Haruhi(Japanese)>06. 涼宮ハルヒの憂鬱 Ⅵ

キョン:
自称、宇宙人に作られた人造人間。
自称、時をかける少女。
自称、少年エスパー戦隊。
それぞれに、自称が取れる証拠を
律儀にも俺に見せつけてくれた。
三者三様の理由で
三人は涼宮ハルヒを中心に活動しているようだ。
100光年譲ってそれはいいことにしてみても、
さっぱり分からないことがある。
なぜ俺なのだ?
宇宙人、未来人、エスパー少年がハルヒのまわりをうようよするのは、
古泉いわく、ハルヒがそう望んだからだという。
では俺は?
何だって俺は、
こんなけったいな事に巻き込まれているんだ?
俺は100%純正の、謎の力など何もない、
普遍的な男子高校生だぞ。
これは誰の書いたシナリオなんだ?
お前か、ハルヒ?
なんてね、知ったこっちゃねーや。
なぜ俺が悩まなくてはならんのだ?
全ての原因はハルヒにあるらしい。
だとしたら、悩まなくてはならないのは
俺ではなくてハルヒの方だろう。
長門も古泉も朝比奈さんも、
本人に直接話してやればいいのだ。
その結果がどうなろうと、それはハルヒの責任であって、
俺には無関係だ。
せいぜい走り回ればいいのさ、
俺以外の人間がな。

谷口:
よっ。

キョン:
谷口、俺って普通の男子高校生だよな。

谷口:
はぁ ?どうかな。
普通の男子生徒は
教室で女を押し倒したりしねえだろ。
しかも俺様的美的ランキングA-の
長門有希と。

キョン:
俺は釈明した。
谷口が考えていると思われるストーリーは、
妄想妄想、完全フィクションである。
長門は気の毒にも
文芸部を根城にしてしまったハルヒの被害者であり、
彼女は困りあぐねたあげく、俺に相談した。
真摯な訴えに同調すること大だった俺は、
気の毒な彼女を救うべく、
ハルヒの帰った後の教室で、
共々に善後策を協議していると、
長門は持病の貧血を起こして倒れ、
とっさに俺が彼女と床との衝突を
防ごうとしたまさにその時、
闖入(ちんにゅう)してきたのがお前、谷口である。
真に真実とは、
明らかになってみれば、下らないものであることよなあ。

谷口:
ウソつけ。

キョン:
ちっ。

谷口:
そのウソ話を信じたとしても、
あの誰とも接点を持ちたがらない長門有希から
相談を持ちかけられた時点で、
もうお前は普通じゃねえよ。

キョン:
そんなに有名だったのか、長門は。

谷口:
何より、涼宮の手下でもあるしな。
お前が普通の男子生徒ってんなら、
俺なんかミジンコ並みに普通だぜ。

キョン:
なあ、谷口。
お前、超能力を使えるか?

谷口:
はあ?そっかぁ。
お前はとうとう涼宮の毒におかされてしまいつつあるんだな。
あんまり近づかないでくれ、
涼宮がうつる。



キョン:
何で着替えないんだ?お前。

ハルヒ:
暑いから。
いいのよ、どうせ部室に行ったらまた着替えるから。
この後掃除当番だし、この方が動きやすい。

キョン:
そりゃ合理的だな。

ハルヒ:
みくるちゃんの次の衣装、何がいい?

キョン:
バニー、メイドときたからな・・・次は・・・って、次があるのかよ!?

ハルヒ:
ネコミミ?ナース服?あぁ、それとも女王様がいいかしら?

キョン:
ネコミミでニャー、ナース服で・・・、それとも女・・・

ハルヒ:
間抜け面。

キョン:
お前から話を振ったんだろうが!

ハルヒ:
ほんっと・・・退屈・・・。



キョン:
なるほど、これか。

みくる:
何か分かったんですか?

キョン:
いえ・・・別に。

みくる:
ん?あれ?これ何です?

キョン:
ぐぁあ!!抜かった!!

みくる:
どうして私の名前がついてるの?何が入ってるの?見せて見せて!

キョン:
いやぁ、これはその、なんだ、なんでしょうね?きっと何でもないでしょう・・・。

みくる:
うそっぽいです!

キョン:
朝比奈さ・・・ちょっと離れて・・・

みくる:
あぁん、もう!いいでしょう?ちょっとだけ!ね、ね、おねがーい!

ハルヒ:
何やってんのあんた達。

キョンとみくる:
・・・・・・・・・・・・・。

ハルヒ:
アンタ、メイド萌えだったの?

キョン:
何のこった・・・

ハルヒ:
着替えるから。

キョン:
好きにしたらいい。

ハルヒ:
着替えるって言ってるでしょ!?

キョン:
だから?

ハルヒ:
・・・っっ!!出てけぇっっ!!!

キョン:
なんだ、あいつ?教室でも堂々と着替えおっ始めるくせに。

ハルヒ:
手と肩は涼しいけど
ちょっと通気性が悪いわね、この衣装。

古泉:
あれ?今日は仮装パーティーの日でしたっけ?

キョン:
話をややこしくするな。

ハルヒ:
みくるちゃん。

みくる:
ひゃっ!

ハルヒ:
ここ、座って。

みくる:
ぅひぇ~、ひょぉ・・・

古泉:
ん、まるで、仲のいい姉妹ですね。

キョン:
みつあみメイドにしたいだけだろ。

キョン:
結局、普通といえば
普通の毎日だった。
やりたいことも取り立てて見当たらず
何をしていいのかも知らず。
時の流れるままのモラトリアムな生活。
当たり前の世界。平凡な日常。
あまりの何もなさに
物足りなさを感じつつも
なぁに時間ならまだまだあるさと
自分に言い聞かせて
漫然と明日を迎える繰り返し。
それでもこれはこれで非日常の香りがして
なかなか悪くなかった。
クラスメイトに殺されそうになったり
灰色の無人世界で暴れる化け物に出会ったりなんぞ
そうそうありゃしないだろうしな。
そうさ、俺はこんな時間がずーっと続けばいいと思ってたんだ。
そう思うだろ、普通。
だが思わなかったやつがいた。
決まっている、涼宮ハルヒだ。

キョンの妹:
(ED晴レ晴レユカイの鼻歌~♪)

キョン:
何してんだ?

キョンの妹:
はさみー!
明日の図工で使うの!

キョン:
いいけどなぁ、
一言ぐらい声かけろよ。

キョンの妹:
てへっ!

キョン:
確信犯か。

キョン:
ところで人が夢を見る仕組みをご存知だろうか。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があって
周期的に繰り返され、身体(からだ)は眠っているが
脳が軽く活動しているレム睡眠時に我々は
夢を見るわけだ。



ハルヒ:
キョン!キョン!

キョン:
まだ目覚ましは鳴ってないだろ。

ハルヒ:
起きてよ。

キョン:
いやだ。

ハルヒ:
起きろってんでしょうが!

ハルヒ:
ここ、どこだかわかる?
目が覚めたと思ったら
いつの間にかこんなところに居て
隣であんたが伸びてたのよ。
どういうこと?
どうしてあたしたち学校なんかに居るの?

キョン:
閉鎖空間。

ハルヒ:
ちゃんと布団で寝てたはずなのに。
何でこんなところに居るわけ?
それに空も変。

キョン:
古泉を見なかったか?

ハルヒ:
いいえ。どうして?

キョン:
いや。なんとなくだ。
とりあえず学校を出よう。
どこかで誰かに会うかもしれない。

ハルヒ:
あんたあんまり驚かないのね。

キョン:
驚いてるさ。
特にお前がここに居ることにな。

ハルヒ:
なにこれ!

キョン:
敷地に沿ってぐるりと続いてるな。

ハルヒ:
ここから出られないって事?

キョン:
怖いならいっそ腕にすがり付いてくれよ。
そっちのほうが気分が出る。

ハルヒ:
バカ!

ハルヒ:
通じてないみたい。

キョン:
だろうとは思ったがな。

ハルヒ:
キョン。見て。
どこなのここ。気味が悪い。

キョン:
飲むか?

ハルヒ:
いらない。どうなってんのよ。
なんなのよ。さっぱりわからない。
ここはどこで、
なぜあたしはこんな場所に来てるの?
おまけにどうしてあんたと二人だけなのよ。

キョン:
知るものか。

ハルヒ:
探検してくる。
あんたはここに居て。
すぐ戻るから。

キョン:
こういうところはハルヒらしいな。



キョン:
おっ。
古泉か。

古泉:
やぁ。どうも。

キョン:
遅かったな。
もうちょっとまともな姿で登場するかと思ってたが。

古泉:
それも込みで、お話しすることがあります。
正直に言いましょう。
これは異常事態です。
普通の閉鎖空間なら
僕は難なく侵入できます。
しかし、今回はこんな不完全な形態で、
しかも仲間の力を借りてやっとなんです。
それも長くは持たないでしょう。
我々に宿った能力が今にも消えようとしているんです。

キョン:
どうなってるんだ。
ここにいるのはハルヒと俺だけなのか?

古泉:
その通り。
我々の恐れていたことが
ついに始まってしまったわけです。
とうとう涼宮さんは現実世界に愛想をつかして
新しい世界を創造することに決めたようです。
つまり世界崩壊の危機ですね。

キョン:
なんだって?

古泉:
我々の組織の上のほうは恐慌状態ですよ。
神を失ったこちらの世界が
どうなるのか誰にもわかりません。
涼宮さんが慈悲深ければ
このまま何事もなく存続する可能性もありますが
次の瞬間には無に帰する可能性もありえます。

キョン:
何だってまた。

古泉:
さぁて。
ともかく涼宮さんとあなたはこちらの世界から
完全に消えています。
そこはただの閉鎖空間じゃない。
涼宮さんが構築した
新しい時空なんです。
もしかしたら今までの閉鎖空間も
その予行演習だったのかもしれませんね。

キョン:
ははっ。

古泉:
そちらの世界は
今までの世界より
涼宮さんの望むものに近づくでしょう。
彼女が何を望んでいるのか
知りようがありませんが
さぁ、どうなるのでしょうね。

キョン:
俺がここにいるのは
どういうわけだ。

古泉:
本当に
お分かりでないんですか。
あなたは涼宮さんに選ばれたんですよ。
こちらの世界から
唯一涼宮さんが共に居たいと思ったのがあなたです。
とっくに気づいていたと思っていましたが。
そろそろ限界のようです。
このままいくと
あなた方とはもう会えそうにありませんね。

キョン:
こんな灰色の世界で
俺はハルヒと二人で暮らさないといかんのか?

古泉:
アダムとイヴですよ。
産めや増やせでいいじゃないですか。

キョン:
殴るぞ、お前。

古泉:
冗談です。
おそらくですが
そのうち見慣れた世界になると思いますよ。
ただし、こちらと全く同じではないでしょうが。
ま、そっちに僕が生まれるようなことがあれば
よろしくしてやってください。

キョン:
俺たちはもうそっちに戻れないのか。

古泉:
涼宮さんが望めば、あるいは。
可能性は薄いですがね。
僕としましては
あなたや涼宮さんともう少し付き合ってみたかったので
惜しむ気分でもあります。
あぁ、そうそう
朝比奈みくると長門有希からの
伝言を言付かっていました。
朝比奈みくるからは
謝っておいて欲しいと言われました。
ごめんなさい、私のせいです、と。
長門有希からは
パソコンの電源を入れるようにと。
それでは。

キョン:
こいつは
どういう冗談なんだ。

キョン:
見えてるとも。
どうすりゃいい。
なにをだよ。
長門!
どうしろってんだよ、長門、古泉。

ハルヒ:
キョン!なんか出た!
なにあれ?怪物?
蜃気楼じゃないわよね?
宇宙人かも!
それか古代人類が開発した超兵器が
現代によみがえったとか!

ハルヒ:
ちょっとなに?

ハルヒ:
あれさ、
襲ってくると思う?
私には邪悪なもんだとは思えないんだけど。

キョン:
わからん。

ハルヒ:
何なんだろ、ほんと。
この変な世界も、あの巨人も。

キョン:
元の世界に帰りたいと思わないか?

ハルヒ:
えっ?

キョン:
一生こんなところに居るわけにもいかないだろ。
腹が減っても飯食う場所なんかなさそうだし。

ハルヒ:
不思議なんだけどなんとかなりそうな気がするのよ。
どうしてだろ。今ちょっと楽しいな。

キョン:
SOS団はどうするんだ。
お前が作った団体だろ。
ほったらかしかよ。

ハルヒ:
いいのよ、もう。
だってほら、あたし自身が
とっても面白そうな体験をしてるんだし。
もう不思議なことを探す必要もないわ。

キョン:
俺は戻りたい。
こんな状態におかれて発見したよ。
俺はなんだかんだ言って
今までの暮らしが結構好きだったんだな。
アホの谷口や国木田も、
古泉や長門や朝比奈さんも
そこに消えちまった朝倉を含めてもいい。

ハルヒ:
なに言ってんの?

キョン:
俺は連中ともう一度会いたい。
まだ話すことがいっぱい残ってる気がするんだ。

ハルヒ:
会えるわよ、きっと。
この世界だって
いつまでも闇に包まれてるわけじゃない。
明日になったら太陽だって昇ってくるわよ。
あたしにはわかるの。

キョン:
そうじゃない。
この世界のことじゃないんだ。
元の世界の、あいつらに俺は会いたいんだよ。

ハルヒ:
意味わかんない。
あんただってつまんない世界に
うんざりしてたんじゃないの?
もっと面白いことが起きてほしいと
思ってたんじゃないの?

キョン:
思ってたとも。
あのな、ハルヒ。
俺はここ数日でかなり面白い目にあってたんだ。
お前は知らないだろうけど
世界はお前を中心に動いていたと言ってもいい。
お前が知らないだけで
世界は確実に面白い方向に進んでいたんだよ。

キョン:
長門は言った。
進化の可能性と。
朝比奈さんによると時間の歪みで
古泉にいたっては神扱いだ。
では俺にとってはどうなのか。
涼宮ハルヒの存在を俺は
どう認識しているのか。
ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない。
なんてトートロジーで誤魔化すつもりはない。
ないが、決定的な回答を
俺は持ち合わせてなどいない。
そうだろ、教室の後ろにいるクラスメイトを指して
そいつはお前にとって何なのかと問われて
なんと答えりゃいいんだ。
いや、すまん。
これも誤魔化しだな。
俺にとってハルヒはただのクラスメイトじゃない。
もちろん進化の可能性でも、時間の歪みでも
ましてや神様でもない。あるはずがない。

ミクル:
(白雪姫って知ってます?)

ハルヒ:
何よ。

キョン:
俺、実はポニーテール萌えなんだ。

ハルヒ:
なに?

キョン:
いつだったかの
お前のポニーテールは
反則的なまでに似合っていたぞ。

ハルヒ:
はぁ?バカじゃないの?

キョン:
なんつー夢見ちまったんだ。
フロイト先生も爆笑だぜ。
いまだかつてないリアルな夢・・・か、
ここはすでに元の世界ではないとか。
ハルヒによって創造された新世界なのか。
だったとして、俺にそんなことを確かめる術はあるのか。
ん?

キョン:
よぉ!
元気か。

ハルヒ:
元気じゃないわね。
昨日悪夢を見たから。

キョン:
ほぉ。

ハルヒ:
おかげで全然寝れやしなかったのよ。
今日ほど休もうと思った日もないわね。

キョン:
そうかい。
ハルヒ。

ハルヒ:
なに?

キョン:
似合ってるぞ。

古泉:
あなたには感謝すべきなんでしょうね。
僕のアルバイトもしばらく終わりそうにありません。
まぁこの世界が昨日の晩にできたばかりという
可能性も否定できないわけですが。
とにかく、あなたと涼宮さんにまた会えて光栄です。
また放課後に。

長門:
あなたと涼宮ハルヒは
2時間30分この世から消えていた。

キョン:
お前みたいなやつはお前のほかに
どれだけ地球にいるんだ?

長門:
結構。

キョン:
また、朝倉みたいなのに
俺は襲われたりするのかな?

長門:
大丈夫。
私がさせない。

ミクル:
キョン君。
よかった。
また会えて。
もう二度とこっちに戻ってこないかと思っ・・・

キョン:
朝比奈さん。

ミクル:
はっ!
ダメ、ダメです。
こんなところ涼宮さんに見られたら
また同じ穴の二の舞です。

キョン:
意味わからないですよ。それ。
あっ、あ、そうだ。
朝比奈さん。
胸のここんとこに
星型のほくろがありますよね?

ミクル:
ん?
ひょ!
どうして知ってるんですか?
私も今まで星の形なんて気づかなかったのに!
い、いついついついつ見つけたんですかー!

ハルヒ:
なにやってんの?あんたたち。
みくるちゃん?メイド服もそろそろ飽きたでしょ?
さぁ着替えの時間よ?

ミクル:
えっ?
いやっいや。

ハルヒ:
んんあー、暴れないの!

ハルヒ:
抵抗は無駄よ。今度のはナースよナース、看護婦さん。
最近は看護師って言うんだっけ?まぁいいや。おんなじことだし!

キョン:
その後のことを少しだけ語ろう。
SOS団は、この度ようやく設立申請の書類を
生徒会に提出した。
「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」では、
却下確実なので、
「生徒社会を応援する世界作りのための奉仕団体」と
改名した。
市内の不思議探索パトロールも継続中で、
今日はその2回目だ。
どういう偶然か、
朝比奈さんも長門も古泉も急用で欠席になり、
俺は一人、ハルヒを待っている。
俺は集合時間1時間前にやって来た。
遅刻の有無に関わらず、最後にやって来た者は
罰金という定めがあるからだ。
あのしかめっ面が、参加率の低さを嘆くものなのか、
俺に遅れをとった不覚を嘆いたものなのかは分からない。
あとでゆっくり聞いてやろう。
ハルヒのおごりの喫茶店で。
その際には、俺は色々なことを話してやりたいと思う。
SOS団の今後の活動方針について、
朝比奈さんへのコスプレ衣装の希望、などなど。
しかしまあ、結局のところ、最初に話すことは決まっているのだ。
そう、まず、
宇宙人と、未来人と、超能力者について話してやろうと、
俺は思っている。