イカ娘「許さないでゲソ...許すまじ、人類...私がお前たちの腐った地上を...侵略してやるでゲソ!」

――

栄子「姉貴、やきそばまだ?」

千鶴「上がったわよ、栄子ちゃん」

栄子「生ビールお待ちどうさま」

お客さん「こっちもビール」

栄子「はーい」

イカ娘「人類よ、よく聞け!今からこの家を人類侵略の拠点にさせていただくでゲソ!
フッ。恐怖で言葉が出ないようでゲソね。心配しなくても、お主達を殺したりはしないでゲソ!雑用係として、こき使ってやるでゲソ!」

栄子「はい、はい、そこまで」

イカ娘「なんなんでゲソ?私をどこへ連れて行くつもりでゲソ?」

栄子「ひとつ聞くが、そのコスプレは何だ?」

イカ娘「おお、そういえば自己紹介がまだだったでゲソ。わたしは海からの使者:イカ娘でゲソ!」

栄子「へっ」

イカ娘「あれ?反応薄いでゲソ」

栄子「なんでうちの店に?」

イカ娘「海から一番近いからでゲソ!ここを拠点に人類侵略を進めるでゲソ!」

栄子「なんで人類侵略なんてするんだ?」

イカ娘「決まってるでゲソ!人間どもは、今まで海の恩恵を忘れて、私利私欲のために平気で海を汚してきた。あたしたち海の生き物にとって、人類など、百害あって一利無し。だから、あたしが人類を懲らしめる!海を守るために!...あれ?」

栄子「分かった...けど今日は忙しい。こっちも仕事があるんでな。またにしてくれ。気をつけて帰れよ。じゃあな」

イカ娘「あっ、ああ。ありがとうでゲソ。ちょっ...ちょっと待たなイカ!?嘘やはったりだと思ったら大間違いでゲソ!話を聞かなイカ!?」

千鶴「はい、やきそば。3番テーブルにお願いね。醤油ラーメンは5番」

イカ娘「は?あ...や、やきそば3番、ラーメン5番」

女性お客さんA「箸がないんだけど」
男性お客さんA「お冷やくださーい」
男性お客さんB「同じやつ、おかわり」
女性お客さんB「あぶらそばと餃子」

イカ娘「ち、ちょっと待つでゲソ」

男性お客さんC「カキ氷二つ、苺と練乳ね」
男性お客さんD「ハイボール」
女性お客さんC「ペペロンチーノ」
女性お客さんD「単品で、からあげとシュウマイ」
男性お客さんE「生しらす丼」

イカ娘「分かったでゲソ」

男性お客さんF「これ片付けてくれる?」

イカ娘「今やるでゲソ」

男性お客さんG「やきそば二つ、持ち帰りで」
女性お客さんE「浮き輪、返しに来ました」
男性お客さんH「アイスクリーム」
女性お客さんF「餃子3枚追加」
女性お客さんG「荷物お願いしまーす」
男性お客さんI「シャワー借りたいんですけど」

イカ娘「×○□△×△□ゲソ...
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいでゲソ!」

栄子「触るな!怪我したらどうするんだ?ったく危ないだろう」

イカ娘(そそうした私を叱ることなく、心配をしてくれるなんて...顔は怖いけど、意外と良い人じゃなイカ)

栄子「ほら、ここはいいから料理運べ」

イカ娘「分かったでゲソ!
なんか違わなイカ!?私は人類を侵略しに来たんでゲソ!バイトに来たんじゃないでゲソ!」

栄子「はい、はい、分かった、分かった。働くつもりがないなら邪魔をしないで帰ってくれ」

イカ娘「遊びじゃないでゲソ!私は本当に侵略を―」

栄子「『侵略』『侵略』って簡単に言うけどな。今日のうちの客、何人だと思う?」

イカ娘「あ?たくさん...いっぱい...大勢か?」

栄子「30人だ、30人!たったそんだけの客も捌けないで、人類を侵略できると思ってんのか?」

イカ娘「は?」

栄子「侵略ってのはつまり、64億人の人間をお前一人で支配するってことだ」

イカ娘「億...」

栄子「何人だと思ってたんだよ」

イカ娘「せ、1000人ぐらいだと思ってだけでゲソ」

栄子「1000人なら何とかなると思ってたのかよ。後な、人類を敵に回すってことは、世界中の軍隊を敵に回すってことだぞ。お前独りで相手できんのか?」

イカ娘「『軍隊』って何でゲソ?」

栄子「そっからっかよ!じゃ、じゅう〔銃〕は?」

イカ娘「じゅう〔10〕」

栄子「ミサイルは?」

イカ娘「みそ汁...今日始めて地上に来たのに、そんなこと分かる訳ないじゃなイカ!?」

栄子「蚊一匹も始末できないで、人類を侵略って...!」

イカ娘「ならば、私の本気を見せてやるでゲソ!
そこでゲソ!」

栄子「にゃぁぁ!!」

イカ娘「フッ!どうでゲソ?私もやればできるのでゲソ!ほぉ、恐怖と感動で声も出ないようではなイカ?」

栄子「よくも...うちの店の壁、ぶち壊してくれたなぁぁぁ!!!」

イカ娘「どのみち私の物になるんだからいいじゃなイカ?」

栄子「ならねぇよ!お前のこれは自分の意志で動かしてるのか?」

イカ娘「そうでゲソよ!スピード!パワー!リーチ!デリカシー!10本の触手は狙った獲物を確実に捕らえ、絶対に逃がさないでゲソ!まっ、イカの常識ってところでゲソね」

栄子「越えてるっつーのイカの常識―お、お前、この家を拠点にしたいって言ってたな」

イカ娘「そうでゲソ!」

栄子「いいぜ」

イカ娘「は?ほ、本当でゲソか?」

栄子「ああ!」

イカ娘「ハ!うーー...なんで私が働かされなきゃいかんのでゲソ!?」

栄子「修理代。触手で払ってもらうからなぁ」

千鶴「あら、あら。新しいバイトさんね!」

イカ娘「ゲーソゲーソーーー!!」