Part 01: 陽平: よし……。何とか見つからずに、ここまで来れたな。あとは……。 梨花(CLANNAD): ……何をしているのですか? 陽平: うわぁぁあぁっっ? ち、違うんだ芽衣!別に会いたくないとか逃げたいとかじゃなくて、これはその……ん? 陽平: なんだ……体験学習に来てる子じゃないか。名前は、えーっと……。 梨花(CLANNAD): 梨花なのです。古手梨花と申しますのですよ、ぺこり。 陽平: あぁ、これはご丁寧に……。悪いね、なんか変な声を上げて驚いちゃってさ。 梨花(CLANNAD): みー、それは全然気にしていないのですが……どうかしましたですか? 陽平: いや……ちょっとね。今日この学校に来る予定になってる子と顔を会わせる前に、身を隠しておこうと思って。 陽平: とりあえず、僕と会ったことは内緒にしておいてもらっていいかい? 別に後ろめたいことをしてるわけじゃないからさ。 梨花(CLANNAD): ……後ろめたいからこそ、こっそりと逃げ出そうとしているのではないのですか? 陽平: ぐはっ? き、厳しいツッコミですね!なんか妹と話してる気分になってくるな。 梨花(CLANNAD): みー……? 陽平、あなたには妹さんがいるのですか? 陽平: しかも、いきなり僕を名前で呼び捨てっ?君、顔に似合わず怖いもの知らずだね……。 梨花(CLANNAD): あなたのことは、杏や智代から色々と聞いていますのです。怖いように見えても基本ヘタレなので、心配はいらない……。 梨花(CLANNAD): そして万が一何か危ないことがあったら、この笛を吹けば瞬く間に退散してくれると教えてくれたのですよ。 陽平: 僕は野生のクマか何かですかねぇっ?つーかあいつら、僕のことをどんなふうに説明したんだよっ? 陽平: ……って、こんなとこで油を売ってる場合じゃなかった!あいつに見つかる前に、早く――! 芽衣: おにいちゃんっ!! 陽平: うわっと? め、芽衣っ……!? 芽衣: やっと見つけた……!もう、寮で待っててってお願いしたのに勝手にいなくなるなんてひどいじゃない! 陽平: い、いや……僕は別に……。これには深い理由があって、その……。 芽衣: 深い理由って、どれくらいの深さ?マリアナ海溝? それともあっちの水たまり? 陽平: 違いが極端すぎるだろっ?その中間はないのか、中間は!? 梨花(CLANNAD): みー……?あの、あなたはどなたなのですか? 芽衣: えっ……? あ、どうもこんにちは。わたしはここにいる春原陽平の妹で、春原芽衣と言います。 梨花(CLANNAD): 陽平の……妹……? 陽平: ……君。今、一瞬言おうとしたよね。「全然似てない」って。 梨花(CLANNAD): そんなことはないのです。ただ、遺伝という現象は実に不思議なものなんだとその神秘の所以を再認識していただけなのですよ。 陽平: 言葉は変えてるけど同じ意味ですよね、それ!? 芽衣: そんなことより……おにいちゃん。なんで逃げようとしたの?わたしとそんなに会いたくなかった……? 陽平: いや、そういうことじゃなくて……!あぁもう、こういう時に岡崎がいないとすごくやりにくい……! 芽衣: っ……ぐすっ……。 陽平: ちょ……ちょっと、やめてくれよ!嘘泣きだってわかってても、このままだと僕すっごく悪者みたいに見えるだろっ!? 梨花(CLANNAD): みー? 年下の女の子を泣かせると、悪者に見えるのですか? 梨花(CLANNAD): ……みー……。 陽平: って、君までなんで真似するのっ?だから、やめてくれよ!こんなところあいつらに見つかったら――。 杏: ……。陽平……? 智代: これはどういうことなんだ、春原……? 陽平: ちょっ……ままま、待て待て待て待ってくれ!!おそらく何を思ったのか想像はすぐにつくけど、それは間違いなく勘違いだ! 誓ってもいい!! 杏: ふぅん……どこをどう勘違いしたら、小さな女の子2人をあんたが泣かせてる事実が覆ることになるのかしらね……。 智代: じっくりと話を聞こうじゃないか……安心しろ、私はこれでも平和主義者だ……。 陽平: その表情と背後に燃え上がった闘気を見て平和なんか唱えられても、全くもって信用できませんからっっ……んなっ!? レナ: はぅ……どうして梨花ちゃんが泣いているのかな……かなっ……? 沙都子: とりあえず、納得のいく説明は死刑執行の後にいただきたいですわね……ッ! 美雪: んー……死刑にしちゃったら説明をしてもらう機会も聞く機会もなくなっちゃうと思うけど…… 美雪: ま、いいか。この際。 詩音(CLANNAD): にしても、#p雛見沢#sひなみざわ#rの可愛いマスコットでもある梨花ちゃまを泣かせるなんて……。 魅音(CLANNAD): 命知らずっていうか、自殺願望でもあるのかね?どう思う、圭ちゃん? 圭一: あ、いや……さすがに春原さんはそんな人じゃないと思うし、何かの勘違いじゃ……ひぃっ?! 菜央: ふぅん……肩を持つってことは、前原さんも「あっち側」ってとらえていいのかしら……? 圭一: っ……に、逃げろ春原さんっ!!こいつら全員、完全にイッちまって話ができる状況じゃねぇぞぉぉっ!! 陽平: に、逃げるったって……前後左右に包囲されて、逃げ場なしなんですけど……?できること、完全にナッシングなんですけどっ!? 杏: 何言ってんの、あるじゃない。あんたにもできる、簡単なことが♪ 智代: あぁ、祈るがいい。魂の救済を願ってな……ッ!! 陽平: ほ……ほげぇぇぇぇえええぇぇぇぇっっっ!!! Part 02: 陽平: あぁ、酷い目に遭った……。一瞬、三途の川が目の前に見えた気がするよ……。 一穂: な……なんて言いながら、結局生きてるのはすごい生命力ですね……。 沙都子: ……確かに。あれだけタコ殴りにあって、集中砲火を浴びせられてもピンピンしているなんて驚異的を通り越して、魔王的でしてよ。 美雪: ひょっとして、すでに人間やめてるんじゃない?ほら、機械の身体を手に入れてそれと交換したとか。 陽平: 僕は銀河な列車に乗ったことはありませんし、この先も金輪際乗る気はありませんっ!勝手なイメージつけられると迷惑なんですけど!? 梨花(CLANNAD): みー、ごめんなさいなのです。ボクの知っている誰かさんのことを思い出して、ついからかってしまいたくなったのですよ。 圭一: あの……梨花ちゃん。その「誰かさん」に心当たりがある身としては、あんまり笑えない話なんだが……。 陽平: というか、そもそもの原因は芽衣じゃないかっ?もっと早くみんなに説明してくれてたら、ここまでボコボコにされることはなかったのに! 芽衣: だって、芽衣が遊びに行くって言ってたのにお兄ちゃんが逃げようとするからでしょ? 陽平: 可愛い顔してみても、ごまかされないぞ!だいたいお前は、僕だけじゃなく岡崎にも同じようなことを……! 智代: 少しうるさいぞ、春原。私たちもやりすぎだったと謝罪をしているのだから、素直に受け取って水に流せ。 陽平: そんな傲然と胸張って腕まで組んで、何が謝罪だよ!謝るんならせめて頭を下げろ! 杏: だいたい、誤解されるのは日頃の行いのせいでしょ。これを機に普段の学生生活を改めなさい。 陽平: しかも説教までされたんですけど!ものすごく理不尽の極みなんですけどっ!? 渚: あ、あの……それより、どうして芽衣ちゃんがこの学校に来たんですか? 芽衣: あ、すみません。みなさんへの説明が遅れてました。 芽衣: 実はわたし、兄がまたサッカーをするためにいい方法はないか、って考えてきたんです。 魅音(CLANNAD): へー、春原さんってサッカーをやっていたんだね。 美雪: んー、なるほど。華奢な体格のわりに、結構体幹がしっかりした身のこなしをしてたのはそういうことかー。 詩音(CLANNAD): 智代さんや杏さんたちにあれだけ何度となくシバき回されても、あっという間に回復するくらいに打たれ強い方ですもんね。 陽平: いや、別にサッカーをやってたから打たれ強くなったんじゃないんだけど……。 杏: けどこいつ、以前そのサッカー部で問題を起こして、ちょっと……ね。 杏: 詳しい経緯についてはともかくとして、今は部の活動から距離を置いてるのよ。 智代: まぁ私が聞いた話だと、一概に春原が悪いと決めつけられるものではなかったそうだが……。 陽平: ……余計なことは言わなくていいよ。#p雛見沢#sひなみざわ#rの子たちには関係ないことなんだから。 一穂: 春原さん……。 陽平: とにかく僕は、もうサッカーを辞めたんだ。少なくともこの学校でやることは絶対にないよ。 芽衣: ……はい。わたしも、おにいちゃんに嫌な気分をさせてまで戻ってもらいたいとは思いません。 芽衣: だから……この学校以外でサッカーをやるのはどうかな、って考えたんです。 智代: ふむ……? それは、どういう意味だ? 芽衣: 岡崎さんに頼んで、この学校の周りにプロの下部組織のチームがないかって探してもらいました。すると、いくつか出てきまして。 芽衣: そこに聞いてみたら、学校を卒業しなくても練習に参加してもいい、と言ってもらえました。もちろん入団テストは必要になりますけどね。 陽平: っ……最近寮で姿を見かけないと思ったらあいつ、余計なことを……。 芽衣: ……どうかな、おにいちゃん?そこのチームの案内資料をもらってきたから、もしよかったら……。 陽平: へっ……今さら草サッカーなんて冗談じゃないよ。それにお遊びでやるんだったら、クラスの連中と集まったほうが気軽だしね。 杏: え? あんた朋也以外に友達いたの? 陽平: 失礼なこと言わないでくれますか!友達くらいひとりやふたりいるわ! 智代: ……春原。サッカーはプロの下部リーグなどの体制がしっかりと整っている、珍しいスポーツだ。 智代: プロ野球の場合、社会人やプロに進むためには強豪校でそれなりの実績を上げ、ドラフトで指名される必要があるが、サッカーは違う。 智代: これはいい話だと私は思う。……どうだ、春原? 陽平: んなこと、言われなくても知ってるよ。……でも僕は、もうサッカーと縁を切ったんだ。 陽平: 芽衣も余計なお世話なんか焼いてないで、自分のことをもっと大事に考えていきなって。……じゃ。 魅音(CLANNAD): あ、ちょっと!……って、行っちゃった。 詩音(CLANNAD): なんか、複雑な事情があるみたいですねー。 芽衣: おにいちゃん……。 杏: まぁ、別に気にしてくれなくてもいいわよ。一度派手にドロップアウトしたこともあって、意固地になりすぎてるところもあるしさ。 杏: まぁ……あいつだったら何かのタイミングで吹っ切って、最善の選択をすると思うから。芽衣ちゃんも焦らないで待ってあげましょう、ね? 芽衣: ……わかりました。すみません、わたしの勝手な思い込みで色々と面倒をかけてしまって。 梨花(CLANNAD): …………。 沙都子: 梨花……?どうしましたの、さっきから黙って。何か気になることでも? 梨花(CLANNAD): みー、そういうわけでは……。 梨花(CLANNAD): ……。ごめんなさい、ボクはここで失礼しますのですよ。 一穂: あ、梨花ちゃん……? Part 03: 梨花(CLANNAD): みー……陽平は、確か……。 梨花(CLANNAD): あ、いたのです。すぐに見つかってよかったのですよ、にぱー。 陽平: ……なに? 芽衣に何か言われて、僕を呼び戻しに来たのかい? 梨花(CLANNAD): みー、違うのです。ただあなたに、聞きたいことがあって追いかけたのですよ。 陽平: 僕に聞きたいこと……? 梨花(CLANNAD): はいなのです。あなたは地元から、その才能を見込まれてこの学校に来たと聞きましたが……。 梨花(CLANNAD): 故郷を離れる時、どんなことを思いましたか? 陽平: へっ……? うーん、そうだなぁ……。 陽平: まぁ、サッカーには自信もあったし……地元のみんなも応援してくれたからさ。 陽平: 最初はそれなりに、期待に応えようと頑張るつもりだったよ。……その結果は、この体たらくだけどね。 梨花(CLANNAD): ……。では、やはり故郷に帰ったりするのは心苦しいと思っていますですか?みんなの期待を裏切ったことが、申し訳ないと……。 陽平: ……結構厳しい質問をぶつけてくるんだね。とらえ方次第では、責められてるみたいだよ。 梨花(CLANNAD): 気を悪くさせたら、ごめんなさいなのです。ただボクは、知りたいのですよ。 梨花(CLANNAD): ボクも、高校生になったら今暮らしている#p雛見沢#sひなみざわ#rを離れて、違う場所で難しい勉強をしたいと考えています。 梨花(CLANNAD): ……ただ、そこでうまくいくとは限らないのです。ひょっとすると何かトラブルなどに巻き込まれて、努力しても元に戻せないことがあるかもしれません。 梨花(CLANNAD): そして、失礼を承知で言わせてもらうと今のあなたは、まさしくその状況になっているように思われるのですが……。 梨花(CLANNAD): にもかかわらず、学校生活に愛着や魅力を感じて楽しそうに過ごしているようにも見えるので……その秘訣を聞きたいと思ったのですよ。 陽平: ……。そっか。なかなか鋭いところをついてくるから、ちょっと驚いたな。 陽平: んー、そうだな……ちょっとだけマジに、話してみてもいいかい? 梨花(CLANNAD): みー、ぜひお願いしますのですよ。誰にも言ったりはしませんので。 陽平: 助かるよ。杏や智代たちが知ったりしたら、僕のキャライメージが崩れちゃうからね。 陽平: ……っとと、ごめん。おふざけは無しだった。 陽平: まぁ、サッカー部を辞めるって決めた時はこの学校にはいられないって思ってたよ。だからさっさと退学して、楽になるつもりだった。 陽平: 退学する口実を作るために、他の学校の連中と喧嘩して、問題を起こしたりして……まぁバカの限りを尽くしてたもんだよ。 陽平: けど、進学校だとメンツが大事なのか全然辞めさせてもらえなくて……結構長い間、退屈な毎日を送ってたんだ。でも……。 梨花(CLANNAD): でも……? 陽平: 僕の友達に、岡崎ってやつがいるんだけど……こいつがなかなか、面白いやつでさ。喋ったりつるんだりしてると、楽しいんだ。 陽平: それに、杏や智代なんかも腹は立つけど、気のいい連中だし……まぁ、悪くはない。 陽平: だから僕は、こいつらと最後まで学校生活を目一杯満喫することにしたんだ。 陽平: 思うようにいかなかったからと言って、ふてくされてだらだらと過ごすより……そっちの方がずっとましだからね。 陽平: それに、夢や目標がなくなったからと言って僕自身の価値が失われたわけじゃない……少なくともあいつらがいる限りは……ね。 梨花(CLANNAD): みー……だから陽平は、今の自分の時間を楽しんでいるのですね。 陽平: そういうこと。……あぁ、さっきも言ったけどこの話、他の連中には言わないでくれよ? 陽平: あんまり胸張って、話せることじゃないからさ。特に、自分の役割をしっかり果たそうとしてる杏や智代なんかだと、聞いたら絶対怒りそうだし。 梨花(CLANNAD): 怒ったりはしないと思いますのですよ。むしろあれだけ陽平と関わりを持っているので、すでに気づいているかもしれないのです。 陽平: はは……だったらいいんだけどね。それじゃ。 梨花(CLANNAD): …………。 梨花(CLANNAD): 夢や目標がなくなったからと言って、自分自身の価値が失われたわけじゃない……。 梨花(CLANNAD): そして大切なのは、誰かと一緒に学校生活を送って……楽しくて充実した時間を過ごすこと。 梨花(CLANNAD): 学校は集団生活の場なのだから、自分のことだけを考えていてはダメということなのですね。 梨花(CLANNAD): …………。 梨花(CLANNAD): みー……決断をするまでにもう少し時間があるので、もっとじっくり考えてみることにするのですよ。 梨花(CLANNAD): 自分の時間を満たされたものにするためにも、誰かとの縁、そして一緒に過ごす時間を大切に考えて……そして……。