――― ホイコーロー ―――

祐子「お待たせ。こんなものしかできないけど。はい」

みお「わああ、すごい。ホイコーローじゃん。超おなか減ってたから助かる」

祐子「隠し味にちょっとしたものを入れたんだけど、わかるかな?」

みお「隠し味なんてずいぶん本格的じゃん。いただきまーす」(・・・うーん、味噌の味しかしないというか、隠し味が隠れなさすぎというか、いや、むしろこの隠し味が噛めば噛むほど相当まずくしてるというか・・・。これ、本格的にアゲインスト)


――― 日常の23 ―――

祐子(お、おおお? おおお、こりゃなかなか)「みおちゃん、みおちゃん」

みお「ん、んん?」

祐子「えへへー」

みお(何だこりゃ。カッパ? なぜ今カッパなんだ? しかも『かっこいいでしょ』って。うーん、うーん。でも、今度描くのはファンタジー色強くても面白いかもしれないな。デイダラボッチとカッパ、とかね。カッパ、へっ、受けかな? カッパ、カッパねー。カッパ、カッパッパー。パ、パ、パラサイト、っつってね。この流れで絵しりとりでもやりますか)「はい、ゆっこ」

祐子「はい、っと。お?」(パラシテ? パラシテってこういう生き物なの? あ、この矢印があるってことは、さては絵しりとりを誘ってるな? 受けてあげようじゃないの。えー、パラシテね。「て」、「て」、えー・・・よしっ)

みお(でかっ! しかも「天狗」って、「パラサイト」の「ト」を「テ」って読んだろう。まあ、いっか。「天狗」ね。「天狗」、「ぐ」、「ぐ」、「ぐ」、「ぐ」! う、嘘でしょ!? 「テンゴ」--っ!! 「テンゴ」って何だよ、「テンゴ」って! いや、ひっかけ! こんな稚拙な間違い、高校生がするわけない。だって天狗を絵で見せてから、わざわざ文字を書いてるし。意味がわからない。何か腑に落ちないけど、ここはあえて「ご」でいきますか)「はい」

祐子(ああああああ。何? このアンニュイな悟空。あ? あれえ? 「悟空」? さっき私が描いたのって「天狗」だったはず。ま、「ぐ」って考えて「ご」になるのはわかる気がするけどね。こりゃ、あとでジュースだな。さて、「う」ね。「う」、「う」、よし。うおー)

みお(うう・・・。「ウニ」? 「ウサ」? 「牛」かよ! この牛はひどすぎだ!)「はい」

祐子(ふーーっ! 「舌」。「舌」ときたか。じゃあ、「た」だな。「た」、「た」、「タクシー」、っと)「はい」

みお「あっ」(な! な、何でだよーーっ!! これじゃ「タクシー」じゃなくて、「タクスィー」だよーーーっ!! もう、適当に描いとくか)「はい」

祐子(おおーっ、業界用語ときたもんだ。さてはノリノリだな? はいはいはい、っと。しまった! これじゃ負けじゃん! いや、まだ、ここをこうすれば・・・)「はい」


――― 囲碁サッカー部3 ―――

大工「あー、暇だなー。んん? 暇だな、関口。よし、関口、いっせいのせで勝負だ。俺から行くぞ。いっせいの、2! 関口、暇なんだし、たまには付き合えよ」

関口「部長」

大工「ああ、関口」


――― 日常の24 ―――

祐子(宿題を 忘れて廊下に 最上川
.                      ゆっこ

今日日宿題を忘れたぐらいで、廊下に立たされるとは。

.   この時間 いかに過ごすか 最上川
.                      ゆっこ)
「あ・・・。あああああ、ちょ、み、みんな、し、鹿、鹿・・・! ええええっ!? な、何で校長が鹿を!? ちょ、ちょ、校長、し、鹿・・・!」

校長先生「ふん!」

祐子「ひいいいいっ! 校長! ちょ、ちょっとみんな、校長が、必死・・・!」

校長先生「ふん」

祐子「あ、あれは、鹿せんべい!? ひいいいいいっ! ちょ、ちょ、みんな、校長が、死、死・・・! 起きた・・・。登ったああああああ・・・!」

校長先生「とうっ!」

祐子「飛んだあああああっ! そのまま落ちた! また登った! 降りたああああ・・・!」

校長先生「へへっ」

祐子「て、手詰まりだあ! 校長ーーー!! 校長ーー・・・! ああああ、こ、ちょ、みんな、デス(death)、校長、デス・・・。立ったああああ!」


祐子(あっ・・・)「ちょっ、みんな、聞いて! あ、えー・・・。あ、ええと、その、こ、こ、こう・・・」

全員「はあ?」

祐子「あ、こう・・・」

全員「はあ?」

祐子「・・・廊下は異常ありません!!」

ナレーション「それは、心の奥底から出た本当の言葉だった。決して校長をかばおうとか、説明するのがめんどくさかったとか、そういうのではない。もしかしたら、さっきまで死闘を演じていた勇者たちに敬意を評したかったのかもしれない」

祐子「五月雨を あつめて早し 最上川
ふふふふっ、意味不明」


――― 10円サッカー ―――

祐子「ようし! じゃあ、みおちゃんが審判ね」

みお「え? 10円サッカーに審判はいらないじゃん」

祐子「ちっちっちー。わかってないなー。こういうのは気分だよ、気分。さあ、キック・オフ!」

みお「しょうがないな」

祐子「どっからでもかかって来ーい!」

麻衣「じゃあ」


――― じゃんけん ―――

はかせ・なの「最初はグー! その次パー! グチョパは無しよ! ジャンケンポン!」

はかせ「さ・・・」

なの「ガブッ」

はかせ「サランヘヨ


――― なわとび ―――


――― 日常の25 ―――

なの(どうしよう・・・。ゴキブリ、捕まえちゃった! し、慎重に、とにかく慎重にいこう。この気持ちの悪い悪の権化を、二度とこの家にはびこらせないように、策を、最善の策を練らなきゃ。あっ! 殺虫スプレー! いや、だめ! 一撃必殺じゃないから、そのまま逃げられる可能性があるし、それに何より・・・あれがもがく様を見たくない! あっ、そうだ、洗剤は? 卓袱台のまわりに洗剤をまき散らして動きを封じてから、ピンポイントでやつを狙う! あっ! と、飛ぶーーっ!! 逃げ場をなくしたやつらは必ず飛ぶ。飛んだら最後、人をめがけて闇雲に突っ込んで来る。もしこれが体に、い、いや、顔なんかに当たったら! いや、ちょ、も、もし、く、口の中に、口の中にこれが入ってきたら・・・一発でロックンロール!! 最高のギグだ。なすすべがない! このお椀を上げた時点で選択肢が死か死ぬかのデス・オア・ダイ! あ、あれを、あれをやるしか・・・!)

阪本さん「ん? 何やってんだ?」

なの「あっ、さ、阪本さん! 助けてください。こ、この中に、ゴ、ゴキ、ゴキ・・・!」

阪本さん「何だ? ひょっとしてゴキブリか? しょうがねえなあ。よし、まかせろ」

なの「助かります」

阪本さん「おい」

なの「はい」

阪本さん「何やってるんだよ。捕ってやるから、お椀を上げろよ」

なの「はい?」

阪本さん「いや・・・だからお椀を持ち上げろよ。じゃないと捕れねえだろうが。おい!」

なの「な、何言ってるんですか! 私が悪の権化の封印を解くなんて! これはパンドラの箱なんですよ! 上げた時点でデス・オア・ダイです!」

阪本さん「いやいやいや! お椀を上げずにどうやって捕ればいいんだよ!」

なの「自分で上げてください!」

阪本さん「上げれるか!」


なの(ど、どうしよう。阪本さんはどっかへ行っちゃうし・・・)

はかせ「なのー。今日のおやつ、なーに?」

なの(あ、グッタイミーン! はかせも虫とか平気だからきっと・・・)「はかせ、こ、このお椀の中のゴキブリ、し、処理してもらえると助かるんですけど」

はかせ「いいよー」

なの(ロ・ロ・ロ・ロックンロール!)「す、すいません。じゃあ、お願いして」

はかせ「オーケーです。じゃあ一発でやっちゃうからね。めーん! あ、間違えちゃった」

なの(わ、私が。私がこんなに真剣に悩んでるのに、この人って人は、この人って人は・・・!)「もう、はかせなんて大嫌いです!」(あ、な、泣く?)「な、なーんて嘘ですよ。いやですね、もう。私がはかせを嫌いなわけ、ないじゃないですか。はかせ、大好きですよ」

はかせ「なーのー!」

なの「もう、はかせったら」

はかせ「なーのー!」

ナレーション「さあ! ロックンロールの始まりだ」


――― 10数えたら ―――

はかせ「ねえ、あっついから出ていーい?」

なの「えっ? いま入ったばっかりじゃないですか」

はかせ「でも、あっつくなったから」

なの「じゃあ10まで言ったら出ることにしましょうか」

はかせ「20log√10!」

なの「へっ?」

はかせ「10まで言ったから出ていーい?」

なの「え、えーと・・・、いーち、にーい、って言わなきゃだめです」

はかせ「ええー」


――― 囲碁サッカー部4 ―――

大工「何だよ。みんな塾だからって帰っちゃうしさ。関口だってつまんないよな? あれ? そういえば関口も塾行ってなかったっけ? ん? んん・・・。嘘っ!?」


――― 日常の26 ―――

祐子「うまっ!」

みお「ゆっこ、カレーどう?」

祐子「うん、もうすぐできるよ」

みお「もうかなりグーペコになってきたよ」

祐子「超あたしも」

みお「麻衣ちゃん、そっちはどう?」

麻衣「大物の予感」

祐子・みお「おおーっ」

みお「こりゃご馳走だな」

祐子「よーし、もういい感じだろう。いよっと。へい、お待ち。超美味、スーパーカレー、完成の巻なのだー。あああーーーーーーっ!! ああああ・・・」

みお「こっちはもうちょっとかかるかな。カレー作る前に仕込んどけばよかったね。ま、赤子泣いても蓋取るな、つってね」

祐子「あはははははははっ」

みお「あ、マヨネーズ持って来ればよかったよ。カレーにはマヨネーズだよね、やっぱ」

祐子「マ、マヨ、マ・・・」

みお「ゆっこは何派?」

祐子「ああああああ。あ、ああ、あ・・・。お、おえーーっ。何つって。あ、いや、ち、違くて。こ、これは、そういうんじゃなくて。まだ、ほ、ほら、ところてんもあるし、ところてん、何つっ・・・あ、ああ、ああああ」

みお「おーまーえーのー・・・」

祐子「み、みおちゃん・・・?」

みお「お前のー・・・、お前の血の色は何色だーーっ!! あっ、うっ・・・いやあああーーっ!!」

祐子「う? いやああああああああっ!!」

みお「いやああああああああーーーーっ!!・・・・・・」


みお「ごめん、麻衣ちゃん!」

祐子「昼食のカレーも米もなくなった!」

みお「麻衣ちゃん?」

祐子「ところてんならあるけど・・・」

みお・祐子「わあああっ、麻衣ちゃーーーん!」

麻衣「リリース」


祐子「さて、ここに一つのところてんがあります」

みお「1個だけなのーっ!?」

祐子「これをみんなで回して食べたいと思います。が、非は私とみおちゃんにありますので、まずは麻衣ちゃんからどうぞ」

祐子・みお「じゃんけんぽん!!」

祐子「よっしゃーーっ!」
みお「あーーっ!」

みお「一口で全部食べるなんて落ちだけはやめてよね!」

祐子「心外だなー、私も鬼じゃないんだから。そんじゃ、お先にいただきまーす。・・・むせちゃった」


祐子「そうだ! トランプやろうか?」

みお「やんない!」

祐子「このままだと、残念キャンプで終わるよ。最後の最後は、トランプして、ハッピーエンドで締めでしょう!」


みお「そうだ!」

祐子「おう、どったの?」

みお「すっかり忘れてた。大人はこういうときお酒を飲むじゃん」

祐子「そ、そうだね」

みお「ね、麻衣ちゃんもそう思わない? 実は私も持って来てたんだよね」

祐子「ま、まさか、みおちゃん・・・」

みお「ふっふっふ、そのまさかだよ」

祐子「悪だ! ここに悪がいる!」

みお「じゃーーーん!」

祐子「あああああ・・・」

みお「あああああ・・・。な、何ぼのもんじゃーーーいっ!」

祐子「みおちゃん、やめなよ! 死ぬよーーーっ! まだ麻衣ちゃんのがあるじゃん」

みお「あ・・・」

麻衣「これ、サイダー」


――― ヒトコトワドコトバ ―――

フロあがり 牛乳のんで 酔ったふり


――― 予告 ―――

「ペソでーす!」

「10円です!」

「和同開珎です」

「ノー、ノー! 人の価値はお金じゃないです!」

「次回の日常は第7話。お楽しみに」