Part 01: 生徒会長: 古手くん。君を……いや君たちを見込んで、折り入って相談したいことがあるんだ。 梨花(高校生): 嫌です。 生徒会長: わぁ、呼び出して早々に断られたよ!まだ何も話していないのに! 梨花(高校生): ……内容を聞かなくても、面倒事を持ちかけられそうな気配を感じます。なので、もう失礼してもいいでしょうか? 生徒会長: なんとつれない……せっかくアイドルコンビ、『ヒナ☆Mix』の再結成にふさわしい素敵な舞台を用意しようと思ったのに。 梨花(高校生): ……っ……?! 背を向けて寮へと戻りかけた足を止め……私はぎょっ、と目を見開きながら振り返る。 聞き覚えのある……というより、忘れたくても忘れられない黒歴史の残骸だ。もう二度と聞くことはないと思っていたのに……! 梨花(高校生): な……なぜ、その名前を……?! 生徒会長: おっと、すごい勢いで反応したね。 梨花(高校生): 質問に答えてください。 生徒会長: 残念ながら、情報の入手先は提供元から口止めを固くされているんだ。答えられない。 梨花(高校生): …………。 飄々とした態度に、不快を通り越して怒りすら覚える。 学園での生活に行き詰まりを感じていた沙都子を助けてくれたのは、間違いなくこの生徒会長だ。けど、けど……! 梨花(高校生): (やっぱりこの人には注意するように、沙都子にはさりげなく伝えておこう) 圭一が口先の魔術師だとするなら、この生徒会長は口先の悪魔……否、毒物だ。 少量の接触なら薬になるかもしれないが、大量の接触はきっとロクなことにならない。 梨花(高校生): ……質問を変えます。私たちにひ、ひな……を再結成させて何をさせるつもりですか? 生徒会長: 近々、ルチーアで文化祭が開かれることは君も知っているよね。模擬店を出したり、演劇や自由研究を発表したりするイベントだ。 梨花(高校生): っ、はい……。 まさか沙都子が言うはずもないので、誰から聞いたのか問い詰めたい気分だったが……なんとかそれをこらえ、私は頷き返す。 ちなみに、私のクラスは無難なところで自由研究ということになったが……テーマは「お化けは実在するか?」だった。 もっとも私の場合、お化けだの#p祟#sたた#rりだのは#p雛見沢#sひなみざわ#rで山ほど味わってきた上……知識を披露すればドン引きされる恐れもある。 というわけで「私は苦手な話題だから」などともっともらしい理由をつけて調査班から外れ、当日は交代で受付を引き受けることにしたのだ。 生徒会長: いやぁ、それにしても出し物の重複が多いのなんのって……喫茶店とお化け屋敷で8割近くだなんて、ちょっと驚いたよ。 梨花(高校生): 手軽ですし、集客が一番望める出し物ですから。……で、そんなことよりも本題に入ってください。 生徒会長: まぁまぁ、そんなに焦ることはないだろう。今から順を追って話すからさ。 生徒会長: 出し物と同じように、ステージも似たようなものが多くってね。大半が演劇で、しかも題材はほとんどが古典。 生徒会長: 申請の中に『浦島太郎』があったのを見つけた時は、頭を抱えちゃったね。 梨花(高校生): ……小学生ですか? 生徒会長: そう思うよねー。学芸会じゃないんだからって。……でも、そうせざるを得なかったんだろうね。 生徒会長: 生徒主体のイベントだと銘打つならば、生徒に主体性を持たせるべきなんだが……またやらかしてくれたようだ。 演劇の題材選択について、学校側が介入した……ということなのだろうか。しかも、この様子だと1度目ではないらしい。 生徒会長の苦い顔を前に、彼女もただの生徒でしかないという当たり前の事実を再確認し、奇妙な安堵を覚えた。 梨花(高校生): 古典でも、いい作品はたくさんありますよ。まぁ……美術をしっかりと作り込まなければ、おっしゃる通り学芸会になるでしょうが。 生徒会長: 古手くんの言う通り。古典を排除ないし軽視するつもりはないよ。 生徒会長: ……ただ、文化祭は1日だけの開催だろう?こう傾向が似通っていると、食傷は否めなくてね。 生徒会長: ちなみに、高等部の文化祭のステージのラストは毎年生徒会が出し物をするって知っているかい? 梨花(高校生): 聞いたことがあります。毎年、生徒会長が文化祭開催の講評を読んで締めくくる……でしたか? 生徒会長: うん。でもそれじゃつまらないから、役員会議で今年の生徒会の時間はイメージをガラリと変えて、アイドルコンサートを運営しようと提案したんだ。 梨花(高校生): あ、アイドルコンサート……っ?!このルチーアでっ? 正気ですか、会長?! 生徒会長: わぁ、正気を疑われてしまったよ。本気か、ぐらいで抑えてもらいたかったなぁ。 生徒会長: まぁ私も、ダメだったらそこまで粘らずに引き下がるつもりでいたんだけど……生徒会もなんというか、色々不満が溜まっていてね。 生徒会長: みんなで直談判して、先生方のOKを奪……もらうことに成功したんだ! 梨花(高校生): (今、奪ったって言いかけた……?) 生徒会長: 時間も限られてるから1、2曲が限界だけどね。というわけで本題だ、君たち『ヒナ☆Mix』に出演の依頼を――。 梨花(高校生): お断りしますッッッ!!! 会長の台詞が終わる前に、私は全てを理解して大声で遮る。 よりにもよって、アイドルステージ……っ?この厳格極まりない学び舎のルチーアで、いったい何をやる気なんだこのド阿呆は?! 生徒会長: ふふふ、そう言うと思ったよ。大丈夫、私も1回目で色よい返事が貰えるとは思っていなかったからね。 生徒会長: でも、今後粘り良く交渉を重ねていけばいずれ気の迷いで引き受ける、なんてことも起こったりなんかするかもしれないかも……? 梨花(高校生): 気の迷い? 今、気の迷いって言いましたねっ?ということはつまり、私たちが正当な手続きでは引き受けないとわかって言っているんですか?! 梨花(高校生): はっきり言っておきます!交渉が1回目でも100回目でも、答えは同じです!やりません! 絶対にお断りです!! 生徒会長: そうか……残念だよ。では、この話は北条くんに持っていくとしよう。 生徒会長: 彼女を口説ければ君もついてくるだろう?なら、一石二鳥だ。 梨花(高校生): 沙都子もダメです!そもそもあの子が、こんなスチャラカな企画を引き受けるわけがありません!! 生徒会長: 北条くんなら、面白がって引き受けてくれると思うけど……それに、断られてもこっちには山ほど手札がある。 梨花(高校生): 手札? 手札という単語に、嫌な予感が脳裏をかすめる。 生徒会長: これまでに彼女には、学園在籍期間内では返しきれない「貸し」を作っているからね。 生徒会長: たとえば……そうだな、アレとか。いや、アレもあったな……うん。 梨花(高校生): ……。もし、沙都子を都合のいい道具にして意のままに動かそうと考えているんだったら、私はあなたと刺し違えてでも止めます……!! 生徒会長: 冗談だよ。そんなことで君たちを敵に回して、私にどんなメリットがあるっていうんだい? 生徒会長: けど……うん。君のそんな顔、初めて見たなぁ。人前では猫をかぶっているけど……古手くんはやっぱり面白い子だね。 梨花(高校生): っ……す、すみません。今の発言は、撤回します。ただ、沙都子を巻き込むのは……! 生徒会長: こちらも冗談が過ぎたよ。ごめんね。北条くんを無理に巻き込むことはしない。……絶対だよ? うん、本当にごめんなさい。 そう言って会長は、ぺこりと私に頭を下げてくる。……まだ不快感は胸の内でわだかまっていたが、おかげで少しだけ頭を冷やすことができた。 生徒会長: ではこちらも、腹を割って話をさせてもらうね。……今回のアイドルステージは、ある意味で北条くんのためでもあるんだ。 梨花(高校生): 沙都子の……ため……?それはどういう意味ですか? Part 02: 生徒会長: 周知事項にも記載した通り、文化祭には最優秀、優秀組に対する表彰が行われる。 生徒会長: 受賞者にはトロフィーだの、表彰状だのが渡されるが……そんなものはただの副賞だ。もっと大きなものが、裏には存在している。 生徒会長: 内申点の加算……古手くんは、聞いたことがないかい? 梨花(高校生): っ……つまり、沙都子の成績をかさ上げすることができる……?! 生徒会長: その通り。ついでに言うと、その審査には生徒会からの意見も大いに考慮される。 生徒会長: つまり、生徒会からの出し物に参加となればほぼ入賞は確実……場合によっては、最優秀賞だって夢じゃなくなるだろう。 梨花(高校生): …………。 沙都子の成績は最近少しずつ安定してきたが、それでもまだぎりぎりのラインを低空飛行している。内申点を稼げるならば、それに越したことはない。 生徒会長: この特典は、文化祭の運営に関わっていた時に偶然見つけたものなんだけどね。使えるなら存分に、利用したほうがいいと思う。 生徒会長: アイドルコンサートという言葉に目くじらを立てる先生も若干数いるだろうが……責められる対象は生徒会、つまりは私だ。 生徒会長: なにか言われたら、生徒会長に無理矢理強要されたと言えばいい。 生徒会長: 私が古手くんと北条くんを生徒会役員補助として引き入れたのは、周知の事実だからね。大丈夫だろう。 生徒会長: そのことを踏まえ……君が乗り気ではないと承知の上で、一度考えてもらいたいんだよ。 梨花(高校生): ……。ひとつだけ、聞かせてください。どうしてあなたは、そこまで沙都子に肩入れをしてくれるんですか……? 生徒会長: それはもちろん、北条くんのように頑張っている子が好きだから……って言い方だと、おそらく君は納得してくれないだろうね。 生徒会長: 私はね……嫌なんだよ。ただ学業の成績だけで人の優劣を決める、この聖ルチーア学園の……。 生徒会長: いや……この国に根付いている学歴至上主義の、頑迷で非効率的な風潮というものが……さ。 梨花(高校生): …………。 生徒会長: この国は戦後、荒廃した社会を復興させようとみんなが一丸になって血汗を流して働き、信じられないほどの速度で成長してきた。 生徒会長: だけど、最近になって世代が変わり……生活が安定したことによって人の価値は、従来の作法に正しく従えるかが重要になった。 生徒会長: 未来を見ていたつもりが、いつの間にか過去に囚われ始めている……。 生徒会長: こんな空気が当たり前になってしまったら、いずれこの国の経済は大きく落ち込むだろう……という話を、昔、叔父さんから聞いてね。 生徒会長: 私は年を追うごとに、その予測が現実になっていくのを肌身で感じている。だから、そんなクソッタレな凋落の流れに抗いたい。 生徒会長: たとえば、北条くんの才能のように。今は表立って認められないものがいつか世の中を良くしてくれることを期待してるんだ。 生徒会長: そのためなら、私程度の存在が嫌われようが恨まれようが些細なことだよ。 梨花(高校生): 会長……。 生徒会長: ……というのが表向きの意見だ。 梨花(高校生): は? 生徒会長: せっかくの文化祭だからね!古手くんも北条くんもみんなも巻き込んでパァーッと楽しみたいじゃないか! カラカラコロコロと笑う生徒会長。でもその笑顔が浮かぶ前の言葉はあまりに真摯で、真剣で……。 彼女のことはやっぱり好きになれないけど、その言葉を疑うことは何故かできなかった。 生徒会長: というわけで……君たちの力、私にも貸してくれないか? 梨花(高校生): ……。私は――。 沙都子(高校生夏服): ……なるほど。会長さんから呼び出しを受けたとは聞いておりましたが、まさかそんな用件だったとは予想外でしたわ。 梨花(高校生): えぇ……私も最初聞いた時は、怒るよりも呆れちゃったというのが正直なところね。 梨花(高校生): まぁ、相談したいことがあるって会長に言われた時から、悪い予感しかしなかったせいで心の準備ができていたんでしょうけど……。 沙都子(高校生夏服): それにしても、梨花も律儀ですわねぇ。本当に嫌なら適当に理由をでっち上げて、さっさとお断りしてくればよかったのに。 沙都子(高校生夏服): どうしてわざわざ保留にして、持ち帰ってきたんですの? 梨花(高校生): だ、だって……もし沙都子がやりたかったら、私の一存で断るのはまずいかもって思って……。 沙都子(高校生夏服): 梨花が真剣に考えて下した決断に、異議を唱えませんわ……まぁ、お気持ちはとても嬉しいですけど。 沙都子(高校生夏服): それにしても、あの会長さん……私たちがオーディションに出場経験があったなんてどこで聞きつけてきたのやら……。 梨花(高校生): 私や沙都子でもないなら、本当に謎よね……まるでスパイ並みの情報収集能力だわ。将来、どこかの国で潜入捜査とかしてるかも。 沙都子(高校生夏服): ……なんだか私たち、このまま会長さんの便利な使いっ走りにされそうな気配ですわね。 沙都子(高校生夏服): 大人になったある日、会長さんが突如迎えに来てそのまま外国に連れて行かれたりとか……。 梨花(高校生): っ……止めてよ、沙都子。今、私も同じことを考えていたんだから。 沙都子(高校生夏服): あら、そうなんですの?をーっほっほっほっ、やっぱり私と梨花とは常に以心伝心なのかもしれませんわね。 梨花(高校生): そう言われて、嬉しくないわけじゃないけど……ただひとつ違うとしたら、会長に相談された時の受け止め方かしらね。 沙都子(高校生夏服): ……? それはどういう意味ですの、梨花? 梨花(高校生): だってあなた、私がこんなに迷惑な気持ちでいるのに、あまり嫌そうに見えないんだもの。 梨花(高校生): むしろ乗り気というか……隠しているつもりなのかもしれないけど、嬉しいって気持ちがにじみ出ているわよ? 沙都子(高校生夏服): くす……まぁ、あなたをごまかせるとは最初から思っておりませんので、素直にその通りだと答えさせてもらいますけどね。 沙都子(高校生夏服): 確かに私、会長さんから無茶なお願いをされても悪い気分ではありませんわ。だって、今の私ならできるだろう、という期待が常に伝わってきますし……。 沙都子(高校生夏服): 加えてそれに応えられた時は、えもいわれぬ達成感があって……とてもいい気分でしてよ。 梨花(高校生): ……だと思ったわ。だって最近のあなたって、会長の話をする時には迷惑そうにしながらも口元が笑っていたりするんだもの。 沙都子(高校生夏服): だってあの人面白い人ですもの。にしても……ひょっとして梨花、会長さんに私を取られた気分になっているんですの? 梨花(高校生): 心外な言われようね。 沙都子(高校生夏服): やっぱり違うんですのね。でも私は、会長さんに梨花が取られないかちょっとだけひやひやしているんですのよ……? 梨花(高校生): ……本当? 沙都子(高校生夏服): もちろん冗談ですわ~!だって梨花、会長さんの話をしているとあの人苦手、って顔に書いておりますもの! 梨花(高校生): ……わかってるなら、そういうことは冗談でも言わないの。 沙都子(高校生夏服): はぁい。 軽い調子で返事をする沙都子に、悪びれた様子はない。 まったく、実に悪趣味な冗談だ。……まぁ、それになんだかんだと付き合ってしまう私もまた、親友の弱みというやつなんだろうけど。 沙都子(高校生夏服): それに、思い返してみると無茶ぶりをされるのは#p雛見沢#sひなみざわ#rにいた時からもう慣れっこですしね。詩音さんに魅音さん、あとは……。 梨花(高校生): ……。ほとんどが、あの2人からの依頼だったじゃないの。そういう懐深さは、あまり身につけたくはなかったわね。 沙都子(高校生夏服): くすくす……確かに。今度里帰りした時に、あの時のバイト代を請求してみるのはいかがでして? 梨花(高校生): 時効だのなんだのと言って、逃げられるのがオチだと思うけどね。 梨花(高校生): で、話を戻すけど会長からの相談……沙都子はどうするつもり? 沙都子(高校生夏服): せっかくですし、私はお受けすることにしますわ。あ、もちろん梨花が乗り気でないのでしたら、無理に付き合っていただく必要はありませんけど。 梨花(高校生): ……本気で言っているの、それ? 沙都子(高校生夏服): まさか。梨花は会長さん本人は苦手でも、会長さんから無茶な相談を受けること自体はそこまで嫌な顔をしておりませんもの。 沙都子(高校生夏服): 本当に嫌だったら、私に話を通すよりも早くあなたの判断でお断りになっているはずですし。……違いまして、梨花? 梨花(高校生): ……っ……。 実に忌々しい話だが、沙都子の言う通りだ。 梨花(高校生): あの人の依頼って、なんだか部活を思い出すのよね。 沙都子(高校生夏服): 雛見沢の? 確かに部活でやったゲームは、会長さんの無茶振りと似ていたかもしれませんわね。 沙都子(高校生夏服): だとしたら会長さんが私達への依頼は、正確には依頼ではなく……ゲーム、と捉えるべきではありませんの? 梨花(高校生): ……だとしたら、受けて立つしかないわね。 Part 03: 生徒会長: さて、いよいよ文化祭のメインイベント、アイドルコンサートの幕が上がるよ!心と身体の準備はどうかな? 沙都子(高校生アイドル): ……こうなったら是非もなし、来るなら来いって気分ですわ。 梨花(高校生アイドル): まぁ、やるしかないかと。 生徒会長: はははっ、そう言いながらも君たちすっごく似合ってるじゃないか。本当のアイドルみたいだよ。 生徒会長: あとで一緒に写真撮ってくれるかい?送りたい。 梨花(高校生アイドル): どこに送るつもりですか……? 沙都子(高校生アイドル): あんまりからかわないでくださいまし。お世辞を言われても場違い感がありすぎて、うぬぼれるどころか落ち込みかけていますのよ。 梨花(高校生アイドル): そうね。まさかここまでちゃんとしたステージを用意するなんて……。 生徒会長: ゲームだと言い出したのは君たちだろう?なら私も全力で対応しないと……ね、古手くん。 梨花(高校生アイドル): っ……なんで私に振るんですか、もう。 そう憎まれ口を返しながらも、つい安堵してしまったのが悔しくて私はぷい、と顔を背ける。 沙都子は衣装もよく似合ってるけど、自分は……衣装も含めて落ち着かない。 #p雛見沢#sひなみざわ#rのアイドルとは呼ばれたことはあっても、本物のアイドルまがいのことをやるなんて思っていなかった。 それでも、これが部活の一種だと思えば逃げる気にはとてもなれない。 生徒会長: さて……それじゃ、お披露目開始だ。2人とも、よろしく頼むよ! 沙都子(高校生アイドル): をーっほっほっほっ、了解ですわ!4年ぶりに復活した『ヒナ☆Mix』の歌声、全員にお届けしてみせましてよー! 梨花(高校生アイドル): ……うぅ、せめてユニット名だけでも別のものにしてもらいたかったのに……。 沙都子(高校生アイドル): 今さら是非もなしでしてよ!さぁ梨花、参りましょう! 梨花(高校生アイドル): わ、わかったわ……えぇい、ままよ! ステージに上がった途端、私たちを迎えたのは割れんばかりの拍手と轟くような歓声だった。 梨花(高校生アイドル): っ……こ、これは……?! 一瞬、信じられなかった……だって、ここはルチーアだ。 先生はもちろん、生徒たちも規律と協調を重んじて……こんな軽薄極まりないイベントは、絶対に嫌悪するか無視すると思っていたのだ。 なのに……この大観衆は、なに……?みんな、他の出し物に行くことなく私たちのステージに来てくれたというの……?! 梨花(高校生アイドル): ……っ……! いけない。気を緩めると、思わず泣いてしまいそうだ。 今はただ、来てくれた人たちのために私ができることを精一杯やってみせる……胸に秘めた思いは、それだけだ。 もちろん、ひとりだけだと厳しいだろう。だけど今の私には、すぐ隣に心強くて大好きなあの子がいてくれるのだから……! 沙都子(高校生アイドル): 皆さーん、来てくださってありがとうですわー! 梨花(高校生アイドル): 一生懸命歌うから……今日は楽しんでいってくださいねー! ……私たちの呼びかけに、観衆のみんなが笑顔で、大声で応えてくれる。 この嬉しさと、幸せをかみしめながら……私はマイクを取り、大きく息を吸い込んだ。 生徒会長: ……という感じのステージになると思うんだ。あ、衣装の試着お疲れ様。サイズはよさそうだね。 沙都子(高校生夏服): 会長さん、話の前後がつながっていませんわよ?あと、なんか光る棒って、なんのことですの? 生徒会長: おや、知らないかな?私も聞いた話だが、コンサート会場で販売されて大人気のケミカルライトと言う……。 梨花(高校生): とりあえず、ローアングルで設置予定のカメラは撤去してください。 生徒会長: だめかい? 迫力が出ると思うんだけど……わかった、善処しよう。 梨花(高校生): 善処じゃなくて、撤去です。撤去。 生徒会長: はいはーい。 沙都子(高校生夏服): にしても、いま会長さんが語られたライブの概要ですが……ずいぶんと壮大でしたわね。 生徒会長: そこまでの規模はやれないと疑っている?あるいは、さすがに今話した演出内容だと2人はついていけないかな? 梨花(高校生): まさか。ついていきますよ。 生徒会長: おや、即答だね。なにか心境の変化があったのかい? 梨花(高校生): 挑まれたゲームには、全力で挑む……その精神を思い出させてもらったので。 生徒会長: んっ、んー……?私はゲームを挑んだつもりはないんだが……まぁ、楽しんでくれるならいっか……ゆぷぃ。 沙都子(高校生夏服): あら、梨花ったらやる気十分ですわね。これは私も負けられませんわよ~! 梨花(高校生): 私たちの間に、勝ち負けはないでしょう?私たちはコンビ。対戦相手は、生徒会長なんだから。 生徒会長: そうだよ、私が対戦相手だ。最初から勝つ気のない戦いには勝てない……私にもステージにも、全力で挑むといいよ! 梨花(高校生): もちろん、そのつもりです。 梨花(高校生): その方が、きっと楽しい文化祭になりますから。