madoka ep5, 後悔なんて、あるわけない

美樹さやか
「本当に、どんな願いでも叶うんだね?」

キュゥべえ
「大丈夫。  
君の祈りは間違いなく遂げられる。
じゃあ、いいんだね?」

美樹さやか
「うん。
やって」
キュゥべえ
「さあ。
受け取ると良い。
それが君の運命だ」

――OP――

志筑仁美
「ああ、端ない。
ごめんあそばせ」

美樹さやか
「どうしたのよ、仁美?
寝不足?」

志筑仁美
「ええ。
夕べは病院やら警察やらで夜遅くまで」

美樹さやか
「え~!?
何かあったの?」

志筑仁美
「何だか私、夢遊病っていうのか、それも同じような症状の方が大勢いて、気がついたら皆で同じ場所に倒れていたんですの」

美樹さやか
「あはっ!
何それ?」

志筑仁美
「お医者様は集団幻覚だとかなんとか。
今日も放課後に精密検査に行かなくてはなりませんの。
はぁ。
面倒くさいわ」

美樹さやか
「そんなことなら、学校休んじゃえばいいのに」

志筑仁美
「駄目ですわ!
それではまるで本当に病気みたいで、家の者がますます心配してしまいますもの」

美樹さやか
「さっすが優等生!
えらいわ~!」

美樹さやか
「久々に気分いいわ~!
爽快爽快!」

鹿目まどか
「さやかちゃんはさ、怖くはないの?」

美樹さやか
「んー?  そりゃーちょっとは怖いけど、まあ昨日の奴にはあっさり勝てたし。
もしかしたら、まどかと仁美、友達二人も同時に無くしてたかもしれないって。
そっちの方がよっぽど怖いよね!」

鹿目まどか
「…」

美樹さやか
「だーかーら!
なんつーかなあ!
自信?安心感、ちょっと自分を褒めちゃいたい気分つーかねぇ!
まー、舞い上がっちゃってますね、私!
これからの見滝原市の平和は、この魔法少女さやかちゃんが、ガンガン守りまくっちゃいますからねー!」

鹿目まどか
「後悔とか、全然ないの?」

美樹さやか
「そうねー。
後悔っていえば、迷ってたことが後悔かな。
どうせだったら、もうちょっと早く心を決めるべきだったなって。
あの時の魔女、私と二人がかりで戦ってたら、マミさんも死なないで済んだかもしれない」

鹿目まどか
「私...」

美樹さやか
「さーてーは!
何か変なこと考えてるな」

鹿目まどか
「私...私だって...」

美樹さやか
「なっちゃった後だから言えるの、こういうことは!
どうせならっていうのがミソなのよ。
私はさあ、なるべくして魔法少女になったわけ」

鹿目まどか
「さやかちゃん...」

美樹さやか
「願い事、見つけたんだもの。
命懸けで戦う羽目になったって構わないって、そう思えるだけの理由があったの。
そう気づくのが遅すぎったって言うのが、ちょっと悔しいだけでさ」

鹿目まどか
「…」

美樹さやか
「だから引け目なんて感じなくて良いんだよ。
まどかは魔法少女にならずに済んだっていう、ただそれだけのことなんだから」

鹿目まどか
「うん...」

美樹さやか
「さてと!
じゃあそろそろ私は行かないと」

鹿目まどか
「何か用事があるの?」

美樹さやか
「まぁ、ちょっとね」

美樹さやか
「そっか、退院はまだなんだ」

上条 恭介
「足のリハビリがまだ済んでないしね。
ちゃんと歩けるようになってからでないと。
手の方の一体どうして急に治ったのか、全く理由が解らないんだってさ。
だからもうしばらく精密検査が要るんだって」

美樹さやか
「あ、恭介自身はどうなの?
どっか体におかしなとこ、ある?」

上条 恭介
「いや、無さ過ぎて怖いっていうか、事故に遭ったのさえ、悪い夢だったように思えてくる。
何で僕、こんなベッドに寝てるのかなって。
さやかが言った通り、奇跡だよね、これ」

美樹さやか
「うん?
どうしたの?」

上条 恭介
「さやかには、酷いこと言っちゃったよね。
いくら気が滅入ってたとはいえ」

美樹さやか
「変なこと思い出さなくていいの!
今の恭介は大喜びして当然なんだから!
そんな顔しちゃダメだよ」

上条 恭介
「うん。
なんだか実感無くてさ」

美樹さやか
「まあ、無理も無いよね。
あ、そろそろかな」

上条 恭介
「ん?」

美樹さやか
「恭介、ちょっと外の空気、吸いに行こ?」

上条 恭介
「屋上なんかに何の用?」

美樹さやか
「いいからいいから!」

上条 恭介
「みんな!」

美樹さやか
「本当のお祝いは退院してからなんだけど。
足より先に手が治っちゃったしね!」

上条 恭介
「そ、それは...!」

恭介の父
「お前からは処分してくれと言われていたが…。
どうしても捨てられなかったんだ...、私は...」

恭介の父
「さあ、試してごらん。
怖がらなくていい」

美樹さやか
マミさん...!
私の願い、叶ったよ。
後悔なんて、あるわけない。
私、今、最高に幸せだよ!

佐倉杏子
「ふーん!
あれがこの街の新しい魔法少女ねぇー。」

キュゥべえ
「本当に彼女と事を構える気かい?」

佐倉杏子
「だってちょろそうじゃん!
瞬殺っしょ、あんな奴。
それとも何?
文句あるってーの、あんた?」

キュゥべえ
「全て君の思い通りに行くとは限らないよ。
この街にはもう一人、魔法少女がいるからね」

佐倉杏子
「ふーん、何者なの、そいつ?」

キュゥべえ
「僕にもよく解らない」

佐倉杏子
「はぁ?
どういうことさ?
そいつだってアンタと契約して魔法少女になったんでしょ?」

キュゥべえ
「そうとも言えるし、違うとも言える」

佐倉杏子
「…」

キュゥべえ
「あの子は極めつけのイレギュラーだ。
どういう行動に出るか、僕にも予想できない」

佐倉杏子
「ふん!
上等じゃないの。
退屈すぎてもなんだしさぁ。
ちったぁ面白みもないとねー。」

暁美ほむら
「話って何?」

鹿目まどか
「あのね、さやかちゃんのこと、何だけど」

暁美ほむら
「…」

鹿目まどか
「あの子はね、思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったり。
でもね!
すっごくいい子なの!
優しくて勇気があって、誰かのためと思ったら頑張りすぎちゃって」

暁美ほむら
「魔法少女としては、致命的ね」

鹿目まどか
「そう、なの...」

暁美ほむら
「度を越した優しさは、甘さに繋がるし、蛮勇は油断になる。
そして、どんな献身にも見返りなんてない。
それを弁えていなければ、魔法少女は務まらない。
だから巴マミも命を落とした」

鹿目まどか
「そんな言い方止めてよ!!
そう、さやかちゃん、自分では平気だって言ってるけど、でも、もしマミさんのときと同じようなことになったらって思うと、私、どうすればいいのか...」

暁美ほむら
「美樹さやかのことが心配なのね」

鹿目まどか
「私じゃあもう、さやかちゃんの力になってあげられないから。
だから、ほむらちゃんにお願いしたいの。
さやかちゃんと仲良くしてあげて。
マミさんの時みたいに喧嘩しないで。
魔女をやっつける時も、皆で協力して戦えば、ずっと安全なはずだよね」

暁美ほむら
「私は嘘はつきたくないし、できもしない約束もしたくない」

鹿目まどか
「…!」

暁美ほむら
「だから美樹さやかのことは諦めて」

鹿目まどか
「どうしてなの?」

暁美ほむら
「あの子は契約すべきじゃなかった。
確かに私のミスよ。
あなただけでなく、彼女もきちんと監視しておくべきだった」

鹿目まどか
「なら!」

暁美ほむら
「でも、責任を認めた上で言わせてもらうわ。
今となってはどうやっても償いきれないミスなの。
死んでしまった人が帰って来ないのと同じ事」

暁美ほむら
「一度魔法少女になってしまったら、もう救われる望みなんて無い。
あの契約はたった一つの希望と引き換えに、全てを諦めるってことだから」

鹿目まどか 
「だからほむらちゃんも諦めちゃってるの?
自分のことも、他の子のことも、全部?」

暁美ほむら
「ええ。
罪滅ぼしなんて言い訳はしないわ。
私はどんな罪を背負おうと、私の戦いを続けなきゃならない。
時間を無駄にさせたわね。
ごめんなさい」

キュゥべえ
「緊張してるのかい?」

美樹さやか
「まあね!
一つ間違えたらお陀仏なわけだし」

美樹さやか
「まどか?」

鹿目まどか
「さやかちゃん、これから、その...」

美樹さやか
「そ!  
悪い魔女を探してパトロール!
これも、正義の見方の務めだからね!」

鹿目まどか
「一人で平気なの?」

美樹さやか
「へーき平気!
マミさんだってそうしてきたんだし、後輩としてそのぐらいはね!」

鹿目まどか
「あのね、私...!
何もできないし、足手まといにしかならないってわかってるんだけど、でも、邪魔にならない所まででいいの。
行ける所まで、一緒に連れてって貰えたらって」

美樹さやか
「頑張り過ぎじゃない?」

鹿目まどか
「ご、ごめん…。
ダメだよね、迷惑だってのはわかってたの」

美樹さやか
「んーん。
すっごく嬉しい!」

鹿目まどか
「あ…」

美樹さやか
「ねぇ、わかる?
手が震えちゃってさ、さっきから止まらないの。
情けないよね、もう魔法少女だってのに、一人だと心細いなんてさ」

鹿目まどか
「さやかちゃん...」

美樹さやか
「邪魔なんかじゃない、すごく嬉しい!
誰かが一緒にいてくれるだけで、すっごく心強いよ。
それこそ百人力って感じ」

鹿目まどか
「私」

美樹さやか
「必ず守るよ。
だから安心して私の後について来て。
今までみたいに一緒に魔女をやっつけよう!」

鹿目まどか
「うん!」

キュゥべえ
「危険は承知の上なんだね?」

美樹さやか
「私バカだから、一人だと無茶なデタラメやらかしかねないし。
まどかも居るんだって肝に銘じてれば、それだけ慎重になれると思う!」

キュゥべえ
「そっか。
うん、考えがあってのことならいいんだ」

鹿目まどか
「キュゥべえ」

キュゥべえ
君にも君の考えがあるんだろ、まどか?
さやかを守りたい君の気持ちはわかる。
実際、君が隣にいてくれるだけで、最悪の事態に備えた切り札を一つだけ用意できるしね。

鹿目まどか
私は...

キュゥべえ
今は何も言わなくて良い。
さやかもきっと反対するだろうし。
ただ、もし君が心を決める時が来たら、僕の準備はいつでも整ってるからね。

鹿目まどか
うん…

美樹さやか
「ここだ」

キュゥべえ
「この結界は、多分魔女じゃなくて使い魔のものだね」

美樹さやか
「楽に越したことないよ。
こちとらまだ初心者なんだし」

キュゥべえ
「油断は禁物だよ」

美樹さやか
「わかってる!」

美樹さやか
「あれが...!」

鹿目まどか
「逃げるよ!」

美樹さやか
「まかせて!」

佐倉杏子
「ちょっとちょっと、何やってんのさ、あんた達?」

鹿目まどか
「あ!  
逃がしちゃう!」

佐倉杏子
「見て分かんないの?
あれ魔女じゃなくて使い魔だよ。
グリーフシードを持ってるわけないじゃん」

美樹さやか
「だって、あれ放っといたら、誰かが殺されるのよ?」

佐倉杏子
「だからさ、四、五人ばかり食って魔女になるまで待てっての。
そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだからさ。
あんた、卵生む前の鶏しめてどうすんのさ?」

美樹さやか
「な...!
魔女に襲われる人たちを、あんた!
見殺しにするっていうの!?」

佐倉杏子
「あんたさぁ、何か大元から勘違いしてんじゃない?
食物連鎖って知ってる?
学校で習ったよねぇ?
弱い人間を魔女が喰う。
その魔女を私達が喰う。
これが当たり前のルールでしょ。
そういう強さの順番なんだから」

鹿目まどか
「そんな…」

美樹さやか
「あんたは…!」

佐倉杏子
「まさかとは思うけど。
やれ人助けだの正義だの、その手のおちゃらけた冗談かますために、アイツと契約したわけじゃないよね、あんた?」

美樹さやか
「だったら!
何だって言うのよ!」

佐倉杏子
「ちょっとさ、止めてくれない?」

佐倉杏子
「遊び半分で首突っ込まれるのってさ、ホントムカツクんだ!」

鹿目まどか
「さやかちゃん!」

佐倉杏子
「フン!トーシロが!
ちったぁー頭冷やせっての!」

佐倉杏子
「おっかしいなー?
全治3ヶ月ってぐらいにはかましてやったはずなんだけど」

鹿目まどか
「さやかちゃん、平気なの?」

キュゥべえ
「彼女は癒しの祈りを契約にして魔法少女になったからね。
ダメージの回復力は人一倍だ」

美樹さやか
「誰があんたなんかに…!
あんたみたいな奴がいるから、マミさんは!」

佐倉杏子
「うぜぇ。
超うぜぇ!」

佐倉杏子
「つーか何?
そもそも口の聞き方がなってないよね、先輩に向かってさ!」

美樹さやか
「黙れ!!」

佐倉杏子
「ちゃらちゃら踊ってんじゃねーよ、ウスノロ!」

鹿目まどか
「さやかちゃん!」

キュゥべえ
「まどか、近づいたら危険だ!」

佐倉杏子
「言って聞かせてわからねぇ、殴ってもわからねぇ馬鹿となりゃ、後は殺しちゃうしかないよね!」

美樹さやか
「負けない!
負けるもんかぁ!」

鹿目まどか
「どうして?
ねぇ、どうして?
魔女じゃないのに、どうして味方同士で戦わなきゃならないの?」

キュゥべえ
「どうしようもない。
お互い譲る気なんてまるで無いよ」

鹿目まどか
「お願いキュゥべえ。
止めさせて!
こんなのってないよ!」

キュゥべえ
「僕にはどうしようもない。
でも。
どうしても力尽くでも止めたいのなら、方法が無い訳じゃないよ」

キュゥべえ
「あの戦いに割り込むには、同じ魔法少女でなきゃ駄目だ。
でも君にならその資格がある。
本当にそれを望むならね」

鹿目まどか
そうだ。
私が契約すれば…。

佐倉杏子
「終わりだよ!」

鹿目まどか
私…!

暁美ほむら
「それには及ばないわ」

――ED――

――次回予告――
鹿目まどか
さやかちゃんは、魔女をやっつけるために魔法少女になったんでしょ?
あの子は魔女じゃない、同じ魔法少女なんだよ!

こんなの絶対おかしいよ