キョン:
宇宙人…

長門:
私の仕事は涼宮ハルヒを観察して、
入手した情報を統合思念体に報告すること。

生み出されてから3年間、私はずっとそうやって過ごしてきた。
この3年間は特別な不確定要素がなく、いたって平凡。
でも最近になって無視できないイレギュラー因子が
涼宮ハルヒの周囲に現れた。

それが、あなた。


情報統合思念体にとって、
銀河の辺境に位置するこの星系の第3惑星に
特別な価値などなかった。

でも、現有生命体が地球と呼称するこの惑星で進化した
二足歩行動物に知性と呼ぶべき思索能力が芽生えたことにより、
その重要度は増大した。

もしかしたら、自分たちが陥っている自立進化の閉塞状態を
打開する可能性があるかもしれなかったから。

宇宙に遍在する有機生命体に意識が生じるのはありふれた現象だったが、
高次の知性を持つまでに進化した例は地球人類が唯一だった。

統合思念体は注意深く、かつ綿密に観測を続けた。

そして3年前、惑星表面で
他では類を見ない異常な情報フレアを観測した。

球状列島の一地域から噴出した情報爆発は、
瞬くまに惑星全土を覆い、惑星外空間に拡散した。

その中心にいたのが、(涼宮ハルヒ)。

以後3年間、涼宮ハルヒという個体に対し、調査がなされた。

しかし未だその正体は不明。

それでも統合思念体の一部は、彼女こそ人類の、
ひいては情報生命体である自分たちに、
自立進化のきっかけをあたえる存在として、
涼宮ハルヒの解析を行っている。

情報生命体である彼らは、有機生命体と直接的に
コミュニケートできない。

言語を持たないから。

人間は言葉を抜きにして概念を伝達する術を持たない。

だから私のような人間用のインターフェースを作った。

情報統合思念体は、私を通して人間とコンタクトできる。

涼宮ハルヒは自立進化の可能性を秘めている。

恐らく彼女には、自分の都合のいいように
周囲の環境情報を操作する力がある。

それが私がここにいる理由。
あなたがここにいる理由。

キョン:
待ってくれ。
正直言おう。
さっぱり分からない。

長門:
信じて。

キョン:
そもそもなんで俺なんだ?
いや、百歩譲ってお前の、その、
情報なんとか体うんぬんっていうのを信用したとして、
なぜ俺に正体を明かすんだ?

長門:
あなたは涼宮ハルヒに選ばれた。
涼宮ハルヒは意識的にしろ無意識的にしろ
自分の意思を絶対的な情報として環境に影響を及ぼす。

あなたが選ばれたのには必ず理由がある。

キョン:
ねえよ。

長門:
ある。あなたと涼宮ハルヒが全ての可能性を握っている。

キョン:
マジで言ってるのか?

長門:
もちろん。

キョン:
度を越えた無口なやつが、やっとしゃべるようになったかと思ったら、
永遠電波なことを言いやがった。
こんなトンデモ少女だったとは、
さすがに想像外だぜ。

あのな、そんな話なら直でハルヒに言ったほうが喜ばれると思うぞ。
はっきり言うが、俺はその手の話題にはついていけないんだ。
悪いがな。

長門:
情報統合思念体の意識の大部分は、
涼宮ハルヒが自分の存在価値と能力を自覚してしまうと、
予測できない危険を生む可能性があると認識している。

今はまだ様子を見るべき。

キョン:
俺が今聞いたことをハルヒに伝えるかも知れないじゃないか。

長門:
彼女はあなたがもたらした情報を重視したりしない。

キョン:
確かに。

長門:
情報統合思念体が地球に置いているインターフェースは、
私ひとつではない。

情報統合思念体の意識の一部は、積極的な動きを起こして、
情報の変動を観測しようとしている。

あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。
危機が迫るとしたら、まずあなた。

キョン:
付き合いきれん。

キョン:
ヒューマノイド・インター、なんだっけ?宇宙人?
部屋に一人っきりでこんな物ばっかり読んでいるから妙な妄想癖がつくんだ。
きっと教室でも誰とも話さず自分の殻に閉じこもっているに違いない。

ハルヒもあいつも普通に学園生活を楽しめばいいのに。

ハルヒ:
来たわよ。待望の転校生。凄いと思わない?謎の転校生よ。
間違いない。

キョン:
会ってもいないのに謎だとわかるのか?

ハルヒ:
前にも言ったでしょ。こんな中途半端な時期に転校してくる生徒はもう高確率で謎の転校生なのよ。

キョン:
その統計はいつ、誰が、どうやって取ったんだ。そんな高確率で謎的存在がいるんだとしたら
今頃日本全国に...。

ハルヒ:
見に行ってくる。

キョン:
はぁー。やっぱり聞いてねぇ。

キョン:
放課後、部室に行くと健気にも朝比奈さんが一日で復活していた。

キョン:
良くまた部室に来る気になりましたね。

ミクル:
うん。ちょっと悩んだけど、でもやっぱり気になるから。

キョン:
前にも似たようなことを聞いた気がするが。

キョン:
何が気になるんです?

ミクル:
なんでもない。

ミクル:
はっ?

キョン:
あ。

キョン:
変わろうか?長門。

キョン:
長門、オセロしたことある?

ミクル:
あ。

キョン:
ん?

ハルヒ:
へい!お待ち。
1年9組に本日やってきた即戦力の転校生。その名も

小泉:
小泉イツキです。よろしく。

ハルヒ:
ここSOS団。あたしが団長の涼宮ハルヒ。そこの3人は団員その1と2と3。ちなみにあなたは4番目。
みんな、仲良くやりましょう。

小泉:
入るのは別にいいんですが、何をするクラブなんですか?

ハルヒ:
教えるわ。SOS団の活動内容。それは...。
宇宙人や未来人や超能力者を捜し出して一緒に遊ぶことよ。

キョン:
全世界が停止したかと思われた。ていうのは嘘ぴょんで、俺は入学式のハルヒの第一声を思い出していたんだがな。

小泉:
あぁ、なるほど。流石は涼宮さんですね。

キョン:
いま何を納得したんだ?

小泉:
いいでしょう。入ります。今後ともどうぞよろしく。

キョン:
おい。あんな説明でいいのか?本当に聞いてたか?

小泉:
小泉です。転校してきたばかりで至らぬ点もありましょうがよろしくご教示願います。

キョン:
あぁ。俺は...。

ハルヒ:
そいつはキョン。あっちのかわいいのがミクルちゃんで、そっちの眼鏡っ娘が有希。

ミクル:
あ。あーっ。

小泉:
大丈夫ですか?

ハルヒ:
そう言うわけで5人揃った訳だし、これでクラブの体裁は整ったわね。

ミクル:
大丈夫です。

ハルヒ:
いぇーい。SOS団いよいよベールを脱ぐ時がきたわよ。みんな一丸となって頑張っていきまっしょーい。

キョン:
何がベールだ。ていうか長門、勝手にメンバーに入れられちまっているけどいいのか?お前。

キョン:
早速だが翌日の放課後。

キョン:
ついてこい。

ハルヒ:
さぁ早く脱いでってば。

ミクル:
あ。
あ。
ふぁー。

キョン:
う、わた。う。ごめん。

ハルヒ:
やっぱり萌えといったらメイドでしょう。学園ストーリーには一人はいるものよ。

キョン:
どんな学園ストーリーだよ。

ハルヒ:
さてー。記念に写真でも。

ミクル:
撮らないで。

ハルヒ:
ちょい顎引いて。エプロン握りしめて。ほらもっと笑って。

ハルヒ:
キョン、カメラマン代わって。
ミクルちゃん。ちょっと色っぽくしてみようか。

ミクル:
いやっ。いやっ。そんな。

ハルヒ:
いいから。いいから。

キョン:
何がいいもんか。って撮っている俺が言うのもなんだが。

ハルヒ:
有希、眼鏡貸して。

キョン:
はい。眼鏡オン。
しかしこの写真何に使うんだ。

ハルヒ:
うーん。完璧。ロリで美乳でメイドでしかも眼鏡っ娘。すばらしいわ。
ミクルちゃん。これから部室に居るときはこの服着るようにしなさい。

ミクル:
そんなぁ。

小泉:
うわぁ。何ですかこれ。

ハルヒ:
あー。いいとこに来たわね。みんなでミクルちゃんにいたずらしましょう。

キョン:
いい加減にしろ。

小泉:
遠慮しておきましょう。後が怖そうだ。
お気になさらずどうぞ続きを。

キョン:
ていうか止めろよ。

キョン:
もういいだろう。これ以上はいろんな法律に引っかかる。

ハルヒ:
何の法律よ。ん。まぁいいわ。写真もいっぱい撮れたし。

ハルヒ:
ではこれよりSOS団第1回ミーティングを開始します。
いままであたしたちはいろいろやってきました。ビラも配ったし。ホームページも作った。
校内におけるSOS団の知名度はウナギの滝登り。第一段階は大成功だったと言えるでしょう。

キョン:
朝比奈さんの心に傷を負わせておいて何が大成功だ。

ハルヒ:
しかしながら、我が団のメール・アドレスには不思議な出来事を訴えるメールが一通もこず、
また、この部屋に奇怪な悩みを相談しにくる生徒もいません。

キョン:
何をする部活動なのかいまいちわからないところだからなぁ。俺たちでさえ昨日ようやくわかったし。

ハルヒ:
「果報は寝て待て」昔のひとは言いました。でもそんな時代じゃないのです。地面を掘り起こしてでも果報は探し出す物なのです。だから探しに行きましょう。

キョン:
なにを。

ハルヒ:
この世の不思議を、よ。

キョン:
というわけで謎のような現象を求めて市内探索ツアーを敢行する。
次の土曜日北口駅前に9時集合。こなきゃ死刑。死刑って。

キョン:
休日の無駄遣いはしたくないんだがな。

ハルヒ:
遅い。罰金。

キョン:
ハルヒの提案はこうだった。
二手に分かれて市内を探索。不思議な現象を発見したら携帯で連絡を取り合う。以上。

ハルヒ:
この組み合わせね。

キョン:
今日は意外とラッキーかもしれないな。
朝比奈さんとデートできるのなら、この店が俺のおごりになったのも安い代償ってもんだ。

ハルヒ:
キョン、わかってる?デートじゃないのよ。まじめにやるのよ。いい?

キョン:
わかってるよ。

ハルヒ:
まじ、デートじゃないのよ。遊んでたら殺すわよ。フン。

キョン:
と言い残してハルヒチームは駅の東側の探索に出発した。俺と朝比奈さんは西側を探索しろ、というのだが。

ミクル:
どうしましょう?

キョン:
ねぇ。

ミクル:
あたし、こんな風に出歩くの初めてなんです。

キョン:
「こんな風に」とは?

ミクル:
男のひとと二人で。
はっ。

キョン:
甚だしく意外ですね。
いままで誰かとつきあったことはないんですか?

ミクル:
ないんです。

キョン:
でも朝比奈さんならつきあってくれとかしょっちゅう言われるでしょう。

ミクル:
でも駄目なんです。

あたし誰ともつきあうわけにはいかないの。
少なくともこの...。

キョンくん。お話したいことがあります。

キョン:
なかなか話を切り出せずにいた朝比奈さんは、やがて言葉を句切るようにしてこう言った。

ミクル:
信じてもらえないかもしれないけど。あたしはこの時代の人間ではありません。
もっと未来から来ました。

いつ、どの時間平面からここに来たのかは言えません。
過去の人に未来のことを伝えるのは厳重に制限されていて...。
...ものは連続性のある流れのようなものでなく、その時間ごとに区切られた...。
...アニメーションを想像してみて。あれってまるで動いているように見えるけど、本体は...。
...時間と時間の間には断絶があるの。それは限りなくゼロに近い断絶だけど...
...だから時間移動は積み重なった時間平面を三次元方向に移動すること。
未来から来たあたしはこの時代の時間平面上ではパラパラ漫画の途中にかかれた余計な絵みたいなもの。

キョン:
今度は何だ。

ミクル:
三年前大きな時間振動が検出されたの。あ、うん。いまの時間から数えて三年前ね。
調査するために過去に来た我々は驚いた。どうやってもそれ以上の過去にさかのぼることができなかったから。
大きな時間の断層が時間平面同士の間にあるんだろうってのが結論。
原因らしいものがわかったのはつい最近。あ、これは私のいた未来での最近のことだけど。

キョン:
その原因って?

ミクル:
涼宮さん。

キョン:
またそれか。

ミクル:
時間のゆがみの真ん中に彼女がいたの。
それ以上は禁則事項なので説明できないんだけど。
でも、過去への道を閉ざしたのが涼宮さんなのは確か。

キョン:
ハルヒにそんなことができるとは思えないんですが。

ミクル:
我々にも謎なの。涼宮さんも自分が時間振動の源だなんて自覚してない。
あたしは涼宮さんの近くで新しい時間の変異が起きないかどうかを監視するために送られた、えっと、監視係みたいなもの。

信じてもらえないでしょうね。
こんなこと。

キョン:
いや、でもなんで俺にこんなことを言うんです?

ミクル:
あなたが涼宮さんに選ばれたひとだから。
詳しくは禁則に係るから言えない。たぶん、だけど、あなたは涼宮さんにとって重要なひと。彼女の一挙手一投足にはすべて理由がある。

キョン:
なら、長門や小泉は。

ミクル:
あの人たちはあたしと極めて近い存在です。
まさか涼宮さんがこれだけ的確に私達をあつめてしまうとは思わなかったけど。

キョン:
朝比奈さんはあいつらが何者か知っているんですか?

ミクル:
禁則事項です。

キョン:
これからハルヒはどうなるんです?

ミクル:
禁則事項です。

キョン:
未来から来たのならわかりそうなもんですけど。

ミクル:
禁則事項です。

キョン:
ていうか、ハルヒに直接言ったらどうなんです?

ミクル:
禁則事項です。

ミクル:
ごめんなさい。今のあたしには言う権限がないの。
信じなくてもいい。ただ知っておいて欲しかったんです。あなたには。

キョン:
似たような台詞を先日誰かから聞いたな。

ミクル:
ごめんね。急にこんなことを言って。

キョン:
それは別にいいんですが。

キョン:
宇宙人の次は未来人の登場ですか。どうなってるんだ。この時点で聞いたことを「はいはい」と信じられる奴がいたら是非ご連絡をいただきたい。かわってやるから。

キョン:
朝比奈さん。

ミクル:
はい。

キョン:
全部保留でいいですか?
信じるとか信じないとかは全部脇においといて保留ってことで。

ミクル:
はい。

キョン:
ただ、いっこだけ聞いていいですか?

ミクル:
なんでしょう?

キョン:
あなたの本当の歳を教えてください。

ミクル:
禁則事項です。

キョン:
そのあと突然ハルヒが携帯に電話をかけてきて、12時にいったん集合となった。

ハルヒ:
収穫は?

キョン:
何も。

ハルヒ:
本当に探してた?ふらふらしてたんじゃないでしょうね。ミクルちゃん。

キョン:
そっちこそ何か見つけたのかよ。

キョン:
昼食を食っている最中にハルヒはまた班分けしようと言い出した。

小泉:
また無印ですね。

ハルヒ:
四時に駅前で落ち合いましょう。今度こそ何かを見つけてきてよね。

キョン:
と言い残して、今度は北と南に分かれることになった。俺たちは南担当。

キョン:
この前の話だがな。

長門:
なに。

キョン:
なんとなく、少しは信じてもいいような気分になってきたよ。

長門:
そう。

キョン:
長門と暇つぶしするならここくらいしか無いだろう。

キョン:
やれやれ。

キョン:
うわっ。

ハルヒ:
いま何時だと思ってるのよ、このバカ。

キョン:
すまん。いま起きたとこなんだ。

ハルヒ:
はぁーっ。このあほんだらがー。

キョン:
四時集合だったっけ?

ハルヒ:
とっとと戻りなさいよ。三十秒以内!

キョン:
そこからが一苦労。
本を読んだまま床に根を生やしたように動かない長門のために貸し出しカードを作ってその本を借りてやり、その間かかりまくるハルヒからの電話を全て無視した。

ハルヒ:
遅刻。罰金!

キョン:
結局、成果もへったくれもなく、いたずらに時間と金を無駄にしただけでこの日の野外活動は終わった。

キョン:
ただ、別れ際に朝比奈さんが、

ミクル:
今日は話を聞いてくれてありがとう。

キョン:
と、耳元で囁いてくれたのは悪い気はしなかったがな。

ハルヒ:
あんた今日いったい何をしてたの?

キョン:
そういうおまえはどうなんだよ。何かおもしろいもんでも発見できたのか?
ま、一日やそこらで発見できるほど、相手も無防備じゃないだろ。

ハルヒ:
あさって、学校で反省会だからね。

キョン:
と、言い残し去っていった。

キョン:
はぁ。
夢だろ?

キョン:
週明け、そろそろ梅雨を感じさせる湿気に朝から汗ばんでいると、めずらしく始業の鐘ぎりぎりにハルヒが入ってきた。

ハルヒ:
わたしも扇いでよ。

キョン:
自分でやれ。

キョン:
あのさあ涼宮。おまえ「幸せの青い鳥」って話知っているか?

ハルヒ:
それが何?

キョン:
いや、まぁ、何でもないけどな。

ハルヒ:
じゃぁ聞いてくんな。

キョン:
この日一日中ハルヒのダウナーな不機嫌オーラを背後から浴び続けた俺は山火事をいち早く察知した野ねずみのように部室棟へ避難した。
話をしておきたい相手もいたしな。

キョン:
小泉、お前も俺に涼宮のことで話しがあるんじゃないのか?

小泉:
おまえも、というからには既にお二方からアプローチを受けているようですね。

キョン:
ああ。

小泉:
どこまでご存じですか?

キョン:
涼宮がただものではないってとこくらいか。

小泉:
それなら話は簡単です。その通りなのでね。

キョン:
まず、おまえの正体から聞こうか。

小泉:
お察しの通り超能力者です。そう呼んだ方がいいでしょう。

本当はこんな急に転校してくるつもりはなかったんですが。状況が変わりましてね。よもやあの二人がこうも簡単に涼宮ハルヒと結託するとは予定外でした。詳しいことはまたいずれお話する機会もあるでしょう。
百聞は一見にしかず。是非お見せしたいものもありますし。いまはかいつまんでご説明しましょう。

僕が所属する機関にはほかにも超能力者がいます。実はこの学校にも何人ものエージェントが潜入済みです。
そして我々は3年前の発足から涼宮さんを監視している。
事の発端はその3年前。その時何かがあった。僕の身に超能力としか思えない力が芽生えたのもその時です。

キョン:
3年前とハルヒがどう関係あるんだ。

小泉:
実はこの世界はある存在がみている夢のようなものなのではないか、というのが機関のお偉方の考えです。
そして、それはなにぶん夢ですから、その存在にとって我々が現実と呼ぶこの世界を創造し、改変することは児戯に等しい。
そんなことのできる存在を我々は知っています。

キョン:
それがハルヒか?

小泉:
人間はそのような存在のことを神と定義しています。

キョン:
とうとう神様にまでされちまったぞ、ハルヒ。

小泉:
考えてもみてください。我々のような超能力者や朝比奈ミクル、長門有希のような存在が都合よく一同に介するかのように登場するでしょうか。涼宮さんがそう願ったからですよ。おそらく3年前に。

キョン:
3年前にハルヒが世界を作り替えたっていうのか。

小泉:
作り替えたというよりも3年前に世界は始まった、とでも言うべきでしょうか。ま、あくまで我々の仮説ですが。

キョン:
まぁいい。で、おまえらはハルヒをどうするつもりだ。

小泉:
この世界が神の不興を買ってあっさり破壊され、作り直されるのを防ごうというわけです。
僕はこの世界にそれなりの愛着を抱いているんでね。

キョン:
ハルヒに直接頼んでみたらどうだ。

小泉:
そう主張するものも確かに機関には存在します。
それ以上の刺激を与えようとする強行派もね。ですが、大勢は軽々しく手を出すべきではないという意見で占められています。彼女はまだ自分の本来の能力に気付いていない。ならば、そのまま気付かぬよう生涯を平穏に送ってもらうのがベターだと考えているわけです。

キョン:
触らぬ神に祟り無し、か。

小泉:
その通りです。

キョン:
夢を見続けているのはおまえらの方じゃないのか?

小泉:
ええ。その可能性も無くはない。しかし我々は今もっとも危惧すべき可能性を前提に行動しているだけです。

キョン:
なら、試しに超能者とか言ったな。何か力を使ってみせてくれよ。
そしたらお前の言うことを信じてやる。
例えば、このコーヒーをもとの熱さに戻すとか。

小泉:
そういうわかりやすい能力とはちょっと違うんです。それに普段の僕には何の力もありません。
いくつかの条件が重なってはじめて力が使えるんです。
最初申し上げたとおり、いずれお見せする機会もあるでしょう。
長々と話したりしてすいません。今日はこれで、失礼させていただきます。

キョン:
んぁー。

小泉:
そうそう。一番の謎はあなたです。失礼ながらあなたについていろいろ調べさせてもらいましたが。
保証します。あなたは普通の人間です。

キョン:
えっ。

ミクル:
は。

キョン:
ひぇー。失礼しました。

キョン:
そんな愚直にハルヒの命令を守らなくても。

キョン:
結局その日、ハルヒは部室に姿を現さなかった。