イカ娘「雨が降ってきたでゲソ」

栄子「ああ、台風が近づいてるらしい。逸れるといいんだが、無理っぽいなあ」

イカ娘「ええー」

たける「ええーっ! 宿題の絵、描きに行こうと思ってたのに」

栄子「ま、あきらめろ」

たける「やだー。せっかくやる気になってたのに。あ、そうだ!」


たける「これをこう丸めて」

イカ娘「たける、何をしてるでゲソ?」

たける「あ、これ? あ、そっか。イカ姉ちゃん知らないのも当然か」

イカ娘「んー?」

たける「晴れるように、てるてる坊主!」

イカ娘「首をくくっているのに、笑っているのが逆に怖いでゲソ」

たける「やなこと言わないでよ、イカ姉ちゃん」

栄子「おまじないの一種だよ」

イカ娘「おまじない? 意味あるのでゲソ?」

栄子「これを吊るしておくと、雨が降らなくなるんだよ」

イカ娘「はあ・・・」

たける「早く天気になりますように。あーあ、やることなくて困っちゃうよ」

千鶴「あら、別に雨降ってても宿題できるじゃない」

たける・イカ娘「あ?」

千鶴「別に風景じゃなくてもいいんでしょう?」

栄子「そうだぞ、たける。言い訳するな」

たける「ええーっ? あ、じゃあモデルになってくれる?」

千鶴・栄子「え?」

たける「人物を描くなら家族にしなきゃいけないんだよ。どっちにしようかな」

千鶴「あら、だったら私たちよりもっといいモデルがいるじゃない」

たける「え?」

イカ娘「なかなか難しいでゲソ・・・」

栄子(何を作っとるんだ、こいつは)

たける「だから家族でないと・・・」

千鶴「何言ってるのよ。もう家族みたいなものじゃない。ねえ、イカ娘ちゃん」


たける「じゃあ、イカ姉ちゃん、僕が描いてる間、動かないでね」

イカ娘「わ、わかったでゲソ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たける」

たける「動かないで!」

イカ娘「うっ・・・」

たける「だめだーっ! 失敗!」

イカ娘「あああーっ!」

たける「ごめん、イカ姉ちゃん。もう一回お願い」

イカ娘「いやでゲソ! 何もせずにじっとしていられるわけないじゃなイカ! 今度は私がたけるを描く番でゲソ」

たける「ええ?」


イカ娘「じゃーん!」

たける「何それ? あっ、そうか。ウケ狙いか」

イカ娘「私はいつでも真面目でゲソ!」

千鶴「イカ娘ちゃん、触手を使って描くっていうのはできる?」

イカ娘「え? できないことはないでゲソ」

栄子「上手いな」

千鶴「何か次元の壁を超えてるわね」

たける「これを提出してもバレないかな」

栄子「家族でないと駄目なんだろ? 自分の肖像画を提出してどうする」

千鶴「イカ娘ちゃん、こんなに上手なんだから、私たちも描いてくれない?」

イカ娘「え? う、うう、うーん・・・たけるは単純な顔だからいいけど」

たける「ええっ!?」

イカ娘「二人は難しいでゲソ」

栄子「さらっと酷いこと言うなあ」


イカ娘「千鶴」

千鶴「・・・・・・」

イカ娘「栄子」

栄子「なぜそうなる!」

イカ娘「私の触手は繊細だから、イメージをそのまま表現してしまうのでゲソ」

栄子「私をどうイメージしたらこうなるんだ! たけるはこんなに普通なのに・・・」

イカ娘「たけるは特に特徴がないからでゲソ」

たける「ないっ!?」

栄子「なあ、じゃあ他のやつらはどうなるんだ?」

イカ娘「まだ描くのでゲソ? 悟郎はこうで・・・」

栄子「それは水泳帽だ」

イカ娘「渚はこう」

栄子「うおお、まぶしい」

イカ娘「早苗でゲソ」

栄子「『早苗・オブ・ザ・デッド』になってんじゃねえか!」

イカ娘「シンディーはこんなイメージじゃなイカ?」

栄子「ある意味、早苗と同類か。早苗が見たら泣くな」

千鶴「あの子ならむしろ喜びそうな気が」

栄子「ってか、たけるが絵、描かないと・・・」

たける「心が折れた・・・」

栄子「やれやれ。イカ娘、もっかいモデルやってやれ」

イカ娘「ええー? う、うーん、仕方ないでゲソ」


たける「うーん、できたんだけど、何かマンガチックになっちゃった」

栄子「いや、これでいいんだよ」

千鶴「ええ」

イカ娘「私はこんなシンプルな顔じゃないでゲソ!」

栄子「いや、この上なく忠実だよ。あ、そうだ。お前のイメージを自分で描いたらどうなるんだ?」

イカ娘「私のイメージでゲソか?」


栄子「やっぱりお前のイカセンスはわからんな」

イカ娘「芸術は理解されにくいもんでゲソ」

栄子「芸術って、あれもか? ただのゴミにしか見えん」

イカ娘「ああっ、極めて遺憾じゃなイカ!」

栄子「たける、ちゃんとしたてるてる坊主の作り方を教えてやれよ」

たける「ええ?」


たける「きゅっ、きゅ、と。こんなもんかな?」

栄子「おお、かわいいじゃないか。イカ娘、そっちはどう・・・」

栄子・たける「うぇっ!」(うわああ・・・)

イカ娘「糸で首を絞めていたら、感情移入してしまったでゲソ」

たける「とても天気にしてくれるとは思えないよ、それ」

イカ娘「ならば! 私自らがてるてる坊主になるでゲソ! で、てるてる坊主は何をすればいいのでゲソ?」

たける「ええっ? じゃあ、まず窓際に立って」

イカ娘「ああ・・・」

たける「それから笑顔!」

イカ娘「にこっ」

たける「で、あとは雨がやむまでじっとしてて」

イカ娘「わかったでゲソ」


イカ娘「まだ続けるのでゲソ?」

たける「イカ姉ちゃん、そろそろ寝る時間だよ」

イカ娘「あ、雨は?」

たける「うん、さらにひどくなってる・・・」

イカ娘「うあっ! ううう、がんばってじっとしてたのに・・・。やっぱり首をくくるところまでやらなきゃ駄目だったでゲ・・・」

たける「もういいよ、イカ姉ちゃん!」

イカ娘「ううう、しかし・・・」

たける「気にしないで、イカ姉ちゃん。てるてる坊主なんて所詮はただのおまじないなんだから」

イカ娘(たける・・・、このままではたけるがすさんだ子供になってしまうでゲソ。子供はもっと夢を持たなきゃいかんでゲソ!)「大丈夫でゲソ、たける!」

たける「ええっ?」

イカ娘「てるてる坊主はちゃんとたけるのことを見守っててくれるでゲソ!」

たける「あ・・・、うん」


たける「ううん・・・。駄目だ。うるさくて眠れやしない。え? 何だこれ・・・? ぎゃあああああああああああああっ!!!」


千鶴「で、外は晴れたけど、局地的に雨が降っちゃったのね?」

イカ娘「ほーら、私の言ったとおりじゃなイカ」

栄子「余計なことしかしてねえだろ!」