それは、巨大な金属のかたまりだった。

 直径十キロは下らないだろう。えんばんじようのそれのあちこちに、大小さまざまな宇宙船だの連絡艇シヤトルだのがまっている。

 この惑星、レグンの衛星港のひとつである。

 ふつうの衛星港はもっぱら、もとからあった衛星や、引っ張ってきた小惑星などをくり抜いて造られているものなのだが、この衛星港はめずらしく、完全人工物である。

「まちがいありません。ラグルド社所有の衛星港『ヴァルハリエ』です」

「ラグルド社所有?」

 思わずつぶやくケイン。

「……なるほど……どーりでていはく先を指示してきたわけだ……」

 護衛のけいやく期間中、衛星港の停泊料金とたいざい場所はラグルド社が持つ、という、ケインたちにとってはオイシイ条件があったのだが、早い話が、自社の持っているせつを提供し、かわりにらい料を安めに設定しているわけである。

 れんらくを入れて手続きを済ませ、やがて『ソードブレイカー』は、その船体を、衛星港の片すみにあるゲートへとせつげんした。

「……あれ? ねー、あれって星間警察U・Gの宇宙船じゃない?」

 近くのゲートに停泊した、ダーク・ブルーの船体に、思わずつぶやきをらすミリィ。

星間警察ユニバーサル・ガーデイアンの宇宙船ですよ」

 さも当然のように言うキャナル。

「……なんだってこんなとこにいるんだろ……?」

宇宙海賊パイレーツ退たいだろ」

 不安の色をにじませてつぶやくミリィに、しれっ、とあっさり言うケイン。

「ちょっとケイン、おどかさないでよ」

「おどかしてるんじゃなくて事実だよ。……ひょっとしてお前、気づいてなかったのか? 今回のしごと、かいぞくがらみだって」

 すずしい顔で言い放たれて、思わず絶句するミリィ。

 ケインはため息ひとつつき、

「……あのなぁ……考えてもみろよ。なんでラグルド社が、護衛をやといたがってたか。

 なんも問題がないなら、わざわざ金はらってンなことするわけねーだろ。

 それに、星間通信でけいやく条件こうしようしてた時、保安部のなんとかっておっさんが、しごとで宇宙船が破損した時、修理費は持つ、だの、危険手当はいくら払う、だのって言ってただろ?」

「……いや……そこまで聞いてなかったけど……」

 不満顔でつぶやくミリィに、かまわずことばを続けるケイン。

「だいたい、『護衛が雇いたい』なんてしごとは、宇宙海賊パイレーツがらみだと思ってまちがいねーんだよ。

 となりゃ当然、星間警察U・Gが出ばってても不思議じゃねーわな」

「ふしぎじゃねーわな、ってそんな、ひとごとみたいに……

 それって、ひょっとしたら、海賊たちとドンパチやらなきゃなんないかもしれない、ってことなのよ!」

「そーだよ」

「それって、星間警察U・Gのしごとじゃない!」

 確かに彼女の言う通り。

 星間警察ユニバーサル・ガーデイアンはもともと、複数の独立した星系にわたって活動をする、はんざい結社や宇宙海賊スペース・パイレーツたいこうするために創立されたのだ。

 それがゆえに、独立星系に対してのそうかいにゆうけんと、武力的にまさる相手に対抗するため、宇宙軍ユニバーサル・フオースの出動ようせいの権利を持っているのだ。

 当然、宇宙海賊スペース・パイレーツとうばつは、本来星間警察ユニバーサル・ガーデイアンのしごとである。

「知ってる」

 やはりすずしい顔でケインはことばを返す。

「けどな、ミリィ、海賊パイレーツが出るのはこのあたりだけじゃないし、星間警察U・Gかかえてる事件も海賊パイレーツだけじゃない。

 ま、全部の貨物船に護衛をつけられるほど、星間警察U・G宇宙船ふねを持ってるわけじゃあねーし、手が回らねーってのが実情だな。

 ……もっとも、だからこそ俺たちみてーなやっかいごと下請け人トラブル・コントラクターに、しごとが回ってくるわけだけどな」

「けどな……って、そんな気楽に……

 相手は宇宙海賊スペース・パイレーツなのよっ! す・ぺ・え・す・ぱ・い・れ・え・つ!」

「だいじょうぶですよ。相手はただの宇宙海賊スペース・パイレーツでしょ。たばになってかかってきたところで、わたしにはかないませんよ」

 自信の笑みをかべつつ、横から口をはさむキャナル。

「……あ……そりゃそーね……」

 言われてなつとくするミリィ。

 そもそもこの宇宙船ふね『ソードブレイカー』は、外見こそ、ただの宇宙船のフリをしてはいるが、これでもれっきとした(?)異星文明の産物である。

 人類が銀河全土に進出した時、異星人とのせつしよくはなかったものの、さまざまなわくせいで、かつてその地に住んでいた異星人のものらしきせきは次々と発見された。

 そんな中、人々のうわさに上りはじめたのが、遺失宇宙船ロスト・シツプの存在だった。

 人類が今持っている宇宙船など、よせつけぬほどの性能を持ち、それゆえに、発見者や公的機関の手によって、その存在は秘されている、と。

 むろん、単なる噂に過ぎない、というのが通説だが──

 実は、ここに一せきあったりする。

 ばーちゃんがくれた、などという、小学生のオモチャのようないきさつで、ケインの船となったのだが、今はき祖母のアリスが、なぜこんな宇宙船ふねを持っていたのか、ケインは知らない。

 むろんキャナルは知っているのだろうが、尋ねても、あいまいな笑みが返って来るだけだった。

「さて、と。なつとくしてくれたところで、そろそろ行こうか」

 言ってケインは腰を浮かす。

 ケインたちが護衛につくのは、三日後に出発する貨物船である。それまで、衛星港でたむろしていてもしかたない。

 そういうわけで、結局二人は、レグンへと降りることにしたのだ。

 シャトルのきつとホテルも、ラグルド社がちゃんと用意してくれていたりする。

 やたらと親切なふうに思えるが、むろんホテルもシャトル便も、ラグルド社の経営するものなのだろうし、何もない衛星港でたむろされるより、レグンで遊んでくれた方がいいのだろう。

「行ってらっしゃい

 にこにこ顔で見送るキャナル。

「ケイン、わたしがいないからって、ミリィたおしたりしちゃだめですよ

「するかぁぁっ!」


「わあ」

 連絡艇シヤトルから外に出るなり、ミリィは思わず声を上げていた。

 惑星レグン最大の都市、ケレス・シティ。

 宇宙港は、海のすぐそばだった。

「ねー見て見てケイン、海よ海!」

 ロビーへと向かう間じゅう、窓の外にひろがるあおい風景に、ひたすらはしゃぎまくるミリィ。

「──海か……まあ、悪くねーわな」

 護衛をしている時以外は、別に、何をしなければならない、ということもない。海水浴も悪くないだろう。

 男の本能というやつで、思わずミリィの水着姿を想像するケイン。

「けどお前、泳げるのか?」

「泳ぐ?」

 からかうつもりで言ったケインのことばに、ミリィはきょとん、とした顔で、

「何言ってんのよ。海と言ったらいそりよっ!」

「……シブイぞ……そのシュミは……」

 などと会話をかわしつつ、手続きを済ませ、ロビーへと出る。

「……けどなんか……言っちゃあなんだけどガラ悪いわね……」

 あたりにたむろする人々をながめて、ミリィは小声でつぶやいた。

 確かに彼女の言う通り、見るからにビジネスマン、どこから見ても観光客、といった連中もいるにはいるが、いかにもガラの悪そうな、たいの知れない連中も、わがもの顔でのし歩いている。

 ……まあ、その中で一番得体の知れないのが、今どきマントなんぞ着込んでいるケインではないか、という説もあるにはあるが。

 ついでに言うなら、人もあまり多くない。ひろびろとしたロビーは、やたらとがらんとした印象を受ける。

 二人の乗って来たシャトルも、がらがら、とまではいかないが、半分近くの席があいていた。なるほどこれなら、とうじようけんの一枚や二枚、タダで提供したところで、どうということはないわけである。

 そういえばシャトルにも、観光客やビジネスマンには見えないような連中の姿がちらほらしていたが……

「ああ。ご同業か、警察関係の私服そうか……でなきゃかいぞく関係の連中だな」

「海賊がこんなところにいるわきゃないでしょーが」

「わからんぞ。あーゆー連中ってぇのは、血も涙も脳ミソも人権もねえくせしやがって、食欲や性欲はいっちょまえだからな。近くのにどーどーと降りてきて、羽根をばしてる、なんてことはよくあるのさ。しようがない限り、警察も手出しできねえ、ってことを知ってやがるからな」

「……またそーやって、ひとごとみたいに……」

「なーに、連中もじゃあおとなしくしてるさ。地元の警察や星間警察U・Gの連中も目を光らせてるだろうしな。ここで暴れりゃ、自分から、捕まえてください、って言うようなもんだからな」

「……なら……いいけど……」

 まだやや不安げな顔で、ミリィはぽつりとつぶやいた。

 二人は宇宙港を出て、その近くにある、ラグルド社の用意してくれたホテルにチェックインする。

 ラグルド社は、ちゃんとを二つ用意していてくれた。ふとぱらなのか、それとも客が少ないのか、どちらなのかは知らないが。

 おせじにも、高級ホテルとは言えないが、食費以外はタダなのだから文句も言えない。

 ルーム・キーを受けとって、二人はそれぞれの部屋に行く。

 ミリィの部屋は、海が見える一室だった。ケインの部屋はそのとなり

 調度品やないそうは、あんまりあかぬけていないが、窓から見えるしきぜつぴん。部屋の手入れもまずまず行きとどいている。

 えなどのまった荷物を、部屋のかたすみにほうり出し、ミリィがぼんやり窓から外を眺めていると、こんっ、こんっ、と、ドアをノックする音がした。

「おーい。メシでも食いに行かねーか?」

「ほーい」

 ドアの外からかかったケインの声にこたえ、ミリィは、ジャケットのポケットにサイフを突っ込んだ。


 外はまだまだ明るかった。

 あつい──とまではいかないが、泳げるほどにはあたたかい。

「……暑くない……ケイン……?」

 やはりマントをったままのケインに、ミリィは、人外のモノでも見るかのような視線を向けて問いかける。

「暑い」

 迷わずきっぱり答えるケイン。

「……マントげば?」

 しかし彼は首を横にり、

「いーやっ! たとえどんなことがあろうと、マントはおれのステータス・シンボルだっ!

 それを、たかだか気温が高いてーどで、はい、そーですか、なんて脱げるかよっ! それこそ男がすたるってもんだ!」

 ……そのてーどですたるのか……男って生き物は……?

 内心、ツッコミを入れるミリィ。

「……まあ、暑いことは確かだけどな……

 メシのついでに、冷えたビールでもいつぱい、いくか」

「そーね

 それに関しては、ミリィも異存はなかった。

 夕食には早すぎる時間なのかもしれないが、腹が減っているものはしかたない。

 宇宙と、いろいろなわくせいとをたいに仕事をしていると、どうしても、自分の生活リズムと、行った星での生活リズムとにズレが出てくる。

 困ったもんではあるのだが、こればかりはどうしようもない。

 とりあえず二人は、海のそばにある店へと入って行った。

 店内からはガラスしに、ひろがる海が一望できた。

 やはり時間がハズれているだけあって、店内に人は少ないが、それでも五、六人の先客がいた。

 ミリィのことばを借りるなら、『いかにもガラの悪そうな』男たちばかりである。

 男たちがミリィに送るくちぶえを無視して、二人は海の見えるテーブルについた。

 初老の、店のおやじさんに、ビールと軽食を注文する。

「──よぉ。ここははじめてかい?」

 男のひとりがミリィに声をかけてきたのは、ビールが運ばれてきてすぐのことだった。

 としは三十前後だろう。長身で、ひきしまった体に、ブラウンのかみと整った顔立ち。

 しかし、ヨレてよごれたジーンズと、まばらにびたしようひげは、まあ、ワイルドと言えばワイルドなのかもしれないが、はっきり言ってだらしない。

「観光かい? 悪くねーぜ、このはよ。

 ──どうだ? いつぱいオゴらせてくれねーか?」

 ミリィはいつしゆん考える。無視すれば、男はなんくせをつけてくるかもしれないし、かといって、むやみにあいよくすれば、つきまとわれるおそれもある。

 彼女は小さく笑みをかべ、

「今はだめ。またの機会に、ね」

「……あ……ああ……」

 ていよく外され、男はぽりぽり頭をいた。

 どっ! と、奥のテーブルに笑いがく。

「やっぱりフラれたな! ジェス」

「今夜の酒はお前のオゴリだぜ!」

 どうやら男の仲間だったらしく、口々に男をはやし立てる。ミリィをけるかどうか、かけをしていたようである。

「や……やかましいっ! まだ決まったわけじゃねえっ!」

 仲間にからかわれてムキになったか、ジェスはふたたびミリィに向きなおり、なおもしつこく食い下がる。

「……なぁ。そうれねぇこと言うなよ。ビール一杯、つきあってくれるだけでいいんだぜ」

 向こうでは、彼の仲間が、『しつこいぞー』だの『あきらめてオゴれ』だのと、口々に声を上げている。

 ミリィも全く同感である。

「ごめんね。先約があってね」

 言って彼女は、ちらりっ、と、視線をケインの方に向けた。

 男が彼女に声をかけてきてからずっと、おもしろそーな顔をして、ことのなりゆきを見物しているケインに話をふってやる。

 しかしジェスは、ケインの方を見むきすらせず、

「いいじゃねーか。こんな変なかっこうしてるこんじようなしなんざほっといてさ……」

 がたん。

 音を立て、ケインがいすから立ち上がる。

 ひくぅっ! と顔をこわばらせ、ミリィは思わず身を引いた。

 ケインの顔には、いぜんとして笑みが浮かんでいるが、その目がちっとも笑ってない。

「……なんだ……? 文句でもあるのか?」

 ジェスははじめて、ケインの方に体を向ける。ならんで立つと、ジェスの方がややうわぜいはあるだろうか。

 ケインはま近でジェスの顔を見上げ、にぃっ、と不敵な笑みを浮かべ、

「実はな──」

 しゆんかん


 ごげっ!


 ケインの放った一発のりが、ジェスのあごをすくい上げていた。

 おう、自分のセリフのちゆうこうげき

 相手のタイミングを外し、先手を取るという、とことんコソクながらもおそろしいわざである。

 だむっ!

 ジェスは体を半回転させ、ゆかとまともにキスをした。

 その背中に、ケインは、ふみっ! と片足を乗せ、

「俺は口より先に手や足が出るタイプなんだよっ! わかったかっ!」

「ああああああっ! 気が短いっ!」

 思わず頭をかかえるミリィ。