Part 01: レナ(24歳): っ、……行かせるものか……!私たちの「明日」は、絶対に渡さないッッ!! 地面を駆った勢いのまま、私は目の前に迫った怪物の頭上へと跳躍する。 そして渾身の力を込め、両手持ちに構えた鉈をトドメとばかりに振り下ろした――ッ! レナ(24歳): は……あぁぁぁああっっ!! ツクヤミ: 『ガァアアアアアアアアアアアッァァァ?!』 「カード」の力を得て増幅された斬撃で、『ツクヤミ』の巨躯が真っ二つに裂かれていく。 やがてそれは、断末魔の悲鳴を私の鼓膜の奥に残しながら……跡形もなく霧散して何も見えなくなった。 レナ(24歳): ……っ、……はぁ、っ……! ようやく倒し終えたという安堵を覚えた瞬間、全身からどっと汗が噴き出してくる。 額にはりついた前髪をかき上げて顔を上げると、木々の間から差し込むのは眩しいほどの太陽の輝き。……気づかないうちに、夜が明けていたらしい。 魅音(25歳): ……レナ、そっちは終わったー……? 背後から声がして振り返ると、魅ぃちゃんが武器を「カード」に戻しながらこちらへと歩いてくるのが見える。 彼女も全力を出し切って戦ったのか、身体のあちこちが泥や土埃で汚れていたけど……幸い、怪我をした様子はなさそうだ。 レナ(24歳): (……この光景、覚えがある) その時ふと、脳裏に蘇ってきたのは……神社の境内で一緒に戦った魅ぃちゃんと圭一くんたちの姿だった。 記憶としてはおぼろげで曖昧だけど、そこで私は、今回と同じように大切な誰かを脱出させるために怪物と戦い、そして――。 菜央: 『お願い! 待って、行かないでお姉ちゃん!!』 菜央: 『お姉ちゃん……お姉ちゃぁぁぁぁんんっっっ!!!』 レナ(24歳): (っ、……あぁ、そうか……) 菜央の悲痛な叫び声が、リフレインとなって記憶の底から聞こえてきて……私は、理解する。 振り向きたい未練を必死に振り払い、胸を締めつけられるほどの苦渋に苛まれながら怪物たちに立ち向かっていって……そして……。 レナ(24歳): (おそらく私たちは、どこかで力尽きて……全員、死んでしまったんだろう) 死に瀕した時、私が最期に思ったのは菜央のために時間稼ぎができたという満足感なのか、それとも二度と会えないという絶望だったのか……。 あの「世界」にいた自分の継承に失敗した私には、残念ながらそのどちらだったのか……わからない。 だからこそ今は、こうして無事に生き延びて笑顔を見せる魅ぃちゃんの姿を見られたことを素直に喜びたいと思った。 レナ(24歳): はぅ……魅ぃちゃんこそ、大丈夫?そっちにも、かなりの数の怪物がいたと思うんだけど。 魅音(25歳): 10年間の修羅場に比べたら、全然平気だよっ!……まぁ、全力を出したのは久しぶりだから明日は全身筋肉痛だろうけどね。 あははっ、とにこやかに肩をすくめながら魅ぃちゃんは気丈に振る舞ってみせる。 そして、周囲をぐるりと見渡して敵の気配がなくなったことを確認すると、他の人たちに向けて呼びかけていった。 魅音(25歳): ……絢花ー! 南井さーん!それに川田さんと、残りの役立たずー! 魅音(25歳): 全員、まだずうずうしくも図太く生き残っているかーいっ? 灯: イエーイ! 役立たずのあーちゃんは、朝になっても変わらず元気でーす! 川田: っ、うるさっ……?こんな近くで、でかい声出すんじゃない。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……戦力にならなかった人が、どうして手柄を立てたような顔で偉そうにしているんですか? 灯ちゃんの快活な返事に対して、隣に並ぶ川田さんは心底煩わしそうに渋面を作りながらため息をついている。 絢花ちゃんに至っては、最初の悪印象をいまだに引きずっているのか……不快げな表情で言葉の毒を隠さなかった。 巴: ……灯、その元気はとっておきなさい。下山の途中で体力が尽きて、転落して大怪我でもしたら……秋武姉が泣くわよ? 灯: 問題ナッシングです!ここに到着してからシンプルに役立たずなので、体力は有り余ってますっ! 南井さんに元気をアピールするように、灯ちゃんはその場で跳びはねている。 そんな様子を、絢花ちゃんは少し恨めしそうに横目で睨みながらため息交じりにいった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……やっぱりこの人だけは、下の神社に残ってもらったほうがよかったのかもしれませんね。守りながらの戦いは、実に大変でした。 灯: いやいや、面目ない。いらぬご厄介をかけてすみませんねー。 そう言って愛想を振りまく灯ちゃんを、絢花ちゃんはじろっ……と睨みつける。 が、すぐに大きくため息をつき……視線を落としながら自嘲交じりに呟いた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 厄介……ですか。かくいう私も、一穂さんを犠牲にした上でここにいるようなものなので……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 厄介者という意味では、似たようなもの。誰かを責められるような立場ではないということは、重々理解しています。 レナ(24歳): 絢花ちゃん……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……因果なものです。「世界」が変わり、その恩恵を受けたおかげで私は激しい運動にも耐えられるほど強くなることができた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: でも、その一方で私は大切な人から運命を奪って、不幸にしてしまった。……本当に、呪わしい限りです。 灯: んー……それは、どうなんでしょうか。 ふいにおどけるのをやめた灯ちゃんはぱしん、と自分の頬を叩いてみせる。 そしてにこやかな笑みを浮かべながら絢花ちゃんの前に回り込むと、屈託のない表情のまま顔を近づけていった。 灯: そもそも、あなたが手に入れた今の幸せは対価として誰かが不幸になることを望んだ上で実現したものではなかった……ですよね? 灯: だったら、あなたひとりで責任を背負い込む必要もないし……その義務もないと私は思いますよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……責任なら、ありますよ。自分のせいで誰かが不幸になったという事実がある以上、私が疫病神だということに変わりはない。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 何も知らないくせに……お為ごかしな慰めのつもりでしたら、無用に願います。嫌いな人に気遣われても、不愉快なだけですので。 灯: そう目くじらを立てないでください。あなたを慰めようとか正当化しようとかではなく、私は一般論を述べているだけです。 そう言って笑みを崩さないまま、灯ちゃんは絢花ちゃんとまっすぐに向き合う。 面と向かって「嫌い」と言われたのに表情が変わらず、全く堪えた様子がない。図々しい性分なのか、あるいは……。 灯: あなたの過ちが、本当に過ちだったのか……そして許されるどうかは、相手にもかかっている。あなただけが判断していいことじゃない。 灯: 相手の優しさや寛容度、あなたへの打算的な#p思惑#sおもわく#r。もしくはこれまでの関係に基づく、想いの深さ……。 灯: それらを要素に加えることでどんなに不利益であっても甘んじて受け止め、許し、相手が利益を得たことを心から喜べる……。 灯: それが、あなたが好意を寄せて尊敬する……大切な友達というものだと、私は思います。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……っ……。 灯: 逆の立場で考えてみてください、西園寺さん。あなたは一穂さんのために自分が犠牲になった時、彼女を呪いますか? 恨みますか? 灯: 過剰な内罰思考は、犠牲となってくれた人の想いの強さを貶めることにも繋がりかねない。……あまり良いことだとは思えませんね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それはっ、……。 淡々と、だけど痛いところを突かれたという自覚があったのだろうのか……絢花ちゃんはばつが悪そうな顔で、視線をそらす。 すると、それを聞いていた魅ぃちゃんがうんうんと頷きながら言葉を繋いでいった。 魅音(25歳): 確かに、秋武の言うことにも一理あるね。私もなんだかんだで、これまでずっと親戚や関係者に助けられたクチだからさ。 魅音(25歳): みんな、言ってくれていたよ。「もし園崎家が存続して私が頭首になっていたら……助けられていたのは、自分たちだった」。 魅音(25歳): 「だから気にせず、頼ってくれ。そして立場がまた入れ替わるようなことがあれば、今度は助ける側に回ってほしい」……だって。 巴: ……良い親戚さんたちに恵まれていたのね。 魅音(25歳): はい。これまで名前でしか知らなかった……遠縁の親戚。生き延びることができたのは、あの人たちのお陰です。……でなきゃ、とっくに死んでいたと思います。 そう言って魅ぃちゃんは、ここには居ない人たちに感謝を伝えるように遠い目をする。……そんな彼女を見て絢花ちゃんは、ため息をついてかぶりを振った。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: お考えを否定するわけではありませんが……魅音さんと私とでは、状況も立場も違います。そうしてもらえる経緯と環境が、あなたにはあった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: でも、一穂さんは……自分の運命を引き換えにしてまで、私なんかを助ける必要なんてなかったのに……っ……。 レナ(24歳): 絢花ちゃん……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あの時、私の助命を「世界」に願ったから一穂さんの運命が大きく変わってしまった!私がちゃんと弁えていれば、彼女は……っ……! レナ(24歳): ……。絢花ちゃんは10年もの間、ずっとそんな後悔に苦しんできたんだね……。 思わぬかたちで出てきた絢花ちゃんの本音に、私は胸が締めつけられるような切なさを覚える。 自分が生き長らえているのは、大切な友達が犠牲になったから。……その事実がずっと、彼女の優しい心を苛み続けていたのだろう。 10年もの間、絢花ちゃんはそのことを思って私たちと同じかそれ以上に悩み、苦しんで……針の筵のような日々を送ってきたに違いない。 その気持ちは、私にも痛いほどわかる。だけど……それでも、彼女は……。 レナ(24歳): ……そうじゃないよ、絢花ちゃん。 私は意を決して、差し出がましいとは思いつつも口を挟む。 レナ(24歳): (絢花ちゃんが過去のことで、自分を責めたくなる気持ちは理解できなくもないけど……) だからといって、自身の存在や価値までも否定するのは違うと思う。なぜなら彼女は、間違いなく私を救ってくれたのだから……。 レナ(24歳): あなたが、健康な身体を手に入れてくれて……その上でレナを見つけて匿ってくれたおかげで、私は、ここまで辿り着けたんだよ。 レナ(24歳): だから、犠牲になって喪われた命があっても、繋がった命も確かに……ここに存在している。私がここにいるのは、あなたがいてくれたから。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……レナさん。 レナ(24歳): あなたが一穂ちゃんの犠牲で生きているのなら、私も彼女の頑張りのおかげで、ここにいるんだよ。……そのことを、どうか忘れないで。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それは、……っ……。 そう言って絢花ちゃんは、困ったような表情で視線を彷徨わせた後……こくり、と小さく頷く。そして、俯いていた顔を少し上げてくれた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それはそうとレナさん……あなたこそ、お身体の具合はどうなんですか?最近まで、腕を動かすのも辛そうだったのに……。 レナ(24歳): うん……ずっとまともに動けていなかったのに、私もちょっと驚いたかな……かな。 川田: ……寝たきり? レナさんって、何かご病気だったりしていたんですか? この「世界」での私の事情を知らなかったのか、川田さんがきょとんと訝しげに口を挟んでくる。 すると、私が答えるよりも早くそばにいた灯ちゃんが前に進み出ていった。 灯: 詳しい経緯と期間は不明だが、レナ先輩は発見された時……心身を病んでいたらしい。 灯: 表向きは自殺していたことになっていた彼女はろくに医者にも診てもらう機会もなく、長らく西園寺さんの庇護下で療養していたのだが……。 灯: うまい具合に、ちょうど美雪くんたちがこの「世界」に戻ってきた直後に回復したそうだ。 川田: ……なんであんたが答えるんですか。私はレナさんに聞いているんですよ。 灯: いや、こういった事情は本人の口からだと話しづらいんじゃないかな、と思ってね。それに……。 灯: レナ先輩が伏せっていた理由、そしてなぜ病状がいきなり回復したのかは……あおいなら心当たりがあるんじゃないかな? 川田: ……さぁ、何のことやら。それより、あんたはいつレナさんの状況についての話を聞いたんですか? 灯: いやー、誰かさんにぶっ倒されたあおいがスヤスヤと可愛い寝顔をさらしている時に、ちょっとねー。 灯: ……痛っ? うわっ、肘に擦り傷が。いつの間にできたのかな……? 川田: 途中で何度か転んだから、その傷ですね。水で洗って、絆創膏でも貼っておけば十分です。……はいこれ。 灯: わぁ、ありがと。やっぱりあおいは、口は悪いけど優しい……。 灯: あれっ?これ絆創膏じゃなくて、湿布薬なんだけど? 川田: 刺激で目が覚めたら、そのぴーかん頭も少しはまともになるかもしれませんからね。……唐辛子なら、なお良かったんですが。 灯: ん……? 結果的に徹夜にはなったが、私の意識ならハッキリくっきりと起きているよ? 川田: ……あー、殴りたい。本当にあんたは人をイラつかせる名人ですね!! 灯: はっはっはっ、そんなに褒めなくてもあおいのことはよくわかっているって~♪ 川田さんが吐き捨てるように罵声を叩きつけても、灯ちゃんは全く堪えた様子もなく涼しい顔だ。 ……たとえるなら人懐っこいワンちゃんと、煩わしそうに威嚇してみせる猫ちゃん。 見慣れない2人のやりとりなのに、なんだか見慣れた光景のようでもあって……胸の中が、懐かしさでいっぱいになる。 と、そんな中魅ぃちゃんが大きく伸びをしてから私たちに向かってにこやかに告げていった。 魅音(25歳): さーて。美雪たちも送り出したし、私たちも行くかぁ! 川田: は……?行くって、どこに行くつもりなんですか? 魅音(25歳): もちろん、公由稔の行方探しだよ……あ、そっか。これってあんたが寝ている間に決めちゃったから全然知らないんだったね。 そう合点して魅ぃちゃんは、情報の共有ができていない川田さんに今後のことを説明した。 魅音(25歳): 美雪の話してくれた未来が事実だとしたら、この「世界」でもたくさんの人が血を吐いて死んでいく惨劇が起こるかもしれない。 魅音(25歳): もし、それが公由稔による『#p雛見沢#sひなみざわ#r症候群』を悪用した毒物テロだった場合は、やつの身柄を一刻も早く押さえる必要がある――。 魅音(25歳): かいつまんで話すと、そうことになったんだよ。……ですよね、南井さん?。 巴: えぇ。今の私たちにいったい何が、そしてどこまでできるかはわからないけど……何もしないままじゃいられないものね。 巴: ただ、問題はそいつらの居場所がどこにあるのかが皆目見当つかずでお手上げ状態、ということなんだけど……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 大丈夫です。……おそらくそれについては、この私がお手伝いできるかと思います。 レナ(24歳): 絢花ちゃんが……? その申し出に私たちが顔を向けると、絢花ちゃんは小さく手を上げたまま「はい」と頷いていった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 公由一派や新雛見沢に関わる連中の情報は、ある程度の範囲で把握しています。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 確認に時間がかかるかもしれませんが、然るべき窓口に連絡を取れば入手も可能です。 川田: ……なるほど。では、ここらで解散ということで。私はこれで失礼します。 川田: ――ぐぉえぇっ?! 灯: あ、やば……ひっぱりすぎた。 振り向くのが一瞬遅れて見逃してしまったが……どうやら逃げようとした川田さんを引き留めるために灯ちゃんがとっさにストールを掴んだ……らしい。 ただ、うっかり強く引っ張りすぎて首を絞めてしまったのか、彼女には似つかわしくないカエルを踏んだような悲鳴だけが耳に残っていた。 川田: げほ、げほっうぇっ、ごほっ! このっ……! 怒り満面の川田さんが激しく咳き込みながら、灯ちゃんに食ってかかろうとする。 と、それを見た魅ぃちゃんは慌てて2人の間に割って入り、口を挟んでいった。 魅音(25歳): ちょっ、ちょっとちょっと……!ここで失礼って、あんたはどこに行くつもりなのさ? 川田: ゲホッ……っ、どこって……話す必要あります……?私は、私の目的のためにしか動きませんので。 川田: そもそも、なにか勘違いをしていませんか?さっきのは采様のご意志を受けたので、仕方なく『御子』として一時的に共闘しただけですよ。 魅音(25歳): ……その割に、結構本気で頑張っていたじゃんか。 川田: 気のせいです。もしくは勘違い。……そもそも、一緒に行くなんて言いました?言っていないですよね? ではお疲れ様でしたー。 灯: じゃあ、簡単な話だ。今決めよう! あおいも私たちと一緒に行こう! 川田: 話を聞け、クソアマ。 巴: ……あおい。 けんもほろろに取り付く島もない川田さん。そんな彼女に、南井さんが説き伏せるようにしていった。 巴: あんたが何を考えているのかはわからないけど、もうひとりだけでやらなくてもいいんじゃない? 巴: 方法は選ぶけど、この状況なら私たちも手伝えることがあると思うわ。……だから、また戻ってきなさい。 川田: あぁ……その提案は、もう少し前段階であれば非常に魅力的でしたねぇ。 川田: ですが……今の私は、川田碧。南井巴が引き取ったのは、畠山あおい。残念ながら別人なので、その提案はのめません。 川田: ……というわけで、お気遣いは無用です。その理由も必要もありませんしね。 巴: あおい……。 灯: ――じゃあ、川田碧と畠山あおいを同時に指し示す呼び名をつけようか。「アオミド」とかどうかな?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 田んぼの藻みたいですね。 川田: なんだその、ミックスなニックネームは……?幼稚園児の方がもっとまともな名前考えますよ。 灯: ……なんて、冗談はさておくとして。だとしたらあおいは、この場からどうやって逃げるつもりなのかな? 灯: 私からは容易に逃げられても、レナ先輩からは逃げられない……身をもって体感しただろう? 川田: ……レナ先輩、ですか。私が寝ている間にずいぶんと親交を深めたみたいですね。 レナ(24歳): うん、灯ちゃんとは仲良くなっていろんな話を聞いたよ。 レナ(24歳): どうしてあなたが、私たちが知らないことを知っているのかも……なんとなく察している。 レナ(24歳): だから、このまま立ち去るのを黙って見送ることはできない……かな。 川田: ……言うことを聞かないようなら力づくでも連れて行く、と? レナ(24歳): あははは。うん、それは最終手段かな。 川田: ……選択肢のひとつとしてはそれもアリというわけですね。 レナ(24歳): 本当に、最終の手段だよ。……できればちゃんとわかり合って、協力したい。 私は、彼女のいた「世界」の記憶がないので……川田さんのことはよくわからない。 だけど、自分の中で泡のように浮かんでは消える限りなく記憶に近い曖昧な何かが訴えてきていた。 レナ(24歳): (話を聞く限り川田さんは、惨劇も悲劇も厭わず前に進むことができて、その覚悟もある強い心の人だ) レナ(24歳): (……でも、彼女の選ぶ道だと「答え」は見つからない。そして本人だって、きっとそれに気づいているはず……だから……) レナ(24歳): ここにたどり着くまでの私と、あなたの道のりは全然違うけど……たぶん、望む未来はそう違うものじゃないと思う。 レナ(24歳): だったら……きっと、手を取り合える。私はそう思っているよ。 川田: …………。 そう伝えてからしばらくの間、川田さんはまるで縁石の下からにらみつける野良猫のような視線を向けてくる。そして――。 川田: そこまで私のことを引き留めたいというのであれば、ひとつ……条件があります。 首にかかったストールを払うと腕を伸ばし、灯ちゃんを指さしていった。 川田: そこのバカを、この件から外してください。 Part 02: 川田さんから出された条件の提示に、私と魅ぃちゃんもとっさに返事ができなかった。 魅音(25歳): え、秋武を? なんで? 川田: 質問を質問で返すようですが……役立たずで邪魔者な上に、#p雛見沢#sひなみざわ#rに無関係な部外者を連れ回すメリットってあるんですか? 川田: というか、こいつがどうしてこんなにも首を突っ込んでくるのかが違和感ありまくりです。 灯: 野次馬的な好奇心……って言っても、たぶん信じないよね。 川田: えぇ、信じませんしイラつくだけです。……そもそも今回は、既定路線を外れまくったイレギュラー的な出来事が起きすぎています。 川田: ここまで状況が乱れているのは、曲がりなりにも保たれていた「世界」の均衡がもはや崩壊寸前……という証明でもあります。 川田: そして、私の予想ですが……おそらく、次はありません。 川田: つまり今回が、状況を正す最後の機会になる……不安要素は、可能な限り取り除いておきたいんです。 レナ(24歳): …………。 川田: その条件を飲んでくれるなら、同行します。戦いの際でも、お望みとあれば加勢しましょう。……私が持っている情報を、提供してもいい。 川田: こちらとしては、最大限の譲歩をしているつもりですが……どうです? その提案を聞いて、私と魅ぃちゃんは困惑の思いとともに顔を見合わせる。 話を聞く限り、灯ちゃんと川田さんはそこまで仲が悪いわけではない……と思う。さっきの口論も、じゃれ合いの範囲内だ。 にもかかわらず、彼女はどうしてここまで頑なに同行を認めようとしないのだろうか。あるいは何か、話していない理由があって……? 灯: …………。 さらに、そこまで拒絶されても……どういうわけか灯ちゃんは動揺した様子ではない。ただ黙って、川田さんを見つめている。 そんな2人の表情を見比べてから、私は隣の魅ぃちゃんに顔を向けていった。 レナ(24歳): ……魅ぃちゃん。 魅音(25歳): ……私としては、秋武は連れて行きたい。邪魔にならないとは断言できないけど、役に立たないとも断言できないしね。 魅音(25歳): ただ、川田さんを制圧できるのはレナだけだから……ごめん。決定権は、レナに託させて欲しい。 連れて行きたいけれど、自分では決められない。決める権利はない……そんな苦渋の声色だった。 レナ(24歳): (昔の魅ぃちゃんなら……連れて行くって自分から断言していたかな?) 昔みたいに部長命令だ、と告げてくれていいのに……なんて考えてしまうのは、彼女に甘えすぎだろうか。 レナ(24歳): (……うん、甘えだよね) なぜなら、川田さんを制圧する際の危険性を魅ぃちゃんは過小評価していない。冷静に現在の状況を見極める目を持っている。 レナ(24歳): (それに、彼女には『川田碧』の偽名を与えて首輪をつけた何者かが後ろにいる……川田さんを敵に回すことは、そっちも敵に回すことになる) それを考えると、個人的な感情や事なかれ主義で判断を下すわけにはいかない。ここは、どう返すべきだろうか……? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……私も意見、よろしいでしょうか。 レナ(24歳): 絢花ちゃん……? その声に顔を向けると、私たちの話に耳を傾けていたはずの絢花ちゃんが細い手を上げている姿が目に映る。 そして彼女は、冷たい視線を灯ちゃんに向けながら言葉を繋いでいった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: この人……秋武さんを連れて行くのは、いろんな意味で危険だと……思います。 魅音(25歳): えっ……なんで? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 先に言っておきますが、これは私が秋武さんのことが嫌いだから……ではないです。正直、さっきの経緯で少し見直しましたので。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: でもこの人は、まだ何かを隠しています。……それが何なのかがわかるまで、私はどうしても信用することができません。 さらに別方向からの、反対の意思表示。困惑して何も言い返せずにいると、私に代わって巴さんが口を挟んでいった。 巴: 立場上まだ話せていないことだったら、私にだってあるわよ。それに、他の子たちもそれなりに秘密があって当然だし……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: もちろん、それぞれにご事情があるでしょう。全てをお話ししていただく必要はありません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……私が気にしているのは、別のことです。 レナ(24歳): 別の、こと……? それが何を指し示しているのか計りかねていると、絢花ちゃんは「はい」と頷いてから続けていった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 秋武さんが、出立前の千雨さんと話をしている時……失礼と思いつつ立ち聞きをさせてもらいました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そこで彼女が、強引に話題をすり替えるのを耳にして……本来伝えるべきことを隠そうとする意図が感じられたのです。 魅音(25歳): 話題のすり替えって……どういうこと? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: わかりません。ただ、その疑惑が解消されないまま彼女を同行させるのは、今後の不確定要素になる。……私は、それを危惧します。 レナ(24歳): …………。 絢花ちゃんの意見を受けて、私と魅ぃちゃんは灯ちゃんへと視線を移す。 彼女は目を閉じて、何か考え込んでいるようにも見えたけど……やがて目を開け、肩をすくめると静かに落ち着いた口調で答えていった。 灯: 隠している……というのとは、ちょっと違うね。千雨くんに話したのは、必要な分だけに絞っただけだ。 灯: 不要で不確定な情報は、彼女たちの邪魔になる。君の実家である西園寺家が絡んでいるとなれば、なおさら……ね。 川田: 千雨さんと話って……なんのことです。私が寝ている間に、何を伝えたんですか? 灯: 推理と呼ぶにはあまりにもか弱すぎる、無関係な第三者目線で気づいた話……あとは西園寺家のことを、いくつかね。 川田: っ、だからそれが不確定要素になると……ッ! 苛立ちもあらわに川田さんは、灯ちゃんの襟首を掴む。そして噛みつかんばかりの勢いで叫んでいった。 川田(私服目開): どうして、余計なことを吹き込むんですかっ?采様に真相を聞かされて落ち込む彼女たちの姿をもう忘れたとでも?! 灯: 覚えているよ。憔悴して、疲れ果てて、自分を取り繕う気力すら失い……だが。 灯: 飲み込みきれない現実をなんとか受け入れつつ、己ができることを考え……確たる覚悟を決めて旅立った。 川田さんに襟首を締め上げられながらも、灯ちゃんはそれまでと変わらない調子でとつとつと続ける。 その表情は、これまでの飄々としたものではなく……何かを悟ったような、真剣な空気をはらんでいた。 灯: 美雪くんたちは、とうの昔に真実の赤い糸に指をかけている。 灯: まぁ、当然だね。彼女たちは惨劇の当事者であると同時に、10年という時を隔てた他者でもある。 灯: 言ってみれば天体望遠鏡と、顕微鏡を同時に所持しているようなものだ。だから近くも、遠くもよく見える……だが。 灯: 当事者だからこそ、大切なもの……否定したくないものからは無意識に目を背けて……悩み、苦しんでいた。 灯: ……それでも、彼女たちは旅立ったんだ。その意思は尊重すべきだし、できる限り応援したいと思っただけだよ。 川田(私服目開): っ……私は、采様が望んだから従っただけで彼女たちを送り出すことが最善だったとは、本心では思っていません。 川田(私服目開): あんなの、地獄の底で穴を掘るようなものです。ただ深度を深めるだけの……無意味で辛い……! 川田(私服目開): その実態を知ればきっと、大人しく私に殺されていた方がよかったと……後悔するはずです。 灯: 自分を殺した川田碧を、呪いながら……か? 川田(私服目開): ……いいじゃないですか。自分の責任とかも全部忘れて「なかった」ことにして、ただただ他人の非を責めて呪って、……憎んでも。 川田(私服目開): 自分を責めて、憎んで呪って追い詰めて救いを捨てて……そうやって惨めに死ぬより、ずっとマシです。 巴: あおい……。 灯: ……なるほど。だからあおいは美雪くんたちを殺し、他のあらゆるものも害し、傷つけ、奪って……。 灯: 一身に憎悪を集めて、最悪の状況を収束させ……最期は「世界」を渡り歩いてきた彼女たちの手で悪鬼として殺される気だった……と? 川田(私服目開): ……。わずか10歳で家族を皆殺しにしたイカれた女が、全ての元凶。こいつさえ殺せばなにもかも解決して、ハッピーエンド。 川田(私服目開): ……いいじゃないですか。シンプルで、わかりやすくて……希望がある。 灯: 彼女たちにとっては、まぁ偽りの希望だね。……だが、同時に別の人にとっての絶望だ。 灯: 君のことを想っていた巴さんや他の人たち、何より私がその結果を聞くことでどんなに悲しむのか……考えてはくれないのかい? setocostume: 私服目開 川田(私服目開): っ、あんたが何を思おうが、私はっ……! 灯: でも……そんな生き方で代わりに罪を背負おうとする優しいあおいのことが、私は……好きだよ。 川田(私服目開): ……っ……! そう返されるとは思ってもみなかったのか、川田さんは怒鳴るのを途中で引っ込めて驚いた表情で目を丸くする。 そんな彼女に対して灯ちゃんは、にこやかに笑いかけながら言葉を繋いでいった。 灯: 私は、自分が悪人になるのは真っ平だからね。そんな詰め腹を切るくらいなら道化を演じて、無能なままがいい。 灯: でも……そうやって、悪人になってでも誰かを救おうとするあおいを見ていると羨ましくもなるし、憧れる。 灯: かつての日本のハラキリ文化を肯定する気は毛頭無いけど……自己犠牲ってのはある意味、神の座に近づく高尚な考え方だからね。 川田(私服目開): …………。 あたたかな笑みを浮かべる灯ちゃんに見つめられて、川田さんが言葉を出せずに口をつぐんでいる。 虚を突かれたことに加えて、あるいは彼女にとっては図星だったのか……その表情はなんとも言えない様子だった。 灯: けどまぁ……目先のことだけを解決するために、あおいを犠牲にすることは断じてノーだ。 灯: それに、数多の憎悪を受け止めるような偉業はもはや神様くらいにしかできない……いや、してはいけないんだと思う。 川田(私服目開): だったら、私が神様にでもなんでもなればいいだけの話ですよ。元より私は、采様の『御子』……神の子なら素養は十分です。 灯: うーん、強情だ。西園寺さん、どう思う? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 大変ですね、川田さん。えぇ、本当に……いろんな意味で同情します。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: わかり合えないって、怖いことなんですね。秋武さんの話す内容は半分も理解できませんし、明らかに結論から遠ざかる一方です。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……ひょっとしてこれは、この人の癖?巧言で本質を遠ざけようとしているのではなく単純に口下手というか、説明が不得手……? 川田(私服目開): 私の気持ちが一片でもご理解いただけたようで何よりです! 灯: ん? なんの話……あいたっ。 呆れたようにため息をつく絢花ちゃんに対して、灯ちゃんは首を捻ってみせる。すると、その頭を背後から歩み寄った南井さんがぺちん、と叩いた。 巴: ……灯。話が長い。あと、脱線しすぎ。ついでに相手の意見を論破していくから反感を抱かれやすくなる。……20点ね。 灯: わぁ、容赦の無い採点……! 魅音(25歳): っていうか、秋武。やたら長い話だったけど、美雪たちには自分の思うがままにやってこい……そう伝えたかったって解釈でいいんだね? 灯: もちろんそうです。あと、美雪くんたちと話をするのは最後になるので、言いたいことは全部言っておこうかと思いまして。 レナ(24歳): はぅ、最後……? 灯: ただ、なんにせよ……あおいの言う通りです。この先、私の同行にメリットはありません。東京に戻るならなおさらです。 灯: それに、私程度でもできることは全て姉さんの方が上手にこなせるので……例外はまぁ、料理くらいかな? 魅音(25歳): ……じゃああんた、私たちとは一緒に行かないってことに同意するつもりなの? 灯: 私を連れて行くとこんなメリットがありますよ!……と、自分を売り込むための材料が現時点では本当に何もないんです。 そう言って灯ちゃんは、苦笑まじりに肩をすくめる。続いて肩越しに私と魅ぃちゃんへと視線を送りながら、言い募るようにしていった。 灯: そもそも私がここにいるのは千雨くんが同行を許可し、魅音先輩が後押しをしてくれた流れに乗った結果です。 灯: 現状、私は川に流された草船のようなもの。上手いこと流れに乗ってくることができましたが、ただ流れに乗っただけなので……ね。 川田: 一応、現実は見えているみたいでなによりです。……というわけで、そろそろ結論いいですか? レナ(24歳): …………。 一度目を伏せて、呼吸を整える。……答えはもう、決まっていた。 レナ(24歳): 川田さんには、一緒に来てもらう。 川田さんが頷き、灯ちゃんがかすかに苦笑を浮かべかけて――。 レナ(24歳): 灯ちゃんにも、一緒に来てもらう。 川田: はぁっ?! 川田さんがひっくり返ったような悲鳴をあげた。 レナ(24歳): あっ、そう言えば灯ちゃんの意思をまだ確認していなかったね。……一緒に来る? 灯: も、もちろんっ……!ここまで来たのに仲間はずれで蚊帳の外は、本音を言うとまっぴら御免ですよ……! 巴: 諸手を挙げて大賛成ね……わかっちゃいたけど。 川田: え、あの……えっ? ちょっと? 正気ですか? レナ(24歳): うん、正気……だから、気づいたんだよ。 淡い、パステルカラーのような分校の教室の景色。その中で広がる、部活の記憶。 レナ(24歳): (カードを用いた、それぞれの#p思惑#sおもわく#rと駆け引き。相手の手札を読み自らの手札を決める……その応用) レナ(24歳): 川田さんが私たちに提示した、同行、協力、情報提供……。 レナ(24歳): この3枚のカードは、あなたが私たちに提供できるもの全部。 レナ(24歳): 普通、こういう交渉の場では少しずつ手持ちのカードを切って交渉に使う……そうだよね? 川田: …………。 レナ(24歳): なのにあなたは、手持ちのカードを最初から全部出してきた。 レナ(24歳): そこまでしてでも、灯ちゃんを私たちに同行させたくない理由がある……その裏返しの思いなんじゃないかな? 川田: ……っ……? 灯: はっ! もしかしてあおいは私のことを心配して巻き込まないために?! 川田: 違います。 魅音(25歳): あんたを守るためなら、最初からそう言うんじゃない?レナなら素直に言えば、秋武を諌めてくれるだろうし。 巴: となると、あおいには灯を連れて行きたくない別の理由があるってことね。……どうしてなの? 川田: ……コイツを連れて行くなら、私は何も喋りません。むしろ混乱を招くような嘘をつくかもしれませんよ。 レナ(24歳): そもそも灯ちゃんを連れていかなくても、あなたの情報が全部真実だという証拠にはならない……そうだよね、魅ぃちゃん? 魅音(25歳): そりゃそうだ。自分は真実しか言いません、って宣言しておいて平気で嘘つくヤツなんてごまんといるしさ。 だよね、と魅ぃちゃんと顔を見合わせて頷き合う。 魅ぃちゃんは、川田さんが仕掛けた「真意」にとっくに気づいていたのだろう。ただ、一番負担がかかる私を気遣ってくれた。 ……それを理解したから、私も決めたのだ。疑って出し惜しみなんて、もう必要ない。今はただ、全力でぶつかるだけだ……! レナ(24歳): 灯ちゃんに来てもらいたくない理由……それを川田さんが喋ってくれないんだったら、私は灯ちゃんを連れて行くよ。……ただし。 そして今度は、灯ちゃんに目を向ける。……これはある意味で、牽制だ。 レナ(24歳): (絢花ちゃんが心配していることも……理解できるしね) 彼女が信用できるか、わからないのも確かだ。だから連れて行くなら、必要な措置というか釘も刺しておくべきだろう。 レナ(24歳): 灯ちゃんには、私たちの言うことを聞いてもらう。その場で待機って言ったらじっとしてもらうし、してほしいことは可能な限りしてもらう。 灯: してほしいこと……とは? レナ(24歳): まだ具体的には思いつかないかな……でも。 レナ(24歳): 私たちだけじゃできないことも、あなたがいることで、できる気がする。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……。信頼するんですか、彼女を。 レナ(24歳): 信頼するほど、灯ちゃんのことはまだ知らない。だから、なんて言えばいいのかな……。 灯: 飼う、でいいのでは? レナ(24歳): ……飼う? 灯: 同行という餌のため、不肖この秋武灯は大人しく首輪をはめさせていただきます。……レナ先輩にはリードを握っていただければと。 灯: 待てといえば待ちますし、歩けと言われたなら歩を進めましょう。 灯: 首輪そのものは見えずとも、存在を自覚し、自分を律し……誠心誠意働かせていただきます。 レナ(24歳): ……じゃあ、そうしようか。 灯: よろしくお願いしますわんっ。 川田: くっ……! ご飯を前にしたワンちゃんみたいに屈託なく笑う灯ちゃん。 反対に毛を逆立てた子猫みたいに怒りを露わにする川田さんの肩を、絢花ちゃんがそっと触れていった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 全てを聞いて、レナさんが決めたことです。諦めて同行させたほうがいいと思いますよ。……私も見張りくらいなら、手伝いますので。 灯: ふむ。……この場合の見張り対象とは? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: もちろんあなたですよ。 灯: なるほど、では可能な限り大人しく見張られるとしよう! 川田: ずいぶんそいつらに協力的ですね、西園寺絢さん。そこのバカはともかく、これから私たちが挑んでやるべきことの本当の意味……わかっていますか? そう言って皮肉めいた笑みを浮かべながら、川田さんがじろり、と視線を送る。 それをまっすぐに受け止めながら、ようやく絢花ちゃんは笑みを浮かべて頷いた。 川田: あなたって雛見沢も、雛見沢の連中のこともあまり好きではなかった……と思うんですが。いったい、どういう心変わりなんです? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ハッキリ言っていいですよ、「嫌いだろ」って。――えぇ、嫌いでしたよ。雛見沢のことは。 setocostume: 私服目開 川田: ……っ……。 ほぼ即答なのが少し意外だったのか、川田さんが目を見開く。それを見て絢花ちゃんは、寂しげに目を伏せていった。 setocostume: 私服 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……雛見沢を憎んでいた時の記憶は、正確に言うと今ここにいる私自身が体験したものではありません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: だけど、私はそこで……一穂さんたちに救われた。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: その記憶を頼りに、本来なら終わるはずだった時間を……多くの人たちの運命を生け贄にして、私は10年も余分に生きることができました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: レナさんとの生活も、とても楽しかった……でも、そろそろ夢が覚めてもいい頃合いです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そのためなら、自分の好き嫌いは胸の奥にしまって今、できることをやりたい……それが本心です。 川田: 好き嫌いは胸にしまって……ね。 そんな絢花ちゃんの考えを聞いて、川田さんは苦笑とともに肩をすくめる。 そして意地の悪い表情を浮かべながら、彼女の顔をそっとのぞき込んでいった。 川田: ……絢花さん。あなたは知らないでしょうけど、私……別の「世界」ではあなたを殺したことがあるんですよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 一穂さんと逃げようとした私を……ですか? 川田: っ……記憶、あるじゃないですか。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: うっすらと……本当におぼろげに、ですね。何があったのかは全然覚えていません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ただの夢かと思っていたこともありました。ですが、どうやら……本当のことのようですね。 川田: …………。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 別に怒ってはいませんけど……殺した理由くらいは、教えてもらえますか? その問いかけに対して、川田さんは迷うように顔を背けて視線を泳がせる。 そして大きくため息をついてから、吐き捨てるようにしていった。 川田: ……古手絢花が一穂さんと逃げ延びてしまうと、私が伝え聞いていた中でも「最悪の未来」が現実のものとなっていたからです。 川田: それを防ぐためにあなたを、この手にかけた。……あの時の選択を、私は後悔していません。だから、絶対に謝りませんよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そうだったんですね……わかりました。いえ、元々わかっていたのかもしれません。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 今になってようやくあれが、あなたにとっても苦渋の選択によるものだと理解できるようになりました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 未来を「選ぶ」というのは、本当に難しいことなんですね……。 そう言って絢花ちゃんは、険しい顔の川田さんをどこか同情するような瞳で見返す。 そんなやり取りを見守っていると、私の背後から魅ぃちゃんがそっと近づいて耳元でささやいていった。 魅音(25歳): ……? レナ、いったい何の話?絢花を殺すだの、結構不穏っぽいんだけど。 レナ(24歳): 魅ぃちゃん、しっ。 巴: あー……話がまとまったならとりあえず、一旦山を下りない? 当の本人たちが理解しているなら邪魔してはいけないと口の前で指を立てた直後、南井さんがやや遠慮がちに提案してきた。 巴: 追っ手が来る可能性があるなら、とりあえず一旦東京……広報センターに来ない?そこなら多少、安全は確保できると思うから。 巴: 西園寺さんと竜宮さん、荷物をまとめてもらえる?最悪の場合、必要なものは東京で買い揃えるけど……西園寺さんはその服、着替えたほうがいいと思うわ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: すぐに荷物は持ち出せます。といっても、大事なものは薬ぐらいですが。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 服ですが、当面は巫女服のままでいいですか?……この格好は目立ちますので、逆にここぞという時に脱げば撹乱に使えます。 魅音(25歳): なかなか大胆なこと考えるねぇ。 そう言って魅ぃちゃんは、ははっと笑ってみせる。もちろん彼女のことだから、絢花ちゃんを囮になんて使うつもりは微塵も考えていないのだろうけど。 灯: 移動前に姉さんに連絡取りたいな……ひーさんは無事だろうか。 巴: なに?今頃秋武が比護の裏切りの事実を知って、怒りのあまりに殺しているとでも言うの? 灯: 姉さんはとっくに許していますよ。そもそも姉さんは大人ですから、自分の感情に食い殺されたりしません。 灯: ……むしろ、私の方がちょっと怒っています。 灯: 実家の犬たちとキャッチボールして遊んだり、捨て猫抱えてうちに駆け込んだり母の倉庫掃除を手伝ったり父と将棋したり……。 灯: 一緒に近所の火の用心の夜回りしたりしたのはなんだったのかと。 魅音(25歳): へー、結構仲良くやっていたんだね。 灯: そうなんですよ。ひーさんに敵意がないことは現在の協力的な姿勢を見る限り、明らかです。……が、それはそれとして。 魅音(25歳): おっ……? 色々黙っていたことにモヤモヤするものがあるってわけ? 灯: 一番怒りたいはずの姉さんが許した以上、私が怒るのは筋違いかと思うのですが。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: さっき自分が許せない存在を、あおいが許してくれると嬉しい……とか言っていませんでしたか? 灯: いや、それはそうなんだが……一番怒りたいはずの姉さんが許したのに、自分が許せないのが……申し訳なくて。 そう言って灯ちゃんは、悩むそぶりを見せる。そんな彼女を見てやれやれと肩をすくめながら、魅ぃちゃんが口を挟んでいった。 魅音(25歳): 言いたいことはわかるけどさぁ、全部同じじゃないとダメなのかねぇ。 レナ(24歳): ……え……? 魅音(25歳): レナ? レナ(24歳): あ、ううん。なんでも……。 ない、と言おうとして。 レナ(24歳): (全部……同じ。じゃ、ない) パチン、と。 魅ぃちゃんの言葉を聞いた瞬間、自分の中でバラバラだった何かが、繋がる音が聞こえた気がした。 レナ(24歳): ……待って。 先を行こうとしていた魅ぃちゃんたちは呼び止めに怪訝そうな顔で立ち止まり、振り返る。 魅音(25歳): レナ? どしたの? レナ(24歳): えっと……采様、でいいのかな。戦っているうちに消えちゃったけど、川田さんと一緒にいるんですよね。 レナ(24歳): もう一度、出てきてくれませんか? わずかな間が空いた後、風もなく草木が揺れ……。 采: ……何か用? 川田さんの足元に、小さな影と少女の姿が現れた。 レナ(24歳): あなたはまだ、レナたちに話してくれていないことがありますよね? 采: ……何のことだ? 我は「世界」を元に戻しつつ、不用意に未来を変えて此度の混乱を招く因を作ったやつらに責任を取らせるべく……。 采: 自らの『御子』を遣わし、本人たちを「始まりの地」に送り込んだ。 采: そのためにこの地にて顕現したこと、全部余さず伝えなかった……わけがない。 レナ(24歳): ――嘘です。 自分でも驚くほど、力強い否定の言葉。それを聞いた采様は一瞬目を丸くしてから、不快そうな視線をこちらに向けてきた。 采: 何が、嘘だと……? レナ(24歳): だって、美雪ちゃんと菜央ちゃん、千雨ちゃんをこの「世界」で自由に活動できないよう釘付けにして……。 レナ(24歳): 今までと「同じ」ように、川田さんを過去に送るほうが確実だったはずです。 レナ(24歳): なのに、責任を取らせるという名目であの子たち「だけ」を過去へ送り込んだ。 レナ(24歳): それから……自分の代弁者であり、代行人の川田さんを今回に限りお目付役として同行させなかったのは、なぜですか? レナ(24歳): 今までと「同じ」ではダメな理由が、あったのではないのですか……? 川田: 私はここで、やることがありますからね。理由はそれだけ、単純な話ですよ。 レナ(24歳): いいえ、それは違うと思う。千雨ちゃんに聞いた海沿いの神社での言葉が真実なら、川田さんは気軽に平成と昭和の行き来は……できない。 レナ(24歳): 過去行きのチャンスを逃してまで、この「世界」で優先させることって……何かな? かな? 川田: …………。 魅音(25歳): それを言い出したら、千雨を行かせたのもなんか違和感があるんだよね。 魅音(25歳): あの子、#p田村媛#sたむらひめ#rとやらの御子じゃないから未来にいても過去にいても世界の変化には全く影響が無いんでしょ? 魅音(25歳): 本人が行きたがっていたとはいえ、千雨を過去行きの面子に追加するのはたとえ神様でも認めていいものだったりするのか……ってさ。 巴: そう考えると、言っていることとやっていることの辻褄が微妙に合わないわね……その辺りは? 采: …………。 采様は何も答えず、不愉快そうに私に背を向ける。……もうこれ以上私たちに話すことはない、とその小さな背中が語っているようにも見えた。 レナ(24歳): あの子……いえ、あの方が関係しているんですね……? 采: …………?! 今にも消えようとしていた少女の姿が再び存在感を取り戻すと同時に振り返る。……やはり、図星だった。 魅音(25歳): ? あの方って……いったい、誰のこと? レナ(24歳): ずっと考えてたんだ。昨日の夜、みんなと話し合って出した情報を落ち着いてじっくり考えていたんだけど……。 レナ(24歳): ひとりの存在に、ひっかかっていた。……ううん、なんだかおかしいって思うようになったんだよ。 川田: おかしいとは、誰のことですか? レナ(24歳): それは――。 一度言葉を句切り、唇を噛む。 みんなの視線が自分に向けられていると実感すると同時に背中に冷たい汗が伝う。 確証はない。間違っているかもしれない……だからこそ、問いたださなくてはならない。 レナ(24歳): 田村媛命さま。 レナ(24歳): もしかしてあの方はずっと、レナたちのそばに「い」たんじゃないかな? かな? レナ(24歳): どうなんですか……采様? 問いかけではなく……確認。それに対して……采様は無言のまま視線を返して。 采: ……元より、この地は田村媛命の収める地だった。 采: それが後から角頭が来て、自らの土地とした。我が現れたのは、そのチョー後なのです。 采: 既に角頭が収める土地となったこの地に、田村媛命が現れることは……ほぼない。 采: ……原因不明の、チョー異変がなければ。 Part 03: 長時間の車移動でやっと辿りついた東京は、外へ出た途端にむっ……とした熱気にあおられて思わず目眩がしそうなほど蒸し暑かった。 レナ(24歳): (アスファルトの地面からの照り返しがあるせいかな……高天村や#p雛見沢#sひなみざわ#rよりも、空気が肌にまとわりついてくるみたい) 都会は色々と便利で過ごしやすい、とは聞いてきたけど……夏がこんなに暑いと、外を出歩くのも一苦労だ。 「日焼け止めを塗っておいたほうがいいよ」と魅ぃちゃんに注意された時は怪訝な思いだったが、彼女に従っておいて正解だったと改めて感じた。 巴: 長旅、お疲れ様! ここが警察広報センターよ。秋武の姉や部下たちはもう中にいるらしいから、早く会いに行きましょう。 率先して案内してくれた南井さんに従い、『本日閉館』の札が掲げられた入口を通って私たちは次々に館内へと入っていく。 が、後ろに続いていたはずの川田さんの足音がふいに感じられなくなったので振り返ると……彼女は建物を見上げながら、手前で立ち止まっていた。 レナ(24歳): ……川田さん? 川田: 私は、ここで待たせてもらいます。……あ、逃げたりはしませんのでご安心を。 レナ(24歳): はぅ……だめだよ。これからのことをみんなで話し合うんだから、ちゃんと参加してくれなきゃ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ここまで来ておいて、それは卑怯ですよ。……何を怖じ気づいているんです? 川田: 別に怖がっているわけじゃありませんよ。ただ、私は……その……。 魅音(25歳): なら、中に入って話を聞きなよ。あんたにとっても有益な情報が手に入るかもしれないんだしさ。 川田: あとであなた方から聞けば、それで済む話です。それに、警察関係者でもない人間が大挙して施設内に入るのは、法的にどうかと思いますよ。 灯: うーん、そう言って抵抗するんだったら上の面子を全部ここに連れてこようか?ちょうど奥に一般向けの講義ルームがあるしさ。 川田: っ……わかりましたよ。無駄な抵抗をしてすみませんねぇ……ったく。 巴: ほら、もたもたしていないで。時は金なり、タイムイズマネーよっ。 川田: あ、ちょっ……巴さん……?! そう言って南井さんがその手を引くと、川田さんはとぼとぼと大人しく廊下を進んでいく。 私たちはそれを追いかけてエレベーターに乗り、降りた最上階で『館長室』の扉を開くと……。 室内にいたスーツ姿の人たちが一斉に顔をあげ、入ってきた私たちに視線を向けてきた。 灯: 姉さん、ただいまー! その集団の飛び抜けて背の高い女性のもとに、灯ちゃんはまっすぐに駆け寄って飛びつく。 その人は少しだけ体勢を揺らしたものの、体幹が強いのか倒れそうな様子もなく……ゆったりと受け止めていた。 麗: おかえり、あーちゃん。南井さんたちも、ご無事で何よりです。 巴: いろいろギリギリだったけどね……ほら。 答えてから南井さんは手を引き、さりげなく後ろへ下がろうとした川田さんをやや強引に部屋の中心へと連れ出す。 川田: ……っ……。 皆の注目を浴びて、彼女は気まずそうに顔を伏せて視線をそらす。……と、年配の男性が集団を割ってひとりつかつかと歩み寄ってきた。 川田: ……戸佐さん……。 戸佐: よぉ戻ってきたな、あおい。なんや、色々厄介事に巻き込まれていたそうやね。 お爺ちゃんが久しぶりに帰省した孫を迎えたような、優しい声色。それを受けて川田さんは、そっぽを向いたまま……。 川田: まぁ、……それなりに。 かすかに呟いた、……小さな返事。それでもスーツ姿の人たちは皆一様に、優しげな笑みで彼女に応えていた。 レナ(24歳): (みんな……川田さんのことを心配していたんだね) まだ居心地が悪そうな川田さんも……彼らの反応を見て安心したのか、少しだけ顔を赤らめている様子がはっきりと見て取れる。 やっぱり、強引でも連れてきて良かった。……そう思いながら魅ぃちゃんに目を向けると、彼女もにっこりと私に笑い返してくれた。 戸佐: にしても、面子が入れ替わって……巫女さんまでおるん? つくづく南井ちゃんは子どもを拾ってくるんが得意やねぇ。 巴: ちょっと……その言い方は誤解を招くから、やめてください。 戸佐: んなこと言ったかて、事実やん。否定しようにも説得力がないで。 巴: ぐ……それは、……まぁ……。 レナ(24歳): あの……ここにいる人たちは、みんな南井さんの部下の方ですか? 灯: いや。あとひとり、夏美さんの護衛として病院に詰めている人がいるよ。 灯: まぁ、全員がほんのわずかでも何かが違ったらここの広報センターどころか警察組織でさえも辞めているくらいの、崖っぷち警察官たちだよ! 巴: ……こら、灯。だったら私は、そのロクデナシ共の親分って扱いになるじゃないの。 灯: 近い! もしくはほぼ同類! 巴: 何が同類よ。あとでぶっ飛ばしてやるから覚悟していなさい……まぁ、それはさておき。 巴: とりあえず自己紹介は……まぁいいわ。名前や顔は忘れても、ここにいるのは全員味方だって覚えてくれれば十分よ。 巴: 何はともあれ、座った座った。比護、悪いけどお茶をよろしく。 比護: ……そう言われると思って、準備済みです。 ソファに座ると、横からお茶が配られる。……給仕をしてくれる眼帯の男の人のことを、私は魅ぃちゃんから事前に聞いていた。 レナ(24歳): (一穂ちゃんのお兄さん……喜多嶋伸介さんの部下の、比護さんだっけ) 比護: ……どうぞ。 レナ(24歳): ありがとうございます。 巴: さーて、早速報告会を始めるわよ。 早々にお茶を飲み干した南井さんが、比較的若い男性に視線を向ける。すると彼はひとつ頷き、前に進み出てきた。 巴: ……どうだった、毬野くん?黒沢刑事のPCを使って、例のディスクの内容は解析できた? 毬野: 結論から言えば、バッチリです!骨は折れましたけど! もー全身バッキバキ! 比護: ……全身の骨が折れたのに、なんで立っていられるんだ? 毬野: ……ノリで言っただけなんだから、流してくださいよ。まったくもう。 毬野: いやー、ディスクで起動自体はしたんですが、データがもう複雑に暗号化されていましてねー。画面見ながら思わず大爆笑しちゃいましたよ。 毬野: あんなに高いPCスキルがあったんだったら、生前の黒沢さんにマジ師事したかったです。……ホント、惜しい人を亡くしました。 毬野: で……諸々ありましたが、たどり着いた認証画面でキーワードを入力したら実にあっさりと開けちゃいました! イエーイ! 川田: キーワードって……何だったんですか? 毬野: 黒沢さんの娘……千雨さんが最後に出場した格闘技大会で優勝した年の日付です。子煩悩な親によくあるパターンってやつですね。 灯: ふむ……中身の構造は複雑怪奇にするくせに、玄関口の鍵は至ってシンプル。 灯: 泥棒の侵入を防ぎたいのか招き入れたいのか……この国の人の特徴なのかな? 実に不思議だね。 麗: ……あーちゃん。 やや不満げにブツブツと呟く灯ちゃんの両肩を、ソファの後ろからお姉さんが両手でポンと叩く。そして妹の顔を、上から見下ろしていった。 麗: だめだよ。他人の属性を思い込みだけで区分けして、見下してしまうのはあなたの悪い癖。 麗: 理解しようとすることは、大事。……だけど、自分は理解していると思い上がってしまうと本来の真実に辿り着けなくなるんだから……ね? 灯: あ……はい。ごめんなさい。 素直に灯ちゃんは、お姉さんに頭を下げて頷く。 ……ただ、その表情の中に何か含むようなものが見えた気がしたのは……私の気のせいだろうか。 巴: 最後に出場した大会の開催日……か。確かに答えがわかれば単純のように思えるけど、真っ先にひらめくかどうかは微妙なラインよね。 毬野: 黒沢の奥さんに、心当たりがありそうな日付やキーワードをあるだけ書き出してもらったから早々に開けましたが……。 毬野: その協力なしだと、まぁきつかったでしょうねぇ。 魅音(25歳): 母親の協力を取り付けてくれた千雨に感謝だね。それで……結局のところ、フロッピーの中には何が入っていたんですか? 毬野: 雛見沢の生き残り……公由稔をリーダーにした一派の動向です。 レナ(24歳): ……っ……?! それを聞いた瞬間……私たち全員が、一斉に目の色を変える。 陰謀を企む「彼ら」についての情報――それは何よりも重要で、かつ今の私たちが何を置いても求めるべき最優先事項だった。 毬野: 全員名前を変えて、首都圏または近辺に移住済み。それがわかった時点でツテのある部署に連絡して調べてもらいました……河上さん、説明ヨロ。 河上: はい。なにはともあれ現状を把握すべく、記載の住所へ適当に理由をでっち上げて……捜査員を派遣してもらいました。 河上: ……が、すみません。一足遅かったようで、全部もぬけのからになっていました。 巴: 全部?……となると、事前にこちらの動きが筒抜けになっていた可能性が高そうね。 河上: 水漏れの場所については、現在調査中です。数日中に報告ができると思います。 河上: で、連中の行き先ですが……追跡したところ大半が数年前にできた新興の宗教法人施設に逃げ込んだようです。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……宗教法人? 絢花ちゃんが息をのみ、目をしばたたかせる。その表情には困惑がありありと浮かんでいた。 レナ(24歳): 絢花ちゃんは、知らなかったの? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: あ、はい……新興宗教については、全然。緊急事態の時は、とある建設会社を経由して連絡を取るよう伝えられていたんですが……。 河上: たぶんそれは、宗教法人の裏にいる建設会社だな。 河上: ベッドタウン化計画が立ち上がった地域の、建売住宅の建設を一括で請け負ったものの……欠陥続出で訴訟問題に発展しかかっているらしい。 巴: 欠陥って……どうしてそんな事態に? 河上: いわゆる三次請け、四次請けを繰り返して費用の中抜きが行われた結果です。 河上: 中には見積もった原価の半分以下で安普請が行われたところもあったと。……無茶苦茶ですね。 河上: おまけに去年、そこで女子中学生数人が刺傷事件を起こして……呪われた地域だと噂も上がったりしているそうです。 魅音(25歳): な、なんか、色々大変そうだね……。 河上: その建設会社は昔、トンネル崩落事故を起こして訴訟問題に発展したってことがありましてね……。 河上: おそらく住宅メーカーに、足元を見られた弱みもあったんでしょう。まぁ、あんまり同情はできませんが。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……っ……。 河上: で……連中も建設会社がそんな有様だから、宗教法人の方へ真っ先に行ったんでしょう。 巴: なるほど。そういう事情があったんじゃ、西園寺さんが知っている緊急連絡方法は使えない可能性が高そうね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……すみません。お役に立てると思ったのですが。 巴: 気にしないで……で、宗教法人の方は? 河上: 元々目を付けられている組織だったんですが……宗教法人の施設への捜索は、いろんな規制やらですぐには難しくて。 河上: 一応、関係省庁や裁判所へ令状の申請を出してはいるんですが……さて、いつになることやら。 川田: 信教の自由を、逆手に取られたってわけですか。なかなか狡猾ですね。 戸佐: まぁ、その通り。国のお偉いさん方が、性善説を名目にした事なかれ主義を唱えるのは結構やけどねぇ。 戸佐: それが犯罪の温床にも利用される可能性があるってのは……下手な暴力団とは違う意味でいずれ問題になってくるやろうな。 巴: それでも、思想の自由を奪うわけにはいかないのよね。何を信じるか信じないか、思想の自由を奪うことは人間としての生き方の自由を奪うこととイコールだもの。 魅音(25歳): 大義名分を得ている分、ある意味でヤクザよりも厄介な話だねぇ。 魅音(25歳): ……けど、だとしたらそこに公由稔が身を潜めている可能性は高そうってことか。 河上: あぁ、お嬢ちゃんの言う通りだ。 河上: ……だが、可能性がいくら高かろうと絶対の証拠がなければ施設内に入って確かめることはできない。 河上: ましてテロ行為を画策していたとしても、それを抑えることだってな。それに……。 河上: 南井所長。『雛見沢症候群』のウィルス?を用いることで、大量殺戮を目的にした生体兵器……とやらですが。 河上: ユプミルナの資本提供を受けて、高野製薬の工場から別の場所に製造場所を移設したことは掴めました。 河上: ただ、それがどこなのかを調べることは現状全くのお手上げで……どうしたものやら。 麗: それは厚生省の管轄の話だから、私たちがどうこう言える話じゃないですね……比護くん、上司に話を通して調べられない? 比護: 緊急事態だと伝えれば、できないこともないかと思う。ただ……。 声: ……無駄だな。例の宗教施設も含めてめぼしい場所は洗ったが、ことごとく証拠が隠滅されていた。 突然扉が開き、入ってきた人物の白い手袋に息を飲む。とっさに魅ぃちゃんを見ると、彼女は神妙に頷いた。 魅音(25歳): 彼が、公由怜……今は喜多嶋伸介って名前に変わっているけど、あれも雛見沢の人間だよ。 レナ(24歳): (あの人が、……一穂ちゃんの、お兄さん) 似ているか、似ていないかと聞かれたら……あまり面影が重ならない感じだろう。 なにより、その表情と雰囲気には頑なというか人を寄せ付けないものがあって……あまりいい印象を持つことができなかった。 喜多嶋: 勇み足の私は、大量の始末書を書かされた。……内部にスパイがいたと考えるべきだろう。 喜多嶋: それにしても、警察の捜査能力も期待していたほどではなかったな。厚生省の方が先んじているとは、情けない話だ。 戸佐: んだと……?わざわざ喧嘩売りに来たってのか、あぁ? 突然の場違いな来訪者に、一同の緊張感が高まる。そして、ヒリつくような空気が肌に感じられる中――。 灯: ……あ、怜じゃないか。 のんきな声が、響いた。 レナ(24歳): えっ……? 灯: 久しぶり!そうだ、こっちに帰ってきたことはまだ言っていなかったね。 灯: ただいまー……あ、誕生日おめでとうもまだだった。今度ケーキを……いや、怜は米の方がいいかな? レナ(24歳): …………。 その瞬間、館長室の時間が止まる。私たち全員が唖然、呆然とした顔で2人のやり取りをしばらく見届けて……。 魅音(25歳): はぁっ? え、なになに?!あんたら知り合いだったの?! 魅ぃちゃんの発した大声が、再び時間の針を動かしていった。 灯: え? うん、彼とは友達だよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: と、友達……ですか? 灯: ルチーアを中等部で卒業した後、渡米した先で同じ留学生として会ったんだ。向こうにいた間はほぼ毎日一緒だったねー。 日本人の多い土地と学校だったから、と灯ちゃんは晴れやかな笑顔で告げる。 ただ、事実がまだ……うまく飲み込めない。雛見沢と無関係だと自他ともに認めていた子が、こんな場面で切り札を持っていたなんて……?! 魅音(25歳): えっ、ちょっ……つまり、どういうことさ?! 灯: ともに異国の地で生き抜いた、言わば戦友だよ! 巴: …………。 無言で南井さんが立ち上がり、灯ちゃんの両肩を掴む。そして――。 巴: あ……あああ、あんたはっ!なんでそんな大事なことを、今までずっと言わなかったの?! 首が取れるのではと怖くなるほど、灯ちゃんの身体を激しく揺さぶる。……どうやら、彼女も知らなかったようだ。 灯: あわわわいや、だって私が知っている彼の名字は公由でも喜多嶋でもなかったのでえええええ……? 灯: あと、レイってそこまで珍しい名前ではないですよね姉さんのあだ名もレイですししししししし。 レナ(24歳): 「レイ」……? ぴたり、と灯ちゃんを揺さぶる手を止めた南井さんの視線を辿った先には、苦笑する長身の女性。 麗: 私の名前、#p春麗#sはるうら#rら麗#p麗#sうらら#rだけど……。 麗: 子どもの口だと麗って言いにくいから、あーちゃんや友達は「レイ」ってあだ名で呼んでいたのよ。 魅音(25歳): あ……なるほど。確かにそうも読めるね。 レナ(24歳): というより、「うらら」って読むほうが珍しいかな……はぅ。 灯: 公由怜のことを聞いた時に「あれ?」とは思ったが、ここ半年くらい手紙出しても電話の留守録入れても返事がないから、私の方からだと確かめようがなくて。 灯: でもよかった、元気そうで! 喜多嶋: …………。 とても気まずそうに灯ちゃんから視線を外すも、彼の背後に音もなく忍び寄っていた麗さんがぽんとその肩を叩く。 麗: ……。よく来たね。 喜多嶋: ……っ……? 真顔を引きつらせて、肩を跳ねさせてから……やがて地雷原にうっかり踏みこんだような青ざめた表情で……「彼」は、ぎこちなく頷いた。 喜多嶋: ……。はい……。 巴: 秋武、あんたが彼を呼んだの? 麗: あーちゃんが、広報センターに戻ってくると伝えました。 麗: 電話だと長くなるので言わなかったんですが、南井さんが高天村に向かっている間に比護くんに呼び出してもらって確認したんです。 麗: 彼に会ったのは7、8年前に1度だけだったのと、その……私の方でも色々と勘違いをしていたので気づくのが遅れたんです。 麗: だから、座って話をして、確認して……あーちゃんにはちゃんと話をするように約束したんです。 灯: なるほど! では話してもらおうか! 喜多嶋: あーちゃんには後で話すから……!……今は、話を戻させてください。 麗: うん、いいよ。 レナ(24歳): (……「あーちゃん」……?) いかにも若手の官僚然とした男性の口から想像もできないほどの可愛い呼び名が発せられて、……私は魅ぃちゃんと、顔を見合わせる。 そして、場の空気を変えるように軽く咳払いをすると、公由さん……いや、正確には喜多嶋さんか。 彼はぐるりと見渡し、目を細めると一同に向かって告げていった。 喜多嶋: この場所の警備体制には、問題がある。南井巴に緊急の話があると窓口の人間に伝えたら、すぐにここへ案内されたぞ。 喜多嶋: もっと、自分たちの身の保全に対して慎重になりたまえ。入口の扉の鍵も開いたままなど、不用心にも程がある。 巴: あら。この施設には隠しカメラをあらゆる場所に設置しているから、怪しい連中が入り込める余地なんてないわよ。 巴: それに……比護って密偵を送り込んでいたあなたにだけは言われたくないわね。 喜多嶋: それはお互い様でしょう?わざと紛れ込ませているのがあからさまで……こちらとしては失笑を禁じ得ないほどでしたよ。 巴: ……それは私が差し向けた密偵じゃないわね。警察は警察でも、別部署だと思うわ。 巴: でもその状況だと、あなたも現状八方塞がりってことみたいね。 喜多嶋: ……本当にやりにくい人だな。えぇ、その通りです。 喜多嶋: このままだとじり貧は目に見えている。そこで敵の敵は味方、ということで力添えをお願いしに上がったというわけです。 灯: ……怜、その言い方はよくない。手伝ってほしいんだったら、そこは素直にお願いしたほうがいい。 灯: 大丈夫、南井さんは優しいよ。特に年下には……大変甘い。君みたいなタイプは、大好物だと思うよ? 巴: ……おいこら、灯。あんた何を――。 喜多嶋: あーちゃん、お願いだからちょっと黙っていてくれ……! 困り果てた顔でそう懇願されて、灯ちゃんはわかった、と口を閉じる。 さっきまでは冷たくて固い印象だった目の前の青年が、急に全身を覆っていた氷を溶かしたように違う姿をさらしている。 そんな緊張感の抜けた会話に戸惑いつつ、室内にいた刑事さんたちがお互いに顔を見合わせていた。 毬野: 協力って……この状況で警察にできることなんて、あるんですかねぇ? 戸佐: まぁ、言うてこっちも結構手詰まり感があるんよなぁ。 レナ(24歳): …………。 確かに……刑事さんたちのその通りだ。だが、まだ私たちには手つかずの謎がある。 そう思って私は一歩前へ出ると、喜多嶋さんに話しかけていった。 レナ(24歳): はじめまして……喜多嶋さん、でいいですか。私は、竜宮レナと言います。 喜多嶋: ……知っている。よく魅音たちと部活と称して、#p興宮#sおきのみや#rのおもちゃ屋で遊んでた内のひとりだな。 灯: おや、怜も一緒に魅音先輩たちと遊んでいたのかい? 喜多嶋: いや……遠くから、見ていただけだ。 灯: なるほど、人見知りはその頃からか。 喜多嶋: ……っ……。 からかうように、灯ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべてみせる。 その視線を真正面から受け止められないのか、喜多嶋さんはあからさまに視線をそらして私に目を向けてきた。 レナ(24歳): あなたに、どうしても聞いておきたいことがあります……あなたの妹のことです。 喜多嶋: ……またその話か。何度も言ったように、私に妹はいない。 うんざりだと言う態度を隠しもしない姿は、それだけ見れば本当に何も知らないように見える。 レナ(24歳): (確か、魅ぃちゃんたちが質問したけど……知らないって逃げられたんだよね) 喜多嶋: どうして君たちは、私に妹がいたと頑なに主張するんだ?……はっきり言って、迷惑なんだが。 レナ(24歳): 私たちにとって、大事なことだからです。 喜多嶋: 何度も言うが、関係のないことだ。そもそも、君は何を知っている? レナ(24歳): 何も知りません。いっぱい考えて、考えて……そうじゃなければいい、と一生懸命願って……。 レナ(24歳): だけど全ての要素を組み上げてみると、そうとしか考えられない。……その答え合わせであなたに聞いています。 レナ(24歳): あなたにとっては意味のないことだとしても……私たちは知らなければ、前に進めないんです。 そう言って迫ってみても、喜多嶋さんは動揺した様子も見せず口をつぐんでいる。 身に覚えがないのか、あるいは知らないふりをしているだけなのか……この問答だけでは、判断のしようがない。 魅音(25歳): ちょっと、灯……。あんたは、一穂についてなんか知らないの? 灯: いや、私も怜が喜多嶋氏と同一人物なのか……いまいち確信が持てなかった理由がそれなんだ。 灯: 怜は、あまり家族のことは話したがらなかった。でも「妹が欲しかった」とは聞いたことがある。 灯: ただ……もし実際に妹がいるのなら、そんな話はしないはずだ。だから……。 魅音(25歳): え、そうなの? いや、でも……。 魅ぃちゃんが口ごもり、場にどうしたものかという様子見の空気が流れるのを肌ではっきりと感じる。 レナ(24歳): (……圭一くんが、ここにいてくれたらな) その口先だけで魔法のように相手の心を解きほぐし、取り込み、引き込んで……きっと真実を聞き出してくれただろう。 レナ(24歳): (だって圭一くんは、「あの時」もやり遂げたんだから……あれ?) レナ(24歳): (そんなこと、あったかな。うん……あった。……確かに、あったよ) 詳細は思い出せないし、ここに彼はいない。だから目の前の相手は、私たちでは説得が難しい。 だとしたら、この人から情報を聞き出すための最適な「尋問役」は……。 レナ(24歳): 魅ぃちゃん。 魅音(25歳): いいよ、レナ。……たぶん、同じことを考えていると思うから。 魅ぃちゃんに頷き、私は振り向く。その視線は、彼女と反対側に立つ「彼女」へと転じていた。 レナ(24歳): 灯ちゃん……お願い。公由一穂についての情報を、聞き出して。 灯: …………。 数時間前に首輪をつけた私の「飼い犬」は、少しだけ目を丸くして……笑って……頷いて。 灯: わんっ! 元気に吠えた。 灯: ということで、交渉役交代だ!積もる話は数あれど、公由一穂についての状況提供を願おう。 喜多嶋: は……?い、いやそもそもあーちゃんは雛見沢と関係がないだろうが。 灯: うん、私は無関係な人間だ。雛見沢の関係者でもなければ、この国の警察組織の所属でもない……が。 灯: 友達が困っているなら、関わりたい……蚊帳の外で見ているだけは、嫌なんだ。 灯: そのために、レナ先輩に首輪をつけてもらったのさ。取ってこいと命じられたら、それが対岸だろうが火中だろうか全力で取りに行くのが名犬……だろう? 喜多嶋: く……首輪? 灯: 要するに、なんでも言うことを聞くという約束だ。人が言いたくないことはムリに聞き出さないのが、私の信条であり矜持なんだが……。 灯: 残念ながら、今の私は犬なので……わんっ。 喜多嶋: っ……なんで、そんなことまでして……! 灯: 関わりたいと私が願ったからだよ。……というわけで、改めて問おう。君に「妹」は、本当にいないのかい? 喜多嶋: ……っ……! 喜多嶋さんは動揺を抑え込むように顔をしかめた後、私の方を憎らしげに睨みつける。 だけど、しばらくして諦めたようにうなだれると……絞り出すように、言った。 喜多嶋: ……いない。 灯: 一穂という名前以外の……妹も? 喜多嶋: いない。 灯: なるほど……あるいは私が知らない間に結婚していて、血縁関係にない義理の妹がいる……とか?! 喜多嶋: いい加減にしてくれ……!! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 全力で逆ギレ、ですか。 魅音(25歳): でもまぁ、結婚の機会を逃したとかそういった適齢期の男性特有の嫌な思い出とかがあった可能性はありそうだね……。 喜多嶋: うるさいぞ外野。 灯: よし、怜……落ち着くんだ。なるほど、わかった。妹はいない! うん、と灯ちゃんは頷いて。 灯: ……では、質問を変えよう。漢数字の「一」に、稲穂の「穂」……。 灯: 「一穂」という名前に、聞き覚えは? 喜多嶋: ……っ……? その問いかけに対して喜多嶋さんは、気圧されたように……息をのむ。 その反応にめざとく気づいたのか、灯ちゃんが片眉をあげながら続けていった。 灯: ふむ……聞き覚えはあるようだ。やっと本音を見せてくれたね。 喜多嶋: 一穂……そうか……。君たちが言う「かずほ」とは、そういう字を書くのか……。 喜多嶋: …………。 喜多嶋: 繰り返しになるが……私に、妹はいない。だが……。 しばらく、沈黙が続いて……。 やがて顔をあげた喜多嶋さんは、友達だと言った相手へうめくように、口を開いて……いった。 喜多嶋: あーちゃんは……神様を信じているか? 灯: 信じる……か。この場合、何をもって神様と呼ぶかというそもそもの定義の問題が生じるね。 灯: 仮に神の定義を、自分を守ってくれたナニかだと定めるなら……私にとっての神様は姉さんだということになる。 麗: もう……私は神様じゃなくて、お姉ちゃんだよ? 灯: お、早速定義の異なりによる問題発生だ!……でも、別にこれは珍しい話ではない。 灯: 怜が神と呼ぶなら、それは君にとっての「神」であって……私はなるほどそうかと頷くだけだ。 灯: 世の中には川原の小石を拾い、それを神と呼ぶ人もいる。同時に拾い上げた小石が神ではないと証明をすることは私程度の存在にはほぼ不可能だ。 灯: 私の意思を無視して、この小石は神だからお前は敬えと強制されれば私も全力で反発するが……そうでないなら否定する理由はないね。 散歩に浮かれる子犬のような軽快な足取りで、灯ちゃんは喜多嶋さんとの距離を詰める。そして――。 灯: だから、教えてくれないかい?君にとっての神様を。 至近距離で見つめられた喜多嶋さんはどこか安心したように、ほろ苦く笑い……息を整えてから、静かに答えていった。 喜多嶋: ……。これは、誰にも話さなかったことだ。おそらくあーちゃんにさえ、酔った時にも口を滑らせたりはしなかったはずだ。 喜多嶋: 確かに私は、……一穂という「名前」を知っている。 喜多嶋: 私が「神」の存在を信じるきっかけになった……思い出の中に「い」たんだ。 Part 04: 私が「喜多嶋伸介」ではなく、自分のことを「ぼく」と呼んで……「公由怜」だった頃のことだった。 あるよく晴れた日の、日曜日。ぼくの両親が#p雛見沢#sひなみざわ#rの裏山にハイキングへ行こうと言い出した。 喜ぶと同時に、珍しい……とも思った。なぜなら両親が揃って出かける時、いつも自分は留守番をさせられることが多かったからだ。 だから、嬉しくて嬉しくて……。 ……浮かれた気分で、油断してしまった。 怜: 父さん……! 母さん……! 初めて足を踏み入れた雛見沢の裏山は、学校の遠足で行くような山とは違ってほとんど道が鋪装されておらず……。 両親の背中が少し遠くなった、と思った直後にはもうその背中に追いつけなくなっていた。 怜: とうさーん! かあさーん! 周囲へ呼びかけながら進み続けたが、行けども行けどもぼくの視界に映るのは鬱蒼とした茂みと……雑木林だけ。 日はまだ高い……だが、油断しているうちにあっという間に夜が来ることは幼い自分でも簡単に想像がついた。 怜: (どうしよう、もう2人が山を下りていたら……?もしかして、はぐれた場所に戻ってぼくのことを探しているかも……) 雛見沢の子は山に詳しいそうだが、#p興宮#sおきのみや#rに住んでいる自分に山歩きの経験はほとんどない。 だから、当時の自分には……山道を下りることが何よりも最善の策に思えた。 怜: あっ……?! それが悪手だったと理解したのは、山道を下り始めた直後――。 怜: ……わ、わぁぁぁぁあああっっ?! 足を滑らせたと気づいた時には既に遅く、先程うっかり蹴り飛ばした小石のように身体が山の斜面を滑り落ちていく。 必死に伸ばした手で木の枝を掴もうとしても、ムチのように当たるだけで小さな手は空を切る。 視界の端に切り立った崖。だけど身体は何ひとつ言うことを聞かず、ただ落ちるばかりで……。 怜: がっ……! 大木の根元に、胴のあたりをしたたかに打ちつけた。 怜: ゲホッ、ゲホゲホッ……かはっ、は、は、は……! 激痛とともに胃の中のものを吐きながら、……なんとか前を見る。 わずか、数メートル先……切り立った崖の向こうに、青空が見えた。 たまたま木に引っかかったようだが、あと少し勢いがついていたら……。 怜: (崖から落ちて、死んでいた……) 怜: はぁ、はぁっ、はぁ、はぁっ……! 全身が縮み上がるような思いで、なんとか這うように平たい場所へと這い上がる。 ……だけど、それが限界だった。 全身が傷だらけで、打ちつけた際に吐いたせいか……気持ちが悪い。 おまけに足首も打撲なのか、捻挫したのか……とにかく痛みのせいで、立つことさえままならない。 怜: (どうしよう……このままじゃ、ここで遭難……っ?) ……そういえば、と。御三家の会合での出来事を思い出す。 ――裏山には熊やイノシシなどの猛獣が出る。だから、裏山で遊ぶ時は気をつけろ。 独りで遊ぶな。誰かが食われたら、味を覚えたケモノは他の人間も襲うぞ……と。 真面目くさった大人の忠告に、「そんなことは滅多に起きたりしないよー」と笑い飛ばしたのは園崎本家の双子の姉妹だった。 他の子どもたちも双子につられて笑い、忠告した大人は渋い顔で笑いごとじゃないと強い口調で繰り返していた。 ……まさかあの場にいた全員、部屋の片隅でひとり話を聞いていただけのやつがその危機に陥るなんて思ってもみなかっただろう。 だって……当の本人である「ぼく」自身が、そうだったのだから。 怜: (……食われる) 逃げなければ。助けを呼ばなければ。そんなことは理解している。 でも、どれだけ叫ぼうとしても……声が出ない。 痛みと恐怖が喉を引きつらせたせいだと、原因がわかったのは大人になってからだ。 幼いぼくはひゅーひゅーと呼吸音しか出ない喉で、叫ぼうとして……そんな気力すらも痛みと疲労が徐々に、だけど遠慮なくそぎ落としていく。 怜: (ここで……死んじゃうんだ……?) 立ち上がろうとした身体から、ふっと力が抜け……その場で倒れ込む。 ……意識が遠のいていく。食べられるのは嫌だけど、死んだ後なら痛みもないだろう。 怜: (でも、死んだぼくを食べたせいで他の人が食べられたら……) 怜: (それは、嫌だな) 嫌だと思う……思うだけだ。だって、声が出ない。何もできない。 田村媛命: 『……そこの男童』 と……その時。遠のく意識に、知らない声が差し込まれてきた。 田村媛命: 『ふむ……そなた、何用があってこのような場所を訪れた#p也#sなり#rや?』 怜: ……っ……? 閉じかけた瞼を、残された力で持ち上げる。気のせいじゃなければ、さっきの声は……。 怜: (耳が聞いたんじゃなくて……頭の中に、直接話しかけられたような……) 気力を振り絞って顔を上げた先にいたのは、自分を見下ろす……奇妙な格好をした、女の子。 いや、奇妙と言うには見覚えがある。 遠目で見ただけだけど、#p綿流#sわたなが#rしのお祭りの際に古手家頭首が着ていた巫女服に似ているような……。 いや、よくよく目をこらしてみるとやっぱり全然似ていない……? 田村媛命: 『ふむ……どうやら酷い怪我を負っている#p哉#sかな#r。やむを得ぬ、吾輩についてまいれ』 怜: っ……ごめ、ん……足、立てなくて……っ……。 歩けない、と……たったそれだけを答えただけでかくんと再び身体が地面に倒れ込んだ。 頬に刺さる小石の痛みもひやりとした地面の冷たさも、感じ取るのには気力が必要なのだと理解した直後――。 直後、視界がまっ暗に染まって。……なにもかもが、見えなくなった。 ……目が覚めた時、柔らかい草の匂いがした。 怜: ……う、っ……。 再び目を開けた視界の先に広がっていたのは、木々に囲まれた山中とは思えない開けた場所。 人の手が入っていない、独特の空気感を漂わせた空間が広がって……。 目の前にはここが自分の領土だと主張するように、樹齢数百年では足りないと思われるほどの巨樹がそびえ立っていた。 怜: こ、ここ……どこ? 山の中と呼ぶにはあまりにも整えられていて、人の手が入っていると呼ぶには……少し無秩序。 そんな相反する空気を併せ持った場所で周囲を見渡した後……あっ、と声が出た。 怜: (……痛くない?) 斜面を滑落して大木にぶつかり、そのあおりで足を捻ったはずなのに……どこも痛くないし、吐き気もない。 上を見上げれば、日は高いところに浮かんで……燦々と降り注ぐ陽光が、すごく奇妙な感じだった。 怜: (崖の寸前で木にぶつかってから、数時間も経っていないはずなのに……) 何故だろう、と疑問に思うより早く巨大な木の根元に……昼間にもかかわらず何かが光った。 瞬く間に光が増えたかと思うと、やがてそれは……ひとりの女の子の姿を取る。 女の子: 『……気がついたか、角の民。吾輩の回復術が効いたようで、重畳也や』 怜: え、えっと……だ、誰……ですか? そこまで言ってから、ぼくは彼女の手が気絶する直前に見たそれと同じだと気づいて……。 怜: もしかして、君がぼくを助けてくれた……んですか? 女の子: 『む? ……控える哉、角の民。神である吾輩に君呼ばわりとは、不遜の極みと知り給え』 怜: か、神様……? あ……。 雛見沢で言い伝えられている、神様の名前が浮かぶ。村の人たちは皆、畏怖も込めながらも尊敬している。 そう、その神様の名前は……。 怜: もしかして、……あなたが『オヤシロさま』ですか? 女の子: 『あ゛あ゛ぁっ?!』 女の子: 『吾輩を、あの不浄なる『角の民』の長と同列に扱うとは! なんたる侮辱で不遜ッ!神に対する最大級の罪と知り給えッッ!!』 怜: わぁあっ! ごめんなさいごめんなさい!! とりあえず酷く怒らせたのは瞬時に理解したので、とにかくペコペコと頭を下げ続けて。 やがて頭上から伝わってくる怒りの空気が緩んだ頃……そっと上目づかいに「自称」神様を見上げて問い直した。 怜: じゃあ、その……あなたは、いったい誰……なんですか? 女の子: 『名乗るべき義務とやらを感じぬが……己の命を救った神の名を知らぬのも不憫哉』 女の子: 『仕方なき也や。寛容なる吾輩の慈悲にて教えてやる故、心して感謝し給え』 小さな少女に似合わない尊大な口調でふんぞり返りながら、「神様」は名乗りをあげる。 田村媛命: 『――吾輩は、#p田村媛#sたむらひめ#r命』 田村媛命: 『この地に悠久の時を生きて君臨する、そなたらが敬い崇める「神」というもの也や』 怜: 田村媛命……。 『オヤシロさま』とは違う神様なのか、という言葉は辛うじて寸前で飲み込んだ。……今度こそ怒らせたら、何が起こるかわからなかったからだ。 こくん、と声を飲み込み頷いたぼくを、田村媛命はちらりと見遣って。 田村媛命: 『そなたを救った代償……ではないが、尋ねたいことがある。先程、無礼にも我を間違えた≪角の民の長≫のことだが』 怜: つの……?『オヤシロさま』のことですか? 田村媛命: 『#p然#sしか#rり』 田村媛命は大きく頷いて。 田村媛命: 『……≪角の民の長≫の現状を知りたい哉。今、あの者は息災也や?』 Part 05: ……その後、ぼくは#p田村媛#sたむらひめ#rに正しい道を教わって山頂へと辿り着いた。 両親とはぐれた直後に負傷して気を失い、それから治療を受けたりしてかなりの時間が経っていた……はずなのだけど……。 公由稔: ……怜っ?お前、今までどこに寄り道をしていたんだ?! 公由香苗江: どこを探しても見当たらないから、先に帰ったのかと思ったのよ?!勝手に行動して、何かあったらどうするのっ! 2人は、まだそこにいた。……あとになって聞いたところ、待っていたのは多く見積もっても数十分ほどだったそうだ。 にもかかわらず、ぼくは心配の言葉をかけられる前に……烈火のごとく怒られた。 正直、自分を置いて行ったまま気づかなかったのは両親ではないか、と浮かんだ反感を辛うじて飲み込み……。 怜: ……ごめんなさい。 それ以外、何も言えなかった。というより、他の言葉を発することが許される空気ではなかった……。 …………。 そんなことがあってから、数週間後――。 怜: 田村媛~! 遊びに来たよ~! 『神域』と呼ばれる場所にやってきたぼくは、大きな古い樹に向かって声を限りに呼びかける。 あの日から、ぼくは休みのたびに朝早く起きて#p興宮#sおきのみや#rから#p雛見沢#sひなみざわ#rまで自転車を飛ばして、古手神社へと向かい……。 神社の裏山の登山道を通ってここに来るのがほとんど日課のようになっていた。 何のために? そんなの、決まっている。ぼくの命の恩人……いや「恩神」である彼女に会うためだった。 怜: 田村媛ー、いないのー?いなかったらいないって返事してよー、おーいっ! そんな感じで繰り返し呼びかけていると、木々のざわめきとともに……どこからともなく何かの『気』のようなものが集まるのを感じる。 やがて、それは小さな無数の光の粒となって形をなし、ゆっくりとぼくの目前に集まって……。 田村媛命: 『……はぁ……』 大きなため息とともに、不機嫌そうな表情で現れたのは、『神様』――田村媛命だった。 田村媛命: 『……いい加減、懲りる#p也#sなり#rや。死に瀕した体験をしておきながらこの山を訪れるとは、阿呆に等しい恐れ知らずな行いと知り給え』 田村媛命: 『まして、かように人里離れた場所に何度も足を運ぶなど、もはや物好きを通り越した痴れ者の類い#p哉#sかな#r……』 怜: 大丈夫! ここに来る道には、この前来た時に目印を増やしておいたし……もう迷うようなことはないと思うよ。 それに、何度もここに至る道を辿ってみて……実際の行程はさほどでないことも把握済みだ。 おかげで今では、早朝に家を出たら日暮れ前までには余裕を持って興宮の自宅まで帰れるほどになっていた。 田村媛命: 『……あと、レイ…と言ったな。呼び捨ては止めよと何度も申している也や』 田村媛命: 『神である吾輩を、そなたの仲間か何かのように扱うのは甚だ不遜かつ、無礼哉。疾く理解せねば、いずれ罰が下ると知り給え』 怒ったように田村媛は、そう言ってこちらを睨み付けてくる……けど、最近になってそれは不器用な挨拶なんだとぼくは理解しつつあった。 怜: それより、今日はこの前約束したものを持ってきたんだ。……はい、田村媛が前に食べたいって言っていた、おはぎだよ! そう言ってぼくは、リュックから2段の弁当箱を取り出し…詰め込んだおはぎを上段の器ごと彼女に差し出した。 田村媛命: 『っ……吾輩は別に、強い欲求などで所望したつもりはない也や』 田村媛命: 『ただ、そなたがやたらと美味い美味いと口にする故、些か興味がわいただけ哉……!』 怜: ……じゃあ、食べないの? 田村媛命: 『……たわけ。吾輩は、人の子が捧げた供物を無駄にするような酷薄な神ではない也や』 そう言って明後日の方向を向いたまま、田村媛はおはぎを手に取り…口元に運ぶ。 神様でも、誘惑に勝てない時があるのかと思うとちょっとおかしくて…ぼくは笑いながら、下段にある自分用のおはぎを手に取った。 怜: んむっ…やっぱり、お魎さんのおはぎはおいしいね。田村媛命、どう? 口に合わない? 田村媛命: 『……絶品ではないが、悪くはない味哉。ただ、かつて供え物として食したものの方が甘さも塩加減も善きものであった也や』 怜: へー……田村媛って、どれくらいの昔からこの雛見沢にいるの? 田村媛命: 『さて、な。覚えている限りだと、この地が鬼ヶ淵と呼ばれていた頃よりもはるか過去の時代から哉……』 怜: じゃあ……室町時代?それとも鎌倉とか、平安……? 田村媛命: 『もうずいぶん星霜を重ねてきた故、いつと申すことはできぬ也や。以来どのように「世界」が変貌したのかも、忘却の彼方也や』 怜: ……そうなんだ。 つまり彼女は、100年や200年では済まないほど気が遠くなるような年月を生きてきたことになる。 まだ10代でしかないぼくには、その期間がどれくらいの長さなのかも……理解できない。 いや、そもそも100年でさえ生きることが稀なケースの人間では、想像することさえもはや困難の極みだろう……。 怜: あっ……そうだ。田村媛に以前調査を頼まれた、『角の民の長』のことは古手家の人に聞いてもあんまり教えてくれなかったけど……。 怜: 今、学校で流行っているものは一応わかるよ。 ぼくは、人と喋ることが……正直苦手だ。仲の良い親戚も、学校の友達もいないから上手な説明の仕方なんて……わからない。 それでもわからないなりに興宮のことや、学校のこと……他には雛見沢での、最近の出来事。とにかく思いついたものから説明をしてみた。 その中で、田村媛が一番興味を示したのは……雛見沢に広がる広大な田んぼの効率化のために導入されたという、巨大な農機具のことだった。 怜: (農耕の神様らしいから……気になるのかな?) 地面に木の枝で自動田植え機の絵を描きながら、カメラがあれば実物の写真を見せられたのに……と密かに後悔がよぎる。 田村媛命: 『角の民……いや、レイよ』 そんな中、おいしいおはぎでお腹の中が満たされたのか……いつになく穏やかな声で、田村媛が問いかけてきた。 田村媛命: 『ひとつ、教える也や。そなたはなぜ、さほどまでに吾輩になつくのか……神であるこの身でも理解できぬ哉』 怜: え、そう……? 田村媛命: 『#p然#sしか#rり。ましてや、そなたが邪な思いを抱いている者であれば即座に追い払いて、この≪聖域≫の中にも近づけぬのに……』 田村媛命: 『どうやらそなたは、どうも異なる様子也や。ゆえにわからぬ哉……目的について話し給え』 怜: なんで、って……助けてくれたお礼と……ついでに、趣味? 田村媛命: 『趣味……?』 怜: ここからすぐそこにある小川から、草舟を流すのが趣味なんだ。こうして草を舟の形に編んで、流れに乗せて……。 説明をしながら、ぼくは手近にあった細長い葉を摘んで……実際に舟を作ってみせる。小さい頃から作っているので、慣れたものだ。 田村媛命: 『それを川に流して……どうする也や?』 怜: 見送るだけだよ。 田村媛命: 『それだけ……哉?』 怜: それだけだけど、結構楽しいよ。流れていく先がどんな世界なのか……色々と想像してみたりしてね。 怜: どんな山奥の川でも、流れ着いた先と海は繋がっているものだからさ。……ところで田村媛は、海を見たことがある? 田村媛命: 『肯定哉。神である吾輩に、知見がないものは存在し得ないと知り給え』 怜: あ、やっぱりあるんだ。いいなぁ……ぼく、行ったことがないんだよ。父さんが海、嫌いだからさ。 心底羨ましいと思いながらそっと、ぼくは編み上がった草舟を草の絨毯の上に置いた。……これは、あとで川に流そうと心に決める。 怜: ぼくが編んだ船が海に辿り着けるかも、って思いながら、草舟が見えなくなるまで見送る。……それがとても、ワクワクするんだ。 怜: ほとんどの草舟はすぐ沈んじゃうけど、時々……本当に運良く、見えなくなるまで流れて行くやつもあったりするんだよ。 田村媛命: 『……それを見て、楽しい也や?』 怜: 楽しいよ。楽しい……けど。 そこでぼくは言葉を切り、最後のおはぎのかけらを口に入れてごくん、と飲み込む。 こんな愚痴は、本来神である存在に語るべきではないかもしれない……それでも、誰かに聞いてもらいたいという思いもあった。 怜: 本当のことを言うと……家にいたくないんだ。父さんは、村でのもめ事にかかりっきりだしね。 田村媛命: 『もめ事……?この地にどのような問題が起きている也や』 怜: 雛見沢に、ダムができるんだよ。水害対策で……だから村の人たちは、別の場所に移住しなきゃいけないんだって。 田村媛命: 『なんと、それは真か……?!』 怒ったような表情を浮かべながら、田村媛は大きく目を見開いて……こちらに視線を向ける。 普段ぼくに対して見せるような、可愛らしいものではない。……彼女は本気で、憤っている様子だった。 怜: うん……。最近だと国相手に村の人たちが抗議したり、賛成派と反対派の内輪でケンカをしたり……。 怜: ぼくが住んでいる興宮も、なんだか……ピリピリとしているんだよ。 田村媛命: 『……何をやっておるのだ、角の民の長は。かような事態を収めることこそが、「神」としての義務であり矜持であろうに』 田村媛命: 『……。いや、吾輩がこうして顕現していることこそが異常事態の兆し哉。何かが起きているのかもしれない也や……』 そう呟きながら、田村媛は腕を組んで唸るように嘆息する。そしてふと、思いついたように顔をあげていった。 田村媛命: 『レイよ。そなたから聞くのは、出会った時から村や父親のことばかりだが……母親はどうしている哉?』 怜: …………。 怜: なんていうか……話したい感じじゃないんだ。元々母さんは父さんのことが大好きすぎて、ぼくのことはどうでもいいと思っているしさ。 田村媛命: 『どうでも……?』 怜: 少し前に……母さんは、妊娠していたんだ。けど、村がゴタゴタしたせいなのかな……原因はわからないけど、流産しちゃって。 怜: 流産って、わかる……?赤ちゃんが生まれる前に、お腹の中で死んじゃうってことなんだけどさ。 怜: ただ、やっと村長の孫が生まれる、って周りから期待されていたせいで……。 怜: 父さんと母さんは、死んじゃったことをお爺ちゃんたちにまだ言えないみたいなんだ……。 田村媛命: 『……孫? それはおかしな話也や。そなたも血統上は、村長の孫のはず哉?』 怜: ぼくは……ちゃんとした孫じゃないから。 田村媛命: 『……どういう意味也や?』 怜: よく知らないけど……母さんと父さんの結婚、お爺ちゃんたちにすごく反対されたんだって。 怜: なのに、みんなに認められて結婚する前にぼくが生まれたちゃったから……。 怜: 母さんは、お爺ちゃんたちと大喧嘩して……ぼくが生まれたことで、強引に結婚したらしい。 当時のことは、断片的な話でしか聞いていない。……ただ、当時どれほどの騒ぎになったのかはぼくでも容易に想像ができるものだった。 怜: ぼくは、みんなに認められて生まれた「孫」じゃない……恥ずかしい子なんだって。 怜: でも、次は結婚後の子どもだから……これで爺ちゃんたちも認めてくれるって、母さんたちはすごく喜んでいたんだよ。 田村媛命: 『……愚かの極み哉。恥も何も、子は子。他に何がある也や?』 怜: 神様から見ればみんな同じでも、人間社会じゃ違うんだって。 実際ぼくを見て、そっと目を反らす人は雛見沢にも興宮にも……大勢いる。 その大半が、何らかのかたちで雛見沢御三家と関係している人たちだった。 怜: ……でも、本当は村の人たちも結構優しいんだよ。お爺ちゃんなんて、ぼくが最近よく裏山にひとりで遊びに来ているって言ったら、笛をくれたんだ。 田村媛命: 『笛……?』 怜: 本当に危険な時ってとっさに声が出ないから、大きな動物に襲われたら…笛を鳴らせって。 そう言ってぼくは、服の下に隠すように首から提げた笛を田村媛にも見えるように掲げてみせた。 怜: このおはぎもね、園崎のお魎さんに友達にあげたいってお願いしたら……くれたんだよ。一緒に食べなさい、ただし他の人には内緒だって。 怜: みんな、少しずつ優しくて……心の底からぼくのことを嫌っているわけじゃない。……わかっているんだ、それくらいは。 でも……それだけだ。理不尽だとわかっているのに、周りの目を気にして態度を変えることができない。 皆から仲間外れになることを恐れるあまり、仲間であることに固執して周りに従う……まさにそれは「いじめ」の原理だった。 怜: 表立って、ぼくのことは認められない……だから、ぼくは#0#sゼロ#r。 怜: うちのお爺ちゃんの名前は喜一郎だから、孫が生まれたらその子の名前に「一」を入れたかったそうなんだけど……。 怜: でも、ちゃんとした子じゃないから……その名にふさわしくないって、見送られた。 怜: だから、ぼくは#p0#sゼロ#r……#p怜#sれい#r。始まりの1の前の子どもってわけさ。 だからこそ、両親は次の子を待ち望んだ。ちゃんとした夫婦として認められるために。 ……それとは別に、ぼくも望んだ。「お兄ちゃん」になりたかったのだ。 怜: いっぱい遊んで、可愛がって……危ない目に遭ったら、命をかけても守って……でも、ダメなことはちゃんとダメって叱る。 怜: でも……ぼく、お兄ちゃんの資格なんか無いのかも。それで赤ちゃん、この「世界」に生まれてくるのが嫌になっちゃったのかな? 怜: 田村媛は、神様なんだよね。そういうのって、わかったりする……? 田村媛命: 『下らぬ考え哉。赤子は生まれる時は生まれ、死ぬ時は死ぬ……そも、兄の資格とは具体的にどう説明する也や?』 怜: えっと……血の繋がった兄弟がいいって、わがまま言うのは絶対ダメ……とか。 田村媛命: 『…………』 田村媛はそれっきり黙り込んでしまった。……やはり、今の答えはダメだったのだろうか。 怜: ……ごめんなさい。 田村媛命: 『何を謝ることが……いや、そなたの態度は神に対するそれに改めて大いに反省するが善しとしても……』 怜: …………? 田村媛命: 『ふむ……つまり、その「孫」とやらによって全てが解決できるのであれば、ひとつの妙手哉』 田村媛命: 『ならば、吾輩が……縁とやらを授けてやろう』 怜: えっ……ほ、本当にっ? どうやって?! 思わず身を乗り出して尋ねると、田村媛は手に一枚の新緑色の葉っぱを握り……それを差し出してきた。 田村媛命: 『神木の葉を煎じて母に飲ませよ。……吾輩の力が、縁の繋ぎを強化できるもしれぬ』 怜: この葉っぱを……? むしゃっ。 田村媛命: 『って、何故口にする?!』 怜: もぐ、ごく……う、結構苦い。 田村媛命: 『当たり前哉! それは吾輩の神木の葉!煎じた水を飲ませるだけで十分!直接飲み込む阿呆がどこに……ここにいた哉』 呆れ顔でため息をついたものの……それでも田村媛がもう一枚葉っぱをくれたので、ぼくはありがたく受け取る。 とりあえず味見して苦いとは思ったけど、これが本当に効果があるのだろうか……? 怜: えっと……これを茹でた水を母さんに飲ませれば、田村媛がお腹にできた赤ちゃんを守ってくれるの? 田村媛命: 『加護の力を与えられるかどうかは、不明瞭也や。母が《角の民》なら吾輩の力が届くかどうか……されど、可能性は高められるやもしれぬ』 怜: じゃあ赤ちゃんは妹! 妹がいい! 約束だよ!名前はえっと、ちゃんとした孫だからお爺ちゃんの一の文字を入れて、えっと……! 田村媛命: 『おい、待て待て。性別まではさすがに吾輩も、責任が持てぬ也や』 怜: あ……確か田村媛命は、農耕の神だったよね?だったらそれに関わるような文字があった方がいいかな。うーん……。 田村媛命: 『だから話を聞け!つくづくそなたは「神」に対しての敬虔さに欠けて……!』 怜: あっ、そうだ!ねぇ田村媛命、「一穂」って名前はどうかな? 田村媛命: 『カズホ……とな?』 怜: 稲穂の葉っぱってね、舟にすると結構遠くまで流れるんだ。 田村媛命: 『……稲の葉をもいだ、……と?』 ……何もない原っぱの空気が、エアコンでも入れたみたいに急激に冷え込む。 よくわからないけど……何かまずいことを言ってしまったのかもしれない。そう思ったぼくは慌てて、言葉を続けていった。 怜: た、田んぼの端っこにまとめて植えてある、ちゃんと植えきれない余った稲のひとつからちょっと……ちょっとだけだよ?! 稲穂の葉をもいでしまったら、お米ができにくくなることはぼくでも知っている。……だから、もらったのはほんのちょっとだけだ。 それでも、稲穂の草舟は上手に川を乗りこなすことを知っているから、やめられない……のは、内緒だ。 怜: 可愛い名前だと思うんだけど……一穂って、ダメ? 田村媛命: 『一穂……ふむ、一穂とな』 それを聞くや、くっ……と田村媛は身体をくの字に曲げる。そして、 田村媛命: 『ふ、ふはははっ! なるほど、《孤灯一穂(ことういっすい)》の一穂とは、実に因果な言霊也や……!』 なにがおかしいのか、田村媛は腹を抱えてゲラゲラと笑い始めた。……神様の笑いのツボは、よくわからない。 怜: ことー……? って、どんな字を書くの? 田村媛命: 『こう書く也や』 田村媛はぼくがさっきまで使っていた枝を拾うと、地面にガリガリと四文字を刻んだ。 怜: 『孤灯一穂』……あ、一穂の字がある。あ、でも灯って漢字も可愛いね。どうしよう、そっちもいいなぁ。 田村媛命: 『……お前はつくづく、いい性格をしている也や』 そうしてぼくはおはぎの代わりに、もらった葉っぱを家に持ち帰った。 その後、母に飲ませるために茹でようと湯を沸かして、煮えたぎった鍋の前で……今さらながらに躊躇った。 怜: (これ……本当に飲ませていいの?) 母は……雛見沢の人々は『オヤシロさま』のことを大切にしている。 その母に、田村媛……別の神様が与えてくれたものを勝手に与えて、悪い影響は出ないのだろうかと。 結局その日、もらった葉は鍋に入れず机の中に丁寧にしまった。次に会った時に大丈夫なのかを尋ねよう……そう思って。 でも次に会った時は、田村媛に聞けなかった……疑っていると思われたら、どうしようと。 疑っているのは事実なのに、そのことを知られたくなかったのだ。 田村媛もその後、母に飲ませたかと聞いたりしなかったから……綺麗な葉っぱはずっと机の中にしまったまま。 それから数ヶ月後……母は、再び妊娠したと嬉しそうに笑った。今度こそちゃんと産むんだと、お腹を撫でながら。 ……年が明けて、しばらくして。 出産のために興宮を離れて、都市部の大きな病院へ入院した母が……帰ってきた。 手のひらよりも……小さな骨壺とともに。 女の子だった。妹だった。でも……生まれてこなかった。 生まれた時、既に妹は死んでいた。母の腹の中で、産声をあげることなく死んでいた。 母は泣き崩れ、父はそれを支え、ぼくは……。 怜: ……ごめんなさい。 謝った。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。 もしかしたら、田村媛の葉を飲ませていれば赤ちゃんは生まれてきたかもしれないのに。 ぼくが疑って、黙って、怖くなって……何もしなかったから。 赤ちゃんが死にました。ぼくが殺しました。 ……ごめんなさい、ごめんなさい。 疑って、ごめんなさい。信じなくて、ごめんなさい。 やっぱりぼくは、お兄ちゃんになる資格がありませんでした。 田村媛に……合わせる顔もありません。 ………ごめんなさい。 喜多嶋: 『一穂』に関する私の話は……これで全部だ。 喜多嶋さん……ではなく「怜くん」の話が終わった瞬間、部屋の中に重苦しい空気が広がる。 今の話が、嘘やデタラメでないことは確かめなくてもわかる……なぜなら彼の顔は、本当に辛そうな表情をしていたから……。 魅音(25歳): えっ……ちょ、ちょっと待ってよ、怜っ。その赤ん坊が死んだのはいつ?! 昭和何年?! 喜多嶋: 昭和54年の、……正月明けだな。 巴: 確か赤坂刑事が雛見沢に行ったのが昭和53年の夏じゃなかった?その直後に、美雪さんが生まれているから……。 美雪ちゃんと同じ年……一穂ちゃんと、同じ。だとしたら、昭和54年に死産した子は……。 レナ(24歳): その赤ちゃんは、一穂ちゃん……ってこと? 魅音(25歳): じゃあ一穂は、生まれる前に死んでいた……? 川田: ―――はっ、くっだらない。 魅ぃちゃんの呆然と呟いた……言葉。それに間髪入れず、川田さんの吐き捨てる声が上書きされるように続いた。 川田: 黙って聞いていたら……なんですか、今の話は。つまり「一穂」は、妹につけようとした名前で……。 川田: 兄貴がそう名付ける……って勝手に決めていただけってことですよね? 川田: 無事に生まれてきたとしても、両親でもあるまいし兄が名付け親になってその子が一穂になっていたか、なんて断言できませんよ。 川田: なんでそんな意味不明話を大の大人が雁首揃えてクソ真面目な顔で聞いているんです?……あぁダメです。頭痛くなってきました。 灯: さて……どうだろうね。 川田: は? なにが? 馬鹿馬鹿しいと切って捨てる川田さんに対して、灯ちゃんは神妙な表情を浮かべながら低い声で言葉を繋いでいった。 灯: 今の怜の話を事実として捉えると、確かに何もかもが真実ではないかもしれない……だが、一部は真実であってもおかしくない。 川田: なんで断言できるんですか? 証拠でも? 灯: 証拠……ね。逆に聞くけど、今の話が真実になってしまうと……あおいは困ったりするのかい? 川田: はぁ?……あの、人の話を聞いていますか? 灯: …………。 川田さんの問いに答えず、灯ちゃんはちらりと私を見る。唐突にエサを差し出され、食べていいのか判断できずに飼い主を見るワンちゃんみたいだった。 レナ(24歳): (……。ううん、違う) 困惑と同時、見つけた弱点に食いつかんと歯をうずかせて目を輝かせるその姿は飼い慣らされた「犬」ではなく――。 レナ(24歳): (野犬……じゃなく、野生のオオカミみたい) だからこそ私は、彼女の次の行動に許可を与えることにした。 レナ(24歳): ――いいよ、灯ちゃん。あなたの疑問を、聞かせて。 灯: ……了解わんっ! 手綱を離すと同時、灯ちゃんは目を輝かせながら川田さんへと向き直った。 灯: つまり、今の態度から見て……怜とあおいは、協力関係にある可能性が高い。 灯: もっと言うと、あおいにつけられたもう1つの首輪の主は……怜なんだね? 川田: ……っ……? レナ(24歳): やっぱり……灯ちゃんもそう思う? 灯: 現状、そう考えた方がしっくりときます。……あおいは踏みこまれたくないと感じた時ほど、強引に話題を変えようとしてきますからね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: え……? そ、そうなんですか? レナ(24歳): うん。それに昨日の夜に聞いた、千雨ちゃんの話を思い出したんだ。 レナ(24歳): 『平成B』で美雪ちゃんたちが、高野製薬に行った時のことをね……。 喜多嶋: もっと上の人間がご挨拶に伺うべきですが、現在『眠り病』対策で手一杯でして……。 喜多嶋: 自分のような若輩者が連絡役として派遣されたところで釈明に足らぬと存じますが、何卒ご容赦をいただけますと幸いです。 川田: お久しぶりです、美雪さん。……あと、あなたは初めまして。川田碧といいます、よろしく。 レナ(24歳): 高野製薬に、2人はほぼ同時に現れたんだって。……もちろん、偶然タイミングが被っただけって言い張ることができるのかもしれないけれど。 レナ(24歳): 新薬の認可と製造……その両面からストップさせようとするんだったら、連携したほうがはるかに効率的だよね? 魅音(25歳): あ、あぁ……そういうことか!! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……? あの、すみません。もう少し詳しく説明してくれませんか? 灯: 要するに……警察内の情報を内通者経由で把握していた怜が、それらを都度あおいに流していたってことさ。 灯: その内通者とは……比護さん、あなただ。 比護: ……っ……。 灯: あと、あおいが美雪くんたちを鬼樹の前で待ち構えていたというのも、よくよく考えるとタイミングがよすぎるしね? 巴: はぁ、情けない……なんで私はその可能性に気がつかなかったのかしら……? 巴: 比護くんが厚生省の紐付きってことは早い段階でわかっていたのに、まさかあおいまでそっち側だったなんてね……。 灯: 怜とあおいに接点がなかったからでしょう。だから、惑わされた……近しい立場にいた私たちも同様に、です。 レナ(24歳): じゃあ、2人の接点って……? 灯: 間違いなく私でしょうね!というか、もうそれくらいしかない! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……なんで胸を張るんですか? 灯: あまりにも見事に出し抜かれたから、もう虚勢を張って笑うっきゃないってことだよ。はっはっはっ……。 灯: おそらく、ここではないどこかの「世界」で私が怜に、あおいを……いや、あおいに怜を?まぁとにかく、2人を引き合わせたんだろう。 灯: 私は2人のことが大好きだからね!3人で仲良くできたらきっと嬉しいと思って、きっかけがあれば普通に紹介するだろうし。 灯: ……が、それ以降の「私」にはそのきっかけがなかった。だから、わからなかったというわけです。 灯ちゃんがかつて2人を引き合わせた際、何があったのかは……想像するしかない。 一つ言えることは、彼の存在を知った川田さんは別の「世界」で自分を知らない喜多嶋伸介に接触して協力関係を結び、川田碧という身分を手に入れていた。 レナ(24歳): (私や絢花ちゃんと……似ているかもしれない) 絢花ちゃんが別の「世界」の記憶……竜宮レナのことを思い出して、手紙をくれなければ私は少なくとも……ここに居なかったかもしれない。 その結果、魅ぃちゃんと敵対する人間に捕まり、殺されていた可能性は……かなり高かっただろう。 麗: 感染病に似ているね。一見単発的に発生した病気でも、媒介者がいれば話は変わってくる。 灯: ……しかし、レナ先輩はよく気づきましたね? 灯: 私は千雨くんの話の中で、あおいと怜の行動に注目して話を聞いたので……なんとか連動している可能性に気づけましたが。 レナ(24歳): 元々、喜多嶋さんの行動は変だなとは思っていたんだよ。だって……お父さんの目的と真逆のことをしようとしているから。 『雛見沢症候群』を利用して、復讐に走った父親。手段を選ばず、それを止めようとする息子。 子が親の意思を汲んで動いていると考えるには、発言と行動があまりにも……ズレが大きすぎた。 レナ(24歳): でも、今の話の流れでなんとなくわかったかな……かな。 私は既に、答えを知っていた。いや……既に見たことがあったのだ。 レナ(24歳): 川田さんと、同じ……大事な人が、できたんだね。 喜多嶋: ……っ……。 はっ、と息をのみ……喜多嶋さんは顔を背ける。そしてぽつり、と小さな声で呟くように言った。 喜多嶋: ……もちろん、否定はしないさ。だがそれ以上に成長して、多くを学んで……父とその仲間の復讐は、筋違いだと気づいた。 喜多嶋: 行動理念は、そっちが主だ。……私的な感情などに囚われるほど、私の覚悟は軽薄ではない。 川田: 覚悟、ね……。学んだというより、かぶれただけでしょうが。 川田: こいつの親、息子に箔付けようと海外留学させてコネで厚生省にぶちこんで……。 川田: 自分たちの計画を明かしたら、当の息子に大反発をくらって……親子の縁を切ったんですよ。 喜多嶋: おい。 川田: いいじゃないですか。どうせ後から、全部引きずり出されますしね。 川田: だいたい、あんたが秘密にしろって言うからなんとか話をそらしてやろうとしてたのに……なんで自分から全部ばらすんですかねぇ? 喜多嶋: 話をそらす? 確証を持たせたの間違いだろう。相変わらずいい性格をしているな、殺人鬼。 川田: あー、はいはい。四面楚歌で可哀想かな、なんて仏心を出して慣れないフォローをするんじゃありませんでしたねー。 川田: けど、なんで怒っているんですか?あ、捕まって報告しなかったことを恨んでいるんですか? 川田: 残念ながらこっちはずっと見張られていたんですよ。連絡なんて全部即バレじゃないですかアホですか? 比護: 課長。……あおい。 言い合う2人の背後に立った眼帯の男性が、ぽん……と双方の肩を叩く。そして、 比護: 2人とも……その辺にしておこう。ごまかそうとしても、もう遅い。 川田・喜多嶋: ……っ……! それを聞いた2人は互いに睨み合った後、大きくため息をついて……顔をそらした。 レナ(24歳): ……結局、お互いを信頼する前に自分自身のことを理解できていなかったから、うまくいかなかったんだろうね。 巴: まぁ協力関係を保ってはいても、意思と方針の共有は万全じゃなかった……ってことかしら。 灯: いや、あれは逆に仲良しなのでは?!本音を言い合える程に仲がいい! みたいな……!! レナ(24歳): はぅ……違うと思う。 この空気の読めない発言もそうだけど、灯ちゃんは鋭いのか、それとも鈍いのかがいまだに判断しづらいところがある……。 魅音(25歳): とはいえ、怜の協力者の川田さんが否定するってことは……今の怜の話は本当だったって考えてもいいんだね? #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……そうだと思います。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 今の話は……私が聞いていた一穂さんの話と一部ですが……合致します。元より彼女は、生まれる運命になかったと。 魅音(25歳): っ……じゃあ、私たちが昭和58年で会った一穂はなんなの?! #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: それは……そこまでは、聞いていません。ただ……もう一つ、私のツテの者から聞いていたことがあります。 絢花ちゃんは一呼吸置いて。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 公由一穂さんは……人間ではない、と。 Part 06: ……東京に戻ってから、数日後。 再び訪れた広報センターの館長室でお茶を飲んでいると、ふいに開いた扉の向こうから現れたのは……。 喜舟: 連れてきましたよ……っと。 夏美: し、失礼します……。 南井さんの部下だという大柄な男の人に付き添われた、……藤堂夏美さんだった。 魅音(25歳): 夏美ちゃん……!身体の方はどう、少しは回復した? 夏美: うん……もう大丈夫。ありがとう。 巴: 喜舟、護衛おつかれさま。 喜舟: どーも……っていうか一応話には聞いていましたけど、こんなところで巫女さんを見るとビビりますね。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: お邪魔しています。 喜舟: ども……お、あおい久しぶりだな。元気だったか? 川田: はい……元気です。 喜舟: ならよかった……って、そうだ。秋武たちがあっちの部屋で会議していたが知らない男が増えているな。ありゃ誰だ? 灯: 私の友達だ! 喜舟: お、あーちゃんの友達か。そうかそうか。じゃ、俺もあっちの会議参加してきますわ。 それじゃ、と喜舟さんは手を振って館長室を出て行く。 川田さんはそれを手を振りながら見送り、扉が閉まると同時に……きっ、と隣に座る灯ちゃんに目を向けた。 川田: で……なんであんたはここにいるんですか。まだ私から、何か情報を引き出そうとでも? 灯: この前も言ったけど、私はこちらの彼女の飼い犬だからさ!飼い主の側にいる方が自然だろう? えへんと、胸を張る灯ちゃんに呆れた視線を送る川田さん……2人の肩越しに、夏美さんと目が合った。 夏美: …………。 レナ(24歳): …………。 無言のまま、お互いに軽く会釈しあう。私にとって夏美さんのことは伝聞だけの人で、初対面とほぼ同じようなものだった。 レナ(24歳): (公由の人で、魅ぃちゃんの友達で、南井さんと仲良しで……) 眠り病にかかった旦那さんのことを、心から愛している。 #p雛見沢#sひなみざわ#r時代に出会っていたら……何かのきっかけがあったら仲良くなって、一緒に遊んだりしたかもしれないけれど。 レナ(24歳): (ここは……魅ぃちゃんに任せたほうがいいよね) そう思いながら私は、魅ぃちゃんに目配せする。すると彼女は言葉がなくても理解してくれたのか、にっこりと笑いながら無言で頷いてくれた。 巴: ごめんなさいね、夏美さん。退院して早々こんなところまで来てもらって。 夏美: いえ……むしろ、呼んでくれて感謝しているんです。 夏美: 私はまだ、みんなに伝えるべき話を全部伝え切れていなかったんです。正直話すことが、すごく怖かったけど……。 夏美: やっと、決心がつきました。だからその話を、今日ここでさせてください。 魅音(25歳): ……わかった。なんにせよ元気になってくれて、本当によかったよ! 夏美: うん……それとね、アメリカにいる暁くんも目を覚ましてくれたらしくて……。 巴: えっ、本当?! 夏美: はい……電話で少しだけど、話せました。向こうで開発中の新薬を投与する臨床試験の対象に選ばれたのが、功を奏したそうで……。 そう言って夏美さんは、病み上がりで疲れたような顔ながらも……心底嬉しそうな微笑みを浮かべていた。 夏美: ……まだ万全じゃないですし、日本でも『眠り病』の危険が去っていないから帰国はかなり先になりそうですが……。 夏美: もし退院できたら、南井さんのお知り合いが手配してくれたアメリカの住まいでしばらく静養する予定とのことでした。 巴: それを手配したのは、私じゃなくて秋武姉の方だから。あとでお礼を言っておいて。 巴: けど……よかったわね、夏美さん。 夏美: っ……はい。それと……。 そう前置きしてから夏美さんは、深呼吸をして……私たちに向き直っていった。 夏美: 暁くんにはこれまでのこと、正直に話して……全部、伝えました。 夏美: 私は、「繰り返す者」の能力を悪用して……たくさんの人たちに、迷惑をかけてきたこと。 夏美: 「世界」を渡り歩きながら、私はこの手を汚してきた。人の命を奪うような、むごいことも……ッ! レナ(24歳): ……夏美、さん。 夏美: だからもし、これを聞いて失望して嫌いになったら……離婚してほしい。そう思っても仕方ないって……。 夏美: っ、……で、でも……。 夏美さんの頬に、一筋の涙が流れる。それを追うように嗚咽が口から漏れ出ると、止めどなくその瞳から涙があふれていった。 夏美: 暁くん……「そこまで自分のことを想ってくれて、ありがとう」……って。 夏美: っ、わ……わ、私がしてきたことは決して許されない……! どれだけ謝っても、償いきれないくらいに重くて、酷い……! 夏美: で……でも!「それは、俺が『眠り病』にかからなかったら犯さなくていい罪だった」……って……! 夏美: だから……一緒に……「夫婦として背負っていこう」って……っ……。 魅音(25歳): ……よかったね、夏美ちゃん。最高の人がパートナーでいてくれてさ。 夏美: うん……うんっ! 魅ぃちゃんに背中を撫でられながら夏美さんが何度も何度も、噛みしめるように頷く。 灯: ……いいな。 そんな彼女を、隣にいた灯ちゃんは遠い目で見つめていた。 灯: 大切な人が抱えた秘密を打ち明けてくれるのは、信頼されているようで嬉しいけど……。 灯: 逆に隠していると態度でわかってしまうと、寂しい。ここ数日で、私はつくづく痛感させられたよ。 レナ(24歳): 灯ちゃん……。 灯: まぁ、だからこそ私は、あおいや怜が抱えていた秘密のフタを無理矢理こじ開けたわけなんですが。 川田: ……一応、自覚と罪悪感はあるんですね。 灯: うん。ただ同時に、必要だったことも否定しない。……今となっては、自発的に話すだけの信用を得られなかった事実を寂しく思うだけだよ。 責めるわけでも怒るわけでもなく、灯ちゃんは寂しそうに苦笑を滲ませている。 すると、それを見た川田さんは気まずそうに前髪をいじりながら、ぽつりと返していった。 川田: 別に……信じていないから打ち明けないとは限らないじゃないですか。 灯: えっ……? 川田: 友達だからこそ、話せないってことです。秘密って、そうする理由があるからこそ秘密にするんですからね。 川田: だいたい、秘密を話せば責任や嫌な感情も相手に受け渡すことになります。……そんな迷惑、いつでもかけられますか? 川田: 重い秘密を受け止めるためには、それだけ体力と勇気が要るんです。……そうでしょう? 川田: それに、自分から秘密を打ち明けて受け止めてもらえても……後になってからやっぱり聞かなかったことにして――。 川田: なんてことを言い出されたら、どうするんですか。逃げ場ないですよ。 レナ(24歳): 川田さんは、南井さんたちにもしかしたらそう言われるかもしれないって……考えるのが怖かったのかな、かな? 川田: ……黙秘です。 その指摘に対して川田さんは、さっきまでは少し怒ったように早口でまくしたてていたのに……途端にむすっとした顔で黙り込んでしまった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: ……大丈夫ですよ。個人的に南井さんは、あまり私の好きなタイプではありませんが……。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そんなことを言い出すような人には思えません。だから、心配は無用です。 川田: なんですか……急に。何も知らないくせに、知ったような口を叩かないでください。 苛立ったようにそっぽを向く川田さん。……そんな彼女を見ていると、久しぶりに「かぁいい」と思える感情がわいてくる。 レナ(24歳): (10年前の時は大人っぽく見えたけど……川田さんって、こういう人だったんだ) レナ(24歳): はぅ……灯ちゃんの友達って、かぁいいね。 灯: でしょう? 川田: そこ、うるさいですよ。 本格的に川田さんの機嫌が悪くなってきたので、からかうのはこのあたりでやめておこう。……灯ちゃんにもやりすぎないよう、目で制する。 巴: ねぇ、夏美さん。あなたにとってものすごく言いにくいことだと、わかってはいるんだけど……。 そして、夏美さんが落ち着いたのを見計らって南井さんは自分のハンカチを差し出し、おもむろに切り出していった。 巴: 『平成B』……高野製薬での爆破事件の時、夏美さんは工場内で私を殺そうとしたって話していたわよね? 巴: 殺される直前の私……つまりその「世界」の南井巴は、いったい何をしていたの? 夏美: ……っ……。 夏美さんは唇を噛んでうつむき、辛そうな表情で……黙り込む。 ……それでも再び顔を上げると、ハンカチを握りながら口を開いていった。 夏美: 南井さんは、燃える工場の中で……「あれ」を見てしまったんです。 巴: 何を……? 夏美: ……脳と、脊髄です。10年前に殺されたことになった、古手梨花ちゃんの――。 レナ(24歳): えっ……?! 魅音(25歳): 梨花ちゃんの……何だって……?! あまりに想定外な人物の名前と、そこにあった「もの」の正体を告げられて……私と魅ぃちゃんは目を見開きながら固まった。 夏美: 『雛見沢症候群』は女王感染者の指令によって発症し、暴走する……誰かからそういう話を、聞いたことがありませんでしたか? 魅音(25歳): ある……ある、けど……。 夏美: 高野美代子……ここではあえて、そう呼びますが。 夏美: 彼女はその女王感染者の『因子』を管理下に置くことで『雛見沢症候群』の制御に成功した……そう言っていました。 巴: じゃあ、その「世界」の私は何らかの経緯で脳と脊髄を発見して……それが古手梨花だって、気づいたの? 夏美: 気づいたかどうかわかりませんが……それは見られてはいけないものでした。 夏美: だから私は、南井さんを……撃ちました。元々治療薬と引き換えにそういう約束を結んでいたので……。 巴: 自分たちの邪魔をする人は消せ……って? 夏美: 美雪さんたちを南井さんに紹介した後に、向こうから接触があって……取引をしました。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: かなり強引な押し売りですね。 夏美: ……他には長い時間をかけて、梨花ちゃんの『因子』を親類の女の子の身体に移植する手段も、試みられたりもしたそうです。 とっさに振り返ると、困惑した顔の絢花ちゃんと目が合った……『親類の女の子』が彼女なのは、ほぼ間違いないだろう。 レナ(24歳): (絢花ちゃんが飲んでいる薬は特殊なもので、何度も変わったりしていたそうだけど……) ……現在飲んでいる薬は、無関係の安全なものであることを願うばかりだ。 夏美: だけど、それも失敗に終わり……結局梨花ちゃんを『雛見沢大災害』を利用して、誘拐して……。 夏美: 脳と脊髄を培養液に漬けて、電極を流し……「生きた道具」にする方式に切り替えた、と言っていました。 魅音(25歳): 反吐が出る……! 魅ぃちゃんが激しくテーブルを叩きながら、立ち上がる。 魅音(25歳): 鷹野さんって、やったことはともかく全く同情できない人ではないと思ったけど……! 魅音(25歳): さすがにそこまで人の道を外れたら同情も全部吹っ飛ぶよ……!! 灯: うん……私も同意見だね。しかし、『雛見沢症候群』の制御に成功とは……? 川田: 大量殺戮が可能な生体兵器を作り上げることに成功した……と同じ意味ですよ。 巴: ……つまりあおいの工場爆破の目的は、脳と脊髄の発見と破壊? 川田: いえ。主な目的は、薬の製造の妨害です。 川田: 『雛見沢症候群』の発症ウイルス製造の過程に古手梨花の遺体が利用されている可能性は把握できても、どこにあるかは不明だったので。 川田: 発見した場合は最優先で破壊予定でしたが……南井さんが先に見つけちゃったとは、運が悪いと言うほかないです。 川田: ……あぁ、そっか。美雪さんたちがタイミング悪く来てしまったから、私はそっちに気を取られて見落としたか……くそっ。 怒りに歯噛みする魅ぃちゃんとしくじったと自分の手で頭を抑える川田さん。 私は彼女たちを、少し離れた場所から妙に凪いだ心で見つめていた。 レナ(24歳): (魅ぃちゃんの……言う通りだ) 梨花ちゃんに対するむごい仕打ちに、怒りがないわけがない。さらに死してなおその身体を利用される彼女を思うと、あまりにも酷すぎて……。 レナ(24歳): (今すぐ、なにもかもブチ壊しにしてやりたくなる) でも……それでも、違和感が残る。感情も思考も、なぜかすっきりしなかった。 レナ(24歳): それ、本当に鷹野さんなのかな……? 灯: ……鷹野三四は、すでに死んでいます。 困惑からの独り言に、思わぬ方向から回答があった。 レナ(24歳): どうして断言できるのかな……かな。 灯: 雛見沢大災害の犠牲者の中に、彼女とみられるDNAを含んだ遺体が発見されているんです。 まさかの鷹野さんに関する新情報に、その場にいた全員の視線が灯ちゃんへと集中する。 さらに「かもしれない」「だろう」ではなく、確定した事実として語っている彼女のその発言はあまりにも想定外で……困惑を覚えるものだった。 巴: そこまで言い切るのは、何かの根拠があってのことなの……? 灯: ……はい。ただ申し訳ないですが、巴さんにも情報の入手先、そして断定に至った経緯は現状だと教えることができません。 レナ(24歳): 私たちの、誰にも言えないのかな?……かな。 灯: はい、言えません。どうかご容赦を。 灯: ……ただ、今の日本でテロを起こそうと企んでいるあなた方の「敵」に対して、諸外国側の立場から排除しようと考えている勢力がいる。 灯: それだけはお伝えしておきます。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: そう言われましても、どう解釈すれば。……レナさんは、どう思いますか? レナ(24歳): うん。……私も、看護婦の鷹野さんと製薬会社の高野美代子さんは……別人だと思う。 巴: どうして? レナ(24歳): 千雨ちゃんを通じて菜央が言っていた、入江診療所での鷹野さんの会話と行動がかみ合わないんです。 鷹野(軍服): ……あなたの言う通りよ、菜央ちゃん。これだけの規模に加担した私のことを、組織は決して許さない。 鷹野(軍服): だから全てが終わって目的を果たしたあかつきには、運命に殉じる覚悟もできているわ。 菜央(私服(二部)): …………。 鷹野(軍服): でも、今の私はジロウさんだけを生かせる方法を必死で模索して……それがないことに絶望している。 鷹野(軍服): 最初の夢のように、全力を出して負ければ彼は助かるかもしれない……でも、今の私には最初の夢と同じ結末に辿りつく方法が……わからない。 鷹野(軍服): だからといって、全てを打ち明けてジロウさんと逃げ出すことを選ぼうとしたら……彼は2番目の夢のように殺される。 鷹野(軍服): その続きはよく覚えていないけど……直後に私も殺されたことは確信できるわ。だって、生かしておく理由がないもの。 鷹野(軍服): ……何も遂げられないまま、おじいちゃんのスクラップはまた地面に散らばって汚れて踏みつけられる。 鷹野(軍服): ジロウさんを生かすことができないなら、私はなんとしてもおじいちゃんの論文は正しかったと証明して……彼とともに、死ぬしかない。 鷹野(軍服): 他の誰かに殺させるくらいなら、せめて苦しまないように……殺してあげたい。 菜央が鷹野さん本人から聞いたその決意は、ぞっとするような絶望に満ちていたという。 レナ(24歳): (何度惨劇を繰り返しても、大切な人を救えない……その苦しみから彼女は解放されたがっていた、と) 菜央ちゃんに涙を見せた鷹野三四。梨花ちゃんの亡骸を非道に利用する高野美代子。 同一人物と考えるには、……あまりにも、行動がかみ合わない。 レナ(24歳): 菜央ちゃんが嘘を吹き込まれた可能性も考えたんです……でも、その状況で嘘をつくメリットがない。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 何かきっかけがあって、変わってしまった……という可能性は? 魅音(25歳): その可能性はないとは言えないけど……でも、うん。確かに、同一人物にしてはおかしいのは確かだね。 魅音(25歳): なんか、ここ最近ずっと私って冷静さに欠けているよね……。情けないよ。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: つい最近まで命を狙われる生活だったんです。……環境が変わったのだから、考え方や捉え方が昔と変わらないままでいることは難しいかと。 レナ(24歳): はぅ……でも、魅ぃちゃんの根っこの部分は全然変わっていないと思うよ。 魅音(25歳): あはは、ありがと。……でも、確かに人間ってやつは本質的な部分でそう簡単に変わったりできないよね。 魅音(25歳): だとしたら、……。 そう言って魅ぃちゃんは、眉間に皺を寄せる。そしてしばらく考え込んだ後、口を開いていった。 魅音(25歳): 高野製薬の高野美代子が、もし鷹野三四と同一人物じゃなかったら……そいつは、いったい何者ってこと? 灯: ……私も、それが知りたいんです。 魅音(25歳): って、あのね……高野美代子と鷹野三四が別人だって自分から言い出しておいて、それは無責任すぎるでしょ? あんたは……。 灯: わからないんです……本当に。 苛立ちをぶつけそうになった魅ぃちゃんは、灯ちゃんの表情を見て……困惑したように口をつぐむ。 それほどに彼女は、真剣な表情で……本気で悩んでいる様子だったからだ。 灯: 私が使える全ての情報網を、手段を問わずに動員してひたすら調べても……あの高野美代子の正体が、掴めない。 灯: 少なくとも戸籍のある人間であれば、あれが何者なのかについての情報が断片的にでも入ってくるはずなんです。 灯: なのに、何も入手できない……?こんなことはありえないし、もしあったとしたらそれは人間の仕業ではなく……の……。 神妙に黙り込む灯ちゃんの姿は珍しいのか、南井さんたちも驚きとともに耳を傾けている。 灯: 仮に……仮にです。記憶の「書き換え」が「世界」の変化によって生じたとしましょう。 灯: だが、記憶の「書き換え」は今までの話を統合すると、同一人物のみの間で発生し……「別人」の記憶が入ったりはしない。 灯: だから、実在の人間と入れ替わりを演じたとしても超一流の産業スパイでさえ必ず足がつくんです。つまりそれ以外となると、残された可能性は――。 声: ……神の、御業。 川田: 采様……? いつの間に現れたのだろう。川田さんの足元に……彼女はいた。 采: 複数の「繰り返す者」によって、改変されたこの「世界」……。 采: 長らく続いた「間違い探し」の旅が、やっと終わりを迎えた……とも限らない。 采: 全てはお前たち、……人の子次第。 魅音(25歳): それは……どういう意味? 真意を問い質す魅ぃちゃんに返答せず、采様は無言のままに部屋に居並ぶ全員をぐるりと見渡す。そして、 采: 我は、ゴミ山と化した青い花壇は欲しくない。 采: ゴミ山にて数多積もるゴミのままで終わるか、「未来」という名の宝石になるかはもう決まっている……わけではない。 持って回った言い回しをする神様に、私は視線を合わせて……問いかけた。 レナ(24歳): あなたは、私たちに何をさせたいのかな……かな。 息が詰まりそうな緊張に包まれながら、それでも声を絞り出して伝えた問いかけに采様は厳かな口調で……告げていった。 采: ……神と戦え。 采: 運命に――抗え。 Part 07: 川田: ……よ、っと。 夜風に長いストールをなびかせた川田さんが、電柱からひらりと音もなく猫のように飛び降りる。 そして彼女は闇に紛れながら、私たちが息を潜める茂みの中へと戻ってきた。 川田: 高野製薬の、監視系統の電源切断を完了……これで侵入ルートは確保できましたよ。 灯: おぉ、手慣れているね。 夏美: 手慣れすぎていて……怖いくらいですが。 川田: 何度この工場に侵入したと思っているんですか?「世界」が変わったとしても、警備体制までもが変わったりしませんから……慣れですよ、慣れ。 確かに、電柱へとよじ登って……束ねられたコードのうちのいくつかを迷い無く切断する姿は手慣れていた。 これまでにどれだけの回数、彼女は高野製薬への侵入を繰り返してきたのだろう……?頼もしさと同時に、切ない思いもこみ上げてきた。 川田: にしても、本当に全員で工場に行くんですか?南井さんとかは広報センターで待っていたほうがいいと思うんですが。 巴: 私と絢花さん、夏美さんを外で待機……って決めたのはあんたでしょ?万一の応援要員として近くにはいさせてよ。 巴: それに……あおいは行くんでしょう? 川田: 私は采様の『御子』ですから。神が行く先に同行しない『御子』はいませんので……ね? 采: 違う、……ことはない。その通り。 その言葉とともに、闇夜に紛れて彼女の足元に小さな影……采ちゃんが現れた。 魅音(25歳): 高野製薬に私たちの最後の敵がいるとか言っていたけどさぁ……そうだとしても、いったい誰のことなの? 采: ……自分で確かめるのです。 魅音(25歳): いや、もったいぶらずに教えてよ。子ども向け映画の宣伝文句じゃないんだからさ。 采: …………。 魅ぃちゃんが少し苛立ったように尋ねるも、再び無視される。 このやりとりは昨日から何度も繰り返されたけど、結局采ちゃんは答えないままだった……。 魅音(25歳): ったく……そうやって訳知り顔で煙に巻いてばかりいないで、ちゃんと伝えるべきことは伝えてよ。 魅音(25歳): じゃなきゃ、何にもできないでしょ?そもそもあんたは、私たちに何をさせたいんだよ? 采: ……我はこの青い花壇に種を植え、花を咲かせたいだけ。 采: その意味で『眠り病』の蔓延は、我には実に好都合……と考えないこともなかった。 采: だけど……。 ふぅ、と。采ちゃんは幼い少女の外観に似つかわしくない大人びたため息をつき……皆を見回していった。 采: たとえ花をこの地の全てで咲かせたとしても、自分と接して話をしたり遊びに興じたりする者たちがいなければ退屈で……つまらない未来しかない。 采: ……己の『御子』を通して、そのことを感じた。そして理解して、……惜しくなってしまった。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: 『御子』……って、川田さんが?この人も、レナさんや魅音さんたちと一緒に遊んでいたことがあったんですか……? 驚いたように、絢花ちゃんは川田さんに目を向ける。彼女はばつが悪そうな表情で顔を背けていたが、ぼそりと「……少しだけです」と呟く声が聞こえた。 巴: なるほど。そっか……。それを聞いて、少しだけ安心したわ。 巴: 過去や未来を行ったり来たりって、ただ苦しくて辛いだけの旅かと思っていたけど……あおいにも、楽しい時間があったんだってね。 川田: ……最終的には全部、惨劇の袋小路でしたが。 巴さんに慈しみを込めて肩を叩かれたのが不本意だったのか、川田さんは自嘲交じりに吐き捨てる。でも……。 レナ(24歳): (結末は惨劇しかなかった……としても、楽しいことがあった事実は否定しないんだね) それがなんだかおかしくて、こっそりと笑ってしまった。 ……だから、せめて。 私たちが大好きな#p雛見沢#sひなみざわ#rで、川田さんが楽しいことを見つけてほしい……とそう願わずにはいられなかった。 采: 袋小路だったのは、#p田村媛#sたむらひめ#r命やお前たちが『オヤシロさま』と呼ぶあの角頭が全く使い物にならないせいなのです。 采: ……だからチョー不愉快ですが、もう我がやるしかないのですよ。 采: この「世界」は……ゴミの集まり。だから、ゴミとして置き捨てることも選択肢のひとつだった……こともない。 采: お前たちは生きている。そして未来を望んでいる。その心が折れない限り、手を貸さないことも……ない。 魅音(25歳): んー……要するに、とりあえず私たちの味方をしてくれる……ってことでいいんだよね? 采: ……解釈は、お前たち次第。 采: 我は善でも悪でも……ない。そこに在る花に、善や悪を求める人間は愚かです。 采: 善悪の境界線は、ただ己が引くものと知るといいのです。 采: 真実を知ることが、お前たちにとって必ずしも幸福ではない……と覚悟するといいのです。 レナ(24歳): ……わかった。それでも手を貸してくれたことを、先にありがとうと言っておくね。 采: …………。 采ちゃんはそのまま、すぅ……と透き通るように消えていく。 返事はなかったけど、それでよかった。少なくとも今は、否定されなければ十分だった。 レナ(24歳): ここが……高野製薬の、……工場。 ……目の前でそびえ立つ巨大な建物に圧倒されて、初めて見る私は思わず息を飲む。 夜の闇の中で月明かりに照らされて白くぼんやりと浮かんで……不気味な様子だ。 巴: おかしいわ……夜間とはいえ、警備がそれほど厳重じゃなさそうに見える。 巴: ……情報が事前に漏れて、誘い出されたって可能性はないかしら。 夏美: おそらくですが、製薬に関する設備を別の場所に移設させたことでこちらの重要度が下がっているためだと思います。 夏美: ただ、そうなると例の女王感染者の「因子」も、ここから移された可能性が……。 灯: いや……それはないと思うよ。 灯: 高野製薬から持ち出されたものについては、これまでに何人も諜報員を潜伏させた上で逐一チェックを入れていたそうだ。 灯: ただ、その中に「因子」の根源となる代物はなかった。だとしたら……。 川田: 不用意に人の目に触れるような移動をするより、自分の目が届く場所に置いておこうと考えるのが自然でしょうね。 川田: ……にしても、あらゆる「世界」を渡り歩いて「因子」を見つけては潰してきたのに。 川田: まさか、取り逃がした1つがここにあったなんて……ったく。 川田: しかも、よりにもよって南井さんが先にそれを見つけていたことを今まで知らなかったなんて……立場がないというか、情けない話です。 灯: つまり南井さんに事情を話していたら、早々に見つかっていたかもしれないってことだね。 灯: これを機に、もっと周りの人間に甘えることを覚えたほうがいいだろうね。立派なスパイとして、成長するために。 川田: 甘えたくない矜持を理解できない甘えた駄犬に言われたくありません……ってか、やっぱりいるんですね。 川田: 怜からも散々行くな、って言われていたのに。あの男のこと、実は嫌いだったりするんです? 灯: え? 怜のことならあーちゃんと同じくらい大好きだよ?でも、今の私はレナ先輩の飼い犬なのでわん! 川田: ……あー、腹立つ。今すぐにでも敵より先に、こいつ殴りたい。 川田さんはそう吐き捨てると、ちらり……と私の方に視線を向けてきた。 レナ(24歳): えっと…何かな、かな? 川田: レナさん、その女に勝手させないでくださいね。……展開次第では、強行突破にもなりますので。 夏美: それより……まずは、どこに行くの? 川田: 采様は地下だと言っていました。でも、この建物に地下はないはずなんです……灯が手に入れたっていう、裏設計書以外には。 #p西園寺絢#sさいおんじあや#r: その裏設計書には、何が書いてあるんですか? 灯: その地下室に唯一繋がっている、部屋の名前です。 夏美: その部屋って、どこ? 灯: この中だと、南井さんと魅音先輩と……あぁ、夏美さんも行ったことがある部屋です。 灯: ……社長室、ですよ。 手段を選ばず入手した、というカードキーを片手にした川田さんを先頭にして私たちは息を潜め……建物の内部へと侵入する。 ただ、全員での突入はリスクが大きい、と意見があり、南井さんと絢花ちゃんは外で警戒に当たってもらうことにした。 その後長い廊下を抜けて階段を登り、施錠を解除した扉の先にあったのは……。 広報センターよりもずっと豪奢に彩られた、いかにもという感じの社長室だった。 灯: 地図によると、確かこの辺りに……。 灯ちゃんが壁一面に並べられた本棚に並んだ書籍たちの背中を押したり、引いたりする。 すると、それらの動作のひとつが合図になったのか本棚の奥から低い物音が響いてきた……! 魅音(25歳): えっ……本が、飛び出した?! 灯: これは、本じゃないね……偽装した取っ手? 川田: その通りです……よっ、と。 川田さんが飛び出した本を手に掴んだまま全身で本棚ごと押し込むと、さらに物音が大きくなり……。 魅音(25歳): っ……なにこれ? 地下への階段……? 川田: 似た仕掛けは以前見たことありましたが、とにかくビンゴですね……それにしても灯はいったいどこから裏工事の地図を? 灯: 秘密……さぁ、行こう! ん? 意気揚々と階段を降りようとした彼女の腕を、川田さんが強引に掴む。 川田: あんた先頭行く気ですか?真っ先に死にますよ……下がっていてください。 そう注意を告げてから彼女は、灯ちゃんが手にした懐中電灯を取り上げて自分が先に、と階段を降り始めた。 その後ろに灯ちゃんが続き、私、魅ぃちゃんを最後尾としてゆっくり慎重に……階段を降りる。 長く暗い階段を慎重に降りているうちに、やがて距離感も時間の感覚も薄れていき……。 そして暗いながらも、小さな光をともした機械が並べられた工場らしき場所へと辿りついた。 川田: …………。 川田さんが無言で……懐中電灯を振ってみせる。 壁一面に設置された所狭しと並べられた機械たち。そして守られるように部屋の真ん中で、存在感を示しているテーブルを照らし出した。 レナ(24歳): ……ぁ……。 テーブルの上にぽつりと置かれていたのは、血管や神経のように台の上の様々な管に繋がれて何かの液体で満たされた……いわゆる、「容器」。 まるでカエルの標本を入れるものを大きく複雑化したような「容器」の中、液体の中に揺蕩っていたのは……! 灯: 脳と、脊髄……。 魅音(25歳): うっ……!! レナ(24歳): 魅ぃちゃん! 崩れ落ちかけた魅ぃちゃんを慌てて後ろから支えながら……私は、目を背けたい現実を睨み付ける。 レナ(24歳): これが……梨花、ちゃん……?! 梨花ちゃんの笑顔が、鮮やかに浮かぶ。 にぱーと笑う姿が、かぁいくてかぁいくてたまらなかった……私たちの大事な、大事な、仲間。 レナ(24歳): (それが、なんで……っ?何があって、あんな姿に……?!) 恐怖と吐き気に胃の中のものがせり上がる感覚に全身が震えながらも、同時にこのままではいけないと思う。 何を見ても冷静でいよう、と覚悟を決めていたつもりだったけど……こんなものを見せられて、怒りを抑えるなんて無理だ……ッ! 魅音(25歳): は、早く梨花ちゃんを助けないと……! そうだ、あれはウイルスを作るための道具だとか……そんなことは関係ない。 あれが、私たちの大事な友達の亡骸ならば……!こんな場所に、一分一秒も置いていたくない!! レナ(24歳): (早く梨花ちゃんを、こんな場所から……!) 大事な仲間を連れ出して逃げよう、と私と魅ぃちゃんは水槽に向かって足を踏み出す。 器のあるところまで、あと20メートルほど。15、10メートル……9、8……! だけど、その歩みが中途の段階で煌々と部屋の真ん中で明かりがついて……私たちは凍り付き、緊張をみなぎらせた。 川田: ……っ?! 川田さんが振り返った先は、私たちがさっき降りてきた……階段。 それを塞ぐように、映画で見たことがあるようなプロテクターや目出し帽をつけて銃で武装した……男たちの姿が無言の圧をかけて押し寄せていた。 鷹野:40代: ……あら。 甲高いヒールの音が近づくとともに集団の一部が割れて、そこから現れたのは……。 鷹野:40代: こんばんは――いい夜ね。 レナ(24歳): 高野、さん……っ?!