1・歴史上まれにみる最悪な夏休み!!



その1


 ほのおせきが波のようにうねり、星空へ向かってびていた。

 の身体は、赤々とえ上がる炎にらされている。

 そんなじようたいだから、もんの表情をかべてデンジャーなのかと思えば、全然そうではなくて、なんか楽しそうな不思議色ハピネスな笑顔で、体育座りなんかしてて、野外スピーカーからフランスみんようらしき音楽が流れていて、でも炎は熱かったりするから、困ったりしててオウ・シットなのかと思えば、二人は音楽に合わせて身体からだをダンサブルにらしながら、笑顔のユニフォームこうかんをしていた。

 つまり、これは……、

 キャンプファイヤー!!

 場所は……、

 やま!!

 ……だった。

「楽しい2日間だったね、砂沙美ちゃん」

 炎のぬくもりを感じながら、美紗緒が言う。

「うん!」

 ……来てよかった。

 美紗緒の笑顔を見つめながら、砂沙美はそう思った。

 山を登った時に見たしきは、んーもう、ビューチホーってくらいれいだったし、レクリエーションのゲーム大会(どっちが長い間ぼーっとできるか勝負)に勝ってしようひんはもらえたし。なにより、美紗緒といつしよの部屋でまりできたのが最高だ。

 えへへ。写真もいっぱいってもらったし、できあがりが楽しみ。

 そうだ、アルバムも買わなくちゃ。写真屋さんでもらえる紙のヤツじゃなくて、ちゃんとしたヤツを。

 キャンプファイヤーをかこんで、一生もんのねんになりそうなフォークダンスをおどる上級生たちを見ながら、砂沙美は、ずっとこのまま、こうしていたいとせつじつに願った。

 しかし、らいおう学園初等部しゆさいの林間学校は今日で終わる。明日は電車に乗って東京にもどらなければならない。

 楽しい時間はえいえんには続かない。続かないのだ。

 ……天地兄ちゃんたち、いまごろどうしてるだろ?

 ふと、そう思った。

 かなりこういんにこの旅行にさんしたことを、砂沙美はちょっぴりこうかいしていたから……。


 事の起こりは、八月も第二週にとつにゆうした頃で。

 ごく普通であるはずの小学四年生の砂沙美ちゃんこと、河合かわい砂沙美の楽しい夏休みライフは、おうを終えてふくに入っていた。

 しかし砂沙美は、初日こそ美紗緒と一緒にゆうえんへ行けたものの、じつであるCDショップの手伝いや、食事の用意や、せんたくや、早朝のラジオたいそうや、朝九時から始まるとうのアニメ番組の連続再放送のちようぼうさつされて、ぜんじゆつていしてしまうが、夏休みなんてだいきらいだよじようたいだったのだ。

 だいしんゆう、大どう、大友達の天野美紗緒ちゃんも、教育ママのことさんからじゆくへ行って勉強しなさい的強制労働を言い渡され、一緒に遊ぶ時間が取れない。

 そんな週間まんのような日々が、二〇日間以上も砂沙美をおそったのだ。

 いくら砂沙美がまん強いといってもげんかいはある。

 なんったって、小学四年生のお子様なのだ。一〇歳なのだ。そばかすが気になる年頃なのだ。体重が二九キロで、六月一八日に生まれて……なのだ!

 それなのに。

 楽しみが塾の行き帰りに美紗緒がってきてくれることと、夜ご飯の後片付けを終えた時にやる、サターン版『ぷよぷよ通』のしろうとげいっぽいデモ・コントをるだけでは、はらわたがよじれるほど切なすぎる!!

 遊びたいよ。遊びたいよ。遊びたいよ!!

 そう、心から願うのもはなかった。

 で、あるわけだから、砂沙美はあるアクションを起こすことにしたのだ。

 それは。

「美紗緒ちゃんと一緒に林間学校へ行くやくそくしたの。砂沙美、行く。行く、行く、行くったら行くのーっ!!

 子供らしく微笑ほほえましいえん力で、砂沙美はのカーペットの上をゴロゴロした。

「ミャーッ、ミャミャミャ!」

 砂沙美にたのまれたペットのりようおうも、仕方なく一緒にゴロゴロしている。

 そう。これこそ、子供にのみゆるされたとつけん、ダダこねこうげき!!

 マイク片手に演歌の道を極めようとしていた砂沙美のママ、ちひろと、高校一年の兄、天地は、ぼうぜんとして砂沙美と魎皇鬼のこうを見守るしかない。

 砂沙美の夏休みを、ここまでさんなものにしたげんきようの大もとめは、実はこの二人だ。

 元演歌歌手のちひろママは、家事能力がゼロシステムにおかされていて、夏休みだろうが平日だろうがカラオケざんまいですっとばしてるし、ゆうじゆうだんと不幸のニュータイプをサテライト・システムで体内にきゆうしゆうしている天地様は、なんと、きゆうどうのインターハイ西東京予選3位に入賞するというめいわくかいきよをなしげてしまい、部活の合宿や本大会のじゆんで家にいないことが多かった。

 時間をやりくりして天地のおうえんに行った砂沙美は、そこに悪い魔法少女が現れたり、天地をじやしてきたり、ラブラブモンスターを呼び出してくれたりと大変だったのだが、まあ、それは魔法少女プリティサミーに変身してやっつけたし、かんけいないからいいとしても、やっぱり二人のせいで砂沙美がいそがしかったことに代わりはない。

「……はぁはぁ。ねえ、いいでしょ、ママ? お願い!」

 ちょっとゴロゴロしすぎたのか、砂沙美は息をはずませつつ、でもひとみはうるるるんと悲しみにれて、ちひろママを見つめた。

 下がったまゆが、こんがんモードをはつどうさせている!

 なのに。

「先日買えなかったあの本が、新宿で三倍のだんで売られてる~♪」

 砂沙美の懇願モードをしまくって、ちひろママは歌っていた。

「ママッ!」

「表紙はあの人、あのお方。ああ、欲しい。でも三倍。じんな世界~♪」

 ちひろママの歌は止まらない。止めるすべもない。

 かたなく、砂沙美は待つことにした。

 ちなみにママが歌っているのは、演歌歌手時代の自分の持ち歌である『東京流通センターだよおっさん』である。信じられないが、今から二五年前に作られた曲だ。

「母さん、母さん、足りないよ。一日じゃ、全部、買えないよ~♪」

 たららりったらったら~ん♪

 ようやく、最後のメロが終わりを告げた。

 かべにかけてあるクォーツ時計のびようしんがしっかり五つ分進んだ後、ちひろママは、砂沙美のはげしいプレッシャーをしようめんから受け止めた。表情がしんけんだ。

「砂沙美ちゃん、林間学校は、お金かかるんでしょ?」

「うん、参加希望者のみだから、一万二千円必要だって……」

 ちひろママの問いに、砂沙美の声のトーンがちょっとだけ下がる。この問題はけて通れないマークスの山だ。

「じゃあ、ダメよ。ダメなのよ。ダメちゃんよー♪」

 わざわざマイクを通し、メロまで付けてくれて、ちひろママは自分の意見を言う。

 ママの山は、けいしや角一〇度のラルプ・デュエズよりも高く険しいのだ。

「でもっ!!

「ウチはびんぼうよ。貧乏なのよ。貧乏ちゃんよー♪」

 あさっての方向を見て歌う。

 決して砂沙美と視線を合わせようとしない。いいはんだんだ。

「そんなぁ。ママだって、さいてんのう付きのカラオケや、通信カラオケを買ったじゃない。カラオケのCDも、レーザーディスクも毎日のように買ってるし、通信は電話代がかかるんだよ!!

 砂沙美の一〇歳とは思えないげんきゆうに、ちひろママは悲しげな視線を向けた。