ゴドゥンッ!


 ばくおんが、店全体をゆるがした。


「──う……」

「あつつつつ……」

 口々に小さくうめきながら、ケインとレイルは身を起こした。

 どうやら一瞬、意識を失っていたらしい。

 爆発が、実質、店の外で起こったのと、とっさに身をせたのとで、たいしたダメージは受けなかったが、それでも、爆音のせいで耳はマヒし、どこかで打ったか、体のあちこちが痛む。

 ついでに言うなら、ケインごまんのマントも、どこかに引っかけたらしく、破れてたれ下がっていた。

「──ミリィは!?

 ケインが視線を移した先、ななめにかしいだテーブルの下から、彼女がごそごそい出してくる。

 爆発の瞬間、ケインがミリィの頭をおさえこんで、つっさせたのだ。

 どうやらこちらも無事のようである。

「……な……何なのよ!?

 ぼやいても、耳のマヒしたケインやレイルには聞こえない。

 とりあえず三人は無事だったが、店はひどいありさまだった。

 ガラス窓はことごとく爆風でくだけ散り、入り口は、大きなただのあなと化していた。

 ──バッグを持っていたウェイトレスは、おそらく原形すらとどめていないだろう。

 いすやテーブルも、その大半がなぎたおされて、ゆかには無数のガラスの破片と、血がとび散っていた。

 ケインたちのほかにも、助かった者はかなりいたが、さすがにきずというわけにはいかなかったようである。

 生き残ったものたちのらす、じゆにすら似た苦痛のうめきがあたりに満ちていた。

 思わずぼうぜんと立ち尽くすレイル。

「──まさか……いきなり、こうも派手にやってくれるとはな……」

「あいつらぁぁぁっ!」

 ひと声えて、ケインは身をひるがえす。

 何をするかはむろん言うまでもない。追うのだ。今の男たちを。

「よせ! ケイン! 今から追ってもムダだ!」

 耳がマヒしているせいなのか、あるいは怒りのためなのか、レイルのことばは、ケインの耳にはとどかない。

「──あたしもっ!」

 言ってケインのあとを追うミリィ。

「ちょっ……!──えぇいっ!」

 レイルもしかたなくあとを追う。

 ケインが店の外に出た時には、当り前と言えば当り前だが、あたりには、例の男二人の姿はすでになく、かわりに、やじ馬たちが集まって来ていた。

 ようやく耳ももとにもどってきたのか、近づいてくるサイレンの音が聞こえてくる。

「──あんたら! 二人組の男を見なかったか!? ジーンズ・ジャケット着たひょろ長いノッポとぶとりのヒゲづらだ!」

 しかしケインの呼びかけにも、誰からもこたえは返って来ない。

「──えぇいっ!」

 近くでやはり、やじ馬を決めこんでいた、一台のタクシーに飛び乗るケイン。

「……な……何があったんだね!?

「あとで話す!」

「とにかく出して!」

 ケインのあとから乗り込み、言うミリィ。

「出せ……って言われたって……どこまで!?

「五十二番街だ」

 さらにその後ろから、シートに体をし込みながらレイルは言った。

 運転手は、ロコツにしぶい顔をして、

「──お客さん、あのあたりはやめた方がいい。あそこは──」

「知っている。だから行くんだ。やってくれるな?」

 運転手のセリフをさえぎって、星間警察ユニバーサル・ガーデイアンのバッジをちらつかせるレイル。

「──わかりやした……」

 しかたなく車を出す運転手。

「──何なんだ? その、五十二番街ってのは?」

「いろいろ調べててな。どうやらそこが、連中のたまり場になってるらしい。

 ……まあ、今の連中がそっちへ逃げた、って保証はないが、他に心あたりがない以上、あたってみるしかないだろ?」

「……いーんですか? ンなことしゃべっちゃって……?」

「よくないんですよ。本当は」

 ミリィの問いに答えるレイル。

 その視線は、窓の外へと向けられている。

 もしも男たちが、同じ方向に向かっていたとしても、何かのはずみで追いしてしまうおそれもある。

 三人を乗せたタクシーは、街の中心部をはずれ、だんだんと、うらさびれた場所へと向かって行く。

 うらさびれた、といっても、建物が少ないという意味ではない。

 都市計画からつまはじきにされたのか、あるいはまだ手がつけられていないのか、ちてなおたたずむビルの群れが、そのシルエットをくろぐろと、星明りを背にかび上がらせていた。

 アパートのたぐいなのだろう。それほど高いビルではない。それでもところどころ、かすかな明りのれる窓があるところを見ると、やはり誰かがまだ住んでいるのだろう。

 街灯は、誰かにたたき割られでもしたか、そのことごとくは光のかけらすら放つことなく、ただの鉄柱と化していた。

 車はさらに通りをけて──

「ストップ!」

 きききぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

 やおらミリィの上げた声に、ブレーキをみ込む運転手。

 車はすでに、五十二番街にさしかかっていた。

「戻って! 前の角!」

「いたのか!?

「わからないけど……! 似てた!」

 車はバックで、前の角までかけもどり──

「あっち! あの車のそばにいたの!」

 ミリィの指さすその向こうには、町の一区画ブロツクほどをへだてて、通りにたたずむ一台の車。

 ナンバー・プレートなどはなく、ほかにもバックミラーやらヘッド・ライトの片方やらが欠けていた。どこから見ても立派なとうなんしやである。

 あたりにひとかげはなく、今はただ、その車だけがぽつねんと、どこからともなくれるかすかな明りの中にうずくまっていた。

「──本当に見たのか!?

「よく似た誰かがいたことはまちがいないわ! 車、まわして!」

 タクシーはすぐに方向を変え、まったままの車のそばに横づけする。

 すぐさま車を飛び出すケイン。そのあとにミリィが続く。

「ここで待っててくれ。十分でいいから」

 料金より、かなり多いめの金を運転手ににぎらせて、レイルも続いて飛び出した。

 彼が車の外に出た時、ケインはすでにかけ出していた。その向かう先に視線を送れば、の奥、見覚えのある男二人の影が見えた。

「大当りっ!」

 つぶやいてレイルもダッシュをかけた。

 男二人はこちらに気づき、いつしゆん立ち止まったあと、路地の奥へと向かってかけ出す。

 がすかっ!

 ものを追うけものの表情で走るケインのその横に、ミリィがならび、すこしおくれてレイルが続く。

 ぴぃぃぃぃぃっ!

 かんだかい音が夜の街にひびいた。

 前を行く男のどちらかが、ゆびぶえき鳴らしたのだ。

 何かのあいであることはちがいないが、それでもケインたちは止まらない。

 やがてすぐ。横手の細い裏路地から、ぱらぱらと、数人の男たちが、逃げる二人と追うケインたちの間をふさぐように現われた。

 いちもくりようぜん、考えるまでもなく、前を行く二人の仲間だろう。しかたなく、ミリィとレイルは足を止め──

 ケインはさらに加速をかける!

 これは予想していなかったらしく、一瞬ひるむ男たち。そのただ中にケインがっ込んだ!

 男たちのひとりが右手をふところに突っ込んだ。しかしその手がナイフを引っぱり出すよりも早く──


 ごげぎっ!


 ケインの飛びりが、まともに男の顔面をとらえた。

 ──どぅっ。

 にぶい音を立て、あおむけにぶちたおれる男。その上をケインは飛びし、先を行く二人に追いすがる。

「──ムチャしやがって!」

 言ってふたたび走り出すレイル。ミリィはすでにかけ出している。

 ケインを追うか、あるいはレイルとミリィをむかえうつか。男たちにいつしゆんの迷いが生まれたその時。

 びしゅっ! ぶしゅっ!

 くぐもった数発の発射音とともに、男たちはぱたぱたとその場に倒れした。

 見ればミリィの右手には、いつの間にやら麻痺銃パラライズ・ガンがにぎられている。

「……どこから出したんですか!? そんなもの!?

「腰の後ろにかくしてたのっ!」

 走りながらたずねるレイルに答えるミリィ。

「けど、あんまり感心しませんね! いきなりつというのは!」

「だいじょーぶよ! 出力は最小! ちょっとっころぶ程度のもんよ!」

 彼女が持っている麻痺銃パラライズ・ガンは、出力の調整がくタイプのものである。出力を最強にすれば大型の動物でもたおせるが、弱くすれば、ほんの一、二分、体の自由がかなくなる程度のものである。

 げる男二人とケインとの間は、すこしずつではあるが、確実にまりつつあった。

 それにややおくれてミリィとレイルが続く。

 だがしかし。

 横あいの路地から飛び出したかげが、やおらミリィにとびかかった!

「きゃうっ!?

 思わず声を上げる彼女。

「ミリィ!?

 声を耳にしてふりかえったケインの目に、後ろから、ひとりの男にがいじめにされたミリィの姿が飛び込んできた。

 つづいて路地から、さらに数人の男たちが姿を現わす。

「へ! おとなしくしな! さもねえとこの女……」

 ぶしっ。

 みなまで言い終えるより早く。くぐもった発射音と同時に、へなり、と男はその場にたおれ込んだ。

 どうやらミリィの持つ麻痺銃パラライズ・ガンに気づかなかったようである。

「──このアマっ!」

 彼女は、くずおれた男の手をふりほどき、さけんでせまる一人にねらいをつけて引き金を引きしぼる!

 かち。

 むなしくひびくかわいた音。

 どうやら切れのようである。

「ををををををっ!?

 思わず声を上げたミリィに、男がっかかる直前。その男に向かって、横からレイルがタックルをかけた。

「ちっ!」

 別のひとりがナイフを片手にレイルに向かう。そこに突っ込んでくるケイン。

 男は目標をケインに変えて、彼に向かってナイフをふり下ろす!

「へたくそぉぉぉっ!」

 がづっ!

 男のおおりをゆうでかわし、ケインの放ったパンチが男の鼻づらにめり込んだ。

 レイルもその時には、組みあった相手のみぞおちにひざりをたたき込んで、地にわせていた。

 残るは二人。だがしかし──

 ばづっ!

「くぅっ!?

 くぐもった発射音とともに、右肩をおさえてうずくまるレイル。

「動くな!」

 声を上げた男の手には、小型のじゆうがあった。

 動きを止めるケインたち。

 男はケインをにらみすえ、視界のはしにレイルをらえたまま、

「……好きなようにやってくれたな……」

 ばげっ。

 男のことばが終わるより早く。ミリィの投げつけた麻痺銃パラライズ・ガンが、男の顔面をちよくげきした!

「くがっ!?

 男がのけぞったすきをがさず、ケインは、自分がたおした男の手からナイフをもぎ取り投げつける!

 男が二度目の悲鳴を上げたのを合図に、残ったひとりがあわてて逃げ出した。

 ケインの投げたナイフは、男の右肩に深々とつきさっていた。

 あとは男の側頭部に、り一発でカタはついた。

「ナイフ投げもやるのか……?」

 右肩をさえて立ち上がるレイル。

「まあな。もののことなら任してくれぃっ!」

 アブナイまんをするケイン。

「……ところでレイルさん、きず、だいじょーぶ?」

だいじようですよ。ご心配なく。……それより……」

「ああ……結局がしちまったな」

 道の彼方かなたへと目をやって、ケインはぽつりとつぶやいた。

「けどまあ、こいつらがいるからいーんじゃない?」

 気楽な調子で言うミリィに、ケインは大きく息をついた。

「……まあ……こいつらがすなおにしゃべくってくれりゃあ、だがな……」


 水平線にしずむ夕日が、世界をあかねいろめていた。

 オレンジ色の風景が、ひとの心に、もの悲しいような気分をわき起こさせるのはなぜだろう。

 宇宙港のロビーの窓から、夕日に染まるかつそうと、その向こうにひろがる海とをながめつつ、ミリィはなんとなくため息をついた。

 事件のあった翌日である。

 本来ならば、ケインとミリィもいろいろと、取り調べを受けねばならないところなのだろうが、そのあたりのことは、みんなレイルが引き受けてくれた。

 そのあと、レイルからのれんらくはまだない。

 ことのなりゆきは気になったが、ともあれ二人には本来のしごと──明日、出港するラグルド社の貨物船を護衛するしごとが待っていた。

 今からシャトル・バスで宇宙に出る。

 出発予定はあすの昼前。ひとりして、準備や手続きなどをやっていれば、時間はすぐに来るだろう。

 窓口では、ケインがシャトル・バスのとうじよう手続きを終え──

「──ケインくん?」

 横あいから声をかけられて、ケインはそちらに視線を移した。

 見覚えのある男がそこに立っていた。

 としは五十前後といったところか。仕立てのいいスーツを着込んだ、一部のスキもないビジネスマン・スタイル。白くまったかみの中に、一ふさだけ、茶の色が残っている。

 ケインがこのしごとを受けた時、星間通信に出た男。──たしか名は、マリガンとかいったはずだった。

「宇宙貨物部門、保安部長のマリガン=ハウエルだ」

「ケイン=ブルーリバーです」

 さし出された右手をにぎりしめるケイン。

「なんでも……きのうはとんださわぎにまき込まれたようだね」

「ご存知でしたか。……ええっと……あれ……?」

 ミリィをしようかいしようとあたりに視線をめぐらせるが、つい今しがたまで、窓のそばにいたはずの彼女の姿がない。

 あわててあたりを見回すケイン。ビジネスマン風の一団に親子連れ、こちらをじっと見ている若い女……

「──ん?」

 ケインは思わず、その若い女に目を止めた。見たことすらない顔だが、こちらを見つめるその視線に、敵意にさえ似た色が混じっていた。

 しかし、視線を合わした次のしゆんかんには、女は、ぷいっ、と自分から視線をそらす。

「──どうしたのかね? ケインくん?」

「ああ──いや──」

 マリガンの問いにあいまいに答えをにごし、

「助手がいましてね……紹介しようと思ったんですけど……たぶんトイレにでも行ってるんでしょう」

「なるほど……ところでケインくん、きのうのあの事件、やはり海賊パイレーツがらみかね?」

「おそらく……もっとも、しようは出ないでしょうけどね」

「……そうか……」

 つかれたように、大きく息をつくマリガン。

星間警察U・Gにもがんばってもらわんとな。海賊パイレーツどもをなんとかしてもらわんことには、安心して仕事もできん。

 ──えーっと、確かきみは、明日の便の護衛についてくれるんだったね?」

「ええ。昼前に出発します」

「そうか。──まあ、気をつけて、がんばってくれ。それじゃあ私はこれで」

 一方的にそう言うと、ロビーにくつおとひびかせながら去ってゆく。

「今のひと誰?」

「うぉわっ!?

 いきなりま後ろからかかった声に、思わず声を上げ、ふり向くケイン。

 そこにはスーツ・ケースと紙バッグとをぶら下げたミリィがたたずんでいた。

「……どこへ行ってたんだ!? お前は?」

「売店。おいしーのよ。ここのチョコレート」

 にこにこ顔で言いながら、口もと近くまで中身のまった、大ぶりの紙バッグを目でさした。

「……これ……全部チョコなのか……?」

「そ。──で、誰だったの? 今のひと?」

「ああ。ラグルドの保安部長のマリガンってひとだ。ほら、らい引き受けます、ってれんらくした時、通信に出たおっさんがいただろ」

「ふーん。わざわざ見送りに来てくれたの?」

「いや──たぶん情報集めだ」

「情報集め?」

 小さく首をかしげ、おうむ返しに問うミリィ。

「ああ。きのうのさわぎを聞きつけたらしくてな。海賊パイレーツたちの動きが気になるんだろ。やっぱり」

「ふーん……でも、きのうつかまえた連中がいるから、そっちも時間の問題よね」

 はうぅぅぅぅぅぅぅ……

 のーてんきなミリィの発言に、思わず深い息をつくケイン。

「……何よ……それ?」

「あのなぁ……考えてもみろよ。きのう店にばくだんしかけた連中が、海賊パイレーツだってしようはねーんだぜ。なおかつ、きのうとっ捕まえた連中が、あの二人の仲間だって証拠もねえ。

 もしも捕まった連中が、『オレたちはただカツアゲしようとしただけだ』ってな噓をついてみろ。それで終わり、だ」

「……けど……!」

じようきよう証拠しかねーんじゃあ、どーしよーもねーよ」

「……そーすると……もうどーしよーもないわけ?」

「そーでもねーさ」

 陽気な笑みで言うケイン。

「きのうのさわぎでげたやつがいた。たぶんこれで、俺やお前の名前も、海賊パイレーツたちのブラック・リストにっただろーからな」

「……え……?」

 思わず顔を引きつらせるミリィ。

「ま、今回の護衛のしごとが終わって、ここに帰って来た時、二人してあやしいさかでもうろついてりゃあ、仲間のかたき、とばかり、あっちから寄って来るだろうよ」

「……だ……だろうよ……ってちょっと!? それってあたしたちも危ないってことじゃないのっ!?

「……お前……きのう連中追っかけてて、ヤバいって自覚なかったのか……?」

「……だ……だってぇぇぇぇっ!」

「──ま、先のことは先のこととして、今はとりあえずもどるぞ。へ」

「……ううっ……こーなるとわかってたら……」

 なおも何やらぶつぶつつぶやくミリィを連れて、ケインはシャトルのとうじよう口へと向かった。

 しかし、ミリィにはああ言ったものの、ケインはむろん、海賊パイレーツたちに深くかかわる気などはなかった。

 今は、まだ。