男はあわてて、ケインからミリィへと視線を移し、

「──ばかなっ!? 舌かみ切りやがった!?

 あわてて彼女をほうり出し、あらためてじゆうこうをケインに向ける。

 だがしかし──

 んっ!

 男の銃口が定まるより早く。ケインのサイ・ブレードが放った白光が、髭面の額をち抜いていた。

 引き金を引くこともなく、男はその場にたおす。

 ケインはそのまま動かない。

 彼の視線は、髭面ではなく、ゆかに倒れたミリィの体にそそがれていた。

「……ミ……ミリィ……」

「ほーい♪」

「…………………………………………」

 あっさり返ってきた元気な返事に、思わずこうちよくするケイン。

 ミリィは、ひょこんっ、とその場に立ち上がり、服のよごれをばたばたはたきながら、

「……やー、思ったより汚れちゃったわねー……ほこりが積もってるとは思ってたけど、まさか油まで流れてるなんて……洗って落ちるかな……?」

「……ミ……ミリィ……?」

 硬直したまま問うケイン。

「なに?」

「……舌は……だいじょーぶなのか……?」

「だいじょうぶも何も、舌んだりしてないわよ」

「…………けど…………その血…………」

「チョコレート」

 あっさり言って、ポケットから取り出したハンカチで、口のはしのチョコレートをぬぐい取る。

 たしかに、もっと明るければ見分けもついたのだろうが、このうすぐらさとあのじようきようでは、ふつうチョコレートだなどとは思わない。

「……お前なぁ……」

 脱力感に、思わずその場にへたり込みそうになるのをえながら、

「……悪い手だとは言わねーけど……どれだけ心配……」

 がうん!

 どこからかひびいたじゆうせいが、ケインのことばを中断した。

 顔を見合わせ、うなずく二人。

「話はあとだ! 行くぞっ!」


 何が一体どうなっているのか、メリーナにはよくわからなかった。

 ──悪夢ナイトメア──

 そのことばを後ろに聞くと同時に、彼女は、あの男にたおされた。

 むろん、彼女の安全のためなどではなく、単にじやだっただけなのだろうが。

 そのあとしばし、男と、海賊パイレーツたちとの、けたたましい銃撃戦が続き──

 やがて戦いは別の場所へと移ってゆき、ふと気がつくと、そこにいるのは、メリーナと、海賊パイレーツたちの死体だけになっていた。

 せき的にも、蹴り倒された時のものらしきすり傷以外には、彼女は、傷らしい傷も負ってはいなかった。

 しかしこうなれば、状況がどうあれ、彼女にできることはひとつ──、逃げるのみ。

 両手は後ろでしばられたままだが、それでもなんとか立ち上がる。

 おそらくこれこそが、男の言っていた『チャンス』だろう。この機に、なんとか逃げることができれば──

 彼女はあたりをぐるりと見渡す。

 ドアは四つ。

 メリーナは、うちひとつに向かってかけ寄った。

 ばむっ!

 はげしい音を立て、彼女の目の前でドアが開く。

 その向こうに立っていたのは、追いつめられたけもののような目をした赤毛の男。

 アルザス=コーンウェル。

 アルザスの左手が、メリーナの腕をつかまえた。

 そのまま彼女の後ろにまわり込み、背中から銃をつきつける。

「来るな!」

 アルザスは、自分がやって来たドアのむこうにひろがるやみに向かってさけぶ。

「来たら……この女を殺すぞぉぉぉっ!」

 ──それはしくも、ケインやミリィがったのと、ほとんど同じじようきようだった。

 追いつめられた悪役など、最後にやることはみな同じである。

 しかし、ケインたちの場合とは、決定的にちがうことがあった。

 すなわち──追う側に立つ者が、ケインではなく──

 んっ!

 わずかなためらいさえ見せず、闇を白光が切りいた。

 男には、アルザスを一撃で殺すつもりはなかったのだろう。サイ・ブレードの光は、アルザスの右の耳をいた。

 しかしその一撃は、アルザスに、はずみで引き金を引かせるには十分だった。


 ごぅん!


 はげしいしようげきごうおんが、自分の体の中にもぐり込んだのが、メリーナにはわかった。

 アルザスは彼女から手をはなし、メリーナは、ことり、とゆかたおす。

 熱いかたまりが、のどの奥から、次から次へとわいて出る。

 今さらのように、メリーナはさとった。

 自分が、まちがったドアを選んだことを。

「……ひ……ひぃぃぃぃぃっ! 来るなぁっ!」

 叫びつつ、ふたたび銃をかまえなおそうとするアルザスの両肩とりようももに、白い光が突き刺さった。

「っあっ!?

 両手両足の動きをうばわれ、アルザスは床に倒れる。

 そして、開いたドアのその向こう──やみの中から、ひとりの男が姿を現わす。

「言え」

 男はアルザスのそばで立ち止まり、ぼそり、とそう言った。

 サイ・ブレードのはつしん口を、アルザスの頭に向けたまま。

「──わ、わかった! 言う! 言うから命だけは助けてくれ! なっ! 約束だぜ!」

 男はちんもくしたままである。アルザスは、それを肯定と受けとって、

「ヴィメスの第六惑星だ! となりの無人星系だよ! あそこがアジトになってるんだ!」

 言ったそのしゆんかん──

 びぅっ!

 サイ・ブレードの光が、アルザスの額を射ち抜いた。

 男は無言のまま、アルザスの死体を引きずると、倒れたメリーナの目の前へとほうり出す。

「見えるか。言った通り、アルザス=コーンウェルの死体だ」

 事務的とすら言える、何のかんがいもこもらぬ調ちようで男は言った。

 メリーナのくちびるがかすかに動き──

 そして、動かなくなった。

 さいに彼女が何を言おうとしていたのか──

 男にとっては、それこそどうでもいいことだった。

「──聞こえたか? 『ネザード』」

 男は言った。ドアの向こうの闇に向かって。

『聞こえた。たしかに』

 声はこたえた。男の頭の中だけに。

 むろん、声のぬしがその闇の中にいるわけではない。闇はあくまでばいかいである。

「なら、行ってほろびをくがいい。私は適当にもどる」

『いいだろう』

 ひとことを残して声はとぎれた。

 男はその場できびすを返し──

 だんっ!

 首を立て、ドアのひとつが開け放たれた。

 現われたのは──ケイン。