Part 01: 番犬隊長: 『……り返す。鷹野三佐、武装解除し投降せよ』 番犬隊長: 『逃げ場はない。山狗はすでに全員投降した。君に味方はいないぞ』 ……頭上を時折通り抜けるヘリからの声が、冷たく無慈悲に投降を呼びかけている。 それが聞こえないふりをして、私は……朽ちた巨木の洞の中で膝を立てながら小さく身を縮めて隠れていた……。 鷹野(軍服帽子なし): ……っ……。 昔、裸足で逃げたこともあった。だが……それはもう、昔の話だ。 足はすっかり皮が破れて血塗れに腫れ上がり、もう歩くこともできなくなっている。 もはや……全てが決した。部下であった者たちは全て私のもとを去り、今さら抗えるような術は何もない。 ……右手には、弾が1発だけ込められた拳銃。これは戦って血路を開くためのものではなく、むしろ終わらせるために渡されたものだった。 鷹野(軍服帽子なし): っ……死ぬしか、ないっていうの……?私にはもう、他の道は残されていないの……?! 悔しくて悲しくて、……恐ろしくて。涙が目からとめどなくこぼれ落ちて……雨と混ざる。 鷹野(軍服帽子なし): 死にたくない……死にたくないよ、ううぅうぅ、……ひっく、……うぅうああぅ……。 わかっている……私には、罪がある。数多くの犠牲を積み重ね、血を流し……非道と外道に己が身をやつしてきた。 でも……それは必要だったのだ。自分はもちろんのこと、返しきれないほどの恩を受けたあの人の夢を叶え、実現するために……。 私は必死に、全てを捧げてきたのだ。這いつくばって泥水を啜り、血がにじむような努力を重ねて、重ねて、重ね続けて……ッ。 苦渋や屈辱なんて言葉が生やさしく思えるほどの仕打ちを受けたことなど、それこそ数え切れない。そのたびに腹が立って、悔しくて、情けなくて……。 だけど、私は……耐えた。そして信じた。必ずこの意志を貫き、虚構だの妄想だのと蔑まれた夢を現実にしてみせる、と。 そして、その結果……私は、今日に至った。あと少し……手を伸ばせば届くかもしれない目の前にまで、辿り着くことができたのだ。 なのに……それなのに……ッ! 散々苦労させて、期待させた上で……全てを無に帰す結末を迎えさせるとは、運命とはなんて無情なのだろう……! 鷹野(軍服帽子なし): ぃやだ……、……死にたくなぃ……! ……私は、泣いた。そして訴えた。この状況が、夢であってほしい……あるいは今を変える手段を与えてほしい、と。 もはや、神になど期待しない。ならば悪魔でも、どんな存在であってもいい。 惨めでもいい。見苦しいと言われようと知ったことか。 もはや閉ざされてしまった運命を変えるためだったら、この命だって差し出してもいい……! 鷹野(軍服帽子なし): ……ぅう、……っ……?! ……そんな切なる思いが、通じたのか。いや、むしろ嘲笑いに来たのか。 羽入(巫女): ――――。 気配に気づいて顔を上げた私の視線の先には、……あの少女がいた。 かつて、#p雛見沢#sひなみざわ#rへとやってきて……訪れた神社で対峙し、宣戦を布告した相手。 この地を預かる神が……私の前に再び、その姿を見せていた――。 Part 02: 始まりは、とても順調……何の文句のつけようがないほど、極めて順調だった。 環境は整った。必要な資金も、人材も。強固なバックアップのもと、苦労と努力に見合う結果が私のもとへあふれんばかりに集まってきていた。 鷹野: ようやく……やっと、ここまで来たよ。一二三おじいちゃん……。 万感の思いで眼下に広がる#p雛見沢#sひなみざわ#rを見下ろし……私はそっと、大好きなあの人の名前を呟く。 この空の向こうで、彼は喜んでくれているだろうか。あの優しく穏やかな笑顔が脳裏に浮かんでくるようで、胸の内があたたかく幸せな思いが満ちてきた……。 その後私は、高台から神社へと戻ってきた。 古手神社。この地を治める神が祀られているという、由緒正しき場所とのことだが……。 半ば、宣戦布告にも似た気分で私は財布にちょうど余っていた十円玉を取り出す。 あの電話ボックスで拾った十円玉が、私の人生の転機だった……それは、確かなことだ。 もし、あそこに十円玉が落ちていなかったら……私の生涯はあそこで閉じていただろう。 鷹野: ……あの1枚の十円玉に関してだけは、あなたに感謝するわ。 あなた、とは言っても、それはこの神社が祀る神に言ったわけではない。あくまで代替としての対象だ。 ただ、私にとって神というものはその程度の概念でしかない。特定する必要もなく、そんな気も起きなかった。 鷹野: でもね。……あの程度で、私はあなたを許したつもりなんてない。 鷹野: そして私は、あなたのご利益なんか期待せず、自分の努力だけでここまでやって来た。 鷹野: 今後あなたがどんな理不尽な運命を与えようとも、サイコロの1を出し続けようとも。 鷹野: そんなものにはびくともしない、絶対的に強固な意志の力で。……私は私の理想を勝ち取ってみせる。 そしてこの地での研究で……祖父の偉業は讃えられ、神となる。私はこの地に崇められる神を蹴落とし、神を超えた存在となる。 鷹野: いつから私は、神という言葉に拘るようになったのかしらね。祖父がいつも神さまを引用した話ばかりするからかしら?……くすくすくすくす。 さぁ、あの時にあなたに借りた十円玉を私は返す。……これで貸し借りは一切なしだ。 あなたは人を意地悪に試し続ける座に執着しなさい。私はそんなあなたを蹴落とすために、これから戦いを挑む。 私は、あの日、神に借りた十円玉を賽銭箱に放って返した……。 鷹野: ……ぇ……。 ……一瞬、何が起こったか理解できなかった。 私が賽銭箱に向けて放った十円玉は、放物線を描いて賽銭箱の中に放り込まれる……はずだったのだ。 なのに、……そうならなかったなんて、どう説明すればいい…? 賽銭箱から外したわけじゃない。小銭を放るのに、それを外す人なんているもんか。 そうじゃないそうじゃない…。 だって、十円玉は、まるで枯葉が朽ちた蜘蛛の巣にでも引っ掛かったように、……宙にはりつき留まっていたのだから。 そして、それは逆に私側に放られるように弾かれ、……私の足元に転がった。 まるでそれは、……賽銭箱が私の施しを拒んで弾き返したかのような錯覚。 ……当然だ。賽銭箱は神を敬う気持ちを入れるもの。 だが、私の放ったのは敬いじゃない。むしろ挑戦なのだから。 ということはつまり、……これは、 鷹野: ――――。 私はびくっとする。なぜなら、この場にいるのは私だけだと思ったからだ。 なのに、何の気配も感じさせずに、実はもうひとりが身近にいたことを知ったなら、きっと誰だって驚く。 羽入(巫女): ――――。 ……その少女はいつからそこにいたのだろう。 まるで社の中から出てきたかのように。……いつの間にか、その不思議な雰囲気の少女は、賽銭箱を挟んで私と対峙していた。 巫女装束を見れば、この神社に関わる者に違いないと思う。 もちろん、私もそうだと思った。……でも、心のどこかでさらに思った。 関わる者ではなく、そのものではないか、と。 なぜなら、……その少女の瞳は私をじっと見つめて、……いや、睨んでいたから。 私は思わず不敵な笑いを返してしまう。 ……私が心の中で言っていた、神への挑戦の言葉。それが聞こえていて浮かべている表情に思えたからだ。 だから、……その言葉は私の口から自然と出た。 鷹野: あなたが、……ここの神さまね。 少女は頷かない。でも、私はその無言を肯定だと受け取った。 羽入(巫女): ……強い意志は、運命を強固にします。 鷹野: ……。そうよ。 それは、私が心の中でよく呟く言葉だった。この言葉を人に聞かせたことはないし、何かから引用したつもりもない。 ……だから、普通に考えたら、この少女がその言葉を口にするのに驚きを隠せないはずだった。 でも、……この少女は、人間の少女ではないのだから、それをおかしいとは思わない。 今度は私から言ってやる。 鷹野: 神は運命のサイコロを振り、その出目で人間を弄ぶ。でも、人間には意思の力があるわ。 鷹野: その力が強ければ強いほど、サイコロの目などに人は縛られないの。……わかる? 鷹野: 人は極限まで努力を積み重ねることで、誰にも挫かれることのないくらいに強固な意志を持つことで、サイコロの目に左右されない力を得るのよ。 羽入(巫女): ……はい。よくわかりますのです。揺るがない信じる力は、どんな運命もサイコロの目も打ち破りますのです。 鷹野: そうよ。それはつまり、サイコロにて弄ぶ神々への人間の復讐。……神々の干渉を排して自ら運命を切り開く人間の讃歌。 鷹野: どんな不運にも耐えて、今日を努力で獲得した私の神々しさを知りなさい。 くすくすくすくす…!自然と私の口から悪意ある笑いが溢れ出る。 だが、少女の強い意志を感じさせる表情はわずかにも歪みはしなかった。 羽入(巫女): ……僕はようやくわかりましたのです。何度繰り返しても、決して覆せぬこの運命は……あなたの強固な意思の力ゆえ。 鷹野: そうよ。“強い意志は、運命を強固にする”。 鷹野: 鋼のように鍛えられた運命は、如何なるサイコロの目にも動じない。それは即ち絶対の未来。 羽入(巫女): それを、幾百年を生きる僕たちでなく人の身であるあなたが知るとは……。 羽入(巫女): 認めますです。……あなたは限りなく、“神に近い場所”に居る。 鷹野: それは光栄ね。くすくす……。 そして、少女は目を細めるようにして私を睨みながら……いや、自らの意思の強さを示しながら、私に「布告」した。 羽入(巫女): ……。僕は、…あなたに負けない。 羽入(巫女): かつて僕たちは、どう戦ってもあなたに勝てないと思った。 羽入(巫女): ……だから僕は、あなたに屈した。地に堕ち、輪廻の中を這いずりながらみすぼらしく生きた。 羽入(巫女): ……でもあの子は、気づきましたのです。…信じる力が運命を切り開く奇跡を起こすと。 鷹野: 私の強い意志が作り出す運命に、あなたの強い意思がそれを打ち破る奇跡を起こすというわけ……? くすくす、道理ね。 だって、それが人の世の法則なのだもの。思いの強さが願う未来を実現する…! 羽入(巫女): 僕たちは、……あなたの意思の強さに負けないのです。 鷹野: 古き神の座に執着するのも大いに結構。あなたの意思が私の意思に勝てるか、試してみなさいな? 鷹野: 神は人を試すが、人が神を試してはならない不条理。……だから敢えてあなたを試してあげるわ? 鷹野: お前の意思の強さが、私の意思の強さに勝てるかどうかを、試して御覧なさい……!! それは、はっきりとした私から神への宣戦布告。私を数々の不幸で弄んだ神々への復讐の始まり。 そして、神である少女も私の挑戦を正面からしっかりと受け止めてくれる。 羽入(巫女): ……僕はあなたに比べてあまりに非力だけれども。あなたに比べてあまりにできることが少ないけれど。 羽入(巫女): たとえ、僕の意思の強さがあなたに及んだとしても、それくらいでは覆せないくらいに圧倒的な力の差ではあるけれども。 鷹野: そうね。私は圧倒的な力を得たわ。その力を得るために、今日までどれほどの強い意志を持ち初心を貫徹してきたか。 鷹野: 貴様如き小娘では私に指一本触れることも叶わないでしょうね。くすくす……! 羽入(巫女): ……わかってる。あなたの強大さはわかってる。 羽入(巫女): それに比べて私や私の仲間たちの力はあまりにか細いかもしれない。でも、私は諦めないことを選ぶことができる。 羽入(巫女): ……三途の川原で永遠に石を積み続けるように、あなたのサイコロに1が並び、私のサイコロに6が並ぶその日まで決して負けを認めず諦めない。 羽入(巫女): 気が遠くなるほどの長い時間、あなたに屈しないことで意思の強さを示して見せよう……! 羽入(巫女): そして、川原に石が積みあがった時……私たちはその川を越えることができ、あなたの前に対等な存在として現れるでしょうッ……! 羽入(巫女): その時こそ、この永きにわたる運命の戦いに決着がつく! 鷹野: くすくすくすあはははははは!ならば結構、かかっておいでなさい!! 鷹野: どちらの想いが強いか!強かった方が未来を作る。強かった方の望んだ未来が訪れる。 鷹野: 私は私の未来を一歩も譲らない! 鷹野: その未来では祖父の偉業は讃えられ神となり、かつて私を不幸にて試すような真似をした神に対して復讐をする。 くすくすくす、あっはははははははっはっはっは!!間抜けなくそ神め! 身の程を思い知らせてやる! 鷹野: 貴様を神の座から引き摺り下ろしてやる!!そして私は、その時こそ――!! Part 03: 鷹野(軍服帽子なし): ……懐かしいわね。そんなやり取りをして粋がってみせたのは、もう何年前のことだったかしら……。 羽入(巫女): ――――。 自虐的に笑いながらそう語りかけても、少女は答えない。……答える必要を認めない、とでも言いたいのだろうか。 いや……もはやどんな返答があったところで、私が満たされることは決して無い。だから無言は、せめてもの慈悲かもしれなかった。 鷹野(軍服帽子なし): えぇ、負けよ……。……このゲームは、……私の負けよ……。 鷹野(軍服帽子なし): 人の身の分際で、……神に挑戦した、……哀れな女の末路が、……これよ……。 羽入(巫女): ……人の子よ。神の座を追い求めるのか。 羽入(巫女): 数々の試練をまだ潜り、それでもなお……神の座を求めるのか。 鷹野(軍服帽子なし): 冗談じゃないわ……。神の座なんて、……もう……無理じゃない……。 私は敗れ……そして、全てを失った。今さら神の座に興味も無いし、意味も感じない。 すると、そんな私に対して少女は……冷たく厳かな響きを含ませながら、告げていった。 羽入(巫女): 人の子よ、聞け。……今こそ、神になる道を、示そう。 鷹野(軍服帽子なし): ……え……。 羽入(巫女): そなたの右手に持つ鉄の火で。己が生に別れを告げるがいい。 羽入(巫女): 神の座に肉の器は不要。人にその姿を認められようなどと思ってはならぬ。……神とは孤独な存在。 羽入(巫女): それに好んでなりたがる愚かな人の子よ。……それでもなお、神の座を目指すというのか。 鷹野(軍服帽子なし): ……これで、……私の頭を撃ち抜けって言うの……。 鷹野(軍服帽子なし): くくく、はははははは……。そんな、……そんな簡単なことで……私は神になれるの……?そんなにも簡単なことだったの……? 鷹野(軍服帽子なし): なら私は何?今まで何を積み上げて来たの? 羽入(巫女): 大勢の人間の罪を、背負った。その大勢の罪を、今こそ己を生贄に捧げることで禊ぐのだ。 羽入(巫女): ……その勇気は讃えられ、神の座の末席を許すであろう。 鷹野(軍服帽子なし): 何よそれ……。私に、トカゲの尻尾を引き受けて、……全員の責任を押し付けられて死ねと、そういうの?! 鷹野(軍服帽子なし): ふ、……ふざけないで!!そんなの嫌よ!! 絶対に嫌ッ!! 羽入(巫女): 何故に嫌か。人の世に和を求めるためには、常に1つのケガレに1つの生贄がいる。 羽入(巫女): ……それが人の世の理、罪の禊の方法ではなかったのか。 羽入(巫女): ……そなたの望む未来に1人の少女を生贄に求めたのはそれを理解していたからではなかったのか。 鷹野(軍服帽子なし): わ、……わかんない話はやめて……。私には、……何のことかさっぱりわからないわ……! 羽入(巫女): ……それがわからぬなら所詮は人の身。神の座を求めた身の程知らずを悔いよ。 鷹野(軍服帽子なし): 悔いるわ。……他の人の責任を被って死ぬのが神になる道なんて絶対嫌……、そんな神さまなりたくない……。 鷹野(軍服帽子なし): 私は、……人間でよかった……。ただただ、人間として生きていいよって、誰かに許してもらいたかった……! 鷹野(軍服帽子なし): 生きてもいいよって許してもらいたかっただけなのッ!!それなのに、……それなのに、……何でッ、……こんなことにッ!! 羽入(巫女): なれば、この度の人の世のケガレを如何にして祓うのか。……如何にして代価を払うのか。 鷹野(軍服帽子なし): ……何でよ……、何で誰かが責任を取らされなくちゃならないのよ……!! 鷹野(軍服帽子なし): 誰もが相手を利用してジョーカーを押し付けあって!!自分の手を汚さずに済むように立ち回り、立ち回り……。 鷹野(軍服帽子なし): それが人の世なの……?……違うわ、……そんなの人の世じゃないよ……。 鷹野(軍服帽子なし): だって、……お父さんやお母さんや、……おじいちゃんと生きてきた日々には、……そんなのなかったもん……! 鷹野(軍服帽子なし): みんながみんな幸せだった……。誰にもジョーカーなんか押し付けなかった……! 鷹野(軍服帽子なし): どうして、その世界から私は零れてしまったの?どうして私は……こんな雨の山中を、泥まみれになりながらひとりで彷徨っているの……? 鷹野(軍服帽子なし): 私は、……どうして、……ううううぅううっぅ!!! 怒りなのか後悔なのか、それとも……自分でもよくわからない感情を吐き出して、私はそれを少女にぶつける。 ただ……それは、胸の内にあった澱だったのか。言葉にしてみたことで少しずつ……私の中で、混迷した思考と感情が整理されていくのを感じていた。 鷹野(軍服帽子なし): これが、……私の罪に対する、……報いなのね……。わかってた、……うっすらと気付いてた……。 鷹野(軍服帽子なし): 何か大切なものを間違えて、……でもそれを認めたくなくて、 鷹野(軍服帽子なし): 取り返しがつかないところにまできて初めて後悔した、……自分の罪に対する、……これが! 鷹野(軍服帽子なし): 報いなのね……。……ううぅううぅう……あううぅうぅ……。 羽入(巫女): ……人の世はそなたに罪の禊を求めるだろう。この度のケガレはそなたを生贄に捧げることで祓われよう。 羽入(巫女): ……それが人の世の、#p祓#sはら#rい方。……なれど、我は人にあらず。人を超える存在にして、……欠けたる和を埋める存在。 羽入(巫女): 人の罪を、許す存在。人の罪を人には許せぬ。我こそが、人の子の罪を許そう。 鷹野(軍服帽子なし): えっ……? 羽入(巫女): そなたを、許そう。 羽入(巫女): 生贄を求めてケガレを祓うは人の世の理にあらず、鬼の理と知れ。 羽入(巫女): この世は人の世にあらず。人と人に巣食いし鬼の織り成す、鬼の世なり。 羽入(巫女): その理を断ち切るのは人の身ではかなわぬ。それをかなえるために、……我は神の座に座ったのだから。 鷹野(軍服帽子なし): …………。 羽入(巫女): それは千年を超える苦痛。……私はこの座を、降りたかった。 羽入(巫女): 神が和を取り持たなくても、……みんなで仲良くやっていける世界を見たかった。 羽入(巫女): そして、……千年の時の中で、私はようやくそのカケラを見た。 羽入(巫女): さぁ、……人の子よ。……そなたの罪を、我が名の下に許そう。跪いて悔いるがいい。 羽入(巫女): そして許しを求めるがいい。さすれば与えよう。神が、人を許そう。人の罪を、許そう……。 少女の姿を借りた神が私に歩み寄り、そして、手を伸ばす。 ……膝を抱いて俯く私の頭に、……触れる……。 鷹野(軍服帽子なし): ……っ……!! だけど、私は。……差し伸べられた慈悲の手を払いのける。 そして、残された力を振り絞って立ち上がると、「神」なる存在に相対していった。 鷹野(軍服帽子なし): あなたはそうやって……超常の立場から人間を見下し、恵みを与えることで誇りと満足を増上慢に満たそうというのね……? 鷹野(軍服帽子なし): そして結局、あなたは何も悔いない。学ばない。ただ力を誇示して、自らに過ちがあったとしても目を背けて知らないふりをし続ける……! 鷹野(軍服帽子なし): 許す? 与える? 罪を肩代わりする……?何を言うのよ。あなたたちこそ人間に罪を押しつけ、ケガレなき存在であろうとする卑怯者じゃないの!! 羽入(巫女): っ……鷹野、三四……? 鷹野(軍服帽子なし): 認めないわ! 私はこんなの……絶対に認めない! 鷹野(軍服帽子なし): あなたたち超常の存在が、自らの愚かさと至らなさを認め、それに巻き込んだ人たちに対する罪を悔いて心から謝ろうとしない限り……! 鷹野(軍服帽子なし): 私は何度でも、神に逆らい続けてやる!!たとえ蟷螂の斧でも、徒手空拳だとしても!神になれなかったとしてもだッ!! そう叫んで私は、持っていた銃を逆手に構え……銃口を顎の下に押し当てる。 ……怖さは、もうない。迷いも、絶望も。 あるのはただ、こんなくそったれな運命を偉そうに押しつけてきた「神」に対しての憎しみと、そして……ッ! 鷹野(軍服帽子なし): 私はあなたたちを、絶対に許さない!!覚えているがいい、クソ神がぁぁぁああぁっっ!!