serial experiments lain (Japanese) > 5. DISTORTION

女の声:
もし、それが聞こえているなら、それはあなたに語りかけている。
もし、それが見えるなら、それはあなたの・・・・



男の声:
人は最早進化をしない生き物ではないのか。
ガンの発生率が他の動物に比べて極めて少ない。
ネオテニーである人類は、最早進化出来ないとする学説がある。
もしそれが本当だとしたら、なんと愚劣な生き物に進化してしまったものだ。
自分達を動かしている力の事を知らず、ただ欲望を満たすだけの為に、肉体を維持している。
つまらないとは思わないか?
人間なんてそんなものでしかないんだ。
そんな惨めな人間でい続ける必要はないんだ。
抜け出すための出口だけは、人間はやっと生み出せたんだからね。

玲音:
何のこと?

男の声:
ネットワーク。
ワイヤードの事さ、玲音。

玲音:
あなたは誰?

男の声:
僕は神様だよ。



若い男:
何か食いにいく?

若い男:
ねー、腹減らねー?
(欠伸)

若い男:
な、今度プール行かねえかー?



美香:
あぁー・・・



玲音:
おはなしして?

玲音:
ねえ、ねえ!

玲音:
おはなし、して?

人形:
どんな話を聞きたいの、玲音ちゃん?

玲音:
うんと、うん・・・
あたしが知らないこと!

人形:
あなたが知らない事は存在しない事だわ。
存在しないお話なんて、あたしは出来ないよ。
分かってるでしょ?
じゃあ、こういうのはどうかしら。
出来事というのは、まず最初に預言があるものよ。
出来事は預言があって初めて現実化するの。

玲音:
だれ?
だれが預言をするの?



ニュースアナウンサー:
東京各地で、VTCZX、道路交通情報配信システムが間違ったデータを配信。
特に、渋滞している交差点などで信号機と乗用車トラックの自動走行プログラムが干渉しあい、暴走するなどの事故が多発しました。
東京渋谷では、死傷者が出るなどの被害が出ておりますが、情報庁では、既にシステムは復旧しており、今後こういう事故は起きないと話しています。



玲音:
あ・・・

美香:
あ・・・

タロウ:
あの・・・

美香:
え?

タロウ:
あのー・・・
ナンパして、いいっすか?

美香:
はあ・・・

タロウ:
あっ!

美香:
ああ!

タロウ:
やべえ・・・
またね!

美香:
ちょ、ちょっと!
むかつく・・・
ああ、もう、これじゃ染みになっちゃうよ

ティッシュ:
冥府は
溢れている
死者共は
行き場を
失うだろう

美香:
な、何よこれ!?
えんぎわるっ・・・


女の声①:
なーにあれ

女の声②:
やだー

男の声:
おかしいんじゃねえの?

玲音:
(つぶやき)

美香:
玲音?
何なの、あいつ?



仮面:
預言は実行されるんだ、玲音。

玲音:
それじゃ、預言じゃないじゃない。

仮面:
いや預言なんだ。
歴史と言うのは、リニアに流れている時間軸上にてただ点として通過されるものではないのだ。
それはすべて線で繋がっている。
いや、繋げさせられると言った方がいいかもしれない。

玲音:
誰に?
誰に繋げさせられているっていうの?



ありす:
玲音!

麗華:
あんた何やったのよ!

玲音:
え?

樹莉:
あたし知らなかった。玲音てば結構やるね

ありす:
もうそんなハッキーな事出来る様になってたんだ

玲音:
何の事?

麗華:
またとぼけんの?

玲音:
あたし、ほんとに・・・

ありす:
玲音がやったんじゃないの?

玲音:
何を?



ニュースアナウンサー:
昨日の午後、通信ネットワークに起こった異変は故意に引き起こされた可能性が高いとして、情報庁情報管理局が調査を始めました。
ネットワークは今や都市・・・・・



キャッシャー:
合計948円になります。
ちょうどいただきます。ごゆっくりどうぞ。

ありす:
あっ、また入ってるよ

麗華:
また?

樹莉:
何?

ありす:
スパムよ。無差別メール。
しつこいんだこれ。

麗華:
預言を実行せよ、だっけ。

樹莉:
どっかの邪教集団の宣戦布告とか?

ありす:
ちょっとこないだ、ワイヤードで知り合ったギークなのこと話してて聞いたんだけど。
これを流してるなんてナイツかもって。

麗華:
ナイツ?

樹莉:
何それ?

ありす:
すごいハッカー達の集団みたいな。

麗華:
でもさ、ハッカーって連まないんじゃないの?普通・・・

ありす:
だよね。でも、ナイツはだから、集団っていうのも違うのかもしれない。
ただ、ワイヤードの中ではすごい力を持っていて影で色々やってるっていう。

樹莉:
じゃ、やっぱし秘密結社じゃない。

麗華:
ったく、こんなことやってて面白いのかな?

ありす:
なんとなく、だけど・・・

樹莉:
え?

ありす:
面白いのとか、お金の為とかじゃない気がする。



母:
ワイヤードはリアルワルドの上位階層と見るのは適当です。
即ち肉体の現実などワイヤードに流れる情報のホログラムでしかありません。

玲音:
ママ?

母:
そもそも肉体、人間の脳の活動はシナプスの電気伝達によって引き起こされている、極めて物理的な現象に過ぎませんからね。

玲音:
あたしは・・・

母:
肉体の存在理由はそうやって自己の存在を確認する為にあるだけ。

玲音:
あなたはあたしの本当のママ?
ね・・・



美香:
玲音・・・

玲音:
え?

美香:
この前さ、渋谷にいなかった?

美香:
いい、別に。




キャッシャー:
ありがとうございました!

女の子①:
ね、あの子さ、結構いきってると思わない?

女の子②:
ね、ね、この前彼とどうだったの?

女の子①:
教えてよー、いいじゃん!

コーヒー:
預言を
実行せよ

美香:
な、何よ、預言って!

美香:
なんだっていうのよ・・・
いつもだったら、パパやママ――
も、もう・・・
ど、どうして?
だ、誰か、いるの?
ね、いるんでしょう・・・

個室ドア:
預言を実行せよ



玲音:
あなたは本当のあたしのパパ?

父:
ワイヤードに流れているのは、単に電気的な情報だけではないのかもしれない。

玲音:
え?

父:
ワイヤードが形成されたのが、電気や電話などの発達を起源とするなら、その時点でもう一つの世界が生まれていたのではないかという気がしてならない。

玲音:
あの・・・

父:
このリアルワルドに神という存在は概念でしか存在しない。しかし、ワイヤードなら、ゼウス的存在が具現し得るのではないか。

玲音:
神様?

父:
神と呼ぶのが適当かどうかは分からない。
少なくとも、神話に登場する、それと同様の支配的な力を有していると思う。

玲音:
あたし、神様と話した事があるかもしれない。

父:
ワイヤードのゼウスは、その支配力を事に依ったら既にこのリアルワルドにも及ぼしている可能性だってある。
そう、預言という形で。

玲音:
預言?


玲音:
どうしたの?

美香:
別に・・・なんでもないよ。



玲音:
今日は誰?