Part 01: 菜央(私服): はぁ……。 レナ(私服): ? どうしたの、菜央ちゃん。夕飯の食材、ちょっと買い過ぎちゃったかな……かな? 菜央(私服): ううん、そんなことないわ。一穂と美雪って結構食べるから、これくらいの量は必要だもの。 菜央(私服): ため息をついたのは、週末の訓練のことを考えてたからなのよ。よりによって、レナちゃんと敵同士になっちゃうなんて……。 レナ(私服): あははは。こればかりはくじ引きの結果だから、仕方がないよね。 菜央(私服): それはそうなんだけど……レナちゃんに向けて銃を撃つなんて、たとえ遊びでもやりたくないわ。 レナ(私服): 大丈夫だよ。菜央ちゃんの銃撃は、ちゃんと全部かわしてみせるから……ね? 菜央(私服): うーん……全部よけられるのも、それはそれでちょっと悔しいっていうか……。 菜央(私服): せめて善戦、ただし痛いのは嫌だからそこそこ回避しつつダメージは少なめに……。 レナ(私服): あ、あははは……。(レナはどうしたらいいのかな……かな?) 菜央(私服): はぁ……もう誰か、あたしと替わってくれないかしら。そうすればレナちゃんと一緒に戦うことができるのに。 菜央(私服): あっ……そうだ!いっそあたしは相手のスパイか何かってことにして、レナちゃんの合図で裏切るってのはどうかしら? レナ(私服): はぅ……それだと、一穂ちゃんたちがかわいそうだよ。せっかく全員で力を合わせて、攻撃側の作戦を立てているんだからね。 菜央(私服): うぅ……わかったわ。そういえば防衛側は、レナちゃんと魅音さんだって言ってたけど……2人だけで大丈夫なの? レナ(私服): 2人じゃなくて、現状で確定しているのは3人だよ。レナと魅ぃちゃんの他に、もう1人参加する予定になっているからね。 菜央(私服): もう1人って……前原さん? それとも悟史さん? レナ(私服): その2人は、魅ぃちゃんが交渉中だよ。だからうまくいけば、菜央ちゃんたち攻撃側と同じ5人が守備に回る予定だね。 菜央(私服): そうなんだ。……ちなみに、確定してる1人って誰のことなの? レナ(私服): それは秘密。サプライズゲストで当日になればわかるから、他の誰にも言わないでおいてね。 レナ(私服): はぅ……しまった……!菜央ちゃんにも絶対教えないように、って魅ぃちゃんに言われていたのに、つい……。 菜央(私服): あ……安心して、レナちゃん。あたしって物覚えがすごく悪いから、帰るまでに忘れちゃうと思うわ。 菜央(私服): あー、あたしは何も聞いていませーん。全部忘れましたー……なんてね。 レナ(私服): くすっ……あははは。菜央ちゃんが忘れっぽいはずがないけど、そう言ってくれるのは嬉しいかな、かな。 菜央(私服): ふふっ……あら?あそこにいるのは……魅音さん……? レナ(私服): はぅ、なんだか元気がないように見えるけど……どうしたのかな、かな? 菜央(私服): ちょっと声をかけてみましょう。こんにちは、魅音さーん。 魅音(私服): あっ……菜央ちゃん。それに、一緒にレナまで……買い物の帰り? レナ(私服): うんっ、今から帰るところだよ。魅ぃちゃんもよかったら一緒にどう? 魅音(私服): ……うん。ひとりで帰るよりは、気が紛れていいかもしれないね。 レナ(私服): …………? やっぱり、ちょっと変だ。菜央ちゃんが一緒だったので若干躊躇したけど、私は思い切って疑問をぶつけてみることにした。 レナ(私服): どうしたの、魅ぃちゃん。なんだか元気がないみたいだけど、何かあったのかな……かな? 魅音(私服): あー、いやその……あったと言えば、その通りなんだけど……えっと。 ちらっ、と一瞬だけ視線を私の隣に送ってから、魅ぃちゃんは歯切れが悪そうに口ごもる。 と、その様子から何かを察したのか……菜央ちゃんは私の袖を引いていった。 菜央(私服): ……あたし、先に帰ってるわ。荷物もそれほど多くないし、まだ明るいからひとりでも平気よ。 レナ(私服): はぅ、でも……。 本来はこの後、2人で料理をする予定だったのだ。それを断るというのは楽しみにしていた彼女に申し訳なくて、後ろめたさを覚える。 すると、そんなやりとりを見た魅ぃちゃんは苦笑してから軽くため息をついていった。 魅音(私服): あー……気を遣わせてごめんね。……まぁ、菜央ちゃんは口も固いから言っても別に構わないかな。 魅音(私服): 実は……さっき圭ちゃんと図書館で会って、今度やるサバゲーについて話をしたんだけど……やっぱり参加しない、って断られちゃってさ。 レナ(私服): そうなの?何か用事とかでもあったのかな、かな……? 魅音(私服): いや、少し前に話した時は結構乗り気でね。予定もないから大丈夫、って言っていたんだよ。 魅音(私服): なのに、話している最中になんだか機嫌が悪くなったみたいになって……。 魅音(私服): 「その日に家の用事があるのを忘れていた。……すまねぇ」って言い出してさ。 魅音(私服): 実際そうだったのかもしれないけど、とってつけたような理由にも聞こえたからその……気になって……。 菜央(私服): じゃあ……その時にうっかり、前原さんが怒るようなことを言っちゃった……とか? 魅音(私服): いや……全く心当たりがないんだけど、その可能性もあるかなって……。 魅音(私服): 私ってほら、調子に乗りすぎるとたまに空気が読めないことを言ったりするクセがあるしね。 レナ(私服): あははは。魅ぃちゃんは圭一くんに、そんな酷いことを言ったりしないよ。 菜央(私服): あたしもそう思うわ。前原さんだって、冗談と悪口の区別がつかないほど浅い関係でもないんだしね。 魅音(私服): うん……だといいんだけど……。 レナ(私服): …………。 Part 02: ……夜。寝つけなかった私はふと天井を見上げながら、物思いにふけっていた。 考えていたのは、夕方の魅ぃちゃんとのやりとり。……そこでの話題に上がった、圭一くんのことだ。 レナ(私服): ……それで、魅ぃちゃん。圭一くんの機嫌が悪くなった時の前後で、何か気づいたことはないかな、かな……? 魅音(私服): 気づいたこと?うーん、何かあったかなぁ……。 魅音(私服): 圭ちゃんにサバゲーの話をした時は、わりと乗り気だったと思うんだよ。「面白そうだ」とも言ってくれたしね。 魅音(私服): ただ……そういえば、たまたま持っていたモデルガンのサンプルを見せた時、予想以上にびっくりしていたんだ。 魅音(私服): で、その反応がおかしかったから「どうしたの圭ちゃん、本物かと思ってビビっちゃった?」って笑ったら……。 魅音(私服): ……うん、そうだ。今になって思えば、圭ちゃんは言い返したりもしてこなかった。 魅音(私服): だから圭ちゃん、からかわれたと思って怒っちゃったのかなぁ……はぁ……。 レナ(私服): 魅ぃちゃんは、帰ってからすぐ圭一くんに電話で謝るって言っていたけど……。 私の勝手な憶測だが、彼はそんなことで怒ったりはしないと思う。むしろ流れに乗って、冗談っぽくつき合ってくれるタイプだ。 だから、彼は怒ったというよりも別の理由でショックを受けたのか、余裕を失うほどに困惑してしまったのだろう。 とはいえ、それがいったい何なのかは私にもわからない。そして圭一くん本人に聞いても、きっと教えてはくれない。 それでも、そんな彼の痛みや苦しみを癒やしてあげたいと、心の底から思う。だから、私は……っ……。 レナ(私服): ……。そういえば……。 思い出す。初めて会った時から私は、圭一くんに不思議なものを感じていた。 それは、男の子に対する恋愛感情……とは微妙に似て非なるもののような気がする。 なぜなら私は、過去の「事件」のせいもあり……そういう話題に対して及び腰になっていたからだ。 ……#p雛見沢#sひなみざわ#rに戻ってくる、ほんの1年ほど前。私は通っていた学校で……ある「問題」を起こした。 「事件」にまで発展しなかったのは、学校側が大事になることを恐れて隠匿したためだ。実際には怪我人も出て……大変な事態になった。 今でも、時々夢に見て……うなされた末に、飛び起きることがあった。 粉々に砕かれた、窓ガラスの破片。それらが散らばる床を歩きながら、手や足を傷だらけにして……。 全身から漂ってくる、血の臭い。それは自分のものなのか、あるいは傷つけたクラスメイトのものなのかは……わからない。 右手には傷だらけ、血まみれになった金属バット。それを床に引きずると、からから、からから……と振動が腕を通じて伝わってくる。 周囲から感じるのは、遠巻きに自分を見つめるかつてのクラスメイトたちの怯えた視線……。 教師でさえ、どう対処したらいいのかわからない様子で自分を止めることもなく……他の生徒を守るだけで、精一杯の様子だ。 ……実に哀れで情けなく、愚かしい生き物ども。それが可笑しくて馬鹿らしくて……私は、嗤った。 レナ(私服): あっはははははは……!あーっははははははははっ!!! ぞっとした震えと、怖気が全身を駆け抜けて魂が鷲掴みされるような感覚……。 しかも、それを生み出しているのは怪物ではない。……間違いなく、かつての私自身だ。 そう……あの時私は、怪物になっていた。誰もが恐れ、嫌悪する……理解不明の、「バケモノ」というものに……! レナ(私服): ……。もしかしたら、私は……。 圭一くんに似たものを感じるのかもしれない。だからある種の「共感」を抱いてしまうのだろう。 だとしたら、彼もまた……人には言えない過去を抱えて、苛まれてずっと苦しみ続けている……? レナ(私服): 圭一くん……。 天井に向けてそっと、彼の名を呟く。 もし、私と同じように苦しんでいるのなら……罪滅ぼしどころか、自己満足かもしれないけど少しでも力になってあげたい。 もう謝っても、許されない……いや許される機会を永遠に失ってしまった相手にできなかったことを、目の前にいる彼にしてあげることができれば……。 たとえ救われなくとも、自分自身のことをこれ以上嫌いにならずにいられるような……そんな気がしていた。 Part 03: 魅音(サバゲー): いやー、圭ちゃんがやっぱり参加してもいい、って言ってくれて助かったよ。防衛ラインのキープには、最低でも2人は必要だと思っていたからさ。 魅音(サバゲー): 悟史の力量を疑うわけじゃないけど、複数で拠点を攻められた時に1人で食い止めるのはさすがにちょっち厳しいだろうしね。 悟史: え、えっと……どうして僕ひとりだけが相手チームと戦うことになっているの?魅音もレナも、作戦に参加するんだよね? 魅音(サバゲー): 私とレナは、まず敵の先行組を叩くために拠点から少し離れたところで待ち構えるのさ。 魅音(サバゲー): 5人全員で一気に押し寄せられると少々厄介だからね。何人か数を減らしてから、残りを拠点の手前で挟み撃ちにするってわけ。 悟史: ……むぅ、そのあたりの作戦内容についてはまだ説明をしてもらっていなかったんだけど。 魅音(サバゲー): あっはっはっはっ、ごめんごめん!この作戦の肝は、拠点に残る味方がどれだけ時間を稼いでくれるかにかかっているからね。 魅音(サバゲー): よって、助っ人の「あの子」と圭ちゃんが参加してくれるかが確定しないと……採用するかどうかの判断が下せなかったんだよ。 悟史: なるほどね。……それじゃ、圭一がここにいるってことはもう1人の「あの子」も参加してくれるんだね。 圭一(私服): おぅっ! 一度は断っちまって悪かったな、魅音。先方の急用で出かける予定もなくなったことだし、改めて参加させてもらうぜ! 圭一(私服): レナも、頼んだぜ!拠点は俺と悟史……それと「あの子」の3人で、しっかりと守ってやるからよ! レナ(サバゲー): あははは、もちろんっ。レナたちが戻って相手チームの背後に回るまでよろしくね、圭一くんっ♪ ……若干の困惑を胸の内に隠しながら、私はそう言って笑顔で圭一くんに応える。 昨日の魅ぃちゃんの話から考えても、圭一くんは参加しないだろう……と半ば諦めていた。 にもかかわらずこの、一晩明けての急変ぶりだ。……何があったのかと怪訝な思いさえ抱いてしまう。 ふと、脳内で再生されたのは『圭ちゃん、やっぱり参加してくれるって!』と今朝にあった魅ぃちゃんの弾んだ電話口の声だ。 とりあえず、あれだけ落ち込んでいた彼女が元気になってくれたのだから、結果オーライだろう。……私はそう、納得をつけることにした。 レナ(サバゲー): あの……圭一くん。もしよかったら、開始の時間まで少しあるみたいだから……レナと手合わせをしてくれないかな、かな? 圭一(私服): えっ、俺と勝負……?いったい、何をするってんだ? レナ(サバゲー): 初めて使う武器の、感触を掴んでおきたくてね。今回レナが使うのは……「これ」だよ。 圭一(私服): って、サバイバルナイフか……?そりゃまた、銃とは違った意味でおっかないものを持ち出してきたもんだな。 魅音(サバゲー): へー、面白そうじゃん!まだ「あの子」も来ていないことだし、軽くタイマン勝負といってみたら? 魅音(サバゲー): ルールはシンプルに、1発当たったらそこで勝負ありってことで……どう? 圭一(私服): あぁ、別に構わねぇぜ。ちなみに、俺の得物は銃のままでもいいのか? レナ(サバゲー): うん、いいよ。背中合わせに離れながら歩いていって、10歩目のところで振り返って開始ね。 圭一(私服): 西部劇の決闘スタイルだな。それじゃ早速、恨みっこなしでいくぜ。1、2、3、4……。 レナ(サバゲー): 5、6、7,8……。 圭一(私服): ……9、10っ!行くぜレナっ……なっ?! レナ(サバゲー): ――っ……!! 圭一(私服): はっ……速ぇ!一気に間合いを詰められて――! レナ(サバゲー): もらったよ……圭一くんッッ!! 圭一(私服): ぐっ……ぐぉぉおおっっ?! 魅音(サバゲー): はい、それまでー。いやー……瞬殺だったね、圭ちゃん。くっくっくっ……! 圭一(私服): あ、あぁ……驚いたぜ。まさかあれほど、レナの動きが素早いとはな……。 圭一(私服): なっ……き、斬られたっ?しかも血が止まらねぇ……?! 圭一(私服): おい、こいつはシャレになんねぇぞっ?早く監督に連絡して、治療を……?! 魅音(サバゲー): あー、大丈夫だよ圭ちゃん。レナのナイフもエアガンと一緒で、本物志向のニセモノだからさ。 圭一(私服): そ……そうなのかっ?けど、こうしてぱっくりと切り傷がついているし、血も……?! 圭一(私服): ……って、言われてみれば痛みがねぇな。どうなっているんだ、こりゃ? レナ(サバゲー): よく見て、圭一くん。このナイフの刃の部分に、溝があるよね? レナ(サバゲー): この中に塗料が仕込まれて、当たるとその面から赤く染まる仕組みになっているんだよ。……よくできているでしょ? 圭一(私服): ぅおっ……本当だ。本物のナイフみたいに見えても、刃の部分はこういうつくりになっていたのか……。 悟史: 昔の大道芸とかで人気になっていた、『ハラキリショー』の応用技だね。あれも同じトリックだって聞いたことがあるよ。 圭一(私服): ……にしても、さすがに悔しいぜ。銃を持っていたのに、一発も撃つ間もなくやられちまったんだからよ。 魅音(サバゲー): まぁ、接近戦だと銃よりもナイフの方が有利な場合もあるからねー。 魅音(サバゲー): あと、サバゲーと射撃の違いは単純に狙いが動くだけじゃない。相手も攻撃してくるところだしさ。 圭一(私服): ……っ……。 レナ(サバゲー): はぅ……どうしたの、圭一くん?レナ、ちょっとやりすぎちゃったかな……かな? 圭一(私服): いや、そんなことはねぇぜ。むしろ冷たい氷水をぶっかけられたみたいに、目が覚めたって言うほうが正しいかもな。 圭一(私服): ……そうだな。いつまでも過去に囚われていたんじゃ何も変わらねぇし、変えられねぇ。 圭一(私服): 俺は、変わるって決めたんだ。謝っても許されねぇ罪を償うためにも、今の仲間を全力で守り抜くってな……! レナ(サバゲー): …………。 圭一(私服): あ……す、すまねぇなレナ。なんか昨夜見た夢のせいで、つい変なことを口走っちまったぜ。 レナ(サバゲー): 変な……夢……?それってどんな内容だったのかな、かな……? 圭一(私服): …………。 圭一(私服): いや……よくよく考えてみたら、そこまで深刻なものでもなかったかもな。なんでもない、忘れてくれ。 レナ(サバゲー): ……うん。