Part 01: ……それは私にとってまさしく最悪であり、あらかじめ覚悟していた想定をはるかに超えた最低の結末だった。 鷹野(感染発症): くすくす……あははは、あーっははははは!! 折から降り出した雨でずぶ濡れになり、べっとりと額と頬に髪をはりつかせながら私はただ、おかしさを覚えて笑い続ける。 いや、笑うしかなかったのだ。手に入れたと思っていた全てのものを喪い、目的も手段も奪われた今は、この身ひとつ。 数日前……いや、正確には数時間前まで神の座に近しい場所で君臨していた私は、哀れなことに奈落の底であがくのみ。 もはや、自らの支配下にあるものといえばこの手に収められた、一丁の拳銃。 そして、私にできることは目前で立ちはだかる忌々しいガキどもを銃口で脅してせいぜい凄み、わずかに留飲を下げる程度だけだった。 鷹野(感染発症): (なんで……なんでこんなことに……?何が足りなかった? 何が間違っていた……?) 考えても考えても考え尽しても、私にはわからない。がりがりと血がにじむほど喉をかきむしっても、苛々が重なるばかりだ。 いや……そもそも答え自体が「存在しない」と見なしたほうが、よほど納得できるかもしれない。 なぜなら私は、ここに至るまでに己の持てる力を振り絞ってつぎ込み、あらゆる機会とツテを利用してできることは全てやってきた。 夢に向かって突き進む意志は鋭く、固く。誰よりも深く敬愛する私のおじいちゃん……高野先生の遺志を継いで、彼の偉業を後世に残す。 鷹野(感染発症): (『#p雛見沢#sひなみざわ#r症候群』とは何なのかを解明し、撲滅、あるいは支配下に置く……それがおじいちゃんの研究の全てだった) 彼の生きがいは、すなわち私の生きる意味。だからそれを叶えるべく私は、たとえ悪魔に魂を売り渡してもいい覚悟で邁進してきたのだ。 なのに……それが、否定された。あっさりとこの数日で、跡形もなく。 国のお偉方は、とある権力者の逝去によって方針をがらっと変え、支援の打ち切りを宣言した。こちらの事情や都合など、一顧だにせずに。 なんのことはない……彼らにとって『雛見沢症候群』の研究は、権力に媚を売るだけの道具でしかなかった。 研究の中身など、どうでもよかったのだ。科学の進歩? 人類の革新?……そんな未来より、自分たちの地位の安泰と退職金こそが大事なこと。 鷹野(感染発症): (えぇ、そうよ……わかっていたわ。私たちを支援していたのは、国家の礎のふりをした短慮で視野の狭い餓鬼どもだってね……でも……) 去来するものは、悲しさよりも……「怒り」。もっとどす黒くて厭わしい、まるで重油のようにまとわりつく虚しさと無力感だった。 鷹野(感染発症): (これだけのことをしても、山は動かない……っ?所詮人間にできるのは、これが限界なのか……?!) 悔しい、憎い……なにより、恨めしい。運命は誰かによって定められているというのなら、私たちは何のために生きているというのだろう。 努力しても、結果が決まっている?どんなに望んでも、その想いは本人の意思で叶えられることがない……? だったら、努力など無駄ではないか。生まれながらに持つ環境次第で願いや夢に限りがあるなんて……そんなこと……ッ! 羽入(私服): ……鷹野。あなたの夢は、終わりです。 そう、厳かに告げて……私の夢の実現を阻んだ連中の中から、ひとりの少女がゆっくりと前に進み出てくる。 「彼女」の面立ちには、なぜか既視感があるのだけど……いつ、どこで会ったのかは思い出すことができない。 ただ……不快な気分がざわざわと胸の内で込み上がってきて、どうにも癇に障る思いだ。 鷹野(感染発症): (ここに居並ぶ連中で一番、殺意を向けたいのは考えるまでもなく古手家の跡取り、古手梨花で確定のはずなのだけど……) その方針を衝動的に変えてしまってもいいと思えるくらいに、憎らしさを覚える。……彼女はいったい、何者なんだろうか。 羽入(私服): あなたがやろうとしていた雛見沢での「祭」は、もはやどうあがこうと実現しません。……これはもう、決まったことなのです。 羽入(私服): あなたの行いが許されるとは約束できませんが、せめて最後くらいは人らしい心を取り戻して……穏やかに生きてください。 鷹野(感染発症): ……ずいぶんとまぁ、増上慢なことを言ってくれるじゃないの。……小娘の分際でッッ! 私は銃を構え、引き金に指をかけながら吐き捨てるように罵って奥歯をぎり、とかみしめる。 たとえ銃の扱いに慣れていなくても、この距離なら外すことはほぼ、ない。 ほんのわずか力を加えただけで、目の前に立つこの娘は頭、あるいは心臓の急所を撃ち抜かれ、その命を永遠に失うことだろう。 そう、私は生殺与奪の権利を握り、圧倒的に有利のはずなのだ……なのに……! 鷹野(感染発症): ……っ……!! 頭から角を生やした面妖な少女は、銃口を向けられても怯まず、こびずに私と対峙したまま……その瞳は揺るぎもしない。 ……実に惨めな、敗北感。そう、私は今……彼女に対して怯みを覚え、恐怖すら抱いていた。 鷹野(感染発症): (この力は、どこから来ている……?何があればこれほど見事に、気高い意思を持ち続けることができるの……?) 私がずっと欲して止まず、今の状況になってもなお渇望するこの強さの根源は、いったい……? …………。 鷹野(感染発症): ……。あぁ、そうか。 彼女の背後で身構える他の連中に目をやり、そして自分の背中越しに空虚を覚えた私は……ふふっ、と力のない笑みを口元に浮かべる。 思えば私は、これまでずっと最大の効率と成果を上げるべく……ひとりで走り続けていた。 別に、他者の存在を邪険にしたつもりはない。必要であれば協力を仰ぐこともあったし、逆に手を差し伸べることも皆無ではなかった。 にもかかわらず……周りにいた同輩たちは、いつしか私から距離を置くようになっていた。先輩や後輩など、年齢が近しい人たちもだ。 ただそれは、彼らが私に追いつけないから……羨み、妬むことでそうなったのだと思っていた。だから正直私は軽蔑し、見下していた。 そもそも、不思議だった。どうして彼らは自ら動かず、己の存在意義を示そうとしないのか、と。 世界の変革と進歩は、各々が努力することによって達成される。逆に怠惰は停滞を招き、やがて漫然とした退化へと繋がっていく――。 そう思えばこそ私は、自分の行動と覚悟を至高と捉えて日々の研鑽を怠ったりしなかった。 そんな自分の姿勢が間違っていたとは思わないし、今だって否定するつもりはない。だけど……。 鷹野(感染発症): ……。ようやく、わかったわ。私が何をなすべきだったのか……そして……。 鷹野(感染発症): 私があなたたち……そして「運命」に打ち勝つ、たったひとつの冴えたやり方の存在とやらにね……! そんな悟りめいた呟きを口の中で紡ぎ出した私は、雨の中に晴れやかな光明を見出した気分になって……ふっ、とため息をつく。 そして、怪訝そうにこちらを窺ってくる小娘たちに向けていた銃を自らのこめかみに当てて――。 鷹野(感染発症): 悪いけど……私はまだ、認めたりしないわ。たとえ醜く、意地汚い悪あがきだったとしても絶対に……ッ!! 羽入(私服): っ……た、鷹野……?! 富竹: ――やめるんだ、鷹野さんっ!! Part 02: 鷹野(感染発症): ……っ……?! 息をのむ声に続いて、背後から向かってくるその叫びを聞いた私は……自分でも驚くほどすっきりした思いで、ゆっくりと振り返る。 富竹: ……遅くなったね。君を迎えに来たよ。 鷹野(感染発症): ジロウ……さん……。 富竹: 君は、君がそうだと思っているような悪い人じゃないんだ。……この僕が、保証する。だから――。 富竹: やり直そう。今度こそ、君の本当の人生を……田無美代子の人生をやり直すんだ…。 鷹野(感染発症): …………。 富竹: 僕が、君を許すよ。……だから、生きよう。生きるんだ。 富竹: 死ぬことは、罪の償いにはならない。生きて償い、世界に許しを乞おう。 富竹: そうしたら……きっと思い出せる。君が本当はどんな人で……どんな笑顔を浮かべていたかをね……! 鷹野(感染発症): ……っ……! あぁ、……なんて優しくてあたたかくて、そして甘美な響きだろう。 ひょっとしたら神の福音とは、こんなふうに心の中へと染み渡り……全ての傷を癒してくれるのかもしれない。 …………。 でも、……ダメだ。このぬくもりに包まれる資格なんて、私にはない。 だから……私は……私はッッ……!! 鷹野(感染発症): ……ジロウさん。あなたは本当に愚直で、不器用で……私にはもったいないくらいに純粋な人。 鷹野(感染発症): でも、そんなあなたがいてくれたから、私はまだ踏みとどまることができた。 鷹野(感染発症): こんな醜くて汚れた世界に愛着を見出して、少しは耐えてみようと思っていられたのよ。 富竹: た……鷹野さん……?! 鷹野(感染発症): ……。でもねっ……! 鷹野(感染発症): たとえ狂人として歴史の中で蔑まれようとも、私はこんな世界など……絶対に認めないッ! 鷹野(感染発症): 運命だって……受け入れたりするものかッッ!! その宣言とともに、私は引き金をひく。……途端に灼けるような感覚が全身に広がり、意識が遠のいていく。 …………。 最後に見たのは、必死の形相で私を抱き起こすあの人の顔だったような気もするけれど……。 そんな映像も瞬く間に闇の中へと飲み込まれ、やがて何も……見えなくなってしまった――。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ……っ……? 気がつくと私は、「その場所」にいた。 カビとインクの臭いにまみれ、所狭しとばかりに積み上げられた本や書類の数々。 足の踏み場を見つけるのも至難の業で、今にも紙の雪崩の中に埋もれてしまいそうだ。 正直言って、居心地がいいかと問われれば苦笑とともに否、と答えるだろう。……だけど私は、この書斎が大好きだった。 なぜならここは、私が世界で最も尊敬する大好きな「あの人」が日がな一日研究に没頭して、精魂の全てをつぎ込んでいる場所だったからだ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: (私は、田無……ううん、高野美代子。そして、ここは……) 忘れるはずもない……地獄のような場所から救い出された私が大切で幸せな時間を送った、天国にも等しい世界。 そして、そのあたたかな世界を作ってくれた「あの人」は、今日もまた机に向かっていた……。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ……「おじいちゃん」っ。 万感の思いを込めて、私はその人に呼びかける。すると「彼」は何かを書き綴っていた手を止め、ゆっくりと振り返って……。 一二三: ……おぉ、みよか。 作業に集中していた邪魔を咎めるでもなく、不快そうな表情を浮かべるでもなく……ただ穏やかで、優しい笑顔を向けてくれた。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: (あぁ……そうだ。どんなに忙しい時でも、この人は私のことを疎ましく扱ったりすることは一度もなかった) #p高野美代子#sたかのみよこ#r: (本当にあたたかくて優しい、まるで木漏れ日のような人だった……) だからこそ、私にとって「おじいちゃん」は大切な家族。たとえ血が繋がっていなくても、肉親以上の信頼と絆を彼に感じていた……。 一二三: どうしたんだい?まだ夕飯には早い時間だと思うんだが。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ちっとも早くないよ。今、何時だと思っているの?とっくに日が暮れて、もう夜なんだから。 いとしさを胸の内に押し隠しながら、私はあえてむくれ顔を作って壁の時計を指さす。 部屋の窓が埋まっているのでわかりづらいが、私の背後にあるガラス障子の向こうはとっぷりと暗闇の帳に覆われていた。 一二三: おやおや……これはまいった。ついつい、夢中になってしまったようだ。……買い物は、今からでも大丈夫かな? #p高野美代子#sたかのみよこ#r: あはは、大丈夫っ。そう思ってさっき、私がひとりで行ってきたよ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: おかずは、焼き魚でもいい?売れ残りの最後だからって、安くしてもらったんだ♪ 一二三: おぉ、そうかい。そりゃ嬉しいね。お前が器量よしのおかげで、本当に助かるよ。ありがとう、みよ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: えへへっ……どういたしましてっ。 優しく撫でてくれるおじいちゃんになすがまま頭を預けながら……私は幼心に、満たされた幸福感を満喫する。 なんのことはない、たかだか近くの商店街に買い物に行ってきただけだ。誰でもできることだし、正直胸を張ることだっておこがましい。 それでも、私は嬉しかった。成長して何かを知るたびに少しでもおじいちゃんの役に立って、喜んでもらえるということが……。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: (……早く、大人になりたい。大人になって、おじいちゃんの仕事や研究を手伝えるだけの力と知識を身につけたい……!) それが、私の願い。そして何よりも大切な目標でもあった。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ところで、おじいちゃん。今日はどんな調べものをしていたの? 一二三: #p雛見沢#sひなみざわ#r症候群の過去の症例調査だよ。特に今回は、大学の知人のつてで興味深いデータがいくつも手に入ってね。 一二三: それらに目を通して要点を抜き出しているうちに、ついつい時間が経つのを忘れてしまったんだ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: へー、そうなんだ。それって、どういう内容なの? 一二三: それはね、……。 そう尋ねると、おじいちゃんはいつも嬉しそうに破顔して、丁寧に時間をかけて説明をしてくれる。 ……ただ正直言って、何を話しているのかは幼くて拙い私の知識と理解力だと半分どころか、1割も理解できない。 それでも私は、楽しそうに話してくれる彼の笑顔を見ているだけでとても嬉しくて、幸せで……耳を傾けていてもちっとも退屈ではなかった。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ……ねぇ、おじいちゃん。 そんな幸福な時間を、もっと味わいたくなったからだろうか。 私は、説明がひと段落したのを見計らってこれまでずっと疑問に思っていたことをふと、おじいちゃんに尋ねかけていった。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: おじいちゃんはどうして『雛見沢症候群』のことをそこまで一生懸命に調べようとしているの?やっぱり、病気にかかっている人を助けたいから? 一二三: ははは、もちろんそうだとも。おじいちゃんは歳を取った今でも、医学に携わる者の端くれだからね。 一二三: 困っている誰かを、自分の知識や技術で助けることができれば、それに代わる幸せはないさ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: そっか……そうだよね。 実に当たり前すぎる回答が返ってきたので、私はくだらない質問をしてしまったことを少しだけ後悔する。 ……ただ、この時のおじいちゃんはよほど機嫌がよかったのか、それとも新情報に興奮していたからなのか……。 普段であればそこで終わっていた話の後に「それと……」と間髪入れず前置きを挟み、さらに言葉を繋いでいった。 一二三: 『雛見沢症候群』の研究を通じて、究明してみたいことがあるんだよ。人間の思考、感情のメカニズムを……ね。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r:         思考と感情の、メカニズム……? Part 03: #p高野美代子#sたかのみよこ#r: 思考と感情のメカニズムって……どういうこと? 一二三: そうだな……たとえば、みよ。お前はカマキリとハリガネムシの関係について知っているかい? #p高野美代子#sたかのみよこ#r: もちろん。この前畑のそばで見つけた時に、おじいちゃんが実際に見せてくれたもん。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: いきなり黒くて細長いものが出てきた時は、思わず悲鳴を上げちゃったけどね。 一二三: はっはっはっ、そいつはすまなかった。 おかしそうに笑うおじいちゃんに少しむくれた表情を向けながらも、私は記憶をたどって楽しさをかみしめる。 おじいちゃんと一緒に出かける野外活動は、どんなものでも大好きだった。気持ち悪い体験でも、新鮮な発見があったからだ。 その中でも、水の中に沈めたカマキリの中からハリガネムシが姿を現した様子は、何も知らなかったので衝撃的な光景だった……。 一二三: あのハリガネムシは、幼生の時からカマキリの体内に入り込み、栄養を受けて育った後……やがて脳を支配してしまう。 一二三: そして、私たちがあえて何もしなくても水の中に飛び込むように命令して……母体を捨てて本来の住まいへと帰っていくんだ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: じゃあ……あのカマキリが死ぬのは、もう避けられないことだったの? 一二三: 残酷な言い方になってしまうが、その通りだ。あの寄生虫を体内に取り込んだ時から、あのカマキリの運命は決まっていたことになる。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: …………。 なんとなく複雑な想いを抱いて……私は押し黙ってしまう。 元々昆虫は、私たち人間よりも寿命が短い。だから水の中に飛び込んで死んだといっても、それほど長短の違いは発生しないだろう。 だけど、……自分の意思ではなく誰かの意思によって運命が決まるというのは、さすがに哀れを覚えずにはいられなかった。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: なんか……可哀想だね、そのカマキリ。ハリガネムシを身体の中に取り込んでなければ、自分の意思で長く生きられたはずなのに……。 一二三: ……ふふ、みよは優しいなぁ。だが、それとは違う捉え方もできると思うよ。 一二三: たとえば、ハリガネムシだけの意思ではなくカマキリも同意の上で死を選んでいた……という見解で考えてみれば、どうだい? #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ……どういうこと? 一二三: カマキリの中に、2つの意思があったということだ。本来のカマキリと、途中から参加のハリガネムシ……。 一二三: それぞれが話し合い、結論として水の中に飛び込んで命を絶ったとも考えられるんじゃないか? #p高野美代子#sたかのみよこ#r: えっ……? じゃ、じゃあカマキリも自分の意思で死んじゃったってこと?それって、なんかおかしいと思うけど……。 一二三: そうかい? たとえばカマキリは、周りにメスが見つけられない状況で冬を迎えようとしていた。 一二三: このままではやがて、野垂れ死ぬだけだ。だとしたら、せめて内部のハリガネムシだけでも体外に出して、生き残る道を探したほうがいい。 一二三: いや、むしろ自分の意識もハリガネムシに移した上で水の中に脱出させれば、そのカマキリは生き延びることができるんじゃないかな……? #p高野美代子#sたかのみよこ#r: 確かに、その通りだけど……でも、カマキリの意識がハリガネムシに移行したって証明は、誰にもできないよね? 一二三: あぁ、その通りだ。だから私は、それを証明したいと考えているんだよ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ふーん……。 ……今になって思い返すと、この発想はとんでもなく狂気に満ちたものだったと理解して、戦慄を覚えずにはいられない。 当時の私が無知で……おじいちゃんに無限の信頼を置いていたからこそ、聞き続けることができたのだ。 事実彼はそれ以降、この話題を口にすることは決してなかった。おそらく冷静になってから、とんでもないことを言ったと後悔したのだろう……。 だけど……いや、だからこそ私はその内容に魅せられた。 ひょっとすると、私が『#p雛見沢#sひなみざわ#r症候群』に強い興味を最初に抱いたのはまさにこの時だったのかもしれない……。 一二三: これは、私の仮説なんだが……人間の体内には、数多くの寄生虫や細菌が入り込んでいる。 一二三: それらが有するのは、生存本能のみというのが学会での見解なんだが……私は、違うと思う。それが、さっきのカマキリと寄生虫の関係なんだ。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: つまり……寄生虫や細菌たちにも人間と同じような意思があって、お互いに意識や思考、感情を共有している……? 一二三: というよりも、人間の個体そのものがひとつの社会であり……個の集合である可能性も否定できないと思う。 #p高野美代子#sたかのみよこ#r: ……私たちが自分の意思で決めていると思っていたものが、実はたくさんの意思が多数決を取ったりして決まったものだってこと? 一二三: あぁ。なにかしら発言権の強い存在が集合体を取りまとめ、従えた上で……決断を下しているのでは、とね。 一二三: そして肉体が滅んだあとは、情報を保持した上で形を変え、新たな宿主へと移りゆく……。 一二三: だからいずれ、人間というものは数を絞って意識が統合されていくのかもしれないね。そして未来の世界では、さらに発展して――。 入江: ……さん、高野さん……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: っ……あら、入江先生。どうかなさいましたか? 入江: あ、いえ。お休みになっているところ大変申し訳ないのですが、少々見てもらいたいものが出てきまして……。 #p高野三四#sたかのみよ#r: わかりました。身だしなみを整えてから伺いますので、少しお待ちいただいてもよろしいですか。 入江: もちろんです。地下の例の部屋でお待ちしております……では。 …………。 #p高野三四#sたかのみよ#r: 意識の統合……『共同幻想』、か。 #p高野三四#sたかのみよ#r: その真理の先に何が待ち受けているのか、今からとても楽しみだわ……くすくす……!