それは、巨大な金属の
直径十キロは下らないだろう。
この惑星、レグンの衛星港のひとつである。
ふつうの衛星港はもっぱら、もとからあった衛星や、引っ張ってきた小惑星などをくり抜いて造られているものなのだが、この衛星港はめずらしく、完全人工物である。
「まちがいありません。ラグルド社所有の衛星港『ヴァルハリエ』です」
「ラグルド社所有?」
思わずつぶやくケイン。
「……なるほど……どーりで
護衛の
「……あれ? ねー、あれって
近くのゲートに停泊した、ダーク・ブルーの船体に、思わずつぶやきを
「
さも当然のように言うキャナル。
「……なんだってこんなとこにいるんだろ……?」
「
不安の色をにじませてつぶやくミリィに、しれっ、とあっさり言うケイン。
「ちょっとケイン、おどかさないでよ」
「おどかしてるんじゃなくて事実だよ。……ひょっとしてお前、気づいてなかったのか? 今回のしごと、
すずしい顔で言い放たれて、思わず絶句するミリィ。
ケインはため息ひとつつき、
「……あのなぁ……考えてもみろよ。なんでラグルド社が、護衛を
なんも問題がないなら、わざわざ金
それに、星間通信で
「……いや……そこまで聞いてなかったけど……」
不満顔でつぶやくミリィに、かまわずことばを続けるケイン。
「だいたい、『護衛が雇いたい』なんてしごとは、
となりゃ当然、
「ふしぎじゃねーわな、ってそんな、ひとごとみたいに……
それって、ひょっとしたら、海賊たちとドンパチやらなきゃなんないかもしれない、ってことなのよ!」
「そーだよ」
「それって、
確かに彼女の言う通り。
それがゆえに、独立星系に対しての
当然、
「知ってる」
やはりすずしい顔でケインはことばを返す。
「けどな、ミリィ、
ま、全部の貨物船に護衛をつけられるほど、
……もっとも、だからこそ俺たちみてーな
「けどな……って、そんな気楽に……
相手は
「だいじょうぶですよ。相手はただの
自信の笑みを
「……あ……そりゃそーね……」
言われて
そもそもこの
人類が銀河全土に進出した時、異星人との
そんな中、人々の
人類が今持っている宇宙船など、よせつけぬほどの性能を持ち、それゆえに、発見者や公的機関の手によって、その存在は秘されている、と。
むろん、単なる噂に過ぎない、というのが通説だが──
実は、ここに一
ばーちゃんがくれた、などという、小学生のオモチャのようないきさつで、ケインの船となったのだが、今は
むろんキャナルは知っているのだろうが、尋ねても、あいまいな笑みが返って来るだけだった。
「さて、と。
言ってケインは腰を浮かす。
ケインたちが護衛につくのは、三日後に出発する貨物船である。それまで、衛星港でたむろしていてもしかたない。
そういうわけで、結局二人は、レグンへと降りることにしたのだ。
シャトルの
やたらと親切なふうに思えるが、むろんホテルもシャトル便も、ラグルド社の経営するものなのだろうし、何もない衛星港でたむろされるより、レグンで遊んでくれた方がいいのだろう。
「行ってらっしゃい
」
にこにこ顔で見送るキャナル。
「ケイン、わたしがいないからって、ミリィ
」
「するかぁぁっ!」
「わあ」
惑星レグン最大の都市、ケレス・シティ。
宇宙港は、海のすぐそばだった。
「ねー見て見てケイン、海よ海!」
ロビーへと向かう間じゅう、窓の外にひろがる
「──海か……まあ、悪くねーわな」
護衛をしている時以外は、別に、何をしなければならない、ということもない。海水浴も悪くないだろう。
男の本能というやつで、思わずミリィの水着姿を想像するケイン。
「けどお前、泳げるのか?」
「泳ぐ?」
からかうつもりで言ったケインのことばに、ミリィはきょとん、とした顔で、
「何言ってんのよ。海と言ったら
「……シブイぞ……そのシュミは……」
などと会話をかわしつつ、手続きを済ませ、ロビーへと出る。
「……けどなんか……言っちゃあなんだけどガラ悪いわね……」
あたりにたむろする人々を
確かに彼女の言う通り、見るからにビジネスマン、どこから見ても観光客、といった連中もいるにはいるが、いかにもガラの悪そうな、
……まあ、その中で一番得体の知れないのが、今どきマントなんぞ着込んでいるケインではないか、という説もあるにはあるが。
ついでに言うなら、人もあまり多くない。ひろびろとしたロビーは、やたらとがらんとした印象を受ける。
二人の乗って来たシャトルも、がらがら、とまではいかないが、半分近くの席があいていた。なるほどこれなら、
そういえばシャトルにも、観光客やビジネスマンには見えないような連中の姿がちらほらしていたが……
「ああ。ご同業か、警察関係の私服
「海賊がこんなところにいるわきゃないでしょーが」
「わからんぞ。あーゆー連中ってぇのは、血も涙も脳ミソも人権もねえくせしやがって、食欲や性欲はいっちょまえだからな。近くの
「……またそーやって、ひとごとみたいに……」
「なーに、連中も
「……なら……いいけど……」
まだやや不安げな顔で、ミリィはぽつりとつぶやいた。
二人は宇宙港を出て、その近くにある、ラグルド社の用意してくれたホテルにチェックインする。
ラグルド社は、ちゃんと
おせじにも、高級ホテルとは言えないが、食費以外はタダなのだから文句も言えない。
ルーム・キーを受けとって、二人はそれぞれの部屋に行く。
ミリィの部屋は、海が見える一室だった。ケインの部屋はその
調度品や
「おーい。メシでも食いに行かねーか?」
「ほーい」
ドアの外からかかったケインの声に
外はまだまだ明るかった。
「……暑くない……ケイン……?」
やはりマントを
「暑い」
迷わずきっぱり答えるケイン。
「……マント
しかし彼は首を横に
「いーやっ! たとえどんなことがあろうと、マントは
それを、たかだか気温が高いてーどで、はい、そーですか、なんて脱げるかよっ! それこそ男がすたるってもんだ!」
……そのてーどですたるのか……男って生き物は……?
内心、ツッコミを入れるミリィ。
「……まあ、暑いことは確かだけどな……
メシのついでに、冷えたビールでも
「そーね
」
それに関しては、ミリィも異存はなかった。
夕食には早すぎる時間なのかもしれないが、腹が減っているものはしかたない。
宇宙と、いろいろな
困ったもんではあるのだが、こればかりはどうしようもない。
とりあえず二人は、海のそばにある店へと入って行った。
店内からはガラス
やはり時間がハズれているだけあって、店内に人は少ないが、それでも五、六人の先客がいた。
ミリィのことばを借りるなら、『いかにもガラの悪そうな』男たちばかりである。
男たちがミリィに送る
初老の、店のおやじさんに、ビールと軽食を注文する。
「──よぉ。ここははじめてかい?」
男のひとりがミリィに声をかけてきたのは、ビールが運ばれてきてすぐのことだった。
としは三十前後だろう。長身で、ひきしまった体に、ブラウンの
しかし、ヨレて
「観光かい? 悪くねーぜ、この
──どうだ?
ミリィは
彼女は小さく笑みを
「今はだめ。またの機会に、ね」
「……あ……ああ……」
ていよく外され、男はぽりぽり頭を
どっ! と、奥のテーブルに笑いが
「やっぱりフラれたな! ジェス」
「今夜の酒はお前のオゴリだぜ!」
どうやら男の仲間だったらしく、口々に男をはやし立てる。ミリィを
「や……やかましいっ! まだ決まったわけじゃねえっ!」
仲間にからかわれてムキになったか、ジェスはふたたびミリィに向きなおり、なおもしつこく食い下がる。
「……なぁ。そう
向こうでは、彼の仲間が、『しつこいぞー』だの『あきらめてオゴれ』だのと、口々に声を上げている。
ミリィも全く同感である。
「ごめんね。先約があってね」
言って彼女は、ちらりっ、と、視線をケインの方に向けた。
男が彼女に声をかけてきてからずっと、おもしろそーな顔をして、ことのなりゆきを見物しているケインに話をふってやる。
しかしジェスは、ケインの方を見むきすらせず、
「いいじゃねーか。こんな変なかっこうしてる
がたん。
音を立て、ケインがいすから立ち上がる。
ひくぅっ! と顔をこわばらせ、ミリィは思わず身を引いた。
ケインの顔には、いぜんとして笑みが浮かんでいるが、その目がちっとも笑ってない。
「……なんだ……? 文句でもあるのか?」
ジェスははじめて、ケインの方に体を向ける。
ケインはま近でジェスの顔を見上げ、にぃっ、と不敵な笑みを浮かべ、
「実はな──」
ごげっ!
ケインの放った一発の
相手のタイミングを外し、先手を取るという、とことんコソクながらも
だむっ!
ジェスは体を半回転させ、
その背中に、ケインは、ふみっ! と片足を乗せ、
「俺は口より先に手や足が出るタイプなんだよっ! わかったかっ!」
「ああああああっ! 気が短いっ!」
思わず頭をかかえるミリィ。