プロローグ


 ごどぅんっ!

「何だっ!?

 をゆるがすごうおんに、ケインはあわててベッドから身を起こした。

 彼の宇宙船ふね、『ソードブレイカー』にあるケインの個室。室内は今、うすぐらやみめていた。

「まさか──ほうげき!?

 声を上げ、しましま模様のパジャマの上からマントをる。

 銀河のはしっこで、はんざい結社『ナイトメア』の送り出した宇宙船ふねと戦ったのは、ほんのしばらく前のこと。報復があってもすこしも不思議ではない。

 しかし今のしんどうは、砲撃にしては小さすぎた。

 とりあえず、かべめ込まれた通信ディスプレイのスイッチを入れた。

 間を置かず、画面に映し出されたのは、銀色のかみのひとりの少女。

 時代をまったく無視しまくった、ファンタジー風のしようを身につけた姿は、限りないリアリティを持ってはいるものの、それはあくまで立体映像。

 この宇宙船ふね──『ソードブレイカー』の制御者コントローラー、キャナルである。

 メイン・コンピューター、というより宇宙船ふねの『意思』に近く、いつもは立体映像のこの姿をとっている。

「キャナル! 今のは何だ!?

 ケインの問いにめずらしく、彼女はしばしちんもくし──

 ややあってから、ようやく、意を決したかのように、

『──圧力ナベがばくはつしました』

 ──しばしの沈黙。

「……は……?」

 間のけた声で問い返すケインに、彼女はなおも、言いにくそうに、

『……つまり……ミリィが『料理をする』ってキッチンに入って……圧力ナベを爆発させちゃいました……』

「なっ……!? それで!? ミリィは無事か!?

『ええ……その……』

 キャナルはなおも言いにくそうに、

『……そうこうふく……着てましたから……』

「…………」

 さらにかなりの沈黙が落ちた。

「……つまり……」

 ややあって、つぶやくように言うケイン。

「ミリィが、装甲服着て料理してて、圧力ナベを爆破した、と……」

 彼の問いに、キャナルは自信なげに、画面の中でうなずいた。

 またまた続くしばしの沈黙。

「お前……正気か……?」

 いつもなら怒るところだが、今回は、さすがに困った顔のまま、

『……わたしもそう思って、自己しんだんプログラム走らせてみたけど……正常よ……』

 ケインは、ぽりぽりと頭をいて、

「……とりあえず……キッチンに通信つないでくれ……」

『……わ……わかったわ……』

 こたえて画面がダーク・アウト。呼び出し音が続いてしばし。

『はぁい。ケイン』

 画面に映し出されたのは、にこにこ顔のミリィだった。

 確かにキャナルの言った通り、きっちりと、装甲服を着込んでいたりする。

『なかなかいいじゃないの。このキッチン。自動調理機くらいしか置いてないと思ってたら、いろいろそろってるじゃない』

「……まーな……」

 ケインはあいまいに答えた。

 もともとケインが、ある程度の調理器具を揃えたのは、材料はぜひともこの手でりたい、などという、アブナい理由からだったのだが、今はそんなことをわざわざ説明する気はない。

『……けどなんなのよケイン、そのかっこう。パジャマの上からマントなんて羽織って』

「もちろん、男の身だしなみ、ってやつだ」

『……そ……そぉ……』

「それより……圧力ナベがばくはつしたそうだが……」

 問いかけるケインのことばに、バイザーの中のミリィのほおに、つつうっ、と流れる、一すじの汗。

『い……いやまあ、その、ちょっとピザつくっててね

「だから……どーやったらピザつくってて、圧力ナベが爆発するんだ!?

『それは……えと……』

 ミリィはしばし考えて、人さし指を、ぴっ、と立て、にこやかな笑みをかべつつ、

ちゆうの基本は火力よね

「だぁぁぁっ! いつからピザが中華料理になったっ!?

『……まあ……世の中、科学で説明できることばっかしだとは限んないのよ』

 ……こいつを助手にしたのって……ひょっとしたら失敗だったんじゃあ……

 おそまきながら、ケインは思ったのだった。


 ばがぅん!


 すさまじいごうおんしんどうが、船全体をゆるがした。

「何だ!?

 なんとかイスにしがみつきながら、船長は思わず声を上げた。

ほうげきです! おそらく宇宙海賊スペース・パイレーツかと!」

宇宙海賊パイレーツだと!? こんな辺境ところにか!?

 報告に、船長の声があらくなった。

 星間貨物船カーゴ・シツプ居眠りラクダスリーピング・キヤメル』は今、ちりがんかいリングを持つ、小さなの近くを航行していた。

 メインの航路からも外れた、住む人間もない無人の星系。この船とて、とつぜんの目的地のへんこう命令さえなければ、こんな所を通るはずではなかったのだ。

 それがまさかこんな所に、宇宙海賊スペース・パイレーツが現われようとは。

「おそらく、かげにでもかくれていたものと思われます!」

からのレーザー通信です!」

 別のひとりが声を上げる。

「『停船せよ、さもなくばげきちんする』!」

「救難信号を!」

「だめです! 通信妨害ジヤミングがかかっています!」

「くっ……」

 船長は思わず歯がみした。

 こちらは船体こそ大きいものの、申し訳程度のそうしかない貨物船。しかも乗組員はわずかに十人程度で、むろん全員せんとう未経験者ばかり。ていこうだということは、だれが考えてもわかる。

 かといって、言われた通り船をめ、命を助けてもらえるとは思えない。

 となれば残る手はひとつ──

「なんとか敵をり切れんか!?

 うろたえて声を上げる船長。

 漂う岩をタテにする手はあるのだが、そちらにはかいぞくの船がいる。

 あわてふためく船長の目に、メイン・ディスプレイのなかばをめる、小さな惑星が飛び込んできた。

「あのだ!」

 船長は、思わずそう叫んでいた。

「あのの表面近くに降下し、敵を振り切るかやりすごす!」

 おせじにも、さくとはいえないが、混乱をきたした船長にも、そして乗組員たちにも、それ以上の策は浮かばなかった。

りようかい!」

 半ば悲鳴を上げるように答え、そうしゆは一気にエンジンをかす。

 ぐごぅっ! がごうっ!

 かんはつ入れず、音としんどうが、たてつづけに船体をゆるがした。

からのほうげきです!」

 言わずもがなの報告を、いちいち聞いているゆうなど、むろん誰にもありはしない。

 そして──


 ぐどぉんっ!


 ひときわ大きな振動とともに、管制室ブリツジの明りがいつしゆん、すべて消える。

 室内にやみおとずれた。

 誰かが誰かの名をさけんだ。おそらく、家族か恋人だろう。

 一瞬の後には、非常用の電源が入り、室内をあかく照らし出す。しかし、血をおもわせるその色と、さまざまな計器ががなり立てる警告音とは、むやみに不安をあおりたてるだけのものでしかない。

「エンジンにちよくげき!──大破!」

「切りはなせ!」

りようかいっ!」

 ごぐんっ。

 エンジンを船体からぶんする、小さなしんどう。そして──


 ぐがぁんっ!


 三度目の大きな振動が船体をゆるがした。

「切り離したエンジンがばくはつしました! 船体、制御できません!」

 直後で爆発したエンジンの爆圧に背中をされ、船は加速をつけながら、目の前のを目がけてっ込んでゆく。

 管制室ブリツジのディスプレイの中、目の前のわくせいの姿が、みるみるその大きさを増す。

 ──なぜ!?

 ごうと悲鳴とアラーム音のうずく中で、船長の頭の中をめているのは、こうかいでも、家族たちへの想いでもなく、ただ、そのひとことだけだった。


 ──貨物宇宙船カーゴ・シツプ『スリーピング・キャメル』は、目的地のへんこう命令を受けた後、その消息をった。

 記録には、こうとだけ記されることになる。


『──なんだ、こりゃあ!?

 感度の悪いスピーカーを通して、誰かのかすれた声が聞こえた。

 バイザーの外にひろがるのは、くろぐろとしたかわいた大地と、ただしつこくの宇宙空間。

 名前も知らぬ、この小さなの上にいるのは、宇宙服をつけた、彼の仲間が十数名のみ。

 むろん、彼らがとした貨物船の乗組員が助かっていようはずはない。あのタイミングでは、たとえ誰かがだつしゆつていを使ったとしても、このの重力につかまって、どこかについらくしただろう。ああいったタイプの貨物船についている脱出艇には、つう、宇宙をただよう程度の性能しかない。

 せっかくのエモノだというのに、エンジンにしゆほうちよくげきさせたバカがいたせいで台なしである。

 船体のばくはつこそまぬがれたものの、貨物船は、そのままこのわくせいの地表にげきとつした。

 目の前にあるクレーターと、その底にわだかまる巨大なざんがいがそれである。

 それでも、まだ使えるものがあるかもしれないと、わざわざ降下して調査をはじめたのだが……

 積んでいたのは、もっぱら何かの機械部品だったらしく、すべては、ひと山いくら、以下のシロモノとなり果てていた。

 しかし、そんなことよりも。

 問題は、この惑星のほうである。

 墜落した貨物船は、地表の土をえぐり取り、その下にめり込んでいた。

 金属製のかべを持つ、地下の何かの建物に。

『……建物……だよな……地下の……』

 誰かがぽつりとつぶやいた。

『そいつぁ見りゃあわかるよ』

 別のひとりがぶあいそに答える。

 ひと昔前にった宇宙もののパニック映画──辺境の惑星で見つけた異文明のせきで、ぎようかいぶつおそわれる、などというちんなパターンの物語を、かいぞくたちはふと、思い出していた。

 た時には、思わず大笑いするような内容のものがほとんどだったが、いざ自分たちが同じ立場に立たされてみれば、やはり気持のいいもんではない。

 見慣れぬデザイン、見知らぬ金属ではあったが、さすがに宇宙船ふねちよくげきにはえかねたらしく、壁(?)の一部がぱっくりとけ、その下に、くろぐろとした真のやみをのぞかせていた。

 そのうちひとりが、ふらり、と、さそわれるような足どりで、裂け目に向かって近よってゆく。

 手にしたサーチライトの明りを、裂け目の奥にそそぎ込み──

『……なんだ……ありゃあ……?』

 ぽつり、と男はつぶやいた。

『何がある?』

 問いかける別のひとりに、男は身をかがめ、闇の奥底をのぞき込んだあと、

『──宇宙船ふねだ。見たこともねえ型だな……』

『──! それって! まさかあれじゃねぇのか!? うわさで聞く──』

 別のひとりが、かすれた声でつぶやいた。

『──遺失宇宙船ロスト・シツプ──』


 見なれたはずの自分のが、みょうによそよそしく見えた。

 家財道具があるのとないのとで、こうもちがうものなのだろうか。

 やさしいベージュ色のかべも、窓からさし込む午後の陽の光も、なぜか寒々しい。

「……さようなら……あたしのうち……」

 トレンチ・コートのえりを立て、遠い目をして、ミリィはぽつりとつぶやいた。

「ほんとうはもっと住んであげたかったんだけど……ケインがお給料あんましはらえないなんて、しみったれたこと言うせいで、引き払うことになっちゃったのよ……」

「やかましいっ!」

 マンションの戸口でダンボール箱をかかえつつ、ケインは思わず声を上げていた。

「ひとにひつしの手伝いまでさせといて、そーゆーイヤミったらしいモノローグやってるんじゃねえっ!……ったく……俺だってなぁ、食いぶちがひとり増えたせいで、やりくり苦労しなきゃなんねーんだぞっ!」

 しかしケインのことばにも、ミリィは笑みさえかべつつ、

「まーまー。若いうちの苦労は買ってでもしろ、って言うじゃない

「……なら、苦労させてやろーか?」

 ぴくっ。

 ジト目で冷たく言い放つ彼に、さすがに笑みを引きつらせる彼女。

「……や……やーねーケインったら 目が笑ってないわよ

「…………」

「……あたしも荷物運ぶ……」

 ミリィは大きく肩を落とし、マンションの戸口に山積みされた、ダンボール箱に手をかけたのだった。


「……うーん……これはっ! ってぇのはないもんかなぁ……」

 小さなディスプレイに視線を向けたそのままで、ケインはぽつりとつぶやいた。

 衛星港に停まったままの、宇宙船『ソードブレイカー』の操縦室コツクピツト

「……ケイン、早くしないと、衛星港のえんたい料金取られますよ」

「あー、わかってる」

 そうじゆうせきに身を沈めたまま、キャナルのことばを受け流す。

 ミリィの引越しも無事終えて、帰って来てからほぼ一時間、ケインはずっと画面に見入っていた。

 次の仕事を物色しているのだ。

 星間通信ユニバーサル・ネツトが、有料で流している情報ネットワークのひとつに、やっかいごと下請け人トラブル・コントラクターへのらい情報、というのがある。

 情報は、ざっとした仕事の内容、依頼料、れんらく先が表示されただけのものだが、この量がばかにならない。

 ここから一週間以内に行ける区域、という条件でけんさくしてはいるのだが、それでも依頼の件数は、百や二百ではきかないだろう。

 むろん、おいしいしごとがいつも転がっているわけもなく、今現在残っているのも、依頼料が安かったり、危険度の高いしごとだったり。

「……もう、てきとーなのに決めちゃったら?」

 いつの間にやって来たのか、後ろから、ディスプレイをのぞき込みつつ言うミリィ。

「そうは言うけどなぁ……」

「──あ、それなんてどう? K‐一〇五番。依頼料、けっこうあるみたいだし」

「……あのなぁ……こーゆーのは、たいていヤバいの」

 ため息つきつつ言うケイン。

「……やばい?」

「ああ。依頼料と連絡先が出てるだけで、仕事の内容も何も出てねーだろ。こーゆー奴ってのはたいてい、密輸だの密入国だのってしごとだ」

「ちょっと! それって立派なはんざいじゃない!」

「立派な犯罪だよ」

 あっさりさらりと答えるケイン。

うわさじゃあ、人生終わるくらいヤバいのも中にはあるみてえだぞ。そうと知らずに問いあわせて、断わるに断われなくなって、それで人生棒にった連中もいるって話だ」

「……いーの? 星間通信U・Nがこんな情報流して……?」

「いいわきゃねーだろ。実際、星間警察U・Gが手入れをすることも時々あるし、この情報サービスを中止するように、さいばんざた起こした奴までいたらしいぜ。

 けど、星間通信U・Nとしては、単に情報こうかんの場を提供してるだけで、情報の内容にまで干渉するのは、プライバシーのしんがいだか何だかに当たる、ってわけだ。

 むろん、このサービスそのものを中止すりゃあ、こーゆーこともなくなるかもしれんが、そうすりゃ宇宙に散らばった、俺たちみてーなやっかいごと下請け人トラブル・コントラクターは、いきなりメシの食い上げだ。

 ンなことになりゃあ、そのまま犯罪に走るやつだって出てくるわな」

「……なるほど……むつかしいもんねー……」

 まゆをひそめてうなずくミリィ。

「けど、早く仕事と行き先決めて、出港しないと、えんたい料払うことになっちゃいますよ」

 ぼそりっ、と、つぶやくように言うキャナル。

「わかってるって。……とは言うものの、なぁ……」

 えてして情報という奴は、ないともちろん困るのだが、逆にありすぎても困る。ナダレのようにし寄せる、情報の山の中から、自分に必要なものだけを取り出す、という作業をしなければならなくなってくる。

 しかたなく、彼はキャナルに視線を送り、

「……なあ、なんかおすすめのしごと、ないか?」

 彼女はため息ひとつつき、

「……最初っからそう言ってくださいよ……

 ──そうですねー、C‐〇一一なんてどうです?」

「C‐〇一一、ねぇ……」

 ケインは画面をけんさくし、

「……けどこれって、らい料安いぞ……」

「けど、条件はいいでしょ。すいしんざいや滞在費なんかはあちら持ち。保険や保障もちゃんとしてるみたいだし」

「……あ。ほんとだ」

 もっぱら依頼料でチェックしていたせいか、きっちり見落としていたのだ。

「ねーねー、何のしごと?」

「貨物船のけい

 たずねるミリィに答えるケイン。

「……けっこージミチなしごとねー……」

「まーな。……ラグルド社……聞いたことねーな」

「銀河座標4─3─B、ウィナラーン星系最大……というよりゆいいつの複合だいぎようです。『靴下から宇宙せんかんまで』ってやつですね」

「ふぅん……ともあれキャナル、ここに星間通信つないでくれ」

「それはかまいませんけど……先に、とりあえず出港しません? えんたい料金のことが気になって気になって……」

「わかったわかった。管制室へのれんらくと、出港手続きたのむ」

「りょーかい!」

 元気な声でこたえるキャナル。

 そして──

『ソードブレイカー』はふたたび旅立つ。