Haruhi(Japanese)>04. 涼宮ハルヒの憂鬱 Ⅳ
朝倉:
大丈夫?保健室行こうか?
キョン:
ん?
朝倉:
おはよう。
何だか調子が悪そうなの。
お願いね。
キョン:
昨日はどうして来なかったんだよ?
反省会をするんじゃなかったのか?
ハルヒ:
うるさいわね。
反省会なら一人でしてたわよ。
キョン:
聞けばハルヒは、土曜に三人で歩いたコースを、
昨日学校がひけたあとで、一人で回っていたのだという。
ハルヒ:
暑いし疲れた。
衣替えはいつからなのかしら。
早く夏服に着替えたいわ。
キョン:
涼宮。
前にも言ったかも知れないけどさ、
見つけることもできない謎探しはすっぱりやめて、
普通の高校生らしい遊びを開拓してみたらどうだ?
ハルヒ:
高校生らしい遊びって何よ?
キョン:
いい男でも見つけて、市内の散策ならそいつとやれよ。
デートにもなって一石二鳥だろうが。
ハルヒ:
ふーんだ。
男なんてどうでもいいわ。
恋愛感情なんてのはね、
一時の気の迷いよ。精神病の一種なのよ。
私だってね、たまにだけどそんな気分になったりするわよ。
そりゃあ健康な若い女なんだし、体を持て余したりもするわ。
でもね、一時の気の迷いで
面倒事を背負い込むほどのバカじゃないのよ私は。
それに私が男漁りに精出すようになったら、SOS団はどうなるの?
まだ作ったばかりなのに。
キョン:
何か適当なお遊びサークルにすればいい。
そうすりゃあ人も集まるぞ。
ハルヒ:
いやよ。
そんなのつまらないからSOS団を作ったのに。
萌えキャラと謎の転校生も入部させたのに、
何も起こらないのはなぜなのよ?
ああ、パーッと事件の一つでも発生しないかな~。
朝倉:
物騒なこと言わないでよね。
でもそうね、
毎日の生活が楽しい方向に変わるような事件だったら、
ちょっと素敵かもね。
キョン:
こんなに参ってるハルヒを見るのも初めてだが、
弱気になってる顔は割り合い可愛かった。
朝倉:
涼宮さん、恋煩いでもしてるのかしら。
キョン:
それはない。
涼宮が思い立ったように恋したり、
涼宮の望んだようなパーッとした事件なんざ、
そうそうあってはならないんだよ、この世で。
しかし、パーッとした事件の方は、この時ひそかに始まっていたのだ。
キョン:
朝、ハルヒに話しかけながら、俺は一つの懸案事項を抱えていた。
キョン:
前にも同じようなことが、あったよな。
キョン:
よー!
だが、これは長門の字とは明らかに違う。
それに長門なら下駄箱にメッセージを入れるなんて素直な手は使わないだろう。
朝比奈さんってセンはないか?
それもどうかと思う。あの人が千切った小さなメモ用紙に、こんな時間指定もない伝言をよこすとは思えない。
ハルヒ:
暑いわね!
キョン:
ハルヒなら?
ますますありえん。
こいつならいつかのように階段の踊り場まで強引に引っ張っていって話をつけるだろう。
似たような理由で古泉説も却下。
ハルヒ:
クーラーが欲しいわね、この部屋。
キョン:
そもそも、ラブレターかどうかも怪しいが、呼び出しを告げる連絡文書であることは確かだ。
いやいや、谷口と国木田あたりのとびきりのジョークかもしれないぜ。
そうだな、その可能性が最も理解しやすい。
が、だったらもっとディテールに凝るような気もするのだが。
キョン:
って、そりゃ何だ?
ハルヒ:
何って写真よ。
ミクルちゃんの悩殺写真。
キョン:
そんな物は見りゃ分かる。
それをどうする気だ。
ハルヒ:
うちのサイトのトップページに貼り付けんのよ。
これで世の中不思議メールもジャンジャン来るわ。
アクセス数も、あーっという間に万単位で大回転よ。
カウンターの桁足りるかしらね?
えっ、ちょっと。
あー、何すんのよアホキョン。
キョン:
バカなことは止めろ。
自分がメイド服で悩殺ポーズを取っているようなあられもない画像が全世界に発信されるなんてことになれば、朝比奈さんはその場で卒倒するに相違ない。
珍しく熱心に説教する俺をハルヒはじとっとした目でみやっていたが、ネットに個人を特定できるような情報を流すことの危険性を解説する俺の言葉をどうにか理解したのか・・・
ハルヒ:
分かったわよ。
キョン:
渋々デリートに同意した。
この際だから、画像そのものを全て消去すべきだったのかもしれないが、それはちょっと惜しい。
今だ!
ハルヒ:
うんっ! 今日は、もう帰る。
みくる:
ふぁ! ごめんなさい。
あ、あー!
どうしたんですか?
キョン:
何でもありませんよ。
悪の陰謀は潰え去りました。
キョン:
することもないので、朝比奈さんとオセロをしていると小泉がやってきた、いつもの笑顔で。
小泉:
バイトがありますんで、お先に失礼します。
キョン:
いったい何のバイトなんだかな?
みくる:
着替えるから先に帰ってて。
キョン:
という朝比奈さんのお言葉に甘えて、俺は部室を飛び出した。
キョン:
そこにいた人物を目にして俺はかなり意表をつかれた。
朝倉:
入ったら?
キョン:
お前か。
朝倉:
そ。意外でしょ。
キョン:
何の用だ?
朝倉:
用があるのは確かなんだけどね。
ちょっと訊きたいことがあるの。
涼宮さんのことね、どう思ってる?
キョン:
やれやれ、こいつも涼宮か。
朝倉:
人間はさあ、よく「やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい」って言うよね。
これはどう思う?
キョン:
よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ。
朝倉:
じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき、あなたならどうする?
キョン:
なんだそりゃ、日本の経済の話か?
朝倉:
とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない。
どうせ今のままでは何も変わらないんだし。
キョン:
まあ、そういうこともあるかもしれん。
朝倉:
でしょ?
うんっ、でもね、上の方にいる人は頭が固くて、ついていけないの。
でも現場はそうもしてられない。
手をこまねいていたらどんどん良くないことになりそうだから。
だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?
キョン:
何を言おうとしているんだ?
ドッキリか?
掃除用具入れにでも谷口が隠れているのか?
朝倉:
何も変化しない観察対象に、あたしはもう飽き飽きしてるのね。
だから、あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
キョン:
何だ何だ。
何なんだ。
いや、待て。
この状況は何だ?
なんで俺が朝倉にナイフを突きつけられねばならんのか。
待て待て、朝倉は何と言った。
俺を殺す?
ホワイ、なぜ?
キョン:
冗談はやめろ。マジ危ないって!
それが本物じゃなかったとしてもビビるって。
朝倉:
冗談だと思う?
ふーん
死ぬのっていや?
殺されたくない?
わたしには有機生命体の死の概念がよく理解出来ないんだけど。
キョン:
意味が解らないし、笑えない。
いいからその危なかっしいのをどっかに置いてくれ。
朝倉:
うふっ、それ無理。
だって、わたしは本当にあなたに死んで欲しいんだもの。
朝倉:
無駄なの。
今この空間は、わたしの情報制御下にある。
出ることも入ることも出来ない。
キョン:
もう全く訳が分からない。
分かるやつがいたらここに来い。
そして、俺に説明しろ。
朝倉:
ねえ、あきらめてよ。
結果はどうせ同じなんだしさ。
キョン:
何者なんだ、お前は?
朝倉:
無駄! 言ったでしょう、今この教室はすべてあたしの意のままに動くって。
キョン:
待て待て待て。
何なんだこれは。
俺を殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
またハルヒか。人気者だな、ハルヒ。
ってか。どうして俺が死ななきゃならんのだ?
朝倉:
最初からこうしておけばよかった。
キョン:
うあ、体が動かねえ。
アリかよ! 反則だ。
朝倉:
あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
多分、大きな情報爆発が観測できるはず。
またとない機会だわ。
キョン:
知らねえよ!
朝倉:
じゃあ死んで。
キョン:
痛えなこの野郎!
って、あれ、体が動く。
キョン:
長門!
長門:
一つ一つのプログラムが甘い。
側面部の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。
だからわたしに気づかれる。
侵入を許す。
朝倉:
邪魔する気?
この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。
これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ。
長門:
あなたはわたしのバックアップのはず。
独断専行は許可されていない。
わたしに従うべき。
朝倉:
いやだと言ったら?
長門:
情報結合を解除する。
朝倉:
やってみる?
ここでは、わたしのほうが有利よ。
この教室はわたしの情報制御空間。
長門:
情報結合の解除を申請する。
キョン:
この時、ああ、この二人本当に人間じゃないみたいだな、と俺は思った。
長門:
離れないで。
キョン:
うわっ!
朝倉:
この空間ではわたしには勝てないわ。
長門:
パーソナルネーム朝倉涼子を敵性と判定。
当該対象の有機情報連結を解除する。
朝倉:
あなたの機能停止のほうが早いわ。
キョン:
なにす・・・
朝倉:
そいつを守りながら、いつまで持つかしら。
キョン:
ああー! 長門!
長門:
あなたは動かなくていい。
へいき。
キョン:
いや、ちっとも平気には見えねえって。
朝倉:
それだけダメージを受けたら他の情報に干渉する余裕はないでしょ?
じゃ、とどめね。
死になさい。
長門:
終わった!
朝倉:
何のこと?
あなたの三年あまりの人生が?
長門:
ちがう。
情報連結解除、開始。
朝倉:
そんな・・・
長門:
あなたはとても優秀。
だからこの空間プログラムを割り込ませるのに今までかかった。
でももう終わり。
朝倉:
侵入する前に崩壊因子を仕込んでおいたのね。
どうりで、あなたが弱すぎると思った。
あらかじめ攻性情報を使い果たしていたわけね・・・
あーあ、残念。
しょせんわたしはバックアップだったかあ。
膠着状態をどうにかするいいチャンスだと思ったのにな。
わたしの負け。
よかったね、延命出来て。
でも気を付けてね。
統合思念体は、この通り、相反する意識をいくつも持っているの。
いつかまた、わたしみたいな急進派が来るかもしれない。
それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない。
それまで、涼宮さんとお幸せに。
じゃあね!
キョン:
おい! 長門、しっかりしろ、今救急車を・・・
長門:
いい! 肉体の損傷はたいしたことない。
正常化しないといけないのは、まずこの空間。
不純物を取り除いて、教室を再構成する。
キョン:
本当にだいじょうぶなのか?
長門:
処理能力を情報の操作と改変に回したから、このインターフェイスの再生は後回し。
今やっている。
あ! 眼鏡の再構成を忘れた。
キョン:
してないほうが可愛いいと思うぞ。俺には眼鏡属性ないし。
長門:
眼鏡属性って何?
キョン:
何でもない。ただの妄言だ。
長門:
そう
谷口:
ういーす!
わわわわ、忘れ物ー
ぬわっ!
キョン:
父さん、この静止画をみたら、逆に押し倒そうとしているとも思えなくもない体勢なわけでして。
谷口:
すまん! ごゆっくりー!
長門:
面白い人
キョン:
はははは、どうすっかなー
長門:
まかせて、情報操作は得意。朝倉涼子は転校したことにする。
キョン:
そっちかよ!
などとツッコンでいる場合ではない。
よく考えたら俺はとんでもない体験をしてしまったんじゃないか?
この前、長門が延々と語ったデンパ話、トンチキな妄想語りを信じるとか信じないとかいう問題ではない。
さっきの出来事は本気のヤバさとは何かを俺に実感させてくれた。
マジでくたばる5秒前。
これじゃ、長門が宇宙人か何かの関係者であることを納得せざるを得ないではないか。
キョン:
翌日、クラスに朝倉涼子の姿はなかった。
岡部担任:
あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった。
複数のクラスメート:
ふぉわー? えーっ?
ハルヒ:
あー! キョン、これは事件だわ。
キョン:
すっかり元気を取り戻した涼宮ハルヒが目を輝かせていた。
どうする? 本当のことを言うか?
言えるわけねえ。
つーか俺が言いたくない。
あれはすべて俺の幻覚だったと思っていたいくらいなのに。
ハルヒ:
謎の転校生が来たと思ったら、今度は理由も告げずに転校していく女子までいたのよ。
これは調査の必要ありね。
キョン:
これ以上、余計な仕事を増やさないで欲しい。
そうでなくとも、俺はまたまた懸案事項を抱えているんだからな。
ハルヒ:
あっ、何それ?
キョン:
何でもない。
キョン:
その懸案事項は封筒の形をして昨日に引き続き俺の下駄箱に入っていた。
なんだろう、下駄箱に手紙を入れるのが最近の流行なのか?
しかし今度のブツは一味違うぞ。
キョン:
ほいさと出かけて行って、また生命の危機に直面するのは御免こうむりたい。
しかしここで行かないわけにはいくまい。
誰あろう、朝比奈さんの呼び出しである。
この手紙の主が朝比奈さんであると断言する根拠はないが、俺はさっぱり疑わなかった。
いかにもこんな回りくどいことをしそうな人だし、可愛らしいレターセットにいそいそとペンを走らせている光景はまさしく彼女に似つかわしいじゃないか。
それに昼休みの部室なら、長門もいるだろうし。
まっ、何とかなるさ。
みくる(大):
あ、はーい!
キョンくん。
久しぶり!
キョン:
朝比奈さんにとてもよく似ている。
でも、それは朝比奈さんではなかった。
キョン:
あの、朝比奈さんのお姉さんですか?
みくる(大):
うふ、わたしはわたし。
朝比奈みくる本人です。
ただし、あなたの知っているわたしより、もっと未来から来ました。
会いたかった。
あ、信用してないでしょ?
証拠を見せてあげる。
ほら、ここに星形のホクロがあるでしょう?
付けボクロじゃないよ。触ってみる?
キョン:
特盛っ!
みくる(大):
これで信じた?
キョン:
信じる信じないも、俺は朝比奈さんのホクロの位置なんか覚えちゃいない。
そんな際どい部分まで見ることが出来たのは、バニーガールのコスプレをしていた時と、不可抗力で着替えを覗いてしまった時くらいだが、どっちにしたってそこまで細かいところを観察などしていない。
みくる(大):
あれ? でもここにホクロがあるって言ったのキョンくんだったじゃない。
わたし、自分でも気づいていなかったのに。
あっ! あ、やだ! 今、ああ、そうか。この時はまだ。
うわっ、どうしよう。
わたし、とんでもない勘違いを、ごめんなさい!
今の忘れて下さい!
キョン:
そう言われてもなあ。
解りました。
とにかく信じますから。
今の俺はたいていのことは信じてしまえるような性格を獲得したので。
あれ、そしたら今、二人の朝比奈さんがこの時代にはいるってことですか?
みくる(大):
あっ、はい。
過去の、わたしから見れば過去のわたしは、現在教室でクラスメイトたちとお弁当中です。
あなたに一つだけ言いたいことがあって、無理を言ってまたこの時間に来させてもらったの。
あ、長門さんには席を外してもらいました。
キョン:
朝比奈さんは長門のことを知ってるんですか?
みくる(大):
すみません。
禁則事項です。
あ、これ言うのも久しぶりですね。
キョン:
俺は先日聞いたばかりですが。
みくる(大):
あ、うふっ。
あまりこの時間にとどまれないの。だから手短に言います。
白雪姫って、知ってます?
キョン:
そりゃ知ってますけど・・・
みくる(大):
これからあなたが何か困った状態に置かれたとき、その言葉を思い出して欲しいんです。
キョン:
七人の小人とか魔女とか毒リンゴとかの、あれですか?
みくる(大):
そうです。白雪姫の物語を。
キョン:
困った状態なら昨日あったばかりですが・・・
みくる(大):
それではないんです。
もっと、そうですね。
詳しくは言えないけど、その時、あなたの側には涼宮さんもいるはずです。
キョン:
おおっ! 俺と? ハルヒが?
いつ、どこで?
みくる(大):
涼宮さんはそれを困った状況とは考えないかもしれませんが、あなただけじゃなくて、わたしたち全員にとって、それは困ることなんです。
キョン:
詳しく教えてもらうわけには、いかないんでしょうね?
みくる(大):
ごめんなさい。
でもヒントだけでもと思って。
これがわたしの精一杯。
キョン:
それが白雪姫なんですか?
みくる(大):
ええ
キョン:
覚えておきますよ。
みくる(大):
うふっ! あー!
あっ!
よくこんなの着れたなあ、わたし。いまなら絶対ムリ。
キョン:
ハルヒには他にどんな衣装を着せられたんです?
みくる(大):
内緒。恥ずかしいもん。
それに、そのうち解るでしょう?
じゃあ、もう行きます。
最後にもう一つだけ。
わたしとはあまり仲良くしないで。
キョン:
あっ! 俺にも一つ教えてください!
朝比奈さん、今、歳いくつ?
みくる(大):
うふっ! 禁則事項です。
キョン:
それは、まるで見る者すべてを恋に落としそうな笑顔だった。
みくる(大):
久しぶり!
キョン:
つまり、今、高校生をやっている朝比奈さんは、遠からず元々いた時代に戻ってしまうということだ。
いったい彼女にとってどれくらいの時間が経過していたのだろうか?
あの成長ぶりから見ると、五年、三年くらいか?
女ってのは高校を出ると劇的に変化するからな。
腹が減った。教室に帰ろう。
やれやれだ。
キョン:
よお、来るとき朝比奈さんに良く似た人とすれ違わなかったか?
長門:
朝比奈みくるの異時間同位体。
朝に会った。
キョン:
ひょっとしてお前も時間移動とか出来るのか?
その情報ナントカ体も?
長門:
わたしには出来ない。
でも時間移動はそんなに難しいことではない。
キョン:
コツを教えてもらいたいね。
長門:
言語では概念を説明できないし理解も出来ない。
キョン:
そうかい
長門:
そう
キョン:
そりゃ、しょうがないな。
長門:
ない
キョン:
長門、昨日はありがとよ。
長門:
お礼ならいい。
朝倉涼子の異常動作はこっちの責任。
不手際。
キョン:
やっぱり眼鏡はないほうがいいぞ。
ハルヒ:
どこ行ってたのよ! すぐ帰ってくると思ってご飯食べないで待ってたのに!
キョン:
そのセリフ、幼馴染みが照れ隠しで怒っている感じで頼む。
ハルヒ:
アホなこと言ってないで、ちょっとこっち来て!
ハルヒ:
さっき職員室で岡部に聞いたんだけどね、朝倉の転校って朝になるまで誰も知らなかったみたいなのよ。
朝イチで朝倉の父親を名乗る男から電話があって急に引っ越すことになったからって、それもどこだと思う?
カナダよカナダ。そんなのあり?
胡散臭すぎるわよ!
キョン:
そうかい。
ハルヒ:
それでわたし、カナダの連絡先を教えてくれって言ったのよ。
そしたらどうよ、それすら解らないって言うのよ?
普通引っ越し先くらい伝えるでしょ。
これは何かあるに違いないわ!
キョン:
ねえよ!
ハルヒ:
せっかくだから引っ越し前の朝倉の住所を訊いてきた。
学校が終わったら、その足で行くことにするわ。
何か解るかもしれない。
キョン:
相変わらず人の話を聞かない奴だ。
ま、別に止めないことにする。
無駄骨を折るのはハルヒであって、俺ではない。
ハルヒ:
あんたも行くのよ!
キョン:
なんで? ぬあーっ!
ハルヒ:
あんたそれでもSOS団の一員なの!
ふんっ!
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大丈夫?保健室行こうか?
キョン:
ん?
朝倉:
おはよう。
何だか調子が悪そうなの。
お願いね。
キョン:
昨日はどうして来なかったんだよ?
反省会をするんじゃなかったのか?
ハルヒ:
うるさいわね。
反省会なら一人でしてたわよ。
キョン:
聞けばハルヒは、土曜に三人で歩いたコースを、
昨日学校がひけたあとで、一人で回っていたのだという。
ハルヒ:
暑いし疲れた。
衣替えはいつからなのかしら。
早く夏服に着替えたいわ。
キョン:
涼宮。
前にも言ったかも知れないけどさ、
見つけることもできない謎探しはすっぱりやめて、
普通の高校生らしい遊びを開拓してみたらどうだ?
ハルヒ:
高校生らしい遊びって何よ?
キョン:
いい男でも見つけて、市内の散策ならそいつとやれよ。
デートにもなって一石二鳥だろうが。
ハルヒ:
ふーんだ。
男なんてどうでもいいわ。
恋愛感情なんてのはね、
一時の気の迷いよ。精神病の一種なのよ。
私だってね、たまにだけどそんな気分になったりするわよ。
そりゃあ健康な若い女なんだし、体を持て余したりもするわ。
でもね、一時の気の迷いで
面倒事を背負い込むほどのバカじゃないのよ私は。
それに私が男漁りに精出すようになったら、SOS団はどうなるの?
まだ作ったばかりなのに。
キョン:
何か適当なお遊びサークルにすればいい。
そうすりゃあ人も集まるぞ。
ハルヒ:
いやよ。
そんなのつまらないからSOS団を作ったのに。
萌えキャラと謎の転校生も入部させたのに、
何も起こらないのはなぜなのよ?
ああ、パーッと事件の一つでも発生しないかな~。
朝倉:
物騒なこと言わないでよね。
でもそうね、
毎日の生活が楽しい方向に変わるような事件だったら、
ちょっと素敵かもね。
キョン:
こんなに参ってるハルヒを見るのも初めてだが、
弱気になってる顔は割り合い可愛かった。
朝倉:
涼宮さん、恋煩いでもしてるのかしら。
キョン:
それはない。
涼宮が思い立ったように恋したり、
涼宮の望んだようなパーッとした事件なんざ、
そうそうあってはならないんだよ、この世で。
しかし、パーッとした事件の方は、この時ひそかに始まっていたのだ。
キョン:
朝、ハルヒに話しかけながら、俺は一つの懸案事項を抱えていた。
キョン:
前にも同じようなことが、あったよな。
キョン:
よー!
だが、これは長門の字とは明らかに違う。
それに長門なら下駄箱にメッセージを入れるなんて素直な手は使わないだろう。
朝比奈さんってセンはないか?
それもどうかと思う。あの人が千切った小さなメモ用紙に、こんな時間指定もない伝言をよこすとは思えない。
ハルヒ:
暑いわね!
キョン:
ハルヒなら?
ますますありえん。
こいつならいつかのように階段の踊り場まで強引に引っ張っていって話をつけるだろう。
似たような理由で古泉説も却下。
ハルヒ:
クーラーが欲しいわね、この部屋。
キョン:
そもそも、ラブレターかどうかも怪しいが、呼び出しを告げる連絡文書であることは確かだ。
いやいや、谷口と国木田あたりのとびきりのジョークかもしれないぜ。
そうだな、その可能性が最も理解しやすい。
が、だったらもっとディテールに凝るような気もするのだが。
キョン:
って、そりゃ何だ?
ハルヒ:
何って写真よ。
ミクルちゃんの悩殺写真。
キョン:
そんな物は見りゃ分かる。
それをどうする気だ。
ハルヒ:
うちのサイトのトップページに貼り付けんのよ。
これで世の中不思議メールもジャンジャン来るわ。
アクセス数も、あーっという間に万単位で大回転よ。
カウンターの桁足りるかしらね?
えっ、ちょっと。
あー、何すんのよアホキョン。
キョン:
バカなことは止めろ。
自分がメイド服で悩殺ポーズを取っているようなあられもない画像が全世界に発信されるなんてことになれば、朝比奈さんはその場で卒倒するに相違ない。
珍しく熱心に説教する俺をハルヒはじとっとした目でみやっていたが、ネットに個人を特定できるような情報を流すことの危険性を解説する俺の言葉をどうにか理解したのか・・・
ハルヒ:
分かったわよ。
キョン:
渋々デリートに同意した。
この際だから、画像そのものを全て消去すべきだったのかもしれないが、それはちょっと惜しい。
今だ!
ハルヒ:
うんっ! 今日は、もう帰る。
みくる:
ふぁ! ごめんなさい。
あ、あー!
どうしたんですか?
キョン:
何でもありませんよ。
悪の陰謀は潰え去りました。
キョン:
することもないので、朝比奈さんとオセロをしていると小泉がやってきた、いつもの笑顔で。
小泉:
バイトがありますんで、お先に失礼します。
キョン:
いったい何のバイトなんだかな?
みくる:
着替えるから先に帰ってて。
キョン:
という朝比奈さんのお言葉に甘えて、俺は部室を飛び出した。
キョン:
そこにいた人物を目にして俺はかなり意表をつかれた。
朝倉:
入ったら?
キョン:
お前か。
朝倉:
そ。意外でしょ。
キョン:
何の用だ?
朝倉:
用があるのは確かなんだけどね。
ちょっと訊きたいことがあるの。
涼宮さんのことね、どう思ってる?
キョン:
やれやれ、こいつも涼宮か。
朝倉:
人間はさあ、よく「やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい」って言うよね。
これはどう思う?
キョン:
よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ。
朝倉:
じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき、あなたならどうする?
キョン:
なんだそりゃ、日本の経済の話か?
朝倉:
とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない。
どうせ今のままでは何も変わらないんだし。
キョン:
まあ、そういうこともあるかもしれん。
朝倉:
でしょ?
うんっ、でもね、上の方にいる人は頭が固くて、ついていけないの。
でも現場はそうもしてられない。
手をこまねいていたらどんどん良くないことになりそうだから。
だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?
キョン:
何を言おうとしているんだ?
ドッキリか?
掃除用具入れにでも谷口が隠れているのか?
朝倉:
何も変化しない観察対象に、あたしはもう飽き飽きしてるのね。
だから、あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
キョン:
何だ何だ。
何なんだ。
いや、待て。
この状況は何だ?
なんで俺が朝倉にナイフを突きつけられねばならんのか。
待て待て、朝倉は何と言った。
俺を殺す?
ホワイ、なぜ?
キョン:
冗談はやめろ。マジ危ないって!
それが本物じゃなかったとしてもビビるって。
朝倉:
冗談だと思う?
ふーん
死ぬのっていや?
殺されたくない?
わたしには有機生命体の死の概念がよく理解出来ないんだけど。
キョン:
意味が解らないし、笑えない。
いいからその危なかっしいのをどっかに置いてくれ。
朝倉:
うふっ、それ無理。
だって、わたしは本当にあなたに死んで欲しいんだもの。
朝倉:
無駄なの。
今この空間は、わたしの情報制御下にある。
出ることも入ることも出来ない。
キョン:
もう全く訳が分からない。
分かるやつがいたらここに来い。
そして、俺に説明しろ。
朝倉:
ねえ、あきらめてよ。
結果はどうせ同じなんだしさ。
キョン:
何者なんだ、お前は?
朝倉:
無駄! 言ったでしょう、今この教室はすべてあたしの意のままに動くって。
キョン:
待て待て待て。
何なんだこれは。
俺を殺して涼宮ハルヒの出方を見る。
またハルヒか。人気者だな、ハルヒ。
ってか。どうして俺が死ななきゃならんのだ?
朝倉:
最初からこうしておけばよかった。
キョン:
うあ、体が動かねえ。
アリかよ! 反則だ。
朝倉:
あなたが死ねば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
多分、大きな情報爆発が観測できるはず。
またとない機会だわ。
キョン:
知らねえよ!
朝倉:
じゃあ死んで。
キョン:
痛えなこの野郎!
って、あれ、体が動く。
キョン:
長門!
長門:
一つ一つのプログラムが甘い。
側面部の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。
だからわたしに気づかれる。
侵入を許す。
朝倉:
邪魔する気?
この人間が殺されたら、間違いなく涼宮ハルヒは動く。
これ以上の情報を得るにはそれしかないのよ。
長門:
あなたはわたしのバックアップのはず。
独断専行は許可されていない。
わたしに従うべき。
朝倉:
いやだと言ったら?
長門:
情報結合を解除する。
朝倉:
やってみる?
ここでは、わたしのほうが有利よ。
この教室はわたしの情報制御空間。
長門:
情報結合の解除を申請する。
キョン:
この時、ああ、この二人本当に人間じゃないみたいだな、と俺は思った。
長門:
離れないで。
キョン:
うわっ!
朝倉:
この空間ではわたしには勝てないわ。
長門:
パーソナルネーム朝倉涼子を敵性と判定。
当該対象の有機情報連結を解除する。
朝倉:
あなたの機能停止のほうが早いわ。
キョン:
なにす・・・
朝倉:
そいつを守りながら、いつまで持つかしら。
キョン:
ああー! 長門!
長門:
あなたは動かなくていい。
へいき。
キョン:
いや、ちっとも平気には見えねえって。
朝倉:
それだけダメージを受けたら他の情報に干渉する余裕はないでしょ?
じゃ、とどめね。
死になさい。
長門:
終わった!
朝倉:
何のこと?
あなたの三年あまりの人生が?
長門:
ちがう。
情報連結解除、開始。
朝倉:
そんな・・・
長門:
あなたはとても優秀。
だからこの空間プログラムを割り込ませるのに今までかかった。
でももう終わり。
朝倉:
侵入する前に崩壊因子を仕込んでおいたのね。
どうりで、あなたが弱すぎると思った。
あらかじめ攻性情報を使い果たしていたわけね・・・
あーあ、残念。
しょせんわたしはバックアップだったかあ。
膠着状態をどうにかするいいチャンスだと思ったのにな。
わたしの負け。
よかったね、延命出来て。
でも気を付けてね。
統合思念体は、この通り、相反する意識をいくつも持っているの。
いつかまた、わたしみたいな急進派が来るかもしれない。
それか、長門さんの操り主が意見を変えるかもしれない。
それまで、涼宮さんとお幸せに。
じゃあね!
キョン:
おい! 長門、しっかりしろ、今救急車を・・・
長門:
いい! 肉体の損傷はたいしたことない。
正常化しないといけないのは、まずこの空間。
不純物を取り除いて、教室を再構成する。
キョン:
本当にだいじょうぶなのか?
長門:
処理能力を情報の操作と改変に回したから、このインターフェイスの再生は後回し。
今やっている。
あ! 眼鏡の再構成を忘れた。
キョン:
してないほうが可愛いいと思うぞ。俺には眼鏡属性ないし。
長門:
眼鏡属性って何?
キョン:
何でもない。ただの妄言だ。
長門:
そう
谷口:
ういーす!
わわわわ、忘れ物ー
ぬわっ!
キョン:
父さん、この静止画をみたら、逆に押し倒そうとしているとも思えなくもない体勢なわけでして。
谷口:
すまん! ごゆっくりー!
長門:
面白い人
キョン:
はははは、どうすっかなー
長門:
まかせて、情報操作は得意。朝倉涼子は転校したことにする。
キョン:
そっちかよ!
などとツッコンでいる場合ではない。
よく考えたら俺はとんでもない体験をしてしまったんじゃないか?
この前、長門が延々と語ったデンパ話、トンチキな妄想語りを信じるとか信じないとかいう問題ではない。
さっきの出来事は本気のヤバさとは何かを俺に実感させてくれた。
マジでくたばる5秒前。
これじゃ、長門が宇宙人か何かの関係者であることを納得せざるを得ないではないか。
キョン:
翌日、クラスに朝倉涼子の姿はなかった。
岡部担任:
あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった。
複数のクラスメート:
ふぉわー? えーっ?
ハルヒ:
あー! キョン、これは事件だわ。
キョン:
すっかり元気を取り戻した涼宮ハルヒが目を輝かせていた。
どうする? 本当のことを言うか?
言えるわけねえ。
つーか俺が言いたくない。
あれはすべて俺の幻覚だったと思っていたいくらいなのに。
ハルヒ:
謎の転校生が来たと思ったら、今度は理由も告げずに転校していく女子までいたのよ。
これは調査の必要ありね。
キョン:
これ以上、余計な仕事を増やさないで欲しい。
そうでなくとも、俺はまたまた懸案事項を抱えているんだからな。
ハルヒ:
あっ、何それ?
キョン:
何でもない。
キョン:
その懸案事項は封筒の形をして昨日に引き続き俺の下駄箱に入っていた。
なんだろう、下駄箱に手紙を入れるのが最近の流行なのか?
しかし今度のブツは一味違うぞ。
キョン:
ほいさと出かけて行って、また生命の危機に直面するのは御免こうむりたい。
しかしここで行かないわけにはいくまい。
誰あろう、朝比奈さんの呼び出しである。
この手紙の主が朝比奈さんであると断言する根拠はないが、俺はさっぱり疑わなかった。
いかにもこんな回りくどいことをしそうな人だし、可愛らしいレターセットにいそいそとペンを走らせている光景はまさしく彼女に似つかわしいじゃないか。
それに昼休みの部室なら、長門もいるだろうし。
まっ、何とかなるさ。
みくる(大):
あ、はーい!
キョンくん。
久しぶり!
キョン:
朝比奈さんにとてもよく似ている。
でも、それは朝比奈さんではなかった。
キョン:
あの、朝比奈さんのお姉さんですか?
みくる(大):
うふ、わたしはわたし。
朝比奈みくる本人です。
ただし、あなたの知っているわたしより、もっと未来から来ました。
会いたかった。
あ、信用してないでしょ?
証拠を見せてあげる。
ほら、ここに星形のホクロがあるでしょう?
付けボクロじゃないよ。触ってみる?
キョン:
特盛っ!
みくる(大):
これで信じた?
キョン:
信じる信じないも、俺は朝比奈さんのホクロの位置なんか覚えちゃいない。
そんな際どい部分まで見ることが出来たのは、バニーガールのコスプレをしていた時と、不可抗力で着替えを覗いてしまった時くらいだが、どっちにしたってそこまで細かいところを観察などしていない。
みくる(大):
あれ? でもここにホクロがあるって言ったのキョンくんだったじゃない。
わたし、自分でも気づいていなかったのに。
あっ! あ、やだ! 今、ああ、そうか。この時はまだ。
うわっ、どうしよう。
わたし、とんでもない勘違いを、ごめんなさい!
今の忘れて下さい!
キョン:
そう言われてもなあ。
解りました。
とにかく信じますから。
今の俺はたいていのことは信じてしまえるような性格を獲得したので。
あれ、そしたら今、二人の朝比奈さんがこの時代にはいるってことですか?
みくる(大):
あっ、はい。
過去の、わたしから見れば過去のわたしは、現在教室でクラスメイトたちとお弁当中です。
あなたに一つだけ言いたいことがあって、無理を言ってまたこの時間に来させてもらったの。
あ、長門さんには席を外してもらいました。
キョン:
朝比奈さんは長門のことを知ってるんですか?
みくる(大):
すみません。
禁則事項です。
あ、これ言うのも久しぶりですね。
キョン:
俺は先日聞いたばかりですが。
みくる(大):
あ、うふっ。
あまりこの時間にとどまれないの。だから手短に言います。
白雪姫って、知ってます?
キョン:
そりゃ知ってますけど・・・
みくる(大):
これからあなたが何か困った状態に置かれたとき、その言葉を思い出して欲しいんです。
キョン:
七人の小人とか魔女とか毒リンゴとかの、あれですか?
みくる(大):
そうです。白雪姫の物語を。
キョン:
困った状態なら昨日あったばかりですが・・・
みくる(大):
それではないんです。
もっと、そうですね。
詳しくは言えないけど、その時、あなたの側には涼宮さんもいるはずです。
キョン:
おおっ! 俺と? ハルヒが?
いつ、どこで?
みくる(大):
涼宮さんはそれを困った状況とは考えないかもしれませんが、あなただけじゃなくて、わたしたち全員にとって、それは困ることなんです。
キョン:
詳しく教えてもらうわけには、いかないんでしょうね?
みくる(大):
ごめんなさい。
でもヒントだけでもと思って。
これがわたしの精一杯。
キョン:
それが白雪姫なんですか?
みくる(大):
ええ
キョン:
覚えておきますよ。
みくる(大):
うふっ! あー!
あっ!
よくこんなの着れたなあ、わたし。いまなら絶対ムリ。
キョン:
ハルヒには他にどんな衣装を着せられたんです?
みくる(大):
内緒。恥ずかしいもん。
それに、そのうち解るでしょう?
じゃあ、もう行きます。
最後にもう一つだけ。
わたしとはあまり仲良くしないで。
キョン:
あっ! 俺にも一つ教えてください!
朝比奈さん、今、歳いくつ?
みくる(大):
うふっ! 禁則事項です。
キョン:
それは、まるで見る者すべてを恋に落としそうな笑顔だった。
みくる(大):
久しぶり!
キョン:
つまり、今、高校生をやっている朝比奈さんは、遠からず元々いた時代に戻ってしまうということだ。
いったい彼女にとってどれくらいの時間が経過していたのだろうか?
あの成長ぶりから見ると、五年、三年くらいか?
女ってのは高校を出ると劇的に変化するからな。
腹が減った。教室に帰ろう。
やれやれだ。
キョン:
よお、来るとき朝比奈さんに良く似た人とすれ違わなかったか?
長門:
朝比奈みくるの異時間同位体。
朝に会った。
キョン:
ひょっとしてお前も時間移動とか出来るのか?
その情報ナントカ体も?
長門:
わたしには出来ない。
でも時間移動はそんなに難しいことではない。
キョン:
コツを教えてもらいたいね。
長門:
言語では概念を説明できないし理解も出来ない。
キョン:
そうかい
長門:
そう
キョン:
そりゃ、しょうがないな。
長門:
ない
キョン:
長門、昨日はありがとよ。
長門:
お礼ならいい。
朝倉涼子の異常動作はこっちの責任。
不手際。
キョン:
やっぱり眼鏡はないほうがいいぞ。
ハルヒ:
どこ行ってたのよ! すぐ帰ってくると思ってご飯食べないで待ってたのに!
キョン:
そのセリフ、幼馴染みが照れ隠しで怒っている感じで頼む。
ハルヒ:
アホなこと言ってないで、ちょっとこっち来て!
ハルヒ:
さっき職員室で岡部に聞いたんだけどね、朝倉の転校って朝になるまで誰も知らなかったみたいなのよ。
朝イチで朝倉の父親を名乗る男から電話があって急に引っ越すことになったからって、それもどこだと思う?
カナダよカナダ。そんなのあり?
胡散臭すぎるわよ!
キョン:
そうかい。
ハルヒ:
それでわたし、カナダの連絡先を教えてくれって言ったのよ。
そしたらどうよ、それすら解らないって言うのよ?
普通引っ越し先くらい伝えるでしょ。
これは何かあるに違いないわ!
キョン:
ねえよ!
ハルヒ:
せっかくだから引っ越し前の朝倉の住所を訊いてきた。
学校が終わったら、その足で行くことにするわ。
何か解るかもしれない。
キョン:
相変わらず人の話を聞かない奴だ。
ま、別に止めないことにする。
無駄骨を折るのはハルヒであって、俺ではない。
ハルヒ:
あんたも行くのよ!
キョン:
なんで? ぬあーっ!
ハルヒ:
あんたそれでもSOS団の一員なの!
ふんっ!