Part 01: 魅音(看守): 泥棒、魔女の次は、海賊かぁ……。今さら言うのもなんだけど、詩音って悪役側のキャラに回されることが多いよねー。 詩音(海賊): むっ……そんなことを言い出したらお姉だって私とペアになる時が多いんだから、回数的には同じくらいだと思うんだけど。 魅音(看守): いや、それは違……わないか。双子だと、どうしてもそういう扱いになるんだよねー。服を共有できるのは便利だけどさ。 詩音(海賊): まぁ、ルックスと胸の大きさ以外のパラメーターが似通ってきちゃうのは、仕方ないよね~♪ 魅音(看守): その2つ、どっちが上か勝負してやろーか、あぁん?……まぁ、それはさておいて。 魅音(看守): 今回のイベントで、企画内容を盗み出してよりにもよってライバル店に持ち込むなんて……いったい誰の仕業だったんだろうね。 詩音(海賊): さぁ……こればっかりは犯行現場を押さえて動かぬ証拠でも突きつけない限り、お手上げ状態だよ。 詩音(海賊): 一応、スタッフや関係者全員に確かめてみたけど知らない、自分じゃないの一辺倒だったしね。 魅音(看守): かといって、疑心暗鬼でイベントを続けても嫌な気分を引きずるだけだし……当分の間は、静観ってことにしておくしかないかなぁ。 詩音(海賊): 確かに……あの子が怪しいかもと考えながら仕事をしたって楽しくもないし、ストレスがかさんでいくだけだもんね。 詩音(海賊): ただ、裏切り者を放置しておくのもそれはそれでしゃくな感じだし、近いうちに何かいい手を打つってことで。 詩音(海賊): ……っと、そろそろ時間だ。そんなわけなので、お姉。私はこれから穀倉の店に向かいますね。 魅音(看守): うん。あんたも2つの店の掛け持ちで大変だろうけど、頑張ってね。 詩音(海賊): もちろん。菜央さんとレナさんがせっかく素敵なメニューを考えてくれたんだし、少しでも売上を稼がないと。 魅音(看守): そうだね。といっても、あっちは立地的にガチでライバル店との一騎打ちになるんでしょ?相手にとって不足なし……てな感じ? 詩音(海賊): まぁ不足どころか、おつりを払いたいくらいの強敵だけどね。……でも、なんとかやってみるよ。だからお姉は、#p興宮#sおきのみや#rの方をよろしく。 魅音(看守): オッケー! あいつらが進出するのも尻込みするくらいに圧倒的に、徹底的にお客を呼び込んでみせるから! 安心していいよ~! 詩音(海賊): くすくす……頼りにしているよ、お姉。それじゃ、行ってくるね。 魅音(看守): 行ってらっしゃーい♪ 詩音(私服): さて、と。そろそろ葛西の車が来る頃なんだけど……うん? 詩音(私服): あっちの路地から、自転車を押して歩いてくるのは……千雨さん? 千雨: ? なんだ、詩音か。妙なところで会ったな。 詩音(私服): 妙なところって……ここは興宮で私の住んでいる町なんですから、別に出くわしてもおかしくないと思いますよ。 千雨: ……言われてみれば、確かにそうか。変な言い方になったな、すまん。 詩音(私服): いや、謝ってもらうほどのことでは……それより、どうかしました?珍しく、辛そうなお顔に見えるんですが。 千雨: あぁ……実は昨日、家に戻る途中で乗ってた自転車のチェーンが壊れちまってな。 千雨: それで修理してもらおうと、興宮の自転車屋まで徒歩で押してきたんだが……あいにく休みだったんだ。 千雨: それでこうして、徒労を呪いながら来た道を戻ってる途中というわけだ。 詩音(私服): あらら……それはお気の毒さまです。あなた方のお住まいの家からここまで、かなりの距離だったでしょうに。 千雨: 距離自体は大したことがないんだがな。最近身体がなまってるから、少しは運動しろという神のお告げだと思うことにした。 詩音(私服): ……独特の発想の転換ですね。体育会系の方って、皆さんそんな感じなんですか? 千雨: 人によってそれぞれだから、私にはなんとも言えん。……そんなわけだから、じゃあな。 詩音(私服): あっ……待ってください、千雨さん。 千雨: ん……なんだ、詩音? 詩音(私服): 実はこれから私、園崎の家の者が運転する車に乗って穀倉に行く予定なんです。 詩音(私服): 車だったら、遠回りしてもさほど時間はかかりませんし……よかったら自宅まで、一緒に乗っていきませんか? 千雨: ……ありがたい申し出だが、遠慮しておく。魅音ならともかく、お前に貸しを作るのは後々まで尾を引きそうな感じがするからな。 詩音(私服): あらら……ずいぶん警戒されたものですねー。私としてはあくまで、本当にただの親切心からご提案しただけでしたのに。 詩音(私服): ですが……そういう認識でしたら私も合わせますので、取引といきましょう。 千雨: 取引……? 詩音(私服): はい。その自転車はうちでお預かりして、修理した状態で明日までにお返しします。もちろん代金は、私持ちです。 詩音(私服): そしてあなたを、自宅までお送りする。代わりにあなたには、戻る車内で私の話を聞いてもらう……というのでは? 千雨: ……。お前の話とは、どんな内容だ? 詩音(私服): あなたとサシで話をするとなれば、お伝えすることはもちろん「例の件」です。 詩音(私服): もちろん、話を一方的に聞くだけで結構です。私からあなたから無理に情報を求めたり、質問したりしないことをお約束します。……いかがです? 千雨: ……いいだろう。こっちもこっちで、確かめておきたいことがあったしな。 詩音(私服): くっくっくっ……では、取引は成立ってことで。 詩音(私服): あっ……ようやく来ましたね、あの車です。後部座席に乗ってもらえますか? 千雨: あぁ、わかった。 Part 02: 千雨: …………。 詩音(私服): ? どうしましたか、千雨さん。 千雨: あ、いや。……こう改めてみると、やっぱりお前はお嬢様だったんだなって実感してるだけだ。 詩音(私服): くっくっくっ……そんなことを言ったのはたぶんあなたが初めてですよ、千雨さん。 千雨: そんなはずはないと思うんだがな。運転手付きの車の後部座席に乗り込んで、当たり前のように過ごす……。 千雨: この村だとどうかは知らないが、東京だとそんなことが許されるのは……よほどの家のお嬢様だけだからな。 詩音(私服): くす……それはどうも。ただ、せっかく高い評価をしていただいたのに幻想を壊すようで申し訳ありませんが……。 詩音(私服): 私って実は、園崎家から勘当されているんです。ですからこうして送り迎えとかの世話をしてくれるのは、この車を運転している葛西だけなんですよ。 千雨: そうなのか?……なるほど、それでお前は普段からあの店でバイトをしてるってわけか。 詩音(私服): えぇ。ちなみに私が住んでいるマンションは、園崎組が所有する一室をただ借りしたものです。 詩音(私服): 両親も鬼婆も、黙認してくれているようですが……その代わりに面倒も見ない。まぁそんな扱いです。 千雨: にしては、ずいぶんと頼りになりそうな人をボディガードにつけてもらってるんだな。その葛西さん、かなりできそうな御仁に見えるんだが。 詩音(私服): 見かけ倒しですよ。休日になるとこっそり一人でパフェを食べに行くくらいに甘党なんですから。くっくっくっ……。 葛西: 詩音さん、それは……。 詩音(私服): あら、事実じゃないですか。……とはいえ、こんな与太話をしていたら時間がどれだけあっても足りませんので、本題に入りましょう。 詩音(私服): 葛西。今から私たちが話す内容は、ここだけでお願いね。もちろんお姉にも内緒で。 葛西: はい。承知しました。 詩音(私服): ……では、始めましょう。数日前から、#p興宮#sおきのみや#rのエンジェルモートでハロウィンのイベントをやっていますよね。 詩音(私服): その際に、何か変わったことがありましたか? 千雨: ……何も聞かないと言ってたくせに、質問か?前提条件を覆すようなら、ここで降ろしてもらうぞ。 詩音(私服): あ、そうでしたね。では、言い方を変えます。……実は私、ハロウィンのイベント初日の夜にちょっと変わった夢を見ましてね。 詩音(私服): そこに「例の子」が現れたので、話をしたんですよ。 千雨: 「例の子」って……一穂のことか?! 詩音(私服): うーん、千雨さんからは質問し放題ってのは少し不公平感がありますが……ま、いいでしょう。 詩音(私服): はい、その通りです。あなたが以前から探していた……公由一穂さんです。 千雨: …………。 詩音(私服): 彼女と会って、どんなことを話したのかはあとで教えるとして……その時なぜか私は、海賊の格好をしていました。 千雨: 海賊……? 詩音(私服): えぇ。今回のハロウィンイベントで菜央さんたちが作ってくれた、あの衣装です。 詩音(海賊): くっくっくっ……今回も大漁、大成果です。薄汚い格好の男どもばかりでしたが、意外に金目のものを持っていましたねー。 詩音(海賊): これだから、海賊稼業はやめられないんですよ。……おっと、今は国からお墨付きをもらって軍隊の所属になっているので、私掠船でしたか? 詩音(海賊): いずれにしても、やることは同じです。国の商船を襲って私腹を肥やしている連中を片っ端から沈めて、貿易路を確保し……。 詩音(海賊): ついでに敵国の商船を襲って重要物資の流出入を封鎖することで、国力の低下をはかる……! 詩音(海賊): どんなお偉いさんが考えたのかは知りませんが、実にいい手です! 私たちは今まで通りに動くだけで富と名声が転がり込んでくるんですからね~♪ 詩音(海賊): しかも補給の心配はなく、大砲も撃ち放題!笑いが止まりませんよ~……くっくっくっ! 詩音(海賊): さてと、そろそろ休むとしますか。明日はどの商船を襲ってやりましょうかね……ん? 一穂: …………。 詩音(海賊): あ、あんた……誰っ?いつの間に、私の船に乗り込んで……、っ?! 詩音(海賊): あ……あれっ……?私はこんなところで、なんでこんな格好を……? 一穂: ……詩音さん。あなたに、聞いてもらいたいことがあります……。 詩音(海賊): っ……まさか、あんたは……?! Part 03: 詩音(私服): ……ですから、もしかすると千雨さんの身にも同様のことが起きていたのでは、と思った次第です。 千雨: なるほど……そういうことか。 千雨: 隠すようなことじゃないし、正直に答えるぞ。お前の察しの通り、私は一穂と会った。そこで少しだけ、話をしたよ。 詩音(私服): やはりでしたか。……では、私が聞いたことをそのまま伝えますので、その会話内容を教えるかどうかの判断はそのあとで結構です。 詩音(私服): 一穂さんは言っていました。『この世界は崩壊する。それを食い止めるために、私は仲間のもとを離れて行動している』……と。 千雨: ……っ……?! 詩音(私服): くす……確かめるまでもないようですね。やはりあなたも、この話を彼女から……? 千雨: あぁ……そうだ。ついでにつけ加えると、私も同じように海賊船の上にいて……。 千雨: その夢の「世界」は、私たちの望んだ想いを具現化したものだと言ってたよ。 詩音(私服): 教えてくれて、ありがとうございます。……どうやら私たちは、ほぼ同じ体験をしたということなんでしょうね。 千雨: そう考えても差し支えがなさそうだな。……にしても、これはどういうことだ?なんで美雪たちじゃなく、私とお前だけが……? 詩音(私服): その点については、一応心当たりがあるんですが……お話をするのは、もう少しだけあとにさせてください。 詩音(私服): 出し渋っているとか、そういうことじゃありません。ただ私も、頭の中と気持ちを整理するための時間がほしい……それが理由です。 千雨: ……。その言葉、信じるぞ。 詩音(私服): えぇ、信じてください。……というより、その前提でい続けてくれると嬉しいです。 詩音(私服): 千雨さん。少なくとも今の私は、あなたの敵ではありません。そしてこれからも、敵対することは極力避けたいと思っています。 千雨: 敵対は避ける……か。それは私だけじゃなく、美雪や菜央ちゃんに対しても同じと考えていいんだな……? 詩音(私服): もちろんです。万が一彼女たちに対して不利益をもたらせば、自動的にあなたが悪感情を抱くことは確実ですからね。 詩音(私服): それに……私としても、あなた方3人には色々とお世話になっているし、結構気に入っています。なのでこれからも、いい関係でありたいです。 千雨: …………。 千雨: 少なくとも、嘘は言っていないようだな……だが。 千雨: 公由一穂に関しては、どうだ?私は今のところ、好きとも嫌いとも言いづらい状況なんだが。 詩音(私服): ……。本心を打ち明けると、私もほぼ同じです。危害を加えたいとか、あるいは仲良くしたいとか……そういった心境ではありませんね。 千雨: ……そうか。 千雨: 色々と勘ぐったりして、悪かったな。美雪や菜央ちゃんに、一穂のことをどこまでなら話していいかわからなくて……正直参ってたんだ。 詩音(私服): その気持ち、わかりますよ。私もお姉や圭ちゃんたちを信用していいのかどうか不安で……心細い感じでしたから。 千雨: ……私もだ。 詩音(私服): あ……そろそろ着きますよ。自宅前だと人目について面倒なので、このあたりでどうですか? 千雨: あぁ。色々と世話になったな。……ありがとう、詩音。 詩音(私服): いえいえ、こちらこそ。また相談に乗ってもらってもいいですか? 千雨: もちろん。こっちも何か掴んだことがあったら、連絡するよ。 詩音(私服): ありがとうございます。……これ、私のマンションの電話番号です。 詩音(私服): 夜中の方が繋がりやすいと思いますので、気軽にかけてきてください。 千雨: わかった。それじゃ。 …………。 詩音(私服): これで……なんとか信用してもらえた、かな……。 詩音(私服): 卑怯かもしれないけど、あの子に出し抜かれるわけにはいかないから。 詩音(私服): 私の夢を叶えるためにも、絶対に……。