「なぜだ!?」
グラタン
ラグルド社の貨物船『
──むろん、「夜」というのはこの場合、あくまで時間の上での話だが。
この日の夕食は、ミリィの手づくりグラタンだった。
スプーンにひとすくい口にして、ケインは世の中の不条理をしみじみ感じていた。
「作っててフライパンに
そう。
たしかにミリィの手づくり料理は絶品だった。
圧力ナベを
問題は、彼女が何かをつくるそのたび、調理器具が何かしら
「ありがと
ほめてくれて」
自らもグラタンにスプーンを運びつつ、にこにこ笑顔で言うミリィ。
「……いや……別にほめたつもりはないんだが……」
「またまた。テレなくてもいいんだってば
」
「………………」
何を言っても
「いただきまーす♪」
言ってミリィもスプーンを手にし──
『ケイン! ミリィ! コックピットに来て!』
キャナルの声が、どこからともなく部屋にひびいたのはその時だった。
「えぇぇぇぇぇぇ?」
グラタンを
「どうした!?」
『正体不明の宇宙船が一
「
ケインは言って立ち上がり、コックピットへと向かう。
「ち……ちょっと……!」
しかたなくミリィもそのあとを追う。
マントをなびかせ、コックピットのドアをくぐるケイン。
むろん、あの破れたマントではなく、新しくおろした別のやつである。
地上でのさわぎで破れたあれは、結局再起不可能で、ゴミ箱行きとなり果てた。
これで、ケインのクローゼットの中に残ったマントはあと十八着。
「相手の様子は!?」
「横手から接近中よ。このまま行けば、航路が交差します。
まだ、これといった
「……ふぅ……ん……」
うなって彼は腕を組む。
ふつう、知らない
むろん、あいさつを返してこなかったからといって、すなわち相手が敵だと決まったわけではない。通信システムのトラブルだという可能性もある。
とはいえ、今、『ソードブレイカー』と『サマー・ラビット』のいるのは、海賊
これが、
「敵なの?」
ケインはちらりとふり返り、
「まだわからん──ってお前! なんでこんなとこまでグラタン持ってくるんだっ!?」
「なんで……って、やっぱりグラタンはあついのが一番おいしーのよ」
「……いや……俺の言いたいのはそーゆーんじゃなくて……」
「だいじょーぶ。心配しないで。
あれがもし敵だとしても──戦いがはじまるまでに、ちゃんとグラタン食べるから」
「……はいはい……」
小さくため息ひとつつき、ケインは視線をキャナルに移し、
「あの
「メイン・ディスプレイに出します」
キャナルが
「……
画面を見てぽつりとつぶやくミリィに、ケインはむずかしい顔のまま、
「──に、見えるな」
「確かに、ラグルド社が以前使っていた、五〇〇M級貨物船タイプの船です。たいして
キャナルは言う。
「ただし──船体識別コードも発信してませんし、あちこちに改造のあとも見られます。
「ふぅん……とりあえず
「
「……このいそがしい時に……」
思わず小声でつぶやくケイン。
どうせ、正体不明の
とはいえ、一応相手は
「──わかった。つないでくれ」
「了解」
キャナルが
『こちら『サマー・ラビット』だ。何なんだね、あの
……予想通りのリアクションでやんの……
ケインは内心苦笑を
「ご心配なく。もしもあれが
ま、その時はカルく追っ
たしかに、
護衛の宇宙船がいるのなら、そちらを先に
しかし、『サマー・ラビット』の船長としては、そんなおざなりなことばだけでは、とうてい安心できなかった。
ケインは気づいていなかったが、なにしろ、『サマー・ラビット』の通信ディスプレイの中には、自信まんまん答えるケインのその後ろで、グラタンを食べまくるミリィの姿が、はっきりくっきり映し出されているのだ。
……だいじょーぶなのか!? この連中は……?
船長がそう思ったのも、無理からぬことではある。
『追っ払うってきみ……ど……どうやって……?』
「それは言えません。もしも相手が
『……し……しかし……』
「ご心配にはおよびません」
なおも不安の色を見せる船長に、ケインにかわって、にこにこ顔のキャナルが言う。
「わたしたちはこれでもプロですから。おまかせください。──そのぅ、いろいろと準備もありますので」
『……わ……わかった。よろしく
不安の色をその表情ににじませながらも、船長は通信を切った。
むろん、ケインたちを全面的に信じた、というのではなく、単に、
「さて……と……キャナル、例の
ケインの声に画面はふたたび、細長い船体を映し出した。
船体に、わずかな変化が起こっていた。
「……
ようやくグラタンを食べ終えて、ミリィが小さくつぶやいた。
そう。
ある一定のパターンを持って。
「……SOS……か……」
苦笑を浮かべてつぶやくケイン。
「
ミリィは何の
「たぶん──な。……しかし、これが罠なら、テキもなかなかやるもんだ。
「どうします?」
キャナルの問いに、ケインはしばし考えて、
「サイ・バリアと、
『
キャナルとミリィの声が
そして、しばしの
問題の
問題の
しかし、ディスプレイに映し出された船は、あいもかわらず、
「航路交差まであと六十秒」
思い出したかのようにキャナルが言う。
「──それと──『サマー・ラビット』から通信が入ってます」
「無視。」
ミもフタもなく言い放つケイン。
不安なのはわかるが、ことここへ来て、グチにつきあっているヒマはない。
「航路交差まで、あと──」
キャナルが言いかけたその時──
ディスプレイの中の宇宙船に変化が起きた!
「目標、加速開始!
キャナルの声がひびく。
例の船は、エンジンに光を
──予想通りっ!
「キャナル! バーニア吹かして敵に
サイ・バリア展開!」
「了解!」
本来、方向
相手の船体から砲座がせり上がり終わったその
『ソードブレイカー』はバーニアの
同時に火を吹く相手の砲!
ごごごぉうっ!
はげしい
しかしサイ・バリアは、敵の
その間にも、『ソードブレイカー』と海賊船との
さすがにそんな勝負をする気にはならなかったか、なおも
「キャナル! バリア・エネルギーを
「
身をかわそうと動く海賊船に、さらにつっかかってゆく『ソードブレイカー』。
とたん、海賊船のエンジンがその輝きを増した。
なおも砲撃は続けつつ、船体を大きくひるがえす。
「
思わず声を上げるケイン。
「キャナル!
『了解!』
二人の返事がみごとにハモった。
おそらく、宇宙海賊は、目の前の一
おそらくどこかに、ぶん取ったおたからを集めたり、海賊船をメンテナンスするためのアジトがあるはずである。目の前の相手を
むろん、そこまでやる義理はケインにはないが、海賊たちのやりくちが気に入らないのは事実である。
「いくぞ!
ケインの声に、コックピットを満たす
「GO!」
瞬間、『ソードブレイカー』の船体が、大きく横にスライドした。
まさに一瞬。
バリアが解除されると同時に、『ソードブレイカー』の放ったビーム
「ミリィ! おみごと!」
賞賛の声を上げるケイン。
ミリィの放った
いきなり爆発を起こすほどではないにしろ、エンジンを使いつづければ危ない、といった程度のダメージである。
しかたなく海賊船は、そのエンジン一基を停止させた。
「キャナル! 敵さんに
しかしケインのことばが終わるより早く。エンジンの一基にダメージを受け、しばし
しかも目標は──
「サマー・ラビット!?」
ケインの上げた声と同時に、海賊船からの砲撃が、
「
「やめろ!」
ケインの声が、ミリィの動きを
「連中め!『取り引き』する気か!」
舌打ちとともに
むろん今、『ソードブレイカー』が海賊船を
つまり
むろんケインには、一撃で敵を
「キャナル!『サマー・ラビット』と敵の火線上に割り込んでサイ・バリア展開!
「……
歯がみしながらも命令を下すケインに、しかたなしに従うキャナル。
やがて、
「
キャナルが言った時そこには、すでに、海賊船とは、かなりの
「『サマー・ラビット』から通信、入ってます」
「……つないでくれ……」
ケインの答えに、やがてメイン・ディスプレイが切り
『……なぜ海賊どもを
助けられた礼など言いもせず、いきなり不満をがなり立てた。
……こ……このおやぢぃぃぃぃぃぃっ!
キレかけたケインがどなり出すより一瞬早く。
「わかりました。さっそく今の
すずしい顔で答えるキャナル。
「なお、今のおことばは、正式な命令
『ち……ちょっと待て! 海賊の別動隊がいるのか!?』
うろたえて問いかける船長に、キャナルは変わらぬにこにこ顔で、
「可能性がないとは言えません。その時は──がんばってくださいね
それでは本艦は、目標の
言っていきなり、本気で『ソードブレイカー』のエンジンをふかしはじめる。
『ちょっ──! ちょっと待った!』
ディスプレイの中、まともに顔色を変える船長。
『それは困る! そんなことになったら、この
「困る──と申されても。船長さんのお望みになったことですから」
言ううちにも、『ソードブレイカー』は進みはじめている。
『待て! 待ってくれっ! 命令変更だ! 海賊の追撃は中止して、こちらの護衛についてくれ!』
しかしキャナルは、なおもすました顔のまま、
「そうたびたび命令変更されても困ります。どれに従っていいのかわからなくなりますから。
そーゆーことでとりあえず、追撃が終わったら護衛に
『ああああああああっ! わかったぁぁぁぁっ! わしが悪かったぁぁぁぁっ! たのむぅっ! 行かないでくれぇぇぇぇぇっ!』
ほとんど半泣きになりながら、
「……よーしゃないわねー……キャナルって……」
後ろでそのやりとりを
「ああ……お前も、あんまりあいつの神経
ひきつり顔で言うケインの脳裏を、いまわしい過去の
彼がキャナルの
むろんこんなこと、情けなくてひとには言えないが。
「──なら結局こちらは、護衛を最優先で行なう、ということで異存はありませんね」
『──も、もちろんだとも。ぜひともよろしくお願いする』
「わかりました。──それから、この一件、
言って一方的に通信を切る。
むろん最後まで、笑顔とやわらかな
「おっしゃよくやった!」
「キャナル、えらいっ!」
通信が切れるなり、
「船長泣かすとこまでやる、ってぇのがとってもす・て・き
」
「それほどでもありませんよ」
キャナルはいたずらっぽい笑みを
「ほんとうは、『
彼女のことばに、かわいた笑いを浮かべるケイン。
──こいつなら本気でやりかねん──
などと思ってしまったのだ。
「ともあれキャナル、星間通信の回線を開いて、
──まあ、間に合うとは思わねーけどな……」
レーダー・レンジの中を遠ざかりつつある、海賊船を示す光の点を見つめながら、ケインはぽつりとつぶやいた。
波の音が遠くに
見渡せば、くろぐろたる海が
ケインとミリィの二人が、ふたたびここに降り立ったのは、出発してから十日ほど
やはりというか予想通りというか、ケインたちの
まだレイルに確かめたわけではないが、おそらく、出発前にケインたちが
今回は、念のため、ケインも武器を持ってきていた。
サイ・ブレード。
人類に、光の速度を
この武器もまた、そんな副産物のひとつ。
バンダナと
一見便利に思えるが、いろいろと問題もあって、今ではほとんど使われてはいない武器で、ケインはほとんどシュミでこれを愛用していた。
むろん彼も、わざわざ好きこのんで
次の便の出発まであと五日。それまではのんびりと過ごしたいものだが、出発前に起きた
いくらこちらがおとなしくしていようとも、むこうからちょっかいをかけてくるおそれがある以上、丸腰、というのはいくらなんでも心細い。
一方、ミリィはいつもの
以前と同じホテルにチェック・インをすませ、二人は夕食を取りに外に出た。
「──さてと。ミリィ、何が食いたい?」
「……食べものはなんだっていいけど、ぶっそーな店だけはやめてね……」
「海賊達のしかえしが
「あたりまえよ」
からかう
「どこの誰が敵かもわかんないってぇのに、これで『怖くない』なんて
「……怖けりゃ、わざわざこんなところに降りて来なくても、『ソードブレイカー』で待ってりゃいーじゃねーか……」
「だって……船の中でじっとしてるのも
「……チョコと磯釣りに命かけるのか……お前は……」
あきれた顔で言うケイン。
二人はしばし、たわいもない会話をしながらあたりをぶらついてみたものの、これといった店は見つからない。高級そうな店は、また俺のマントに文句をつける、とケインが入りたがらない。安そうな店は、海賊連中がいるかも、とミリィが
そんなこんなで、結局二人が足を向けたのは、前にも一度行ったことのある、海のそばの店だった。
ケインがジェスたちと
あまりガラのいい店というわけでもないが、一度行ったことがある、という安心感からか、これにはミリィも首を縦に
店内には、かなりの数の客がいた。
ふたりは
「──ケイン! ケインじゃねぇか!」
声をかけられ、ふり向けば、そこに見知った顔があった。
前にここで、乱闘
「──ここ、いいか?」
マジソンは、ウイスキーのグラスを片手に、二人の答えも待たず、ミリィの
ミリィに対する下心──というわけではなさそうである。サングラスとヒゲに
マジソンは、無言のままで、グラスの中身をひと口あおる。
この時間だけ
それでも、マジソンは無言だった。
「──何かあったのか?」
問いかけるケインに、彼は、くいっ、とグラスをあおり──
「──ジェスの
「……え……?」
思わず問い返すミリィ。
「……
疲れた口調で言うマジソン。サングラスの下のその視線が、一体どこを見ているのか、ケインにはわからない。
「……聞いてねーぞ! ンなこと!」
「言わなかったんだろ……ラグルドが……」
息を
「オレだって、この話を聞いたのは四、五日前──ひとしごと終わって帰ってきてから、こっちでの
……なんでも、予定の日になっても、着くはずの荷物が向こうに着かねぇ。それで向こうからクレームがあったんだが、こっちは予定通り出てる。それでラグルドが、
「何をのんきな!」
「ラグルドは、定時連絡もさせてねぇのか!」
そう言えばたしかに、
てっきり、
「ああ。それについても問題にはなったよ。すこしばかりな」
「すこしばかり?」
なげやりな
「オレたちを
──まあ、まちがっちゃいねぇがムカつくぜ」
言って、グラスに残った中身をひと息に
「……ジェスの野郎もジェスの野郎だ……むざむざ海賊なんぞにやられやがってよ……
あいつの船とあいつの腕なら、
あっさりおっ
言葉の後半は、いくぶん
ようやくウェイトレスが運んできた食事に、すぐに手をつける気にもなれず、ケインとミリィはしばし
他のテーブルについた客たちの
二人が食事を終えて、店をあとにしたのは、それから二時間ほどあとのことだった。
マジソンは、いまだに店で酒を
彼もケインも、死んだジェスとは、それほどつきあいがあったわけでもないが、それでもやはり同業者、明日はわが身である。
さすがに店を出た時には、ケインもミリィも、かなりダークな気分に
「──えぇいっ! うじうじしててもしかたねーか! どうだ、ミリィ、気晴らしにこれから、どっかで
「……うーん……」
不安げな顔で考え込む彼女に、ケインはぱたぱた手を
「なぁに。海賊たちのことなら心配ねーさ。まあ、連中の一味らしいのと
「……じゃあ、おとなしくしてたら危険はない、ってこと?」
「そういうことだ」
──たぶん、な。
内心つけ加えるケイン。
命令を無視してまで、メンツ回復のため、ケインたちにつっかかって来る奴など絶対いない、という保証はない。
例外というのは、どんなところにも転がっているものなのだ。
そのための用心に、サイ・ブレードも持ってきたのだ。
しかしその例外までをもおそれていては、それこそ人間、何もできない。
「さて……と、それじゃあ、どこに行くか、だな」
あたりをきょろきょろ見渡すケイン。
ほとんど車の姿もない大通りの向こうがわにも、ちらほらとネオンの明りが見える。
そんな中の
「あそこなんてどうだ? ほら、通りの向こうにある、青いネオンの、リカルドって店」
「まかせるわ」
チョコレートを一かけ、口の中にほうり込みながらうなずくミリィ。
「……そのチョコ……一体どこからわいて出る……?」
「女には
」
「……またそーゆーわけのわからんことを……」
言いながら、二人は大通りを横切って、
「なんだとぉ!? このアマ!?」
トラブルをふくんだ
事情のほどはわからないが、ともあれ、店の中では、ひとりの女性を相手に、数人の男たちがからんでいた。
「……たいしたカンねー……トラブルまっ最中の酒場を、もののみごとに選ぶんだから」
ミリィの皮肉もどこ
としの
その顔には、確かに見覚えがあった。
以前に、宇宙港で彼を、
「何よ!? 文句でもあるってぇの!?」
彼女は、まわりをとり囲む男たちにも、おびえたそぶりさえ見せずに言い放つ。
「大ありなんだよ! お高くとまりやがって!」
「えらそうにつっぱってやがっと、余計な痛ぇ目見るぞ。おら」
「ちょっと話があるからついて来い、って言ってるだけじゃねーか」
からんでいる男の数は三人、いずれも、全身
「うるさいわね! さっき、はっきり言ったでしょ! あんたたちみたいな馬鹿につきあう義理はない、って!
それとももう忘れちゃったの!?」
「……てめぇ……言わせておけば!」
男のこぶしがふり上がり──
ごめ。
それが、女に向かってふり下ろされるより早く、ケインは男をどつき
ざわざわ。
ざわつく店の客たち。
「──事情のほどはよくわからんが──」
完全に気を失った男の背中に片足を乗せ、さわやかとさえ言える口調でケインは言う。
「もめごとはよくねーぜ」
残る二人は一瞬絶句し、
「……て……てめーは事情もわかんねーもめごと
「男と女がモメてりゃあ、ふつー悪役は男と相場が決まってるもんでな。それに、あんたらその格好じゃあ、『オレたちが善玉だ』なんて言い張ったって説得力ねーぜ」
「てめぇっ! ぬけぬ……」
がひ。
男のことばが終わるより早く。
ケインの右こぶしが、男のあごを
彼は、残るひとりに目を向けて、
「──どうする?」
男はしばし
仲間二人を
「……わ……わかった……」
男は青い顔でうなずくと、
「おぼえといてやるよ」
男が、おさだまりの捨てゼリフを
「…………」
先手を取られ、男は無言で、立場のなさそーな顔のまま、仲間ふたりと連れ立って店をあとにした。
「──さて、と……」
ひとつ息を吐き、からまれていた女の方に向きなおるケイン。
彼女はやはり、今もなお、
「わけを聞かせてもらえるか?」
「うるさいわね」
しかし彼女の返事はミもフタもなかった。
「どうせあんたも、あの連中の同類なんでしょう!?」
「……おいおい……」
「知ってるんだからね! 人殺しの会社にシッポ
一方的に言い放つと、そのままくるりときびすを返し、店の外へと姿を消した。
「……なんなの……? 彼女……」
「……さぁ……」
ミリィに問われ、ケインは首をかしげた。
「──メリーナも、以前はあんな
つぶやく声はま近で聞こえた。
目をやれば、ケインたちのすぐ後ろ、ヨレたシャツに身を包んだ、
「聞きてぇか?……もっとも、そんなに
言って右手で、カラのグラスを
ケインは、男の
「──おい、このひとに水割りを」
「あー、ちょっと待った。若いの」
中年男は、ちっちっちっ、と指を振り、
「悪いがおれは、ブランデーしか
……こら、おやじ……
内心毒づきながらも、ケインはバーテンに向かってふたたび声をかける。
「──注文
「ロア・デ・ロアかクラブ・デ・レミーでいいぜ」
横から口をはさむ中年。
……く……くそおやぢぃぃぃっ!
思わずわき起こる
「──それで?」
「まあ待ちなって……へへ……」
運ばれてきたグラスを
ケインはグラスと引きかえに、しぶしぶバーテンに代金を渡す。
「……名前はメリーナ=コンセンス。
以前は、気のいい娘だったんだがな……ラグルドに勤めていた恋人が
言ってブランデーをひと口、
「海賊に?」
「ああ。恋人の名前は……たしか、アソートとか言ったっけな。ラグルド社で、宇宙貨物船の乗組員をやってたらしいんだが……
ふた月か三月前だったかな? それが海賊にやられちまってよ……
それっきり、働いてる店もやめちまってよ。
それが、ちょいと前から、おかしなことを言いはじめてよ。彼を殺したのはラグルドだ、ってよ。
……ちょうどラグルドが、護衛になんでも屋を
自分の恋人が乗ってた船には、護衛のひとつもついてなかったのが、腹にすえかねたんだろうけどなぁ……
ま、ショックだったってぇのはわかるけどよ」
言ってブランデーをもうひと口。
「──えらく
「……まあな……おれの知ってるのはこのくれぇか」
「ふぅん……」
ケインはしばし考えて、
「彼女の住んでるところは?」
「そりゃあ知らねえ」
「なら──その、前に働いてたところ、ってぇのは?」
ケインに問われて、男はひとの悪い笑みを浮かべ、
「ここだよ」
「……へ……?」
思わず間の
「……ここ……って……」
「そう。この酒場で働いてた。今でもああして、ちょくちょく顔を出す。オレは常連のひとりでね。だからいろいろ知ってた、ってことさ」
「……ち……ちょっと待て……」
ケインはこめかみを
「……てぇことは何か!? 俺は別に、わざわざあんたにブランデーなんぞおごらなくたって、酒の
「同じことが聞けた、ってぇのはまちがいだ」
中年おやじはしゃあしゃあと、
「たぶん──もっと詳しい話が聞けた」
ケインはしばし
「おぉい! なんでそれならそうと言ってくれねぇんだ!?」
「……
苦笑を
後ろで聞こえるミリィのくすくす笑い。
「──で? ご注文は何にします?」
問うバーテンに、ケインは大きなため息をつき、
「……水でいい……」
警察署の中はやたらとごった返していた。
タイプライターのキーを
ケインとミリィが、ケレス・シティの警察署を
目的はむろん、レイルから情報を聞き出すこと。
あいかわらず、深く首を
「
「会議室」
手近にいた男にケインが聞くと、答えはあっさり返ってきた。お前は
けっこういいかげんなものではある。
男が指した通路を行くと、『宇宙海賊
部屋の扉は開いていた。
かなりの広さの会議室に、レイルはひとり、ぽつりと腰かけ、何やら書類に目を通していた。
「よぉ。レイル」
手を上げてあいさつするケインに、ちらり、とだけ視線を走らせて、
「──ケインか」
おもしろくもなさそうに言う。
「何やってんだ? こんなとこにひとりで。それともトモダチいねーのか?」
「ちょっと
あいそもくそもなしに言う。
「そういうわけじゃないんだが……
なあ、まえに俺たちではり
「──忙しい、と言ったはずだが?」
ふりむきさえせずに言われて、ケインは、ちらりっ、とミリィに目くばせをする。
彼女は小さくうなずいて、
「ねーレイルさん
できたら
」
「……うくっ……」
ミリィに声をかけられて、彼は小さな声でうめいた。何かに
「……いえ……しかし……たとえ知りあいとは言っても、あまり捜査の内容を外に
「……こんど、海へ泳ぎにでも行きません?」
「何でも聞いてください、お
「……お前……時々自分が悲しくならねーか……」
しかしやはり、レイルはケインのツッコミを無視し、ミリィに手近な席をすすめる。
テーブルをはさみ、レイルに向かいあうかたちで腰を下ろすケインとミリィ。