Eden of The East(Japanese)>10. 誰が滝沢朗を殺したか

咲 「どうしたの?」

滝沢 「ちょっと用事ができたんだ」

みっちょん 「咲?」

滝沢 「じゃあ」

咲 「滝沢くん!」



第10話
誰が滝沢朗を殺したか



みっちょん 「たっくん……なんで乗らなかったの?」

咲 「わかんないよ……」

咲 「……」


滝沢 「電話したの、あんた?」

物部 「物部大樹です。君はミスター・アウトサイドをぶん殴りたいそうだが、記憶は戻ったの?」

滝沢 「もしかして、板津に会った?」

物部 「うん。彼は君のことを英雄だと言っていたよ。今度もその期待に応えるのかな?」

滝沢 「今度……? 期待って何のこと?」

物部 「……結局、記憶は戻らず、履歴も未読のままか。買い被っていたのは私の方だったかな。私はこれから播磨学園都市に行き、このゲームを上がるつもりだ」

滝沢 「えっ、あんた何番? 上がれるような金の使い方してるセレソンて今んとこいないはずじゃ……」

物部 「1番だよ。心配しなくてもいい。君もゲームを終われるようにしてやる。どうだい、一緒に来ないか? そのふざけた携帯の正体や、君がなんで記憶を消したのかも一緒に教えてやるよっ」

咲 「滝沢くん、何があったの?」

滝沢 「ああ、急用ができちゃってさ。あとから追いかけるよ。ごめん」

咲 「待って! 切らないで! ……私、本当は知ってるの。滝沢くんの携帯が特別なこと。大杉くんが行方不明になったとき、滝沢くん、ホテルの部屋で女の人と一緒にいたでしょ? あのとき電話が繋がったままになってて、二人の話ずっと聞こえてたの。あそこで起きた不思議なこと、あの女の人が携帯使ってやったんでしょ? 滝沢くんと同じその携帯で。滝沢くん、セレソンって迂闊な月曜日を起こしたテロリストのことだよね? もしかしたら、そのことと何か関係してるの?」

みっちょん 「うん……うん……ちょっと待って。また、掛け直すから」

咲 「……教えて、滝沢くん。あなたは誰?」

滝沢 「そっか……そうだよな。確かに、自分でも怪しいと思うもん。でも俺、本当に自分が誰なのかわかんないんだ。それは信じてよ。でさ、今から俺のこと知ってるって奴と話すことになったんだ。なんで、咲はこのまま俺たちの話、聞いててくんない? 電話切らないでおくから。それでもし俺が犯罪者だったときは、俺のことは忘れて。俺もこのまま咲の前から消えるからさ」

咲 「……! 私、そんなつもりじゃなくって……」


大杉 「どうだ? ニート失踪に関係しているとしか思えないだろ?」

平澤 「奴はミサイルの落下した6都市で偽名を使い、迂闊な月曜日の直後、ニートをここに集めた――」

大杉 「その後、ニートは忽然と姿を消す。まるでハーメルンの笛吹き男だよ。建物内に埋められたりしてなきゃいいけど」

平澤 「わからん。奴はなぜそんなことをしなければならなかったんだ……」

おネエ 「みっちょんと電話繋がったわ。で、なぜかたっくんだけ終電に乗らなかったって」

大杉 「じゃあ、咲ちゃんたち無事なんだ?」

おネエ 「無事って言うか……とりあえず、豊洲に来いって言っといたけど」

平澤 「板津から? 何だこの大量のデータは? 携帯からは開けんぞ」


物部 「乗れよ」

咲 「ヘリコプター?」

みっちょん 「たっくんどうしちゃったの?」

みっちょん 「やだ、パンツから。パンツがエデンのサーバーに何か送ったみたい。データが大きすぎてうまく開けないけど」

咲 「……!」

物部 「君はいま、何て名乗ってるんだ?」

滝沢 「滝沢……朗」

物部 「滝沢くんか。その名前、偽名だってことは知ってるの? ……じゃあ、二万人をドバイへ送り込んだことは?」

滝沢 「なんとなく……」

みっちょん 「それってもしかして、ニート失踪事件の?」

滝沢 「一応、思い当たる節はあるんだけどさ。そもそも、なんで俺、記憶消したり偽名使ったりしてたの?」

物部 「君、ATO商会って会社、知ってるかい?」

滝沢 「あとうしょうかい……?」

物部 「君や私をこのゲームに巻き込んだミスター・アウトサイドの正体は、そこの会長兼相談役の亜東才蔵って爺さんだよ」

滝沢 「あとうさいぞう……?」

物部 「ああ。聞いたことないか? 戦後の復興期、運輸業からスタートし、巨万の富を築いた大政商。”日本のフィクサー”と呼ばれる、昭和の亡霊のひとりだな。……今どきの若者だな、君は」

滝沢 「で、なんでそのアトウサイゾウさんがミスター・アウトサイドなの? あっ……アトウサイゾウ……アウトサイドウ……ってダジャレかよ」

物部 「その、人を食った名前といい、こんなふざけたゲームを自動的に運営させるだけの権力を持つ人間が彼以外にそういるとは思えないからね。……それに、戦前のヨーロッパに留学経験のある彼が好みそうな思想や、無類のサッカー好き、それも、ブラジルサッカーへの傾倒からきたと思われるネーミングセンスだったりさ。その辺のヒントに気づければ、案外推理は簡単だったよ」

滝沢 「でも、そんなスゲー爺さんが、なんで100億ばら撒いてこんな無茶すんだよ? そんなんでこの国よくなるわけないじゃん」

物部 「ミスター・アウトサイドにとって、君のような若者に金と権限を与えたり、連続殺人鬼や戦争肯定論者にミサイル攻撃を許可したりすることは、日本を救う方法論のひとつとして”あり”だったんじゃないかな。亜東才蔵とは、今の日本の礎を自分で築いてきたという自負がある人間だ。だがここへ来て、日本はこれでよかったのかと考えるようになった。自分がやってきたことが正しかったのか、今、この国の行き詰った状況を見つめ直したんだろうな。それで、自分の眼鏡に適った人間に強制的に力を与えることで、今一度この国が劇的に変化する瞬間を自分で演出したかったんだよ」

滝沢 「やっぱ無茶苦茶だ……」

物部 「確かに私もそう思うよ。我々こそ彼の酔狂に巻き込まれた被害者だろう。だけど、彼を擁護するわけじゃないが、彼には時間がなかったんだ」

滝沢 「……?」

物部 「このゲームがスタートした段階で、彼は末期がんと診断されていたんだからね」

滝沢 「え……」

物部 「そして彼は既に死んでしまっているはずなんだ」

滝沢 「……!」


みっちょん 「たっくんと話してる人、誰なんだろう」

物部 「残念だったね。アウトサイドをぶん殴れなくて」

滝沢 「いや。まあ、爺さん殴るってのもどうかと思うんでさ。それより、物部さんはどうやってこのゲーム上がんの? 爺さん死んでも、サポーターとか、色々ゲームは続いてるわけでしょ?」

物部 「私はミスター・アウトサイドに成り代わることでゲームの勝者になろうと思っているんだ。このゲームは馬鹿馬鹿しいものだったが、ノブレス携帯のシステム自体はよくできているからね。なにしろ、亜東才蔵の権力をそっくり内包しているわけだからさ。君の携帯にも優秀なコンシェルジュが出るだろう」

滝沢 「ああ、ジュイス?」

物部 「彼女をそっくり頂くんだよ」

滝沢 「はあ……?」


滝沢 「物部さん、ジュイスってこんなとこで働いてんの?」

物部 「ここはATO財団が管理する研究施設でね。亜東才蔵は、死ぬまでの数年間をほとんどここで過ごしていたらしい」

滝沢 「そんなことまで調べたの?」

物部 「アウトサイドの正体に気づいた段階で、私は官僚を辞め、ATOと取引のある商社に出入りし、太いコネクションを作ったんだ。で、先日私は、ATOの執行役員に就任し、晴れてここの責任者となったわけさ。私は君を入れて9人まで他のセレソンの素性も特定できているんだ。そのうち2人は既に私と行動を共にしている」

滝沢 「え?」

物部 「彼はナンバー10の結城くん。彼が11発のミサイルを発射したセレソンだ」

滝沢 「……!」

咲&みっちょん 「えっ……!」

物部 「辻くんは?」

結城 「中で待ってます」

物部 「そうか」

Juiz 「ジュイスです」

物部 「ジュイス、祝杯用にシャンパンを1本見繕ってくれ。それを制御室に届けてほしいんだ」

Juiz 「物部さまがこういった申請をされるのは珍しいですね」

物部 「ダメかい?」

Juiz 「いいえ。たまには自分にご褒美を。ノブレス・オブリージュ。今後も救世主たらんことを――」

物部 「ありがとう」

辻 「……」

滝沢 「ねえ、物部さん。ジュイスってひとりだったの? さっき電話に出た子、俺のと同じだったからさ。今までけっこう大変なこと頼んじゃって申し訳なかったかなって。イメージではさ、もっと大勢の女の子がでっかい部屋にバーンと並んで、俺たちの依頼に対応してるんだと思ってたからっさ」

物部 「フッ、やっぱり君はユニークだな。我々の足の下にあるこれがジュイスだよ」

滝沢 「あ……?」

物部 「亜東は生きていれば今年で100歳。こんな物まで作ったのは、彼なりの贖罪なんだろうな。滝沢くん、ミスター・アウトサイドが死んだ今、我々以外この施設が何なのか知る者はいなくなった。彼が最後まで表舞台に立つことなくこの国を裏から動かしてきたように、君も一緒にこの国を戦後からやり直す計画に参加しないか?」

滝沢 「へ……?」

結城 「やっぱり教えるんですか?」

物部 「彼も一応日本代表に選ばれた人間だ。この後どうするにしても、一般人より先に真実を知っておくくらいの特権はあってもいいんじゃないかな」

滝沢 「何スか? その、『戦後からやり直す』って?」

物部 「明日の午前8時に、再びこの国をミサイルで攻撃するんだ。今度は60発のミサイルでね」

咲&みっちょん 「えっ!」

みっちょん 「この人たち、迂闊な月曜日の犯人?!」

咲 「しっ!」

物部 「これは結城くんの提案なんだが、ミサイル攻撃で既得権益の再分配を図り、我々がこの国の救世主になるってわけさ」

滝沢 「意味わかんねーし。つうか、おかしいんじゃねーの?! 自分の国攻撃して、何が救世主だよっ!」

結城 「おかしくないよ! 平等なフリして搾取を続けるこの国の方こそおかしいんだ!」

物部 「結城くんがノブレス携帯をもらったのは、過労で倒れた両親を看取った直後だったそうだ」

結城 「その時はもう、この社会に僕の居場所はなかった……。あとはお決まりの非正規雇用の無限ループさ。借金して資格を取ってみても時給が10円上がっただけだし、そのことを訴えれば、『自己責任だ。努力が足りない』とニートの連中にまで馬鹿にされる。あの11発のミサイルは僕からのメッセージさ。政府もお前らも自己責任が足りないっていうね」

滝沢 「いや……そうかもしんないけど」

結城 「とにかく、今は僕を馬鹿にした奴らに同じ気持ちを味あわせてやるんだ――持てる者の義務でね」

滝沢 「物部さんはそれでいいの?」

物部 「私はいかなる状況でも、自己責任で生き抜けるからね。でも、この国をダウンサイジングしてグローバルな競争力を付け直すためには、結城くんが言うように、既得権にしがみつく老害と怠け者、双方を排除してからの方が早いのかもしれないと思ってね。それで同調することに決めた」

滝沢 「じゃあ、あんたは?」

辻 「……ペッ。俺は元々100億なんて持ってるから、このウザいゲームから早く解放されればそれでいい」

結城 「邪魔はしないでくれよな、今度は」

滝沢 「邪魔っつうかさ、持てる者の義務を履き違えてるって! 俺、お前らをぶん殴りたくなってきた……」

結城 「記憶を消す前の君もそう言って爆心地から住民逃がしたんだろうな」

滝沢 「えっ」

結城 「言ってあげればいいんですよ、彼が記憶を消した理由。その上でまだ邪魔するってんなら僕はもう何も言わないけど……」

物部 「君は、君が助けた人たちと君に協力した仲間、双方から裏切られたんだよ」

滝沢 「……!」

電車アナウンス 「本日も、東日本鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございます」


平澤 「これ……もしかして滝沢の携帯ログか?!」

春日 「ナンバー10のところだけフォントが赤ですね」

平澤 「……何だこれは」

おネエ 「この数字は何かしら? 100億近くあるけど」

大杉 「おおい、ここを見ろ! トマホークミサイルって」

平澤 「もしかしたら、迂闊な月曜日も滝沢が――」

平澤 「何だ?!」

春日 「何ですか、あれ!」

おネエ 「何、何なの、あの裸の群れ!?」

春日 「平澤さん、あれは――」

平澤 「ああ。しかもあの数……って、もしや――」

大杉 「失踪してたニートってこと?!」

AKX20000 「うおおおおおおおおお!」

平澤 「逃げろー!」


滝沢 「そりゃ確かに今の俺でも絶望するかもな……」

咲 「……そんなのってないよ……それじゃ、滝沢くんにあんまりだ。でもあたしもおんなじだ。滝沢くんを裏切ったみんなとおんなじだ」

みっちょん 「そんなことないよ。咲は違うよ」

咲 「でも、あたしも言っちゃったもん……ミサイルが落ちたとき、『もっとすごいことが起きればいいのに』って……!」


結城 「だいじょぶですかね、行かせちゃって。まだシステムを完全に掌握できたわけじゃないのに」

物部 「ジュイスに何か依頼したとしても、今からじゃ大したことはできないよ」

結城 「ミサイル発射までに8時間とちょっと」

物部 「来たか。ボランジェか。……空瓶だぞ」

ジュイス? 「今宵、ゲームの勝者は決定しませんでした。したがって祝杯は後ほど。ノブレス・オブリージュ。ミスター・アウトサイドの指示に従って、今後も救世主たるべく、ゲームを続行してください」

物部 「『ジュイス本体を秘密の場所に移送』……12番がサポーター?! いや、アウトサイドか!」


キャスト

滝沢 朗
森美 咲
Juiz
大杉 智
平澤 一臣
葛原 みくる
おネエ
春日 晴男
物部 大樹
結城 亮
辻 仁太郎
AKX20000
ジュイス?