足元を見るとトースターが置いてあった。砂沙美はこれに足を引っかけたのだ。
「どういうこと?」
「まさか、本当に
清音がポツリと言う。
「ママッ!」
美星のお胸
「…………ゔっ!?」
見るも
「……るる……る、……らら……ら…………らぁ♪」
「ママ!?」
声のした場所──ソファの向こうに砂沙美が走る。
そこには、黄金のマイクを持ったちひろママが、
「ママぁ!」
「……るる……るらら。そ、その声は、砂沙美ちゃん、ね……」
か細い声でちひろママが言う。
「そうだよ、砂沙美だよ。もしかして、ママ、目が見えないの?」
「…………み、見えるわよ」
「そ、そう……」
「店長、何があったんですか?」
清音の問いに、ちひろママは姿勢を
「この前ね、いきなり
店は、どーした!?
「でね、ママたちね、
その
「うあぁぁっっっっっっ!!!!!!!!」
と
「どうして
ちひろは、カラオケシステムに、黄金のマイクをビシビシ
まだ、酒が残ってるのかも知れない。行動に
ゲシゲシッ!
カラオケのボリュームボタンが
「鳴りなさいよぉぉぉ!!」
「店長!」
「気持ちも何もかもわかりませんが、落ちついてください、店長!」
清音と美星が、
「カラオケが、あたしのカラオケがあぁぁっっ…………………………うっ!」
白目になって、そのまま前方ヘポテリと倒れた。
「ママッ!!」
「うわー、店長、気合入ってますねー」
「どあほうが!」
「ママ、しっかりして、ママッ!」
グーッ……。
「なるほど。そーゆーオチか?」
魎皇鬼が小声で
でもでも砂沙美は、出かける朝に、
キッチンに走った砂沙美は、
シチューは、パックに入ったまま、しっかりと横たわっていた。誰も食べてない。
「ちゃんと、出発前に天地兄ちゃんに言っておいたのに……」
そうだ。天地兄ちゃんは!?
どこ、どこにいるの!?
キィと、玄関のドアが開いたような音がしたので、砂沙美は、再び廊下に向かう。
……あっ!?
そこには、ボロボロになっている天地がいた。
魎呼ちゃんと
「天地兄ちゃん!?」
「砂沙美……ごめん。約束、守れなかっ……」
そのまま、
「砂沙美ちゃん、ゴハン、作ってあげないと店長が!」
「ついでに、あたしたちのも作ってもらえますかぁ?」
居間から顔を出した清音と美星が、こんなことを言う。
なんで?
どうして?
たった三日間──正確に言うと二泊三日、旅行に出かけてただけで、どうして砂沙美の家は、こんなになっちゃうのぉ?
「運命かなぁ……」
砂沙美の
それから。
砂沙美は部屋の
キッチンで
「……それでは、次のニュースです。アメリカの大手パソコン・ソフトメーカー、ワールド・スタンダード社の基本ソフト『シンクロニシティ』の日本語版が、
皿を洗いながら、砂沙美は
パソコンなんて、砂沙美、知らないもん!
政治家さんがお金いっぱいもらおうが、砂沙美には関係ないもん!
土地を買った人が国からお金
こんな夏休みなんて、こんな夏休みなんて。
大っ
その5
商店街の前で砂沙美と別れた
ドアノブを回す……が、開かない。
……やっぱり、ママ、お仕事に行ってるんだ。
いつもの
そうだってことはわかってる。
そうじゃなかったらいいなとは、いつも思っているのだが……。
そう
中身は、ママの好物の生クリームが入っているシフォン・ケーキで。
帰ってきたら、ママと
そうだ。生ものだし、
ふと
ママからだ。
再生ボタンを押すと、
『……美紗緒、ママは会社の用事で急に
ピーッ。
そこで、メッセージは終わっていた。
「一週間……。そんなに
美紗緒は持っていた包みを、そのままテーブルに置いた。
ママがこれを食べることはないし、自分一人で食べるのも……なんとなく
砂沙美ちゃんと一緒に食事、一緒の部屋、一緒の
やだ、あたしったら。
あたし、楽しかったの。
でも。
楽しいことは続かないのだ……。
とりあえず、何もすることがなくなった美紗緒は、後で琴恵に怒られないように、玄関の新聞を片づけようと、入口に向かうことにした。
新聞を一つ一つ
昨日の朝刊を手に取った時、新聞紙と広告のチラシの間からハラリと一枚の紙が
絵ハガキのようだが、違う。写真をハガキにして送るフォト・メールだ。
美紗緒は、その手紙をジッと見つめた。
写真の中央には、石でできた巨大な顔がある。イースター島のモアイだ。
……えっ?
そこに手をかけるようにして、立っている人影は……。小さいけど、よく見えないけど……。
「パパッ!」
その写真には美紗緒の父、天野
ピントがズレていてもわかる。うん、あたしにはわかる。
美紗緒は、急いで手紙を
そこには、ボールペンで走り書きしたようなのりぴー文字があった。パパの文字だ。
イースター
繁樹が出ていって二年、初めてこの家に送られてきた手紙だった。
「パパッ、パパ……ッ!」
もう一度、裏返し写真を見る。
よく見えない。
もっとはっきり、パパの顔を見せて。お願い。
でも。
パパの顔はどんどん
さっき見たのより、もっと、もっと、パパの顔がわからなくなる。
美紗緒の
「パパ……会いたいの。パパに会いたいの。あの時みたいに、ピアノを
手紙を胸に
悲しい気持ちが美紗緒の心を
でも。
だけど。
心の奥底にいるもう一人の自分が、
『あたしのダディは、あたしのこと忘れてないじゃない。とってもハッピーっ!! う~ん、なんか
……そうだ。ちゃんと手紙を送ってくれる、パパはあたしのことを忘れていないんだ。
涙を
いや、使ってないわけではない。
ママが知らないだけ。だって、あたし、
人さし指で、『ド』のキーを押してみる。
指を少しほぐし、大きく息を
カーテン
美紗緒は弾きながら、パパのことを思っていた。
……パパ。子供の頃に、パパがいつも弾いて聞かせてくれた曲を、あたし、弾けるようになったの。いつか、パパに聞かせてあげようと思って、こっそり
でも、でも。
パパは、この家にいない。
美紗緒は大きく首を
ううん、会えるよね。会えるよね、きっと……。
ふと見ると、すぐ
………………ポン……。
鍵盤から指を放し、カーテンを引く。
そこには、美紗緒の
「鳥さん……」
美紗緒が窓を開けると、留魅耶は、キイイィと
「どう、
「キイィィッ」
「ありがと、鳥さん。この曲はね、パパが作ったの。あたし、大好きなの。
留魅耶の羽を優しく
鳥さんにこんなこと話しても通じないのはわかっている。