Part 01: 魅音(冬服): いやー、同じ雪の多いところでもこの町は#p雛見沢#sひなみざわ#rにないお店が多くていいね。見るだけのつもりが、つい色々と買っちゃったよ。 レナ(冬服): 色々とお店を案内してくれてありがとう、名雪さん。かぁいいものがいーっぱいで嬉しいなっ。はぅはぅ♪ 名雪: ううん。喜んでくれたんだったらわたしも嬉しいよ。 美雪(冬服): ん-……だからって魅音、いくらなんでも買いすぎでしょそれは。両手に抱えてるそれ、全部ボードゲーム? 魅音(冬服): まーねっ。私の持っているやつって、わりと年季が入ったものばっかりだったからさ。そろそろ新しいのが欲しいと思っていたんだよ。 梨花(Kanon): みー。雪が降って外で遊べない時は、誰かの家に集まってゲームするのが楽しいのですよ。 美雪(冬服): あ、そっか。魅音たちにとってゲームは非電源のこと……って、痛っ!今足蹴ったでしょ、菜央?! 菜央(冬服): ……余計なことを言わないの、美雪。また時代なんとかで突っ込まれたいの? 一穂(Kanon): あ、あはは……。 沙都子(冬服): それにしても、面白い雑貨屋さんでしたわね。品揃えもそうですが、見かけないものが山盛りてんこ盛りでしたわ。 梨花(Kanon): みー。面白すぎて、レナと菜央をお店から引き剥がすのが一苦労だったのですよ。 レナ(冬服): だってだって、とってもかぁいくて珍しいものがい~っぱいあったんだもん! 菜央(冬服): ぱっと見は古いお店だったけど、なかなかセンスがよかったわ……。また、この町に来てもいいかも……かも。 一穂(Kanon): ちょっと、お店で騒ぎすぎだったかもしれないけど……店長さんがいい人でよかったね。 名雪: じゃあ案内したお店の中で、雑貨屋さんが一番楽しかった? 魅音(冬服): あ、私はあの喫茶店……『百花屋』だっけ?そこがゲームと同じくらいによかったよ。内装とかメニューとか、参考になったしね。 魅音(冬服): 特に、名雪さんが好きだと言っていたイチゴサンデーが最高だったし……雛見沢に戻ったら、うちの店で再現してみたいね。 名雪: 喜んでくれて何よりだよ。でも……参考? 再現ってどういうこと? 魅音(冬服): あ、言ってなかったっけ。うちの親戚ってファミレスを経営して、私はそこでたまにバイトをしているんだよ。 名雪: そうなんだ。魅音ちゃんの働いてるファミレスって、どんな感じのお店なの? 魅音(冬服): 地元以外でも、結構な人気店なんだよ。可愛い服を着たウェイトレスが、お客様に癒しと安らぎを与えることをモットーにしていてねー。 美雪(冬服): ……説明としてはあまり間違ってないとはいえ、どうにも釈然としないものを感じるのは私だけかい? 菜央(冬服): 「可愛い」という点はまさにその通りじゃない。……ちょっと攻めすぎてるって印象はあるけどね。 名雪: いいなぁ。わたしってアルバイトをしたことがないから、ちょっと憧れちゃうよ。 魅音(冬服): あれ、そうなんだ。ひょっとして校則で、バイトが禁止とか? 名雪: そういうわけじゃないんだけど……わたしは陸上部の部長だから、練習とかを優先してると、どうしても時間がないんだよ。 沙都子(冬服): あら、名雪さんって陸上部だったんですの?道理で以前、学校に急行した時もずいぶん足が速いと思っておりましたわ。 名雪: そうかな?やっぱり毎朝学校までダッシュで行ってるのが、いい鍛錬に繋がってるのかもね。 一穂(Kanon): (それっていつも朝起きるのが遅いから、自然とそうなってるだけじゃ……?) レナ(冬服): はぅ~、名雪さんが学校でどんな練習をしているのか、レナも見てみたいな~♪今度放課後に学校へ行ってもいいかな、かな? 名雪: もちろん、大歓迎だよっ。……あ、でも部外者は許可がいるかもだから今度先生に聞いてみるね。 美雪(冬服): 夜の学校にはこの前、無断で入っちゃったけどねー。まぁ、緊急事態だからノーカンってことで……ん? 羽入(Kanon): …………。 美雪(冬服): どうしたの、羽入?さっきからずいぶんと静かだけど、身体の調子でもよくないの? 羽入(Kanon): あぅっ?いえ、別に……なんでもないのですよ。 梨花(Kanon): ……みー、羽入。もし何か「異常」を感じているのなら、遠慮なく言ってくださいなのです。 羽入(Kanon): あぅあぅ、大丈夫なのです。ほんとに何も心配はいらないのですよ。ただ……。 羽入(Kanon): (この波動の感じ……近くから接続の気配が伝わってくるのです。ということは……?) 梨花(Kanon): ……? どうしましたか、羽入? 羽入(Kanon): ……ごめんなさいなのです梨花、それにみんな。僕はこの近くにひとりで行きたい場所があるので、ちょっとだけ失礼しますのです。では――。 美雪(冬服): あ、羽入っ……って、行っちゃった。 一穂(Kanon): どうしたんだろう、羽入ちゃん……?梨花ちゃんとも離れて別行動なんて、珍しいね。 梨花(Kanon): 羽入……。 Part 02: 羽入(Kanon): っ、はぁ……はぁ……!波動の流れは、確かこの辺りから……、っ? 羽入(Kanon): この切株……切り倒されてから少し時間がたっているけど、かなりの力がここから伝わってくる……。 羽入(Kanon): ひょっとしたら、これが#p田村媛#sたむらひめ#r命の言っていた接続の中継点のひとつ……だとしたら……。 羽入(Kanon): ……田村媛命、聞こえますか?もし繋がっているようなら、返事をしてくださいなのです。 …………。 田村媛命: ……何か用#p也#sなり#rや?接続は現状良好を保っている故、案ずることなきと知り給え。 羽入(Kanon): あぅあぅ、その点については心配していないのです。田村媛命、あなたのおかげなのですよ。 田村媛命: ふむ……? やけに殊勝かつ素直な態度かな。なんぞ異なことでも起きた也や? 羽入(Kanon): おかしなこと、というのは少し違うのです。……ただ、あなたの意見を聞きたいと思ってこうして交信をさせてもらったのですよ。 田村媛命: ……。そちらでの混線のことであれば、我輩の手落ちにあらず#p哉#sかな#r。 田村媛命: そも、ヒトに限らず万物の複雑な意思が介在する「波動」による接続には、確固たる回線があっても若干の「ゴミ」が混ざるのは致し方なき事也や。 田村媛命: 故に、#p雛見沢#sひなみざわ#rに戻りて元の状態に復帰すれば装いや外見の異常は解消される哉。その点については我輩が保証する也や。 羽入(Kanon): もちろん僕も、そうだとわかっています。この服が誰かの意思によって変化したことも、別に不快には感じていないのですよ。 羽入(Kanon): ですが……魅音のもとへ手紙を送り、僕たちをこの地に連れ出したのはいったい何者なんでしょうか……? 田村媛命: …………。 田村媛命: いくつか、思い当たる節は存在する哉。されど、そなたに教えるわけにはいかぬ也や。 羽入(Kanon): っ……それは、僕があなたにとって憎んで余りある相手だから、ですか……? 田村媛命: ……違う。また、これは我輩の意地や秘密主義によるものでも無き哉。 田村媛命: 故に誤解せぬよう、素直に受け止め給え。……これは、そなたに対する情けでもある也や。 羽入(Kanon): 情け……?それは、どういう意味なのですか? 田村媛命: …………。 田村媛命: 今のそなたは、神であって神にあらず。……それが、我輩が告げられる精一杯の真実哉。 田村媛命: また、黒幕が何者かを突き止めてもその先には何も存在せぬ也や。……今は流れに従うが善きと知り給え。 羽入(Kanon): あぅあぅ、あなたの言うことはいつもわかりづらいのです……!なぜそんな、妙な言い回しをするのですか? 田村媛命: 異なことを申す哉。これはそなたと初めて邂逅し時より続く、我輩の言葉也や。 田村媛命: 理解が及ばぬのは、そなたと我輩との間で交わされる翻訳が、十全に働かぬが所以哉。我輩とて、意地悪で申しているのでは無き也や。 羽入(Kanon): ……っ……! 田村媛命: あと、そなたが珍しく殊勝に接する故、これだけは申しておく也や。 田村媛命: 我輩は、そなたのことを嫌っているし疎んでもいるが……憎んではおらぬ哉。 田村媛命: ……精々そなたのこの旅、愉しむがよき也や。あの土地から動けぬ角の民の長にとって、残りどれだけ満喫できるか不明である故――。 羽入(Kanon): あっ……ま、待ってくださいなのです田村媛命っ……?まだ、あなたに聞きたいことが――! 田村媛命: …………。 田村媛命: 憎んではおらぬよ、角の民の長。……いや、※※※。 田村媛命: ……奇跡を得た先に必ず幸福があると、我輩も信じよう。それが後に、そなたは――。 Part 03: 羽入(Kanon): 消えた……#p田村媛#sたむらひめ#r命っ? 田村媛命?! 羽入(Kanon): ……。もう話すことはない、そう言うことなのですか……? 羽入(Kanon): …………。 羽入(Kanon): ……帰りましょう。梨花が心配しているのです。 羽入(Kanon): はぁ………。 羽入(Kanon): (手紙の主は、僕に関係している?でも、だとしたらどうして#p雛見沢#sひなみざわ#rではなく、わざわざこの町に……?) 羽入(Kanon): (わからない……わからないことだらけです) 羽入(Kanon): (どこからか、ピアノの音が聞こえてくる……何度も同じ旋律を繰り返しているようだけど、進むごとに少しずつ変わっていくような……) 羽入(Kanon): (なんだろう、この曲は……。この終わりはどこに繋がって、どうなっていくんだろうか……?) あゆ: っ……うぐぅ!? 羽入(Kanon): あぅあぅっ……?! 羽入(Kanon): い、いたたた……。 羽入(Kanon): (か、顔を地面に思いっきりぶつけたのですよ……!) 羽入(Kanon): (田村媛命! 「人形」にここまでの痛覚が必要なのですか……?!) 羽入(Kanon): (いや、それよりいったい何が起こって……?!) 梨花(Kanon): 羽入っ……! 羽入(Kanon): り、梨花……? 梨花(Kanon): どうしたのですか、羽入……?もしかして、この子とぶつかって転んでしまったのですか? あゆ: うぐぅ……。 羽入(Kanon): わぁぁぁ?!ご、ごめんなさいなのですよー! あゆ: う、ううん……ボクも悪かったよ。前を、よく見てなかったから……。 梨花(Kanon): みー。大丈夫なのですか? あゆ: うん……本当にごめんね。そうだ、ぶつかったお詫びに1つあげる! 梨花(Kanon): たい焼き……? あゆ: じゃあねっ! 羽入(Kanon): えっ、えっ……?! 梨花(Kanon): ……行っちゃったのですよ。羽入、あの子は何なのですか? 羽入(Kanon): あぅあぅ……僕にぶつかって、たい焼きを渡して走り去っていた人……? 梨花(Kanon): そんなのは、見ればわかるのですよ。ボクが聞きたいのは――。 魅音(冬服): おーい、梨花ちゃーん! レナ(冬服): 羽入ちゃーん! 羽入(Kanon): あぅあぅ……?どうしたのですか、みんな? 一穂(Kanon): 急に一人で行動したいって言うから、どこに行ったのかと思って探してたんだよ。……よかった、すぐに見つかって。 羽入(Kanon): あぅあぅ……ご、ごめんなさいなのですよ……。 菜央(冬服): にしても、どうしたのよ羽入。その手に持ってるたい焼きは。 羽入(Kanon): え? 梨花(Kanon): ぶつかった女の子に、お詫びとしてもらったのですよ。 名雪: たい焼きを……? 沙都子(冬服): あらあら……それは面白い旅の思い出ができましたわね。 羽入(Kanon): ……旅の思い出? 魅音(冬服): まぁ、旅先で単独行動をして結局迷子になっちゃうって、ありがちな旅の出来事だよねー。 沙都子(冬服): をーっほっほっほっ! 羽入さんは旅に慣れていないようですし、今後は地図を持ち歩いたほうがよさそうですわ~。 羽入(Kanon): ……。思い出、ですか……。 羽入(Kanon): (……そうだ。この旅の間、ずっといろんな騒動の黒幕のことが気がかりで、そのことばかり考えていて……) 羽入(Kanon): (せっかくの旅行なのに、楽しい思い出を作ることに全然意識が向いていなかった……) 美雪(冬服): どうしたの、羽入。それ、食べないの? 羽入(Kanon): ……このたい焼き、みんなで食べませんか? 沙都子(冬服): お気持ちはありがたいですが、みなさんで1口ずつ食べたらあっという間になくなってしまいますわ。 羽入(Kanon): ……あはは、それもそうなのです。 名雪: じゃあ、たい焼き買いに行かない?この先に屋台がよく出てるから。 美雪(冬服): おぅ、いいね! 行こう行こう! 羽入(Kanon): …………。 羽入(Kanon): (どれだけ考えても、誰がこの状態を招いたのか……僕にはわからない) 羽入(Kanon): (でも、みんなで食べたたい焼きはとてもおいしかった……) 羽入(Kanon): (だとしたらやはり、田村媛命の言う通りこの旅を楽しむべきでしょうか……) 羽入(Kanon): (雛見沢から出られないはずの僕が手に入れた、奇跡のようなこの旅を……)