Part 01: ……その報告を最初に聞かされたのは、#p綿流#sわたなが#rしの翌日の夜に「緊急」で開くことになった寄合の直後のこと。 園崎組の構成員で顔なじみのひとりから知らせたいことがある、と耳打ちをされた私は皆に気づかれないよう園崎本家に戻り……。 奥座敷に彼を招き入れて、その話を聞き……夜更け近くの微睡みが吹っ飛ぶほどに驚いた。 魅音(私服): えっ……? 詩音が、祭具殿に? 構成員: はい。若い衆のひとりが、祭会場から神社の境内の反対側に歩いていって……たまたま詩音さんたちの姿を見かけたそうです。 魅音(私服): あの……バカっ……! 唾棄したいほどの苛立ちを覚えながら、私は舌打ちして苦い息を吸い込む。 古手家の人間か、その許しを得た者でもなければ中に入ることを決して許されない禁忌の場所……それが古手神社の祭具殿だ。 にもかかわらず無断で、しかも綿流しが行われた当日の夜にそこへ泥棒まがいに侵入するなんて、即アウトの大暴挙としか言いようがない。 そんなことは、園崎家で生まれ育った人間なら当然知っていることであり……詩音も私と一緒に、幼少の頃から聞かされてきた――はずだった。 魅音(私服): (それなのに、あえて忍び込んだ……?いったい何を考えているんだよ、あいつはっ!) いや……彼女だけが忍び込んだのであればまだいい。ちゃんと落とし前をつけるだけで、手打ちができる。 厄介なのは「たち」という報告からわかるように、彼女の他に数名が加わっているということだった。 魅音(私服): その若い衆だけど……口封じは済ませた? 構成員: 無論です。元々、女を連れていかがわしい行為を働こうと考えていたらしく……厳重に「注意」して、このことは誰にも言うなと念を押しておきました。 魅音(私服): ……その言葉、信じるよ。 「最悪」の事態だけは回避できたことにほっと胸をなでおろしながらも……私は、今後のことについて思いを馳せる。 #p雛見沢#sひなみざわ#rにおける禁を犯した以上、本人たちには厳しい態度で臨まなくてはいけない。たとえそれが、身内であってもだ。 とりあえず、婆っちゃの耳に入る前でよかった。頭首がこのことを聞けば、間違いなく激怒して「最上位」の厳罰が避けられなかっただろう……。 魅音(私服): (詩音は当分、地下牢に入ることが確定だね。他の連中は……見せしめになってもらうしかない) ここできつく釘を差しておかなければ、今後も興味本位で同じことを考える輩が出てくる。……気の毒だとは思うけれど、範を示すためだ。 魅音(私服): ……それで、確認だけど。詩音と一緒にいたバカヤローどもは、誰だかわかっている? 構成員: はい。同行していたのは、3名です。まずは入江診療所の鷹野三四さんと、そのお連れの富竹ジロウ氏です。 魅音(私服): 鷹野さんかぁ……確かに以前から、雛見沢のオヤシロさま信仰についてやけにご執心なところがあったからね。 魅音(私服): そして富竹さんは、彼女に付き添って運悪く「巻き込まれた」ってわけか……さて、どうしたものかね。 富竹さんは、「例の事件」で制裁を受けたから除外するとして……問題は鷹野さんだ。 現状安否は不明だが、もし無事だったとしても村の掟に反した以上罰を受けてもらわなくては、他の村人たちに対して示しがつかなくなる。 ただ……雛見沢のような寒村において、医療関係者は希少で貴重な存在だった。おいそれと簡単に切り捨てられるものではない。 婆っちゃが知ればきっと激怒するだろうけど、ここは言葉を尽くして説得するしかない。……今からその苦労を考えるだけで、頭が痛い。 魅音(私服): とりあえず……鷹野さんは見つかり次第、町会から厳重注意するくらいってところかな。で、残りのひとりは? 構成員: 申し訳にくいことですが……魅音さん。あなたのご友人の、前原圭一さんです。 魅音(私服): っ……圭ちゃんが?! その名前を聞いた私は驚きのあまりそばに置いてあった湯呑に手をぶつけて、半分ほど残っていたお茶を卓にぶちまけてしまう。 祭の途中から姿が見えなくなったのは、なるほど……そういうことだったのか。わかったところで、全然嬉しくはないが。 魅音(私服): なんてことをしてくれたんだよ、圭ちゃん……!そんなのが婆っちゃや町会の連中に知れ渡ったら、とんでもないことになるじゃんか! 構成員: ……お言葉を返すようですが、魅音さん。前原さんはこの村に来てからまだ日が浅く、村の禁忌についてはお詳しくありませんでした。 構成員: ですから、責めるのは筋違いだと思います。むしろ、反省すべきは……。 魅音(私服): 雛見沢の暗部のことを黙っていた、私たちにも非があるってことだね。くっ……。 痛いところを指摘されて、私は頭を抱えながら大きくため息をつく。 もちろん、ちゃんと話しておくべきだとはわかっていた。もし後日、あらぬ噂と混同して聞くことがあれば……きっと、彼は誤解した上で悪感情を抱くに決まっている。 だけど……私は、話したくなかった。この村のことをとても気に入ってくれて、楽しそうに過ごしている様子を見てきたから……。 そこに相反するような情報を与えて、せっかくの雰囲気に水を差したくなかったのだ。 魅音(私服): (とはいえ、今となってはそれが裏目に出たと言われても仕方がないよね……) なんにせよ、ぶちまけた水は盆に返らない。……今はとにかく、私が圭ちゃんのために何ができるかを考えるべきだった。 魅音(私服): ……。圭ちゃんについては村の掟を知らなかった、ということでお目こぼしが通用すると思う? 構成員: それについては御三家の方々の裁量ですので、私ごときが口を挟めるものではありません。ですが……。 構成員: 罪を償わないままだと、示しがつきません。また……前原さんに対する村の連中の目も、より厳しいものとなるでしょう。 魅音(私服): だろうね。……ごめん、今の発言は忘れて。 さっき詩音たちに対しては厳罰も辞さない、と自分で言っておきながら、手心を加えようとした自分の情けない気持ちに……厳しく鞭を打つ。 ただ……どうする?このままだと、圭ちゃんまで富竹さんと同じ目に遭う可能性だって否定できない。 彼を守るために、私にできることは……? 魅音(私服): ……。まずは、詩音と話をすべきだね。あの子は今、どこに? 構成員: エンジェルモートから、自宅に戻っています。今頃はおそらく中で休んでおられるかと。……一応、見張りは付けてあります。 魅音(私服): 嫌がっても容赦しないで、すぐに呼んできて。あと、言う通りにしないと、次は去年以上に厳しい罰が待っているって……伝えて。 構成員: わかりました。 Part 02: ……1時間後。 渋々といった態度でやってきた詩音を自室に招き入れ、対面に座らせると開口一番に私は本題を切り出していった。 魅音(私服): ……詩音。あんた、#p綿流#sわたなが#rしの晩に祭具殿に忍び込んだって報告があったんだけど……本当なの? 詩音(私服): っ……なんですか、藪から棒に。そんな罰当たりなこと、私がするわけないでしょう? 詩音(私服): そもそも私は、「去年」の一件で仮釈放の身なんですからね。おまけに痛い思いもさせられましたし……。 詩音(私服): あんな目に遭うのはもう御免だって、さすがにわきまえてはいるつもりですよ。 詩音はそういってはぐらかすが……それが言い逃れであることも、私は知っている。 それにしても……あれだけの罰を受けながら、またしても村の掟に逆らうことを繰り返すとはさすがに予想外だった。 それほどまでに、この子は「彼」の行方について執心を抱いているということなのだろうか。あるいは村に対する、深い憎悪や怨恨を……? 魅音(私服): じゃあ、もうひとつ。富竹さんと、鷹野さんのこと……あんたはもう聞いているかい? 詩音(私服): へっ……? あの2人が、どうかしましたか? 魅音(私服): ……。ほんとに知らないんだね? 詩音(私服): 知りませんよ。今のところ体調は良好ですから、診療所で診てもらうようなことが皆無ですし……特に顔を合わせる機会もありませんしね。 魅音(私服): …………。 答える詩音の声を聞きながら、その表情を見据える。 ……妙な動きはない。この感じからして、彼女にはまだ情報が伝わっていないようだ。 魅音(私服): そっか。……信じるよ、それだけはさ。 詩音(私服): なんですか、お姉……?もったいつけないで、はっきり言ってくださいよ。 そう言いながら苛立ちと不安をあらわにして、詩音が身を乗り出してくる。 てっきり去年のように、刑事の大石あたりが彼女に接触してくるものだと思っていたのだが……やつの関心はまず別の対象に向いたようだ。 魅音(私服): 富竹さん……昨夜、死体で発見されたよ。 詩音(私服): なっ……?! それを聞くなり詩音は目を見開き、息を呑んで言葉を失う。 この反応……おそらく、演技じゃない。少なくとも、それに類似する情報はまだ彼女のもとに届いていなかったようだ。 魅音(私服): あと、鷹野さんも……行方不明。警察はまだ、どこに行ったのかについて掴んではいないみたいだけど……。 魅音(私服): ひとりが死んで、ひとりがいなくなる……今年も伝承のとおりになっちまったね。 詩音(私服): ど……どういうことですっ?まさか、お姉や鬼婆たち……園崎家が動いてあの2人を始末したってことですか?! 魅音(私服): 人聞きの悪いことを言うんじゃないよ!こっちだって何がどうなっているのか、黒幕をひっ捕まえて尋問にかけたいくらいなんだからッ! 詩音(私服): っ……ということは、お姉……これまで起きていた『オヤシロさまの#p祟#sたた#rり』には、本当に園崎家が絡んでいなかったと……? 魅音(私服): 当たり前じゃないか……って、詩音?あんたが圭ちゃんを誘った理由は、まさか……?! 詩音(私服): えぇ……この際だから白状しますと、お察しのとおりです。圭ちゃんが一緒なら、さすがのお姉も多少の温情を――。 魅音(私服): ……ッ……!! 激高のあまり、私は詩音の胸ぐらを掴んで背後の壁にがんっ、と叩きつける。 さすがの彼女もそこまでの激怒が返ってくるとは思っていなかったのか、その両瞳に怯えの感情を浮かべてみせたけれど……。 それでも気の強さのゆえんか、間近に迫った私を見返していった。 詩音(私服): ……これで、あんたも理解できたでしょう?自分の想い人を他人の#p思惑#sおもわく#rで奪われた時、そいつがどんな感情を抱くようになるのかをね……ッ! 魅音(私服): そうかい、そうかい……実際のところ、あんたは私たちのことを少しも許しちゃいなかったってことか。 詩音(私服): 当然です……許すわけがないでしょう?それともお姉のお子ちゃまな考え方だと、許されるものだと思っていたのですかっ? 詩音(私服): それこそお笑い草ってものです!私は絶対、悟史くんを奪っていったあんたたちを許したりはしない……! 詩音(私服): そのためだったら、なんでもやってやる!あんたたちがこれまで、村に逆らう連中に対して容赦なく制裁を下してきたようにねッ! 魅音(私服): この……わからずやが!悟史の件もそれ以前の「祟り」も、私たち園崎家は一切関わっていないって何度言えばわかるのさ?! 詩音(私服): 証明してもらう必要なんかありませんよ!あんたたちの言うことなんて、何ひとつ信用できやしないんだから! 魅音(私服): っ……そうやって憎んで恨んで、自分だけの正義を貫くってかっ?私だけが悟史のために頑張っている、とでも?! 魅音(私服): なら、言ってやるよ……あんたのやっていることなんて、自己満足の極みだ! 魅音(私服): 悟史を救えなかったことを誰かのせいにして、何もできなかった私は悪くない!そう言って、自分に言い訳しているだけなんだよッッ! 詩音(私服): ……ッ……?! ここまで容赦のない指摘を食らうとは思っていなかったのか……詩音は息をのみ、大きく目を見開く。 そして、力なく肩を落としてうなだれると膝を屈してその場にへたり込み……やがて、くぐもった声で嗚咽を漏らし始めた。 詩音(私服): っ……う、……うぅっ……く……ッ!! 魅音(私服): …………。 弱々しく震える妹の姿を見下ろしながら……私はやるせない思いで首を振り、ため息をつく。 ……詩音の気持ちは、わかる。圭ちゃんたちを盾にするような外道を働いてでも、彼女には突き止めたいことがあったのだろう。 だけどそのせいで、祟りの「黒幕」を刺激し……富竹さんと鷹野さんは巻き込まれてしまった。 いずれこのままだと、詩音と圭ちゃんも同じ運命をたどることになるかもしれない……。 魅音(私服): ……っ……。 あぁ……わかっている、よくわかっている。この全ての原因は……私だ。 圭ちゃんに、話をしていなかったこと。詩音の思いに気づいていながら、止められなかったこと。 私がちゃんと動いていれば、回避できたかもしれない問題だった……。 魅音(私服): (だったら……私が、その責任をとらなきゃいけないよね……) 面倒だし、理不尽だけど……それが園崎家に生まれた人間の務めだった。 魅音(私服): ……協力しな、詩音。あんたが助かるために、私がなんとかしてやる。 魅音(私服): その代わり、あんたは……を……。 Part 03: 圭一(私服): っ……ぃ、痛たた……っ……。 圭一(私服): ……ここはどこだ?俺は確か、魅音に会いに行って……それで……。 頭の中からじわりとしみ出すような鈍い痛みに顔をしかめながら、俺はなんとか上体を起こして周囲に目を向けてみる。 ……しんと静まり返った、暗いところだ。わずかに見える灯りのおかげでなんとか、ここが洞窟のようなところだと辛うじてわかる。 しかも……少し進んだところには、格子状のもの。まるでそれは、牢屋の檻のようだ。 圭一(私服): って……ようだ、じゃなくてまんま牢屋の檻じゃねぇか。いったいどうして、俺はこんなところに? 魅音:宵越し: ……気がついたかい、圭ちゃん。説明もなくこんなところに放り込んじゃって、悪かったね。 圭一(私服): み、魅音……っ? 突然、暗闇の中から現れた魅音の姿に俺は息をのみ……心臓を握られたようなぞっとした戦慄を覚える。 いや……突然ではなく彼女は、最初からそこに「い」たのだ。 そして、牢に閉じ込められた俺が目覚めるまで……じっと見つめて……?! 圭一(私服): こ……これはいったい、どういうことなんだ?俺はどうして、こんなところに?? 魅音(宵越し): あぁ心配しなくてもいいよ、私は何もしない。圭ちゃんはただ、お迎えの連中が来るまでここにじっとしていればいいんだからさ。 圭一(私服): ……説明になっていないぞ、魅音。俺はどうして、ここに閉じ込められることになったのか、って聞いているんだが。 魅音(宵越し): あははは……説明の必要があるかい?だって圭ちゃんは、「例」の理由があって私に会いに来たんでしょ? 魅音(宵越し): ということは、当然私がこういう手段に出る可能性だって考えていたはず……だよね? 圭一(私服): ……っ……! 凄みをはらんだその睨みを真正面から受けて、俺は頭の中が真っ白になるくらいの恐怖を覚える。 俺の目の前にいる……こいつは、誰だ。少なくとも俺の知っている魅音ではない。 それとも、俺は……魅音がこんなに変わり果てるまでの過ちを、あの時してしまったということなのか……? 圭一(私服): 魅音……俺はお前に、謝っただけじゃ詫びることもできないくらいに酷いことをしちまったって……本気で思っている。 圭一(私服): けど……いや、だからこそだ。お前が今、やろうとしていることを止めなきゃいけないって……それで……。 魅音(宵越し): ……その気持ちだけでも嬉しいよ、圭ちゃん。正直私も、いい加減にしてくれないかなぁってイライラが頂点に達していたところだったしさ。 魅音(宵越し): 物わかりの悪い連中に、頭の固いジジイども。人の意見に耳を貸さないくそったれババァに、事なかれ主義の臆病村長……それに……。 魅音(宵越し): みんなみんな、私がどれだけ間に入って取り持ってきてやったと思っているんだかねぇ……?我を押し込めてまで、必死に耐えてきたってのに……。 圭一(私服): 魅音……? 魅音(宵越し): でも、……そいつもおしまいだ。この村は一度、完全に滅んでしまえばいい……何もかもを無しにして、ゼロに変えてさ……。 魅音(宵越し): もう……うんざりなんだよ。誰かのために自分の気持ちを殺して、他人のエゴを背負い込むのはさ……。 圭一(私服): ……っ……! 魅音(宵越し): で、さ……圭ちゃん。こいつは私の最後の、あんたにお願いするわがままってやつなんだけど……。 魅音(宵越し): 私はもうすぐ……鬼になる。血と肉を求めて、人を見つけては暴れまわる凶暴で凶悪なバケモノにね……。 魅音(宵越し): それでも、あんたは……あんただけは、覚えていてもらいたんだ。 魅音(宵越し): そんな末期の状況にまで狂い果てても……自分の大切なもの、大好きな人だけは守り抜きたいって考えていたんだってね。 圭一(私服): 魅音……おい、どこに行く気だ、魅音ッ!! 魅音(宵越し): ばいばい、圭ちゃん。……大好きだったよ。 …………。 圭一(私服): ……そう言い残して、魅音は俺の前から去っていきました。 圭一(私服): あとは……レナと一緒に刑事さんたちが入ってきて……それで……。 大石: ……なるほど。いや、辛いお話なのに申し訳ありませんでした。ご協力、感謝いたします。 圭一(私服): ……。それで、刑事さん。魅音はその、……。 大石: ……ご覧にならないほうがいいと思います。彼女もきっと、それを望まないでしょうから。 圭一(私服): …………。 大石: 外傷は特にないとのことですので、どうかゆっくり休んでください。それでは……失礼します。 …………。 大石: ただ今戻りましたよ~。ふぅ、暑い暑い……。 熊谷: あっ大石さん、お疲れ様です。例の被害者の前原圭一……でしたっけ、彼の供述はどんな感じでしたか? 大石: まぁ、ほぼ予想通りの範疇です。特に新しい情報もありませんでしたし、捜査対象から外して問題ないでしょう。 熊谷: そうですか。……竜宮礼奈の方も、似たような感じです。彼女も、何かを隠している様子はないかと。 大石: まぁ……それにしても、不可思議な事件でしたねぇ。園崎家の誰かが#p祟#sたた#rりにまつわる事件に何らかの形で関わっている、とは以前から睨んでいましたが……。 大石: まさか、直接的な実行犯になってしまうとはねぇ。……それも御三家の頭首全員を手にかけるなんて、さすがに予想外でした。 大石: おまけに最後は、凶器を振りかざしながら警官隊に斬り込んできて……いやいや、あの光景には怖気を催しましたよ。 熊谷: ですね。短絡的というか、衝動的なやり口で……一見計画的に進めているようで、隠すような思慮深さがほとんど見受けられませんでしたからね。 大石: まぁそれだけ、想い人を祟りに巻き込まないよう必死だったと言えるかもしれませんが……。 大石: そういえば、熊ちゃん。あの地下牢の奥……古井戸の底から引き上げられた複数の死体ですが、全員の身元は判明できましたか? 熊谷: あ、はい。一応鑑識の結果、御三家の3名で間違いはなさそうなんですが……ただ……。 大石: ? 何か引っかかることでもありましたか? 熊谷: 残りの1体は……死亡してからかなりの時間が経過していたようなので。おそらく「彼女」ではないとのことです。 大石: ふむ……だとしたら、「彼女」の遺体はどこに遺棄されたんです? 確か園崎魅音は、そいつも殺したと言っていましたよね? 熊谷: わかりません。その場所を言わないまま、園崎魅音はくたばっちまいましたので……。 大石: ……。仏さんは、いったい何を企んでいたのやら。それを確かめるには、地獄まで馳せ参じるしかないってわけですね……。