Part 01: 千雨: ……こうしてお前と一緒に屋台巡りをするのは、久しぶりだな。 私の隣を歩く千雨が、左右に目を向けながらぽつりと呟く。 今夜、近くの神社で縁日が開かれると聞いた私たちは、ちょっとした気分転換に足を運ぶことにしたのだ。 美雪(私服): んー、言われてみればそうかもね。小学校の低学年の頃までは毎年顔を出したりしてた気がするけど……なんで来なくなったんだろう? 千雨: 私が大会に出たりするようになったからじゃないか?あと、お前がガールスカウトの合宿だったりとかな。 美雪(私服): なるほど。お互いのスケジュールが合わなくなって……ひとりで行くのも面倒だったしね。 千雨: 屋台巡りってのは、買い食いとゲーム遊びだ。気の合うダベり相手がいないと魅力が半減する。 千雨: そして基本的に、ほぼ全てぼったくりだ。さらに、今時のゲームはインドアの方が高性能とくれば、足も遠のくさ。 美雪(私服): いや、そこまで言い切らなくても……屋台だってそれなりに楽しいものとか、おいしいものとかだってあるはずだよ。 千雨: ほぉ……だったら美雪、お前の考える屋台のオススメとやらをご教示願おうじゃないか。 美雪(私服): ……さっき言ったこと、ちゃんと聞いてた?キミと同じように私も縁日は久々なんだから、教えるどころか知見は同レベルだっての。 千雨: そんなことはわかってるさ。私が聞きたいのは、以前のお前が何を気に入ってたのか、ってことだ。 美雪(私服): 私のお気に入り……? 千雨: あぁ。昔のお前は、どういうわけか知らんが縁日の話を聞くたびに私を誘ってただろ? 千雨: あれだけ熱心に行きたがるのは、何かお目当てがあってのことだと思ってたんだが……どうだ? 美雪(私服): んー、そうだなぁ……あ、だったら先に千雨の好きなものを教えてよ。縁日に来た時、キミは何かお目当てがあったの? 千雨: サメだ。 美雪(私服): サメ?いや、屋台でサメ肉を出すようなところって見たことも聞いたこともないんだけど……。 千雨: 誰が食いもんの話をしたんだ。私が言ったのは、サメグッズを扱った店だ。 美雪(私服): サメ肌を使った、大根のおろし金とか……? 千雨: 匠が扱うような道具のことじゃない。……まぁ売ってたら、お年玉貯金を全額費やして買い占めるとは思うがな。 美雪(私服): いや、おろし金なんて一家で何個もいらないでしょ……。 千雨: 使ったりするか、もったいない。部屋に飾ってインテリアにするに決まってるだろ。 美雪(私服): それを決め打ちで断言できるのは、日本広しといえどもキミくらいだと思うよ……。 千雨: そんなことはない。……まぁそれはさておき、あれは私とお前が小学校に入ったばかりの頃だ。 千雨: 当時はサメ映画のTV放送をきっかけにして、ちょっとしたブームの再燃が起こったんだ。 美雪(私服): あー……言われてみればあったね、そんなこと。あれって何の作品だったか覚えてる? 千雨: もちろんだ。当然ビデオもあるから、なんなら帰って夜通しで鑑賞会でもやるか? 美雪(私服): ……それは後日でお願いします。 千雨: わかった、約束だぞ。……で、その人気にあやかって色々とサメグッズが作られていってな。 千雨: 狂喜乱舞した私は、親父に頭を下げて前借りをした小遣いを握りしめて……買いに行ったってわけだ。 美雪(私服): おぅ……その話、思い出したよ。確か一緒に行った時、グッズを見つけたキミが大慌てで自宅に戻ったんだよね? 美雪(私服): せっかく2人で遊ぼうと思って意気込んでたのに、待ちぼうけにされてさ……ちょっと怒ったことをよく覚えてるよ。 千雨: ちょっとって……お前、翌日から丸3日ずっと私と口きかなかったくらいにブチ切れ状態だったじゃないか。 千雨: ……とはいえ、確かにあの時は自分勝手が過ぎた。反省してる……すまん。 美雪(私服): まぁ、あの後ちゃんと謝ってくれたし仲直りもしたわけだから、もう時効だけどね。 美雪(私服): で……その時は何を買ったんだっけ?待たされはしたけど、ほとんど迷いなく買ってたような気がするんだけど。 千雨: キーホルダーと小さなぬいぐるみだ。……ちなみに何を買うかは家から戻りながら吟味に吟味を重ねてたから、衝動買いじゃないぞ。 美雪(私服): えっと……それって、千雨の部屋の一番目立つところに飾ってるやつ?あれ、そんなに年季の入ったものだったんだ……。 千雨: 私は衝動買いこそしないが、一度買ったものはよっぽどでない限り簡単に捨てたりはしない。……キーホルダーも、つい最近まで持ってたしな。 美雪(私服): ぅわ……それって、家の鍵についてたやつ?つまり、キミが数ヶ月前に荒れてた原因は……。 千雨: うっかり廊下で落としたそれを、どっかのバカが拾って面白がって……あまつさえ壊しやがったからな。 千雨: すぐに大人しく謝ったら勘弁してやったんだが、開き直ったあげくに「ガキみたいだな」なんて核ミサイルスイッチを押しやがった。 千雨: その後そいつがどうなったか、一応報告してやってもいいが……どうだ? 美雪(私服): クラスの何人かから、あらましは聞いたよ。……話半分でも地獄絵図だったってことをね。 千雨: 先公が止めに入らなかったら、もう少し制裁を食らわせてやってたんだがな。 千雨: で……私の好きなものについてはこんな感じだ。今度は前の番だ、教えろ。 美雪(私服): はいはい、わかりましたよ。私は……そうだなぁ……。 Part 02: 菜央(私服): で……美雪。その千雨? っていうあんたの幼なじみが血眼になってサメグッズを追い求めてたのはよくわかったけど……。 菜央(私服): 結局のところあんたは、子どもの時にどんな屋台が好きだったのか、って一番大事な質問に答えてないじゃないの。 美雪(私服): おぅ、そうだった。いやー、千雨って本当に個性的だからあの子の話に言及するとついつい脱線しちゃうんだよー。 菜央(私服): ……なるほど。似たもの同士でウマが合ったってわけね。 美雪(私服): 何か言った? 菜央(私服): いいえ。そんなことより話を戻しなさい。 美雪(私服): はいはい。で、私が好きな屋台は何かってことだけど……。 美雪(私服): よくよく考えたら、食べ物全般がほとんど好きだったってことに気づいたんだよ。 一穂(私服): 食べ物全般って……甘いものとか辛いものとか、しょっぱいものとかの区別もなく? 美雪(私服): うん、そーゆーこと。ベビーカステラの匂いがしたら欲しい、食べたいって言い出したり、せがんだりしたし……。 美雪(私服): それを食べてる間も焼きトウモロコシ、綿あめ、リンゴ飴とかを見かけるたびに次はあれ、そしてこれって目移りしてさ。 美雪(私服): 最終的にお腹いっぱいで動けなくなって、お母さんたちに車で迎えに来てもらったりしたもんだよ。 菜央(私服): 呆れた……あんたって縁日の時は、一穂に負けないくらいの腹ぺこキャラだったのね。 一穂(私服): わ、私と同じっ……?そもそも腹ぺこキャラが、私のイメージなの?! 菜央(私服): その通りじゃない。違うって反論できるのかしら? 一穂(私服): ……できません。ごめんなさい。 美雪(私服): いやいや、さすがに一穂ほどお腹に猛獣だのブラックホールだのを飼ってるわけじゃないから、全部は食べ切れてないよ。 美雪(私服): まぁだいたい食べてる途中で飽きちゃって、残りを千雨とかに押しつけたりしてねー。 菜央(私服): ……もっと酷いじゃない。もったいないオバケが出そうだわ。 美雪(私服): おぅ、昔やってたCMのあれだよね。……ん? それって私が幼稚園くらいの時のやつだと思ってたんだけど、菜央も見たことがあったの? 菜央(私服): あんたは知らなかったかもしれないけど、何度も題材を変えたりバージョンアップされて最近くらいまでやってたのよ。 菜央(私服): 最初に見た時は、「食べ残しをすると出るかもしれないわよ……」ってお母さんに脅かされて、ちょっと怖かったけどね。 美雪(私服): ……意外に茶目っ気のある人だったんだね、菜央のお母さんって。 一穂(私服): あの……美雪ちゃん?私のお腹の中には、猛獣やブラックホールなんて入ってないんだけど……。 美雪(私服): あははは、もののたとえだよ。それくらい一穂は、どんな食べ物でも残らず綺麗に食べ尽くしちゃうってことで。 一穂(私服): ……それ、褒めてないよね?むしろバカにしてるよねっ……? 美雪(私服): ごめんごめん、冗談だって。……で、話を戻して結論を述べると私は縁日の食べ物が大好きってわけ。 美雪(私服): ただ、千雨が一緒に来なくなってからは買いすぎた時に後悔することになっちゃって……。 美雪(私服): お小遣いが一瞬でなくなるってこともあって、行くのは自制するようにしたんだよ。 菜央(私服): 賢明な判断ね。ひとりで暴走して散財するような、最悪の事態を回避するだけの理性が残ってたのはあたしとしても喜ばしい限りだわ。 菜央(私服): で……?#p綿流#sわたなが#rしの直前にそんな思い出話をしたのは、何か理由があってのことなの? 美雪(私服): もちろん。魅音の話だと今度の綿流しでは、たくさんの屋台が立ち並ぶって話だよね。 美雪(私服): だから私は、数年ぶりに……屋台大好きだった自分のリミッターを解除する! 美雪(私服): これまで抑えてきた欲求を、願望を一気に解き放って、一穂以上の食欲魔人として行動するつもりだから……どーぞよろしくっ! 一穂(私服): わ、私以上って……それってすごいのか、あんまりすごくないのかよくわかんないんだけど……。 菜央(私服): 十分すごいわよ。TV番組に出てくる大食いチャンプ並みね。 菜央(私服): とはいえ美雪、忘れないでよ。今回……いえ、今回の綿流しも真相を探るあたしたちにとってすごく重要なイベントなんだから。 菜央(私服): 自分の長年の夢を叶えることに夢中になって、本質を見失うことだけはくれぐれもないようにね。 美雪(私服): わかってるって。さすがの私だって、その辺りのことを念頭に置かないほど浮かれてないよ。 美雪(私服): さーて、当日の屋台は何が並ぶのかな~?#p雛見沢#sひなみざわ#rの屋台の単価は東京よりも安いって魅音が言ってたし……。 美雪(私服): あっ……そういえば今は昭和だから、消費税もナシか! だとしたら結構いろんなものの食べまくりができそうだね~♪ 菜央(私服): ……本当にわかってるのかしら。一穂、もし美雪が夢中になってるようだったらこの子を置いて2人で行動しましょう。 一穂(私服): あ、あははは……そうならないと……いいね。 Part 03: 魅音(私服): というわけで……お待ちかね、十凶爆闘の開催だ!みんな、心とお腹と財布の準備はできたかー?! 一同: 「「おおおぉぉぉぉおおぉぉっっ!!」」 魅音(私服): 知っての通り、これから行われる十凶爆闘は私たち部活メンバーがひとつの屋台を巡って激突し、熱戦を繰り広げる! 魅音(私服): 早食い、大食い、面白食い……なんでもあり!それぞれが持てる力と技を駆使し、目指すはただひとつ1位のみ! 魅音(私服): ちなみに、何で戦うのかは部長兼コミッショナーの私が決定するので、そのつもりでよろしくっ! 菜央(私服): ……魅音さんって、いつの間にコミッショナーになったのよ。 圭一(私服): というか俺、今回からの参加だからルールどころか概要もわかっちゃいないんだが……。 レナ(私服): あ、そっか。圭一くんは今年引っ越してきたんだから、#p綿流#sわたなが#rしのお祭りは初めてだもんね。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ! すっかり部活の空気に溶け込んでいるせいで、てっきり圭一さんは何年も前からの仲間だと思っていましたわ~! 圭一(私服): へへっ……それはある意味で、すげぇ嬉しい評価ってやつだな。 圭一(私服): ちなみに、美雪ちゃんたちは大丈夫か?3人もこの村に来て、まだ間がなかったはずだよな。 一穂(私服): あ……うん、心配はいらないよ。私はその……初めてってわけでもないから。 圭一(私服): ?……あぁ、そういえばそうか。一穂ちゃんは昔、#p興宮#sおきのみや#rに住んでいたんだもんな。 一穂(私服): ……。うん、だから……平気。 菜央(私服): もう一穂、そんな暗い顔をするんじゃないの。これからがいよいよ正念場だからって、あんまり深刻に構えても疲れるだけよ。 一穂(私服): 菜央ちゃん……。 菜央(私服): あたしは記憶がないから、初めてってことになるけど……あんたは何度も別の「世界」で経験を重ねてきたのよね? 菜央(私服): だったらもっと堂々と、でーんとしてなさい。少しくらいだったら周りの流れに合わせて、のんびり待ち構えるのも大切なことよ。 一穂(私服): ……ありがとう、菜央ちゃん。 菜央(私服): まぁ……あの浮かれバカみたいにどっぷりはまりすぎるってのも、それはそれでどうかと思うけどね。 一穂(私服): えっ……? 美雪(私服): んー、これこれ!やっぱりお祭りの屋台で食べるものと言えば綿あめとリンゴ飴、そしてイカ焼きだよね~! 美雪(私服): おぅっ、あっちにはたこ焼きが!しかもわりと安い!……おじちゃーん、その焼きたてをひとつ頂戴~! 魅音(私服): ちょっとちょっと、美雪!まだ勝負は始まっていないんだから、食べ過ぎると不利になるだけだよ! 詩音(私服): あら、いいじゃないですか。ライバルは少しでも減ってくれた方が、ビリになる確率が減りますからねー。 沙都子(私服): ……相変わらず詩音さんは、発想のベクトルが鬼というか邪悪そのものですわね。敵に回すと恐ろしいことこの上ありませんわ。 詩音(私服): はーい沙都子、今の発言で私の敵に決定です。思いっきり狙い撃ちしまくってあげますから、覚悟してくださいね……くっくっくっ! 沙都子(私服): しかも地獄耳っ?ご、ご勘弁ですわぁぁぁあぁ~!! 一穂(私服): …………。 菜央(私服): どうしたのよ、一穂。またしんみりとした顔になって……美雪が好き勝手すぎて、呆れちゃったの? 一穂(私服): ううん、そうじゃないよ。この「世界」だけじゃなく、別の「世界」でもみんな、綿流しを楽しんでたなって。だから……。 一穂(私服): この時間を……この光景を、失いたくない。ここで終わってほしくないって……思ったんだ。 菜央(私服): 一穂……。 菜央(私服): 大丈夫よ、一穂。終わったりしない……いえ、終わらせやしない。必ず、次へと繋げる道を探し出すのよ。 菜央(私服): あたしとあんた、そして美雪……他のみんなとも力を合わせてね。 一穂(私服): うん……そうだね。 菜央(私服): だから、この一瞬だけは今を楽しみましょう。それくらいの余裕はあるはずだし……ねっ? 菜央(私服): きっと美雪だって、それがわかってあんなふうに目一杯楽しんでるのよ。きっと……。 美雪(私服): んー、楽し~♪まだまだ、いくらでも食べられそうだよ~☆ 菜央(私服): ……。信じてもいいのよね、美雪……? 一穂(私服): あ、あははは……。