父母「よしお君、誕生日おめでとう」

「おめでとう/おめでとう/おめでとう」

イカ娘「初めて見るメニューでゲソね」

栄子「ああ、あれは特別メニューだ」

千鶴「うちのサービスで、誕生日のご家族にはケーキを格安で提供しているの」

イカ娘「誕生日?」

千鶴「地上では年に一度、こうして生まれた日を祝うものなのよ」

イカ娘「生まれた日・・・」

栄子(そっか、こいつ自分の誕生日を知らないのか)

イカ娘「じゃあ・・・」

栄子「ん?」

イカ娘「私も今日が誕生日でゲソ! 私も祝ってもらおうじゃなイカ」

栄子「お前、いま決めただろ。じゃあ、って何だよ」

イカ娘「別にいいじゃなイカ! これやりたいでゲソ!」

栄子「ほんとに日に日に図々しくなってくな、お前は。仮に、本当に今日が誕生日だとしても、侵略者の誕生日なんて祝うどころか疎んじるわ」

イカ娘「そこまで言うでゲソか」

千鶴「いいんじゃないかしら。やりましょうよ、イカ娘ちゃんの誕生日会」

イカ娘「やったー!」

栄子「姉貴、マジで!?」

―――

たける「買ってきたよ!」

イカ娘「何買ってきたでゲソか?」

悟郎「お、おう」

イカ娘「わあっ!」

栄子「ええっ?! 何やってんだよ!」

イカ娘「他には何かないでゲソか? 金色の触手・・・ではなさそうでゲソね。おとなしく姿を現すでゲソ!」

栄子「おい、イカ娘」

イカ娘「しつこいやつでゲソ! 何をするでゲソ!」

栄子「おい!」

イカ娘「うわあーっ!」

栄子「お前はここにいろ!」

イカ娘「どうしてでゲソ!」

栄子「いいから。主役は動かないもんなんだよ」

イカ娘「主役?」

栄子「そうだ。準備が済んだら呼んでやるから、おとなしくしてろ」

イカ娘「なるほど。私はゆくゆくは地上の征服者となる身でゲソ。下々のものは働いて当たり前だということでゲソね」

たける「わああ、お姉ちゃん、素敵だね」

栄子「だろう? あいつにはもったいないくらいだ」

千鶴「まあ、悟郎君、そんなことまで?」

悟郎「あ、いやあ、当然のことですから」

イカ娘(何でゲソ。やつら、私をのけ者にして楽しそうでゲソ。まさか・・・)


たける「わああ、お姉ちゃん、素敵だね」

栄子「だろう? あいつにはもったいないくらいだ」

千鶴「まあ、悟郎君、そんなことまで?」

悟郎「いやあ、当然のことですから」

4人「さあ、イカ娘を捕まえて、食ってしまおう」


栄子「準備ができたぞ」

イカ娘「く、来るなでゲソ!!」

栄子「ええー?」


たける「イカ姉ちゃん」

4人「お誕生日おめでとう!」

イカ娘「何か大きなことを成し遂げた気分でゲソ!」

栄子「何もできてないだろ」

千鶴「ケーキ持ってきたわよ」

イカ娘「早速食べようじゃなイカ」

栄子「待て待て。歳の分、ロウソク立ててからだろ。お前、いくつなんだ?」

イカ娘「・・・わからないでゲソ」

栄子「ああ・・・。ま、頭の悪さからして、こんなもんだろ」

イカ娘「私はもっと有意義に生きてきたでゲソ! 10本や20本じゃ足りないでゲソ! こんなもんじゃなイカ」

栄子「何歳だよ、お前」

イカ娘「わあ・・・」

たける「イカ姉ちゃんが吹き消すんだよ」

イカ娘「それじゃあ・・・。・・・頭がくらくらするでゲソ」

たける「イカ姉ちゃん!」

千鶴「酸欠ね」

栄子「意地張って何本も立てるからだぞ」

悟郎「おーい、大丈夫か?」

イカ娘「今度こそ! ・・・あ」

悟郎(イカ墨・・・)

栄子(余計なトッピング入れやがった)

イカ娘「え、ええと、これは、その・・・、イカ墨だけに、私のお墨付きでゲソ」

栄子「誰が上手いこと言えといった!!」


たける「今度はみんなで花火しようよ!」

イカ娘「おお、いい考えでゲソ!」

たける「はい、これ。僕からイカ姉ちゃんへのプレゼント」

イカ娘「これが花火でゲソね」

栄子「うー、きれいきれい!」

千鶴「夜の海でやるのが、またいいのよね」

悟郎「あ、あれ? こんな少ししかなかったか?」

たける「さっきまでいっぱいあったのに」

イカ娘「まだまだ甘いでゲソね。私のほうが圧倒的にきれいでゲソ」

たける「わあ!」

栄子「こんなところで無駄な才能を発揮してどうする」

イカ娘「あちあちあちあちあち!」

栄子「花火を振り回すな!」

悟郎「水だ!」

たける「イカ姉ちゃん、大丈夫?」

悟郎「火の取扱いには気をつけろ!」

栄子「火も満足に扱えないなんて、お前、侵略者に向いてないよ」

イカ娘「よ、余計なお世話でゲソ!」

千鶴「でも意外よね」

たける「何が?」

千鶴「魚介類にとって、火なんて恐怖の対象でしかないと思うんだけど」

栄子「そういえば、イカは光に集まる性質があると聞くが、そっちか?」

たける「イカ姉ちゃん、危ないよ!」

イカ娘「え? ぎょわあああっ!! 死ぬかと思ったじゃなイカ! お主、たける!」

栄子「小動物か」

イカ娘「わあああっ! わああっ!」

栄子「飛び上がったり、へたり込んだり、忙しいやつだな。安心しろ」

イカ娘「え? やはり私の誕生日を祝おうと、人間どもがこのようなことを」

栄子「今日、花火大会だったんだな」

たける「忘れてた」

悟郎「さすが、迫力が違うな」

千鶴「本当」


栄子「やっぱり最後は線香花火だよな」

千鶴「風流よね」

イカ娘「来月の誕生日も楽しみでゲソ」

栄子「はあ? 誕生日は年に一回だろ」

イカ娘「ええーっ! そんなのつまんないでゲソーッ!」