「なぜだ!?

 グラタンざらを目の前にし、ケインはぼーぜんとつぶやいた。

 ラグルド社の貨物船『真夏のウサギサマー・ラビツト』の護衛について、レグンの衛星港をった、その日の夜のことである。

 ──むろん、「夜」というのはこの場合、あくまで時間の上での話だが。

 この日の夕食は、ミリィの手づくりグラタンだった。

 スプーンにひとすくい口にして、ケインは世の中の不条理をしみじみ感じていた。

「作っててフライパンにあながあくよーなグラタンが、なんでこんなにうまいんだ!?

 そう。

 たしかにミリィの手づくり料理は絶品だった。

 圧力ナベをばくさせてつくったピザも、計量カップをようかいさせてつくったハンバーグステーキも、そして今日のグラタンも、みのレストランではちできないほどの味に仕上がっていた。

 問題は、彼女が何かをつくるそのたび、調理器具が何かしらかいされてゆくこと。

「ありがと ほめてくれて」

 自らもグラタンにスプーンを運びつつ、にこにこ笑顔で言うミリィ。

「……いや……別にほめたつもりはないんだが……」

「またまた。テレなくてもいいんだってば

「………………」

 何を言ってもさとってか、とりあえず、食べるのに専念するケイン。

「いただきまーす♪」

 言ってミリィもスプーンを手にし──

『ケイン! ミリィ! コックピットに来て!』

 キャナルの声が、どこからともなく部屋にひびいたのはその時だった。

「えぇぇぇぇぇぇ?」

 グラタンをながめたそのままで、ロコツに不満の声を上げるミリィ。

「どうした!?

『正体不明の宇宙船が一せき、近づいてきます。ひょっとすると……』

海賊パイレーツ!?

 ケインは言って立ち上がり、コックピットへと向かう。

「ち……ちょっと……!」

 しかたなくミリィもそのあとを追う。

 マントをなびかせ、コックピットのドアをくぐるケイン。

 むろん、あの破れたマントではなく、新しくおろした別のやつである。

 地上でのさわぎで破れたあれは、結局再起不可能で、ゴミ箱行きとなり果てた。

 これで、ケインのクローゼットの中に残ったマントはあと十八着。

「相手の様子は!?

 操縦席パイロツト・シートに身をしずめて問うケインに答えるキャナル。

「横手から接近中よ。このまま行けば、航路が交差します。

 まだ、これといったはんのうは見せてないわ。ただ──あいさつを送ってみたけど、相手からは何の返事もありません」

「……ふぅ……ん……」

 うなって彼は腕を組む。

 ふつう、知らない宇宙船ふね同士が宇宙で出会った場合、敵意のないことを示すため、『航海の無事をいのる』などといったたぐいの、かんたんなあいさつのやりとりをする。

 むろん、あいさつを返してこなかったからといって、すなわち相手が敵だと決まったわけではない。通信システムのトラブルだという可能性もある。

 とはいえ、今、『ソードブレイカー』と『サマー・ラビット』のいるのは、海賊さわぎまっただ中のウィナラーン星域。あやしいと言えば、この上なく怪しいことは事実だった。

 これが、相転移航法フエイズ・ドライブのできる場所なら、たとえ相手が海賊パイレーツだったとしても、それでげることもできようが、貨物船の、おそい船足のせいで、まだ相転移航法フエイズ・ドライブができるような場所にもたどり着いてはいない。

「敵なの?」

 おくれて入ってきたミリィが、砲手席ガンナー・シートにつきながらたずねる。

 ケインはちらりとふり返り、

「まだわからん──ってお前! なんでこんなとこまでグラタン持ってくるんだっ!?

「なんで……って、やっぱりグラタンはあついのが一番おいしーのよ」

「……いや……俺の言いたいのはそーゆーんじゃなくて……」

「だいじょーぶ。心配しないで。

 あれがもし敵だとしても──戦いがはじまるまでに、ちゃんとグラタン食べるから」

「……はいはい……」

 小さくため息ひとつつき、ケインは視線をキャナルに移し、

「あの宇宙船ふねの型はわかるか?」

「メイン・ディスプレイに出します」

 キャナルがこたえると同時に、星々を映じたメイン・ディスプレイが切りわり、一せきの、細長い箱のような船体を映し出す。

「……貨物船カーゴ・シツプ……?」

 画面を見てぽつりとつぶやくミリィに、ケインはむずかしい顔のまま、

「──に、見えるな」

「確かに、ラグルド社が以前使っていた、五〇〇M級貨物船タイプの船です。たいしてそうがあるようにも見えませんし」

 キャナルは言う。

「ただし──船体識別コードも発信してませんし、あちこちに改造のあとも見られます。

 がいそうがめくれ上がっていきなりほうが顔を出す──なんて可能性は確かにあるわ。ただの貨物船にしちゃあ、エネルギー反応もやたらと高いし」

「ふぅん……とりあえずけいかい体制を。不意うちに備えて、サイ・バリアてんかい準備。ビーム砲、エネルギー回路開放」

りようかい。──『サマー・ラビット』からの通信です」

「……このいそがしい時に……」

 思わず小声でつぶやくケイン。

 どうせ、正体不明の宇宙船ふねの出現にうろたえて、『あの船は何だ』とか、『海賊じゃないのか』などと、聞いてもしかたのないことを言ってくるにちがいない。

 とはいえ、一応相手はらいぬし。無視するというわけにもいかない。

「──わかった。つないでくれ」

「了解」

 キャナルがこたえたその直後、メイン・ディスプレイが切りわり、中年ぶとりの、ぶあいそな顔を映し出した。

『こちら『サマー・ラビット』だ。何なんだね、あの宇宙船ふねは? 海賊パイレーツじゃないのか!?

 ……予想通りのリアクションでやんの……

 ケインは内心苦笑をかべつつ、

「ご心配なく。もしもあれが海賊パイレーツだったとしても、先にそちらではなく、こちらをねらうでしょう。

 ま、その時はカルく追っぱらってみせますから、安心してください」

 たしかに、宇宙海賊スペース・パイレーツりやくだつを行なうには、目標の船の足を止め、せつげんしたのち物資を略奪する、という方法を取る。

 護衛の宇宙船がいるのなら、そちらを先にたたいておかなければ、ゆうちょうに略奪などできるはずもない。

 しかし、『サマー・ラビット』の船長としては、そんなおざなりなことばだけでは、とうてい安心できなかった。

 ケインは気づいていなかったが、なにしろ、『サマー・ラビット』の通信ディスプレイの中には、自信まんまん答えるケインのその後ろで、グラタンを食べまくるミリィの姿が、はっきりくっきり映し出されているのだ。

 ……だいじょーぶなのか!? この連中は……?

 船長がそう思ったのも、無理からぬことではある。

『追っ払うってきみ……ど……どうやって……?』

「それは言えません。もしも相手が海賊パイレーツなら、このれんらくを聞かれているおそれは十分にありますから」

『……し……しかし……』

「ご心配にはおよびません」

 なおも不安の色を見せる船長に、ケインにかわって、にこにこ顔のキャナルが言う。

「わたしたちはこれでもプロですから。おまかせください。──そのぅ、いろいろと準備もありますので」

『……わ……わかった。よろしくたのむよ』

 不安の色をその表情ににじませながらも、船長は通信を切った。

 むろん、ケインたちを全面的に信じた、というのではなく、単に、ゆうの笑みをかべるキャナルに対し、自分がおろおろするのはみっともない、と思っただけだが。

「さて……と……キャナル、例の宇宙船ふねをモニターしてくれ」

 ケインの声に画面はふたたび、細長い船体を映し出した。

 船体に、わずかな変化が起こっていた。

「……管制室ブリツジが──?」

 ようやくグラタンを食べ終えて、ミリィが小さくつぶやいた。

 そう。

 かんしゆにある管制室ブリツジかられる、小さな明りが、はっきりとめいめつをくり返していた。

 ある一定のパターンを持って。

「……SOS……か……」

 苦笑を浮かべてつぶやくケイン。

わな──ね」

 ミリィは何のこんきよもなしに、きっぱりはっきり断言した。

「たぶん──な。……しかし、これが罠なら、テキもなかなかやるもんだ。うそと思っても、SOSなんぞ出されちゃ、こちらとしちゃあ、そうそうおかしなもできねえからな」

「どうします?」

 キャナルの問いに、ケインはしばし考えて、

「サイ・バリアと、げんそくのバーニアの可動準備。ミリィは一応、ビームほうの準備を。例の船はモニターしたままで。あとは──相手の出方次第だ」

りようかい

 キャナルとミリィの声がひびき──

 そして、しばしのちんもくおとずれた。

 問題の宇宙船ふねも、そして『ソードブレイカー』と『サマー・ラビット』も、変わらぬ速度で移動を続けている。

 問題の宇宙船ふねに、中型のエネルギー砲でもあれば、もう十分に射程のうちに入っているはず。

 しかし、ディスプレイに映し出された船は、あいもかわらず、管制室ブリツジの明りを明滅させながら、静かに進んでくるだけ。

「航路交差まであと六十秒」

 思い出したかのようにキャナルが言う。

「──それと──『サマー・ラビット』から通信が入ってます」

「無視。」

 ミもフタもなく言い放つケイン。

 不安なのはわかるが、ことここへ来て、グチにつきあっているヒマはない。

「航路交差まで、あと──」

 キャナルが言いかけたその時──

 ディスプレイの中の宇宙船に変化が起きた!

「目標、加速開始! 通信妨害ジヤミングてんかい!」

 キャナルの声がひびく。

 例の船は、エンジンに光をともし、こちらに向かって加速をかけると同時に、そのかんぱんの一部が口を開け、大型のほうが姿を現わした!

 ──予想通りっ!

「キャナル! バーニア吹かして敵にとつしんかけろ! 砲撃が来る前にバーニア・カット!

 サイ・バリア展開!」

「了解!」

 本来、方向てんかん用の推進器バーニアを使い、『ソードブレイカー』は敵の宇宙船ふねに向かって、こちらからっ込んでゆく。

 相手の船体から砲座がせり上がり終わったそのしゆんかん

『ソードブレイカー』はバーニアのふんしやを止めると同時にバリアを展開した。

 同時に火を吹く相手の砲!


 ごごごぉうっ!


 はげしいしんどうごうおんが、『ソードブレイカー』の船体をゆるがす。

 しかしサイ・バリアは、敵のこうげきのことごとくをはじき散らしていた。

 その間にも、『ソードブレイカー』と海賊船とのきよはしだいに縮まってゆく。このままではまともにしようとつすることになる。そうなれば、ケタ外れのパワーのバリアを持つ『ソードブレイカー』と、より大型とはいえ、あくまでつうの船にしかすぎない海賊船、どちらが勝つかは、すこし考えればわかる。

 さすがにそんな勝負をする気にはならなかったか、なおもほうげきを続けつつ、あわてて進路を変えはじめる海賊船。

「キャナル! バリア・エネルギーをすいしんざいがわりにふんしゆつ! 敵にぶつけるつもりで突っ込め!」

りようかい!」

 身をかわそうと動く海賊船に、さらにつっかかってゆく『ソードブレイカー』。せつしよくまではあとわずか。

 とたん、海賊船のエンジンがその輝きを増した。

 なおも砲撃は続けつつ、船体を大きくひるがえす。

げる気かっ!?

 思わず声を上げるケイン。

「キャナル! おれあいと同時に、バリア・エネルギーを任意方向に噴射! 敵のせんじくから外れると同時にサイ・バリア解除! 以降のかい行動は俺がやる! ミリィはバリア解除と同時に、てきかんに向かって砲撃! ただし、とすんじゃないぞ! 足を止めてかくする!」

『了解!』

 二人の返事がみごとにハモった。

 おそらく、宇宙海賊は、目の前の一せきだけではないだろう。今日び、いつぴきおおかみの海賊なんぞらない。

 おそらくどこかに、ぶん取ったおたからを集めたり、海賊船をメンテナンスするためのアジトがあるはずである。目の前の相手をつかまえることができたなら、その場所を聞き出すこともできるだろう。

 むろん、そこまでやる義理はケインにはないが、海賊たちのやりくちが気に入らないのは事実である。

「いくぞ! 用意レデイ!」

 ケインの声に、コックピットを満たすいつしゆんきんちよう

「GO!」

 瞬間、『ソードブレイカー』の船体が、大きく横にスライドした。

 まさに一瞬。

 バリアが解除されると同時に、『ソードブレイカー』の放ったビームほうが、海賊船の、四基あるエンジンのうち一基に命中した!

「ミリィ! おみごと!」

 賞賛の声を上げるケイン。

 ミリィの放ったいちげきは、海賊船のエンジンをほどよく壊していた。

 いきなり爆発を起こすほどではないにしろ、エンジンを使いつづければ危ない、といった程度のダメージである。

 しかたなく海賊船は、そのエンジン一基を停止させた。

「キャナル! 敵さんにレーザー通信だ!『こうふくせよ、さもなくば……』」

 しかしケインのことばが終わるより早く。エンジンの一基にダメージを受け、しばしちんもくしていた海賊船の砲がふたたび火を吹いた!

 しかも目標は──

「サマー・ラビット!?

 ケインの上げた声と同時に、海賊船からの砲撃が、貨物船カーゴ・シツプがいそうこうをけずり取る!

しずめるわよ! !」

「やめろ!」

 ケインの声が、ミリィの動きをしとどめた。

「連中め!『取り引き』する気か!」

 舌打ちとともにき出すケイン。

 むろん今、『ソードブレイカー』が海賊船をとすことはたやすい。しかし同時に、海賊船が『サマー・ラビット』を沈めることもまた簡単である。

 つまり海賊パイレーツたちは、『ソードブレイカー』に対して、『もしもそちらがこっちをこうげきするならば、こちらは貨物船カーゴ・シツプを沈める』と、おどしをかけてきているわけである。

 むろんケインには、一撃で敵をほうむる自信はあったが、その自信が一〇〇%でない以上、そのかけには乗れない。今回のしごとはあくまでも、海賊退たいではなく、貨物船の護衛なのだから。

「キャナル!『サマー・ラビット』と敵の火線上に割り込んでサイ・バリア展開! たてがわりになる!」

「……りようかい

 歯がみしながらも命令を下すケインに、しかたなしに従うキャナル。

 やがて、貨物船カーゴ・シツプとのしやじく上に入った『ソードブレイカー』に、散発的なかく射撃を放ちつつ、海賊船は、残ったエンジンを吹かせて遠ざかる。

通信妨害ジヤミング、解除されました」

 キャナルが言った時そこには、すでに、海賊船とは、かなりのきよが開いていた。

「『サマー・ラビット』から通信、入ってます」

「……つないでくれ……」

 ケインの答えに、やがてメイン・ディスプレイが切りわり、不満と不安の色を混ぜあわせた、むさくるしい顔が映し出された。

『……なぜ海賊どもをたたき落とさんのだね!?

 助けられた礼など言いもせず、いきなり不満をがなり立てた。

 ……こ……このおやぢぃぃぃぃぃぃっ!

 キレかけたケインがどなり出すより一瞬早く。

「わかりました。さっそく今の海賊パイレーツついげきにかかります」

 すずしい顔で答えるキャナル。

「なお、今のおことばは、正式な命令へんこうようせいとみなして記録しましたので。もしもほんかんがあちらを追撃中、海賊の別動隊に『サマー・ラビット』がしゆうげきされた場合、その責任はすべてそちらに帰属しますので」

『ち……ちょっと待て! 海賊の別動隊がいるのか!?

 うろたえて問いかける船長に、キャナルは変わらぬにこにこ顔で、

「可能性がないとは言えません。その時は──がんばってくださいね

 それでは本艦は、目標のついげきに移ります」

 言っていきなり、本気で『ソードブレイカー』のエンジンをふかしはじめる。

『ちょっ──! ちょっと待った!』

 ディスプレイの中、まともに顔色を変える船長。

『それは困る! そんなことになったら、このだけでは対応できん!』

「困る──と申されても。船長さんのお望みになったことですから」

 言ううちにも、『ソードブレイカー』は進みはじめている。

『待て! 待ってくれっ! 命令変更だ! 海賊の追撃は中止して、こちらの護衛についてくれ!』

 しかしキャナルは、なおもすました顔のまま、

「そうたびたび命令変更されても困ります。どれに従っていいのかわからなくなりますから。

 そーゆーことでとりあえず、追撃が終わったら護衛にもどりますから」

『ああああああああっ! わかったぁぁぁぁっ! わしが悪かったぁぁぁぁっ! たのむぅっ! 行かないでくれぇぇぇぇぇっ!』

 ほとんど半泣きになりながら、にようぼうげられかけたていしゆのようなセリフをく船長。

「……よーしゃないわねー……キャナルって……」

 後ろでそのやりとりをながめつつ、ケインにぼそりと言うミリィ。

「ああ……お前も、あんまりあいつの神経さかナデするのはやめとけよ……」

 ひきつり顔で言うケインの脳裏を、いまわしい過去のおくがよぎっていた。

 彼がキャナルのげんをそこねて、宇宙のまっただ中でトイレの機能を完全停止させられ、泣いてあやまったのは、それほど昔のことではない。

 むろんこんなこと、情けなくてひとには言えないが。

「──なら結局こちらは、護衛を最優先で行なう、ということで異存はありませんね」

『──も、もちろんだとも。ぜひともよろしくお願いする』

「わかりました。──それから、この一件、星間警察ユニバーサル・ガーデイアンにはこちらかられんらくしておきます。それと、無用の通信はなるべくごえんりよ願います。それでは」

 言って一方的に通信を切る。

 むろん最後まで、笑顔とやわらかな調ちようくずさぬままで。

「おっしゃよくやった!」

「キャナル、えらいっ!」

 通信が切れるなり、かつさいを送るケインとミリィ。

「船長泣かすとこまでやる、ってぇのがとってもす・て・き

「それほどでもありませんよ」

 キャナルはいたずらっぽい笑みをかべ、

「ほんとうは、『げきちんしてやろーか、このおやじ』なんて思ったんですけどね。そこはなんとかおさえましたから」

 彼女のことばに、かわいた笑いを浮かべるケイン。

 ──こいつなら本気でやりかねん──

 などと思ってしまったのだ。

「ともあれキャナル、星間通信の回線を開いて、星間警察U・Gに連絡をたのむ。

 ──まあ、間に合うとは思わねーけどな……」

 レーダー・レンジの中を遠ざかりつつある、海賊船を示す光の点を見つめながら、ケインはぽつりとつぶやいた。


 波の音が遠くにひびく。

 見渡せば、くろぐろたる海が彼方かなたにひろがっていた。

 わくせいレグン、ケレス・シティ。

 ケインとミリィの二人が、ふたたびここに降り立ったのは、出発してから十日ほどった夜のことだった。

 かいぞくしゆうげきを受けたそのあとは、これといったトラブルもないままに、貨物船カーゴ・シツプの護衛を無事済ませ、このレグンへともどって来たのだ。

 やはりというか予想通りというか、ケインたちのれんらくを受けて、星間警察ユニバーサル・ガーデイアンがやって来た時には、すでに海賊船はかげも形もなく、結局行方ゆくえはわからなかった。

 まだレイルに確かめたわけではないが、おそらく、出発前にケインたちがつかまえたちんぴら連中も、シラを切り通していることだろう。

 今回は、念のため、ケインも武器を持ってきていた。

 サイ・ブレード。

 人類に、光の速度をえることを許した精神物理学メタ・サイコロジーは、さまざまな副産物も同時に生み出した。

 この武器もまた、そんな副産物のひとつ。

 バンダナと増幅器ブースター、そしてはつしんとのセットになっており、バンダナでちゆうしつした、ひとの精神力をぞうふくし、発振器からエネルギーとして具現させることができ、その刃をエネルギーじゆうのように射ち出すこともできる、というシロモノである。

 一見便利に思えるが、いろいろと問題もあって、今ではほとんど使われてはいない武器で、ケインはほとんどシュミでこれを愛用していた。

 むろん彼も、わざわざ好きこのんでかいぞくたちとケンカをするつもりなどない。

 次の便の出発まであと五日。それまではのんびりと過ごしたいものだが、出発前に起きたばく事件の時に、二人の顔は覚えられているだろう。

 いくらこちらがおとなしくしていようとも、むこうからちょっかいをかけてくるおそれがある以上、丸腰、というのはいくらなんでも心細い。

 一方、ミリィはいつもの麻痺銃パラライズ・ガン

 以前と同じホテルにチェック・インをすませ、二人は夕食を取りに外に出た。

「──さてと。ミリィ、何が食いたい?」

「……食べものはなんだっていいけど、ぶっそーな店だけはやめてね……」

「海賊達のしかえしがこわいのか?」

「あたりまえよ」

 からかう調ちようのケインに、ミリィは、衛星港でまた買ったチョコレートを一かけ、口の中へとほうり込み、

「どこの誰が敵かもわかんないってぇのに、これで『怖くない』なんてごうするのはただのバカよ」

「……怖けりゃ、わざわざこんなところに降りて来なくても、『ソードブレイカー』で待ってりゃいーじゃねーか……」

「だって……船の中でじっとしてるのも退たいくつだったし……海も見たかったし、買いだめしたチョコレートも底をいちゃったし、いそりもしたかったし……」

「……チョコと磯釣りに命かけるのか……お前は……」

 あきれた顔で言うケイン。

 二人はしばし、たわいもない会話をしながらあたりをぶらついてみたものの、これといった店は見つからない。高級そうな店は、また俺のマントに文句をつける、とケインが入りたがらない。安そうな店は、海賊連中がいるかも、とミリィがしりごみをする。

 そんなこんなで、結局二人が足を向けたのは、前にも一度行ったことのある、海のそばの店だった。

 ケインがジェスたちとらんとうさわぎを起こし、レイルと出会ったあの店である。

 あまりガラのいい店というわけでもないが、一度行ったことがある、という安心感からか、これにはミリィも首を縦にった。

 店内には、かなりの数の客がいた。

 ふたりはすみの、空いたテーブルにかけると、見知った顔のおやじさんに、食事とドリンクを注文した。

「──ケイン! ケインじゃねぇか!」

 声をかけられ、ふり向けば、そこに見知った顔があった。

 前にここで、乱闘さわぎをやらかした時、ジェスといっしょにいた男である。

 ばした黒いヒゲとサングラス。うわぜいはそれほどでもないが、つくべき筋肉はついている。やはりこの男も、ケインやジェスと同じくトラブル・コントラクターで、たしか名前はマジソンとか言ったか。

「──ここ、いいか?」

 マジソンは、ウイスキーのグラスを片手に、二人の答えも待たず、ミリィのとなり──ケインの向かいに腰を下ろす。

 ミリィに対する下心──というわけではなさそうである。サングラスとヒゲにかくされた、その表情にしずかげを、ケインは見のがさなかった。

 マジソンは、無言のままで、グラスの中身をひと口あおる。

 この時間だけやとわれているのだろう。若いウェイトレスが、テーブルにドリンクを運んで来る。

 それでも、マジソンは無言だった。

「──何かあったのか?」

 問いかけるケインに、彼は、くいっ、とグラスをあおり──

「──ジェスのやつがやられた」

「……え……?」

 思わず問い返すミリィ。

「……宇宙海賊スペース・パイレーツにやられたらしい……異変に気づいて、星間警察U・Gがかけつけた時にゃあ、貨物船カーゴ・シツプざんがいと、奴の宇宙船ふねの残骸だけがただよってたらしいぜ……」

 疲れた口調で言うマジソン。サングラスの下のその視線が、一体どこを見ているのか、ケインにはわからない。

「……聞いてねーぞ! ンなこと!」

「言わなかったんだろ……ラグルドが……」

 息をくようにつぶやく彼。

「オレだって、この話を聞いたのは四、五日前──ひとしごと終わって帰ってきてから、こっちでのうわさと古新聞とで知ったんだ。

 ……なんでも、予定の日になっても、着くはずの荷物が向こうに着かねぇ。それで向こうからクレームがあったんだが、こっちは予定通り出てる。それでラグルドが、貨物船カーゴ・シツプれんらくを取ったんだが、何のおとさたもねえ、ってんで、それでようやっと星間警察U・Gのお出ましになって……ざんがいが見つかった、ってわけさ」

「何をのんきな!」

 き捨てるように言うケイン。

「ラグルドは、定時連絡もさせてねぇのか!」

 そう言えばたしかに、けいやくでも、ケインたちに定時連絡の義務はふくまれていなかった。

 てっきり、貨物船カーゴ・シツプのほうが定時連絡をやっているものとばかり思っていたが……

「ああ。それについても問題にはなったよ。すこしばかりな」

「すこしばかり?」

 なげやりな調ちようで言うマジソンに、問い返すケイン。

「オレたちをやとった、ラグルドの保安部長──マリガンとかって、スカした野郎がいただろ。あいつのインタビュー記事が新聞にっててな。『たしかに定時連絡等、業務上の手抜かりがあったことは事実だが、それでは定時連絡さえ行なっていれば、今回の悲劇はかいできたのか!? いや、真の問題は海賊たちの存在である』だとさ。

 ──まあ、まちがっちゃいねぇがムカつくぜ」

 言って、グラスに残った中身をひと息にけた。

「……ジェスの野郎もジェスの野郎だ……むざむざ海賊なんぞにやられやがってよ……

 あいつの船とあいつの腕なら、みの海賊なんぞに負けるはずねえってぇのによぉ……

 あっさりおっんじまいやがって……」

 言葉の後半は、いくぶん湿しめった声になった。

 ようやくウェイトレスが運んできた食事に、すぐに手をつける気にもなれず、ケインとミリィはしばしちんもくする。

 他のテーブルについた客たちのけんそうが、今は、やけに耳ざわりだった。


 二人が食事を終えて、店をあとにしたのは、それから二時間ほどあとのことだった。

 マジソンは、いまだに店で酒をんでいる。

 彼もケインも、死んだジェスとは、それほどつきあいがあったわけでもないが、それでもやはり同業者、明日はわが身である。

 さすがに店を出た時には、ケインもミリィも、かなりダークな気分にしずみ込んでいた。

「──えぇいっ! うじうじしててもしかたねーか! どうだ、ミリィ、気晴らしにこれから、どっかでいつぱいらねーか?」

「……うーん……」

 不安げな顔で考え込む彼女に、ケインはぱたぱた手をって、

「なぁに。海賊たちのことなら心配ねーさ。まあ、連中の一味らしいのとりあったのも事実だし、たぶん顔も覚えられてるだろうが……こっちはレイルのやつちがって、別に、連中にちょっかいをかけてるわけじゃねえ。連中にしてみれば、警察につけこまれる危険おかしてまで、たかがしたのメンツのために動く気はねーだろーからな」

「……じゃあ、おとなしくしてたら危険はない、ってこと?」

「そういうことだ」

 ──たぶん、な。

 内心つけ加えるケイン。

 命令を無視してまで、メンツ回復のため、ケインたちにつっかかって来る奴など絶対いない、という保証はない。

 例外というのは、どんなところにも転がっているものなのだ。

 そのための用心に、サイ・ブレードも持ってきたのだ。

 しかしその例外までをもおそれていては、それこそ人間、何もできない。

「さて……と、それじゃあ、どこに行くか、だな」

 あたりをきょろきょろ見渡すケイン。

 ほとんど車の姿もない大通りの向こうがわにも、ちらほらとネオンの明りが見える。

 そんな中のいつけんが、ふと、ケインの目についた。理由は彼にもわからない。

「あそこなんてどうだ? ほら、通りの向こうにある、青いネオンの、リカルドって店」

「まかせるわ」

 チョコレートを一かけ、口の中にほうり込みながらうなずくミリィ。

「……そのチョコ……一体どこからわいて出る……?」

「女にはなぞが多いもんよ

「……またそーゆーわけのわからんことを……」

 言いながら、二人は大通りを横切って、さかとびらを開き──

「なんだとぉ!? このアマ!?

 トラブルをふくんだせいは、ドアを開くなり、二人の耳に飛び込んで来た。

 事情のほどはわからないが、ともあれ、店の中では、ひとりの女性を相手に、数人の男たちがからんでいた。

「……たいしたカンねー……トラブルまっ最中の酒場を、もののみごとに選ぶんだから」

 ミリィの皮肉もどこく風で、ケインの目は、からまれている女性に吸いつけられていた。

 としのころなら前後、背中まであるくりいろかみに黒いひとみ。わりとラフなふくそうで、ややきつめな顔の美人だが、ケインが彼女に注目したのは、美人だったから、というわけではない。

 その顔には、確かに見覚えがあった。

 以前に、宇宙港で彼を、ぞうすらこもったまなざしで見つめていた女──その彼女にまちがいはない。

「何よ!? 文句でもあるってぇの!?

 彼女は、まわりをとり囲む男たちにも、おびえたそぶりさえ見せずに言い放つ。

「大ありなんだよ! お高くとまりやがって!」

「えらそうにつっぱってやがっと、余計な痛ぇ目見るぞ。おら」

「ちょっと話があるからついて来い、って言ってるだけじゃねーか」

 からんでいる男の数は三人、いずれも、全身ぜんれいをもって『オレはごろつきだ』と自己主張しているようなふうていの連中ばかりである。

「うるさいわね! さっき、はっきり言ったでしょ! あんたたちみたいな馬鹿につきあう義理はない、って!

 それとももう忘れちゃったの!?

「……てめぇ……言わせておけば!」

 男のこぶしがふり上がり──


 ごめ。


 それが、女に向かってふり下ろされるより早く、ケインは男をどつきたおしていた。

 ざわざわ。

 ざわつく店の客たち。

「──事情のほどはよくわからんが──」

 完全に気を失った男の背中に片足を乗せ、さわやかとさえ言える口調でケインは言う。

「もめごとはよくねーぜ」

 残る二人は一瞬絶句し、

「……て……てめーは事情もわかんねーもめごとちゆうさいすんのに、いきなり相手どつき倒すのかよっ!?

「男と女がモメてりゃあ、ふつー悪役は男と相場が決まってるもんでな。それに、あんたらその格好じゃあ、『オレたちが善玉だ』なんて言い張ったって説得力ねーぜ」

「てめぇっ! ぬけぬ……」


 がひ。


 男のことばが終わるより早く。

 ケインの右こぶしが、男のあごをらえていた。

 彼は、残るひとりに目を向けて、

「──どうする?」

 男はしばしちんもくした。

 仲間二人をたおしたのは、ほとんどち同然のテだが、それでも、はたで見ていて、ケインの動きがするどいのはわかる。一対一でまともにって、勝てる相手ではないだろう。

「……わ……わかった……」

 男は青い顔でうなずくと、たおれた二人をゆり起こす。

 っかかってくるかとも思ったが、男たちは、そのまま、あっさりと店の戸口へ向かった。

 とびらを開けて、男のひとりがケインの方をふりかえり──

「おぼえといてやるよ」

 男が、おさだまりの捨てゼリフをくより早く、ケインは言い放つ。

「…………」

 先手を取られ、男は無言で、立場のなさそーな顔のまま、仲間ふたりと連れ立って店をあとにした。

「──さて、と……」

 ひとつ息を吐き、からまれていた女の方に向きなおるケイン。

 彼女はやはり、今もなお、にくしみの混じったまなざしで、じっと彼を見つめている。

「わけを聞かせてもらえるか?」

「うるさいわね」

 しかし彼女の返事はミもフタもなかった。

「どうせあんたも、あの連中の同類なんでしょう!?

「……おいおい……」

「知ってるんだからね! 人殺しの会社にシッポってるようなやつに話すことなんてないわよ!」

 一方的に言い放つと、そのままくるりときびすを返し、店の外へと姿を消した。

「……なんなの……? 彼女……」

「……さぁ……」

 ミリィに問われ、ケインは首をかしげた。

「──メリーナも、以前はあんなじゃなかったんだがな……」

 つぶやく声はま近で聞こえた。

 目をやれば、ケインたちのすぐ後ろ、ヨレたシャツに身を包んだ、ふうさいのあがらない中年男がひとり、カウンターに腰かけて、ケインたちに意味ありげな視線を送っている。

「聞きてぇか?……もっとも、そんなにくわしい話でもねぇが……」

 言って右手で、カラのグラスをってみせる。

 ケインは、男のとなりのストゥールに座り、バーテンに声をかける。

「──おい、このひとに水割りを」

「あー、ちょっと待った。若いの」

 中年男は、ちっちっちっ、と指を振り、

「悪いがおれは、ブランデーしからねぇんだ」

 ……こら、おやじ……

 内心毒づきながらも、ケインはバーテンに向かってふたたび声をかける。

「──注文へんこうだ。水割りじゃなしにブランデーを」

「ロア・デ・ロアかクラブ・デ・レミーでいいぜ」

 横から口をはさむ中年。

 ……く……くそおやぢぃぃぃっ!

 思わずわき起こるいかりを必死でおさえるケイン。

「──それで?」

「まあ待ちなって……へへ……」

 運ばれてきたグラスをめながら、にやけた笑みをかべる男。

 ケインはグラスと引きかえに、しぶしぶバーテンに代金を渡す。

「……名前はメリーナ=コンセンス。

 以前は、気のいい娘だったんだがな……ラグルドに勤めていた恋人がかいぞくにやられてから、すっかり変わっちまった……」

 言ってブランデーをひと口、うまそうに口にふくむ。

「海賊に?」

「ああ。恋人の名前は……たしか、アソートとか言ったっけな。ラグルド社で、宇宙貨物船の乗組員をやってたらしいんだが……

 ふた月か三月前だったかな? それが海賊にやられちまってよ……

 それっきり、働いてる店もやめちまってよ。

 それが、ちょいと前から、おかしなことを言いはじめてよ。彼を殺したのはラグルドだ、ってよ。

 ……ちょうどラグルドが、護衛になんでも屋をやといはじめた頃だったかなぁ……

 自分の恋人が乗ってた船には、護衛のひとつもついてなかったのが、腹にすえかねたんだろうけどなぁ……

 ま、ショックだったってぇのはわかるけどよ」

 言ってブランデーをもうひと口。

「──えらくくわしいんだな」

「……まあな……おれの知ってるのはこのくれぇか」

「ふぅん……」

 ケインはしばし考えて、

「彼女の住んでるところは?」

「そりゃあ知らねえ」

「なら──その、前に働いてたところ、ってぇのは?」

 ケインに問われて、男はひとの悪い笑みを浮かべ、

「ここだよ」

「……へ……?」

 思わず間のけた声を上げるケイン。

「……ここ……って……」

「そう。この酒場で働いてた。今でもああして、ちょくちょく顔を出す。オレは常連のひとりでね。だからいろいろ知ってた、ってことさ」

「……ち……ちょっと待て……」

 ケインはこめかみをおさえ、

「……てぇことは何か!? 俺は別に、わざわざあんたにブランデーなんぞおごらなくたって、酒のいつぱいも飲みながら、バーテンあたりに聞いてりゃあ、同じことが聞けたってわけか!?

「同じことが聞けた、ってぇのはまちがいだ」

 中年おやじはしゃあしゃあと、

「たぶん──もっと詳しい話が聞けた」

 ケインはしばしぼうぜんちんもくし、かわってバーテンに食ってかかる。

「おぉい! なんでそれならそうと言ってくれねぇんだ!?

「……だまっていた方がもうかりそうでしたからね」

 苦笑をかべて言うバーテンに、返すことばもなく絶句するケイン。

 後ろで聞こえるミリィのくすくす笑い。

「──で? ご注文は何にします?」

 問うバーテンに、ケインは大きなため息をつき、

「……水でいい……」


 警察署の中はやたらとごった返していた。

 タイプライターのキーをたたく音、鳴りひびく電話のベル、リノリウムのゆかみ鳴らすかたい靴音。仕事の上のトラブルなのか、はたまた何かの取り調べなのか、声をはり上げあう男たち。

 ケインとミリィが、ケレス・シティの警察署をおとずれたのは、翌日の昼過ぎだった。

 目的はむろん、レイルから情報を聞き出すこと。

 あいかわらず、深く首をっ込むつもりはなかったが、現状が一体どうなっているのか、くらいのことは知っておきたい。

星間警察U・Gのレイル、いるか?」

「会議室」

 手近にいた男にケインが聞くと、答えはあっさり返ってきた。お前はだれか、との問いさえなかった。

 けっこういいかげんなものではある。

 男が指した通路を行くと、『宇宙海賊そう本部』の札のかかったがある。

 部屋の扉は開いていた。

 かなりの広さの会議室に、レイルはひとり、ぽつりと腰かけ、何やら書類に目を通していた。

「よぉ。レイル」

 手を上げてあいさつするケインに、ちらり、とだけ視線を走らせて、

「──ケインか」

 おもしろくもなさそうに言う。

「何やってんだ? こんなとこにひとりで。それともトモダチいねーのか?」

「ちょっといそがしくてな。ケンカ売りに来たのなら帰ってくれ」

 あいそもくそもなしに言う。

「そういうわけじゃないんだが……

 なあ、まえに俺たちではりたおしてとっつかまえた連中、結局どうなった?」

「──忙しい、と言ったはずだが?」

 ふりむきさえせずに言われて、ケインは、ちらりっ、とミリィに目くばせをする。

 彼女は小さくうなずいて、

「ねーレイルさん できたらかいぞくたちの話、聞かせてほしいんだ・け・ど

「……うくっ……」

 ミリィに声をかけられて、彼は小さな声でうめいた。何かにえるかのような表情で、首をかるく左右にり、

「……いえ……しかし……たとえ知りあいとは言っても、あまり捜査の内容を外にらすのは……」

「……こんど、海へ泳ぎにでも行きません?」

「何でも聞いてください、おじようさん」

「……お前……時々自分が悲しくならねーか……」

 しかしやはり、レイルはケインのツッコミを無視し、ミリィに手近な席をすすめる。

 テーブルをはさみ、レイルに向かいあうかたちで腰を下ろすケインとミリィ。