Part 01: 美雪(私服): ……んー、調べ物をしてたら結構な時間まで図書館にこもっちゃってたね。 美雪(私服): 今からだと、食材を買って家で料理してたら夕飯が遅くなっちゃうし……どこかで食べて帰る? 菜央(私服): どこかって言っても、#p興宮#sおきのみや#rだとエンジェルモートのほぼ一択じゃない。……また詩音さんの奢りに期待するつもり? 美雪(私服): 「また」ってなんだよ、失礼な。まるで私が無銭飲食の常習犯みたいな言われようじゃんか。 菜央(私服): やってることは、それに近いじゃない。1度や2度ならともかく、あんまり甘えすぎるとあたしたちの鼎の軽重を問われちゃうわよ。 美雪(私服): ……難しい言葉を知ってるね、菜央。「鼎」って小学校で習う漢字だったっけ? 美雪(私服): とはいえ、私が言いたいのは……そこでしゃがみ込んでる腹ぺこっ子が#p雛見沢#sひなみざわ#rに帰るまで持たないでしょ、ってことだよ。 一穂(私服): うぅ……お腹空いたぁ……。 菜央(私服): ……確かに、美雪の言う通りだわ。しょうがない、詩音さんには次のバイトでの前借りをさせてもらうってことで……うん? 富竹: うーん、どうしたんだろう……?あの人がいったい何を考えているのか、僕にはよくわからないよ……はぁ。 美雪(私服): あれ……?あそこのベンチにいるのって、富竹さんじゃない? 一穂(私服): うん。……でも、様子が変だね。なんだか肩を落として座り込んで、元気がない感じに見えるんだけど。 菜央(私服): 元気がないのはあんたも一緒でしょ、一穂。まぁ、プライベートな悩みなのかもしれないから見なかったことにしてあげましょう。 一穂(私服): えっ……?町で見かけておいて、挨拶もしないのはさすがに失礼なんじゃ……? 菜央(私服): 大人の男性って、ちょっと見栄っ張りなところがあったりするのよ。落ち込んでる時に話しかけられるのはきっと嫌なはずだし、ここは黙って立ち去っ――。 富竹: あっ……一穂ちゃん?それに美雪ちゃんと、菜央ちゃん。 富竹: いいところで会えたよ。よかったら、少し話を聞いてもらってもいいかな? 一穂(私服): え? えぇ、構いませんけど……。 美雪(私服): おーい菜央、大人の男性がなんだって?話しかけられるのをシャットアウトどころか、向こうから声をかけてきたんだけど。 菜央(私服): え……エスパーとかじゃないんだから、あたしの予測だってたまには外れるわよっ。 美雪(私服): おぅっ……逆ギレっ?まぁそれはさておいて、なんだかお悩みの様子に見受けられましたけど……どうかしたんですか? 富竹: あ、あははは……そこまで大したことじゃないんだけど、その……つまり……。 菜央(私服): 大丈夫ですよ、富竹さん。あたしはレナちゃんにさえ不利益がなければ、どんな秘密でも簡単に喋ったりしません。 美雪(私服): 逆にレナが絡んできたら、MAX級のバイアスをかけて村全体にでも広めちゃいそうだけどね……。 富竹: あぁ、レナちゃんとは全く関係のない話だから安心していいよ。……聞いてもらいたいのは、実は鷹野さんのことなんだ。 一穂(私服): えっと……鷹野さんがどうかしたんですか? 富竹: 実はこの前、市民プールへ泳ぎに行った時に鷹野さんがすごい水着を着てきてね。 富竹: 思わず僕は、流れ出そうになる鼻血を抑え……げふんげふん、彼女の美しさに目を奪われてカメラのシャッターを何度も切ってしまった。 美雪(私服): ……よかったですね、富竹さん。あなたが鷹野さんと恋人関係じゃなかったら、即通報が間違いなしの発言ですよ。 富竹: もちろん、現像したそれらは僕の珠玉のコレクションとして誰にも見せず、後生大事に保管するつもりだ。 富竹: そこに邪な思いは……ない!僕の心にあるのは美を求めた末で手に入れた、あくまでも至宝に対しての感動と#p快哉#sかいさい#rだけだ。 菜央(私服): 意訳すると確実にセクハラ発言なので、ノーコメントとさせてください。……それで? 富竹: だけど……ふと、気がついたんだ。鷹野さんはいつの間に、あれほど妖艶で可憐な水着を手に入れたのだろうか、と……。 美雪(私服): いや、水着くらいひとりで買いに行くでしょ?たとえば、んー……富竹さんを驚かせたいと思ってこっそり大都市の方へ買いに行った、とかね。 富竹: ……あぁ、確かに最初は僕もそう思ったよ。ただ、ここしばらくの間の彼女は仕事が忙しくてほとんど雛見沢の周辺から外に出ていないんだ。 富竹: そ、それに……僕は見てしまったんだ!彼女がこの夏の期間に予約したと思しき、日付の書かれたホテルの宿泊券をっ! 一穂(私服): え、えっと……それこそ富竹さんと一緒に行くつもりで用意した、サプライズとか……? 富竹: ……宿泊券は、一人分だけだった。僕のチケットはどこにも見当たらなかった……! 富竹: そこは海水浴場で有名な場所だから、言ってくれれば僕が手配したのに……っ! 美雪(私服): んー……つまり、ひとり旅?まぁ、それくらいは気分転換とかでよくあると思いますが……。 菜央(私服): そうよ。小学生じゃないんだから、常に富竹さんが一緒じゃないといけないって理由はどこにもないはずよ。 美雪(私服): おぅ、リアル小学生が言うと説得力あるねぇ……。 富竹: うぐっ……?ま、まぁ僕も結婚前で色々と変なことを考えすぎて、過干渉かなって思わなくもないんだけどね。 富竹: ただ、もしも鷹野さんがその……彼女に限って浮気はない、と思いたいけど……。 菜央(私服): 海水浴場でナンパでもされたらどうしよう……ってことかしら? 美雪(私服): んー、なるほど。つまり……やぁ、綺麗なお嬢さん。今日はおひとりですか? 一穂(私服): えっ? あの、えっと……。 美雪(私服): ふふっ、どうやら緊張しているようだ。どうです、あちらの海の家で食事でも。ついでに一杯おごりますよ。 一穂(私服): い……いっぱい食べてもいいのっ?じゃ、じゃあ少しだけ……。 菜央(私服): ……って美雪、その三文芝居はなに? 美雪(私服): いや、鷹野さんが海水浴場でナンパされるとしたらこんな感じかなー、ってシーンをやってみたんだよ。……似てた? 菜央(私服): 全然。ただブッコロがしたくなる衝動がわいてきただけだったわ。 菜央(私服): っていうか、一穂もなんで付き合うのよ?つけあがるだけなんだから、無視しなさい。 一穂(私服): あ、あははは……美雪ちゃんの顔が真剣だったから、つい。 一穂(私服): それに、たとえお芝居だとしてもお腹が空いてる時にご飯の話をされたら……。 菜央(私服): ……。今後、もしあたしたちが海水浴に行く機会があったとしたら、その時は一穂から目を離さないようにしないとね。 菜央(私服): 相手がどんなに胡散臭くても、ご飯で誘われただけですぐについていっちゃうかも……かも。 美雪(私服): んー、私も同感。それでなくても押しの強そうなチャラ男が言い寄ってきたら、断れずに流されそうだね。 一穂(私服): そ、そんなことは……ない、とは言い切れないです。……ごめんなさい。 美雪(私服): いや、謝ってくれなくてもいいんだけどさ。……って、話がそれちゃった。 美雪(私服): まぁ、そんな感じにナンパされても鷹野さんだったらうまく立ち回ると思うんだけどねー……うん? 富竹: …………。 美雪(私服): 富竹さん? おーい、聞こえてますかー? 富竹: あ、あんなふうに鷹野さんがナンパに……?いや、それは確かに彼女ほどの美貌の持ち主なら十分すぎるほどに考えられることだけど……! 富竹: かといって、その誘いを断るか受けるかは鷹野さんの自由意志を尊重すべきだし、僕に止め立てする権利も資格もない……! 富竹: しかし、それでいいのか……?鷹野さんの幸せこそが最優先事項だと思っていても、自分が不幸になることを僕は許容できるのか……?! 美雪(私服): ……なんか、ブツブツ呟き始めたよ。しかも目の焦点が合ってない、うつろな表情で。 菜央(私服): あんたが変なふうに話を持っていくからでしょ? 鷹野: ……いったいそこで、何を騒いでいるの? 一穂(私服): って、鷹野さん……? Part 02: 一穂(私服): 鷹野さん……どうしてここに? 鷹野: 買い物帰りにあなたたちの姿が見えたから、声をかけてみたの……って、ジロウさん? どうしたの? 富竹: ……鷹野さん。君を得た以上の幸せを、僕は求める資格があるんだろうか……? 鷹野: なっ……じ、ジロウさんっ?こ、子どもたちの面前でいきなり変なことを聞かないでよ……っ? 一穂(私服): あ、あははは……。 鷹野: はぁ……なるほど。別に話すまでもないと思っていたから、話さなかっただけなんだけど……。 鷹野: まさか、診療所の事務机に置いていた宿泊券をジロウさんに見られていたなんてね。おかげで勘違いをさせてしまったわ。 富竹: か、勘違い……?それはどういう意味かな、鷹野さん? 鷹野: 言葉の通りよ。私はあのホテルに行く予定を立てていたけど、それは海水浴が目的なんかじゃないわ。 富竹: えっ……そ、そうなのかい?でも、だったらどうしてあのホテルに……? 鷹野: ちょっと臨時で頼まれ事をされちゃって、前泊でそのホテルを利用することになったのよ。もちろん宿泊費は、先方持ちでね。 富竹: そ、そうなんだ……。なんだ、てっきり僕以外の誰かと旅行の予定を立てているのかと思ったよ。 鷹野: くすくす……そんなわけないでしょう?少なくとも私は、ジロウさんと掛け持ちで誰かと付き合えるほど器用な女じゃないわ。 富竹: あ、いや……別に僕は、一緒に行く人が男性だと疑ったりしたわけじゃ……! 美雪(私服): ……さっきの富竹さんの言い方だと結構疑ってたように感じたんだけど、一穂と菜央はどう思う? 一穂(私服): あ、あははは……。 菜央(私服): ……武士の情けよ、美雪。さっきのは聞かなかったことにしてあげなさい。 美雪(私服): 私、武士じゃないんだけど。……まぁ菜央の言う通り、あえて突っ込むのはさすがに野暮ってもんだね。 鷹野: そもそも、若い子ならともかく……こんな年増をナンパするような物好きなんているわけないでしょ? くすくす……。 富竹: そ……そんなことないよ!もし僕がナンパ師で君を砂浜で見つけたら、きっとこれまでのように一目惚れして……! 富竹: 君に対して、愛を訴えかけていたはずだ!それだけはここで、断言してもいいッ!! 鷹野: ……だからジロウさん、一穂ちゃんたちがいる前で熱くならないで。冗談が冗談に聞こえないわ。 富竹: 冗談なんかじゃない! 僕は本気だよ!! 美雪(私服): ……っていうか、富竹さんがナンパ師?絵面が全く想像できないんだけど。 菜央(私服): 数ある肩書きの中でも、あの人が最も縁遠いもののひとつでしょうね。 一穂(私服): う、うん……そうだね……。 富竹: それはそうと、鷹野さん。誰かから依頼があってそのホテルに泊まるって言っていたけど、どういった用件なんだい? 鷹野: …………。 富竹: 鷹野さん? 鷹野: それは内緒。悪いけど、教えてあげられないわ。くすくす……。 富竹: えっ……ど、どうして話してくれないのさ? 鷹野: ジロウさん。いくら恋人同士であったとしても、お互いの全てをさらけ出す必要はないと思うの。 鷹野: 今回は私を信じて、笑顔で送り出して頂戴。……それじゃ、また明日ね。 富竹: あっ……た、鷹野さんっ? 菜央(私服): ……行っちゃったわ。なんだったんでしょうね、いったい……? 一穂(私服): わ、私に聞かれても……。 美雪(私服): とりあえず……富竹さん?こんなところでずっと立ち話もなんですし、場所を移してご飯でも食べませんか? 富竹: あ、あぁ……そうだね。色々と面倒をかけてしまったようだし、お詫びに何かご馳走するよ。 美雪(私服): いえいえ。それじゃ、よろしくお願いしまーす♪ 菜央(私服): ここぞとばかりに、富竹さんに夕食をおごらせるなんて……美雪、あんたってそういう悪知恵にかけては天下一品ね。 Part 03: カメラマン: はい、それじゃ撮りますねー。そのポーズを固定したままで、こっちに目線をお願いしまーす。 鷹野(水着): えぇ。……こんな感じかしら? カメラマン: OK、いいですねー!連写で少しずつアングルを変えて撮るので、しばらくじっとしていてくださーい。 カメラマン: あっ、笑顔はキープして。……うん、いいですねー! 美雪(私服): ……んー、なるほど。鷹野さんに仕事を依頼した相手って、実は魅音だったんだね。 魅音(私服): いやー、水着姿で大人っぽさを表現っていったらやっぱり鷹野さんだなって思ってさ。 魅音(私服): ダメ元で相談を持ちかけたら、こっちのホテルでのエステ代だの、水着代だのと込みならいい、って言ってくれたんだよ。 一穂(私服): そ、そっか……だから鷹野さん、あんな色気たっぷりの水着をわざわざ大都市に買いに行かなくても手に入れられたんだね。 菜央(私服): でも……そういう内容のお仕事だったら、どうして富竹さんに頼まなかったの?あの人が撮影すればもっと融通が利いたでしょうに。 詩音(私服): 富竹のおじさまは確かにカメラマンですけど、グラビア撮影のプロじゃありませんからね。こういうのは、やはり慣れた人にってわけです。 一穂(私服): えっと……じゃあ、鷹野さんが富竹さんを一緒に連れていこうとしなかったのは……? 詩音(私服): これは私の想像ですが……この場に立ち会わせると、富竹のおじさまが嫉妬でもすると思ったんじゃないでしょうか。 詩音(私服): 他の男性、しかも同じカメラマンに撮られる様子は殿方の矜持に触れるのかもしれませんしね。 梨花(私服): みー、それに鷹野が以前に言っていたのです。「カメラ越しでも富竹にじっと見つめられると、なんとなく意識してしまう」と。 梨花(私服): 富竹本人には余裕っぽく振る舞っていますですが、実はわりと照れ屋さんだったりするのですよ。にぱー☆ レナ(私服): はぅ~っ、そんな鷹野さんもかぁいいよ~♪水着と一緒に、お持ち帰りぃ~☆ 一穂(私服): あ、あははは……。でも、富竹さんがあんなに綺麗な鷹野さんを間近で見られないのは、少しだけ残念だよね。 菜央(私服): そうね。まぁ、ポスターになって貼り出されたらたっぷり見ることができるんでしょうけど。 羽入(私服): ? あぅあぅ……あそこの木陰に、誰かが隠れているように見えるのですが……。 美雪(私服): 誰かって……おぅっ、あの服装と体格はひょっとしなくても……? 一穂(私服): や、やっぱり富竹さん……っ? 富竹: っ? や、やぁみんな。見つかってしまったね、ははっ……。 沙都子(私服): 見つかってしまった、ではありませんのよ。遠目で見てもバレバレじゃありませんの。 梨花(私服): みー。これが軍人さんだったら落第レベルの身の隠し方だったのですよ。 富竹: ぐはっ? き、厳しいね梨花ちゃん……。 美雪(私服): まぁまぁ、富竹さんは軍人じゃなくてカメラマンなんだから、別にいいじゃん。 美雪(私服): それより、どうしてここに?笑顔で送り出して、って鷹野さんが言ったのはここには来るなって意味だったと思うんですが。 富竹: いや、その……信頼して送り出すつもりでいたんだけど、やっぱり心配になってね。 富竹: こっそり様子を見守って、何も問題がないようだったら黙って帰ろうと思っていたんだよ。 菜央(私服): ……交際してる事実がなかったら、変質者として通報されてもおかしくないわね。 富竹: そ、そうだね……はは……。ところで鷹野さんは、今どこに? レナ(私服): あっちで撮影のお仕事です。魅ぃちゃんたちに頼まれて、広報用ポスターの水着モデルさんをやっているんですよ。 富竹: ……なんだ、そうだったんだ。だったら、ちゃんと言ってくれればよかったのに。 美雪(私服): んー……でも富竹さん、あんなふうに他のカメラマンに撮られてる鷹野さんの姿を、心穏やかに見てられますか? 富竹: …………。 富竹: さすがにちょっと……難しいかもね。撮影の様子が順調で、技術が見事であればあるほど自分の腕の拙さを思い知らされるようだからさ。 一穂(私服): 詩音さんが言ってました。だから鷹野さんは、富竹さんを同行させずにひとりで来たんじゃないか、って。 一穂(私服): 誤解したり、余計なことを考えたりして嫌な思いをさせたくない。幸せでいてほしい……きっと鷹野さんも、富竹さんと同じなんですよ。 富竹: っ……鷹野さん……。 富竹: ……はは、情けないね僕は。あれだけ愛を伝え続けていた相手のことを、ほんの少しでも疑ってしまうなんてさ。 菜央(私服): 違いますよ、富竹さん。想いが通じたからこそ……不安を感じてしまう。あたしもその気持ちは、よくわかります。 菜央(私服): だから富竹さん、頑張ってください。お互いを思いやるお二人が幸せになることを、あたしたちはみんな……心から願ってます。 富竹: ……。ありがとう、菜央ちゃん。君にそう言ってもらえて、救われた思いだよ。 富竹: 僕は……このまま、帰るとしよう。鷹野さんのこと、よろしくね。それじゃ。 菜央(私服): ……。あんな言い方で、よかったのかしら。 レナ(私服): うん、十分だと思うよ。だって富竹さん、すごくいい笑顔で帰っていったから……はぅ。 一穂(私服): ……そうだね。