ゴドゥンッ!
「──う……」
「あつつつつ……」
口々に小さくうめきながら、ケインとレイルは身を起こした。
どうやら一瞬、意識を失っていたらしい。
爆発が、実質、店の外で起こったのと、とっさに身を
ついでに言うなら、ケインご
「──ミリィは!?」
ケインが視線を移した先、ななめにかしいだテーブルの下から、彼女がごそごそ
爆発の瞬間、ケインがミリィの頭をおさえこんで、つっ
どうやらこちらも無事のようである。
「……な……何なのよ!?」
ぼやいても、耳のマヒしたケインやレイルには聞こえない。
とりあえず三人は無事だったが、店はひどいありさまだった。
ガラス窓はことごとく爆風で
──バッグを持っていたウェイトレスは、おそらく原形すらとどめていないだろう。
いすやテーブルも、その大半がなぎ
ケインたちのほかにも、助かった者はかなりいたが、さすがに
生き残ったものたちの
思わず
「──まさか……いきなり、こうも派手にやってくれるとはな……」
「あいつらぁぁぁっ!」
ひと声
何をするかはむろん言うまでもない。追うのだ。今の男たちを。
「よせ! ケイン! 今から追ってもムダだ!」
耳がマヒしているせいなのか、あるいは怒りのためなのか、レイルのことばは、ケインの耳には
「──あたしもっ!」
言ってケインのあとを追うミリィ。
「ちょっ……!──えぇいっ!」
レイルもしかたなくあとを追う。
ケインが店の外に出た時には、当り前と言えば当り前だが、あたりには、例の男二人の姿はすでになく、かわりに、やじ馬たちが集まって来ていた。
ようやく耳ももとに
「──あんたら! 二人組の男を見なかったか!? ジーンズ・ジャケット着たひょろ長いノッポと
しかしケインの呼びかけにも、誰からも
「──えぇいっ!」
近くでやはり、やじ馬を決めこんでいた、一台のタクシーに飛び乗るケイン。
「……な……何があったんだね!?」
「あとで話す!」
「とにかく出して!」
ケインのあとから乗り込み、言うミリィ。
「出せ……って言われたって……どこまで!?」
「五十二番街だ」
さらにその後ろから、シートに体を
運転手は、ロコツに
「──お客さん、あのあたりはやめた方がいい。あそこは──」
「知っている。だから行くんだ。やってくれるな?」
運転手のセリフをさえぎって、
「──わかりやした……」
しかたなく車を出す運転手。
「──何なんだ? その、五十二番街ってのは?」
「いろいろ調べててな。どうやらそこが、連中のたまり場になってるらしい。
……まあ、今の連中がそっちへ逃げた、って保証はないが、他に心あたりがない以上、あたってみるしかないだろ?」
「……いーんですか? ンなことしゃべっちゃって……?」
「よくないんですよ。本当は」
ミリィの問いに答えるレイル。
その視線は、窓の外へと向けられている。
もしも男たちが、同じ方向に向かっていたとしても、何かのはずみで追い
三人を乗せたタクシーは、街の中心部をはずれ、だんだんと、うらさびれた場所へと向かって行く。
うらさびれた、といっても、建物が少ないという意味ではない。
都市計画からつまはじきにされたのか、あるいはまだ手がつけられていないのか、
アパートのたぐいなのだろう。それほど高いビルではない。それでもところどころ、かすかな明りの
街灯は、誰かに
車はさらに通りを
「ストップ!」
きききぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
やおらミリィの上げた声に、ブレーキを
車はすでに、五十二番街にさしかかっていた。
「戻って! 前の角!」
「いたのか!?」
「わからないけど……! 似てた!」
車はバックで、前の角までかけ
「あっち! あの車のそばにいたの!」
ミリィの指さすその向こうには、町の一
ナンバー・プレートなどはなく、ほかにもバックミラーやらヘッド・ライトの片方やらが欠けていた。どこから見ても立派な
あたりに
「──本当に見たのか!?」
「よく似た誰かがいたことはまちがいないわ! 車、まわして!」
タクシーはすぐに方向を変え、
すぐさま車を飛び出すケイン。そのあとにミリィが続く。
「ここで待っててくれ。十分でいいから」
料金より、かなり多いめの金を運転手ににぎらせて、レイルも続いて飛び出した。
彼が車の外に出た時、ケインはすでにかけ出していた。その向かう先に視線を送れば、
「大当りっ!」
つぶやいてレイルもダッシュをかけた。
男二人はこちらに気づき、
ぴぃぃぃぃぃっ!
前を行く男のどちらかが、
何かの
やがてすぐ。横手の細い裏路地から、ぱらぱらと、数人の男たちが、逃げる二人と追うケインたちの間を
ケインはさらに加速をかける!
これは予想していなかったらしく、一瞬ひるむ男たち。そのただ中にケインが
男たちのひとりが右手をふところに突っ込んだ。しかしその手がナイフを引っぱり出すよりも早く──
ごげぎっ!
ケインの飛び
──どぅっ。
にぶい音を立て、あおむけにぶち
「──ムチャしやがって!」
言ってふたたび走り出すレイル。ミリィはすでにかけ出している。
ケインを追うか、あるいはレイルとミリィを
びしゅっ! ぶしゅっ!
くぐもった数発の発射音とともに、男たちはぱたぱたとその場に倒れ
見ればミリィの右手には、いつの間にやら
「……どこから出したんですか!? そんなもの!?」
「腰の後ろに
走りながら
「けど、あんまり感心しませんね! いきなり
「だいじょーぶよ! 出力は最小! ちょっと
彼女が持っている
それにやや
だがしかし。
横あいの路地から飛び出した
「きゃうっ!?」
思わず声を上げる彼女。
「ミリィ!?」
声を耳にしてふりかえったケインの目に、後ろから、ひとりの男に
つづいて路地から、さらに数人の男たちが姿を現わす。
「へ! おとなしくしな! さもねえとこの女……」
ぶしっ。
みなまで言い終えるより早く。くぐもった発射音と同時に、へなり、と男はその場に
どうやらミリィの持つ
「──このアマっ!」
彼女は、くずおれた男の手をふりほどき、
かち。
むなしく
どうやら
「ををををををっ!?」
思わず声を上げたミリィに、男が
「ちっ!」
別のひとりがナイフを片手にレイルに向かう。そこに突っ込んでくるケイン。
男は目標をケインに変えて、彼に向かってナイフをふり下ろす!
「へたくそぉぉぉっ!」
がづっ!
男の
レイルもその時には、組みあった相手のみぞおちに
残るは二人。だがしかし──
ばづっ!
「くぅっ!?」
くぐもった発射音とともに、右肩をおさえてうずくまるレイル。
「動くな!」
声を上げた男の手には、小型の
動きを止めるケインたち。
男はケインをにらみすえ、視界の
「……好きなようにやってくれたな……」
ばげっ。
男のことばが終わるより早く。ミリィの投げつけた
「くがっ!?」
男がのけぞったすきを
男が二度目の悲鳴を上げたのを合図に、残ったひとりがあわてて逃げ出した。
ケインの投げたナイフは、男の右肩に深々とつき
あとは男の側頭部に、
「ナイフ投げもやるのか……?」
右肩を
「まあな。
アブナイ
「……ところでレイルさん、
「
「ああ……結局
道の
「けどまあ、こいつらがいるからいーんじゃない?」
気楽な調子で言うミリィに、ケインは大きく息をついた。
「……まあ……こいつらがすなおにしゃべくってくれりゃあ、だがな……」
水平線に
オレンジ色の風景が、ひとの心に、もの悲しいような気分をわき起こさせるのはなぜだろう。
宇宙港のロビーの窓から、夕日に染まる
事件のあった翌日である。
本来ならば、ケインとミリィもいろいろと、取り調べを受けねばならないところなのだろうが、そのあたりのことは、みんなレイルが引き受けてくれた。
そのあと、レイルからの
ことのなりゆきは気になったが、ともあれ二人には本来のしごと──明日、出港するラグルド社の貨物船を護衛するしごとが待っていた。
今からシャトル・バスで宇宙に出る。
出発予定はあすの昼前。ひと
窓口では、ケインがシャトル・バスの
「──ケインくん?」
横あいから声をかけられて、ケインはそちらに視線を移した。
見覚えのある男がそこに立っていた。
としは五十前後といったところか。仕立てのいいスーツを着込んだ、一部のスキもないビジネスマン・スタイル。白く
ケインがこのしごとを受けた時、星間通信に出た男。──たしか名は、マリガンとかいったはずだった。
「宇宙貨物部門、保安部長のマリガン=ハウエルだ」
「ケイン=ブルーリバーです」
さし出された右手をにぎりしめるケイン。
「なんでも……きのうはとんだ
「ご存知でしたか。……ええっと……あれ……?」
ミリィを
あわててあたりを見回すケイン。ビジネスマン風の一団に親子連れ、こちらをじっと見ている若い女……
「──ん?」
ケインは思わず、その若い女に目を止めた。見たことすらない顔だが、こちらを見つめるその視線に、敵意にさえ似た色が混じっていた。
しかし、視線を合わした次の
「──どうしたのかね? ケインくん?」
「ああ──いや──」
マリガンの問いにあいまいに答えを
「助手がいましてね……紹介しようと思ったんですけど……たぶんトイレにでも行ってるんでしょう」
「なるほど……ところでケインくん、きのうのあの事件、やはり
「おそらく……もっとも、
「……そうか……」
「
──えーっと、確かきみは、明日の便の護衛についてくれるんだったね?」
「ええ。昼前に出発します」
「そうか。──まあ、気をつけて、がんばってくれ。それじゃあ私はこれで」
一方的にそう言うと、ロビーに
「今のひと誰?」
「うぉわっ!?」
いきなりま後ろからかかった声に、思わず声を上げ、ふり向くケイン。
そこにはスーツ・ケースと紙バッグとをぶら下げたミリィが
「……どこへ行ってたんだ!? お前は?」
「売店。おいしーのよ。ここのチョコレート」
にこにこ顔で言いながら、口もと近くまで中身の
「……これ……全部チョコなのか……?」
「そ。──で、誰だったの? 今のひと?」
「ああ。ラグルドの保安部長のマリガンってひとだ。ほら、
「ふーん。わざわざ見送りに来てくれたの?」
「いや──たぶん情報集めだ」
「情報集め?」
小さく首をかしげ、おうむ返しに問うミリィ。
「ああ。きのうの
「ふーん……でも、きのう
はうぅぅぅぅぅぅぅ……
のーてんきなミリィの発言に、思わず深い息をつくケイン。
「……何よ……それ?」
「あのなぁ……考えてもみろよ。きのう店に
もしも捕まった連中が、『オレたちはただカツアゲしようとしただけだ』ってな噓をついてみろ。それで終わり、だ」
「……けど……!」
「
「……そーすると……もうどーしよーもないわけ?」
「そーでもねーさ」
陽気な笑みで言うケイン。
「きのうの
「……え……?」
思わず顔を引きつらせるミリィ。
「ま、今回の護衛のしごとが終わって、ここに帰って来た時、二人して
「……だ……だろうよ……ってちょっと!? それってあたしたちも危ないってことじゃないのっ!?」
「……お前……きのう連中追っかけてて、ヤバいって自覚なかったのか……?」
「……だ……だってぇぇぇぇっ!」
「──ま、先のことは先のこととして、今はとりあえず
「……ううっ……こーなるとわかってたら……」
なおも何やらぶつぶつつぶやくミリィを連れて、ケインはシャトルの
しかし、ミリィにはああ言ったものの、ケインはむろん、
今は、まだ。