Part 01: 菜央(冬服): はい、できたわよ。 美雪(着物): ありがと……着物って、なかなか苦しいね。 美雪(着物): けど、本当にこんなことしてていいの?っていうか、今日は神社の手伝いをしなくても大丈夫……? 魅音(宵越し): うん。なんとか人手が確保できたからね。三が日の全部働きづめってのはさすがにキツいって、ずっと思っていたからさ。 美雪(着物): おぅ……お気遣い、痛み入ります……。それはそうと梨花ちゃん、かなり回復したんだって? 魅音(宵越し): うん、電話で沙都子が、そう言っていたよ。 魅音(宵越し): ただ、また体調崩すわけにはいかないから正月仕事は私たちと、確保してもらった人手でなんとか回すことになるけど……。 一穂(正月着物): よかった……あっ、喜ぶのはダメだよね。せっかくのお正月なのに、梨花ちゃんは寝込んじゃうことになっちゃったんだし……。 千雨: まぁ、風邪にもたちの悪いものがあるから……それじゃないだけ、マシだと思うしかないな。 千雨: 入江先生はついててくれてるらしいが、入院や手術が必要なレベルの病気だと厳しいぞ。特に正月は、病院もロクに開いてないし。 魅音(宵越し): 休んでいるところも多いけど、忙しいところは忙しいのが正月だからねー。詩音も、旅館のバイトが大忙しだって。 レナ(正月): じゃあ詩ぃちゃんのアルバイトが終わって梨花ちゃんが回復したら……みんなと家でできる遊びをしようね。 美雪(着物): あ、じゃあ正月らしくカルタとかはどう? 菜央(冬服): 美雪、カルタ好きなの? 美雪(着物): 家の中が好き! 千雨: そりゃ、こいつは寒がりだからな……。 美雪(着物): お家でぬくぬくが一番! 一穂(正月着物): ……とか言ってたけど、美雪ちゃんって列整理のお仕事を一番頑張ってたよね。 美雪(着物): いや、だって黙って突っ立ってるのが一番寒いから……動いたり声を出したりしてると、少しは暖まるでしょ? 一穂(正月着物): えっ……そ、そういう理由だったの?! 魅音(宵越し): あっはっはっはっ!つまり実益も兼ねていたわけだ!美雪は抜け目ないねー! 菜央(冬服): けど、着物でカルタっていいかも……かも。いかにもお正月って感じだし。 魅音(宵越し): いやー、ごめんね菜央ちゃん……ちゃんと業者には伝えたつもりだったんだけど、伝言ゲームでミスってサイズが用意できなくてさ。 菜央(冬服): いいのよ。着物だから、大人サイズでも無理矢理合わせられないこともないけど……。 菜央(冬服): おはしょりが長すぎるのは、着方としてセンスがないもの。 菜央(冬服): それにあたしは、美雪と一穂を上手に着付けられて満足よ……ちらっ。 千雨: ……私は嫌だぞ、着物は。暑い。 一穂(正月着物): 千雨ちゃんって暑がりだよね。美雪ちゃんと正反対。 美雪(着物): 足して割れたらちょうどいいかもなんだけどね~。 レナ(正月): はぅ……でも足して割ったら、暑がりで寒がりになっちゃう可能性も……。 美雪(着物): おぅ、それは最悪……春と秋にしか行き場がない。 菜央(冬服): 渡り鳥みたいな生活になりそうね……って、そうだわ。 菜央(冬服): せっかくだから、レナちゃんと魅音さんも着物を着てみんなでお参りに行くのはどう? レナ(正月): はぅ~、いいね!レナもまだ、今年のお参りができていないから異議なーし、だよ♪ 美雪(着物): おぅ……また神社に行くの…? 寒いのに……? 菜央(冬服): ちょっとだけだから、寒いのは我慢しなさい。せっかく着物を着せたのに、家の中だけじゃもったいないでしょ? 魅音(宵越し): 午後から雪が降るらしいから、傘を持っていったほうがよさそうだね。 美雪(着物): お、おうっ……! 千雨: あ、心が折れた音がした。 一穂(正月着物): が、頑張ろう美雪ちゃんっ! 美雪(着物): う、うん……頑張る……逃げたい……。 菜央(冬服): 口に出すなら建前と本音、どっちかにしなさい。 Part 02: 美雪(着物): (……って、みんなに乗せられて勢いよくお参りに来たのはいいけど……) 美雪(着物): うん、はぐれた! 美雪(着物): (着物は重くて、下駄は歩きにくいのを忘れてた……人混みに紛れて、すっかりはぐれてしまった) 美雪(着物): (そういえば、着物を着付けてもらったのって……何年前のことだったっけ? みんな着物姿のままでシャキシャキ動けるから、凄いよねぇ) 美雪(着物): (魅音は着慣れてるって言ってたけど……レナと一穂は持ち前の運動神経かな?) 美雪(着物): (って、こんなことを考えてる場合じゃない。どうやってみんなと合流できるか、考えないと) 美雪(着物): あー、でも……やっぱりみんなで家でカルタの練習しようって言えばよかったな……。 ひゅるるる~。 美雪(着物): ううっ、寒っ……!どうしよう、社務所まで行けば誰かと合流できるかな……? 入江: 美雪さん? 美雪(着物): あれ? その声は……。 入江: あけましておめでとうございます。神社でのアルバイト中ですか?それにしては格好が……。 美雪(着物): いや、今日はバイト休みで……みんなとお参りに来たんですけど、はぐれちゃって。入江先生は、梨花ちゃんの往診帰りですか? 入江: えぇ、かなりよくなっていましたよ。早くみんなと会いたいと言っていました。 美雪(着物): そっか、よかった~! って先生は軽装ですね?大丈夫です? 風邪引きません? 入江: あ、実はその……少しお参りして行こうとこちらに寄った時、参拝客が持っていた屋台の甘酒がコートにかかってしまって。 美雪(着物): お、おう……! 入江: 動きが取れない人混みの渦中ですから仕方がないんですけどね。 美雪(着物): まぁ結構な人混みですからね……って。 小さい女の子: うわぁああああああああああん!やだぁあああああ! 帰るぅううう!! 美雪(着物): お、おぅ……どうした、お嬢ちゃん。正月早々綺麗な着物に毬まで持たせてもらって号泣とは、何事……? 女の子の母親: す、すみません……。この人混みに酔ってしまったみたいで……。 入江: 確かにこの人混みは、子どもにはキツイですからね。大丈夫ですか? 小さい女の子: ううぅう! やだやだ怖いぃいい……! 美雪(着物): おぉ、そうかそうか、怖いかぁ……あ、そうだ。ちょっとあっちのところで気分転換でもしない? 入江: 気分転換……? 美雪(着物): まぁ、ちょっと見ててくださいって。 美雪(着物): ほーれ! ほれほれ! 小さい女の子: わぁ……すごい!くるくる回っている~! 美雪(着物): いつもより余計に回しておりまーす!……いつもは回してないけどーっ! 小さい女の子: すごいすごーい! 参拝客: おっ……なんだなんだ。大道芸人でも来てるのか? 酔っ払い: いいぞー姉ちゃん! 美雪(着物): あははは! ただの小娘ですよーっと!ほら、回ってまーす! 美雪(着物): へい、キャッチ!はいありがとう、毬を返すね。 小さい女の子: ううん、お姉ちゃんにあげる!面白いもの見せてくれた、お礼っ! 女の子の母親: 安物ですけど、よかったらもらってやってください。 美雪(着物): あ、えっと……じゃあ、ありがたくいただきます! 美雪(着物): ……ね、お嬢ちゃん。着慣れない着物で歩きづらいし、人いっぱいだから押しつぶされそうで怖いかもしれないけど……。 美雪(着物): ここは神様の家だから、大丈夫!怖いことなんてなーんにも起こらないよ! 小さい女の子: うんっ! 女の子の母親: すみません、ご迷惑をおかけして。 美雪(着物): いえいえ。小さい子には正月はめでたくて楽しいものって思ってほしいですし……。 美雪(着物): そう思ってもらいたいなら、頑張るのは大きい子の役目ですよ! 入江: …………。 Part 03: レナ(正月): 美雪ちゃーん! 美雪(着物): あ、レナ! レナ(正月): ごめんね、はぐれたのに全然気がつかなくて!こっちから美雪ちゃんの声と傘が見えて……! レナ(正月): ……あれ、監督? どうしてここに? 入江: あけましておめでとうございます。さっき偶然赤坂さんにお会いしまして……赤坂さん? 美雪(着物): ……ねぇレナ、ちょっといい? レナ(正月): はう? なにかな……かな? 美雪(着物): ちょっと手握っていい?今、すっごいドキドキしてる……!よかった、玉転がしが成功して本当によかった……! 美雪(着物): いや、落ちててもそれはそれで笑いのネタにはなったかもしれないから、別に失敗してもよかったかもしれないけど……! 美雪(着物): なんか今さらになって冷や汗かいてきた……!あーっ! レナ(正月): はぅ……遠くからだから確信が持てなかったけど、やっぱりさっきの傘回しは美雪ちゃんだったんだね。 入江: 人混みに酔った子の意識を上手く反らそうと頑張っておられたんですよ。おかげで落ち着いて、親御さんにも感謝されていました。 レナ(正月): はぅ……美雪ちゃん、頑張ったんだね。 美雪(着物): 頑張ったというか、なんか見栄を張った感あるけどね……ふー、落ち着いた。レナ、手ぇ貸してくれてありがとう。 美雪(着物): あんまり考えたことなかったけど、私って見栄っ張りだったのかなー……。 入江: ……見栄を張るのは、そんなにダメなことでしょうか? 美雪(着物): えっ……? レナ(正月): はぅ……監督も、見栄を張ることがあるんですか? 入江: 実はあるんです。詳しいことは内緒ですけどね。 入江: 見栄を張るということは、ある意味で身の丈に合わない所業を達成できるよう背伸びをすることでもあります。 入江: 見栄を張って立ち上がることを知らなければ……私は道を違えて、今頃ここにいないかもしれません。 入江: いえ、いたとしても自分の黒い感情に心を食われて中身は別人のようになっていたかも……。 美雪(着物): 道を違えたら、中身が別人になる……? 美雪(着物): まさか、入江先生は道を違えたら酒池肉林の果てに隠し子が100人いるかもしれなかったとか?! 入江: ぶふっ?! レナ(正月): は、はぅ……酒池肉林……。 入江: ち、違います違います!そういう違え方ではありませんっ!! 美雪(着物): レナ、この反応どう思う……? レナ(正月): うーん……嘘はついてないんじゃないかな? かな? 美雪(着物): なるほど……つまりそっち系はシロってことですね。あー、よかった。お年頃の女の子は、そういうのに敏感だからなー。 美雪(着物): 一穂とか菜央がドン引きして「風邪引いても先生のところに行くのは嫌!」とか、拒否するような事態になるのは困りますからね……。 入江: 美雪さんもお年頃の女の子じゃないんですか? 美雪(着物): んー、そういうのは個人の自由というか……他人の色恋に口出しするとロクなことにならないですからねぇ……。 美雪(着物): ドラマとかだったらあーだこーだ言えますけど、実害が無い限り他人事として見るようにしてるので。 レナ(正月): はぅ……意図的に見るようにしているの?もしかして昔、何かあったのかな? かな? 美雪(着物): あ、あー……。 美雪(着物): 実はさ、警察が出動するような事件が起きて……「訴える!」って息巻いてても、やっぱり訴えるのは止める……ってなるパターンがあるんだけど。 美雪(着物): あれって、男女関係のトラブルが多いんだよね。 レナ(正月): ……そうなの? 美雪(着物): うん。勢いで別れる! って宣言したけど、やっぱり好きだから別れたくないー、ってあとになってから言い出すとかさ。 美雪(着物): だから、警察としても恋人とか夫婦とかのトラブルだと及び腰になっちゃうんだって。 美雪(着物): たとえるなら……友達が彼氏と別れたいって言うから、あれこれお金と労力、時間もかけて別れられるよう頑張ってたのに……。 美雪(着物): 突然ヨリを戻します! って宣言されたらどう思うって話だよ。 美雪(着物): まぁ、本人たちが幸せならそれでいいって言いたいけど……そうなったらあれ? 別れたいって言うから別れられるよう頑張ってきた自分はなんだったの? みたいな。 レナ(正月): そっか……。 美雪(着物): …………。 美雪(着物): (う、うーん……別の話題にすり替えたこと、さすがにバレたかな?) 美雪(着物): (けど、過去にガールスカウトで色々あった話はあんまりしたくないんだよね……) 美雪(着物): (結局あれは、私が双方に勘違いさせたのが原因だったし……いや、なんで男の方は私に告白してきたのか今でもさっぱりだけど) レナ(正月): 警察官って、大変なお仕事なんだね。 美雪(着物): (あれ、ごまかせた……?) 美雪(着物): (いや、これはレナが察して引いてくれたパターンか……ありがたやありがたや) レナ(正月): 一年の計は元旦にありって言うけど、計画を立てても上手くいかない事ってあるよね。……人の心は、特に。 美雪(着物): 人の心はともかく、何事も計画ありきでやるに越したことはないけどねー……。 美雪(着物): よし、今年の目標は「困った時は人に相談する!」にしよう。勢いで傘回しとかやらない! 入江: 勢いで傘回しくらいなら、やってもいいと思いますよ。でも、そうですね……人に頼るのは大切です。 一穂(正月着物): 美雪ちゃーんっ?! 菜央(冬服): 美雪、あんた大丈夫なの?! 美雪(着物): あ、一穂! 菜央! って……大丈夫って何が? 一穂(正月着物): 美雪ちゃんが番傘で大立ち回りして犯罪者を捕まえたって! 菜央(冬服): あたしはあんたが逆立ちして拍手喝采を受けてたって聞いたわよ?!着物で逆立ちって一体何があったの! 美雪(着物): ……。ねぇ、どんだけ話が歪んで伝わってるの? レナ(正月): はぅ……番傘で大立ち回りと拍手喝采は合ってるけど……。 一穂(正月着物): ち、違うの? 美雪(着物): このノー着崩れっぷりを見たら違うってわかるでしょ? 一穂(正月着物): よ、よかった……!美雪ちゃんが無事でよかった……! 菜央(冬服): あたし、てっきり変な人に因縁でもつけられたのかと思っちゃったわよ……。 美雪(着物): お、おう……ごめんよ、心配かけて。 千雨: いた! おい、美雪がいたぞ! 魅音(宵越し): あ、他のみんなもいた!大丈夫?! 美雪が番傘で大立ち回りしたって聞いたけど! 千雨: 捕まえたアホはどこだ?! 美雪(着物): ……ねぇ、なんで私がはぐれてる間にトラブルに巻き込まれたことになってるの? 美雪(着物): #p雛見沢#sひなみざわ#rの伝言ゲームって早いけど、伝わり方がおかしくない? 入江: これはこれは……ふふっ。赤坂さんが見栄を張ってしまう気持ちがわかりますね。 レナ(正月): 見栄を張る相手って、大事な人……心配をかけたくない人のための時もありますから。 レナ(正月): 心配かけたくないと思ったら、その分頑張っちゃいますよね。 魅音(宵越し): レナー! そろそろお参りに行こう! 美雪(着物): あ、すみません先生。薄着なのに、付き合わせちゃって。 入江: いえいえ、かまいませんよ。では私は、これで……。 美雪(着物): あ、そうだ! 入江: ? どうしました? 美雪(着物): 正月なのにお仕事……梨花ちゃんを助けてくれて、ありがとうございます! 美雪(着物): また今年もよろしくお願いしますね!