Part 01: 梨花: 『……沙都子。もしルチーアに受かったら、あなたはそこでどんな学園生活を送りたいと思っていますですか?』 沙都子(高校生夏服): 『そうですわね。私は――』 ……春休みに入ったというのに、私はこの日もずっと夕暮れまで多忙を極めていた。 沙都子(高校生夏服): ふぅ……さすがに連日で仕事続きだと、多少休んだところで身体から疲れが取れませんわね。今夜は入浴したら、早めに寝るとして……っと。 そんなことを考えながら、学園寮の入口へと向かいかけたのだが……はたとひとつのことを思い出して、足を止める。 あぁ、そうだ……明日に行われる例の件の会議は、理事の都合で夕方から午前に時間が早まったんだった。 お偉いさんたちは、朝の始動が早くて時間にうるさい。遅れたら心証を悪くして、せっかくの入念な根回しも無駄になってしまうかもしれない。 沙都子(高校生夏服): (毎度毎度、何名かは権力を見せつけたいのか自分たちの都合で振り回してくれますわね……。楽がしたいのなら、さっさと引退なさればいいのに) そう内心で毒づきながら、私は学園寮の建物から少し離れた場所にあるベンチに腰を下ろす。 実のところ、資料は梨花たちが手伝ってくれたのでほぼできあがっていた。ただ、この疲れた気分のまま部屋に戻るのはなんとなく億劫に思えて……。 沙都子(高校生夏服): ……少しだけ、ここで一息つかせてもらいましてよ。 いっぱいに伸びをしながら深呼吸して、背もたれにどかっと身体を預ける。……途端に眠気が押し寄せ、私は夕暮れの空を仰いで大あくびをした。 沙都子(高校生夏服): くす……先生方がこんな私の姿を見かけたら、はしたないと言って咎めてくるのでしょうね。 そう呟いて苦笑し、私は凝った肩をほぐすつもりでこきこきと首を鳴らしながら息をついてくつろぐ。 もちろん、目につく範囲で周囲には誰もいない。それはここに足を向けた時からすでに確認済みだ。 ちょっとした一休みでも、衆人がどこかで見ているかもしれないという可能性に気を払い、注意を怠らない――出る杭としての処世術だと、会長さんから教わった。 そう心がけるようにと言われた当初は、息が詰まる思いで余計に疲労を覚えたものだが……慣れてしまった今は身体が覚えて、無意識のうちに済ませることができていた。 沙都子(高校生夏服): それにしても……会長さん。最後の最後に、とんでもない置き土産を残してくださいましたわね。 沙都子(高校生夏服): まさか、私が補習組の授業体制にメスを入れる側に回るだなんて……さすがに思いもしませんでしたわ。 赤く染まって薄暗さを増しつつある中、私はここにいない……そして1ヶ月後には学園からも完全にいなくなる「あの人」に思いを馳せる。 秋武灯……元生徒会長で、私と梨花を散々振り回した挙げ句に生徒会役員へとまつりあげて責任と義務を渡していった、嵐のようなお人。 あの人と関わりを持たなければ、きっと私はこんなにも学園の保守層から目の敵にされず、忙しすぎる毎日を送ることはなかっただろう。 ただその代わり、私の立場はほぼ間違いなく学園を楽しむどころか……日々を必死に生きるだけのもっと陰惨で、絶望に満ちたものになっていたと思う。 そしてなにより梨花との絆は断ち切られ、自分をその環境に陥れたありとあらゆる者を憎んで恨みながら、泥水を啜るような生活を……っ。 沙都子(高校生夏服): っ……どちらが良かった、なんて比較するまでもありませんわね。 会長さんとの出会いの機会を得られなかった場合に訪れていたのかもしれない別の未来を想像して……私はおぞましさに吐き気を覚え、口元を押さえる。 ――「とはいえ、私に救われたというのはこれまで自分を支え続けてくれた梨花くんあってだ。私に対してそこまで恩義を感じる必要はないよ……」 卒業を控え、これまでの感謝を伝えに言った私に彼女はそう言ったけれど……少しの間黙り込んだ後表情を改め、とある話を持ちかけてきた――。 灯: ……だったら、沙都子くん。私に対して恩という名の借りを感じているというのなら、こちらも君に対して恩返しという名の何かを望んでも構わないかな? 沙都子(高校生夏服): もちろん、会長さんが望むのでしたらなんなりと言ってくださいまし。 沙都子(高校生夏服): ……ただ、あいにく今の私には自分の意思でどうこうできるお金などはありませんのよ。あとはせいぜい、この私の身体くらいしか……。 灯: ははは、そういう言葉はとんでもない誤解を与えかねないので、相手をよく見てから言うといいよ! 灯: あれ? これは私が信頼されているということかな?それはそれで喜ばしいことだね……ゆぷぃ。 沙都子(高校生夏服): ? 会長さん、何か勘違いをされていまして……? 灯: まぁ、それはさておきだ。……沙都子くん、君は例の補習組の授業体制についてどういう見解を持っているか、聞かせてもらえるかな。 沙都子(高校生夏服): 補習組……とは、テストで赤点を取ったり素行に問題があったりした生徒たちに勉学と反省の機会を与えるためのクラスですわね。 沙都子(高校生夏服): 私も危うく、一度そちらのお世話になるかもしれない点を取ったことがありましたので……近づきたくもない地獄という印象でしてよ。 灯: うん、そうだね。信賞必罰というのは、教育において生徒を律し戒める上で大事な要素だ。 灯: あんなふうになりたくない、あそこに行くのは御免だ……そういう思いを抱かせる見せしめがあるからこそ、生徒たちは頑張ろうと考える。 灯: だけどね、沙都子くん。そういった環境を学生の間に馴染ませてしまうと、思わぬデメリットもあるんじゃないか……と私は思うんだ。 沙都子(高校生夏服): と、申しますと……? 灯: 補習組が成果を上げて、元の組へ復帰したのはどれくらいいたのか……データを生徒会権限で入手してみたんだ。 灯: 精神的、身体的な疾病を理由にした退学が2%。その他の家庭的事情で退学が13%……。ここまでなら、厳しくはあるが「まだ」普通だ。 沙都子(高校生夏服): っ……15%も学園からいなくなっているのに、普通だと言うんですのっ? 灯: 公立高校の退学率は、全国でおよそ2%前後だ。偏差値の低いところになればさらに率は上がり、かつ定時制は20%を超えるところもある。 灯: 私立はそういったデータを外部に出さないから、正確な数値を把握することはできないけど……まぁ、大きな違いはないだろうね。 沙都子(高校生夏服): データを外部に出さないって……入手してみせた会長さんがそう言っても、説得力がありませんわ。 灯: ははは、この場合は諸々特例だよ。私は外道も邪道も遠慮なく行使するからね。よい子は真似しないでね、ってやつさ。 灯: で、話を戻すと……念のためにその後の進路や就職、結婚などでその子たちの将来がどうなったか、追跡で調査をしてみたんだ。 沙都子(高校生夏服): ……もはや個人のプライバシーなど、カケラもありませんのね。ツッコむ気も失せてしまいましてよ。 沙都子(高校生夏服): それで、会長さん。手に入れた情報の中に、何か気になるようなことでも見つけたりしたんですの? 灯: 気になるというより……我が目を疑った、というのが正しい表現かもしれないね。まず、これを読んで。 沙都子(高校生夏服): は、はぁ……って、なんですのこれは?! Part 02: 沙都子(高校生夏服): 入院、カウンセリング、自宅療養が30%越え……?自殺や失踪は未遂を合わせて……10%ですって?! 灯: ……驚いただろう?なんと10人に1人の割合で、補習組の卒業生たちは生きることを放棄する選択をしていたってわけだ。 灯: そして3人は心身に疾患をきたし、社会から脱落していた。合計でおよそ40%……これを低いと取るかどうかは、人次第だけどね。 沙都子(高校生夏服): ……っ、半数近くが……そんなことに……?! 灯: そして、さらに悲惨なことにこれらのデータは有効回答で30%前後の数値を反映したものだ。つまり、実際の数は……もっと上になるだろう。 灯: 貴重な学園生活を、監獄のような環境で過ごした結果だ。これが明るみになると……聖ルチーア学園は終わるね。いや、ここまで酷いならもう終わっちゃった方がいいかな? 沙都子(高校生夏服): ……っ……!! 会長さんの「終わる」という言葉に、私は戦慄を覚えて言葉を失う。 昨今、スパルタ教育という大義名分で人権を軽んじた生徒指導を行っている学校等の教育機関が問題視され、マスコミが騒がしいのも事実だ。 そんな中で、もし聖ルチーア学園内のこんな実情が内部告発や卒業生たちの告白によって明るみに出たら、まさに格好の餌として食い尽くされるだろう……。 沙都子(高校生夏服): ……会長さん。ひょっとしてあなたはこの真実をもとに、学園を告発されるおつもりなんですの? 灯: まさか。そんなことをすれば、卒業生の私までどんな目で見られるかわからないじゃないか。あぁ、あの酷い学校の……と言われるのがオチだ。 沙都子(高校生夏服): 本心で言っているとは思えませんわね……。あなたがそのように他者の目を気にする方であったのなら、もっと楽な学生生活を送っていたはずですわ。 沙都子(高校生夏服): 今は私とあなたの2人きりなんですから、どうか正直に答えてくださいまし。 偽悪的な発言でごまかす会長さんの態度を咎めつつ、私は彼女の本音がどこにあるのか質問を重ねる。 すると会長さんは苦笑交じりに肩をすくめ、「……梨花くんにも内緒だよ」と前置きしてから言葉を繋いでいった。 灯: 私はね、正直この学園がどうなろうと構わない。だが、それは私が私……秋武灯だからだ。 灯: ……この学園には、本気でいい大学に行こうと考えて頑張っている子たちがいる。幸せな未来を思い描いて色々と我慢したり、努力したりしてね。 灯: その数は特進クラスと普通クラスで数百人。いや、卒業生を加えるともっとだ。……それを破壊する覚悟は、君にあるかい? 沙都子(高校生夏服): っ……確かに。 告発を受けてマスコミ連中は大スキャンダルだ、出版数や視聴率のアップだと嬉々とした様子で面白おかしく書き立ててくるだろう。 だが、それによって中傷や非難を受けるのは誰か。……決まっている。学校関係者と生徒、卒業生だ。 彼らや彼女たちは、姿なき批判者に対して言い訳する場も与えられないだろう。そして罪悪感にかられ、自己を否定させられる……。 沙都子(高校生夏服): 一番傷ついて、悲しい思いをするのが真面目にやっている人たちだなんて……世の中は本当に、不公平ですのね。 灯: そういうことだ。……だからこそこの計画は、慎重かつ強い意思を持って進めなければいけない。 灯: ただの甘っちょろい正義感ではなく、悪人たちにも「利」を提示できる……清濁併せ呑むような人材がね。 沙都子(高校生夏服): ……でしたら、会長さん。あなたであれば実に申し分のない御仁ですわ。 沙都子(高校生夏服): たとえ悪魔に魂を売ったとしても、会長さんならきっと平然とされているでしょうしね。 灯: ははは。身に余る高評価は痛み入る限りだけど、あいにく私にはもう時間がない。調べるだけで、タイムリミットが来てしまった。 灯: といって、卒業後に権力を得て手を出すと……改革が大規模になって目立つことは間違いない。そうなるとマスコミの格好の餌になるだろう。 沙都子(高校生夏服): 派手に動くと、周囲に群がっているハイエナどもを中に招き入れる可能性がある、ということですのね。だからこそ、内部で変えていくしかない……。 灯: うん。……そこで、だ。この仕事を北条沙都子くん、君に託したいと思う。 沙都子(高校生夏服): は……はぁぁああぁぁっっ?!会長さん、それは正気で仰っているんですの?! 灯: むしろ、本気と言ってもらいたいね。でないと私が、伊達と酔狂でとち狂ったことを言い出したと勘違いされるじゃないか。 沙都子(高校生夏服): 今の発言をとち狂っていない方のものだと見なすような方がいるんでしたら、今すぐ病院に行くことをお勧めしますわ! 頭のっ! あまりにも唐突かつ、無責任すぎる人選に誰かに聞かれるかもしれないという配慮も忘れ、思わず声を荒げながら叫んでしまう。 だけど、……会長は笑うこともごまかすこともなく私を穏やかな表情で、まっすぐに見据える。 その顔は、慈愛に満ちていて……まるで聖母像に祈りを捧げるような粛然な思いが胸の内にこみ上げてくるのを感じていた。 灯: 沙都子くん。……私は君に、すごく大変なことをさせようとしている。それは重々理解しているつもりだ。 灯: 今のままでも、きっと君のことだから在学生の子たちに慕われる生徒会メンバーのひとりとして、皆から尊敬を集めて……。 灯: 梨花くんや他の仲間たちと一緒に、楽しくてにぎやかな学園生活を送っていくことができると思うよ。 沙都子(高校生夏服): …………。 灯: でも……少しだけでいいから、考えてほしいんだ。ここで今動かなければ、いずれこの学園の醜聞が何者かによって衆人の知るところとなる。 灯: そしてマスコミや、無責任な野次馬たちはこぞって正義を気取りながら容赦なく、この聖ルチーア学園を攻撃してくるだろう。 ……会長さんの予想は、おそらく確実に起こる。この数年で学歴至上主義の教育のやり方が批判を集め、各教育機関は大幅な見直しを迫られているのだ。 その結果、問題が多いと思われる学校はこれ見よがしにやり玉に挙げられ、生贄にされるだろう。それは想像するまでもなく、最悪の未来だった……。 灯: 私はね、正直この学園のことは好きではない……が、君たちのことを気に入っている。後輩に恵まれたと胸を張って言えるくらいにね。 灯: だからこそ、私はこの学園が君たちにとって大事な場所で……そして、他の人たちにとってもそうであってほしいと思っているんだ。 灯: ……残念だけど、過去は変えられない。これまでに不幸になった人たちについては、どうしようもないというのが正直なところだ。 灯: でも、未来はまだ……間に合うかもしれない。その可能性に、私は賭けたい。 灯: もし君が失敗したら、秋武灯にそそのかされたと私をどこへなりとも突き出してくれてかまわない。私が賭けられるのは、私自身の身だけだからね。 沙都子(高校生夏服): ……どうして私なんですの? 梨花ではなく。 灯: 正直言うと、迷いはした。安穏無事であれば、私は梨花くんを生徒会長に推薦しただろう。 灯: だが、この問題の矛先を解決に向かわせるなら、沙都子くんの方が向いていると私は判断した。そして……。 沙都子(高校生夏服): そして? 灯: 私が賭けるなら、君がいい……それだけだよ。 沙都子(高校生夏服): ……っ……! 灯: だけど、この問題解決は君にとって大した利はない。また、生徒にこんな問題を解決する義務があるはずもない。沙都子には、なんの憂いもなく断る権利がある。 沙都子(高校生夏服): 会長さん……。 会長さんの、切なる思いが……伝わってくる。そして……理解する。 あぁ……そうだ。彼女がこんな人だからこそ、私なんかに手を差し伸べてくれたんだ。 だとしたら、答えは――。 沙都子(高校生夏服): 私は、――。 最初から決まっていた。 Part 03: ……その夜、私は夢を見た。 それは、過去の記憶……確かに存在した、私にとって大切な思い出のひとつだった。 梨花: ……沙都子。もしルチーアに受かったら、あなたはどんな学園生活を送りたいと思っていますですか? 沙都子(高校生夏服): なんですの、藪から棒に。まだ受かってもいないのに、そんな妄想は取らぬ狸の皮算用というものでしてよ。 梨花: もちろん、具体的な内容はちゃんと合格してからゆっくり考えるつもりなのです。 梨花: でも、高校は今までの分校とはまるで違う環境になりますので……どんなものになるのか、少しくらい想像するのはいいと思うのですよ。 沙都子(高校生夏服): 確かにそうですわね。……ちなみに梨花は、どんな学園生活を送りたいと考えているんですの? 梨花: みー。ボクはクラスのみんなと昼食やお茶を楽しみながら、仲良くお喋りをしたいのですよ。 沙都子(高校生夏服): えっと……それって、分校で私たちと一緒にやっていることと代わり映えがしないのでは? 梨花: ……みー?言われてみればその通りなのですよ。 沙都子(高校生夏服): をーっほっほっほっ!梨花らしいと言えば、らしい未来図ですわね。 沙都子(高校生夏服): ですが、新しい環境になれば自ずと内容が変わってくるものですし……また違った楽しさがあるかもしれませんわね。 梨花: はいなのです。……沙都子はどうなのですか?あなたのイメージする学生生活を教えてほしいのです。 沙都子(高校生夏服): そうですわね。私は――。 理事長: ……補習組の授業内容の見直し、そして救済制度の導入ですか。ずいぶんと大胆なご提案ですね。 沙都子(高校生夏服): はい。正直に申し上げて今のままでは、決して本人たちの学力向上や態度の改善に繋がっているとは考えられません。 沙都子(高校生夏服): 勉学はただ数をこなすよりも本人に気づかせ、知識に興味を持たせた上でやる気を引き出す……その時に初めて、伸びていくものです。 沙都子(高校生夏服): 私は身をもって、そのことをこの学園で学びました。やり方もわからず勉強嫌いのままでは、いつまでたっても変わり得ないものだと私は考えます。 教師: つまり、それは……私たち教師陣に対する批判ということですか? 沙都子(高校生夏服): (……そらきた。こういう反発はすでに想定済みですわ) 沙都子(高校生夏服): そういうことではありません。先生方のご尽力のおかげで、私は今もなおこの学園で学ぶことができています。 沙都子(高校生夏服): 先生方には、感謝の言葉しかありません。……だからこそ、今後訪れるかもしれない危機的状況を回避する策を講じるべきだと考えた次第です。 理事A: 今後の危機的状況……それはなんだね? 沙都子(高校生夏服): はい。私が懸念するのは、数年前に東海地方で話題になったのと同様の問題がこの学園内で起きることです。 沙都子(高校生夏服): ……『愛生ボートスクール事件』。理事や教師陣の皆さんもすでにお聞き及びのことだと思いますが……あれを他山の石とすべきだと思います。 教師: ……っ……?! その事件の名を出されて、理事や教師たちは動揺を露わにして色めき立つ。 『愛生ボートスクール』……海辺で合宿しながら非行少年たちの構成を促す教育を行うことを目的にしたその私塾は、一時期新しい教育としてもてはやされた。 だが、その実態は体罰を始めとした生徒への虐待が前提のスパルタ以上の厳しさで、調査を行えば行うほどその人権無視の苛烈さが明るみに出たのだ。 さらに、その「教育中」に何人もの生徒が「事故」という名のもとで不審死を遂げたり、心身に異常をきたしたりする事態が続出したという……。 沙都子(高校生夏服): もし、あれと同様のことが起こってしまうと……マスコミたちは決して、この学園を見逃そうとは考えないでしょう。 沙都子(高校生夏服): 徹底的に洗い、潰し……自分たちの利益にすべく好き勝手に暴れ回ると容易に想像ができます。その後の学園には、いったい何が残ると……? 理事B: まさか、貴様ら……じゃない、君たち生徒会は告発をちらつかせて、我々を脅迫しようとでも言うのか?! 教師: 生徒の分際で……身の程を知りなさい! 一部の理事と教師がいきり立ち、厳しい口調で私を叱責してくる。 ……あぁ、ダメだな。この人たちだけでは何も変わらないし、変えられない。 会長さんが私に託した意味が、よくわかった。だったら、私がやるしかないんだ……! 沙都子(高校生夏服): ……そんな思いは微塵もありません。私は、このルチーアが好きなのです。クラスメイトや仲間たち、先生方のことも。 沙都子(高校生夏服): そして、この学園の生徒であることを誇りにも思っています。だからこそ今、やるべき時だと考えました。 沙都子(高校生夏服): 今後もルチーアが、私たちにとって大切で貴重な誇りであるため……どうか、皆様のお力添えをお願いいたします。 深々と頭を下げながら……不意に私の脳裏に、かつての記憶が蘇る。 日々の忙しさと楽しさのせいで、忘れかけていたあの日……私は梨花に向かってささやかだけど思いを込めた言葉を返したのだ。 沙都子(中学生パジャマ): 私はずっと、誰かに支えられて、助けられて……なんとか毎日を過ごしてきましたわ。 沙都子(中学生パジャマ): だから私は、高校では……クラスメイトはもちろん同級生や下級生、上級生、先生方、職員さん……。 沙都子(中学生パジャマ): たくさんの人を好きになって、尊敬して……素敵な学園生活を送るために、皆さんの力になれる存在になれたらと思っていましてよ。 …………。 だから、私は負けない。これが私にとっての、新しい戦いなのだから……!