キョン:
文化祭[ぶんかさい]やその後の[のちの]ゴタゴタも終了[しゅうりょう]し、早[はや]、冬[ふゆ]の足音[あしおと]が山風[やまかぜ]と供[とも]に聞こ[きこ]えて来る[くる]。
もうそろそろ12月[がつ]だ。
創立[そうりつ]以来[いらい]の古さ[ふるさ]を誇る[ほこる]旧館[きゅうかん]、この部室[ぶしつ]棟[とう]は、壁[かべ]の薄[うす]さのお蔭[かげ]か、屋内[おくない]に居な[いな]がら妙に[みょうに]寒々[さむざむ]しい日々[ひび]のことである。

キョン:
毎度[まいど]いろんなことに巻き込ま[まきこま]れて来た[きた]SOS団[だん]、というより、巻き込ま[まきこま]れるのはもっぱら俺[おれ]だっ たが、しかしそんな事態[じたい]が日課[にっか]のごとく訪れ[おとずれ]る訳[わけ]もなく、大体[だいたい]毎日[まいにち]のように非日常[ひに ちじょう]爆弾[ばくだん]を落さ[おとさ]れては、俺[おれ]の体[からだ]が持た[もた]ない。
ズタボロだよ、心[こころ]の方は[ほうは]もっと酷い[ひどい]ことに
しかし、ハルヒが居な[いな]いとほんと静か[しずか]でいい感じ[かんじ]だ。でも、少し[すこし]静か[しずか]すぎるか。
良く[よく]考え[かんがえ]たら、ハルヒや朝比奈[あさひな]さん達[たち]と出会って[であって]、もう半年[はんとし]経つ[たつ]のか
いろいろやらかして来た[きた]ものだ。
ハルヒが原因[げんいん]のものもあれば、そうでないものも含め[ふくめ]てな
ま、どちらにせよ確か[たしか]なのは、大抵[たいてい]はこうしてまったりしている最中[さいちゅう]にハルヒが飛び込ん[とびこん]で来て[きて]、



ハルヒ:
皆[みな]聞い[きい]て、朗報[ろうほう]よ!

キョン:
何だ[なんだ]、またか? こいつが朗報[ろうほう]というものに限って[かぎって]、朗らか[ほがらか]な報告[ほうこく]だったことなど殆ん[ほとん]ど無い[ない]のだが
特に[とくに]、俺[おれ]と朝比奈[あさひな]さんにとってな

キョン:
今度[こんど]は何だ[なんだ]よ

ハルヒ:
この凍え[こごえ]た部室[ぶしつ]に暖房[だんぼう]器具[きぐ]を設置[せっち]する手[て]はずが整った[ととのった]わ

みくる:
あ、お茶[ちゃ]ですね。

ハルヒ:
映画[えいが]撮った[とった]時[とき]スポンサーになってくれた電器屋[でんきや]さんが、ただで提供[ていきょう]してくれるって。
処分[しょぶん]に困って[こまって]いる電気[でんき]ストーブで、良け[よけ]ればって、さっき電話[でんわ]があったの。
去年[きょねん]のモデルを倉庫[そうこ]にしまったきり、忘れ[わすれ]ちゃっていたそうよ。

キョン:
ハルヒにわざわざ電話[でんわ]して、そんな申し出[もうしで]をする程[ほど]暇[ひま]で親切[しんせつ]な電器屋[でんきや]はないだろうから、どうせこいつがゴリ押し[おし]でネジ込ん[こん]だのだろう。

ハルヒ:
さあ、キョン。アンタこれから店[みせ]に行って[いって]、貰って[もらって]来て[きて]頂戴[ちょうだい]。

キョン:
俺[おれ]が、今[いま]から?

ハルヒ:
そ、あんたが、今[いま]から。

キョン:
お前[まえ]、俺[おれ]が毎日[まいにち]往復[おうふく]している山道[やまみち]をもう一回[いっかい]下り[おり]て、しかも電車[でんしゃ]で二駅[ふたえき]かかる電器店[でんきてん]まで行って[いって]から、
荷物[にもつ]抱え[だえ]てまた戻って[もどって]来い[こい]と?

ハルヒ:
そうよ。アンタが急が[いそが]ないとオッチャンの気が[きが]変わ[かわ]って、タダの暖房[だんぼう]器具[きぐ]もお流れ[ながれ]よ。
いいから、さっさと行き[いき]なさい。どうせ暇[ひま]なんでしょ?

キョン:
この部屋[へや]にいる時点で[じてんで]、暇[ひま]でない奴[やつ]などいないような気が[きが]するが
お前[まえ]は暇[ひま]じゃねーのか?

ハルヒ:
私[わたし]は、これからしないといけないことがあるから
古泉[こいずみ]君[くん]は副団長[ふくだんちょう]で、アンタは平[ひら]の団員[だんいん]なんだから、階級[かいきゅう]の低い[ひくい]方が [ほうが]キリキリ働く[はたらく]のはどこの組織[そしき]だって同じ[おなじ]よ。勿論[もちろん]、SOS団[だん]もそのルールを採用[さいよ う]しているわ。

キョン:
まあ、いいか。今回[こんかい]ばかりは、ハルヒもましな用件[ようけん]を取り付け[とりつけ]て来た[きた]。
仕方[しかた]ない、ちょうど部室[ぶしつ]に暖房[だんぼう]器具[きぐ]が欲しい[ほしい]と思って[おもって]いたところだ。
朝比奈[あさひな]さんや長門[ながと]に行か[いか]せるくらいなら、俺[おれ]が行く[いく]さ。

ハルヒ:
雑用係[ざつようがかり]は、キョンの使命[しめい]みたいなものなのよ。

みくる:
待って[まって]。今日は[こんにちは]冷え[ひえ]ますから

キョン:
どうも。

ハルヒ:
早く[はやく]行き[いき]なさいよ。



ハルヒ:
さ、奴[やつ]は消え[きえ]たわ。みくるちゃん、写真[しゃしん]撮り[とり]たいからポーズ取って[とって]くれる?

みくる:
えええ、何の[なんの]写真[しゃしん]ですかぁ?

ハルヒ:
DVDのためよ。文化祭[ぶんかさい]で上映[じょうえい]した「朝比奈[あさひな]ミクルの冒険[ぼうけん]」をDVDにするから、そのカバー撮影[さつえい]よ

みくる:
えええ、あれ本当[ほんとう]に作る[つくる]つもりなんですか? 諦め[あきらめ]てくれたんじゃ..

ハルヒ:
あんときは、キョンがうるさかったから
今[いま]なら奴[やつ]も外し[はずし]ているし、止める[とめる]者[もの]はいないわ。

キョン:
最初[さいしょ]にこの坂道[さかみち]を登って[のぼって]登校[とうこう]した日[ひ]にはうんざりさせられたが、半年以上[はんとしいじょう]通って[かよって]いると、すっかり慣れ[なれ]ちまった。
ハイキングコースみたいな登下校[とうげこう]にも、そしてSOS団[だん]にもな。おかしなものだ。
今[いま]ごろ俺[おれ]のいないうちに、ハルヒは何を[なにを]やってんだろう?
暇[ひま]だからとか何とか[なんとか]いって、朝比奈[あさひな]さんを玩具[がんぐ]にしてなければいいんだが、

ハルヒ:
古泉[こいずみ]君[くん]レフ板[ばん]係[かかり]お願い[ねがい]ね。

古泉[こいずみ]:
はい、只今[ただいま]。

ハルヒ:
みくるちゃん、ぼーっとしてないで、ポーズをとりなさい。ほら、ポーズ。

みくる:
はあい。

ハルヒ:
もっと媚び[こび]るように笑って[わらって]。もっともの欲し[ほし]そうに。そんなんじゃ、男子[だんし]ファンを満足[まんぞく]させられないわよ。
よし、衣装[いしょう]チェンジよ。これ着な[きな]さい。ほら、拒ま[こばま]ない。みくるちゃん、こら。行く[いく]わよ。

みくる:
だめー、自分[じぶん]でやります。

ハルヒ:
私[わたし]が手伝った[てつだった]方が[ほうが]早い[はやい]でしょ

みくる:
ブラまで一緒に[いっしょに]?

ハルヒ:
どうせとるんだし、いいでしょ?

ハルヒ:
ミクルちゃん、また大き[おおき]くなったんじゃないの? ますまずダイナマイトね。

みくる:
どこ触って[さわって]..

古泉[こいずみ]:
あ、もう冷た[つめた]くなっている。

みくる:
うう、寒い[さむい]デシュ。止め[やめ]ませんか、恥ずかし[はずかし]いです。

ハルヒ:
ミクルちゃん、あなたはもっと自信[じしん]を持つ[もつ]べきよ。何た[なんた]って、この私[わたし]が選ん[えらん]だ学校[がっこう]一[いち]のマスコットキャラ
なんだから。ね、古泉[こいずみ]君[くん]。

古泉[こいずみ]:
全く[まったく]その通り[とおり]かと。

ハルヒ:
んじゃ、次[つぎ]これ着て[きて]

みくる:
え、また?
のー
だ、だから自分[じぶん]でやりますから、

ハルヒ:
急ぐ[いそぐ]わよ、今日中[きょうじゅう]に全て[すべて]撮り[とり]終え[おえ]るんだから。ほら。

ハルヒ:
次[つぎ]、これ着て[きて]

みくる:
でも。このナース服[ふく]もそれも映画[えいが]の中[なか]で着た[きた]憶え[おぼえ]無い[ない]んですけど。
本当[ほんとう]に、これ、カバーの撮影[さつえい]なんですか?

ハルヒ:
うん、勿論[もちろん]そうよ。でも、今[いま]アイデアがひらめいたわ。この分[ふん]だと写真集[しゃしんしゅう]も作れ[つくれ]そうね、どう思う[おもう]、古泉[こいずみ]君[くん]?

古泉[こいずみ]:
誠に[まことに]結構[けっこう]なアイデアかと

ハルヒ:
いえ待って[まって]。どうせDVDにするなら、特典[とくてん]としておまけ映像[えいぞう]をつけるべきよね。
どう?古泉[こいずみ]君[くん]、このアイデア?

古泉[こいずみ]:
非常に[ひじょうに]良い[よい]アイデアかと

古泉[こいずみ]:
どうやら、ひと雨[あめ]来そ[きそ]うですね。

ハルヒ:
よし、次の[つぎの]衣装[いしょう]。動か[うごか]ないでねぇ

みくる:
えええ、まだ着る[きる]んですか?

みくる:
これは着て[きて]ないと(これは、脱が[ぬが]さなくていいですよ)

ハルヒ:
ミセパンはくんだから、これはいらないでしょーっと。
ミクルを剥く[むく]の楽し[たのし]いな。



大森[おおもり]:
はい、これが約束[やくそく]のストーブだよ. 持って帰れ[もってかえれ]るかい?

キョン:
ええ、まあなんとか

大森[おおもり]:
あの可愛い[かわいい]娘[むすめ]さん達[たち]は元気[げんき]かな?

キョン:
一人[ひとり]が元気[げんき]ありすぎて困って[こまって]ますよ。CMの効果[こうか]ありました?

大森[おおもり]:
正直[しょうじき]言って[いっって]、あまり変わら[かわら]ないねぇ

キョン:
そりゃあな. 高校[こうこう]文化祭[ぶんかさい]映画[えいが]本編中[ほんぺんちゅう]のCMじゃ、あまりに局地[きょくち]的[てき]すぎる
よくスポンサーになってくれたものだ

大森[おおもり]:
ところであの元気[げんき]のいい娘[むすめ]さんが、電話[でんわ]で次回作[じかいさく]がどうとか言って[いっって]たけど、また映画[えいが]を作る[つくる]って本当[ほんとう]かい?

キョン:
あいつがそう言って[いっって]るんだったら、作る[つくる]事[こと]になるんでしょうね

大森[おおもり]:
次[つぎ]もスポンサーになるように頼ま[たのま]れてしまったよ
このストーブは次の[つぎの]スポンサー料[りょう]の前渡し[まえわたし]だと思って[おもって]くれ

キョン:
そういうカラクリだったのか
じゃあこれで。ストーブ、ありがとうございます。



谷口[たにぐち]:
よおキョン、何[なに]やってんだこんなところで

キョン:
みて分か[わか]らないか、荷物[にもつ]運び[はこび]だ

谷口[たにぐち]:
はん、ご苦労[くろう]なこった。どうせまた涼宮[すずみや]の命令[めいれい]だろう

キョン:
どうやら半年[はんとし]もあればクラスメイトが俺[おれ]の立場[たちば]を正しく[ただしく]認識[にんしき]するに充分[じゅうぶん]なようだった

国木田[くにきだ]:
これから学校[がっこう]に戻る[もどる]の? 本当[ほんとう]にご苦労[くろう]だね

キョン:
全く[まったく]だ

キョン:
ちぇ、降って[ふって]来や[こや]がった.天気予報[てんきよほう]じゃ、降水[こうすい]確率[かくりつ]10%って言って[いって]やがったのに、当て[あて]にならん基準[きじゅん]だ、本降り[ほんぶり]にならんことを祈ろ[いのろ]う

古泉[こいずみ]:
おや雨[あめ]のようですね

みくる:
キョン君[くん]、大丈夫[だいじょうぶ]かな?

キョン:
今[いま]程[ほど]あの部屋[へや]が恋し[こいし]いと思った[おもった]ことはない
一刻[いっこく]も早く[はやく]朝比奈[あさひな]さんの煎れ[いれ]てくれるお茶[ちゃ]にありついて,心[こころ]と身体[からだ]を温め[あたため]たいぜ



鶴屋[つるや]:
やっほー ミクルいる? 長門[ながと]っちだけ?
明日[あした]の掃除当番[そうじとうばん]変わ[かわ]って欲し[ほし]くてさ、それを頼み[たのみ]に来た[きた]んだけど、何処[どこ]にいるか知ら[しら]ない?
そっちね、あんがと。

キョン:
やれやれ


鶴屋[つるや]:
キョン君[くん]、お使い[つかい]だったのかい?
どうりで

キョン:
は、何[なに]がです?

鶴屋[つるや]:
何で[なんで]もないさ、ご苦労[くろう]さん. ふむ、濡れ[ぬれ]てるね
ハンカチなら、スカーフと一緒に[いっしょに]後で[あとで]ミクルに渡し[わたし]といて

キョン:
相変わらず[あいかわらず]挙動[きょどう]の良く[よく]読め[よめ]ない人[ひと]だ, 人柄[ひとがら]いいのは確か[たしか]だが、

キョン:
あれ、長門[ながと]、ハルヒ達[たち]は?

ハルヒ:
そう、そこは尻[しり]餅[もち]を突く[つく]べきところよ. いいわ続け[つづけ]て
惚れ惚れ[ほれぼれ]するくらいのドジっこぶりねぇ、わざとやってない?
小泉[こいずみ]君[くん]、これ持って[もって]て
こうするのよ、こう

キョン:
三人[さんにん]が今[いま]何処[どこ]で何を[なにを]しているのか少し[すこし]は気が[きが]かりだが、さすがに暖房[だんぼう]を持って[もって]の坂道[さかみち]登り[のぼり]は堪え[こたえ]たぜ。
しかも同じ[おなじ]道[みち]を下校時[げこうじ]にまた下り[おり]ないといけないと来た[きた]日[ひ]にはなおさらだ。
こいこいこい、はあ、手が[てが]冷て[つめて]ぇ
疲れ[つかれ]た




キョン:
はるひ、お前[まえ]だけか

ハルヒ:
だから何[なに]よ、悪い[わるい]の?

キョン:
悪く[わるく]は無い[ない]が、お前[まえ]俺[おれ]の顔[かお]に悪戯[いたずら]書き[かき]とかしてないだろうな?

ハルヒ:
してないわよ、ガキじゃあるまいし

キョン:
他の[ほかの]連中[れんちゅう]は?

ハルヒ:
あんたなかなか起き[おき]そうになかったから、先に[さきに]帰った[かえった]わ。

キョン:
でも、お前[まえ]は帰ら[かえら]ずに残って[のこって]いたのか?

ハルヒ:
しょうがないでしょ、アンタ寝て[ねて]るし
どうすりゃいいのよ、部室[ぶしつ]に鍵[かぎ]掛け[かけ]て帰ら[かえら]ないと駄目[だめ]だし、
それに、雨[あめ]も降って[ふって]るし
返し[かえし]なさい, 私[わたし]のカーディガン

キョン:
一枚[いちまい]はハルヒの物[もの]で間違い[まちがい]ない。だが、このもう一枚[いちまい]は誰[だれ]のだ?
あれ、って事[こと]は、朝比奈[あさひな]さんが俺[おれ]の寝て[ねて]いる横[よこ]で着替え[きがえ]をしてたのか?
くそ、どうして寝ち[ねち]まったんだ。寝た[ねた]ふりをしておけば.

ハルヒ:
さ、とっくにみんあ学校[がっこう]を出た[でた]し, 私達[わたしたち]も帰る[かえる]わよ

キョン:
でも参った[まいった]なぁ、俺[おれ]傘[かさ]持って[もって]来て[きて]ないぜ

ハルヒ:
二人[ふたり]で一本[いっぽん]あれば充分[じゅうぶん]でしょう?

ハルヒ:
もっとこっちに寄せ[よせ]なさいよ, 私[わたし]が濡れ[ぬれ]るじゃないの

キョン:
充分[じゅうぶん]寄せ[よせ]ているだろ? あ、この傘[かさ]、おまえのじゃないな?
職員[しょくいん]用[よう]って書い[かい]てあるぞ

ハルヒ:
学校[がっこう]の備品[びひん]だもん, 生徒[せいと]が使った[つかった]って悪い[わるい]事[こと]なんか無い[ない]でしょ?
何[なに]、濡れ[ぬれ]て帰り[かえり]たいの? なら、入れ[いれ]てあげないわよ。

キョン:
全く[まったく]折角[せっかく]ストーブを貰って[もらって]来て[きて]やったのに
いたわりの言葉[ことば]も無し[なし]か、この団長[だんちょう]様[さま]は。ハルヒらしいよ。
おい、待て[まて]よ!