「……誰が座っていいと言った? ケイン」

「……てめー……」

「……あのあの、えっと……」

 険悪なふんただよいかけたふたりに、あわててミリィは口をはさみ、

「……そうだ、レイルさん……」

「レイル、と呼んでください」

 言ってかみをかき上げる。

 ミリィのとなりで、ロコツに顔をひきつらせるケイン。

「……じゃあレイル、もう、あの時のきずはだいじょうぶなの?」

 ばくだんはんにんを追った時、彼は右肩に傷を負っていた。

「ええ。ご心配には及びません。弾丸はかんつうしていましたし、骨にも異常はありません。さすがにまだ、力を入れると痛みますけどね」

「……そ……そぉ……

 ──で、あの時つかまえた連中だけど、あいつら、結局どうなったの?」

 彼女の問いに、レイルは顔をくもらせて、

「──連中ですか……まあもちろん、私に対するしようがいざい、というのははっきりしているんですけど……

 連中、ただ、私たちをきようかつして金を取るつもりだった、と言い張ってましてね……」

「やっぱりな」

 あっさりと言うケインに、レイルはいつしゆん、むっとした表情をかべるが、なおも無視してことばを続ける。

「金をたかれる相手はいないかとうろついている時に、口笛みたいな音が聞こえて、そっちへ言ってみたら、私たちがいたんでっかかった、なんて言ってましてね。

 ……まあ、うそは見え見えなんですが、こちらとしても、連中と爆破犯人、その爆破犯人と海賊とを結びつけるしようがあるわけではありませんからね……」

「……うーん……そっかぁ……」

 ミリィは小さくうなると、どこからともなく取り出したチョコレートを一かけ、口にほうり込み、

「──で、海賊たちのそうはどうなってんの?……報告は行ってると思うけど、あたしたちもおそわれたのよ」

「ええ……お聞きしていますけど……」

 レイルは歯ぎれの悪い調ちようで、

「ただ……捜査の方は、あまり進展していない、というのが実情ですね……特に、かいぞくせんを相手にしての捜査はまるっきりです……

 なにしろ、海賊船を相手にする以前に、予算と宇宙を相手にしなくちゃなりませんからね。こちらは」

「予算と宇宙?」

 意味がよくわからず、問い返すミリィ。

「ええ。宇宙船ふねは、決して性能は悪いわけではありませんが、それでも、常時さいしんえいそうそろえる、などということは予算上不可能です。対して宇宙海賊たちは、りやくだつした金を使って、いくらでも宇宙船ふねをチューン・アップできるわけです。

 つまり、もしも海賊たちにパトロールの船が出くわしたとしても、り切ってげられるか、逆にこちらがしずめられるかする可能性のほうが多い、というわけです。

 ──まあ、連中も、星間警察うちの宇宙船など沈めたら、一体どういうことになるか、くらいはわかるでしょうけどね……」

 もしそんなまねをすれば、星間警察ユニバーサル・ガーデイアンとの全面戦争にとつにゆうする。そうなれば宇宙軍ユニバーサル・フオースの動員権を持つ星間警察U・Gに対し、海賊たちに勝ち目があるわけはない。

 とはいえ人間、追いつめられれば何をやりだすか、わかったものではないのだが。

「それと、問題は宇宙の広さ、という奴です。

 現在、この星域にけんされて来ている、私たちの船は──まあ、そんなに数が多いわけでもありません。たとえ今の十倍の数のパトロール船がまわされてきたとしても、この星域全体をカバーすることは不可能です。

 どこかに海賊が出た、という通報を受けても、たまたまパトロール船が近くにでもいればともかくとして、そうでなければ、現場にたどり着くまで、数時間かかることなんてざらですからね」

「……うーん……」

 ミリィは、むずかしい顔で腕を組み、

「たとえば──貨物船カーゴ・シツプ全部に、この星域から出て相転移航法フエイズ・ドライブするまでだけ、護衛につく、なんてことはできないの?」

「……なんとかできないことはないでしょうね。貨物船カーゴ・シツプ全部にだけなら。

 ただし、こちらの船はほとんど二十四時間、休みなしで働くことになるでしょうし、旅客船の護衛も全くできなくなります」

「……あ……そっか……旅客船があったんだ……」

 ミリィはぽつりとつぶやいた。今までおそわれているのがもっぱら貨物船カーゴ・シツプだったせいで、つい失念していたが、かいぞくたちにとっては、旅客船のほうがエモノとしてはおいしいだろう。

 貨物船カーゴ・シツプを襲って手に入るのは、物資ばかりと言っても過言ではないが、旅客船を襲えば、現金と人質とが手に入る。

「……我々は今、もっぱら、旅客船の警護につとめていましてね……いくら海賊たちが、おもに貨物船カーゴ・シツプねらうからといっても、だからといって旅客船のほうをおざなりにするわけにはいきませんからね……」

「……うーん……

 それじゃ、さ、レイルのアプローチしてる、『このにいるはずの海賊たち』って方はどうなってんの?」

「──まず、海賊たちのボスとおぼしき人間ですが……」

 言いながらレイルは、書類の中から数枚の写真を取り出した。

 おそらくかくりだろう。さまざまな角度から撮られた写真のいずれにも、ひとりの男が写っていた。

 としのころなら三十前後か。赤毛でせいかんおもざし。ラフなジャケットに身を包んだ姿は、どう見たところでかたぎには見えない。

「アルザス=コーンウェル。……本名かどうかはわかりませんけどね。

 最近、このにやって来て、それとほとんど同じ時期に、かいぞくたちが出はじめています。は、どこかの組織の幹部か何かだったんじゃないか、なんてうわさもありますけど、しんのほどははっきりしません。

 チンピラみたいな格好はしていますけど、こいつがどうやら海賊たちのボスらしい、というのは、地元じゃあ子供でも知ってるようです。

 ──何度か、地元の組織ともめごとも起こしてますしね」

「地元の組織?」

「──ああ」

 思わず問うケインに、めずらしく答えるレイル。

「小さな組織でな。海賊を連れてきたアルザスに、あっさりつぶされちまった。

 ただ問題は──その組織が、『ナイトメア』のいだった、ってことだ」

『ナイトメア!?

 ケインとミリィの声がハモった。

「ああ。『ナイトメア』にケンカ売るなど、正気とは思えんがな。しばらく前──この星域あたりで、宇宙せんかんざんがいがいくつか見つかった。おそらく、海賊どもと『ナイトメア』が一戦やらかしたんだろうぜ」

「……けど、『ナイトメア』の連中、どうやって海賊たち見つけたのかしら……?」

「……さあ……海賊たちの中にスパイでも送りこんでいたんじゃありませんか」

 適当なことを言うレイル。

 彼は知らないが、事実はその逆だった。

 海賊たちに対するプレッシャーとして、『ナイトメア』が送り込んだ宇宙船ふねを、海賊たちが発見し、むかったのである。

 遺失宇宙船ロスト・シツプという切り札を手に入れたことで、海賊たちの自信とだいたんさはだいしていた。

 そう。これで『ナイトメア』とも渡りあえる、などというかいを、ボスのアルザスに抱かせるほどに。

「──話をもどしますが、そのアルザスが、例の五十二番街にいます。──ただ、アルザスが海賊たちのボスだというしようもない以上、何の手出しもできない、というのは実情ですけどね。

 そうでなくともあのあたりは、地元の警官でも寄りつきたがらないような場所ですし」

「……相手がシッポを出すまで待つしかない……か……」

 ぽつりとケインがつぶやいた。

 たしかに証拠がない以上、警察としては手出しはできない。

「……ほんとに何もつかんでねーのか?」

 レイルに向かって問うケイン。

「それにしちゃあ、いきなりばくだんで吹っ飛ばされそうになったりしてるが……」

「ああ……あの時は……」

 レイルは苦笑をかべて、

「アルザスのいる場所はわかってるんでな。ゆさぶりをかけるつもりで、直接会ってみたんだが……それで、いきなりあれだ。よっぽど気にさわったと見えるな」

「なるほどな……」

 ケインはうなずき、ふと、あることを思いつき、

「──ところでレイル、海賊たちにやられた貨物船カーゴ・シツプの乗組員に、『アソート』って名前のやつはいなかったか?」

「……アソート……? なんでまた?」

「いや……ちょっとな……」

 この時、ケインの頭の中には、きのうさかで出会った、メリーナのことがあったのは言うまでもない。

 ──人殺しの会社──

 むろん単なるさかうらみ、という可能性は高いのだが、ケインにはなぜか、彼女の言ったそのことばが、どうも気になってしかたなかった。

「そいつの死にかたに、何かしんな点とかないか、ちょいと調べてほしいんだが……」

「……しかしなぁ……」

「あたしも知りたい

まかせてください」

 レイルは、テーブルの上に散らばるファイルの一冊をぱらぱらとめくり、

「……これかな? アソート=イングレス……二十五歳、男。

 ラグルド社、宇宙貨物部門の航法士ナビゲーター

 ふた月前、海賊たちにやられた、ラグルド社の宇宙貨物船、『駆け足キツネギヤロツプ・フオツクス』のだった……

 ──けどミリィさん、海賊に船ごとしずめられたのに、死に方に不審な点も何もありませんよ」

「…………」

 無言で顔を見合わせるケインとミリィ。

 たしかに、それはそうである。

 だがしかし、どういうわけか、ぜんとして二人の胸には、メリーナのことばが引っかかっていた──