千鶴「横浜ラーメン、上がったわよ」

渚「はーい」

栄子「かき氷のメロンと練乳ですね。少々お待ちください。今日は忙しいな。イカ娘、かきご・・・うぇっ!」

イカ娘「んー・・・」

栄子「おいっ! 削れてるぞ触手!!」


栄子「ったく、異物混入なんて騒ぎが起こったら、商売上がったりなんだぞ。気をつけろ」

イカ娘「あー・・・」

栄子「触手、大丈夫なのか?」

イカ娘「んー?」


イカ娘「ごちそう様でゲソ・・・」

栄子「ごちそう様ってお前、何も食ってねえじゃねえか」

千鶴「体の具合でも悪いの?」

たける「元気ないよ、イカ姉ちゃん」

イカ娘「ちょっと疲れただけでゲソ。もう寝るでゲソ・・・」


千鶴「悩み事じゃないんでしょ?」

栄子「こいつが元気ないと気持ち悪(わり)いんだよなあ」

渚「もしかしたら夏バテなんじゃないですか?」

栄子「ああ、そっか。地上で快適な暮らしを送ってるうちに、人間と同じ現代病にかかってしまったとか」

イカ娘「私が現代病? 冗談じゃないでゲソ! 長年海で生活しつづてけいたたた、う、そんなくだらない、うぇ・・・ゲソー・・・」

栄子「夏バテ解消法って、何があったっけ?」

千鶴「そうねえ・・・」

渚「冷房をやめて扇風機にするとか」

たける「ぬるいお風呂にゆっくり浸かる。いっそ水風呂に入る」

栄子「軽い運動をする」

千鶴「辛いものを食べる」


イカ娘「ゲソ・・・」

栄子「やつれたな」

イカ娘「私は夏バテなんかじゃないでゲソ。この程度で治ってたまるか・・・でゲソー・・・」

栄子「言ってることと表情が真逆じゃねえか」


栄子「39.5度か。高いな。今日は安静にしてろ」

イカ娘「言われなくてもそのつもりでゲソ」

栄子「ところで、お前のそれは夏バテじゃなかったら何なんだ? 夏風邪か?」

イカ娘「ゲソ・・・、ゲソニンムルゴボング病だと思うでゲソ」

栄子「わかんねえよ! まいったなあ、初耳だ。イカ娘独特の病かよ」

イカ娘「栄子、仕事はどうなのでゲソ?」

栄子「心配するな。私たちが抜けた分、シンディーと早苗ががんばってくれてる」

イカ娘「あの二人が・・・」

栄子「いいか、お前の体のことはお前にしかわからん。少しでも良くなる方法があるなら言ってくれ」

イカ娘「うん・・・」

栄子「その、ゲソニン何とかって病気はどういった症状が出るんだ?」

イカ娘「死ぬ・・・」

栄子「死ぬ!?」

イカ娘「・・・ほどエビが食べたくなる病気でゲソ」

栄子「いつもと何が違うんだ?」

イカ娘「いつもと比べものにならないくらい食べたくなるのでゲソ」

栄子「じゃあエビを食べれば治るのか?」

イカ娘「いや、この病気のときに食べると、むしろ悪化するでゲソ」

栄子「悪化? 熱がもっと上がるのか?」

イカ娘「いや、もっともっとエビが食べたくなるでゲソ。そのエビ欲はとどまるところを知らないでゲソ。いつもより食べたいのに食べられない、ストレスでじたばたしてしまう病気でゲソー」

栄子「めんどくせえな、おい! あ、それじゃあ病気が治るまで、お前はひたすらエビを食べるのを我慢してればいいんだな?」

イカ娘「まあ、そういうことになるでゲソ。うっ・・・」

栄子「どうした!?」

イカ娘「エビ、食べたい・・・」

栄子「うーん・・・」

イカ娘「エビ食べたい! エビ食べたい! エビ食べたいでゲソーっ!」

栄子「発作か?」

イカ娘「食べないと死んじゃうでゲソ!」

栄子「結局死ぬのかよ!」

イカ娘「せめてエビっぽいものが食べたいでゲソ」

栄子「エビっぽいもの? そうだ!」

イカ娘「ううううう・・・」

栄子「ほら、持って来たぞ、イカ娘」

イカ娘「ん?」

栄子「海老根」

イカ娘「全然エビじゃないでゲソ!」

栄子「じゃあ、海老芋も駄目か?」

イカ娘「エビー、エビー。
からかってんじゃなイカ!?
断じて満足するめイカ!!
エビ、エビ、エビ、エビ、エビ、エビ、エビ、エビ、エビ、エビーッ!」

栄子「手に負えん。うーん、まいったなあ・・・うあっ」(まずい、病気のせいで我慢が効かなくなっている。このままでは・・・)

イカ娘「栄子ぉ・・・。栄子!」

栄子「うわああっ、ぐっ・・・ああ?」

イカ娘「もうこんな思いするくらいなら、死んでもいいでゲソ。エビ食べたいでゲソ」

栄子「しかしな、イカ娘」

イカ娘「一生のお願いでゲソ」

栄子「駄目だ、イカ娘! お前のた・・・え?」

イカ娘「エビ、エビ、おかしいでゲソ。ここにエビがあるのにつかめないでゲソ」

栄子(バカなんだか、いじらしいんだか)「おい、イカ娘、病気を治したいか?」

イカ娘「うん。治してエビを食べたいでゲソ」

栄子「こうなったら一か八か・・・。頼みがある。すぐ来てくれないか? 頼む。毒をもって、毒を制す!」


栄子「頼んでおいて何だが、やめるならやめてもいいぞ」

早苗「愚問よ、栄子。イカちゃんが苦しんでいるのを、私が黙っていられると思う? 愛する人のためなら、この命、惜しくはない!」

栄子(早苗・・・。今のお前、最高にかっこいいぜ!)


イカ娘「うーん、誰でゲソ・・・? エビーッ!!」

栄子「お、落ち着いたのか?」


千鶴「ただいま」

栄子「お帰り」

千鶴「イカ娘ちゃんは?」

イカ娘「もうすっかり治ったでゲソよ」

千鶴「まあ、よかった」

栄子「その代わり、早苗が桃源郷から帰ってこないんだ」


イカ娘「はあ、やっと心置きなくエビが食べられるでゲソ。今日はエビフライにしようじゃなイカ」

栄子「え・・・」

千鶴「え?」

栄子「何だよ、お前まだ治ってねえんじゃねえか」

イカ娘「え?」

栄子「いいから部屋で安静にしてろ」

イカ娘「ちょ・・・、大丈夫でゲソ」

栄子「大丈夫なもんか」

イカ娘「もう大丈夫なのでゲソ! だからエビを」

栄子「ふん」

早苗「任せてー!」

イカ娘「や、やめるでゲソー!」