一条ひらめいた白光は、車のフロント・グラスと、運転手の額とに、小さなあな穿うがっていた。

 運転手の体がハンドルにたおれ込み、とたんに車はこうをはじめる。

「くそっ!」

 ひと声さけんでドアを開け、車から外に飛び出すアルザス。

 雨とどろの中に彼の体が転がった。

 車はそのまま大きくカーブを描き、工場のかべっ込み、動かなくなる。

 死んだか、あるいは気を失ったか、乗っているはずのもうひとりの部下も、降りてくる様子はない。

 そして──雨の向こうから、アルザスに向かって近づく黒いかげひとつ。

「──もう一度聞く」

 影は言う。

「例の宇宙船ふねはどこにある」

「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 情けない悲鳴を上げながら、迷わずアルザスはげだした。


「──止んだな……じゆうせいが……」

 うすぐらい通路を行きながら、ケインはぽつりとつぶやいた。

「……何があったんだろ……?」

 チョコレートの一かけを、口の中にほうり込みつつ、不安な声でミリィは言う。

 ついて来るんじゃなかった、などとは思うがもうおそい。

 五十二番街にある、さびれた工場の中。

 銃声は、たしかにこの中から聞こえてきた。

 少なく見ても、数年やそこらは使われた様子のない工場だが、門や、あちこちのドアも開いており、乗る者もない車が一台、のきさきに停まっているのを見つけた。

 むろん、銃声が聞こえたからといって、すなわちメリーナと関係しているとは限らない。そうでなくてもこのあたりは、日ごろからぶつそうな場所だということもあるし。

 かといって、見すごすわけにもいかず、近くの、開いていたドアから、二人は中へと入り込んだ。

 左右にならぶ、もはや動くことのない機械たち。

 小さな窓から入り込むかすかな明り。

「……ねーケイン、一応、警察とかにれんらくしといた方がいいんじゃないの?」

 なんとなく、声をひそめて言うミリィ。

れんらくはもう入ってるはずだ」

 車から、ここへと走る道すがら、ケインはすでに、サイ・ブレードのユニット一式をそうちやくしている。

「いつの間に連絡したの?」

「こいつでだ」

 答えてケインは、左腕にはめた、腕時計兼通信機をさし示す。

「……けどそれって、『ソードブレイカー』との直接通話用じゃあ……?」

「ああ。だからキャナルに連絡を入れて、通報してくれるようにたのんどいた」

「……なるほど……」

 言いかけて、ミリィはぴたり、と足を止めてちんもくする。

「──どうした?」

「今……なんか聞こえたような気が……」

 ミリィのことばに、ケインも足を止め、耳をすます。

 しかし、二人の耳にとどくのは、屋根を打つ雨の音のみ。

「なんにも──」

 がぐんっ!

 何かのしようとつする音は、遠くから、しかしはっきり二人の耳に届いた。

 ──アルザスが飛び降りた車が、工場のどこかにっ込んだのはこの時だった。

「なんだ!?

 音のはんきようと雨のせいで、どちらからの音かはわからなかったが、音が聞こえたそのしゆんかん、ケインはなかば反射的にかけ出した。

 とたん──


 がぅん!


 じゆうせいは、こんどは二人のま近で起こった。

 ケインの頭のすぐ左側にある、何かの機械に一瞬火花の光がひらめく。

「──っなっ!?

 とっさに身を低くして、あたりに視線をめぐらせるケイン。

 ならんだ機械のその向こうに、うごめくいくつかのひとかげ

 じようきようはさっぱりわからないが、『相手』がケインたちを敵とみなしていることだけは確かなようだ。

「ちょっと待て! 何があったか知らんが、俺たちはあやしいもんじゃない!」

 むだとは思いながらも、一応、全然説得力のない説得を試みるケイン。

「うそつけ! そんなかっこうでのこのここんな所に来やがって! 何が怪しくねえ、だ! どうせお前もあの男の仲間なんだろうがっ!?

「……あの……?」

 思わずまゆをひそめるケイン。

「ひょっとして……まるっきし別件なんじゃない……?」

 小声でつぶやくミリィ。

「……かもな……ミリィ、お前はここでじっとしてろ」

 言い残し、ケインは彼女の答えも待たずにかけ出した。

 がうんっ! がごぅんっ!

 ケインをねらい、たて続けに起こった銃声が、火花とごうおんき散らす。

 ──二人──いや、三人か!?

 機械をたてにしながら場所を移動する。

「俺はただ、銃声が聞こえたから来ただけだ! 何が起こってる!?

 念のため、もう一度だけ声をかけてみる。

 こたえたのは、数発の銃弾だった。

「やかましい! ヘタクソな噓つきやがって! それにもし本当だとしても、てめえが誰だろうが知るもんか! こんな所にのこのこやって来やがったのが悪いんだ!」

 ことばは銃弾のあとから来た。

 事情のほどはやっぱりよくわからないが、少なくとも、話し合いのな相手だということと、少々乱暴にあつかっても、世間様からは文句の出ないたぐいの相手らしい、ということだけはわかった。

 ──となれば──

 ケインはふたたびゆかった。

 銃弾の飛び来る中をけて、目の前にある階段を駆け上る。

 階段、といっても、おそらく作業用か点検用だろう。鉄板を組んだだけのそれは、てんじよう近くを走るダクトや給水パイプに並んだ、やはり鉄板でできた作業用通路に続いている。

「野郎!」

がすかっ!」

 ケインのあとを追うように、機械のかげから、三人ほどの、銃を持った男たちが飛び出し、下からケインを狙いつ。

 しかしケインはあっさり身をかわし、サイ・ブレードのやいばを生み出す。

 ぎぅんっ! ぎぎぅんっ!

 右に、左に、サイ・ブレードをひらめかせ、断続的に音をひびかせつつ、作業用通路の上をかけけるケイン。

 その通路の下を追って走りつつ、けんじゆうちまくる男たち。火花が何度かケインの足下に閃きはしたものの、銃弾はケインをかすりもしない。

 そして──

「ゆくぞっ! 作業用通路アタァァァック!」

 声と同時に閃く白光。

 たった今までケインのけ抜けた作業用通路は、サイ・ブレードのとどめのいちげきを受け、支えるものをすべて失い、下の通路へと落下する!

 ──追ってきた男たちのま上へと。

『うづわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?


 げごろん!


 重なる悲鳴と、それにまさる金属音とがひびいた。

 銃を手にした男たちは、三人とも、通路の下じきになり、もはや完全にノビている。

「──よっ、と」

 ひと声かけて、ごていねいにもその上に飛び降りるケイン。

 うめき声が聞こえたところからすると、まだ下の連中は生きているようである。

「……たく……とことんるのが好きねぇ……」

 つぶやいてミリィは立ち上がり、数歩、ケインの方に歩みを進め──

 その足がぴたりと止まった。

「──ミリィ?」

 ゆっくりと、彼女は両手を上げた。

 彼女のすぐ横にある、機械のかげからつき出された銃口は、ミリィの胸のあたりに、ぴたり、とねらいをつけていた。

「──動くなよ──男の方もだぜ」

 言いながら、機械の陰から姿を現わしたのは、顔の半ばをひげおおったひとりの男。

「──てめえは!?

 ケインは思わず声を上げていた。

 ひげづらの顔には見覚えがあった。

 ケインたちのいたレストランをばくだんっ飛ばした、あの片割れの男である。

 髭面は、ミリィに銃をつきつけたまま、彼女の後ろにまわり込み、左手で彼女をかかえ込む。

「──ほぉう……確かてめえ、星間警察U・Gの犬野郎といっしょにいたやつだな……どうやらあの男と無関係だ、ってぇのは本当らしいが……

 どっちにしたって、オレたちの敵だってことにゃあ変わりねえ。

 ──武器を捨てな」

「……くっ……」

 思わず歯がみするケイン。

 ミリィもまた、動けないままでいた。

 スキを見て、男を麻痺銃パラライズ・ガンつこと自体は、そうむずかしいことではない。しかしその場合、男の指が、はずみで引き金を引く可能性は少なくない。

 もしそうなれば、この至近きよである。よほど運がよくないかぎり、無傷というわけにはいかないだろう。

 かといって、ケインが素直に武器を捨てれば、二人とも殺されるのは目に見えている。

 しかし、それがわかっていても、ケインはおそらく武器を手放すだろう。

 と、なれば残る方法は──

「捨てちゃだめ。ケイン」

 ミリィはきっぱりと言った。ことばのうちに、ある決心の色をめ。

「捨てたら、二人とも殺されるだけよ」

「やかましい! だまってろ!」

 後ろから、銃で彼女の背中をこづく髭面。

 しかしミリィはかまわずに、

「ケイン──絶対勝つのよ……あたしは足手まといにはなんないから……」

 言ってかなしいほほみをかべる。

「……ミリィ……?」

 彼女は、意を決したように目を閉じて──そのほおに一瞬、力がこもる。

「──ぐっ!」

 小さなうめき声と同時に、ミリィの口のはしから一すじ、つぅっ、と、赤黒いものが流れて落ちる。

「ミリィ!」

 きようがくの声を上げるケイン。

 ひげづらの腕の中で、ミリィの全身から力がけた。