男とケインをかち合わせ、険悪なムードが
まさか、ケインがいきなり相手を
「てめえっ!」
「よくもっ!」
奥の席から、ジェスの仲間がやって来る。
「かかって来やがれっ!」
「そうさせてもらう!」
がばぁっ! とジェスは一気に身を起こした。
バランスを崩し、数歩たたらを
「タフだねぇ! そう来なくちゃな!」
不敵な笑みを浮かべる彼に、一気に男たちがかかってゆく!
そして、
波間を
ひろがるほろ苦い
「──やっぱり海はいいわねー」
カウンターの奥では、店のおやじさんが、
──
完全に現実
「てめえっ! このやろ! このやろっ!」
「きぃぃさぁぁまぁぁぁぁぁ! これでもかこれでもかっ!」
「こーしてこーしてこーしてやるっ!」
組んずほぐれつするうちに、戦いは、乱戦の様相を
そこには、もはや敵も味方もなく、
子供のケンカ、という言い方もできる。
しかし、そんな楽しいひととき(?)も、そう長くは続かなかった。
「きさまら! 何をさわいでいる!」
いきなりわき起こった声に、一同の動きがぴたりっ、と止まった。
しばしの
戸口には、三人の男が立っていた。
先頭のひとりは私服だが、あとの二人は制服姿。見まごうことなき警察官。
店の外から、中の乱闘さわぎに気がついた、通行人が通報したのだが……
「──ケイン!?」
私服が思わず上げた声に、ケインたちに向かって
「……お……お知りあいですか? レイル警部?」
「……ま……まあな……」
問いかけに、レイルはあいまいにうなずいた。
レイル=フレイマー。さらりと
ケインとレイルは以前にも、いくつかの事件で、かかわりあいになったことがあった。
世に言う、『典型的な
「……レ……レイル……なんでお前がこんなところに……?」
「それはこっちのセリフだ」
つぶやくケインに
「しかしケイン……お前、どこででも乱闘さわぎ起こしてるが……
「や……やかましいっ! そっちこそ、なんだって
しかしレイルは、そちらには目もくれず、
「たまたま近くにいたんだ。仕方ないだろう。まさか無視するわけにもいかんからな。
──いや。そんなことより。
この騒ぎは一体何なんだ?」
またまた後ろでざわつくジェスたち。
ケインが
しかしケインは、ひょこっ、と肩をすくませて、
「なぁに。知りあいとじゃれてただけだよ。──そりゃまあ……ちょいと度がすぎたかもしれねえけどな……
けどまあ、ケガ人が出たってわけじゃなし、
言われてレイルはしばし
彼は、やはりかわらずグラスを
「──わかった」
沈黙を、無言の
彼とてもこんなこと、わざわざ事件にしたくはない。たいした
「なら、あとは
「レイル!」
言い放ち、きびすを返したレイルの背に、ケインの声がかかった。
「何だ?」
「……その……クレイブのことは……すまなかった」
言われて沈黙するレイル。
『クレイブ』の名が何を意味するのか、
そしてようやくレイルは、ただの『道具』として利用した、見も知らぬ男のことを思い出した。
「──忘れてくれ。お前が悪いわけじゃない」
言って戸口へと向かう。
二人の制服警官も、やや
そして、店内に、ふたたび静けさが
「……そのぅ……助かったぜ……」
ややあって、ばつの悪そうな声をケインにかけたのはジェスだった。
ケインは気にしたふうもなく、ぱたぱた手を
「俺もめんどうはごめんだからな。追っ
ミリィもようやく他人のフリをやめ、ケインの
「……改めて自己
「ケインだ。こっちはミリィ。一応助手をやってもらってる」
「助手?」
おうむ返しに聞きながら、ジェスはケインの隣のテーブルにかける。
「ああ。しがない
ケインが言ったそのとたん、ジェスと仲間たちの表情から、
「……なんでぇ、ご同業じゃねーか」
『……は?』
ぽつり、とつぶやいたジェスのことばに、ケインとミリィが声を上げた。
「どうせあんたも、ラグルド社に
「……だー。まだ頭痛ぇ……」
つぶやいて、ケインはコップの水をあおった。
昨日、あのあと。
同業とわかるやいなや、仲間意識が芽ばえたか、いきなりケインとジェスたちとはうちとけた。
けっこう現金なものである。
なんでもジェスは、今日出発する貨物船の護衛につく、ということで、きのうの夜は、これでしばらく
調子に乗って飲みすぎたか、おかげで今日はまともに
午前は
レストラン、などと名はついてはいたが、
ついでに言うなら客の中にも、あまりガラのよくなさそうなのが混じっている。
はじめは、別のちゃんとしたレストランに入ろうとしたのだが、ケインのマント姿に、服装チェックが入ったのだ。
むろんそれで、ケインが自分の『ポリシー』とやらを変えるわけがなく、結局二人は、近くにあった、この店に入ったわけである。
「──だからきのう、『飲みすぎだよ』って言ったのに」
「……しかたねーじゃねーか。あの場合。つきあい、って言うか、その場のノリって言うか……」
ディナーセットをぱくつきながら言うミリィに、フォークでサラダをつつきながら、不満顔で答えるケイン。
店の見かけとはうらはらに、料理の味は悪くない。
「……けどジェスさん、だいじょーぶかなぁ? ケインより
「
「……目の前に、体調コントロールできてないプロがひとり、いるんだけど……」
「俺の
思わず声を上げたとたん、ふたたび頭に痛みが走る。
「……あいたたたたたたたたた……」
「……何やってんのよ……」
つぶやいて、ミリィはふと視線を上げて──
彼女はそこに、知った顔を見つけ出していた。
「──はぁい」
ケインの後ろ──店の戸口の方に向かって手を
つられてケインはふり返り──
店に入ってきたばかりの、レイルとまともに視線を合わせた。
「……レ……」
「……ケイン……」
その時になって、レイルはようやく、彼に向かって手を振ったのが、きのうケインが
「──ほう。こんなところまで来てナンパか。マメだな、お前も」
言いながらレイルは、二人のテーブルについた。
むろん別に、ケインと話がしたいわけではなく、あわよくばミリィを
「……助手だよ。こんど
ロコツにいやな顔をしながら言うケイン。
「ミリィだ。ミリィ、あらためて
「よろしく。お
ケインのイヤミをまるっきり無視して、レイルはミリィにウインクを送る。
「ミリィよ。よろしく」
ケインはふと、
「ところでレイル、まじめな話、あんたがここに来てるってのは、
「──ああ」
「捜査上のことは、あまり
「じゃあ、上っつらだけでいい。話を聞かせてくれ。
──だいたい見当はついてるだろーが、実は今回、ラグルド社の貨物船の護衛を引き受けちまってな」
「……しかしなぁ……」
「あたしもお話聞きたい
」
「いいでしょうお
「……レイル……お前、案外女に弱かったんだな……」
「このあたりに
レイルはケインを無視し、ミリィに向かって話しはじめた。
ちなみに標準時間というのは、人類
「むろん、
「ところが、実際はそうならなかったわけね……」
「そう。どういうわけか
──まあ、このあたりじゃあ、ラグルド以外に襲う相手なんていませんけどね。
ラグルドとしては、実質的な
そこで護衛に、トラブル・コントラクターを雇いはじめたんですけど……
それに怒ったのか、
こうなると、
「……こいつ……女相手だと
「けれどまあ、私たちが本気で乗り出した以上、海賊たちの
ケインのつぶやきをまたまた無視し、
「──そのわりにゃあ、何度か連中にしてやられてんじゃねーのか?」
ぴくっ。
さすがに今のセリフは聞き流せなかったか、ぎぎぃっ、と、レイルは顔をケインに向けた。
「……どういう意味だ? ケイン」
「いや。ただ、
で、いまだ海賊騒ぎがおさまっていないってことは、
ぴぴぴくっ!
レイルは顔を引きつらせ、視線をそらし、
「ノー・コメントだ」
イエスと言ったも同然だが、ここまで読まれてはとぼけようもない。
事実、
調子に乗って、さらにことばを続けるケイン。
「──そこで、だ。あんたは、この
「何だと!?」
まともに顔色を変えるレイル。
「気づかなかったのか? あんたがここに来たすぐあと、入ってきた二人組がいる。
とすれば、だいたいそんなところだろ?」
「──どいつだ?」
窓ガラスに映った店内を
「通路の向かい、ジーンズ・ジャケットのノッポと、ヒゲヅラの──今、立ち上がった」
問題の二人組は立ち上がり、テーブルの上にドリンクの代金を置き、
そのあとを追う、ウェイトレスひとり。
片手に黒いバッグを
「お客さぁん、お忘れ物ですよ」
ケインとレイルの頭にひらめくものがあった。
さまざまな映画でよくあるこの光景は──
「まさかっ!?」
「捨てろっ! そのカバンは──?」
レイルの声に、戸口から足を