうしたらいいのかわかんないんだよー! 美雪(クッキング): 言い合いをするだけ体力の無駄使いだよ。さて、どうしたものかね……。 美雪ちゃんはそう言ってなだめるものの、複数重なったトラブルを解決するには明らかに手が足りない……。 そう思って、絶望的な気分で項垂れてしまったその時……。 レナ(冬服): はぅ……魅ぃちゃん詩ぃちゃん、菜央ちゃん。すごく疲れた顔をしているけど、大丈夫かな……かな? 菜央(エンジェルモート): っ……レナちゃん……? 入口のドアを開けて入ってきたのは、村の外に出かけているはずのレナさんだった。 菜央(エンジェルモート): ど……どうしてレナちゃんが、ここに?確か、お父さんたちと一緒に温泉旅行に行ってるって……? レナ(冬服): たまたま穀倉の店を通りがかった時に、すごい人が入っているのを見かけてね……。 レナ(冬服): だから、もしかしたら#p興宮#sおきのみや#rの店も忙しいんじゃないかなって、気になって……私だけ途中で帰ってきたんだよ。 菜央(エンジェルモート): レナちゃん……! 美雪(クッキング): おぅっ……まさに地獄に仏!ナイス判断だよ、レナっ! レナ(冬服): クリスマスまでは予定がないから、手伝うことはできるよ。といってもレナひとりじゃあんまりお役には立てないかもだけど……。 詩音(エンジェルモート): そんなことはありません、大助かりです!もはや神の見えざる手レベルの援軍ですよ! 美雪(クッキング): それって、何か意味が違うような……まぁ気持ちはわかるけどさ。 レナ(冬服): あははは、良かった♪……あと、途中で梨花ちゃんたちとも会ったから、一緒に来たよ。 沙都子(冬服): あらあら……ずいぶんな疲弊ぶりですわねぇ。何か私たちに、できることはありまして? 魅音(エンジェルモート): いや、その……いいの、みんな? 梨花(冬服): みー。黙ったままよりも素直に言ってくれたほうがボクたちは嬉しいのです。遠慮は無用なのですよ。 羽入(冬服): あぅあぅ、僕たちにも何か協力できることがあるかもしれないのですよ~。 一穂(エンジェルモート): みんな……! 魅音(エンジェルモート): ……だったら、伏してお願いするよ。あんたたちの力、また貸して……! Part 04: そして数日後の、クリスマスの夜。 営業を終えて、消灯したエンジェルモート……その店内で、仕事を終えた私たちはぐったりと死屍累々の姿をさらしていた。 美雪(私服): い、一生分のケーキを作ってやったよ……! 菜央(エンジェルモート): もう、当分の間はケーキを見たくないかも……かも。 レナ(サンタ): あ、あははは……みんな、すっごく頑張ったよね……。 いつも元気な菜央ちゃんとレナさんでさえ肩を寄せて壁際に座り込み、立ち上がれない様子だ。メインの魅音さん、詩音さんに至っては……。 魅音(エンジェルモート): ……もう、死ぬかも……。 詩音(エンジェルモート): お姉はまだ元気ですね……私は、死んでいます……。 普段の対抗意識などかなぐり捨てるように、お互いに背を預け合って項垂れている。 梨花(クリスマス): ……みー……。 沙都子(エンジェルモート): も、もう戦えませんわ……。 羽入(エンジェルモート): ……瞼を閉じても、伝票が浮かんで消えてくれないのですよ……あぅあぅ……。 下級生の3人も、テーブル席に横になって疲れ切った様子だ。そして、私は……。 美雪(私服): ……一穂? さっきから静かだけど、大丈夫? 菜央(エンジェルモート): 一穂……って、一穂っ?!いやぁぁぁああぁぁっっ?! …………。 美雪(私服): ったくもう、びっくりするじゃんか。まるで燃え尽きたように真っ白になって、声をかけても動かないんだから……。 一穂(エンジェルモート): ご、ごめんなさい……。 菜央(エンジェルモート): それだけ精根尽き果ててたってことでしょ?……一穂、立てる? 一穂(エンジェルモート): な、なんとか……。 菜央ちゃんと美雪ちゃんに支えられながら、私はよろよろと立ち上がる。 さっきまでは足に力が入らなかったけど、なんとか復活……といえるのだろうか。 詩音(エンジェルモート): とにかく、皆さん……お疲れ様でした。葛西を呼びましたので、どうか車に乗って家まで帰ってください。 美雪(私服): んー……それはありがたいけど、帰る前に何かお腹に入れておきたいよね。……厨房に何か残ってる? レナ(サンタ): ……少し肉と野菜があったから、それを使って何か作ってくるね。サンドイッチなんてどうかな、かな……? 菜央(エンジェルモート): ……あたし、手伝うわ。クリスマスの料理としては質素だけど、この際贅沢は……えっ……? と、その時……入口のドアが開いて暗がりから中に入ってくる複数の人影が視界に映る。 誰かと思って目をこらすと、それは前原くんと入江先生……。 さらには富竹さん、大石さんの姿があった。 圭一(クリスマス): おいおい……とんでもねぇことになっているみたいだが、みんな、大丈夫か? 魅音(エンジェルモート): この様子が大丈夫に見えるんだったら、私は圭ちゃんを眼科に連れていってあげるよ……はぁ……。 詩音(エンジェルモート): ついでに脳外科にもぶち込んでやります……がくっ……。 普段なら即座に返す園崎姉妹の抗弁の言葉にも、全く力がこもっていない。 すると、そんな様子を見た大石さんがゆっくりと彼女たちの元に歩み寄ると……優しげな笑みで話しかけていった。 大石: んっふっふっふっ……さすがに未成年の労働はなんたら、なんて野暮は申しませんよ。 大石: 皆さん、本当にお疲れ様でした。さすがは#p雛見沢#sひなみざわ#rを代表する部活メンバーだと感服しましたよ……なっはっはっ! 詩音(エンジェルモート): ……大石のおじさまに褒めてもらえるなんて、珍しいこともあるものです。明日は雪ですか? 魅音(エンジェルモート): それを言うなら、明日も雪、でしょ……? 富竹: すごい頑張りようだったみたいだね。村の人たちも、君たちのことを褒めていたよ。 入江: 体調が悪い方がいましたら、遠慮なく仰ってくださいね。私が調合した秘薬……。 入江: いえ、とっておきの栄養剤を処方させていただきます。 沙都子(エンジェルモート): いただくべきかどうか、判断に迷うところですわね……。 羽入(エンジェルモート): 僕はもう、たとえ毒でも元気になれるなら喜んでもらうのですよ……あぅあぅ。 梨花(クリスマス): みー……だったら激辛激シビレのキムチを大量に……。 梨花(クリスマス): ……やっぱりいいのです。そもそもボクのお腹に入らないのですよ、みー。 一穂(エンジェルモート): とりあえず……何か食べてからでもいい?私たち、お腹が空いちゃって……。 圭一(クリスマス): へへっ……たぶんそうだと思って、色々と持ってきてやったぜ。 圭一(クリスマス): 量と食べやすさ重視で選んだものがほとんどだけど、そこは大目に見てくれよな? そう言って前原くんたちは、それぞれ持ち寄ったものをテーブルの上に広げてくれる。 それは、まだあたたかい湯気を立てる色とりどりのご馳走で……鶏の丸焼きやローストビーフ、ケーキなどのデザートもたくさん並べられていた。 一穂(エンジェルモート): ま、前原くん……これは……? 圭一(クリスマス): 村の人たちに頼まれて、持ってきたんだよ。……あと、これは俺のお袋が作った特製カレーだ!たくさんあるから、遠慮なく食べてくれ! 入江: ……手前味噌な腕前で恐縮ですが、私もビーフシチューを作ってきました。よかったらどうぞ。 沙都子(エンジェルモート): か、監督が料理を……?明日は猛吹雪になりましてよ……! そして彼らは、いそいそと私たちのために即席のパーティー料理を揃え始める。 それを見ているうちに食欲、そして元気がわいてきたので……ありがたくご馳走になることにした。 富竹: よし……せっかくだから、写真を撮ろう!みんな、こっちを向いてくれるかい? 詩音(エンジェルモート): こんなに疲れ切った私たちの顔を写真に収めようなんて、富竹のおじさまもずいぶんなサディストですね……。 詩音(エンジェルモート): でもまぁ、せっかくですし。……どうですか、皆さん? 一同: 異議なーしっ!! 一斉に応じて私たちは、どやどやと一団に集まる。そしてカメラを構える富竹さんに向かって、それぞれのポーズを取り始めた。 富竹: いいかい? それじゃ、撮るよ……せーのっ。 一同: 「「メリークリスマース!!」」 Epilogue: そして再び、平成元年のルチーア学園寮――。 沙都子だけでなく私もきわどいサンタ衣装に身を包んで、#p雛見沢#sひなみざわ#rの仲間たちとの思い出を語り合っていた。 梨花(高校生クリスマス): ……なんてことがあったわね。ふふ、懐かしいわ。 沙都子(高校生クリスマス): えぇ。あの時の圭一さんたちのお気遣いは、とっても嬉しかったですわね~♪ 沙都子はそう言って、懐かしそうに笑顔を浮かべる。そんな彼女を見つめながら、私は……。 梨花(高校生クリスマス): (本当に……いろんな事があったわね) 万感の思いで、この聖ルチーア学園で過ごした3年間のことに思いを馳せていた。 雛見沢では色々なトラブルに巻き込まれたり、不可解な事件が起きたりもした。 だけど、それらを乗り越えてきたからこそ今があり、そして未来に向けて頑張る力を得ることができたのかもしれない……。 少なくとも今の私は、それを心から信じることができた……。 今でも苦い思いが残る……ルチーアに入学した当初のこと。 あの時私は、沙都子にかける言葉が見つからなかった。日に日にすさんでいく彼女の姿に、学園に誘った後悔と後ろめたさだけが募っていって……。 それでも彼女は、困難を乗り越えていった。秋武会長という、ほとんど奇跡にも近い巡り合わせと支援があったとはいえ……。 あの時ほど私は、沙都子の凄さと強さを思い知らされたことはない。そして、なによりも……。 沙都子(高校生): 私が頑張るのは、梨花と一緒にいたいという夢を叶えるためですの。……だからあなたは、自分を責めなくてもよろしいんですのよ。 あの時の言葉は、……今でも忘れない。本当に、涙をこぼしてしまうほどに……私は救われる思いだった。 その後、私は沙都子とともに課題をこなしながら……学園の内部を少しずつ、変えていく努力を続けた。 その一環……といっていいのかは今でも疑問だけど、まさかのアイドル活動を学園内で行ったりもして……色々な発見があった。 梨花(高校生アイドル): (お堅くて保守的だと思っていたクラスメイトたちが、あんなにも支持して喜んでくれるとは思わなかったわ。……悔しいけど、秋武会長の慧眼といったところね) もちろん、おふざけ的なイベントだけでなく授業について行けなくなった補習組の救済制度や、学力向上のための「学園内塾」の設立……。 それらを理事会や教師陣に認めさせるには、とんでもない労力が必要だった。……だけど沙都子は、決して負けなかった。 沙都子(高校生アイドル): 『何度も挫けそうになるたび、梨花や会長さんは私のためにたくさん骨を折ってくださいましたわ。……だからこれは、その恩返しですのよ』 沙都子(高校生アイドル): 『あなたたちが守り、支えてくれたこの北条沙都子は期待に応えられるだけの価値を持った存在だと証明して、後々誇っていただくために……ね』 ……本当に、嬉しかった。 そして……お互いに真剣に頑張っていたからこそ、時には衝突することもあった。 沙都子(高校生): 『……確かに、梨花はどうしてわかってくれないのかと悲しくなったり、怒りを覚えたりしたこともありましたわ。あるいはどこかで、あなたと道を違えるのでは……とも』 沙都子(高校生): 『ですが……そのたび私は信じることにしましたのよ。雛見沢でひとりぼっちだった私のことを誰よりも思い、励ましてくれたあなたのことを……』 沙都子(高校生): 『そして、梨花はどこまでも私に応えてくれましたわ。本当に私は、最高の親友に恵まれた幸せ者ですのよ』 ……何を言っているのよ、沙都子。感謝すべきなのは、むしろ私なんだから。 あなたは私の願い、そして望みにどこまでも一緒についてきてくれた。とても献身的に、労を全く惜しむことがなかった。 私が今あるのは、間違いなく沙都子のおかげだ。そしてきっと、これからも……。 沙都子(高校生クリスマス): ……か、梨花……? 梨花(高校生クリスマス): えっ……何かしら、沙都子? 沙都子(高校生クリスマス): いえ、急に黙り込んでしまったので……何か悩み事でもあるのかと思ってしまいましたのよ。 沙都子(高校生クリスマス): もし私で事足りるようなことがありましたら、なんでも遠慮なく言ってくださいまし。梨花のためなら、労は惜しみませんのよ。 梨花(高校生クリスマス): くす……ありがとう、沙都子。 …………。 梨花(高校生クリスマス): これからもよろしく頼むわね……沙都子。あなたと一緒なら私どんなことでも、そしてどこまでも頑張っていける気がするわ。 沙都子(高校生クリスマス): あら、なんですの改まって。そんなことは言葉に出さずとも、とうの昔にわかっていましてよ……をーっほっほっほっ! そう言って、私たちはグラスをかちんと合わせる。 窓の外はクリスマスにふさわしく、白い雪が降り積もって一面が銀世界に彩られていた……。