で、魔法の映像に映っている砂沙美たちなのだが。

「それでは、河合ちひろ民芸ショー、第2部、一〇〇〇曲メドレー……を始める前に、みなさんに、とっておきのビッグニュース!」

 ぱちぱちぱち。

 砂沙美と天地は、何度目かの拍手をした。

 満足げにうなずいたちひろママは、カーテンの後ろにさりげなく(?)かくしてあったしやりん付きのテーブルをえいやっとり出す。

 ママの民芸ショーを、たんぱくな表情で見つめていた砂沙美と天地だったが、テーブルの上にある物体を見て、しきが戻り、こうが働きを始め、かくから入力された情報が脳にでんたつしてしよされ、その物体がなんであるかをあくすることに成功したから目をった。

「そ、そのマシンは……」

「見て見て、新しいカラオケちゃん、ママ、買っちゃったのぉ!」

「え~っ、ママ、また買ったのぉ?」

 砂沙美が声を上げる。

「だって、今まであったカラオケちゃんは全部こわれちゃったんですもの。このままじゃ、ママ、死んじゃうわ。ふるるるん」

 いやいやっと首をプルプル振っているが、でも、楽しそうな表情でママが答える。カラオケを壊したのは自分であるという意識は、限りなく0にひとしい。

 ……カラオケちゃん?

 天地は、母がまんげに見せびらかすそのかいがなんであるかを知っていた。

 一七インチのフラット・スクエア管をさいようしているマルチスキャン・ディスプレイがある。ミドルタワーの本体、外部スピーカー、レーザーディスクドライブ、CD─ROMドライブ、ディスク用のスロット、JISかくのキーボード、マウス……。

 つうの高校生でも、これだけ見ればすぐにわかる。

 これは、二〇世紀に人類が生み出したはんようはこがたけつせんへい!!

「パソコンじゃないか……」

「パソコン?」

 おどろきながらつぶやく天地に、砂沙美が聞き返す。

「ああ。ようするに、コンピュータのことだよ。文字を入力したり、計算したり、絵を描いたり、いろいろできるんだけど、いろいろするためには、お金のかかる機械でさ」

「あらららん? これ、このカラオケちゃんは、パソコンちゃんって言う名前なの?」

 自分が買ってきた商品をかいしてないちひろママが天地に聞く。

「違うよ母さん、カラオケじゃなくて、パソコン、そのものなんだってば」

「あらららら? でもでも、レーザーディスクがついてるじゃない?」

 かいせつするまでもないが、ちひろママは、レーザーディスクのある物体は、全てカラオケちゃんだと思い込んでいるのだ。

「これは、そういうシステムになってるパソコンなのっ!」

 声を荒げて天地がさけぶ。

「ふ~ん。でも、なんだかハイテクっぽくて、かっこいいわね」

「なんでこんなものを……」

「近くにあった電気屋さんに新しいカラオケ買いに言ったら、お店のお兄さんがすすめてくれたの。時代は、マルチメディアで、インターネットで、見て来てさわってやるじゃねーか、だって言うから!!

 電気屋のお兄さんのけ売りを、ちひろママはちょっと間違えながら言ってくれた。

「マルチメディアなんて、形のないぐうぞうのようなものなのに。あーあ、どうせ買うなら、もうちょっといいマシンにしてほしかったよなぁ。このタイプは、生産中止になったヤツでCPUがRISCじゃないし、ハードディスクのようりようは少ないし……」

 なんて、なかなかおくわしいことを言ってくれた天地様は、母が電気屋にだまされてざいしよぶんのマシンを売りつけられたんだとかくしんした。

 カラオケだったら、別にレーザーディスクがなくてもできるし、どーせ買うなら、一言そうだんしてくれれば……。

 ……ん、ちょっと待て。

「か、母さん? ウチにパソコンを買う金なんて、どっから……」

「ウフッ♡」

 天地のもんに、ちひろママはふくみのある笑みで答えた。

 手でくちもとおさえている。

 その母のたいを見た天地のひたいに、ゆっくりと青線がえていく。

 まさか、母さんは……いやいや、そんなことが。

 でも、母さんなら……ああっ、現実を受け止めたくないっ!

 意を決して、天地はちひろママにたずねた。

「ま、まさか、店の売上げを……」

「うん。ちょっと、りちゃったぁ♡」

 やっぱり、店のレジスターからお金を持ちだしたのかぁ!

 、元気に起きてきて、突然いなくなったと思ったら……。

 天地の嫌すぎる予感はてきちゆうしてしまった。ばいりつが1・1倍しかつかないてつぱんレースだ。

「ママぁ、お店の売上げ落ちてるからびんぼうしてるんじゃなかったの!?

「だって、欲しかったんですものぉ」

 砂沙美のおませなげんきゆうは、ママ・バリアにね返された。

「うふふふん。うふふふん。うふふふふん♡」

 ママ・何も聞こえないわ・フィールドを全力展開させているちひろは、砂沙美と天地たちからおのれの身を守っている。

「砂沙美、今月から、しよく半分な」

「うん……」

 このようなじようきように追い込まれた天地と砂沙美ができることは、このていかいあんていすることだけだ。

「まあまあ、そんなしんくさい顔をしないで、みんなでカラオケしてり上がりましょ」

 誰がそーさせている?

 なんてことはおかまいなしで、ちひろママは、手をパンパンと鳴らし、

「美星ちゃ~ん!」

「は~い!」

 店からやって来た美星が、商品であるカラオケをちひろママに渡す。

「あらららら? これは、レーザーディスクじゃないじゃない?」

 受け取ったカラオケを見たちひろが、不満げな声を出す。

「はあ、今日、とんさんからにゆうした商品なんですけど」

「どういうこと? こんなの、ちゆうもんしてないよ」

 美星のべんめいに、天地が聞き返した。

 CD─VISIONの商品管理とけい計算を行っているのは彼だからだ。

「さっき来たはいそうの人が、今日から日本のCDの規格はこれに変わりましたからって言って、お店にある商品を全部、これに変えていったんですぅ」

 美星の持っているのは、CDでもレーザーディスクでもDVDでもない。

 アメリカにあるスタンダード社が、勝手に標準規格としてきゆうを呼びかけているスタンダード・ディスクであった。

 約4ギガのデータ量をぞんでき、せいぞうコストも安いという点をきよう調ちようしているのだが、いきなりそんなこと言われて、はいそーですか、とシフトチェンジできるわけもないし、これを使用するには、せんようのハードも必要だ。

「こんなのかけるかい、日本じゃ、誰も持ってないよ」

 天地は、スタンダード・ディスクを見つめながら言う。

 日本の音楽商品の規格が、スタンダード・ディスクになったって?

 そんなバカなことが。

「あらららら。じゃあ、ママの持ってるレーザーディスクでいいから、カラオケしましょ」

 気を取り直したちひろママは、パソコンのパワー・スイッチを押した。

 電源がきようきゆうされ、れんどうしているモニターにもスイッチが入り、OSのどうを示す、小さなパイナップルのCGが映し出され……、

 プッ。

 ……いきなり消えた。

「あらららら? どうしたのかしらん?」

「ちょっと見せて」

 パソコンの前まで来た天地は、キーをたたいたり、本体のランプを見たりして、

「母さん、OSは?」

「何それ? ママ、わからないわぁぁぁぁん」

「このパソコンを、動かすための基本プログラムのパイナップルOSのこと。ハードディスクは、正常みたいだし、OSが入ってないんじゃないかな」

「セットのヤツなら、ソフトがついてるんじゃないですかぁ?」

 美星のじよげんに天地はうなずき、パソコンの箱を持ってきて、中身を調べた。

「あったあった、CD─ROMだ!」

 しかし。

 天地がそのCD─ROMを手にしたたん

 ドカン!

 ばくはつした。部屋の中に黒いけむりじゆうまんする。

「天地兄ちゃん!」

 砂沙美が、フラフラになっている天地を支える。

「な、なんで、CD─ROMが爆発するんだ……」

「不思議ですねぇ」

 近くにいながら、少しもがいに会ってない美星がにこやかに言う。

「天地ちゃん?」

「……えっ?」

 ずっとだまったままのちひろママが、しんけんな表情で天地を見ている。

「このカラオケちゃんは、動かないのね」

「え、うん。今、なんか、爆発しちゃったし……」

 なつとくできないが、現実はそうなので、天地は正直に答えた。

 いで、ちひろママは美星に聞く。

「美星ちゃん、レーザーディスクも入荷してないのね……」

「そうなりますねぇ……」

「フッ、そうなの……」

 なんて言いながら、ちひろママのひとみからは、大量のなみだが流れていた。

「そ、そんなぁ。せっかく、買ってきたのにぃ。カラオケが歌えないなんて、歌えないなんて。うふふ。あはは。あーっはっは!」

「マ、ママ?」

 砂沙美の心配そうな呼びかけも、今のちひろにはとどくことはない。

「ああああ。いーっひっひ。うーふっふ。えへへへへへへへ!!!!!!!!

 くるったような笑い声を上げ、ちひろはそのままゆかした。