渚「海が好き! 波が好き! サーフィンが大好き! 私、斉藤渚です!」


―――


渚「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」

千鶴「相沢千鶴です」

栄子「相沢栄子。よろしく!」

渚「はい!」

栄子「しかし、コンビニのバイトより安くて暑いのに、よくきてくれたね」

渚「働きついでにサーフィンができるからです」

栄子「ああ、サーフィンね。サーフィンできるのはかっこいいな」

渚「いいえ、大したことないです」

千鶴「そういえば、イカ娘ちゃんは?」

栄子「ああ、そうか。おーい、お前もあいさつくらいしろ、イカ娘」

渚「イカ娘?」

イカ娘「海からの使者、イカ娘でゲソ」

渚「あーーーーーっ!! な、な、な、何ですか、この生き物! 人じゃないですよ!」

千鶴(まあ)

栄子(新鮮だ)

渚「とりあえず警察か保健所・・・」

栄子「ああ、待った待った! こう見えても人畜無害だから心配ないよ」

渚「見るからに危険なんですが」

栄子「まあ、危険っていっても、壁貫いたり、まわりの人間を縛り上げるくらいで」

渚「思った以上にやばいですよ、それ!」

イカ娘「イカ墨も吐けるでゲソ」

渚「いやああっ!!」

イカ娘(この感じでゲソ、私がずっと求めていた感覚は。この恐怖に怯える姿こそ、侵略者である私に対する正しいリアクションなのでゲソ!)

渚「ひっ」

イカ娘「わっ」

渚「ひっ!」

イカ娘「わあっ!」

渚「ひゃっ!」

イカ娘「わああああああっ!」

渚「ああああああああっ!」

栄子「やめんか!」

渚「あの・・・、お二人は本当に恐怖とか、まったくないんですか?」

千鶴「恐怖?」

栄子「うーん、触手で壁をぶち破られたときはびっくりしちゃったけど、それ以上に壊されたことに頭きちゃって、今に至る感じだよ」

千鶴「イカ墨は美味しいだけで、無害だしね」

渚「瓶に溜めてる! 二人とももう少し危機感持ってくださいよ。こんな恐ろしい生命体が地上に現れるというのは一大事と思いますよ。甘く見ていたら、いつか痛い目に・・・」

栄子「その危険な生命体にえらい気に入られてるようだよ、君。私から言わせれば、渚ちゃんは少し怖がり過ぎてるような気がするよ」

渚「そんなこと・・・」

栄子「ま、仕事してればわかるさ」


客「生ビール」

客「あ、俺も」

客「じゃあ、生3つで」

イカ娘「生ビール3丁でゲソ」

千鶴「はーい」


早苗「ああ、イカちゃーん」

イカ娘「放すでゲソ!」


イカ娘「エビチャーハンお待たせでゲソ」

悟郎「おう」

イカ娘「ごゆっくりでゲソ」

悟郎「待て、こら。何だ、この素チャーハンは」

イカ娘「何のことでゲソ?」

悟郎「てめえ、食ったな?」

イカ娘「言いがかりはやめなイカ!」

悟郎「口元のそれは何だよ!」


子供「うねうね~」

子供「引っ張れ、引っ張れ」

子供「結んじゃえ」

イカ娘「これはおもちゃじゃないでゲソ!」

渚(世界がおかしい。これじゃ私だけ変に怖がってるみたいじゃない。そっか! ここにいるみんなが変だから、正しい認識ができていないんだ。このまま放置していたら、この生物は普通っていう間違った認識が蔓延してしまう。ああ、でも出来ればもうこの人たちとは関わりたくない)

千鶴「渚ちゃん?」

渚「あ、はい?」

千鶴「バイト、どうする? 合わないようだったら考え直してもいいわよ」

渚「え?」

イカ娘「ん?」

渚(そうだよ。迷ってなんかいられない)「バイト、続けます!」

千鶴「まあ」

渚「人類のために!」

栄子「人類?」

渚(私が常識人の見本にならなきゃ)

栄子(変わった子だ)

千鶴(面白い子ね)

イカ娘(いいやつでゲソ。この渚っていう人間、私にとって彗星のごとく現れた希望の星でゲソ。そう、彼女のような人間が増えれば、理想の世界が出来上がるでゲソ)「えへへへへ」

渚「やっぱりあの人、苦手です」

栄子「どうせすぐ慣れるって」

イカ娘(あ、確かに慣れてしまう可能性は十分にあるでゲソ。辞めない程度にプレッシャーを与えておかなきゃ)

渚「あっ・・・」

イカ娘「渚よ」

渚「ひっ」

イカ娘「お主は私を外見だけで怖がっているようでゲソが、その程度で怖がってもらっては困るでゲソ」

渚「え?」

イカ娘「私は人類を征服するために、地上に来たのでゲソからね」

渚「ああっ、そんな・・・。何て恐ろしいことを」

イカ娘「ふっふっふっふっふ」(わーい! 期待を裏切らないリアクションでゲソ!)「お主が見ているのは恐怖のいっ・・・」

栄子「何かっこつけてんだよ」

イカ娘「あっ、・・・ゲソ」

栄子「渚ちゃん渚ちゃん、あいつつい最近、シャチの浮き輪見て怖がって泣いてたんだよ」

イカ娘「な・・・!」

渚「え?」

イカ娘「何で余計なこというのでゲソ!」

栄子「挙句、失神しちゃってさ。で、そのときに」

イカ娘「もう、もう、いいから仕事に戻るでゲソ!」(あ、疑い混じりの表情になってるでゲソ。このままじゃ、私が侵略者であることを信じてもらえないでゲソ。説得力のある行動を見せていかないと)

栄子「どこ行くんだよ」

イカ娘「あ、考え事・・・、いや、侵略の下調べでゲソ!」

栄子「あ、そ」

千鶴「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」

栄子「イカ娘のやつ、どうにかして渚ちゃんを怖がらせたいみたいだな」

千鶴「イカちゃんを怖がる子、初めてだもんね」

栄子「まあ、気持ちは分からんでもない。が」

千鶴「渚ちゃんをそんな理由で辞めさせるわけにはいかないわよね。恐怖を取り除くには・・・、あ、そうだ!」


栄子「渚ちゃん」

渚「はい?」

栄子「イカ釣りってやったことある?」

渚「え? いや、ないですけど」

栄子「これを持ってごらん」

渚「釣竿・・・ですか? 仕事まだ終わってないのに海に行くんですか?」

栄子「いや、ここで平気だよ。面白いものが見られるよ」

渚(こんなところでイカ釣り? って、まさかイカの人のこと? そんな、人類征服しに来たのに、こんな餌に釣られるわけが・・・)

イカ娘(さ、さ、最悪でゲソ・・・)

栄子「ね、見たでしょ? 口では偉そうなこと言ってるけど、本質はただのイカなんだよ」

渚「何を言ってるんですか」

栄子・千鶴「え?」

イカ娘「は?」

渚「確かに行動だけ見るとちょっとアホかもしれません」

イカ娘「うあっ!」

渚「でも、人類征服という危険な思想を持ち、触手という強力な武器を常時所有してることに変わりはないんです! この人は恐ろしい存在なんです!」

イカ娘(こんなに醜態を晒しても、なお、私のことを恐怖の対象として見てくれてる。渚は世界でたった一人の私の理解者かもしれないでゲソ!)「渚、ほんとにありがとうでゲソ!」

渚「あああああっ! やめてください!」

栄子「おーい!」

千鶴「大丈夫?」

栄子「嫌われたのに何で笑ってんだよ」

イカ娘「いいじゃなイカ。これでいいじゃなイカ」


---予告---
たける「こんにちは。相沢たけるだよ。えっとね、次は、『買わなイカ?』『乗りこまなイカ?』『ニセモノじゃなイカ?』の3本だよ。テレビ見る前に宿題やろうね」