咲 「はぁ……」

良介 「旅先からばっくれたうえに、朝帰りとはなぁ」

咲 「良介兄さん」

良介 「卒業旅行ってぇのは、学生気分を置いてくるための旅行じゃなかったのかァ? どうすんだ、内定者面談? 先輩怒ってたぞ」

咲 「あの……」

良介 「事故とかなくてよかったよ。早く避難しろォ。朝子に見つかったらどやされるぞォ」



第4話
リアルな現実 虚構の現実



滝沢 「記憶がないって、ホント不便だよな」

滝沢 「俺さぁ、二万人のニート……殺したの?」

Juiz 「申し訳ありません。彼らのその後については把握しておりません」

滝沢 「でも、俺がここに二万人のニートを集めてたのは事実なんだろ?」

Juiz 「はい」

滝沢 「マジかよ~。やっぱやってんのかな~? あとさ、なんで俺がセレソンなんてのに選ばれたの?」

Juiz 「さあ? セレソン選抜の基準をジュイスは聞かされておりませんので」

滝沢 「そう、聞かされてないんだ?」

Juiz 「はい」

滝沢 「じゃあさ、サポーターってのは何?」

Juiz 「サポーターというのは12人のセレソンの中の一人で、救世主に不適格なセレソンを排除する役目を担うシステムのことです」

滝沢 「それが俺だってこと?」

Juiz 「さあ? それもジュイスにはちょっと――」

滝沢 「要するに、ジュイスに俺のこと聞いてもムダってわけだ」

Juiz 「はい、その通りです」

滝沢 「じゃあ、誰に聞けっつの?! 少しは俺の身になってくれよ。……そういやあのオッサン、他のセレソンに聞けって言ってたな」

滝沢 「何だこれ。ほとんど分刻みで実行されてんぞ。5番の奴、休みなく申請続けてんの?」

Juiz 「いいえ。私たちはややこしい申請の場合、案件をいくつかの条件に分けて実行していくんです」

滝沢 「じゃあこれって、元はひとつの申請?」

滝沢 「なあ、ジュイス。東洋メディカルテックって会社から、おとといMRIを納入した先を調べてくれるかな?」

Juiz 「……受理されました。今後も救世主たらんことを――」


作業員A 「うおっ!」

滝沢 「ミサイルの爆心地……」

作業員A 「おい! 危ないだろう!」

作業員B 「……ったく! 標識見えなかったんですかねえ?」

作業員A 「あのままバイクを放り捨てるのかと思ったよ。あの映画みたいにさ」

作業員B 「何ですかそれ?」

作業員A 「昔あったんだよ。ラストシーンでスクーターを放り捨てる青春映画が。知らない? あの映画のタイトル」

作業員B 「今どき青春映画なんて見ませんからねえ」

作業員A 「そうなの?」

作業員AB 「うおおっ!」

ジョニークリーチャー 「キィィィイイイイイイイイイッ!」

滝沢 「ジョニー! ジョニー! ジョニー!」

滝沢 「くってってって! やめろ! こいつ! いい加減にしろ! こーのー、役立たずどもがああああああああああああああッ!」

作業員A 「おい、だいじょぶか、お前?」

滝沢 「さらば青春の光」

作業員A 「はぇ?」

滝沢 「さっき言ってた映画のタイトル」

作業員A 「ああ、そうだっ! さらば青春の光!」

滝沢 「あんなのと一緒にしないでよね。俺、別にいま絶望してないから」

滝沢 「……関越道ってどう行くんだっけ?」


朝子 「そうなの。で、結局帰ってきたの今朝だったみたいで。そう。昨日はみっちょんとこに泊めてもらったみたいよ」

朝子 「咲! 大杉くんから電話。そろそろ起きなさいよ」

咲 「起きてる」

朝子 「心配して何度も電話くれたんだよ」

咲 「もしもし?」

大杉 「ごめん、寝てた?」

咲 「ううん。こっちこそ連絡しなくて――」

大杉 「いや、無事だったらいいんだ。……昨日、みっちょんとこ泊まったの?」

咲 「うん」

大杉 「う……そう。ところで、面談はどうなった?」

咲 「明日、改めて会ってもらえることになった」

大杉 「よかった。それじゃあさ、一緒に出ない? 僕も明日から内定者研修なんだ」

咲 「えっ? 遠回りでしょ?」

大杉 「だいじょぶ、だいじょぶ。面談とかって心細いじゃない? 誰か一緒の方が勇気出るし」

咲 「うん。ありがと」

大杉 「じゃあ、明日」

大杉 「みっちょんとこって……」

咲 「はぁ……何やってんだろ……」


滝沢 「すいません。昨日こちらの病院でMRIっていう機械を買ったと思うんですけど、それ買ったのって誰ですかね?」

受付嬢 「誰……と言われましても。まあ、あえて言えば、院長先生ということになるんでしょうか」

滝沢 「なるほど。それじゃあ、申し訳ないんだけど、その院長先生に取り次いでもらえますか?」

受付嬢 「はあ……? 失礼ですが、アポイントは……」

滝沢 「いやぁ、ないんですけど。セレソンが来てるって言ってもらえれば、たぶん。これ、携帯の番号です」

滝沢 「なんか、爺さん、婆さんばっかだな」

老人 「こんなもん読まんでいい。ワシらにとって、火浦先生は救世主なんだ。誰が何と言おうとな」

滝沢 「救世主?」

老人 「まったく――」

滝沢 「森美咲――あ。もしもし」

火浦 「セレソンというのは君かね?」

滝沢 「ああ、俺、滝沢っていいます」

火浦 「どうやってここを突き止めた?」

滝沢 「ええと……履歴にあったMRIって機械の納入先を調べて――」

火浦 「うん。……君のナンバーはいくつだ?」

滝沢 「はい?」

火浦 「君は何番目のセレソンかね?」

滝沢 「9番です……」

火浦 「なるほど……9番がサポーターだったか」

滝沢 「ちょっと待ってください! 近藤のオッサンにもそう言われたんですけど、それって何なんですか?」

火浦 「近藤とは、4番のことかね?」

滝沢 「ええ。……あの、直接会って話しません? 俺、自分で自分の記憶消しちゃったらしくて、何も思い出せないんです。この携帯のことも、セレソンとか、俺たちが参加しているらしいゲームのこととかも。だから、その辺のことを教えてほしいだけで……お願いしますよ!」

火浦 「君の殺されるのは構わない。それがルールならな。だが、残金のあるうちに殺されるのは不本意だ」

滝沢 「いや……殺さないし」

火浦 「ま、いいだろう。今から薬を持って行かせる。その薬を飲めば、君がどうやってその携帯を手に入れたのかはわかるはずだよ」

滝沢 「あの……ちなみにその薬って何の薬なんですか?」

火浦 「さあな」

滝沢 「はやっ! 考える余地はないってことですか? 飲みますよ」

滝沢 「医者が病院で毒盛るか、普通……?」


滝沢 「まったく……とんでもねえ医者だな」

携帯の男 「ごきげんよう。Mr.OUTSIDEだ」

滝沢 「Mr.OUTSIDE?」

携帯の男 「私は至極個人的な信念に基づき、この国を救うための救世主を12人、独善的に選抜することに決めた。そしてその12人をセレソンと名付け、さらにそのうちの一人をサポーターに任命した。君は今日からセレソンだ。おめでとう。ちなみにサポーターとは、いわゆる12番目の選手――熱狂的な応援者であり、冷酷な監視員のことだ。もし君がセレソンとして正しく機能しなかった場合は、サポーターによって厳しくジャッジが下されると思ってくれたまえ」

滝沢 「じゃあ、俺はサポーターじゃないんだ?」

携帯の男 「12人のうち、誰がサポーターかは私しか知らない。君かも知れないし、違うかもしれない。なお、選別された12人からは、身に覚えがあろうとなかろうと、セレソンになろうという強い意志があったと認識している。したがって、この使命を辞退することは許されない。プレゼントした携帯の中には100 億円が入っている。使い道は全面的に君に任せる。自由な発想でこの国を正しき方向に導いてほしい。ただし、その100億を現金に換えることはできない。何らかの要望が生じた場合、中央のボタンを押してコンシェルジュを呼び出してもらえればいつでも対応するようになっている。なお、その際にかかる費用は 100億円から引き落とされ、その使用履歴は他のセレソンに通知されるものとする。最後にペナルティについて伝えておく。以下の条件が該当するセレソンは、サポーターによって迅速かつ確実な死が与えられると思ってほしい。第一に、任務を途中放棄し、逃亡を図った場合。第二に、携帯を長期にわたって使用せず、何の成果も得られない場合。第三に、与えられた100億を国益のためでなく、個人の欲望のために使用し続けた場合。第四に、国を救うという目的が果たせぬまま、残高がゼロになった場合である。ただし、これらは最低限の事項にすぎない。選ばれし者はその行動に極力責任を持ってもらいたい。なお、12人のセレソンのうち最終的に生き残れるのは最初に使命を全うした一人に限られる。誰かがゴールした時点で残りのセレソンは自動的に消滅する」

滝沢 「何だよ、それ! 参加そのものが罰ゲームじゃんか!」

携帯の男 「私からは以上だ。もし君がうまい具合にこの国を救う方法を見出し、最初にゴールした暁には、自然に私の元にたどり着くようになっている。ノブレス・オブリージュ。君が救世主たらんことを切に願う――」

滝沢 「火浦さんも、この携帯もらった時、こんなんだったんですか?」

火浦 「少々芝居がかってしまったがね」

滝沢 「どうしてこんなマネを……」

火浦 「今日の県議会で私の要望が通るまでは生きていたくてね。君がサポーターだった場合を恐れ、眠ってもらった。あれで大体合っているはずだ。あの日、酔ってタクシーに乗り、気づいたらゲロにまみれて奇妙な箱と対面していた」

滝沢 「ゲロまで再現しなくても……で、火浦さんには、自ら望んでゲームに参加したって心当たりは?」

火浦 「ない。が、あるといえばある。私はもうずいぶん前から脳外科医としての自分に限界を感じていてね。……所詮、一人の医師が生涯で救うことのできる命の数はたかが知れている。見たまえ。この街に患者を集めると同時に、家族にも転居してもらい、うちで雇用できるよう法律を変えさせた」

滝沢 「え……?」

火浦 「単純な話さ。国が切り捨てようとした高齢者を人的資源として雇用できる個人病院を100億かけて作ったってことさ。後はそのシステムが自治体によって運営されるようにできれば私の仕事は終わる」

滝沢 「今までの履歴、賄賂だったんですか?」

火浦 「ジュイスは優秀だな。この短期間に県議会をすべて丸め込んだんだからな」

滝沢 「ジュイスが? 待てよ……ってことは、他のセレソンは俺も含めて消滅する……?」

火浦 「いや、それはないだろう。ここはあくまで私個人が理想とする病院だからね。アウトサイドの眼鏡には適ってないだろう」

滝沢 「これで上がれないなら、後は何をすりゃいいんだよ? アウトサイドってのは悪魔だな」

火浦 「私には気前のいい神に思えるがね」

滝沢 「俺たち、厄介なゲームに巻き込まれましたね……俺も死にたくはないけど、俺のカネ半分そっちに分けましょうか?」

火浦 「心遣いには感謝するがね。私は初めから上がるつもりはないんだ。……それで? 君はあと何を聞きたいのかね? 君が何者かなんて私にもわからないよ」

滝沢 「俺、いままで何やってました? たぶん、20億くらい使ってるんですけど」

火浦 「ゴーストタウンのショッピングモール。海上コンテナ500個。外務省の接待費。他にも色々やっていたようだねえ」

滝沢 「もしかして、大量殺人とか……?」

火浦 「悪いが、教えるのはやめておくよ」

滝沢 「何でですか?!」

火浦 「君は記憶を消してまで何かをしようとしたんだろう? 履歴から察するに、記憶を消す前の9番はなかなか魅力的な人物だった。その君が、過去を捨ててまで新しい自分に賭けたんだ。だったら、そのままの君でいいと思うがねえ」

火浦 「死ぬ前に会えてよかったよ」

滝沢 「やめてくださいよ! まだ……」

火浦 「君が救世主たらんことを――」


Juiz 「ジュイスです」

火浦 「やあ、ジュイス。色々と世話になったね。おかげで有意義な金の使い方ができたよ」

Juiz 「とんでもない。たいしたお役にも立てなくて」

火浦 「いや、充分だ。ありがとう」

火浦 「あなたがサポーターだったのか……覚悟はできている。悔いはない」


滝沢 「サポーターか?! 火浦さん、あんた人がよすぎるよ。俺は納得いかない。こんなふざけた携帯送りつけた奴、ぶん殴ってやらなきゃ、気が済まないよ!」


キャスト

滝沢 朗
森美 咲
Juiz
大杉 智
森美 良介
森美 朝子
火浦 元
受付嬢
作業員A
作業員B
老人A
ジョニークリーチャー