ドアを開いた時、ケインの目に飛び込んで来たのはその男の姿だった。
瞬間──
ケインは
敵だ。と。
男は、静かなまなざしを彼に向け、静かな口調で問いかけた。
「──ケイン=ブルーリバーか」
素直に返事などしようものなら、その瞬間に殺される。
なぜかケインにはそれが
そして同時に男も動く!
二すじの白い光が、二人の間を行き、過ぎた。
男の放ったサイ・ブレードの光は、ケインの右肩を
男にかすりさえしなかった。
──なにもんだ!? こいつは!?
ケインの背を恐怖が
右手がこうでは、もはや勝負は見えている。
ケインはその時、はじめて気がついた。
男はサイ・ブレードの発振器を手にしているのみで、バンダナも、
「……誰だ!? てめえ!?」
ケインの問いかけを無視し、男の右手が動き──
「動かないで!」
ミリィの声は、ケインの後ろ──たった今、彼が飛び出してきたドアのあたりからした。
「やめろ!」
恐怖を背中に張りつかせたままケインは振り向く。
たしかに、ミリィの射撃の腕は悪くないようだ。しかし、たった今、ケインを撃った男の腕に比べれば──
瞬間、男は体の向きを変えた。
一瞬にして、サイ・ブレードの発振口を、ぴたり、とミリィの
男の動きが、そこで凍りついた。
その顔に、はじめて
「……ミレニアム……!?」
男の
そしてミリィもまた、動けないでいた。
男のかまえたサイ・ブレードの発振口が、ぴたり、と、自分の額にマークされているのが
しかしそれより──
目の前にいる男に、彼女はたしかに見覚えがあった。
だが、どこで見たのか、誰だったのか、それがどうしても思い出せない。
一瞬
──はじめに動いたのは男だった。
かまえていたサイ・ブレードを下ろし、ケインに向かって、
「海賊どものアジトは、ヴィメスの第六惑星にある。──来るがいい。ヴォルフィードとともに──」
言い残し、いともあっさりときびすを返し、近くのドアから、その奥にある、
……はう……
ケインは大きく息をついた。
ミリィに向かって、
「──知ってる
彼女は首を横に振り、
「──ううん。……けど……どこかで見たことがあるの……まちがいなく。
それがどこだったか……」
つぶやきながら、ミリィはあたりに視線を
その目が、ある一点で止まった。
「──メリーナ……さん……?」
彼女のつぶやきに、ケインもまた、はじかれたように視線を移す。
その先に、ひとりの女が倒れていた。
もはやこと切れているのは、確かめるまでもなくわかった。
「……助けられなかったな……また……」
ケインはぽつりとつぶやいた。
今になってようやく、パトカーのサイレンが、雨音に混じって聞こえてきた。
今。『ソードブレイカー』のコントロール・パネルに明りが
あのあと。レイルたちが来るのを待つこともなく、二人は工場を飛び出して、その足ですぐ、宇宙港へと向かった。
シャトルに乗って衛星港に着くと、すぐさま『ソードブレイカー』の発進準備に取りかかった。
宇宙港でシャトルを待っている間に、レイルには連絡を入れ、ざっと状況を説明してある。
むろん、海賊のアジトのある場所も。
そして今──衛星港での出港許可も下り、『ソードブレイカー』の発進準備は整った。
「──キャナル。通信回線を開いてくれ。全周波数でだ」
「何をする気です?」
問いかけるキャナルのほうをふり向きもせず、
「全周波数でぶち流してやるのさ。
「それは──やめといたほうがいいと思います」
「どうしてだ? 海賊どもをぶちのめしたがっているのは俺たちだけじゃない」
「
もしもこの近くに、
それにたぶん──あそこには『奴』がいます」
「──奴──?」
はじめてケインは、キャナルをふり返る。
「ええ。言ったでしょう。『ナイトメア』が来ている。と。
しばらく前に、どうやら動き出したようです。この星系から外に向かって。
根拠はありませんが、おそらく──」
「奴もまた、海賊たちのアジトへ向かってる、と?」
キャナルはこっくりうなずいた。
「もし、その通りなら、怒りに燃えて、いろんなひとが集まったとしても、わたしたちと『ナイトメア』の
言われてみればたしかに、それはまずい。
しかし、ということは……
「さっきの男……そうすると、やっぱりあれも『ナイトメア』か……?」
ケインのつぶやきにキャナルは眉をひそめ、
「あの男……? どういうことです?」
「地上で、やっぱり海賊たちにケンカ売ってた奴がいてな。俺と同じに、サイ・ブレードをバンダナも
「サイ・ブレードをブースターなしで!?」
「ああ。世の中にゃあ、根性のある奴もいるもんだ」
「根性だけでどうにかなる問題じゃありませんっ! サイ・ブレードをバンダナもブースターもなしで具現させるなんてこと、
「……まあ……
「ケインの場合は、いつもわたしの近くにいるから、その影響で、精神力がケタ違いに増大してるんですよ。だからこそ、そんなことができるんであって、根性とか修練とかの問題じゃありません」
「……おい……ちょっと待てよ……おれたちが会ったあの男、あっさりそれをやっちまったんだぜ! とすれば奴は……」
キャナルは小さくうなずいて、
「それこそ
「……単にサイ・ブレードが新型なだけだったりして……」
やはりチョコレートを口に運びつつ、ぼそり、とつぶやくミリィのことばに、一瞬絶句するキャナルとケイン。
「……いや……まあ……たしかにそういう可能性がないとは限りませんけど……」
「……盛り下げるなよ……横から……」
ケインは、こほんっ、と小さくせき払いをして、
「ともかく──行くぞ! ヴィメスへ!」
銀河の辺境──航路からも外れた場所に、八つの惑星を持つ
ヴィメス星系。
さしたる資源も、
かつては公式の記録通り、ただの無人惑星でしかなかったこの
しばらく前。ラグルド社は、かねての打ち合わせ通り、貨物船に突然の行き先変更を命令し、この空域におびき寄せた。
そのせっかくの貨物船を、まちがってこの
船体が、地表に
そこに眠っていたのは、見たことのない
それ以来、ここが
広大なドックを改装し、今までに持っていた
一方、ラグルド社から専門家をよこしてもらい、未知の
一隻残った
『
ラグルド社が護衛──というより、保険の二倍取りを狙って、
首領のアルザス自らは、もっぱら惑星レグンに
……ことごとく、というのは言いすぎかもしれない。たった一度だけ、彼らは失敗を犯している。
以前から使っている海賊船の一隻を、貨物船に見せかけて、ごていねいにもSOSまで出して獲物に近づいたのだが──
この時のみは、貨物船の護衛についていた、トラブル・コントラクターの
……とは言っても、それで別に、海賊たちにたいした被害があったわけでもない。すべては万事順調と言えた。
──そう。今日この日までは。
その連絡が入ったのは、標準時間で、昼をまわった頃のことだった。
アジトの留守を
首領のアルザスが殺された、というのだ。
なんでも今日、何かの取り引きを装って、ある場所に呼び出され、そこで『敵』の攻撃を受けた。
たった一人の相手に、連れて行った部下たちのほとんども
通報したのは、アルザスといっしょに脱出すべく、車に乗り込んだ部下だった。車が工場の
どちらが『影』でどちらが本物かはよくわからなかったが、アルザスが死んだ、ということだけは間違いない。
そして彼は、かなり近づいて来たパトカーのサイレン音に、その場をあとにした。
むろん、その部下が、そこまで
ガレーとしては、情報の詳しい確認をしたいところだが、アジトから通信を送れば、
──アルザスが殺された──
その話は、ガレーが
やがて、第六惑星の近くに姿を現わしたのは、しかし、
ケインからの通報を受けたレイルは、ウィナラーン星域でパトロール中の
「どういうことだ!? これは!?」
アジトの管制室で、ディスプレイに映し出されたダーク・ブルーの船体に、思わず声を上げるガレー。
アジトの位置が、なぜ
すなわち、このままじっとしていても、ただ捕まるのを待つだけだということ。
「どうします!? ガレーさん!?」
「ヤバいですよ!」
「えぇいっ! おたおたするなっ!」
うろたえる部下たちに
「どっちにしろ、このアジトがバレちまった以上、こそこそしていてもしかたねえ! こうなったら全員出動だ!
ヤケになったか、あるいはもともとこういう性格だったのか、無責任に部下たちをあおり立て、自らも『デス・クラウド』に乗り込んだ。
全長三五〇Mの流線形の船体は、全体が有機的なフォルムの黒い装甲で
装甲の材質はやはり不明だったが、常識外れの強度がある。遠距離からのなまくら弾など、バリアなしでもはじいてしまう。
本来、この『デス・クラウド』は、アルザスの許可なしには動かすな、ということになっていたが、アルザスの生死すら判然としない今、むろん、そんなことを言っている場合ではない。
「行けぇっ!
カムフラージュしたゲートをいきなり全開にして、『デス・クラウド』を含む
むろんこの小さな
「ガレーさん! パトロールからの通信が入ってますぜ!」
「は! どうせ『
「
ガレーの命令──というか、あおり立てに
たとえ『デス・クラウド』がいなくても、これでまともに戦って、
あわてて漂う岩の陰へと後退しつつ、電磁バリアを展開するパトロール船。
しかし、『デス・クラウド』の放ったビーム砲の一撃が、片方のパトロール船を、展開した電磁バリアごと
残る一方は、なんとか
「は! 見なよ!
ガレーの上げた声が終わるか終わらぬかのそのうちに──
「また出やがった! ガレーさん!
レーダーを
「のぞむところだ! 来たら
こちらもアバウトな命令を下すガレー。
だがしかし、さすがに
「ガレーさん! こっちの
「ほっとけ!」
ディスプレイに
「逃げてえ奴は逃げりゃあいいんだ! そんな臆病もんには用はねえ!」
──それに──この『デス・クラウド』さえありゃあいい。ほかの船なんざぁ単なる足手まといだ──
さすがにことばの後半は飲み込んだ。
──考えてみりゃあ、アルザスさんが死んだってこたぁ、このオレがボス、この
そうと考えただけで、ガレーの顔は自然にほころぶ。
「どうせこのアジトたぁおさらばするっきゃないんだ! となりゃあかまうこたぁねえ! ガンガン行け! ガンガン!」
戦線から離脱した、
船長には、ガレーがなぜ、追うなり攻撃するなりしてこないのかはわからなかったが、ガレーのやりかたについて行けないことは事実だった。
「……ちっ……ガレーの奴め……てめえだけいい
つき合ってられっかよ……」
小さくこぼし、
あとのことは考えてなかったが、まあ、何とかなるだろう。
やがて、宇宙船は岩塊の漂う中に入り込み──
「……なんだ……?」
メイン・ディスプレイを
──岩──なのだろうか? それにしては形が……
「近くに、ほかの
「いません。
船長の問いに、即座に答えるナビゲーター。
……考えすぎか……
思って、画面の中のそれに目を移し──
ゆるりっ、とそれが動いた。
「──エネルギー反応出現!……なんて数値だ!?」
同時にナビゲーターの声が上がる。
画面の中に映るそれは、まぎれもなく、こちらを見ていた。
Y字型の
そして──
それが敵だと、彼らが気づくより早く。
『ネザード』の解き放ったニードル・レーザーは、その海賊船を、一瞬にして
これで、数の上では六対四。戦力的には、
いくら背後に国家レベルの権力がついていようとも、いかに
もともと火力が違う上、
パトロール船も、岩塊を盾にしながら、
しかし、その見たこともない型の一隻は、何発かはまちがいなく、砲撃を受けているはずなのにもかかわらず、ダメージを受けた様子が全くない。