Part 01: 沙都子(高校生夏服): は……? あの、会長さん。今、『鬼隠し』とおっしゃいまして? 灯: うん?いや、私は『神隠し』と言ったつもりなんだが……。幼少期の舌っ足らずが復活したようだ、すまない。 灯: それとも、補強工事の音で聞こえづらかったのかな?授業時間外とはいえ、しばらくの間はこの騒がしさを辛抱するしかないんだよね……。 沙都子(高校生夏服): あ、いえ……そうではなくて。私たちの地元だと、人が突然行方をくらます現象のことを『鬼隠し』と呼ぶので聞き違えたようですわ。 灯: なるほど、呼び方の地域差か。南の方では類似の現象を『物隠し』と呼ぶそうだから、『鬼隠し』というのもその類いの言い方なんだろうね。 灯: しかし、聞き違えるということはよほど耳馴染みのある言葉とも受け取れるんだが……君たちがいた頃に、そういう現象でもあったのかい? 梨花(高校生): ……そんなことより、『神隠し』という言葉がどうしてここで出てきたのかの説明をしてください。 梨花(高校生): 私も沙都子も、用件の説明もなく急にこんなところに呼びつけられて……話が全く見えてこないんですが。 灯: おっと、そうだった。私の脱線と無駄話が多いのは今に始まったことではないが、私のはるか上を行く叔父の存在があるためか、自己評価が甘くなりがちでね。 梨花(高校生): ……そうやって新しい人物だの、違う話題だのを次々に差し込んでくるから余計に話が長くなるんです。 沙都子(高校生夏服): 相変わらず梨花は、会長さんに厳しいですわねぇ。……それで、本題はなんですの? 灯: この学園内で、その『神隠し』が起きている……って言ったら君たちは信じる? 梨花(高校生): 信じません。……というわけで、失礼します。 沙都子(高校生夏服): ちょっ……り、梨花っ?さすがに話を打ち切るのが早すぎでしてよ?! 灯: はははは! 梨花くんの即答と回避のスキルは近頃さらに鋭くなってきているようだ。また余計な仕事を押しつけられると察したのかな? 梨花(高校生): ……よくわかっているじゃないですか、会長。ただでさえ私たちは生徒会に加わって忙しくて、勉強時間を確保するのが厳しい状況なんです。 梨花(高校生): 私はともかく、もし沙都子が成績を落とすようなことがあったら……会長? 私はあなたにそれ相応の「お礼」を送ることも吝かではありませんので。 沙都子(高校生夏服): (さ、最近の梨花は会長さんに対して素の表情を全く隠さなくなってきましたわね……) 灯: ははっ、大丈夫!そのあたりはちゃんとわきまえているつもりだよ!何かあったら、いつでもどんと頼ってくれたまえ! 沙都子(高校生夏服): (というか、会長さんも……こんな時でも平然とした態度を崩さずにいられるのは、どういう神経の持ち主なのかしら……?) 灯: とりあえず、協力してくれるかどうかはさておいても……一応聞いておくだけでも損はないと思うんだが、どうかな? 沙都子(高校生夏服): 私なら大丈夫ですわよ、梨花。 沙都子(高校生夏服): 授業の予習も課題の提出も梨花や、先輩方の協力のおかげで現状滞りなくこなすことができていますもの。 沙都子(高校生夏服): それに、会長さんが何の見込みもなく私たちを呼び出すとは思えませんわ。話を聞くだけ聞いてみてはいかがでして? 梨花(高校生): ……わかったわ。沙都子がそう言うんだったら、聞きましょう。 灯: いやー助かったよ、沙都子くん。持つべきものは優しい後輩ってやつだね!……で、さっきの続きだけど。 灯: 学園の生徒が、前触れもなくその姿を消して……どこを探しても見つからなくなってしまうらしいんだ。わかっているだけでも、4人の名前が挙がっている。 沙都子(高校生夏服): そんな事件が、この学園内で……?もし事実だったら、大変なことじゃありませんの?! 灯: うん。噂通りであれば大問題で、笑えない話だ。場合によっては、警察などの力を借りることも念頭に置かなければいけない……けど……。 沙都子(高校生夏服): どうしましたの、会長さん……?何か引っかかるようなことでもありまして? 灯: いや……その失踪した子たちなんだが、実は最長でも半日以内に戻ってきているんだ。 灯: 怪我もないし、目を覚ました当初は頭痛を訴えていたものの……すぐに収まったらしい。 灯: ただ、おかしなことに失踪している間の記憶が無いそうなんだ。何を聞いても「わからない」、「覚えていない」の一点張りでね。 沙都子(高校生夏服): それはまた……奇妙なお話ですわね。失踪した人たちが口裏を合わせているという可能性はありませんの? 灯: とりあえず全員に面談を行ったが、あいにく私は尋問のプロじゃないからね。絶対にあり得ないとは断定できない。 灯: とはいえ……普段から素行に問題があって目をつけられているような子だったら、サボる言い訳だと疑う余地もあるだろうが……。 灯: 「失踪」したのは授業を欠席するような理由を特に持ち合わせていない、普通……を通り越して素行良好な生徒ばかりだった。 灯: 被害者の共通項としては全員が同学年で、小柄で……それと大人しそうな子ってところかな。 沙都子(高校生夏服): つまり……ゼロではなくとも、限りなく低いと。確かになんとも奇妙な話ですわね。 梨花(高校生): そして半日以内にはちゃんと戻ってきても、本人たちになぜかその間の記憶が無い……警察に協力を求めるのは難しいでしょうね。 灯: うん。それに加えて、うちの学園のお偉方はたとえ捜査活動であろうとご多分に漏れず、警察などの介入は避けたい意向らしくてね。 灯: 偉い人たちは骨の髄まで閉塞性を好むようだ。アナグマと気が合いそうだね……ということで、生徒会に打診があったんだよ。 灯: 生徒会は生徒の自治を取り仕切るのだから、そっちでなんとかしろ……ということらしい。 灯: 万が一何かが出てきても、内密に握りつぶせるようにという魂胆だろう。要するに、言い訳づくりだよ。 灯: そんなわけで君たち2人、凸凹探偵コンビに生徒会より出動を要請したいと思う! 沙都子(高校生夏服): ……梨花とコンビというのはともかく、探偵を自称した記憶はありませんのよ。 梨花(高校生): そもそも凸凹ってどの部位を指してるんですかっ?沙都子とコンビと言うのは悪い気分はしませんが、しませんが……! 灯: 2人とも……嫌なのか嬉しいのか、できればもっと明確にしてくれないかな?どう反応すればいいのかわからなくて困るよ。 沙都子(高校生夏服): 会長さんが妙な言い方をするからですわ。変な表現で梨花をからかうのは止めてくださいまし。 灯: はは、ごめんごめん。……冗談はさておき、被害者の全員が2人と同学年の1年生なんだ。それもあって、君たちの力を貸してもらいたい。 梨花(高校生): どうしてそうなったのかの原因を探れ……と? 灯: 上級生の私たちでは見つけられずとも、彼女たちと同級生の君たちなら糸口を見つけられるかもしれないからね。 灯: 解決までこぎ着けられたら上々だ。最高だ。私は己の貧困な語彙力を尽くしに尽くして、全力で君たちを褒めちぎるとしよう! 沙都子(高校生夏服): ……ご褒美にしては安いですわね。 灯: そう、解決してもその程度しか与えられないんだ。つまり、万が一にでも調査のために危ないことが起きたりでもしたら、それこそ本末転倒。 灯: 何かおかしなことを感じたら、すぐに引き上げて私に報告するように。 沙都子(高校生夏服): ……報告をした後、会長さんはどうなさるんですの?というか、何かおできになるんでして? 灯: いや、何も。責任のある上長として、こういう台詞を一度言ってみたかったんだ……ふふっ。 梨花(高校生): ……もし怪異の仕業だったら、意地でも連れてきます。そして責任長の会長直々に検分してもらいますので、どうかお覚悟をお願いします。 灯: えっ、本当かい?だったら叔父さんの知り合いの自称霊能力者に声をかけておくことにするよ! 梨花(高校生): ……目を輝かせないでください、冗談です。とりあえず資料は預かっておきますが、あまり期待はしないでください……では。 梨花(高校生): まったく、会長っていったい何者なのかしら……?不思議な人だとは思うけど、どうにも底が見えないわ。 沙都子(高校生夏服): ……不思議なのは、むしろ梨花の方でしてよ。どうして普段はちゃんと猫を被っているのに、会長さん相手だとそうもムキになってしまうんですの? 梨花(高校生): だって、あの人の言うことをホイホイ聞いていたら体よくいろんなこと押しつけられる気がして……きゃっ! 沙都子(高校生夏服): ととっ……最近、妙に風が強いですわね。工事が長引いているのも、このせいですの? 梨花(高校生): ねぇ、沙都子……スカートの丈、もう少し長くしたら?今、結構際どいところまでめくれ上がったわよ。 沙都子(高校生夏服): スカートが短く見えるのではなく、身長……というより、足が伸びただけですわ。 梨花(高校生): ……。それで、どうするの?一応『神隠し』事件の資料は預かってきたけど。 沙都子(高校生夏服): 私たちで、可能な限り調べてみるのはいかがでして?ちょっと興味がありますわ。 梨花(高校生): 暇潰しがしたいなら、もっと別のことの方がいいと思うんだけど……。 沙都子(高校生夏服): でも、私はこれを調べてみたいんですのっ! 梨花(高校生): って、どうしてそこまで……? 沙都子(高校生夏服): ……ダメですの? 梨花(高校生): べ……別に、ダメじゃないけど……。 沙都子(高校生夏服): をーっほっほっほっ!では、探偵活動開始ですわ! 沙都子(高校生夏服): 解決できれば、なんだかんだお世話になった会長さんへの多少の恩返しにもなりますし、一石二鳥でしてよ~! 梨花(高校生): ……あの生徒会長のためと思うと、ちょっと嫌だわ。 沙都子(高校生夏服): 本当に会長さんのことが苦手ですのね……梨花……。 Part 02: そんな馬鹿げたやり取りをした、数日後――。 沙都子(高校生夏服): 梨花ぁ……? 今度の期末テスト対策で少々聞きたいことがあるんですけど、よろしくて?あと、先週やった化学の実験レポートを……。 沙都子(高校生夏服): ……えっ、まだ戻っていない?そんなはずはありませんわ、だって先ほど私と一緒に寮へ戻ってきましたのに……。 沙都子(高校生夏服): 仕方がありませんわね。出直しますので、梨花が戻ったら私がここに来たことをお伝えいただいてもよろしくて……? …………。 しかし、日が暮れて夜になっても……梨花は私の部屋にやってこなかった。 もしかしたら、ルームメイトが私の伝言をうっかり忘れて聞いていなかったのかもしれない。そう思って私は再び、梨花の部屋を訪れた……が。 沙都子(高校生夏服): えっ……まだ戻ってきていない?もうすぐ夕食の時間ですのに……。 沙都子(高校生夏服): 会長さん! 灯: ……話は聞いたよ。梨花くんが消えたというのは、事実かい? 沙都子(高校生夏服): え、えぇ……! 他の寮生さんたちにも手伝ってもらって、寮内をあちこちくまなく見て回ってみたんですけど……! 沙都子(高校生夏服): どういうわけか、どこにも姿が見当たらないんですの……! 灯: ふむ……この時刻なら、他に行く場所があるとも思えないな……。 沙都子(高校生夏服): 梨花はいったいどこに行きましたの?これではまるで、先日の話にもあった『神隠し』でしてよ……! 灯: 手分けして探すことにしよう。私も人手を集めてくる……ただ。 沙都子(高校生夏服): ただ……? 灯: ……人間は、突然消えたりしない。つまり、彼女は連れ出されたのでなければこの学園のどこかにいるはずなんだ。 灯: 私が確認したところ、沙都子くんが部屋に向かう少し前に、どこかに向かっている梨花くんの姿が目撃されている。 沙都子(高校生夏服): そんな……では、梨花はどこに行ったんですの?! 灯: 落ち着いて……私が知る限り、一番近くにいたのは沙都子くんだ。 沙都子(高校生夏服): で、でも私は何も知りませんわ……! 灯: 私が聞いているのは、行き先じゃない……古手梨花の「思考」だよ。 灯: 君が前に嬉々として語ってくれた、トラップを仕掛けた相手の思考の読み解き方……あれが応用出来るんじゃないかな? 沙都子(高校生夏服): …………。 灯: 彼女は何を思い、何を為そうとしたと思う……?その思想の先にアテがあるはずだ。 灯: 冷静に、落ち着いて考えてみてごらん?大丈夫……君ならできるさ。少なくとも私は、沙都子くんしか出来ないと思うんだが。 沙都子(高校生夏服): や……やってみますわ。 沙都子(高校生夏服): (梨花になりきる……梨花の考えを読む……私は北条沙都子じゃない……古手梨花、梨花……) 沙都子(高校生夏服): (……私は、古手梨花……。誰にも、沙都子にさえ何も言わずに出かけた……) 沙都子(高校生夏服): (沙都子には言えない……?ううん、言いたくない? つまり、その心理は……) 沙都子(高校生夏服): ……見えた。 灯: うん? 沙都子(高校生夏服): ……会長さん。先日頂いた『神隠し』事件の資料、もう一度見せていただけまして? 灯: いいけど……前に渡したものはどうしたんだい? 沙都子(高校生夏服): あれは梨花が持っていましてよ。……私にあとで貸すと言って、渡さなかった。そこに今回の「#p思惑#sおもわく#r」がありそうですわ。 Part 03: ……最近、沙都子が少しだけ遠くに行ってしまったような気がしていた。 もちろん、毎日会っている。それに毎日喋っている。でも……。 梨花(高校生): (生徒会長と出会って、先輩たちと仲良くなって……) 勉強を教えて貰ったり交流しているうちに入学当初の曇り顔が晴れて……少しずつ、明るく楽しそうになっていって。 沙都子が学園を楽しんでくれているのはいいことのはずなのに、なぜか少しだけ寂しく思う自分がいて……それで……。 梨花(高校生): (……私なんていなくても、沙都子は十分やっていけるって……思ってしまって) なんだか、……悲しくなった。 だから、だから……だから……? 沙都子(高校生夏服): 梨花、梨花……! 梨花(高校生): 沙都子……? 沙都子(高校生夏服): やっと、見つけましたわ……もう、心配をかけないでくださいまし。 梨花(高校生): ……どうやって見つけてくれたの? 沙都子(高校生夏服): 梨花の気持ちを想像して、思考を予測して……あなたになりきって、辿ったんですの。 沙都子(高校生夏服): あなたのことがなーんにもわからなかったら、きっと見つけることはできませんでしたわ。 梨花(高校生): そうだったのね……っ……。 ……頭がクラクラして、視界がグラグラする。 気を抜いたら、眠ってしまいそうなくらいに頭が重くて……でも……。 梨花(高校生): (これだけは、言わなくちゃ……) 梨花(高校生): ありがとう、沙都子……見つけてくれて。 沙都子(高校生夏服): 当然ですわ。親友を探さない親友が、この世におりまして? 梨花(高校生): ふふっ、そうね……その通りだわ。 梨花(高校生): ……工事? 灯: うん……おそらくだけどね。 沙都子(高校生夏服): 梨花が倒れた原因は、それ以外にないと思いますわ。 倒れた翌日、すっかり回復した私に沙都子と生徒会長はそう切り出した。 梨花(高校生): だけど、私……ただ学校の地図を用意して被害者4人が倒れた場所から半径5メートル以内を見て回っていただけよ? 梨花(高校生): 工事は続いていたけど、邪魔にならないよう念のために現場からも離れていたのに……。 沙都子(高校生夏服): ……ここからは、私たちの仮説ですわ。 灯: 調べてみたら、最初の被害が出た時期と工事開始時期が一致したんだ。 灯: 補強工事を行っていたのは、古い建物……昔使われていた建築材や塗料の中には、安全のために現在は禁止されているものも多い。 灯: たとえば吸い込むと、有害なものだね。意識が朦朧として記憶が曖昧になったりする……つまりは薬害に近い。 灯: そこで、最近の強風だ。風は音だけではなく、砂塵も運ぶ。 灯: 工事で舞いあがった成分が一定の方角に吹き続けた風によって特定の場所、屋内にたまり続けた……。 灯: そして、その条件に該当する場所は普通の生徒が立ち入らない半地下の倉庫だと思う。 沙都子(高校生夏服): えぇ。風の通りを考えると、一番可能性が高いですわね。 梨花(高校生): ? でもそこって、生徒は立入禁止では……? 灯: そうだよ。だが無精な教師が鍵を渡して、生徒に荷物の出し入れを任せることがあるんだ。 灯: もちろんルール違反だから、被害者全員には口止めがされていたと思う。……確かめるのはほぼ無理だけどね。 梨花(高校生): つまり自己保身のために、教師が黙っていたってわけですか……?! 沙都子(高校生夏服): 小柄で大人しい生徒なんて頼みやすそうですし、教員に強く言われたら黙ってしまいますものね。 沙都子(高校生夏服): あと、別々の教師が違う生徒に頼んでいたら、共通点も容易に見つけようがありませんわ。 梨花(高校生): じゃあ、見つかった場所が4人とも違っていたのは……? 灯: おそらくだが部屋を出た後、意識が混濁する中……人目につかない場所でどうにか休もうとしたんじゃないかな。 灯: 弱っている時、身を隠せるようなところに向かおうとするのは動物的な本能だからね。弱いと自覚している人は尚更その傾向がある。 沙都子(高校生夏服): 梨花も見つけにくい場所にいたんですのよ。慌てて広い場所に引っぱり出して……大変でしたわ。 灯: でも、よく見つけられたよね。……正直驚いたよ。 梨花(高校生): そ、そうだったの……。 沙都子(高校生夏服): 見つかった場所がまちまちだったのは、該当者の薬品に対する適性とやらですの? 灯: だろうね。身体に毒が回ると言っても、身長や体重での個体差は無視しがたい。 沙都子(高校生夏服): となると、梨花も含めて被害者全員が小柄だったのも偶然じゃなさそうですわね。そういう成分は確か、空気より重いので……。 灯: あはは、よく覚えていたね!現状の被害者が1年に集中していたのは、年齢的に背の低い子が多かったせいだろう。 灯: 部屋から有害な成分がしみ出していても、空気より重いので身長が高い教師や生徒は鼻や口に成分が入らないので気づかない。 灯: だが低身長の生徒の場合、少し屈んだだけで成分が目や口に入ってしまう……。 梨花(高校生): あ……確か私、半地下の倉庫の辺りで何か見つからないか、ってしゃがんで探していて……っ。 灯: おそらくその時に吸い込んだのだろうね。よく見つけてくれた……そして。 灯: 謝らせてほしい。私の身勝手な依頼のせいで、苦しい思いをさせることになった。 灯: 巻き込んでしまって、申し訳ない。 沙都子(高校生夏服): 会長さん、それは……。 梨花(高校生): ……。生徒会長も、反省することがあるんですね。 沙都子(高校生夏服): ちょっ、梨花ぁ?! 梨花(高校生): 後遺症もないみたいですし、お気になさらず。 灯: はは、梨花くんが元気なようで安心したよ。では、私はこれで。今度改めてお礼をすることにしよう。 灯: ……後は任せてくれ。それじゃ。 沙都子(高校生夏服): 行ってしまいましたわね……後は任せてとは、何をするつもりやら。 梨花(高校生): ねぇ、沙都子……。 沙都子(高校生夏服): なんですの? 梨花(高校生): もう『鬼隠し』は起きないわ。だってもう3年も起きていない……そうでしょう? 沙都子(高校生夏服): …………? 沙都子(高校生夏服): ……あっ! もしかして梨花、私が『鬼隠し』の解決に繋がるヒントを今回の一件で見つけようとしている……とでも思いましたの? 梨花(高校生): ……違ったの? 沙都子(高校生夏服): 違いますわよ。だってあの#p雛見沢#sひなみざわ#rとこのルチーアでは、状況も何もかもが大違いですもの! 沙都子(高校生夏服): ルチーアで起きた『神隠し』の理屈が、あの村で起きた『鬼隠し』にも当てはめることは不可能だって、私でも理解できますわ。 梨花(高校生): ……じゃあ、どうして?なんでこの事件に興味を示したの? 沙都子(高校生夏服): それは、その……。 沙都子(高校生夏服): ……パズルみたいだと思ったからですわ。 梨花(高校生): パズル……? 沙都子(高校生夏服): 勉強のように義務化されていないゲームで、以前のように梨花と一緒に同じことをあれこれ考えたり、悩んだりして……。 沙都子(高校生夏服): パズルを解くみたいに、この事件に梨花と挑んでみたかった……それだけですの。 梨花(高校生): 沙都子……。 沙都子(高校生夏服): あ……この話はナイショでしてよ。他の被害者の方に聞かれたら、怒られそうですわ。 梨花(高校生): くすっ……もちろんよ。 沙都子(高校生夏服): ところで梨花は、どうして私を置き去りにして調査をしたんですの?一緒に行けばこんな事態は防げたはずですのに。 梨花(高校生): 置き去りにしたつもりはなかったの。ただ、思いついたからにはちょっと自分で先に確かめておきたかったのと、それに……。 沙都子(高校生夏服): 梨花ぁ……? 梨花(高校生): ……って。 沙都子(高校生夏服): なんですって? 梨花(高校生): 先に真相に辿りついて。沙都子を悔しがらせたかった、というか……。 沙都子(高校生夏服): はぁ? つまり私に「どうだ凄いだろう」と見栄を張ろうとして倒れたというわけですの?それはちょっと呆れましてよ……。 梨花(高校生): た、倒れるとまでは思ってなかったのよ! 沙都子(高校生夏服): まったく……梨花ってば、昔から地味ぃ~に見栄っ張りでしたわね。忘れかけていたけど、思い出しましたわ。 梨花(高校生): うぅうぅうっ……! 沙都子(高校生夏服): でも……凄いですわ。 梨花(高校生): えっ? 沙都子(高校生夏服): あなたが見つけてくれなければ、次々と被害者が出ていましたわ……頑張りましたわね、梨花。 梨花(高校生): ……えぇ。私、頑張ったわ……わっ! 沙都子(高校生夏服): をーっほっほっほっ!偉い梨花の頭を撫でてさしあげましてよ~! 沙都子(高校生夏服): でも……背の高い私が同行していれば梨花一人でぶっ倒れるようなことなんて起こらなかった事実は忘れないでくださいまし! 梨花(高校生): わ……わかったわよ。次は、沙都子と一緒に調べるって約束するわ。 沙都子(高校生夏服): あら、生徒会長の依頼受けてもいい気になりましたの?あんなに嫌がっていましたのに……。 梨花(高校生): ……時々なら、ね。 梨花(高校生): それより沙都子、よく見つけてくれたわね。あまり覚えていないけど見つけにくい場所に隠れていたんでしょう? 沙都子(高校生夏服): 当然ですわ! 私、梨花のことならなんでもわかっておりましてよ~!