Eden of The East(Japanese)>09. ハカナ過ギタ男
板津 「そがぁなことがあるか……? わしは昨日まで神童と呼ばれとった男ど……。おい! ズボーン! それしかないんど……。さらばじゃ、ズボン。おかげでわしは金輪際、この部屋を出んでもようなった……」
第9話
ハカナ過ギタ男
板津 「信じられん! ホンマ、カープにメジャーの大物が移籍を表明しとるわ……! じゃけど、わしの依頼はカープの優勝じゃあ。まだ優勝するたぁ限らん」
滝沢 「何だよ! だったら結果がすぐ出る頼み事にしろよな」
板津 「今ん段階でも優勝の確率は99.98%か……」
滝沢 「はぁ? それがお前の作った世間コンピューター?」
板津 「ほっとけ。……ってなんでそがなこと知っとんよ? わからんのう。あげな頭悪そうな姉ちゃんに電話しただけでこれほどのトレードが実現するたぁ。……指紋認証か? で、も1個の携帯にゃ別のセレソンの履歴が記録されとるっちゅうんじゃの?」
滝沢 「ああ、たぶん」
板津 「付いて来いや、ビンテージ」
滝沢 「ああ……?」
滝沢 「すごいな、ここ」
板津 「ここはわしの秘密基地じゃ」
物部 「物部です。いま着いたよ」
結城 「それじゃあ、下まで降りてきてもらえます? 車停めてますんで。緑のステーションワゴンです。でもまさか物部さんまで京都に来るとは思いませんでした。9番はサポーターではないって言ってたから。とはいえ、9番とはそりが合わないんです。また邪魔でもされたら堪ったもんじゃない」
物部 「確かに、履歴だけ見れば彼はサポーターに見えなくもないが、確信的に日本中を穴だらけにした君と比べれば、あまりに受動的だ」
結城 「いえ。で、どうやって見つけます、9番?」
物部 「そうだな……タクシー会社に片っ端から電話でもかけるか」
結城 「物部さんらしいな。しかし、わからないもんですねえ。当時はあれだけ憎んでた官僚といまは行動を共にしてるんだから。……失礼、元官僚でしたね」
物部 「別に気にすることないよ」
板津 「ノブレス・オブリージュ。持てるモンの義務か……。フン。ほんじゃがセレソンちゅうんはわしのイメージしとった組織たぁずいぶん違うたのう。わしゃもっとこう、アメリカ風の、民意の誘導狙うた国家的組織かと思うとったんじゃけど」
滝沢 「なんだ、その『民意の誘導』って?」
板津 「あん? ほうじゃのう……例えば冷戦時代の赤狩りや、9・11後唱えられるようになったアメリカ同時多発テロ陰謀説みたいなヤツんことよ。そがなモンは国力が低下しとるときんこそ発動される。まさに、いまの日本がほうじゃ」
滝沢 「ふーん」
板津 「ま、陰謀の先兵たるテロリスト本人がそのことを知らんちゅう可能性もあるけどの」
滝沢 「頭いいんだな、板津! にしても、どうやってセレソンのこと調べたの?」
板津 「……事件に興味持ったんは一部の陰謀オタがネットで迂闊な月曜日語っとったからじゃけど、それとは別に、失踪したニートどもの仇を取ってやろう思うたんよ。……おお、データ残っとるで」
平澤 「大杉はいったい何を見つけたというのだ」
おネエ 「たっくんが犯罪者だーとか言ってたけど」
春日 「エデンサイトの書き込みでは、滝沢さん、あと他に5つの名前を使い分けてるようですね……」
平澤 「おネエ、みっちょんに滝沢の様子を聞いてみてくれ。まだ実情がわからないから、さり気なくさ」
おネエ 「ハァ……わかったわ」
みっちょん 「あ……はい」
おネエ 「ああ、みっちょん? あたしだけど。今そばにたっくんいる?」
みっちょん 「え、いないけど、なんで?」
おネエ 「ああ、みんなどうしてるかなーって思って」
みっちょん 「たっくんなら、パンツんところでドアを開けるように説得してるはずだけど?」
咲 「……」
みっちょん 「こっちはいま、咲と二人で買い物中」
おネエ 「そう。じゃあまた何かわかったら連絡して」
みっちょん 「……うん? おネエ、何の用だったんだろう?」
板津 「これか? ……ん? なんじゃこりゃ」
滝沢 「2月12日ってホワイトハウスのときだ。さっき言った、素っ裸でピストルと携帯ってヤツ」
板津 「播磨脳科学研究所? お前、これで記憶消したんじゃないんか?」
滝沢 「え……?」
板津 「大型フルコンテナ船 2隻 チャーター。海上コンテナ500個」
滝沢 「火浦さんが言ってたのはこれのことか」
板津 「このコンテナの数からして、二万人乗せて出港したんか? まるでニートの輸出じゃのう」
滝沢 「コンテナの行き先、わかるか?」
板津 「ドバイ首長国。……? ニート輸出する前になんか外務省に働きかけとるの。それにこの食料、一応二万人しばらく養うとったんじゃないんか?」
滝沢 「とすると、大量虐殺の線は消えたか」
板津 「じゃな。あとは……。迂闊な月曜日の日付じゃ」
滝沢 「何だこれ?」
板津 「ようわからんが、これもしかするとミサイルの爆心地周辺で起きとったいう不可思議な事件じゃないんか?」
滝沢 「え?」
板津 「いやのう、あのミサイルテロが陰謀じゃないんかと言われとる最大の理由の、ミサイルが落ちる数日前から主要六都市で奇妙な出来事が多発したっちゅう噂があるんよ。急に大量の不発弾が発見されたり、地震警報の誤作動による避難勧告が出されたり。結果、ミサイルによる犠牲者は皆無じゃったわけじゃけど、命拾いした一般人からも、助かってよかったが、なんか腑に落ちんちゅう証言は多数寄せられとったんよ。当時マスコミもそのことを書き立てとったが、結局、政府の対応のマズさに世論が集中しとるうちにそれものうなってしもうたがの」
滝沢 「……。他のセレソンの履歴も出せるか?」
板津 「……? ほいじゃ。……! おおい、これ!」
滝沢 「『日本国主要政令都市6都市を空爆』?!」
板津 「ミサイル撃ったんはコイツじゃないんか?」
みっちょん 「パンツ! 雑誌買ってきたよ」
滝沢 「このことは内緒だぞ」
板津 「わかっとる」
みっちょん 「あれ? たっくん、部屋に入れてもらえたのかな?」
咲 「いっ……板津くん、どうしちゃったの?!」
滝沢 「どうした?」
みっちょん 「前はもっと痩せてたじゃん!」
板津 「やめろや。照れるじゃろうが」
滝沢 「なんだ。女の子と会うのひさしぶりだからか? ”まあ、その辺に座りんさいや”」
板津 「わしゃ招き猫かっ! 勝手に招待すな! フン」
みっちょん 「仲良くなってるし」
咲 「頼まれてた週刊誌」
板津 「お、お、ありがとう」
物部 「わかったよ。あそこの住人、板津豊という工学部の学生だそうだ」
結城 「そいつ、セレソンじゃないんですか?」
物部 「履歴全部を見ても、君のほかに京都在住のセレソンは見当たらないよ」
結城 「じゃあ、なんで9番はこんなところに?」
物部 「ナンバー9のこれまでの行動から推理して、彼はおそらくナンバー4のノブレス携帯を手に入れたんだ。それでようやく、記憶とともに消してしまった各セレソンの全履歴を読みなおそうと考えた。そのために、工学部の学生を訪ねたんじゃないかな?」
咲 「で、結局メールもアドレスも残ってなかったの?」
滝沢 「残念ながらね」
みっちょん 「なーんだよ。せっかく京都まで来たのに」
板津 「元々、何も書き込まれてなかったんよ。わしクラスになると、いっぺんでも使うとったらデータは復元できるんじゃけどのう」
咲 「ふぅん。じゃあ、どこの携帯かとかは?」
板津 「……。さあな。たぶんどっかのメーカーが作ったハイスペックな試作品かなんかじゃろう。そこはわしにもようわからん! ま、長いこと引きこもっとけえのう、最近の携帯には疎いんよ」
滝沢 「うんうん。さて! そろそろ帰るとするか! まだあるよね? 新幹線」
みっちょん 「……」
板津 「お……ああ、ある思うで」
みっちょん 「……フン」
咲 「……」
滝沢 「あの携帯、また履歴とか受信できるようになるか?」
板津 「一応電源は入ったし、指紋認証解除できればの」
滝沢 「そうか。じゃあ、このまま置いてくからさ、まずは古い履歴を解析してくれよ」
板津 「……?」
滝沢 「俺はこのゲーム、一番に上がりたいんだ」
板津 「お……そりゃあ、一番以外殺されるいうんじゃ、頑張るほかはないけどの」
滝沢 「それもあるけど、とにかく俺は、ミスター・アウトサイドって奴をぶん殴らなきゃ気が済まないんだ!」
板津 「あ……?」
滝沢 「だってそうだろ! 自分だけ安全なとこから日本を救えなんて言っといて、俺たちの人生を搾取してんだぜ? そんな酔狂なオッサン、鉄拳喰らわしてやんなきゃ気が済まねえよ!」
板津 「オッサンとは限らんじゃろうが」
滝沢 「いいや! こんなこと思いつくのは、既に上がりを決め込んだオッサンに決まってる! 何が持てる者の義務だ! 板津、お前だってニートの仇を取りたいって言ってたろ。俺も気持ちはおんなじなんだ。ニートってのは、そういったオッサンたちに対抗するために、一人ひとりが自発的に始めたテロ行為なんだろ?」
板津 「い、いや、わしらはそんなええもんじゃないけどの……。……おもろそうじゃのう! ある意味それも立派な世直しじゃ。僭越ながら手ェ貸すわ。アドレス書いとけや、連絡するけぇ」
滝沢 「……お待たせ。行こうか?」
咲 「ああ、あのこれ。板津くんに渡そうと思って」
咲 「あの……板津くん」
板津 「ん?」
咲 「ジャージ買っといたの。ちょっと小さいかもしれないけど、よかったら使って」
板津 「ああ。ほんなら貰うとくわ」
咲 「私知ってるの。滝沢くんの携帯に秘密があるってこと……」
板津 「ん?」
咲 「ホントは普通の携帯じゃないんでしょ?」
板津 「……悪いんじゃが、わしの口からは何も」
滝沢 「どうしたー?」
板津 「何でもなーい! 知らん方がええこともあるで」
咲 「ああっ……」
結城 「……!」
物部 「あいつがナンバー9だよ」
結城 「……ど、どうします?」
物部 「彼は後からでも何とかなるよ。それより――」
板津 「こっちのアプリケーションからアクセスしたら詳細ログ開けるんじゃないか~? よっしゃあ! 冴えとるで、わし! なんなあ、あのビンテージ。初めはいけ好かんあんちゃんじゃと思うとったけど、ミサイルテロどころか、ジュイスこき使うて爆心地の住人、全員避難させとるんじゃんかい。はっは~、安心せい! お前、犯罪者どころか英雄じゃったで! ……ほうじゃ、海自のシステムに介入しとった奴おったのお。海自のシステムハッキングしたいうことは……なるほどお。レーダー上に幻の機影を映し出し、トマホークミサイルを発射させた。なんなあ、あのジュイスっちゅう姉ちゃん。相当な切れモンじゃのう。しかも首相のギャフン発言のとき、質問しとった野党議員にはホンマの情報つかましといて、情報ソースだけ愛人からのメールじゃちゅうことにすり替えたんじゃ……! とすると、やっぱ携帯作ったんは、国家権力に近しい存在。……! 何じゃと?! こ……ヤバいって……あいつに知らせんと!」
板津 「なんなら! 電源どころか、契約とうに切れとるじゃないかい! あいつ……! メアドぐらい書いとけやああ!」
板津 「ちっちゃ……」
結城 「やっぱり、ジュイスに頼んで何とかしますか?」
物部 「……ん?」
結城 「……!」
板津 「えっ……?」
結城 「ハァハァ……ハァハァ……」
物部 「……やはりな。これを解析したのか?」
板津 「……」
物部 「この中のデータをあいつは見たのか?」
結城 「何させるんですか?! 僕が、人殺しになってしまうじゃないですか!」
物部 「これから何十万、何百万という人間をミサイルで消滅させんとする英雄が人ひとり轢いたくらいでビビってるんじゃないよ! メール環境が復活しているな。これ、君が直したのか?」
板津 「ほうか……お前らセレソンかい?」
物部 「まあいい。それで? ナンバー9はこれから何をしようとしてるんだ?」
板津 「ミスター・アウトサイド……殴ったる言うとったわ」
物部 「ほう」
板津 「お前、ミサイル撃った奴か……? お前らなんぞ、英雄じゃないわ……ホンマの英雄は……の」
物部 「結城くん、ジュイスに車の廃棄を依頼しておけ」
滝沢 「もしもし?」
物部 「ナンバー9か?」
滝沢 「お前……誰だ?」
おネエ 「ここ、何に使ってたのかしら……?」
一同 「あっ」
大杉 「平澤! エデンサイトは見たか?」
平澤 「ああ」
大杉 「来てみろよ」
一同 「……!」
キャスト
滝沢 朗
森美 咲
大杉 智
平澤 一臣
葛原 みくる
春日 晴男
おネエ
板津 豊
物部 大樹
結城 亮
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第9話
ハカナ過ギタ男
板津 「信じられん! ホンマ、カープにメジャーの大物が移籍を表明しとるわ……! じゃけど、わしの依頼はカープの優勝じゃあ。まだ優勝するたぁ限らん」
滝沢 「何だよ! だったら結果がすぐ出る頼み事にしろよな」
板津 「今ん段階でも優勝の確率は99.98%か……」
滝沢 「はぁ? それがお前の作った世間コンピューター?」
板津 「ほっとけ。……ってなんでそがなこと知っとんよ? わからんのう。あげな頭悪そうな姉ちゃんに電話しただけでこれほどのトレードが実現するたぁ。……指紋認証か? で、も1個の携帯にゃ別のセレソンの履歴が記録されとるっちゅうんじゃの?」
滝沢 「ああ、たぶん」
板津 「付いて来いや、ビンテージ」
滝沢 「ああ……?」
滝沢 「すごいな、ここ」
板津 「ここはわしの秘密基地じゃ」
物部 「物部です。いま着いたよ」
結城 「それじゃあ、下まで降りてきてもらえます? 車停めてますんで。緑のステーションワゴンです。でもまさか物部さんまで京都に来るとは思いませんでした。9番はサポーターではないって言ってたから。とはいえ、9番とはそりが合わないんです。また邪魔でもされたら堪ったもんじゃない」
物部 「確かに、履歴だけ見れば彼はサポーターに見えなくもないが、確信的に日本中を穴だらけにした君と比べれば、あまりに受動的だ」
結城 「いえ。で、どうやって見つけます、9番?」
物部 「そうだな……タクシー会社に片っ端から電話でもかけるか」
結城 「物部さんらしいな。しかし、わからないもんですねえ。当時はあれだけ憎んでた官僚といまは行動を共にしてるんだから。……失礼、元官僚でしたね」
物部 「別に気にすることないよ」
板津 「ノブレス・オブリージュ。持てるモンの義務か……。フン。ほんじゃがセレソンちゅうんはわしのイメージしとった組織たぁずいぶん違うたのう。わしゃもっとこう、アメリカ風の、民意の誘導狙うた国家的組織かと思うとったんじゃけど」
滝沢 「なんだ、その『民意の誘導』って?」
板津 「あん? ほうじゃのう……例えば冷戦時代の赤狩りや、9・11後唱えられるようになったアメリカ同時多発テロ陰謀説みたいなヤツんことよ。そがなモンは国力が低下しとるときんこそ発動される。まさに、いまの日本がほうじゃ」
滝沢 「ふーん」
板津 「ま、陰謀の先兵たるテロリスト本人がそのことを知らんちゅう可能性もあるけどの」
滝沢 「頭いいんだな、板津! にしても、どうやってセレソンのこと調べたの?」
板津 「……事件に興味持ったんは一部の陰謀オタがネットで迂闊な月曜日語っとったからじゃけど、それとは別に、失踪したニートどもの仇を取ってやろう思うたんよ。……おお、データ残っとるで」
平澤 「大杉はいったい何を見つけたというのだ」
おネエ 「たっくんが犯罪者だーとか言ってたけど」
春日 「エデンサイトの書き込みでは、滝沢さん、あと他に5つの名前を使い分けてるようですね……」
平澤 「おネエ、みっちょんに滝沢の様子を聞いてみてくれ。まだ実情がわからないから、さり気なくさ」
おネエ 「ハァ……わかったわ」
みっちょん 「あ……はい」
おネエ 「ああ、みっちょん? あたしだけど。今そばにたっくんいる?」
みっちょん 「え、いないけど、なんで?」
おネエ 「ああ、みんなどうしてるかなーって思って」
みっちょん 「たっくんなら、パンツんところでドアを開けるように説得してるはずだけど?」
咲 「……」
みっちょん 「こっちはいま、咲と二人で買い物中」
おネエ 「そう。じゃあまた何かわかったら連絡して」
みっちょん 「……うん? おネエ、何の用だったんだろう?」
板津 「これか? ……ん? なんじゃこりゃ」
滝沢 「2月12日ってホワイトハウスのときだ。さっき言った、素っ裸でピストルと携帯ってヤツ」
板津 「播磨脳科学研究所? お前、これで記憶消したんじゃないんか?」
滝沢 「え……?」
板津 「大型フルコンテナ船 2隻 チャーター。海上コンテナ500個」
滝沢 「火浦さんが言ってたのはこれのことか」
板津 「このコンテナの数からして、二万人乗せて出港したんか? まるでニートの輸出じゃのう」
滝沢 「コンテナの行き先、わかるか?」
板津 「ドバイ首長国。……? ニート輸出する前になんか外務省に働きかけとるの。それにこの食料、一応二万人しばらく養うとったんじゃないんか?」
滝沢 「とすると、大量虐殺の線は消えたか」
板津 「じゃな。あとは……。迂闊な月曜日の日付じゃ」
滝沢 「何だこれ?」
板津 「ようわからんが、これもしかするとミサイルの爆心地周辺で起きとったいう不可思議な事件じゃないんか?」
滝沢 「え?」
板津 「いやのう、あのミサイルテロが陰謀じゃないんかと言われとる最大の理由の、ミサイルが落ちる数日前から主要六都市で奇妙な出来事が多発したっちゅう噂があるんよ。急に大量の不発弾が発見されたり、地震警報の誤作動による避難勧告が出されたり。結果、ミサイルによる犠牲者は皆無じゃったわけじゃけど、命拾いした一般人からも、助かってよかったが、なんか腑に落ちんちゅう証言は多数寄せられとったんよ。当時マスコミもそのことを書き立てとったが、結局、政府の対応のマズさに世論が集中しとるうちにそれものうなってしもうたがの」
滝沢 「……。他のセレソンの履歴も出せるか?」
板津 「……? ほいじゃ。……! おおい、これ!」
滝沢 「『日本国主要政令都市6都市を空爆』?!」
板津 「ミサイル撃ったんはコイツじゃないんか?」
みっちょん 「パンツ! 雑誌買ってきたよ」
滝沢 「このことは内緒だぞ」
板津 「わかっとる」
みっちょん 「あれ? たっくん、部屋に入れてもらえたのかな?」
咲 「いっ……板津くん、どうしちゃったの?!」
滝沢 「どうした?」
みっちょん 「前はもっと痩せてたじゃん!」
板津 「やめろや。照れるじゃろうが」
滝沢 「なんだ。女の子と会うのひさしぶりだからか? ”まあ、その辺に座りんさいや”」
板津 「わしゃ招き猫かっ! 勝手に招待すな! フン」
みっちょん 「仲良くなってるし」
咲 「頼まれてた週刊誌」
板津 「お、お、ありがとう」
物部 「わかったよ。あそこの住人、板津豊という工学部の学生だそうだ」
結城 「そいつ、セレソンじゃないんですか?」
物部 「履歴全部を見ても、君のほかに京都在住のセレソンは見当たらないよ」
結城 「じゃあ、なんで9番はこんなところに?」
物部 「ナンバー9のこれまでの行動から推理して、彼はおそらくナンバー4のノブレス携帯を手に入れたんだ。それでようやく、記憶とともに消してしまった各セレソンの全履歴を読みなおそうと考えた。そのために、工学部の学生を訪ねたんじゃないかな?」
咲 「で、結局メールもアドレスも残ってなかったの?」
滝沢 「残念ながらね」
みっちょん 「なーんだよ。せっかく京都まで来たのに」
板津 「元々、何も書き込まれてなかったんよ。わしクラスになると、いっぺんでも使うとったらデータは復元できるんじゃけどのう」
咲 「ふぅん。じゃあ、どこの携帯かとかは?」
板津 「……。さあな。たぶんどっかのメーカーが作ったハイスペックな試作品かなんかじゃろう。そこはわしにもようわからん! ま、長いこと引きこもっとけえのう、最近の携帯には疎いんよ」
滝沢 「うんうん。さて! そろそろ帰るとするか! まだあるよね? 新幹線」
みっちょん 「……」
板津 「お……ああ、ある思うで」
みっちょん 「……フン」
咲 「……」
滝沢 「あの携帯、また履歴とか受信できるようになるか?」
板津 「一応電源は入ったし、指紋認証解除できればの」
滝沢 「そうか。じゃあ、このまま置いてくからさ、まずは古い履歴を解析してくれよ」
板津 「……?」
滝沢 「俺はこのゲーム、一番に上がりたいんだ」
板津 「お……そりゃあ、一番以外殺されるいうんじゃ、頑張るほかはないけどの」
滝沢 「それもあるけど、とにかく俺は、ミスター・アウトサイドって奴をぶん殴らなきゃ気が済まないんだ!」
板津 「あ……?」
滝沢 「だってそうだろ! 自分だけ安全なとこから日本を救えなんて言っといて、俺たちの人生を搾取してんだぜ? そんな酔狂なオッサン、鉄拳喰らわしてやんなきゃ気が済まねえよ!」
板津 「オッサンとは限らんじゃろうが」
滝沢 「いいや! こんなこと思いつくのは、既に上がりを決め込んだオッサンに決まってる! 何が持てる者の義務だ! 板津、お前だってニートの仇を取りたいって言ってたろ。俺も気持ちはおんなじなんだ。ニートってのは、そういったオッサンたちに対抗するために、一人ひとりが自発的に始めたテロ行為なんだろ?」
板津 「い、いや、わしらはそんなええもんじゃないけどの……。……おもろそうじゃのう! ある意味それも立派な世直しじゃ。僭越ながら手ェ貸すわ。アドレス書いとけや、連絡するけぇ」
滝沢 「……お待たせ。行こうか?」
咲 「ああ、あのこれ。板津くんに渡そうと思って」
咲 「あの……板津くん」
板津 「ん?」
咲 「ジャージ買っといたの。ちょっと小さいかもしれないけど、よかったら使って」
板津 「ああ。ほんなら貰うとくわ」
咲 「私知ってるの。滝沢くんの携帯に秘密があるってこと……」
板津 「ん?」
咲 「ホントは普通の携帯じゃないんでしょ?」
板津 「……悪いんじゃが、わしの口からは何も」
滝沢 「どうしたー?」
板津 「何でもなーい! 知らん方がええこともあるで」
咲 「ああっ……」
結城 「……!」
物部 「あいつがナンバー9だよ」
結城 「……ど、どうします?」
物部 「彼は後からでも何とかなるよ。それより――」
板津 「こっちのアプリケーションからアクセスしたら詳細ログ開けるんじゃないか~? よっしゃあ! 冴えとるで、わし! なんなあ、あのビンテージ。初めはいけ好かんあんちゃんじゃと思うとったけど、ミサイルテロどころか、ジュイスこき使うて爆心地の住人、全員避難させとるんじゃんかい。はっは~、安心せい! お前、犯罪者どころか英雄じゃったで! ……ほうじゃ、海自のシステムに介入しとった奴おったのお。海自のシステムハッキングしたいうことは……なるほどお。レーダー上に幻の機影を映し出し、トマホークミサイルを発射させた。なんなあ、あのジュイスっちゅう姉ちゃん。相当な切れモンじゃのう。しかも首相のギャフン発言のとき、質問しとった野党議員にはホンマの情報つかましといて、情報ソースだけ愛人からのメールじゃちゅうことにすり替えたんじゃ……! とすると、やっぱ携帯作ったんは、国家権力に近しい存在。……! 何じゃと?! こ……ヤバいって……あいつに知らせんと!」
板津 「なんなら! 電源どころか、契約とうに切れとるじゃないかい! あいつ……! メアドぐらい書いとけやああ!」
板津 「ちっちゃ……」
結城 「やっぱり、ジュイスに頼んで何とかしますか?」
物部 「……ん?」
結城 「……!」
板津 「えっ……?」
結城 「ハァハァ……ハァハァ……」
物部 「……やはりな。これを解析したのか?」
板津 「……」
物部 「この中のデータをあいつは見たのか?」
結城 「何させるんですか?! 僕が、人殺しになってしまうじゃないですか!」
物部 「これから何十万、何百万という人間をミサイルで消滅させんとする英雄が人ひとり轢いたくらいでビビってるんじゃないよ! メール環境が復活しているな。これ、君が直したのか?」
板津 「ほうか……お前らセレソンかい?」
物部 「まあいい。それで? ナンバー9はこれから何をしようとしてるんだ?」
板津 「ミスター・アウトサイド……殴ったる言うとったわ」
物部 「ほう」
板津 「お前、ミサイル撃った奴か……? お前らなんぞ、英雄じゃないわ……ホンマの英雄は……の」
物部 「結城くん、ジュイスに車の廃棄を依頼しておけ」
滝沢 「もしもし?」
物部 「ナンバー9か?」
滝沢 「お前……誰だ?」
おネエ 「ここ、何に使ってたのかしら……?」
一同 「あっ」
大杉 「平澤! エデンサイトは見たか?」
平澤 「ああ」
大杉 「来てみろよ」
一同 「……!」
キャスト
滝沢 朗
森美 咲
大杉 智
平澤 一臣
葛原 みくる
春日 晴男
おネエ
板津 豊
物部 大樹
結城 亮