Eden of The East(Japanese)>06. 東のエデン

黒羽 「貴方もジョニーとお別れね……。あそこで出会ったのが運の尽き」

黒羽 「もしもし? 私いま取り込み中なんだけど……ハァ……わかった」

黒羽 「一旦休憩。私が戻るまでひとりで慙愧してなさい」



6話
東のエデン



滝沢 「ここでいいの?」

咲 「ありがとう」

滝沢 「このまま一緒に行っちゃってもいいんだよ?」

咲 「うん。でも、今日は帰る」

滝沢 「そっか。じゃあ、みんなも一緒に連れてきなよ。待ってるから」


朝子 「はい、森美です。……咲なの?! 早く帰ってらっしゃい」

咲 「ダメ……良介兄さんと顔合わせらんないよ」

朝子 「別に良介も怒ってないから」

咲 「……とにかく今は帰りたくないの」

朝子 「なに言ってんの? だいたい今どこにいるのよ?」

咲 「みっちょんとこ。しばらく泊めてもらうから心配しないで」

朝子 「ダメよ、すぐ帰ってきなさい!」

咲 「ごめん、また連絡入れるから」

良介 「行方不明ってわけでもないんだから、しばらくそっとしといてやろう」

朝子 「もう、良介は甘いなぁ」


咲 「はぁ……大杉君にも謝っとかなきゃ」

みっちょん 「何してんの? そこで」

咲 「あっ……着替え、貸してくんないっ?」


咲 「やっぱり怪しいかな? この話……」

平澤 「これを怪しいと言わずしてなんと言う!……ここはひとまず家に帰るべきだろう。そもそも、滝沢なる人物の話自体、信じがたいというのに。第一、そのジャージもどうかと思うぞ」

みっちょん 「別にいいじゃん。咲は何着ても似合ってるし。それに、その滝沢って人の話、案外おもしろいと思うけど」

平澤 「本気か?」

みっちょん 「確かに、荒唐無稽ではあるけど、咲が同棲するしないってだけの話でもないわけでしょ? サークルの行く末も、このままじゃドン詰まりなわけだし」

おネエ 「そうねえ」

平澤 「何ということだ……我がサークルの看板娘ばかりか、優秀なスタッフ一同が一斉にそんな得体の知れない輩に興味を示すとは。卒業旅行からこっち、一体何があったんだ? 大杉をはじめとする、常に下半身に血流をたぎらせし春先ジョニーどものアプローチを、四年間、ひらりひらりとかわし続けてきた歴戦の乙女の名にふさわしい行動とは思えんぞ! もしや、何か特別なことでもあったのか?!」

咲 「……ううん」

みっちょん 「血流はともかく、一臣だって、起業に成功してれば、是が非でも咲をここに留めておきたかったわけでしょ?」

おネエ 「そうねえ。まあ、平澤の唯一の弱点である、リーダーシップの欠如を咲が補っていたからこそのエデンだったわけだから」

平澤 「待て待て。俺の問題点をあげつらうのは構わんが、俺とその滝沢なる人物の言っていることでは、雲泥の差があるとは思わんか? 一時的撤退に追い込まれているとはいえ、起業の計画は着々と進んでいるのに対し、服もなく、記憶もなく、身寄りも、仕事も、自分の好きな映画さえも思い出せない、ないない尽くしと言っていることが同じとは、聞き捨てならんな」

おネエ 「かわいそうな子……自前の.44マグナムは、今も冷たい風に吹かれたままかしら?」

平澤 「そんな話は聞いていないッ!」

春日 「あのー……。平澤さん、僕がここで聞いていた限りでは、その滝沢って御仁、平澤さんが言うほどどうしょもない人物ではないように思うんです。森美先輩に対しても、常に紳士的で包容力があり、おまけに行動力もある。家はショッピングモールで資産もお持ちのようですし、何より、犬を飼っている人に悪人はいません」

平澤 「私見はいらんッ!」

春日 「失礼」

みっちょん 「ここでああだこうだ言ってもしょうがないよ。実際どんな人か、会いに行ってみない?」

おネエ 「賛成~! 百聞は一見に如かず。行って品定めしましょう」

平澤 「……一理あるが、万が一ということもある。正面から行かず、まずはコッソリ調査してみよう」

おネエ 「なーにそれ、超消極的」

平澤 「慎重と言ってくれたまえ! 咲はどうなんだ?」

咲 「私も……それでいいよ。あの時は滝沢君のこと、全部信じられるかもって思ったけど、やっぱり怖い気持ちもある。だから、みんなで一緒に行こう」

平澤 「……うん。俺は車を取ってくる。30分後に出発だ」

春日 「平澤さん。実は昨夜、大杉先輩に高級ディナーをおごってもらったんですが、その時は気づかなかったものの、森美先輩の話を聞いて、腑に落ちることがありました。あれ、ホントは森美先輩と食べるはずの食事だったんですね……」

平澤 「何だと!? なぜそれを早く言わん?!」

春日 「こんな話、森美先輩の前で言えませんよ。それに、あの時の様子からして、大杉さん、間違いなく滝沢なる御仁と森美先輩が一緒にいたところを目撃しています」

平澤 「……で、その後大杉は?」

春日 「泥酔したまま、夜の闇に消えました。森美先輩ですら連絡がつかないようですし、どうしましょう? この重大事に大杉先輩を仲間外れにするなんてことは僕には考えられませんよ!」

平澤 「確かに……就活で一抜けしたとはいえ、あいつも大切な創立メンバーだしな。だが、これは咲をエデンに残す千載一遇のチャンスでもある。お前は大杉を探し出し、とりあえず部室に留めておけ」

春日 「わかりました」


平澤 「……ここが家とは。他に入り口はないのか?」

咲 「浮浪者が入ってなかったくらいだから、ないと思う」

平澤 「罠かも知れんというのに……仕方ないな」


おネエ 「咲~、ひょっとしてこれ、玉の輿じゃな~い?」

平澤 「この辺は迂闊な月曜日の後、住宅価格も大幅に下落したからなあ」

おネエ 「あーら、ミサイル落ちた後購入したとは限らないんじゃない?」

平澤 「……」

おネエ 「ねえちょっと、大変! 宝の山よ~! ねえ、ほらほらほら見て見てほらほら!」

おネエ&咲 「かわいい~」

平澤 「勝手にいじって面倒を起こすんじゃないぞ」

おネエ 「ありがとう~」

咲 「帰ってはいるみたい」

咲 「この上のVIPルームが滝沢くんの部屋だよ」

おネエ 「ここまで来たんだから、代表として挨拶してきたら?」

平澤 「……御免!」

おネエ 「どうしたの?」

咲 「滝沢くんは?」

平澤 「いない! だが我々は、滝沢なる人物に初めから監視されていたんだ! 今のうちにここを脱出しよう! やはり得体の知れない奴とは関わらん方がいい!」

滝沢 「得体の知れない奴って?」

平澤 「滝沢なる人物に決まってるだろうが! ひぃっ」

滝沢 「よっ! ようこそいらっしゃい。歓迎するよ」

おネエ 「や~だ~、羽が生えてるこの子。か~わいい~」


おネエ 「本物だわ、ここの権利書」

滝沢 「俺も今日見つけたんだけどさ」

平澤 「貴方の仰ることは大体わかったが、そもそもなぜ我々を支援しようという考えに至ったのですか? それ以前に、貴方は咲をどうしようというのか」

滝沢 「どうするも何も、いきなり牛丼掛けるようなオッサンたちのために働く必要はないって思っただけさ。咲だけじゃなく、日本中がニート化すれば、状況はひっくり返るでしょ? 上がりを決め込んだオッサンたちの方が、泡食って頭を下げてくるって」

平澤 「……とてもまともとは思えない」

滝沢 「なんで? あんただって、同じようなこと考えたんじゃないの? 見たよ、東のエデン。これってよくできてんね。画像検索エンジンっつーの? さっきもその豆柴登録してみたんだけど、どの角度から撮ってもコイツだって認識するのな」

平澤 「プログラムを書いたのは彼女だけどね」

滝沢 「そうなんだ? 頭いいね、みったん」

みっちょん 「……」

おネエ 「仲間内じゃ毒舌なのに、知らない人の前だといつもこうなっちゃうの。小さいころから従兄の平澤としか遊んでこなかったから」

滝沢 「ふーん。かわいいね」

みっちょん 「み、みったん……ちがう」

滝沢 「サイトに登録さえすれば、どの携帯にも応用が利く。おもしれーよ、これ」

滝沢 「咲から聞いたよ。これだけの発明をやってのけりゃ、一気に起業って話も、まんざらでもなかったろうに。なんで上手いこといかなかったんだ?」


黒羽 「結局私が処理するなら貴女いらないんだけど?」

秘書 「も、申し訳ございません!」

黒羽 「まったく……遠いわ。色んなことが」

黒羽 「ジュイス?」

Juiz 「はい、ジュイスです」

黒羽 「フランス語と広東語の堪能な秘書がひとり、大至急必要なんだけど」

Juiz 「……受理されました。ノブレス・オブリージュ。一番働く社長が独創的な救世主であらんことを切に願います――」

黒羽 「貴女、明日から来なくていいわ」

秘書 「えっ?……今日の白鳥社長、黒いですね」


平澤 「一言でいえば、どんなサイトや掲示板でも起こり得る、ちょっとしたトラブルが発生してしまったってだけの話さ。それで女子学生がひとり、退学の憂き目に遭い、大学側からの調査が入った」

おネエ 「あっ、どう? いいと思うんだけど~。こっちどう、こっちこっち」

平澤 「スタート時は小さなリサイクルコミュだったわけだが、画像認識エンジンの開発により、ガラクタ同然の物までが貴重な商品に変わったんだ。咲が他人には思いもつかない新しい価値を画像に書き込んでいったおかげでね。その後は会員同士がそれを真似して、いつしか学生そのものがエデンに登録されるようになり、結果、恋人探しのツールとしてもエデンは重宝がられていった」

滝沢 「それでさっきのトラブルか」

平澤 「ああ。そんなこんなで、メンバーのひとりが就活で脱退。咲には俺たちも知らない何らかの事情があって、どうしても家を出なきゃならなかったのに。まったく不甲斐ないよ」

平澤 「みんな、帰るぞ」

おネエ 「なんでー? たっくんとの話、まとまらなかったの?」

平澤 「俺はニートではあるが、凄腕のニートを自負してきた。咲やみっちょんのような特殊技能は持っていないから、経営や法律を学び、凄腕ニートをバックアップできる凄腕になろうとやってきた」

滝沢 「なったじゃねえか」

平澤 「あと一歩のところまではね」

おネエ 「だったら何にこだわってんの?」

平澤 「東のエデンはニートの楽園だ。ニートでない者の手は借りたくない。……持たざる者の、持てる者への嫉妬――と思ってくれ」

滝沢 「なるほど。わかるよ。わかんないけど」

平澤 「何だッ、それは?」

滝沢 「俺にも、記憶がないなりに、人には言えないややこしい悩みがあってさ。むしろ、助けてほしいのは俺の方なんだ。どうだろう、今は事情を説明できねえんだけど、持てる者の義務ってヤツを果たす手伝いをしてくれない? 資金提供は、その報酬ってことでさ」

咲 「平澤くん、お願い! 私も覚悟決めるから。私もみんなとエデンの運営に参加する!」

おネエ 「決まりじゃない、平澤。咲のことが一番のわだかまりだったんでしょ? あと何に悩むの?」

平澤 「結局また、咲に助けてもらうわけか……」

滝沢 「いいじゃねえか、そんなこと。何となく、持ちつ持たれつでいこうぜ」

平澤 「あんたを全面的に信じたわけじゃあないけど、今は握手させてもらうよ、滝沢さん。いや、つうかもう、滝沢と呼ばしてもらうけど」

滝沢 「いいよ。ここをニートの楽園にしようぜ」

おネエ 「やった~! これで決まりね~」

咲 「滝沢くん、ありがとう。あたしだけじゃなくて、みんなも助けてくれて」

滝沢 「別に。俺、平澤みたいに人のために頑張ってる奴が大好きだからさ」

咲 「あの……ひとつ聞いていい?」

滝沢 「ん?」

咲 「あの時、何でうちに来いって言ってくれたの? あの時はまだ、みんなの話、してなかったじゃない?」

滝沢 「聞きたいの?」

咲 「……えっ」

滝沢 「着替え探してたんだろう? なら、こんなの似合うんじゃね?」


平澤 「みっちょんが初対面の男と、楽しげに遊んでいる……」

おネエ 「遊んでるっていうより、いじられてるって感じだけど」

滝沢 「ほらほら! もっとしっかり差し込まないとすぐにひっくり返っちゃうぞ、みったん」

みっちょん 「そんなに上手くできないよ。それに、みったんじゃないし」

滝沢 「おーい! みんな、出てこいよ!」

咲 「何を仕掛けてたの?」

滝沢 「よし、いくぞ~」

滝沢 「あははは! みったんは臆病だなあ!」

豆柴 「ワン! ワン!」

みっちょん 「みったん、ちがう……」


平澤 「もしもし? おお、春日か。大杉は見つかったか?」

春日 「それが……見つかったような、見つからないような感じでして」

平澤 「何? どういうことだ?」

春日 「はい。実は大杉さん、例のジョニー狩りに遭遇した可能性があるんです」

平澤 「ジョニー狩り?」

春日 「大杉さん探すのにネット漁っていたら、とある掲示板で興味深い書き込みを見つけたんです」

平澤 「ネットで大杉を探してどうする!?」

春日 「そうなんですけど……怪しい女に監禁されたという男が、18時間ほど前から助けを求める書き込みを断続的に続けているんです。警察こそ動いていないようなんですけど、ネットでは結構な騒ぎになっていまして、これがどう考えても大杉さんとしか思えないんです」

平澤 「……掲示板のURLを送ってみろ」

春日 「はい。ジョニー狩りの被害者は既に二万人にも及んでいるという噂ですし、大杉さんがその二万人に含まれたっておかしくはありませんよ!」

平澤 「……わかった」


キャスト

滝沢 朗
森美 咲
Juiz
大杉 智
平澤 一臣
葛原 みくる
おネエ
春日 晴男
白鳥・ダイアナ・黒羽
森美 良介
森美 朝子
秘書