Part 01: 沙都子(高校生私服): 梨花ぁ、こっちですわ~!早く来ないと、置いていってしまいましてよ~♪ 梨花(高校生私服): ま……待ってよもう、沙都子ってば……! ご機嫌全開の沙都子のもとへとなんとか辿り着き、私は肩で息をつきながら乱れた呼吸を整える。 スポーツ万能、体力自慢の彼女と違って、最近はインドア活動が主流になっている私にはついていくだけでも一苦労だ。 久しぶりの連休、そして外出ということではしゃぎたくなる気持ちは大いに理解できる。まぁ、できるけど……。 休みが終わってから筋肉痛だの、倦怠感だのでぐったりしてしまうことが容易に予想できる立場としては正直少し、いやかなり加減してもらいたいと心底思う。 沙都子(高校生私服): あらあら、梨花。昔よりもずいぶん体力が落ちたんじゃありませんの?ちょっと走った程度で、もうへばってしまうなんて。 梨花(高校生私服): あなたが強くなりすぎなのよ……!学園内のマラソン大会でもぶっちぎりで優勝するような体力オバケに、かなうはずがないじゃない……! ようやく落ち着いて話ができるようになった私は、さすがに腹が立って悪態交じりの反論をぶつける。 実際、沙都子は様々な体育会系クラブからことあるごとに助っ人として呼ばれるくらいで、もはや運動では相手になる気がしない。 特に、陸上に至っては県大会にも出場してありとあらゆる競技でめざましい結果を出し……他校の生徒や関係者の度肝を抜いていた。 「あの、運動とは無縁なお嬢様学校にこんな逸材が……?!」 「まさにダイヤの原石だ……!卒業したら、ぜひうちのチームに!」 経験の差もあって、惜しくも全国出場は逃したが……大学や社会人の監督コーチ陣がこぞって彼女に殺到し、なかなか解放してくれなかったほどだ。 ただ、文武両道のお墨付きをもらったことで学園上層部の沙都子に対する好感度は上がり、待遇は若干良くなった……ような気がする。 実際、連休中とはいえダメで元々と申請した外出許可があっさり受理されたと聞いた時は、思わず我が耳を疑ってしまった。 そんなこんなで私たちは今日、魅音からもらった特待パスで5周年を迎えた遊園地を満喫させてもらっていた。 梨花(高校生私服): それにしても、沙都子。寮に帰ってからも予習と復習がどっさりの毎日の中で、よく身体を鍛える余裕なんてあったものね。 沙都子(高校生私服): をーっほっほっほっ!別に鍛えるだなんて、そんな大がかりな運動はやっていませんわ。 沙都子(高校生私服): せいぜい早朝や夕方の合間、軽く気分転換程度にジョギングや筋トレ、ストレッチをまんべんなくやっているだけでしてよ。 梨花(高校生私服): ……県大会であなたに負けて悔しがっていた子たちには、とても聞かせられない台詞ね。 「本気で運動に取り組めば、どれだけ伸びるかわからない」……と、たまたま観客席の隣にいた強豪校の監督がそう話していたことを思い出す。 梨花(高校生私服): (正直、最近の沙都子を見ているといったいどれだけのポテンシャルを秘めているのか、空恐ろしくなることがあるのよね……) 学力の伸びに加え、#p雛見沢#sひなみざわ#r時代から小さな身体でホームランをかっ飛ばしていたほどの運動神経は、今や全国レベルに達していると言っても過言ではない。 私が聖ルチーア学園に沙都子を誘ったのは、高校生になっても一緒にいたいという勝手な思いがそもそもの動機であったのだけど……。 そこで自信と実力を手に入れた沙都子は、まるで雛が鳳凰にでも成長したかのように大変貌を遂げた。 その成長と、以前より明るくなった彼女を間近で見ていられることは、素直に嬉しい。その気持ちに、決して嘘偽りはない……ただ……。 あまりにも変わりすぎた彼女の姿を目の当たりにしていると、置いていかれるかもという不安というか……一抹の寂しさを胸の内に覚えずにはいられなかった。 梨花(高校生私服): ……ねぇ、沙都子。もし大学に行ったら、本気で何かの運動部に入ってみたいと思っていたりする? 沙都子(高校生私服): ? 何ですの、藪から棒に。確かに身体を動かすことは全般的に好きですけど、全てを投げ打ってまでやりたいとは思いませんわ。 沙都子(高校生私服): 県大会も、頼まれて出場しただけですし……そういういい加減な気持ちでいる私の姿勢では、他の選手の方々に失礼というものでしてよ。 梨花(高校生私服): ……そう。 今の発言を聞いて、なんとなく思う。さっきは経験不足から体力配分を間違えて、惜しくも全国出場を逃したと自分でも言ってみたが……。 沙都子がゴール直前、急に失速したように見えたのは……もしかして……。 沙都子(高校生私服): ……梨花? 梨花(高校生私服): っ……なに、沙都子? 沙都子(高校生私服): いえ、急に黙り込んでしまいましたからどうしたのかと思いまして。 梨花(高校生私服): 別に、何でもないわ。ちょっと別件で気になることを思い出しただけよ。 沙都子(高校生私服): そうでしたの?もし私で何かお手伝いができるようなことでしたら、いつでも遠慮無く言ってくださいましね。 そう言って沙都子は、屈託のない笑顔を私だけに向けて返してくれる。 この顔を間近で見られるだけで、私は十分だ。くだらない邪推なんて意味が無いし、必要ない。そう思って私は、余計な考えを頭から追い出した。 梨花(高校生私服): くす……ありがとう,沙都子。今後も頼りにしているわね。 沙都子(高校生私服): えぇ、もちろん!……まぁ、それはさておき梨花と久々に遊ぶせっかくの遊園地デートですし、せいぜい満喫させてもらいましてよ~! 梨花(高校生私服): そうね。一杯楽しみましょう。 沙都子(高校生私服): ……と、その前に野暮用を済ませてきますわ。ちょっとここで待っていてくださいまし。 梨花(高校生私服): あら、どうしたの? 沙都子(高校生私服): 綺麗なお花を摘みに行ってまいりましてよ~、をーっほっほっほっ! そう言って遠くに駆けていく沙都子を見送り、私は改めて園内に目を向ける。 園崎家の投資によって生まれ変わったこの遊園地も、早いもので5周年を迎えることになった。 今流行の絶叫マシンといったものはほとんどなく、アトラクション設備は比較的おとなしめのものが大半を占めているが……。 その分、色々な季節イベントやキャラクター企画をふんだんに取り入れており、現在では中部地方でも指折りの人気スポットとして大勢のお客を集めていた。 梨花(高校生私服): (きっと今頃、魅音と詩音はピノキオのように鼻高々な顔でいるんでしょうね……) その誇らしげな表情が目に浮かぶようで、私は思わずくすっ、と吹き出してしまった。 ……と、その時。 菜央:天使: きゃっ……? ふいに背中へ、何かがぶつかってきた軽い衝撃。 少し遅れて振り返ると、そこには地面に尻餅をついて顔をしかめている女の子の姿があった。 Part 02: 梨花(高校生私服): 大丈夫? 怪我はないかしら。 菜央:天使: っ、はい……ぶつかって、すみません。遅れそうと思って時計を気にしてたら、ついよそ見しちゃって……。 梨花(高校生私服): 気にしないで、こちらも不注意だったわ。……立てる? 支えてあげるわ、ほらっ。 菜央:天使: あ、ありがとうございます……。 女の子はおずおずと私の手を取り、よいしょとかけ声とともにその場を立ち上がる。 そして、ぱんぱんとスカートについた汚れを払ってから……私に向けてぺこり、と頭を下げていった。 菜央:天使: ご迷惑をおかけしました。……それじゃ。 梨花(高校生私服): えぇ、気をつけてね。 そう言って笑いながら手を振ると、彼女もにっこりと笑顔で応えてくれて……くるりと踵を返し、足早に去っていく。 私は、その可愛らしい姿に微笑ましさを覚えたが……ふとこみ上げてきた違和感に気づき「あれ……?」と小首を傾げた。 沙都子(高校生私服): 梨花ー、お待たせしてごめんなさいですわ。お手洗いがちょっと、混んでいましたのよ。 沙都子(高校生私服): って……どうしたんですの、梨花?ぼんやりと立ちすくんで、何かありましたの? 梨花(高校生私服): あ、えっと……さっきここで私にぶつかってきた子が、菜央とよく似ていたな……って思って。 沙都子(高校生私服): 菜央さん……? あぁ、#p雛見沢#sひなみざわ#rで仲良くなった東京からの転校生グループのひとりですわね。 梨花(高校生私服): えぇ……その子よ。一瞬だったから、すぐには気づかなかったけど。 沙都子(高校生私服): ひょっとして、菜央さんもこの遊園地に?私もお会いしたかったですわぁ~! 沙都子(高校生私服): 私たちのひとつ下でしたから、きっとすごく綺麗に成長していたんでしょうね! 梨花(高校生私服): ……ううん。あの時の、ままだった。 沙都子(高校生私服): えっ……? 梨花(高校生私服): 格好も同じだったわ。あの時、沙都子と一緒に出演したイベントの衣装で……。 魅音(私服): というわけで……天使役は沙都子と菜央ちゃんで決定! 魅音(私服): 2人にはほんっと、迷惑をかけることになるけど……よろしく頼むね。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ、それはもう言いっこなしですわ~! 沙都子(私服): 決まったからには、全力で!素敵な天使を派手に演じてみせましてよ~! 菜央(私服): えぇ、そうね。一緒に頑張りましょう、沙都子っ。 沙都子(私服): こちらこそ、ですわ。……まぁ菜央さんは、私よりレナさんとご一緒に出たかったかと思いますけどね。 菜央(私服): それを言い出したら、沙都子だって梨花とコンビの方が盛り上がったでしょ?他には、詩音さんと組むとか……。 沙都子(私服): ……詩音さんだけは、ご遠慮願いますわ。練習ではなく修行、もしくはスパルタ特訓になることが確実ですのよ。 菜央(私服): そ、そう……?仲が良すぎるのも、考えものね……。 沙都子(私服): それはそうと、菜央さん。せっかく天使を演じることですし、ここは圭一さんにも協力してもらうというのはいかがでして? 菜央(私服): 前原さんの、協力……?それは構わないけど、何をするつもりなの? 沙都子(私服): をーっほっほっほっ! 天使と悪魔の共演となれば、やることはひとつしかありませんのよ~。 Part 03: 魅音(魔女): それじゃ……いよいよ本番だ!天使チームに悪魔チーム、よろしく頼んだよ~! 沙都子(天使): をーっほっほっほっ、了解ですわ!魅音さんたちのご期待に応えて、最高のパフォーマンスをお客様に披露してみせましてよ~♪ 沙都子(天使): 菜央さんも、準備の方はよろしくて? 菜央(天使): えぇ、もちろん!戦う天使として、立派にレナちゃんを守ってみせるんだから! 美雪(私服): おーい、菜央。くれぐれも言っておくけど、あんまりレナのことばかりを気にしすぎて自分を見失ったりしないようにねー。 菜央(天使): 何いってるのよ、美雪。あたしがレナちゃん絡みで我を失ったことなんて、もう見飽きるほどに見てきたでしょ? 美雪(私服): おぅっ……この子、ついに開き直ってきやがったよ。 美雪(私服): とりあえず千雨、菜央が暴走しそうになったら止められるのがキミだけだ……って、あれ?もうすぐ本番なのに、なんで着替えてないのさ? 千雨: ……あとちょっとだけ、待ってくれ。今、着替えるための覚悟を決めてるところだから。 美雪(私服): んな悠長なことをいってる場合じゃないって!レナ、魅音、詩音! 千雨を大急ぎで変身させるよ! 千雨: ぅおっ……ちょ、ちょっと止めろ!お前ら全員、セクハラで訴えるぞぉぉっっ?! 梨花(堕天使): ……みー、千雨も存外度胸がないのです。 羽入(私服): あぅあぅ、あのきわどいドレスを着ろと言われたら誰だって躊躇してもおかしくないのですよ~。 菜央(天使): あら、そうかしら?千雨の意見を汲んで、初期案よりずっと布多めのおとなしいデザインにしてあげたんだけど……。 羽入(私服): ……初期案がどんなにすごいものだったのか、知るべきではないけどちょっとだけ興味があってでもやっぱり知りたくはないのですよ。……あぅあぅ。 菜央(天使): それじゃ、あたしたちはまずステージでの登場ね。前原さんもしっかり、ヒーローらしく格好いいところを見せてくれるのを期待してるわ! 圭一(キャスト): へへっ、任せておけって! 菜央(天使): 『さぁ、覚悟しなさい!あたしたちツインエンジェルスが、あなたたちの汚れた心を綺麗にしてあげるわ!』 菜央(天使): 『行くわよ、シャインエンジェル!』 沙都子(天使): 『をーっほっほっほっ!もちろんですわブライトエンジェル!私に任せてくださいまし!』 千雨: 『くっ……お前たちの思い通りになると思うなよ!ブラックレディ、私に合わせろ!』 梨花(堕天使): 『みー、了解なのですよ……!悪魔には悪魔の意地があることを、あの子たちに教えてやるのです!』 女の子A: 頑張れー、ツインエンジェルズ! 男A: ブラックペアも、負けるなー!そんなニセヒーローども、蹴散らしてしまえ! 男B: ……あ、天使2人は見逃していいから。男だけ叩き出して、みんな仲良くー! 圭一(キャスト): お……おいおい、これじゃ俺が悪者扱いじゃねぇか……? 菜央(天使): 『……そうね、わかったわ。だとしたら、あたしたちのやるべきことはひとつ!』 沙都子(天使): 『悪を討って、正義を見せる!』 梨花(堕天使): 『そして、ここでの悪は……!』 千雨: 『お前だぁぁぁああぁぁっっ!!』 圭一(キャスト): ごはぁああぁぁっ?!だ、台本と違うぞ……がくっ……! 沙都子(高校生私服): あの時のステージ、意外に大盛り上がりでしたわね。観客席の子どもたちはもちろんですが、かなり年上の大人の人たちも喜んでくれるとは思いませんでしたわ。 梨花(高校生私服): いわゆる大きな子どもたちってやつでしょうね。……確かに、怒号のような感じで客席から応援されるとは思ってもみなかったわ。 沙都子(高校生私服): 梨花は堕天使の役で悪の側でしたのに、ダメージを受けて倒れると「もうやめてやれー!」、「お前には人の心がないのかー?」などと……。 沙都子(高校生私服): 主に圭一さんに向けて、非難が囂々でしたものね。……あれには私たちも驚きましてよ。 梨花(高校生私服): くすくす……まったくよね。 沙都子(高校生私服): ……。ねぇ、梨花。 梨花(高校生私服): なにかしら? 沙都子(高校生私服): 私……今になって、思いますのよ。あんな風にムチャクチャだけど、皆さんでやり遂げた楽しい体験や思い出があったから、私……。 沙都子(高校生私服): いえ、私たちはどんなに辛くて苦しいことがあっても頑張って、耐えて……乗り越えることができた。 沙都子(高校生私服): ですから今、こうして梨花と一緒に楽しくて幸せな時間を送ることができているのは#p雛見沢#sひなみざわ#rの仲間たちがいてくれたから……。 沙都子(高校生私服): だから私、そんな優しい人たちの期待に応えるためにこれからも頑張っていくつもりですのよ。 梨花(高校生私服): 沙都子……。 沙都子(高校生私服): というわけで……早速ヒーローショーを見に行きましてよ! 沙都子(高校生私服): 詩音さんの話ですと、今年は可愛い子がヒロイン役を演じるそうですわ。見るのがとても楽しみですわ~♪ 梨花(高校生私服): くすくす……それは面白そうね。早速ステージに行ってみましょう。