栄子「うーん、どこやったかなあ」

イカ娘「何を探しているのでゲソ?」

栄子「子供のころに買ってもらった人形が、いまプレミアがついてるらしくてな、売るわけじゃないけど、出してみようかなって」

イカ娘「ふーん・・・」


栄子「うーん・・・。お、あった。ほれっ」

イカ娘「き、気持ち悪いでゲソ!」

栄子「おいおい、ひどいこというなよ。これでも当時はすごい人気だったんだぜ。『ジョニー・アンド・デップ』っていってさ。買ってもらったときは嬉しかったなあ」

イカ娘「理解できないでゲソ」

栄子「よっ。せっかくだから、部屋に飾っとこうかな」

イカ娘「えええー・・・」

栄子「そろそろ寝るぞ」

イカ娘「う、うん・・・」


イカ娘(うーん、視線を感じるでゲソ。寝るときくらい、逆さにしといてもいいでゲソよね。これで落ち着いて眠れるでゲソ)


イカ娘「あれ? 昨日の夜、たしかに後ろ向きにしたはずなのに。栄子、戻したでゲソ?」

栄子「いや、触ってないぞ」

イカ娘「え・・・。気のせいでゲソね」


デップ「おはよう

イカ娘「ぎゃああああああ!!」

栄子「うわ!」

千鶴「どうしたの、イカ娘ちゃん?」

たける「イカ姉ちゃん、大丈夫?」

栄子「何だよ、イカ娘」

イカ娘「に、人形が・・・、人形が!」

デップ「おはよう

イカ娘「うわああああっ! 人形が喋ったでゲソ! やっぱり呪いの人形でゲソ!」

栄子「落ち着け。これはそういう人形なんだよ。中に時計が内蔵されていて、朝になるとちゃんと挨拶するんだよ」

デップ「おはよう

イカ娘「悪趣味でゲソ」

栄子「ほんとは夜も『おやすみ』って言うはずなんだけど、壊れてんのかな。古いし、仕方ないか」

イカ娘「この人形があると心臓に悪いでゲソ」

栄子「すぐに慣れるだろ」


早苗「わあ、懐かしい! 子供のころ、この人形でよく遊んだよね」

栄子「そうそう」


やあ、ジョニー

こんにちは、デップ


早苗「あれ? この人形って、もう一つなかった?」

栄子「ああ、ジョニーのほう? そっちは早苗が持ってたんじゃないのか?」

早苗「んーん、栄子に借りて遊んだ記憶があるもの」

栄子「うちに二つそろってたんなら、一緒にしまってあるはずだろう」

早苗「そっか・・・。これっていろいろ挨拶するんだよね」

栄子「そうそう。でも壊れちまって、『おはよう』は言うんだけど、『おやすみ』は言わないんだよ」

早苗「『おやすみ』を言うのはジョニーのほうでしょ?」

栄子「え・・・!?」

早苗「だから朝はデップ、夜はジョニー」

栄子「そうだったっけ?」

早苗「やっぱりジョニーのほうも持ってたんじゃない?」

栄子「そうなのかな・・・。あっ。おい、イカ娘」

イカ娘「何でゲソ?」

栄子「お前、夕べ後ろ向きに置いた人形が朝になって前向きになってたって言ってたよな?」

イカ娘「うん」

栄子「この人形には、回転する台座が付いてるんだ」

イカ娘「あ・・・」

栄子「なぜだと思う?」

イカ娘「えっ?」

栄子「ジョニーとデップは恋人同士なんだ。毎日決まった時間になると、センサーが反応して向き合うんだ。


ジョニー「おやすみ」                  デップ「おはよう


栄子「つまり」

イカ娘「え?」

栄子「デップが向いた先に、ジョニーがいる可能性がある!」

早苗「赤外線か何かよね、それ。離れてても反応するもの?」

栄子「うーん、やっぱり怪奇現象・・・」

イカ娘「赤外線でゲソ! 絶対そうでゲソ!」

栄子「この方向だと、下にある倉庫か」


栄子「少しずつ思い出してきたよ」


栄子「親にはなくしたっつって、ジョニーをこっそりわかりにくい場所に隠したんだ。おっ、・・・これか?」

ジョニー『お、お、お、おお、おやすみいいい


ナレーション「こうしてジョニーとデップは10年ぶりに再会を果たし、いまはとある神社で二人仲良く供養されている」

ジョニー『あいしてるわ

デップ『あいしてるよ