キョン:
入学して1ヶ月ちょいが経過し、
俺はまるで山頂へ向けて何度も岩を転がし続けるシーシュポスのように、
この強制早朝ハイキングコースを心ゆくまで満喫していたのだが、
そこに追い討ちをかけるがごとく
俺の平常心をマグニチュード8.0で揺さぶる事件が
起こってしまった。
いや、始まったと言ったほうがいいな。

ハルヒ:
ないんだったら、自分で作ればいいのよ。
部活よ!
協力しなさい。
名前なら、たった今考えたから。
SOS団!

キョン:
稀代の変人、涼宮ハルヒによる、無間地獄の始まりだ。

朝倉:
おはよう。

キョン:
おはよう。

朝倉:
今日、日直なの忘れててさ、早く職員室行って日誌もらって来なきゃ。
ごめん、先行くね。

キョン:
あんな女子が同じクラスにいるってのに。

ハルヒ:
ねえ、キョン。あと必要なのはなんだと思う?

キョン:
何が…

ハルヒ:
やっぱり、謎の転校生は押さえておきたいと思うわよね。

キョン:
頼むから、文脈をはっきりさせて会話を開始してくれ。

ハルヒ:
SOS団に必要なものよ。謎の転校生くらいは欲しいじゃない。

キョン:
その前に、謎の定義を教えてほしいもんだ。

ハルヒ:
新年度が始まって2ヶ月も経たないのに、
そんな時期に転校してくるやつは、
十分謎の資格があると思うでしょ、あんたも。

キョン:
親父の急な転勤とかあるだろ。

ハルヒ:
いえ、不自然だわ、そんなの。

キョン:
お前にとって自然とは何なのか、俺は知りたい。

ハルヒ:
うーん、来ないもんかしらねえ、謎の転校生。

キョン:
ようするに、俺の意見なんかどうでもいいんだな、お前は。

キョン:
どうも、俺とハルヒが何かを企てているという噂がながれているらしい。

谷口:
おまえさぁ、涼宮となにやってんの?まさか、つきあいだしたんじゃねぇよな。

キョン:
断じて違う。俺が一体全体何をやっているのか、この俺自身が一番知りたい。

谷口:
ほどほどにしとけ。中学じゃないんだし。グラウンドを使用不能にしたら停学ぐらいにはなるぜ。

キョン:
せめて長門有希や朝比奈ミクルさんに害が及ばないようにしないとな。

キョン:
SOS団設立以来、殺風景だったここ文芸部室にやたらとものが増え始めた。
というかここで暮らすつもりなのだろうか。

ハルヒ:
コンピューターも欲しいところね。
この情報化社会にパソコンの一つも無いなんて許し難いことだわ。

キョン:
誰を許さないつもりなんだ?

ハルヒ:
じゃ、調達に行くわよ。

キョン:
おいおい、あてがあるのか?電気屋でも襲うつもりか?

ハルヒ:
まさか。もっと手近なところよ。

ハルヒ:
こんにちわー。パソコン一式いただきに来ました。部長は誰?

コンピューター研究会部長:
何か用?

ハルヒ:
コンピューター研究会にわざわざ出向く用事なんて一つでしょう。1台でいいからパソコン頂戴。

コンピューター研究会部長:
はぁ?いきなりなんだよ。

ハルヒ:
いいじゃない。一個くらい。こんなにあるんだし。

コンピューター研究会部長:
あのねぇ。ってか君たち誰?

ハルヒ:
SOS団 団長 涼宮ハルヒ。この二人はあたしの部下その一とその二よ。
というわけだから、四の五の言わずに一台よこせ。

コンピューター研究会部長:
どういう訳だよ。駄目に決まっているじゃないか。

ハルヒ:
ふーん。あーそう。じゃぁこっちにも考えがあるわ。

キョン:
なんとー。

ミクル:
いやーーーーー。

コンピューター研究会部長:
な、なんのつもりだよ。

ハルヒ:
はい。もう一枚。

コンピューター研究会部長:
何をするんだ。

ハルヒ:
ちっちっちっ。あんたのセクハラ写真はバッチリ撮らせてもらったわ。
この写真を校内にばらまかれたくなかったら、とっとと耳をそろえてパソコンを寄越しなさい。

コンピューター研究会部長:
そんな。ばかな。君が無理矢理やらせたんじゃないか。僕は無実だ。

ハルヒ:
いったい何人があんたの言葉に耳を貸すかしらねぇ。

コンピューター研究会部長:
ここにいる部員達が証人だ。

コンピューター研究会部員その1:
そうだ。

コンピューター研究会部員その2:
部長は悪くないぞ。

ハルヒ:
部員全員がこの子を集団で○○したって言いふらしてやる。

キョン:
いくらなんでもそれは。

ハルヒ:
どうなの?寄越すの?寄越さないの?

ミクル:
涼宮さん...。

コンピューター研究会部長:
そっ...。
くっ。好きなのを持って行ってくれ。

コンピューター研究会部員その1:
部長!

コンピューター研究会部員その2:
しっかりしてください。

コンピューター研究会部員その3:
お気を確かに。

キョン:
何の喜劇だ。

ハルヒ:
いーやったー。

ハルヒ:
最新機種はどれ?

コンピューター研究会部長:
何でそんなことを教えなくちゃいけないんだよ。
クソッ。そ、それだよ。

ハルヒ:
昨日パソコンショップで最近出た機種を一覧にしてもらったのよねぇ。
これには載ってないみたいだけど。

ハルヒ:
これ頂戴。

コンピューター研究会部長:
ま、待ってくれ。それは先月購入したばかりのやつで。


コンピューター研究会部長:
もってけ泥棒。

キョン:
仰るとおり、まさしく泥棒だ。

ハルヒ:
さぁ、キョン、運んで。

キョン:
とまぁ。こんな感じでまんまと最新機種のパソコン一式をせしめたハルヒは、文芸部室がインターネットできる環境でないとわかるやコンピ研部長とその他を呼んで、LANケーブルを二つの部屋の間に引かせ、ついでに学校のドメインからネット接続できるようにさせた。
盗人猛々しいとはこのことだ。

キョン:
とりあえず帰りましょう。

ミクル:
ん、ん。

キョン:
朝比奈さん。こんなけったいな団に関わらない方がいいですよ。今後もあいつに何されるかわからない。

ミクル:
いえ。いいんです。あなたもいるんでしょう?

キョン:
えっ?

ミクル:
おそらく、これがこの時間平面上の必然なのでしょうね。

キョン:
はぁ?

ミクル:
それに長門さんがいるのも気になるし。

キョン:
何が?

ミクル:
はっ。あ、いや。なんでもないです。ふつつか者ですが、これからもよろしくお願いします。
それから、私のことでしたらどうぞミクルちゃんとお呼びください。

キョン:
さて、次に待ってたのは。

キョン:
で、誰が作るんだ?そのサイトとやらを。

ハルヒ:
あんた。どうせ暇でしょ。やりなさいよ。あたしは残りの部員を捜さないといけないし。
一両日中によろしくね。
まずサイトができなことには活動のしようがないし。

キョン:
はぁ。

キョン:
あむ。サイト作りねぇ。

キョン:
とか言いながらも、おもしろがって作ってしまった。あらかたのアプリケーションはコンピ研がインストールしてくれてたし
簡単だったからな。
昼休みの暇つぶしには持ってこいだ。

キョン:
ところでどんなことを書けばいいんだ?
何しろ俺はSOS団が何をする団なのかまだ知らないのだ。

キョン:
長門、何か書きたいことはあるか?

長門:
なにも。

キョン:
どうでもいいが、こいつはちゃんと授業にでてるんだろうな?

キョン:
いけね。授業だ。

長門:
これ。貸すから。

キョン:
いろいろ疑念は尽きないのだが、こうして足繁く部室に通ってしまうのは何故だろう。何故だろう。
これが習性というものなのか。はたまた...。

キョン:
ちわっ。

キョン:
つうか、この二人は余程暇なのか?俺も人のことは言えないが。

ミクル:
涼宮さんは?

キョン:
さあ、6限には既にいませんでしたけどね。また何処かで機材を強奪しているんじゃないですか?

ミクル:
あっ。私また昨日みたいなことを...。

キョン:
大丈夫です。今度は俺が全力で阻止しますよ。

ミクル:
本当ですか?ありがとう。それじゃあお願いします。

キョン:
お願いされましょう。

ハルヒ:
やーーほーい。

キョン:
やっほーって。

ハルヒ:
まずはこれ。

キョン:
SOS団結団に伴う所信表明。

ハルヒ:
それから、これ。じゃじゃじゃじゃーん。
これ着てビラ配りに行くのよ。

キョン:
何処へだよ。

ハルヒ:
校門。今なら下校中の生徒いるし。

キョン:
で、何を着るって?

ハルヒ:
あんたじゃないわよ。
着るのはミクルちゃん。
バニーガール。

ミクル:
あのぅ。それは一体?

ハルヒ:
さぁさぁ着替えて着替えて。

ミクル:
いやですぅ。

ハルヒ:
うるさい。
脱いだ脱いだ

キョン:
おい、涼宮!何すんだ。

ミクル:
駄目。見ないで。

ハルヒ:
おとなしく着なさい。はやく。さっさと全部脱げ-。

運動部の生徒:
ファイト。オー。ファイト。オー。

ミクル:
駄目-。せめて自分で外すから。あ、あ、いや、いやー。

ハルヒ:
入っていいわよ。

キョン:
まるで悪代官だ。

ハルヒ:
どう?これで注目度バッチリでしょう?

キョン:
そりゃいやでも目立つだろうが。
長門はいいのか?

ハルヒ:
2着しか買えなかったのよ。フルセットだから高かったんだから。

キョン:
そんなもん、どこで売ってるんだ。

ハルヒ:
ネット通販。

キョン:
なるほど。

ハルヒ:
じゃぁ、行ってくる。
いくわよ。ミクルちゃん。

ミクル:
いやー。

ハルヒ:
いっくぞー。おー。

キョン:
ごめん。正直たまりません。それ。情熱をもてあます。

キョン:
やれやれ。まだ体温が残っている。生々しい。

キョン:
SOS団結団に伴う所信表明。我がSOS団は...。

ハルヒ:
我がSOS団はこの世の不思議を広く募集しています。過去に不思議な体験をしたことのある人、
今現在、とても不思議な現象や謎に直面している人、遠からず不思議な体験をする予定のある人、
そういう人がいたら我々に相談すると良いです。たちどころに解決に導きます。
ただし、普通の不思議さでは駄目です。
我々が驚くまでに不思議なことじゃないといけません。注意してください。

キョン:
この団の存在意義が、段々とわかってきた気がする。

ハルヒ:
腹立つ-。なんなのあの馬鹿教師ども。邪魔なのよ。邪魔。

キョン:
なにか問題でもあったのか?

ハルヒ:
問題外よ。まだ半分しかビラまいてないのに教師が止めろとか言うのよ。何様よ。

キョン:
バニーガールが二人して学校の門でチラシ配ってたら、教師じゃなくても飛んでくるっての。

ハルヒ:
ミクルちゃんは「うわんうわん」泣き出すし。あたしは生徒指導室に連行されるし。
ハンドボール馬鹿の岡部も来るし。

キョン:
みんなさぞかし目が泳いでいたことだろう。

ハルヒ:
もう。今日はこれで終わり。解散。
いつまで泣いてるの!ほら、ちゃっちゃと着替える!

ミクル:
キョンくん、私がお嫁に行けなくなったら、貰ってくれますか?

キョン:
なんと言うべきか。朝比奈さん、その後ろ姿はまるで受験に失敗した浪人生か、
はたまた一戸建てを無理して買った直後にリストラされたサラリーマンの様ですよ。
あ、ていうか、あなたも俺をその名で呼ぶんですか?

キョン:
次の日、涼宮ハルヒの名は有名を超越して全校生徒の常識にまでなっていた。

谷口:
キョンよう、おまえいよいよもって涼宮と愉快な仲間達の一員になっちまったんだなぁ。

キョン:
うるさい。

キョン:
さらに問題なのはオプションとして俺と朝比奈さんの名前まで囁かれ始めたということだ。

国木田:
本当、昨日はびっくりしたよ。バニーガールが校門に立ってるんだから。
あれ、もう一人は二年の朝比奈さんだよね?

谷口:
いまや全校生徒の注目の的だぜ。おまえら。

朝倉:
このSOS団って何なの?

キョン:
涼宮に聞いてくれ。俺は知らん。知りたくもない。

朝倉:
おもしろいことしてるみたいね。貴方たち。でもあれはちょっとやりすぎたと思うな。

キョン:
この日、朝比奈さんは学校を休んだ。

ハルヒ:
なんで一通もメール来ないのよ。あんだけ宣伝したのに。

キョン:
あんな宣伝でこの団に関わろうとする物好きはいないだろう。注目度抜群ってところは否定しないがな。

ハルヒ:
あれ?ミクルちゃん、今日は休み?

キョン:
もう二度と来ないかもな。トラウマにならなきゃいいのだが。

ハルヒ:
せっかく新しい衣装を用意したのに。

キョン:
自分で着ろ。

ハルヒ:
もちろんあたしも着るわよ。でもミクルちゃんがいないとつまんない。

キョン:
長門に着せればいいのに。あいつなら淡々と着るだろうし、ついでにそれはそれで見てみたい気もする。

ハルヒ:
あー。SOS団を結成していきなり座礁じゃない。みんな出し惜しみしてるんじゃないかしら。
独り占めするつもり。

キョン:
なぁ、ハルヒ、ありませんか?と聞いて、はい、あります。という答えが返ってくる程、こんな県立高校の一角に
不思議な謎がごろごろ転がっているなんてわけないだろ。
わかるよな。お前も本当は理解してるんだろう。ただもやもやしたやり場のない若さ故のいらだちが
お前を突き抜けた行動に導いているだけだよなぁ。
いい加減に目を覚まして誰か格好のいい男でも捕まえて一緒に下校したり、日曜日に映画行ったりしてろよ。
それから運動部に入って思いっきり暴れてろよ。お前なら即レギュラーで活躍できるさ。

ハルヒ:
帰る。

キョン:
じゃ、俺も帰るわ。

長門:
読んだ?

キョン:
何を?

長門:
本。

キョン:
あ、いや、まだだけど。返した方がいいか?

長門:
返さなくていい。

キョン:
しかし、いつも台詞が原稿用紙1行分を越えない奴だな。

長門:
今日、読んで。帰ったら、すぐ。

キョン:
わかったよ。

キョンの妹:
ふわぁ、きょんくん何処行くの?

キョン:
駅前。物を食べながらしゃべるんじゃありません。

キョン:
今日で良かったのか?ひょっとして昨日も待っていたとか?
何故、わざわざここに?

長門:
こっち。

キョン:
あー、家のひとは?

長門:
いない。

キョン:
いないのは見ればわかるが、お出かけ中か?

長門:
最初から、私しかいない。

キョン:
一人暮らしか?

長門:
そう。

キョン:
それで、何の用?

長門:
飲んで。
おいしい?

キョン:
ああ。

キョン:
産れる。

キョン:
あの、そろそろ俺をここへ連れてきた理由を教えてくれないか?
学校ではできないような話って何だ?

長門:
涼宮ハルヒのこと。そして私のこと。
あなたに教えておく。

キョン:
涼宮とお前が何だって?

長門:
うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて。
涼宮ハルヒと私は普通の人間じゃない。

キョン:
なんとなく普通じゃないのはわかるけどさ。

長門:
そうじゃない。

長門:
性格に普遍的な性質を持っていないという意味ではなく、文字通りの意味で、彼女と私はあなたのような大多数の人間と同じとはいえない。この銀河を統括する情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが私。

キョン:
はい?

長門:
通俗的な用語を使用すると宇宙人に該当する存在。

キョン:
宇宙人?