Eden of The East(Japanese)>03. レイトショーの夜に

咲:
あっ――
スラム化しちゃってるね

朗:
けど、まだマンションにも人はいるみたいだ

咲:
滝沢くんちもマンションかな

朗:
どうかなぁ
住所からすると一戸建て?
んなわけないか



第3話「レイトショーの夜に」


朗:
あの辺だ

咲:
爆心地はあっちだから、家は残ってるね

朗:
うん…
でもさ、あの辺に人が住んでそうな建物って

咲:
とにかく行ってみよう!

朗:
ここだ

咲:
本当にここ…だよね?

朗:
住所的には…
あっ
開いた…
どっかに電源があるはずだ

咲:
けど、こんなところに普通、住むかな?

朗:
だよなー

咲:
何か思い出さない?
さっきも鍵、無意識に…

朗:
うーん、感覚はあるんだけど

咲:
滝沢くん!

咲&朗:
うわあぁぁーー!!

朗:
何だ?

咲:
びっくりしたー
お前、なんでこんなところにいるの?

朗:
なんだよ!

咲:
ここ、きっと滝沢くんちだよ
だって、その子、滝沢くんのことよく知ってるみたいだもん

朗:
確かに、こいつは俺のことを知ってるみたいだ

近藤:
無理言って悪かったな
所轄、違うのに

警官:
これも仕事ですから

近藤:
じゃあ、悪いが一時間ほど待っててくれ
それで戻らなかったら、勝手に帰ってくれていいよ
あの兄ちゃん、本当にこんなところに住んでんのか?
確かに、ここを丸ごと買い取った履歴はあるが…
記憶を消したいのはお前だけじゃねえ
やっぱりいてもらわなきゃ困るぜ

朗:
上には行けるみたいだ

咲:
すごくない?
ショッピングモールが自宅って

朗:
にしても、こんなとこ住んでるってさ…どうなの?
これじゃ「ドーン・オブ・ザ・デッド」でしょ?

咲:
それも映画?

朗:
うん

咲:
でも、ちゃんと調べてみたら何か見つかるよ
新聞も配達されてたし
郵便物とかここの登記簿とかも…

朗:
マジかよ!
ここってあの写真の場所じゃ――
どうやらここは滝沢朗の家らしいけど
俺はここで何やってたんだ?

咲:
滝沢くん!
どうしたの?
何かあったの?

朗:
いや、なんもないよ!

咲:
ここ、シネコンだ

朗:
レイトショーにでも招待するつもりか?

朗:
そこがお前のウチなのか?

咲:
何、ここ?
相当いい部屋じゃない!
やっぱりここ、滝沢くんちだよ

朗:
そうなのかなー

咲:
絶対そうだよ
ほら、滝沢くん、映画のことはすっごく覚えてたじゃない?
それってきっとここの支配人かなんかだったからだよ

朗:
支配人ねぇー

朗:
爆心地、ここからも見える

咲:
本当だ

朗:
あ、そうだ!
君、なんか好きな映画ある?
何でもリクエストしてよ
たぶん、上映できるから

咲:
映画、あんまり見ないからよく知らないし

朗:
ひとつくらい思い浮かぶでしょ?
初めてのデートで見た映画とかさ

咲:
えっと じゃあ…
あのイルカとダイバーが出てくるフランス映画

朗:
おー、あれか

咲:
自分のことは何も覚えてないくせに?

朗:
そうだね
でも、またなんでその映画なの?

咲:
ずっと好きだった人が…好きだった映画だから

朗:
ねえ、ジュイス
お願いがあるんだけど
今すぐ見たい映画があるんだ
うん、今は豊洲のシネコン――
ん? 警察?

ジュイズ:
はい
それでは、そちらに以前搬入されている映画を調べますので
しばらくお待ち下さい
ノブレス・オブリージュ
今夜も救世主たらんことを

朗:
どうかな
せめて紳士ではいたいよね


近藤:
なんなんだ? ここは
難民の収容所かっつーの
それに、この携帯の山
そうか、あの兄ちゃん…
ニートのガキどもが失踪している事件に絡んでんのか
ミサイル攻撃といい、あの事件も犯人はセレソンか
金使うだけじゃなく、真面目に履歴チェックしてたら今頃大手柄だったのにな
まあ、新たに80億手に入れて人生やり直す俺にはもはや関係ねえ話だが

咲:
そうだ
上映前には携帯切っとかなきゃね

携帯音声:
おかけになった番号は電波が届かない場所にいるか、電源が入っていないため、かかりません

平澤:
しかし、大杉の努力にも頭が下がる

みっちょん:
無駄なあがきだと思うけど

平澤:
「今日、みっちょん所に泊まったことにして!! お願い……。朝子姉さんにはそう言ってあるから」
って、このメールいつ!?

みっちょん:
十一時ぐらいかな

大杉:
え? 何?

平澤:
大杉、帰るぞ

みっちょん:
どこに泊まるのやら

朗:
俺やっぱ、ここの映写技師だったんじゃねえ?
「ニューシネマパラダイス」的な

咲:
すごい!
大きいスクリーン

近藤:
ここか…
あいつ、どこだ?
ふん、あそこか

朗:
刑事さん、一人っすか?
ってことは俺を逮捕しに来たわけでもない

近藤:
気づいてたのか

朗:
ええ、まあ
俺に個人的に会いに来たってことですかね?
もしかしてと思ってたんだけど
助かっちった

近藤:
そうか
こっちの履歴、調べやがったのか

朗:
履歴ってこれのことっすかね
あと、「セレソン」って何っすか?
実は俺、記憶喪失ってやつで
これが何なのか全然覚えてないんっすよ
だからおっさんにいろいろ聞きたいなと思って

近藤:
お前、本当に記憶消したのか?

咲:
どうしたのかな、滝沢くん

近藤:
なるほど!
播磨研究所の洗脳プログラムってのは本当に記憶を消せるんだな
いつか俺も使わせてもらうよ
だが、まずはお前のそいつを頂かなきゃな
「迂闊」したな、兄ちゃん

朗:
何なの、その携帯…
おっさんのには…いくら入ってた…?

近藤:
ああん? しぶてえな

近藤:
こいつの残金は俺がもらう
俺もお前も最初は100億持ってたはずだ
けどな、たった100億で腐り切ったこの国を救うことなんざできっこねえんだよ
くだらねえゲームに人を巻き込みやがって!

朗:
やっぱ、刑事って強え(つええ)や…
おっさん、あの子は…さ、関係…ないから

近藤:
ん?
殺しは金がかかるからな
無駄なことはやらねえよ
そうだ、一つだけ教えてやる
このノブレス携帯な、残高がゼロになるとサポーターってのが持ち主を殺しにくるそうだ
そういうルールなんだ
残念だったな、兄ちゃん
あの子が助かってもお前は死ぬ

*手帳
警部補 近藤 勇誠(こんどう・ゆうせい)

朗:
これでおあいこだ、おっさん
サポーターって何だ?
またナゾだよ
ごめん、レイトショーには行かれそうにねぇや

咲:
お前…
滝沢くんがどこ行ったか知ってる?
一緒にいたくないならそう言ってくれればいいのにね

*メモ
滝沢くんのバカ

朗:
イッテー…
ナイス・メッセージ
さて、こいつを返しに行ってくるか

*Text:看板
歩行者出入口

近藤:
「一生遊べる金を手に入れた。
ハイヤー呼んだから歌舞伎町まで来い」――っと
へ、キレイに使い切ったぜ
ん? 機種が同じなら操作も同じだろ、普通
くそっ、ジュイスに聞いてみっか

*Text:セレソン活動履歴
ATOタクシーハイヤー手配: ¥7,027
残高: ¥7
――
目の前の男を射殺 三名: ¥1,499,346
残高: ¥7,034 【詳細ログ】
――
交際費: ¥300,000
残高:

ジュイス:
はい、ジュイスです

近藤:
ああ、一つ聞きたいことがあるんだ
もしもこいつを他人に拾われたらどうなる?
誰でも使えるのか?

ジュイス:
指紋認証がありますので他者には絶対使用できませんが
何か問題でも?

近藤:
ああ、そりゃあ安全だ
そう、じゃあな
ちゃんちゃんっと…
うああ!
どうしていつも俺はこうドジなんだ

*Text:携帯
公衆電話

朗:
君のおかげだ
早く出ろよ、おっさん
いるんだろ? おっさん
ねえ、近藤刑事さん
せっかく大事な手帳を届けてあげようとしてんだからさ
電話くらい出なよ

近藤:
てめえ、どうやって――

朗:
やっと出た…
おっさん、今どこにいんの?

近藤:
歌舞伎町のど真ん中だ
貴様、今すぐすっ飛んで来い!

朗:
歌舞伎町ね
で、そこどうやって行くんだっけ?

近藤:
てめえ、ナメてんのか

朗:
いや、だから俺、記憶ないしさ

朗:
木場(きば)方面に抜けて*首都高ね

*首都高速道路の略

*Text:看板
歌舞伎町一番街

近藤:
ミサエ…
どうしてお前がここに?

ミサエ:
一生遊んで暮らせるお金って何…?

近藤:
どうしてそれを――

ミサエ:
愛人へのメールを妻に送ってどうするの?
これでお終い…

朗:
どうした? おっさん

近藤:
っるせーんだよ、兄ちゃん

朗:
今、救急車呼んでやるよ

近藤:
余計なことすんな
どうやら俺はお終いらしい

朗:
勝手に死ぬなよ
まだ聞きたいことが――

近藤:
知るか!
俺たちの他にあと10人、同じ携帯を持ったセレソンがいるはずだ
セレソンってのは、このくそゲームに強制的に参加させられたプレイヤーのことだ
お前の携帯にも履歴が届くだろう
あとはその履歴たどって他のセレソン探してそいつに聞け
「僕って誰ですか」ってな
ただし、お前みたいな危ないセレソンに会ってくれるやつがいればの話だがな

朗:
危ないセレソン?

近藤:
お前、2万人のニートを爆心地に集めて殺そうとしたろ?
待てよ、お前、それともサポーターか?
へっ、そういうことか
だからミサエが…

朗:
何言ってんだかさっぱりわかんねえよ

近藤:
やられたよ
こいつ持って消えろ
早く消えろ!
俺の負けだ
ちっ、俺だって最初は正義を成そうとしてたのに…よ