「魔法……?」

「いえいえ、ほんのジョークです。我が社のネットワークと、さいしんえいのソフトを使えば、あの程度のことは、赤子の手をひねるようなものです」

が違うでちゅ」

 バニラアイスとかくとうしながらも、季枝霞はビフに突っ込みを入れた。


「マジカル・オーバーライト!」

 万牛ビルの屋上で、魔法少女ピクシィミサが、ステッキを頭の上で振り回していた。

 むらさき色の光……つまり、魔法の物質は、そこからほうしやされている。

 ろん、阿重霞に見せるためにしているわけではない。

 一見、美しく見えるその光は、魔法少女によって、悪の……いや、標準世界の手先と化したのだ。

 秋葉原中に放射された光は、パソコンを売っているてんそう、オフィスの中に入っていき、コンピュータのOSを次々と『シンクロニシティ』に変えてゆく。

 ビフの日本標準化計画はすいめんしんとうし、かくじつに成果を上げていたので、魔法をかけるコンピュータの数はそれほど多くはない。

 しゆんに、秋葉原からシンクロニシティ以外のOSはなくなった。

 これが魔法の力である!


 ビフは美しい光に目を細める。

 れいな光景に感動しているわけではない。

 あの紫色の光が、自分のOSを入れていることを、自分のネットワークをよりきようなものにしていることを知っているからだ。

 さすがだ。さすがは魔法少女だ!

 我が社が何カ月も前から準備してたつせいできなかったことを、わずか一瞬でやりげてしまうとは。しかもタダで!

 わかる。この町の情報が世界へつながってゆくのが!

 わかるぞ。我がスタンダードの数多く存在する支社が、その情報を手に入れ、さらなる力を手に入れているのが!

 でも、秋葉原だけではものりない。

 私が求める標準世界を作り出すためには……。

 ビフはかたわらに立つサムに声をかけた。

「サム、月は出ているか?」

「……は?」

「月は出ているか、と聞いている?」

 サムが空を見上げると、雲の谷間から美しいしんえんを描いている月がゆっくりと顔を出した。

「は、はい。出ております」

 とうわくしながらうなずくサムに、ビフはまんぞくな笑みを返す。

「ならば、月が私に力を与えてくれる。だいなる力を……」

 日本を。

 日本にある全てのコンピュータに私のソフトを入れることができるのだ!


その4


「どう、りようちゃん。終わった?」

「まだ……」

「んもう、おそいわねぇ。本当に、頭悪いんだから!」

「うっせーな、ほっとけよ」

 なんて会話が続いているここは、の家の裏手から、公園をはさんだ向かいにあるアパート『コーポ・ディストラクション』である。ボロアパートでも、コーポだ。

 そこには、砂沙美の家でアルバイトをしている美星と清音も住んでいるが、天地が通っている雷凰学園高等部のこうつとめる、スーパー・デリシャス・遊星・ゴールデン・スペシャル・リザーブ・ゴージャス・アフターケア・キッド28号な鷲羽わしゆう・コバヤシ先生も住んでいた。

 鷲羽先生は、わずか一〇歳でマサチューセッツ工科大学をしゆせきで卒業し、さまざまな発明で世界の七割ものとつきよを持つ、それはそれは偉大なるかたなのだ。子供だけど。

 そんでもって。

 何台ものコンピュータと、何がなんだかわからないようなメカの数々と、いとしいねつたいぎよの集団に囲まれた鷲羽先生の部屋では、折笠魎呼がヒーヒー言っていた。

 彼女は期末テストの成績がれつあくだったため、夏休みの何日間、しゆうの大岡さばきを受けていたが、との天地くんはあたしのものよ合戦で、ずりずりサボってくれちゃったもんだから、ここで補習を受けていると……そういうわけである。

「なあ、鷲羽よぉ」

「先生」

「ったく。なあ、鷲羽先生、そろそろやめにしねーか?」

「何言ってんの。始めてから一五分もってないじゃない」

 魎呼は、ちゃぶ台の上でかくとうしていたぶつのテスト用紙をクシャクシャに丸めて、ゴミ箱にほうり投げる。

「やめた、やめた。夏休みになってまで、なんで勉強しなきゃなんねーんだよ」

「そんなにやりたくなけりゃ、やめたっていいわよ。あたしだって好きでやってるわけじゃないし。研究のじやだし。でも、単位はずぇっったいにあげないわよ。このまま、すっぽりりゆうねんして、天地クンと阿重霞ちゃんを『せんぱい』って呼ぶことになっても、あたしゃずぇっったい責任もたないし、卒業式の時に魎呼ちゃんに校舎裏へ呼び出されても、ずぇっったいに行かないから」

 お手製のラップトップ・パソコン『POWER HEARTⅡ』で、魔法少女とその能力についてのデータをまとめていた鷲羽先生は、振り向きもせずにそんなことを言う。

「わかったよ。やるよ。やりゃいーんだろ!」

 と、魎呼がてるように言った、その時。

 ピピピピピ……。

 けいこくおんが鳴りひびき、ラップトップのTFTモニターが、エマージェンシーのウインドウを開いて状況を表示し始めた。

「なんだよ、鷲羽……?」

「ちょっとだまって!」

 きんちようした声で魎呼を制した鷲羽先生は、急いでキーをたたく。

「…………これは」

 コンピュータ・ウイルス!

 ネットワークの中から流れてきてる?

 ふふん、おバカちゃんね!

 鷲羽先生は、そくにダミープログラムを走らせて、進入してくるウイルスをダミー側に引き寄せた。ダミーに食いついたウイルスは、すさまじいいきおいでしんしよくを始めている。速い。

 新種のウイルスみたいね……。

 鷲羽先生は、かいせき用のプログラムをいくつものバイパスをけいしてウイルスにぶつけた。

 そうしないと、せつしよくしたしゆんかんせんされる可能性もあるからだ。

 ……OSを書きえてる?

 しかも、アメリカで出てる『シンクロニシティ』に書き換えようとしている!?

「ふふん。誰かちゃんがおいたしてるみたいね」

 状況をかいした鷲羽先生は、すぐさま、シンクロニシティによく似たプログラムコードを呼び出して、ウイルスにぶつけた。

 チラリと見ただけだが、天才鷲羽先生にしてみれば、ようきわまりないウイルスだ。

 ぶん、今のダミーにだまされてウイルスの侵入はおさまるだろう。

 時間にして約一〇秒けいした時、モニターに表示されていたエマージェンシーがかいじよされた。おもわく通り、ウイルスは、このコンピュータにシンクロニシティが入っているとはんだんしたようだ。

「さーて、じっくり解析を始めましょうかね」

 鷲羽は、メモリーのふくろこうに追いめたウイルスに、デジタルのメスをばす。

 ……が。

 なんとそのウイルスのプログラムコードが、瞬間的に消えてしまった。

 かいプログラム!?

 そう、このウイルスは、一定時間か、書き換えが終了した時点で、自らをしようめつさせるようプログラムされていたのだ。

「へえ、なかなか。やってくれるじゃない」

 てきな笑みを浮かべた鷲羽先生は、ラップトップを閉じて、つくえわきにある大容量に本体へとセットした。

 メインスイッチを入れると、じようはんしかない部屋のいたるところにあるコンピュータが連動し、さらに、雷凰学園のワークステーションともリンクして、スーパー巨人ジヤイアンツ状態になる。

 ぜつたいに発信元をつかんでやるわ。

 そんな鷲羽先生の行動に「あたちみっちゅでちゅ」状態なのは魎呼である。

「あのぅ、鷲羽先生? 何してるんですか?」

「いいから、そこにあるテストいて」

「なんかあついぜ。エアコン付けていいか?」

「ダメ。ブレーカーが落ちちゃうから。黙ってテストやってなさい」

「わかったよ」

 えんぴつをつかんだ魎呼は、ふと公園の向こうに見える、天地の家の灯を見た。

 天地は、今、何してんだろ?


 魎呼のいる場所からは見えない、商店街に面したCD─VISIONのシャッターには、『りん休業』と書かれた紙がられている。

 なぜかというと。

 河合家のは、デーモンが合体してきそうなようふんに包まれているからだ。

「カラオケ……、あたしの、いとしのカラオケちゃんが……」

 ソファベッドに横たわり、ちひろママはうわ言のように、ブツブツつぶやいている。

 砂沙美は、台所で作ったひようのうをママの額に置いて、

「しっかりして、ママ」

「カラオケ……カラオケ……」

 ちひろママの目はうつろだ。しようてんが合ってない。

「ママ、大丈夫かなぁ?」

 となりにいる天地と清音を見て、砂沙美は心配そうに呟いた。

「とりあえず、ようを見よう」

「そうね。別に病気ってわけじゃないし、医者に連れて行ってもどうしようもないと思うし……」

 天地と清音が答える。

 まあなぁ、ママはカラオケが歌いたいだけだもんなぁ。

 と、そこへ。

「あった。ありましたぁ!」

 店の奥にある倉庫から、ほこりだらけになった美星がけ込んできた。

「あったって、何が?」

「カラオケです。カラオケ!」

 ちひろママは、美星の言葉を聞いてじようけんはんしや的に起き上がった。

「カラオケ、どこ? 見せて、さわらして、で撫でさせてー!」

「はい、店長。よーやく見つけました。8トラのカラオケです!」

 美星が持って来たのは、すえいつぱいみ屋に置いてあるかどーかもあやしい、8トラックのカセットテープだ。カラオケ界のよしはる、伝説のカセットとも呼ばれている。

 ちひろママは、一五秒くらいカセットをじーっと見て、

「こんなのいやぁっ!!

 美星の手から8トラをうばってかべに叩きつけた。

 そして、なにごともなかったように、ソファに倒れて、再びブツブツ言いはじめる。

「あーん、せっかく探してきたのにぃ」

「美星、そんなもんかけるかい、どこにあるんや! それに、店長が欲しいのはカラオケするための機械で、テープやないっ!!

「だってぇ……」

 清音に岡山弁でおこられた美星は、カーペットを指でイジイジする。

 がんばったのに。清音のおこりんぼ。

「天地兄ちゃん、とにかく、ママにカラオケを買ってあげればいいんだよね。そしたら、元気になるよね」

「ああ、そうだけど……」

 砂沙美の意見に天地はあいまいにしか返事ができない。

「どうしたの?」

「実は……お金がないんだ……」

「店長がパソコン買うのに持ってっちゃったから、レジには二万円くらいしか残ってないのよ。今日のお店の売上げ……あんまり、よくなかったし」

 天地のしようげきの告白に、清音が助け船を出す。

「ほら、銀行でお金を降ろす……そう、キャッシュカードは?」

「そんな危ないもの、母さんのそばに置いとけないだろ。それと、ウチのきんつうちようは時間がたないと開かない金庫に入れてあるんだ」

 砂沙美のナイスアイデアがするりとからる。

「じゃあ、じゃあ。近所からカラオケ借りてこようよ」

「あ、それいい。あたし、商店街事務所に行って……」

 今度のアイデアはグーだ。

 砂沙美の意見に清音もなつとくして、居間を出ていこうとしたが。

「ま、待って」

「どうしたの、ママ?」

 呼び止めたちひろママのくちもとに、砂沙美が耳をせる。

「……ふ、普通のカラオケちゃんじゃイヤ。パソコンちゃんでカラオケしたいの」

「そんなこと言われてもお!」

「はうっ!」

 そのせつ、ママの身体からだがビクンとね上がった。

「はう、はう、はうっ!!

 ママの身体はだんぞく的にね上がり、ソファベッドをギシギシとらす。

「どうしたの、ママ。ママッ!」

きんだんしようじようだ」

 ちひろの症状を見て、天地が呟いた。

 そう、砂沙美が林間学校へ行ってた時も、カラオケが鳴らなくなったから、ちひろママは禁断症状におちいってしまったのだ。

 と、考えると。

 このまま放っておけば……。

「え~っ、また、お家がメチャクチャになっちゃうよぉ!」

 全てを理解した砂沙美が、大声を上げた。

 そんな。せっかく、片づけたのにぃ!

「はう、はう、はうっ!」

 のたうち回っているちひろママが、息もえにさけぶ。

「天地ちゃん、砂沙美ちゃん、パソコンちゃんを動かして、お願い。お店の売上げ、好きなだけ使ってもいいから。……はうはうっ!」

 とっても我がままなお願いを、ママはしてくれた。

 しかし。

 それがちひろママなのだから、しょうがない。

 しょうがないのだ!


その5


 岡山に住む、後藤敏郎は、地元の工業高校に通うごく普通の高校生だ。

 もとい。今日は、岡山駅のパソコンショップで、新作パソコンゲームソフト『秀吉の野望~戦国スーパースター列伝~』を買って、ごきげんになってるごく普通の高校生だった。

 家に帰って、さつそく、部屋の日本規格のパソコン、六七〇〇〇ⅩⅤⅡを立ち上げ、二〇〇メガしかないハードディスクに、スルリとインストールをこころみる。

 ……が。

「なんだぁ、OSが違ってるぞ!?

 敏郎のパソコンは、WSのロゴが表示され、シンクロニシティが立ち上がってしまった。

 どうまでに二分近くかかった……のはどうでもいいとして。

 父さんか誰かが、インストールしたのか?

 とにかく、シンクロニシティでは、たいおうばんではないので買ってきたゲームができない。

 しかも、ハードディスク中の八九%も、このOSはせんゆうしてやがる。

「ったく!」

 したちした敏郎は、OSをハードディスクからしようきよしようと試みることにした。

 使いがつが今一つわからないが、なんとかなるだろう。

 だが、どんな方法を取っても、シンクロニシティをさくじよできない。ハードディスクは元より、ディスクから立ち上げてもそうだった。画面的にはしようきよの文字が表示されるのに、再び起動させると、シンクロニシティがふくげんしているのだ。

「何が、どーなってるんだよ!?

 こうして、敏郎のパソコンは、世界標準のパソコンに生まれ変わった。


 徳島に住む、はま晴美は、地元のしようけん会社の受付をつとめるごく普通のOLだ。

 もとい。今日は、こんのがしまくってる先輩から仕事のざんしよを言い渡されて、のこりしている、ちょっとごげんななめなごく普通のOLだった。

 会社のパソコンに、きやくリストや、持ちかぶ等のデータを次々と入力してゆく。

 その時。

「…………うそ!?

 とつじよとしてデータが消えた。

 データどころか、パソコン本体の電源すらも落ちている。

「あーもう、入力、ほとんど終わってたのにっ!」

 イライラした晴美は、パソコンをコツンと叩いた。

 すると、再びどうして、画面にWSのロゴが表示される。

「……何、これ? なんか、ヘンなのが立ち上がっちゃった!?

 こうして、晴美の会社のパソコンは、世界標準のパソコンに生まれ変わった。


 青森に住む、木村敬二は、親とリンゴ園を経営しているごく普通の農家のむすだ。

 もとい。今日は、アメリカかららよくにゆうした新型パソコンが届いてうれしいのだが、その使い方がわからなくて必死になっているごく普通の農家の息子だった。

 ディスプレイに映し出されたシンクロニシティ英語版と、英和辞書をこうに見つめながら、頭をボリボリいている。

「え~っと、この単語は……」

 なんて、マウスをそうしてカーソルをどうさせようとした時。

 なんのまえれもなしに、ソフトが止まった。

 マウスを動かしてもカーソルが動かないし、キーをカチャカチャ叩いてもはんのうがない。

うそだろ。いきなり飛ぶかよ。今日買ったばかりだぜ!」

 敬二は、CTOL、ALT、DELのキーを同時に押して、OSを再起動させる。

 が。再び表示されたWSのOSは……。

「……日本語版に……なってる……?」

 こうして、敬二の家のパソコンは、日本人向きのあつかいやすい世界標準パソコンに生まれ変わった。

 なんか、彼はラッキーくんだ。


 とまあ、そんなげんしようが、全国各地で行われていた。

 そして。

 事件のあった場所では、えず黒いレザーな服を着ている魔法少女の姿があった。

 魔法少女はりよううでを組んでおすましさんだが、にくがんでは見えないほどのもうれつぅ!なスピードで、シュタタタと足を動かしている。時速二八〇キロは軽く出ていた。

 たまにステッキで魔法の物質をほいほいとはなちまくる。その光は、半径二〇キロ以内にあるすべてのコンピュータのOSを、次々とシンクロニシティに変えてゆく。

「ミサ、後は北海道だけだね!」

「オーライ。とっとと片づけて、お姉様のところにアイル・ビー・バック!」

 肩に止まっているにウインクして答えたミサは、がるかいきようを抜け、海の上を走りながらおうだんして北海道を目指す。

 よい

 魔法少女ピクシィミサは、人々のパソコンに新しい標準的なOSをプレゼントするサンタ・ウーマンであり、れ木に花を咲かせてまわる電脳花咲かグランマだ。


 日本標準化計画は、さいしゆうだんかいむかえようとしていた。


『魔法少女プリティサミー 秋葉原闘争編(上)』おわり