宇宙海賊スペース・パイレーツ


 ……おぉ……おぉぉぉ……ん……

 その部屋には、いつもその音が満ちていた。

 やみいろまったの中にたたずひとかげは、ふたつ。

 銀色のかみの老人は、静かにめいもくしたままで、ダーク・スーツの男の報告を聞いていた。

 アルバート=ヴァン=スターゲイザー。

 表の顔は、巨大ぎよう、ゲイザー・コンツェルンの会長。

 そしてもう片方の顔は、銀河規模のはんざい結社『ナイトメア』のそうすい──

「──最後に、4─3─B区域でのじようきようですが……」

 かたすみに佇んで、もう一人の男、ダーク・スーツ姿は、手にした報告書を読み上げる。

 地位としては、この『ナイトメア』ではナンバー2だが、やっていることは実質上、スターゲイザーの秘書である。

 しかし、彼に不満はなかった。

 彼がこの世界に足をみ入れたのは、十代のころ。

 彼にはかつて、才能と自信、そして野心とがあった。

 いつかは上に登りつめ、アルバートにかわって、この『ナイトメア』を支配する、という野心が。

 ──アルバート様は……あのかたはかいぶつだ──

 そうささやく幹部たちを、彼は内心、鼻の先で笑ったものだった。

 たとえ相手がどんな怪物だろうと、この手でひきずり下ろしてみせる。それだけの自信もあった。

 しかし──

 彼の働きが認められ、はじめてスターゲイザーと会った時──

 彼の考えは変わった。

 うわさは大噓だった。

 アルバート=ヴァン=スターゲイザーは、怪物などではなかった。

 そんなありきたりなで片づけられるような相手ではなかったのだ。

 地位や肩書きにではなく、アルバートの存在そのものに彼は──彼のたましいそのものはきようした。

 理由はいまだにわからない。

 その魂のふるえは、アルバートの右腕として働く今でも消えてはいない。

 うっすらと汗をにじませながら、彼は今日の報告を続ける。

「──過日もご報告しました、ウィナラーン星域──我々『ナイトメア』の領域にしんにゆうした宇宙海賊スペース・パイレーツたちの件ですが……

 とうばつ艦隊を送ったのですが──そのほとんどが──げきちんされました……」

 ダーク・スーツはしばしことばを切った。

 しかし、アルバートからのはんのうはない。

「……生き残ったものの報告によりますと、一隻だけ、海賊パイレーツたちの中に、ずばけてせんとう能力の高い、見慣れない宇宙船ふねがあったそうです」

「──ほう」

 つぶやいて、スターゲイザーは目を開いた。

むらさきがかった黒いひとみに、しずかに見すえられたそれだけで、重圧感が数倍に増す。

「……映像記録もありますが……」

「写真でいい。見せてもらおう」

「……はっ……」

 ダーク・スーツはゆっくりと歩み寄り、一枚の写真をスターゲイザーに手渡した。

「──ほう……」

 その写真に目を落とし、アルバートはもう一度、おもしろそうにつぶやいた。

 ダーク・スーツは、もといた位置にまでもどり、

「──それとこの一件に、トラブル・コントラクターのケイン=ブルーリバーがかかわってきているようです」

「──あいつがか!?

 声に混じった敵意の色に、ダーク・スーツは思わず、びくんっ! とちいさく体をふるわせた。

 彼は、以前にスターゲイザーが、その名を気にかけていたのを思い出し、報告しただけなのだが、それが、ここまでの反応を引き出せるとは思わなかった。

 どういった事情があるのかきようはわいたが、この世界では、興味半分のこうしんは容易にめつにつながることを、彼は熟知していた。

「──本日の報告は、以上です」

「わかった。退がれ」

「はっ」

 一礼を残して、ダーク・スーツはそのをあとにした。

 あとに残ったのは、スターゲイザーと──そしてやみだけ。

「……聞いたか?」

 見慣れぬ宇宙船の写った写真を片手に、アルバートは『闇』に問いかける。

『……むろんだ』

 闇は問いかけに答えた。

 部屋そのものがふるえているかのような声で。

「──遺失宇宙船ロスト・シツプだ。『闇を撒くものダーク・スター』、お前と同じ、な」

遺失宇宙船ロスト・シツプだ。……しかし、かんちがいするな、アルバートよ。それはただの遺失宇宙船ロスト・シツプだ。私ほどの力はない。ほろびをもたらすほどの力は……』

「お前は特別──か」

『……そうだ。そんなものに、私を滅ぼすだけの力はない。しかし、私をきずつける程度のことならばできるだろう。

 ……ざわりだ……

 そして、それ以上に目障りなのが……』

「ヴォルフィード──お前を滅ぼす力を持ったゆいいつの相手──

 たおせるのか? 『闇を撒くものダーク・スター』よ?」

 答えが帰ってくるまで、しばしの間があった。

『滅ぼす』

 闇は、いかりとぞうとに満ちていた。