Part 01: ……その日は起き抜けの瞬間から、なんとも表現しがたいほどに奇妙な気分だった。 圭一(私服): っ、……んぁ……? 目を開けてすぐ視界に入ってきたのは、見慣れた天井。ここは俺の部屋だとすぐに理解する。 ただ……なぜか、ちくりと針を刺すように胸の内に込み上がってくる小さな違和感。 まるで、まださっきの「夢」の続きを見ているようにふわふわとした非現実が意識を覆っているようにも感じられて……なんとなく、覚束ない。 圭一(私服): 夢の続き……じゃない、よな……? 誰に言うでもなく、俺は寝転がって天井をじっと仰ぎ見ながらひとり呟く。 ……実におかしな夢だった、と思う。断定ができないのは、起きた瞬間に内容のほとんどが記憶から消えていたからだ。 しかも、恐ろしかったのか……あるいは楽しかったのかさえ、覚えていない。 にもかかわらず、この落ち着かなさはどうだ。胸の内で響く鼓動は激しく高鳴り……前髪は額にはりつくほど、汗で濡れそぼっている。 それは悪夢を見た証拠、と言い切ることができればむしろマシだったかもしれない。……だけど、今感じているのは「冷」より「熱」。 たとえるなら、絶体絶命の状況に立たされながらも勝利の可能性を信じて、使命感を胸に立ち向かう覚悟を決めた時のような……。 ……いや、やはり上手く言えない。起きてしばらく経ったことで思考が少し冷静になった今もなお、やはりこの感覚は説明ができなかった。 圭一(私服): ……。とりあえず、起きるか。 把握できない奇妙さに浸っていたところで、得られるものは何もない。そう思った俺は布団からむくり、と起き上がって抜け出る。 そして大きくあくびとともに背伸びをし、布団を畳もうと振り返ったその時――。 圭一(私服): っ……な、なんじゃこりゃぁぁぁああぁっ?! 美雪(私服): ……なるほど。起きて枕元のすぐそばを見たら、「それ」がいたのか……まぁ、普通に考えて大声を上げて驚くよねー。 圭一(私服): ほんと、参ったぜ……。最初はどこかの野良猫か何かが家に入って、寝床に忍び込んできたかと思ったくらいだしな。 そう言って俺は、ため息交じりに脇に置いた「そいつ」に目だけを向けて視線を送る。 圭一のウツシロ: ……………………。 不気味な容貌には違いないが、幸いなことに突然暴れ出すようなこともなく……敵意らしき気配は全く感じられない。 しかし、俺が移動するたびに一定の間隔を保って後をついてくるのは……愉快な気分かと聞かれたら「断じて否」と即答してしまえるものだった。 圭一(私服): にしても、不思議な話だぜ……。いったいどうして俺と一穂ちゃんに、こんな現象が起きたっていうんだ?……理由が分かんねぇよ。 圭一(私服): 一穂ちゃんも、気づいたら枕元に立ってたんだよな? 一穂(私服): う……うん、そうなの。なんで現れたのかわからないけど……。 一穂のウツシロ: ……………………。 一穂ちゃんの側にも、俺とは違う姿をした、でもおそらく俺と同じウツシロらしきものがぴったりとくっついている。 ただ、一穂ちゃんは俺と違ってウツシロを悪いものと認識していないようだ。 時々手のひらでおそるおそる身体を撫でているし、彼女のウツシロもその手を普通に受け入れている。 菜央(私服(二部)): 確かにね。……他の誰か、礼奈ちゃんや魅音さんたちには、こんなことが起きてなかったんでしょ? 圭一(私服): あぁ。悟史のところにもあえて具体的な内容を伏せて電話をしてみたが、答えは同じだった。あと、詩音もだ。 千雨: そうなると……まず『ウツシロ』が出現した理由を考えてみるのもひとつの手だろうな。 千雨: 形こそ違えど、『ウツシロ』が現れたのは2人の身に何か共通項があったはずだ。一穂と前原、それについて心当たりがあるか? 一穂(私服): こ、心当たりと言われても……特には……。 圭一(私服): 俺も一穂ちゃんと同じだ。数日前に野球の試合で対戦して、お互いの状況を確認し合って……そして、古手神社に向かった。 圭一(私服): で、音を聞いたっていう一穂ちゃんに従って祭具殿に向かったら、美雪ちゃんと菜央ちゃん……。 圭一(私服): そして千雨ちゃんの3人が、扉の前に気を失ってぶっ倒れていたってわけだ。 圭一(私服): 一穂ちゃんは前の「世界」で3人の後を追ってこっちに来たって言っていたけど……一穂ちゃんの方が先についたみたいだな。 一穂(私服): ただ私、『ウツシロ』なんて知らなくて……突然目の前に現れて、びっくりしたよ。絢花さんにいろいろ教えてもらって納得したけどね。 美雪(私服): ……そこが、私たちの記憶と違ってる部分なんだよね。ただ、梨花ちゃん不在で絢花さんがいることだけは共通してるってわけか。 美雪(私服): とりあえず相違点については話が進まなくなるから、今のところは後回しにして……。 菜央(私服(二部)): じゃあ、この「世界」で再会した以降で2人の間に何か特殊な出来事でもあったりしたの? 圭一(私服): 以前にも話したことがあったと思うけど、喫茶店で駄弁ったくらいだな。……あ、ちなみにエンジェルモートじゃないぜ。 菜央(私服(二部)): それ、付け加える意味あるの? 美雪(私服): ……そういえば、菜央にはまだ話してなかったか。エンジェルモートは園崎家の親戚が経営してるから、内緒話なんて速攻で魅音たちに筒抜けになっちゃうんだよ。 一穂(私服): それって、そんなにまずいことなの? 千雨: ……少なくとも、味方かどうかの判別がつくまでは警戒しておいたほうがいいだろうって話だ。 千雨: で、どうなんだ?その共通項とやらは思い出せたか? 圭一(私服): 共通項……か……。 一穂(私服): ? どうしたの、前原くん。 圭一(私服): あ、いやなんでもねぇ。こっちの話だから、気にしないでくれ。 圭一(私服): ……悪いな。 美雪(私服): 前原くんが謝ることはないよ。でも、何か思い出したらすぐ教えてもらえると嬉しいな! 圭一(私服): ……あぁ。 千雨: …………。 Part 02: とりあえず、#p綿流#sわたなが#rしの祭りが始まるまではまだ時間があるので……俺は古手邸を退出し、#p興宮#sおきのみや#rに向かおうと神社の階段を降りていた。 ウツシロは意識の外に置いているといつの間にか消えるものの……意図的に探そうとするとすぐに現れる。 人目に付くと大騒動になりそうなので、姿が見えなくなるのは大いに助かった。 圭一(私服): この「世界」だと、魅音が「詩音」……そして詩音が「魅音」か。 ……実のところ俺は、この「世界」に来た直後からそのことになんとなく気づいていた。明らかに2人の様子が「らしく」ないと思ったから。 圭一(私服): (……最初のうちは、俺のように記憶を継承していないせいでの違和感だと思っていた。レナ……礼奈がまさに、そうだったからな) だが、数日にして……俺は気づいた。気づいてしまったのだ。 確かに「詩音」、もとい「魅音」は、園崎家の次期頭首、そして分校での年長者としてリーダー然と振る舞っている。 が、この「世界」の彼女には、自分の思いを押し込めてでも周囲の利益と最善を優先する……そういった「献身」的な言動が薄い。 少なくとも俺には、そう見えていた。……そして、ルチーアから脱出してきた「詩音」から事情を聞き、それは確信となった。 圭一(私服): (詩音は「魅音」として、何かをやろうと企んでいる……俺たち仲間にも事情を話さず、たったひとりで) 以前の「世界」で、俺と「魅音」は手を組んだ。前の「世界」での記憶と失敗を取り戻した者同士、一緒に皆を助けようと誓い合ったのだ。 それが、名付けて「興宮共同戦線」だった。しかし……。 圭一(私服): (……今思えば、前の「世界」から「魅音」には俺と違う目的があったのか……?) 圭一(私服): (でも、なんでそれを言ってくれなかったんだ?話せない事情でもあったのか? それとも……) そう考えていたところ、背後から響くかすかな足音に気づいて……俺は、足を止めた。 圭一(私服): 話があるなら、普通に声をかけてくれよ……千雨ちゃん。 千雨: なんだ、バレてたか。 振り返りながら声をかけると、斜め上の草むらから千雨ちゃんが姿を現した。 その姿を見ながら、以前の「世界」で「魅音」……否、「詩音」から聞いた忠告を思い出す。 詩音(私服): 『……圭ちゃん、注意してください。あの子たち4人の中で、千雨さんが一番厄介です』 詩音(私服): 『他の3人も色々と思うところはありますが……あの子だけ、私たちのことを全然信用していません』 圭一(私服): 『そこまで断言するって……何かあったのか?』 詩音(私服): 『……ありません。そう感じるだけです。ただ、厄介なのは間違いありません』 圭一(私服): 『……よくわからないが、とりあえず千雨ちゃんに信用されてないことはわかった。どうすりゃ信用してもらえるんだろうな……』 詩音(私服): 『そういう意味じゃないんですけど……はぁ』 圭一(私服): どうした? 用事でも思い出したか? 千雨: ……強いて言うなら、確認だ。前の「世界」で私たちを逃がした後、どうなった? 圭一(私服): 逃がした、後……? 俺は千雨ちゃんと絢花ちゃんを逃がした後のことを思い出し……。 ……一気にこみ上げる苦い感情を、賢明に飲み込んだ。 圭一(私服): 悪ぃ、覚えていないんだ。 千雨: 嘘は言わなくてもいい。言いたくないなら、素直にそう言ってくれ。 圭一(私服): お、おいおい……待てよ。なんだよ、俺のこと疑っているのか? 千雨: 今の態度で疑うなって方が、無理がある。……まぁ、ぼちぼち予想できてたから別にいいんだけどな。 圭一(私服): 予想できてたって……。 千雨: 私たちに再会した後も言わなかったってのは、そういうことなんだろ? ……わかってる。ただ、美雪たちの前ではもっと上手くとぼけろ。 千雨: 人を信じるってことは、多少なりともリスクを負うものと私は思ってるが、あいつら……特に、一穂はその辺りの認識が甘い。 千雨: 前原には前に助けてもらった恩もあるし、あんたが何を信じて自滅してもそりゃ自由だが、美雪たちを巻き込んで自滅されるのは避けたい。 圭一(私服): …………。 千雨: ……言いたいのはそれだけだ。あぁ、それとひとつ確認だが……。 千雨: 本当に『ウツシロ』のこと、知らなかったのか? 圭一(私服): あ、あぁ……。 千雨: そうか。 圭一(私服): あ、ちょっ……! 引き留める間もなく、千雨ちゃんはそれだけ告げると足早に階段を駆け上り神社の方へと引き返して行った。 圭一(私服): ……これは、釘を刺されたってことか? 誰を信用するのも自由だが、それに私たちを巻き込むな……と。 そういう……ことなのだろうか?『ウツシロ』のことまで確認された理由はよくわからないが……。 圭一(私服): ……俺、信用されてないんだな。 他の3人はともかく、千雨ちゃんはそう判断したと思って間違いなさそうだ。 圭一(私服): (俺だって、一穂ちゃんたちのことは信用している。けど……) 圭一(私服): ……たとえ何度殺されても、雛見沢の仲間を俺は信じたいんだよ。 Part 03: 千雨ちゃんが俺を信じなかったのは、正しかったのかもしれない。 俺に悪意があったのではなく、解決するだけの力を信じていなかったのだろう。 結局、失踪した梨花ちゃんに関しても何の手がかりも手に入れられないまま、再び村は祭りの時間を迎え……。 俺たちは再び、惨劇の渦中へ叩き込まれた。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): っ……逃げられましたか。やはり、気弱でも公由のおじいちゃんの孫……御三家の血は争えないってわけですね。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): いいでしょう……やってやりますよ……!自ら選んだ血の花道、せいぜい派手に暴れて渡りきってやります……くっくっくっ! 圭一: ――そこまでだ、詩音。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): なんだ……誰かと思ったら、圭ちゃんじゃないですか。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): どうしました、こんなところに現れるなんて。……ひょっとして、お姉たちを見捨ててひとり逃げてきたとか言いませんよね? 圭一: ははっ……んなことするくらいだったら、死んだほうがマシだぜ。「あの時」みたいにな。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): …………。 圭一: なぁ、詩音……俺とお前には、共通項がある。「あの子」と会った。 圭一: そして、彼女から未来についての「予知」を聞かされて……共同戦線を張ることになった。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): えぇ……その通りです。もっとも「あの子」の正体はどういうわけか私も圭ちゃんも、わからずじまいなんですが。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): なにか不可思議な力でも使ったんでしょうけど、いったい何者なんでしょうかねぇ……くすくす。 圭一: …………。 圭一: 嘘だろ、詩音。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): は……? どういう意味ですか、圭ちゃん? 圭一: お前は、俺と違って覚えているんだろ?もしかしたら、俺が忘れた「あの子」のことも……。 圭一: だからこそ、お前はそれを逆手に取って「野望」を抱くようになったんだよな?絶対無理だと諦めていた、あいつとの夢を……。 圭一: お前は目的のためなら、正義にでも悪にでも自分を染められるやつだ。そうじゃなきゃ、みんなをあんな風に傷つけるはずがねぇ……! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): …………。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): はぁ……がっかりです。すごくがっかりですよ、圭ちゃん。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): 私のことを仲間だと言ってくれたくせに、そんな風に疑ってたんですか? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): あるいは、仲間を信頼して互いに助け合う……その言葉自体が、嘘だったってわけですか?まぁ、私としてはそれでも構いませんけど。 圭一: あぁ……信じているさ、今でも。詩音が悪い夢から覚めて、俺たちのもとへ帰ってくるってことをな。だから……。 圭一: ……ここでお前の悪夢は終わりだ、詩音。大人しく観念して、さっさと戻ってこい。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): …………。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): ……く、くくくくく。くくくくくくっっ……! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけッッッ!!! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): あぁ違う違う、完っ全に大間違いですよ圭ちゃんッ!!だけど――!! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): そこまで私のことを「信頼」してくれるっていうなら、正解ってことにしてあげます!!! 圭一: っ……どういうことだ? #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): あんたが! 今! 私に対して言っただろうが!!私は目的のためだったら、正義と悪どちらにも染まることができるッ!! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): だから、私は! ここで悪になることを宣言してやるんだッ!! そして――ッ!! #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): 圭ちゃん……あんたはたった今から、私の敵だぁぁぁ!!! 圭一: 詩音ッッ……?! 仲間だと思っていたのは、俺だけか?詩音は、最初から俺のことなんざ……! ぐらりと、足元が揺れて……。 倒れ駆けたそこに、そっと何かが当たった。 圭一: ぇ……? そこにいたのは……異形のバケモノ。でもそのバケモノは、倒れ駆けた俺の足を支え、しっかりしろと訴えていて……! 圭一のウツシロ: ……………………。 圭一: お前も……信じてくれるのか、詩音のことを。悪い夢から覚めて、戻ってきてくれるって。 ――勿論。 声は聞こえなかった。けど、そう言った気がした。 圭一: ……そうか。 圭一: ……お前がなんなのか、よくわからねぇ。けど、これだけはわかる……どんな希望も、たったり1人で信じ続けるのは辛い。 圭一: けど、1人じゃないなら……一緒なら、信じ続けられる気がするぜ。 #p園崎魅音#sそのざきみおん#r(#p詩音#sしおん#r): なんですか圭ちゃん……?信じるって、何をですか? 圭一: 俺はお前を味方として引き戻せる力が、まだ俺にあるってことだよ! 圭一: だよな……詩音は仲間だもんな!俺が信じてやらなきゃ、どうするんだって話だ! 圭一: 詩音、帰ってこい!『#p興宮#sおきのみや#r共同戦線』……再結成の儀といこうぜ!!! ……その日は起き抜けの瞬間から、なんとも表現しがたいほどに奇妙な気分だった。 圭一(私服): っ、……んぁ……? 目を開けてすぐ視界に入ってきたのは、見慣れた天井。ここは俺の部屋だとすぐに理解する。 ただ……なぜか、ちくりと針を刺すように胸の内に込み上がってくる小さな違和感。 まるで、まださっきの「夢」の続きを見ているようにふわふわとした非現実が意識を覆っているようにも感じられて……なんとなく、覚束ない。 圭一(私服): ……なんか、妙な夢を見た気がした。 起き上がり、周囲を見渡す。 ……そこには何もなく、ただいつも通りの景色が広がっていた。