Part 01: 圭一: よぅ、ケイジ! 待ったか? ケイジ: ……いや、練習していたから問題ない。学校、終わったんだな。 圭一: あぁ。学校のやつらに、この後サーカスに行くって言ったら、どういうことだって詰め寄られたぜ。 圭一: 今日は休演日なのになんでどうしてなにがあった?! ってさ!いやー、人気なんだな、林原大サーカスって! 圭一: なんで団員と仲良くなったのかって理由を聞かれた時はちょっと困ったけどな。 ケイジ: ったく、本当のことを言えばいいじゃないか。自分にそっくりのピエロが本番前に逃げ出して、身代わりにされかけたことで縁ができたって。 圭一: あ、いや……それをマジで言うと、今後の公演に支障が出たりしないのか? ケイジ: ……身から出たサビだ。甘んじて受ける。 圭一: ケイジって結構、肝が座っているよな……そういやお前って、学校どうしているんだ? ケイジ: 通信制、ってやつだ。学校の課題を自分でやって、郵送で提出している。 ケイジ: 旅芸人一座の子だと、現地での滞在期間中は地元の中学に編入することもあるらしいけど……僕はそうしているんだよ。 圭一: 話に聞いたことあるけど、本当なんだな……じゃあ、学校には通っていないのか? ケイジ: 年に何回か、所定の学校に登校することは一応あるけど……あんまり通っている感じはしないかな。 ケイジ: 父親が団長だから、子どもの時からずっとサーカス巡業生活で……一つのところに定住しない生活だった。 ケイジ: だから学校に通っても、誰かと仲良くする機会ってあまりなかったんだよ。 圭一: …………。 ケイジ: 友達がいない寂しいヤツ、って思ったか?残念だが、事実その通りだよ。 圭一: んなこと思ったりするかよ。だって今は、俺がいるんだからさ。 ケイジ: ……ぁ……。 圭一: それに、一穂ちゃんたちとも仲良くなったんだよな。だったら、友達がいないは間違いだろ? ケイジ: 友達……。 圭一: あ、あれ? 違ったか? ケイジ: いや……俺でよければ。圭一と友達になりたい。 圭一: そうか、ならよかった! ケイジ: はは……にしても圭一は、そんな感じでいつも気軽に友達増やしているのか?変なヤツに声かけないように、気をつけろよ。 圭一: わかっているって! ケイジ: この返事はわかっていない感じだぞ……? 圭一: そ……そんなことねぇって!まぁ、俺も前まではケイジと似たようなものだからな。 ケイジ: ……? どういうことだ? 圭一: 俺、転校生なんだよ。1年前は、東京にいた。 ケイジ: 本当か?だったら、東京でも人気者だったってわけか。 圭一: ……ケイジは俺のこと、過大評価しすぎだぞ。まぁ、友達がいないわけじゃなかったけどな。 圭一: #p雛見沢#sひなみざわ#rのあいつらみたいに、仲間って感じじゃ……なかったと思う。 ケイジ: 仲間……。 圭一: あぁ。仲は悪くなかったが、胸を張って友達、とは言えないって感じだ。 圭一: 悩みを相談できる相手もいなかったからな。だからケイジが一人で悩んじまった理由はなんとなくだけど……わかる気がするんだ。 ケイジ: そうなのか……?お前を見る限り、とても信じられないんだが。 圭一: 嘘じゃなく、本当の話だ。それに転校前は勉強漬けの毎日だったから、あまり遊ぶこともなかったしな。 圭一: それを考えたら、サーカスの稽古をしながら勉強もしているお前は偉いと思うぜ。 ケイジ: ……正直に言うよ。僕、あんまり成績が良い方じゃないから……。 圭一: ……まぁ、得意不得意はあるよな! ケイジ: いい感じにごまかしたな……まぁ、勉強をやっていなかったのは事実だけどさ。 圭一: 楽しくないのか、勉強。 ケイジ: ……楽しくはないな。サーカスの練習している方が、ずっといい。 ケイジ: ただ親からは、お前に団を継がせるから金勘定はできるようになっておけ、って口酸っぱく言われているんだ。 圭一: ……なるほど、そりゃ親父さんの言うとおりだ。数学苦手か? 参考書とか何を使っているんだ? ケイジ: 数学は苦手で……参考書は持っていない。そもそも何を買ったらいいか、わからないんだ。 圭一: じゃあ、用事を済ませたらあとで買いに行こうぜ!俺が一緒に選んでやるからよ。 ケイジ: わ……わかった。やってみる。 圭一: おいおい、参考書を買いに行くだけなんだからそんなに青い顔をするなって。綱渡りと違って、命はかかってねぇんだぞ? ケイジ: 俺にとっては綱渡りより、参考書を買いに行くほうが覚悟が必要なんだ。 圭一: ……価値観って、いろいろあるんだな。 Part 02: ケイジ: で、この装置はここを押すと……。 圭一: おおっ?! なるほど、人体切断マジックってこうなってるのか。 ケイジ: 部外者には秘密だから、絶対外に漏らすなよ?恩人だから、特別に教えているんだからさ。 圭一: はは、わかっているって。……いや、しかしこうもタネを知っちまうとTVのマジックショーの見方も変わりそうだな。 ケイジ: そうだ。タネを知ってしまったら知る前にはもう絶対……どんなことがあっても、戻れない。 ケイジ: だから俺たちは手品のタネを必死で隠すんだよ。 圭一: ……大変なんだな。 圭一: タネも仕掛けもない綱渡りとか、ブランコとかも別の意味で、大変そうだけどよ。 ケイジ: そうだな……にしても、俺の仕事を知りたいって急にどうしたんだ? もしかしてこの前の舞台がきっかけでピエロになりたい……とか? 圭一: いや、ちょっとした部活のネタ探しだ。 ケイジ: ……部活? 圭一: ゲームをする集まりなんだが、色々とやっていてな。この前は隠し芸大会なんてすげぇ面白そうなことをやっていたらしいんだが、あいにく俺は不参加でさ。 圭一: だからサーカス仕込みの隠し芸を学んで、あいつらの度肝を抜いてやろうってわけさ! ケイジ: そうか……いや、サーカスに興味を持ってくれたんだったら、将来うちの団に入ってくれないかと勧誘するつもりだったんだが。 ケイジ: 圭一と俺……顔が似ているだけあって、うまく使えば手品のネタが増える。 圭一: おっ……入れ替わりマジック、とかだな? ケイジ: それを利用した瞬間移動、とかもな。片方を消して遠い場所で現れたようにすれば、知らない客は瞬間移動したように感じる。 圭一: なるほど……。入れ替わりマジックで双子が使われているとはあまり意識したことがなかったが、確かにその手があったぜ。 ケイジ: 双子の入れ替わりはミステリーだとよくあるが、ミステリーだけの専売特許じゃないってことだ。 圭一: にしても、俺たちってよく似ているよな。今さらだけど、ケイジの顔を見ていると妙な気分になることがあるぜ。 ケイジ: 化粧してれば、だけどな。落とした顔はあまり似てなかっただろ?俺はお前ほど目が大きくないからな。 圭一: むしろ化粧で、あそこまで大きく見せられるんだな。 ケイジ: 圭一もたぶん、結構変わるぞ。やってみるか? 圭一: い、いや。俺はいい……。 ケイジ: そうか……そうだな。僕はもう化粧するのが当たり前になったけど、男が化粧するのは抵抗あるよな。 ケイジ: でも、ここまで似てるとは……悪いことはできないって思うよ。 圭一: ……? どういう意味だ? ケイジ: 例えば……そうだな。もし僕が、店の商品を万引きしたりするだろ? ケイジ: それを見たヤツが俺を知らずに、圭一だけを知っていたら……万引きをしたのはお前だって誤解して、大変なことになる。 圭一: …………。 ケイジ: 恩人に罪なんて、着せられないからな。まぁ、それ以前にサーカス団に迷惑がかかるから悪い事なんてするつもりはないけどさ。 ケイジ: だから、安心してくれ。これ以上……お前たちに迷惑はかけない。約束するよ。 圭一: あ、あぁ……。 Part 03: ケイジ: で、これはここの部分を押すと、へこむから……。 圭一: …………。 ケイジ: 圭一? おい……圭一! 圭一: えっ?!あ……わ、悪ぃ、聞き逃しちまった。なんの話だ? ケイジ: ……なぁ、圭一。僕、何かまずいことを言ったか? 圭一: え……? な、なんのことだ? ケイジ: いや……さっきまで普通に喋っていたのに、急に口数が減ったからさ。何か気に障ることでも言ったのかと思って。 圭一: いや、そんな……いや。 圭一: お前が、いつか……どこか別の場所でサーカスの巡業に行って、前原圭一と間違えられることがあったら……。 圭一: そんなヤツは知らないって言ってくれ。 ケイジ: えっ……? 圭一: 顔が似ていて……間違えられて迷惑をかけられるとしたらそれは俺じゃなくて、お前の方だと思う。 ケイジ: ……何か、過去にあったのか? 圭一: ……あぁ、ある。警察沙汰になったほどのやつだ。 ケイジ: …………。 圭一: ケイジに、迷惑をかけたくない。こんなことを突然言われても困るだろうが、俺はもう、二度と――。 ケイジ: ……美雪ちゃん、だったか。髪を片方結んだ、可愛い子。 圭一: えっ……。 ケイジ: あの子に言われたんだよ。逃げたとしても、僕はまだ誰も傷つけていない。やり直すなら、今が一番早く取り戻せるって。 ケイジ: やり直すなら……。 圭一: ……だとしたら、遅いな。俺は、傷つけちまった……もう、取り戻せない。 ケイジ: …………。 圭一: それに、説明がしにくいんだが……他にも、ある。人を……それも大事な人を、傷つけた罪がな。 圭一: 人を傷つけたら、やり直すハードルは高くなる……当然だ。誰かの尊厳に被害を与えたんだからな。 圭一: だから……お前は、俺みたいにならないでくれ。 圭一: 一度つけてしまった傷は、なかったことにできない。……償い続けるしか、できないんだ。 ケイジ: …………。 ケイジ: わかった。恩人の言葉だ、心に留めておく。 圭一: 俺を恩人なんて、他の場所ではあんまり言うなよ。俺が何をしたか知ったら、お前だって見る目は変わる。 ケイジ: 手品の種明かしを知った後みたいにか?言いたくないのなら、詳細は聞かないが……。 ケイジ: 何があったとしても、圭一が僕の恩人には変わりない。 圭一: ……っ……。 ケイジ: 圭一たちが時間稼ぎをしてくれなければ、僕はステージに間に合わなかった。 ケイジ: ステージを中止にしていたら……もっと多くの人が傷ついて、悲しんでいた。 ケイジ: 僕が人を傷つけずにすんだのは、たまたま圭一たちが助けてくれたおかげだ。 圭一: …………。 ケイジ: ……だから、ありがとう。いつか、圭一の罪が許されることを祈っているよ。 圭一: いや、礼を言うのはこっちの方だ。……いつかが来るまで、頑張るぜ。 ケイジ: あぁ、頑張れ……それじゃ、そろそろこっちも頑張ってみるか? 圭一: へ? なんの? ケイジ: なんのために今日ここに来たのか忘れたのか?――隠し芸大会で勝ち抜きたいんだろ? 圭一: こ、こうか? ケイジ: うん……うまいうまい。笑顔だ、その笑顔をキープして視線を固定しろ。手品のタネを見抜かれないためにな。 ケイジ: ふふ……自信がないとか言っていたのに、風船を使ったマジック……なかなか巧みにできているじゃないか。 圭一: いや、結構難しくて大変だぜ……!風船を弾けさせた後、素早く隠すと同時に花やトランプを出してみせるなんて……! ケイジ: 泣きそうな顔は、わざと失敗した時のためにとっておけよ。ピエロはいつもニコニコと笑っているから、ピエロなんだよ。 圭一: ぐぉおお……! バックパームって、モノを掴みながら袖や手の甲に隠した別のモノを動かさなきゃならねぇから、すげぇキツい……! ケイジ: 腕はまっすぐ水平に保て。風船が震えている。動かないように力を入れろ。 圭一: うぉ、う……おおおおおおっ……! 圭一: うぉおおおおおおっ!!! ……パァン! 圭一(サーカス): うおっ、とっとっと……!わ……悪ぃ、最後はミスっちまった。 ケイジ: いや、初心者にしてはなかなか上出来だ。あとは回数をこなせば、大丈夫だと思う。 ケイジ: どうだ? 風船をフェイクに使った出現マジックは。これに紙吹雪も加えたらさらに派手になって、きっとウケるぞ。 圭一(サーカス): あ、あぁ……ありがとな、ケイジ。これなら、良い勝負ができそうだぜ。 圭一(サーカス): ピエロって、あんまり派手なことをやっているイメージがなかったんだが……派手じゃないだけで、やっぱすげぇんだな。 ケイジ: 確かに、地味と言えば地味だけどね。サーカス全体の空気感をコントロールする大事な役割なんだ。 ケイジ: ……そう、大事なんだ。僕はピエロを見下してはいなかった。その存在価値だって、知っていたはずなんだ。 ケイジ: でも……ピエロが嫌だなんて、大事な理由すら忘れてしまっていたんだ。 ケイジ: ……本当に恥ずかしい。圭一たちには、思い出させてもらってばかりだよ。 圭一(サーカス): そ、そんなに落ち込むなよ……忘れたことは、思い出せばいいだけだしさ。 ケイジ: ……あぁ、そうだな。 圭一(サーカス): よし、この技を物にした暁にはもっとスゲェ技を身につけて……隠し芸大会でぶっちぎり一位を取ってやるぜぇえええええ! ケイジ: 頑張れ、圭一。 圭一(サーカス): おぅよ! で、次の練習でノーミスだったら商店街に繰り出して参考書を買いに行こうぜ! ケイジ: あ……ぅん……そうだな。 圭一(サーカス): 声、ちっちゃ?!