Part 01: テレビの声: 『お菓子の国へようこそ! お菓子ランド!』 テレビの声: 『来冬開園のこの遊園地に、私、一足先にお邪魔してきました~!』 沙都子(私服): お菓子の国なんて夢の話だと思っていましたけど、まさか現実としてお目にかかる日が来るとは……驚きですわね。 羽入(私服): あぅあぅ、すごいのです! すごいのです!全部お菓子でできている遊園地なのですよ~! 梨花(私服): ……羽入、あれはただのテーマパーク。建物は全部作り物なのです。 梨花(私服): 地面のチョコレートは、アスファルト。ドーナッツやクッキーの岩は模造品なのです。 梨花(私服): 売っているお菓子は本物だとしても、全部有料なのですよ。 羽入(私服): あ、あぅあぅあぅ!なんで梨花はそんな夢の無いことを言うのですか~?! 梨花(私服): 夢がないもなにも、本当のことなのですよ。 羽入(私服): あぅあぅあぅ~! 沙都子(私服): まぁまぁ……このテレビでやっていた遊園地は、確かに作り物のお菓子の国かもしれませんけど……。 沙都子(私服): それでも現実にお菓子の国ができるというのはそれはそれでワクワクしますわねぇ。……遠くてとても行けないのが、難点ですけど。 沙都子(私服): それにしても最近は、こんな感じのテーマパークがたくさんオープンしていましてよ。 沙都子(私服): お金って、あるところにはあるんですのね……まぁ、意外とお金持ちは身近にいますけど。 梨花(私服): お金持ち……魅ぃのことですか? 沙都子(私服): 魅音さんもそうですが、監督ですわ。監督。 羽入(私服): あぅあぅ……入江はお金持ちなのですか?そんな感じには見えないのですが。 沙都子(私服): あら……違いますの? 梨花(私服): お医者さんはお金持ちというイメージはありますが、派手にお金を使っているところを見たことがないのであまりそういう印象はなかったのですよ、みー。 沙都子(私服): ……確かに、そうですわね。でも……ふわぁ……。 梨花(私服): もう夜も遅いので、沙都子はねむいねむいなのですよ。さ、早く歯磨きをして寝ましょうなのです。 沙都子(私服): えぇ……そうさせてもらいましてよ……。 テレビの声: 『見てください、この巨大シュークリーム!』 羽入(私服): あぅあぅ、僕はもうちょっとテレビを見てからにするのですよ~! 梨花(私服): ……明日から甘い物は控えるのですよ。虫歯になってしまったらイタイイタイなのです。 羽入(私服): あぅあぅあぅ?!わ、わかったのです……。 梨花(私服): ……ところで、羽入。あんたって、実際には虫歯になるの? 羽入(私服): あぅ……どうなのでしょうか。よくわからないのですよ。 梨花(私服): ……自分のことなのに? 羽入(私服): 自分のことを全て知っている存在が、果たしてどれだけいるのかという話なのです。神でも悪魔でも、それは同じことなのですよ。 梨花(私服): 別に、そこまで深い話をしたつもりじゃなかったんだけど……まぁいいわ。 羽入(私服): あぅあぅ、心配しなくてもちゃんと歯磨きするのですよ。 羽入(私服): だって……。 梨花(私服): だって? 羽入(私服): 梨花と沙都子と一緒に歯磨きするのは、楽しいのです! あぅあぅあぅ~♪ 梨花(私服): ……それ、この前の教育テレビでお姉さんたちが言っていたセリフじゃない。あんたって、結構俗っぽいものが好きよね。 梨花(私服): いや、それを言うなら甘い物も俗っぽい……? 羽入(私服): 何を言うのですか?!甘い物は素晴らしくて神聖なものなのです!だからいくらあっても困らないのですよ~! 梨花(私服): じゃあ神聖な甘い物でできたお菓子の国は、とても神聖な場所なのでしょうね。 梨花(私服): まぁ現実は、お菓子の国を模した遊園地を作るのが精々でしょうけど。 羽入(私服): 梨花が夢のないことばかり言うのです……。 梨花(私服): ……100年も生きていたら、普通の夢は見飽きるわ。 羽入(私服): あぅあぅ……梨花はテーマパークには興味がないのですか? 梨花(私服): 仲間と一緒なら、きっと楽しいと思うわ。沙都子なんて大はしゃぎしそうだしね。 梨花(私服): ……でも、私だけならあまり興味はないわ。 梨花(私服): 本物のお菓子の国なら、行ってあげてもいいけれど。 Part 02: 梨花(お菓子の国): ……確かに、本物のお菓子の国なら行ってあげてもいい……とは言ったけど……。 梨花(お菓子の国): ……まさか本当に、お菓子の国の夢を見るなんてね。 梨花(お菓子の国): いえ、むしろお菓子の国の方が現実になった……?私が望んだから、その願いが形になって……? 梨花(お菓子の国): …………。 梨花(お菓子の国): まぁ、こういう世界もたまにはいいわ。どうなるかはさておき、少し探検してみましょう。 梨花(お菓子の国): ……しばらく歩いてみたけれど、本当に全てがお菓子でできている世界なのね。 梨花(お菓子の国): でも……やっぱり仲間がいないと、楽しさも半減だわ。 梨花(お菓子の国): (沙都子や羽入がここにいたら、きっと大喜びするでしょうね……) 梨花(お菓子の国): (レナはかぁいいものが大好きだから、大喜びして力の限りを走り回って……菜央は、そのあとを追いかけて) 梨花(お菓子の国): (魅音や詩音はどうかしら。魅音は新しいゲームに生かせないかと考えて、詩音は商売にする方法を、現実的に……) 梨花(お菓子の国): (一穂は大喜びでしょうけど、美雪はどうかしら。あの子って、はしゃいでいても意外と冷静だし……) 梨花(お菓子の国): (……。あれ……?) 梨花(お菓子の国): (みんなの顔って、どんな感じだっけ……?) クッキーマン: やぁ、君!どうしたんだい、深刻そうな顔をして。 梨花(お菓子の国): えっ……? クッキーマン: ここだよ、ここ! 君の足元だ! 梨花(お菓子の国): ……クッキー? クッキーマン: そう、私はクッキーマン!こんにちは、学者さん! 梨花(お菓子の国): みー……学者、さん……? クッキーマン: おや、違うのかな? その服装と私の声が聞こえるのだから、魔法学者で間違いない!と思ったのだけれど。 梨花(お菓子の国): ……いえ、きっとそうなのです。 クッキーマン: おや、不思議な言い回しをするね。まるで自分が何者なのか自信が持てないみたいだ。 梨花(お菓子の国): みー、その通りなのです。……あまり自信はないのですよ。 クッキーマン: ふむ……なんだか複雑な事情がありそうだね。よかったらこの通りすがりのクッキーマンに話してみてはどうだろうか。 梨花(お菓子の国): …………。 クッキーマン: 大丈夫、告げ口なんかしないさ!いや、できないと言った方が正しいだろうね。 クッキーマン: なんせ私の声が聞こえるのは、クッキーマン同士か世にも珍しい魔法学者だけだから! 梨花(お菓子の国): あなたの他にも、クッキーマンがいるのですか? クッキーマン: もちろん! 君は人間……かな。人間は家族というものがいるんだよね? クッキーマン: 私たちにとって、同じ生地からできたクッキーマンが家族のようなものなんだ。で、君の家族はどこにいるんだい? 梨花(お菓子の国): ボクの家族は、いないのです。でも……仲間はいるのですよ。 クッキーマン: じゃあ、その仲間を探しているのかい?だとしたら、一緒に探すのを手伝うよ! 梨花(お菓子の国): ……この世界にはいないと思うのです。 クッキーマン: さぁ、それはどうだろう?探してみないと、わからないかもしれないよ? 梨花(お菓子の国): …………。 クッキーマン: なるほど、気がついたらこの世界に……それは心細かっただろうね。 梨花(お菓子の国): 自分の素性がわからない間は、少し……でも、話しているうちにこの世界の自分を思い出したのですよ。 クッキーマン: ほぅ? 梨花(お菓子の国): ボクは、世界のあちこちを探検して不思議なものを見つけたりするのが大好きな魔法学者の卵……学生なのです。 クッキーマン: そうか、学生さんか! それは失礼した……いや、未来の学者ならそう間違ってはいないのかな? クッキーマン: でも、思い出したようでよかったよ。自己があやふやというのは精神の安定に欠くからね! 梨花(お菓子の国): …………。 梨花(お菓子の国): (ただ、代わりに他のことが思い出せなくなっている……?) 梨花(お菓子の国): (何を忘れたのか、それさえ……もう……) クッキーマン: っと……大丈夫かい? 梨花(お菓子の国): みー……大丈夫なのです。 梨花(お菓子の国): クッキーマンは、どうして旅をしているのですか? クッキーマン: 私の家族の1人……大きなクッキーマンは旅人なんだ。 クッキーマン: ふらりと出かけてふらりと帰ってきて、たくさんの思い出話をしてくれる。 クッキーマン: 私は、その思い出話が大好きなんだ。だから大きなクッキーマンの真似をして、こうして広い世界に飛び出したというわけさ! クッキーマン: でも旅をすること自体が目的だから、あっという間に迷子になったわけだ!ははは、どうしようもないね! 梨花(お菓子の国): みー……どうして元気にそんなことを言えるのですか? クッキーマン: そういう性分だと思ってほしいなっ! 梨花(お菓子の国): …………。 梨花(お菓子の国): (この子、ほっといても大丈夫かしら?なんだか心配になってきたわ……) Part 03: 梨花(お菓子の国): 本当に全ての世界がお菓子でできているのね……毎日が楽しそうで、羨ましいわ。 クッキーマン: それがお菓子の国としての存在意義だからね。……でも、楽しいばかりじゃないんだ。 クッキーマン: 色々と悲しいことだって起きるし、最近は国境付近に怪物が現れるようになった。 クッキーマン: だからこうして、自衛のために剣で武装しているんだ! クッキーマン: まぁ、その辺で拾ったお菓子でできているからすぐに折れてしまうのがたまに傷だけどね。 梨花(お菓子の国): ……夢の中でも、怪物は現れるのですか。 クッキーマン: 夢の中……? 梨花(お菓子の国): ……クッキーマン。ボクはこのお菓子の国は……この世界は……。 梨花(お菓子の国): 夢の中だと、思うのです。 クッキーマン: そうかい。 梨花(お菓子の国): そうかい、って……それでいいのですか? クッキーマン: なにがだい? 梨花(お菓子の国): ここは、とても素敵な世界なのです。甘い物が、いろんな色が、楽しく溢れているのです。 梨花(お菓子の国): まるで夢みたいな……でも……。 梨花(お菓子の国): 夢というのは、現実に存在しないものなのです。あなたもきっと、存在しない。 クッキーマン: それは悪いことなのかい? 梨花(お菓子の国): えっ……? クッキーマン: 私はお……大きなクッキーマンに聞いたことがあるんだが。 クッキーマン: 夢とは、頭の中の情報を整理するために無意識下で見るものらしい。 クッキーマン: だからこれを夢だと呼ぶなら、つまり現実の君の頭の中は、たくさんの情報であふれかえっているんじゃないかな? 梨花(お菓子の国): それは……そうなのです。ありすぎて、わけがわからないくらいに。 クッキーマン: そうかそうか。それは大変だ。整理ができていない部屋で過ごすのは窮屈だろう。 クッキーマン: 整理整頓は大事なことだ。……だが、整理整頓という物質は存在しない。 クッキーマン: 当然だ、整理整頓とは概念だからね。 クッキーマン: だが、存在しない整理整頓という夢の果てには、整えられたお部屋という素敵な現実が待っている。 梨花(お菓子の国): だからこの世界が夢で、現実に存在しなくてもいいと?実在はしなくても、結果を得るために必要な概念だと思えと……そう言いたいのですか? クッキーマン: 解釈は君次第、自由だ。まぁ私は、整理整頓ができていない雑多な部屋もそれはそれで居心地が良くて好きだけどね! 梨花(お菓子の国): ……言っていることが矛盾しているのです。 クッキーマン: 甘くて塩っぱいお菓子は矛盾しているが、好きな人は大好きだろう? クッキーマン: それとも、君はお菓子は甘いか塩っぱいかのハッキリ別れた物しか存在してはいけない……そういうタイプかい? クッキーマン: うーん、なかなか過激だねっ! 梨花(お菓子の国): そんなことは……ないと思うのです。 梨花(お菓子の国): でもボクは、辛いものの方が好きなのですよ。 クッキーマン: そうかそうか。でも辛いものが好きなことと甘い物も好きなこと……その2つは両立するよね? 梨花(お菓子の国): みー……それはそうなのです。 梨花(お菓子の国): 甘い物は嫌いではありませんが……正直甘いばかりの世界だと辟易してしまうのです。 梨花(お菓子の国): クッキーマン。この世界に辛いものはあるのですか? クッキーマン: 概念は知っているが、私は見たことがないね。……むしろそれを探すのは、それこそ学者の本分というものじゃないかな? 梨花(お菓子の国): ……なるほど。 梨花(お菓子の国): だとしたら……探すのです。 梨花(お菓子の国): 夢が覚めるまで、この世界で辛いものを探すことにするのです。 梨花(お菓子の国): 存在しないかもしれませんが……ボクは行くのですよ。 クッキーマン: それは素晴らしい旅の目的だ!私も是非お供させていただきたい! 梨花(お菓子の国): ……クッキーマン。 クッキーマン: なんだい? 梨花(お菓子の国): ボクは……あなたと出会ったことがあるような気がするのです。 梨花(お菓子の国): でも……どこで出会ったか思い出せないのですよ。 クッキーマン: いやいや……もしかしたら、まだ出会っていないだけかもしれないよ? 梨花(お菓子の国): まだ……? クッキーマン: 未来で出会うのかもしれない、ということさ!この夢のようなお菓子の国ではなく、現実でね? クッキーマン: だから、この夢の国の冒険を終えて帰還した現実のその先の未来で……いつか私と会うかもしれない。 梨花(お菓子の国): ……ボクに、未来はあるのでしょうか? クッキーマン: 君は未来が欲しくないのかい? 梨花(お菓子の国): 欲しいのです。仲間と一緒の未来が……欲しいのです。 クッキーマン: 即答だね! 素晴らしい!何を欲しているのか、理解するのは大事なことだ。 クッキーマン: だとしたら、まずはこの世界での欲しい物を……一緒に辛いものを探そうじゃないか! クッキーマン: やっぱり旅には目的が必要だよ!旅をするための旅は、目的がないからつまらない! クッキーマン: この世界で目的を果たせたならば、夢の目覚めもきっとすっきりさっぱり爽快なはずさ! 梨花(お菓子の国): くすっ……いいわね、クッキーマン。 梨花(お菓子の国): だったら一緒に、この国を飽きるまで探検しましょう! クッキーマン: おーっ! クッキーマン: とりあえず、どこに行くべきかわからない私のために行き先を決めてくれ!北でも南でも、選んでくれたところへ行こう! 梨花(お菓子の国): 行き先を決めろって……さっきまで道に迷っているって言った私に、何をどうしろっていうのよ。 クッキーマン: ははは、それもそうだ!うっかりしていたよー! 梨花(お菓子の国): ……早くも不安になってきたわ。