「──終わったわね……」

『ネザード』の消えたあたりの虚空を見つめ、ミリィはぽつりとつぶやいた。

「……ああ……苦い勝利、ってやつだな……」

 疲れた声でつぶやいて、大きく息をつくケイン。

「……いや……そんなたいそーなもんでもないよーな気はするんだけど……」

「──それは違うぞ。ミリィ」

 彼女の方をふり向いて、静かな口調で言うケイン。

「……ど……どーしたの、ケイン、目がだけど……」

「いいかミリィ、これはな話なんだ。心して聞いてくれ」

「わ……わかったわ……」

 とまどいながらもうなずくミリィ。

 ケインは、深刻そのものの表情で、

「……スペースシャトルは高い……」

「……はあ……?」

 ケインの言わんとする意味がわからず、思わずまゆをひそめる彼女。

「つまり、だ……」

 視線を、ディスプレイの中の虚空に移して彼は言う。

「……今月、ひょっとしたら給料が出せんかもしれん……」

「…………苦い……苦い勝利だったわね……」

 ミリィは心の底からなみだした。

「……ところでキャナル……」

 ケインは彼女に向きなおり、

「話せよ。そろそろ。お前と『ナイトメア』、一体どういう関係があるか……」

 問われて視線をそらすキャナル。

 やがて、しばしの沈黙の後──

「話せば──全面対決しなければなりませんよ……『ナイトメア』と……」

「……う……」

 言われて口ごもるケイン。

 たしかに、これで二度、『ナイトメア』の遺失宇宙船ロスト・シツプと戦い、沈めた。となればむろん、ケインや『ソードブレイカー』の名が、『ナイトメア』のブラック・リストのかなりの位置にっているだろうことは想像にかたくない。

 とはいえ、銀河一の犯罪結社と『全面対決』などという言い方をされれば、さすがに、首を縦に振るのは抵抗がある。

 二人が会話を交わす間、ミリィは沈黙を守ったままだった。

「……どちらにしろ……いずれ、話すべき時は来ます……」

 かなしげな口調でつぶやくキャナル。

「……それはつまり……」

 ややあって、ケインはぽつり、とつぶやいた。

「いずれは『ナイトメア』と全面対決しなけりゃならなくなる……そういうことか……」

「…………」

 ケインの問いに、キャナルは結局、もくしたままで答えなかった──


 そして──ひとつの事件は終わった。

 とはいえ、解決した、などと言える状況ではなかったが。

『ソードブレイカー』がウィナラーン星域に帰って来た時、レイルのもたらした情報は、おせじにも、心晴れるものではなかった。

 キャナルからの通報を受けて、撃ち合いのあった五十二番街に到着した警察たちは、死体の山と、数人の、生き残った海賊パイレーツたちを捕まえた。

 捕まった海賊たちは、ボスだったアルザスと、ラグルド社のマリガン=ハウエルとの関係を白状した。マリガンを通じて航路や警備の情報をもらい、技術者をけんしてもらい、その見返りに、彼の口座にいくばくかの金をふり込んでいたらしい。

 しかし──

 この時すでに、マリガン=ハウエルは、車の事故で死亡していた。

 ったままで運転し、海へ突っ込んだ──ということになっている。

 海賊パイレーツたちとのこうしようは、すべてマリガンが行なっており、警察も、マリガンが会社そのものの命令で動いていた、という証拠はつかめず、やがてそうは、マリガンの個人的な犯行、という結果で打ち切られた。

 結局、ラグルド社そのものと海賊パイレーツたちとのつながりは不明のまま。

 事後処理などのごたごたが終わったあと、ケインたちがウィナラーンを離れる時、ラグルド社の新しい保安部長とかいう男は、営業スマイルを浮かべながら、依頼料のほかに、迷惑料という意味もふくめて、かなりの額のボーナスを口座に振り込むことを告げた。

 ──むろん遠まわしに、海賊パイレーツとラグルド社そのものとの関係についての口止め料の意味もある、というニュアンスをただよわせて。

 ……ケインはよほど、『そんな金が受け取れるか!』と、突き返してやろうかとも思ったが、そんなことをやっても、ラグルド社は痛くもかゆくもない──どころか、逆に相手をよろこばせるだけの結果になるだろう。

 星間警察U・Gは、海賊たちのアジトの捜索を行なったが、あきらかに人類外のものの手になるとおぼしき広大なドック以外に、遺失宇宙船ロスト・シツプの存在を示すようなものは発見できなかった。

 生き残った海賊パイレーツたちは、部品はマリガンの連れてきた一団が持ち去った、と証言したが、ラグルド社は、知らぬ存ぜぬですべてを押し通した。

 あるいはこの事件──全員が、ラグルド社という企業の手のひらの上でおどらされていただけだったのかもしれない。

「……結局……メリーナのかたき、とってあげられなかったわね……」

 衛星港をった『ソードブレイカー』のコックピットで、ミリィのらした小さなつぶやきに、応えるものは誰もいなかった……