Prologue: 圭一(囚人): う、ぅう……ぅ? 鈍い痛みを頭の中に覚えながら、意識を取り戻した俺が目を開けると……そこは、見たことのない場所だった。 圭一(囚人): こ、ここはどこだ……? 固くて冷たい地面はごつごつしていて、砂利と土の感触が肌に貼りついてくる。 ずいぶん長い間横たわっていたのか、身体は冷え切って……強ばった関節が、動かすたびに痛んだ。 圭一(囚人): ……っ、ぐ……。 腕を突っ張って身体を起こし、辺りを見渡す。薄暗がりの中で目に映るのは……洞窟、とでも呼ぶべきなのだろうか。 どこにも窓らしきものがないので、外の様子はわからない。今が昼なのか、あるいは夜なのかも……。 わずかに揺らめく灯りで辛うじて見えるのは、土の床と岩の壁……ただ、それだけだった。 圭一(囚人): なんだよ、これは……?いったい俺は、どうしてこんなところに……? 圭一(囚人): って、ななっ……?! 視界を遮る柵のようなものの存在に気づいた俺は、身を乗り出してそれを掴む。 それは、美しく規則的に並んだ鉄格子。押してもひいても全くびくともせず……俺の行く手を頑丈に、容赦なく阻んでいた。 圭一(囚人): な……なんだよ、こりゃ……?こんなのまるで、……牢獄じゃねえか。 圭一(囚人): っていうか、この格好……っ? そこで俺は、自分の着ていた服が見たこともないものに変わっていることにようやく気づく。 黒い線がいくつも引かれた、薄汚れた白い服……まるで映画で見た、囚人服だ。 圭一(囚人): な、何がどうなっているんだよ……? 圭一(囚人): 俺は、こんなところに閉じ込められる心当たりなんかねぇぞ!おい、誰か! 誰かいねぇのかっ?! 俺は両手で鉄格子を握り、必死の思いで激しく揺さぶりながら闇に包まれた先に向かって叫ぶ。 この姿を悪意あるやつが見たら、まるで、動物園でわめく猿のようだと嘲笑ったかもしれない……。 だけど、そんな体裁なんてどうでもいい。とにかく今は、一刻も早くここを出る――それ以外は何も考えられなかった。 圭一(囚人): にしても、なんでだ……?どうして俺は、こんな牢獄みたいなところに閉じ込められることになったんだ?! 圭一(囚人): ちくしょう、何も思い出せねえ……! 頭を抱えて記憶をほじくるように探ってみても、まるで心当たりがない。 自分をここへぶち込んだのはどんなやつらなのか、そもそもどうやって連れ出したのか……? すっぽりと穴が開いたように、呼び起こされるものが何ひとつとして存在していなかった。 圭一(囚人): おおぉいっ、誰かいないのかぁぁ!!助けてくれぇぇ!! 圭一(囚人): 誰か、誰かぁあああああっ!!!! 俺は必死に、声を張り上げる。 目覚めたばかりで乾いた喉のせいで時折むせながらも、血が迸るかと感じるほどに何度も、何度も……。 …………。 だけど、……叫んだ後にどれだけ耳を澄ませても戻ってくるのは壁に反響する、自分の声だけ。 他人の声や足音はおろか、気配すら……ない。 正真正銘、この閉ざされた場所でたった1人きりであることを……いやが上にも理解せざるを得なかった。 圭一(囚人): う、嘘だろ……っ……? 驚愕と絶望に打ちひしがれながら、俺はがくり……とその場に崩れ落ちる。 叫ぶのを止めると、重くのしかかる沈黙……耳の奥で何かが流れるような響きを感じて、思わず気が遠くなりかけた。 圭一(囚人): な、何が起こったんだ……?何もわからねぇ、思い出せねぇ……! 圭一(囚人): っ、……う、うぅうっ……っ! 闇に吸い込まれそうな意識を必死に支え、俺は荒い息をつきながら顔を……上げる。 俯いたままだと、みっともなく泣いてしまいそうだった。ただ、それだけは俺の矜持が許さない。 …………。 だけど、それもいつまで耐えられるか……正直言って自信がない。 無音と闇が支配する孤独の中、俺の精神がすでにじわりじわりと蝕まれつつあるのを否定したい一方で、……自覚していたからだ。 圭一(囚人): 誰か、誰か……! 圭一(囚人): 俺を……助けてくれぇええぇぇぇッ!! …………。 魅音: で……どんな様子だい、あの男は? 詩音: さっき見にいった時は、まだ気を失っている様子でしたよ。そろそろ目覚める頃だと思いますけどね。 魅音: くっくっくっ……あの中に放り込むまでに色々と面倒をかけさせられたが、ようやく年貢の納め時ってわけか。 詩音: くすくす……ですね。あとは煮るなり焼くなり、私たちの意思次第ってわけですよ。 魅音: ……とはいえ、ただ閉じ込めていただけじゃ面白味はないねぇ。 魅音: 最高の絶望を味わわせるには、上げて落とす演出ってのも必要だからさ……。 詩音: くっくっくっ……そう思って、ちょいと面白い仕掛けを用意してあげました。 詩音: 一瞬助かった、と希望を抱きかけた瞬間に、囚人を絶望へと叩き落とす……その時の彼の顔が、今から楽しみですよ……! 沙都子: っ、……ぅ、うぅっ……! 詩音: くっくっくっ……楽しみにしていてくださいね、囚人番号3105。もう間もなくあんたのお友達が、お隣に加わる予定ですから……。 沙都子: ……た、助けてくださいませ……!もう私、……はご勘弁ですのよ……!! 魅音: くっくっくっ……あーっははははははっっ!! Part 01: 詩音: はろろ~ん! みなさん、ご報告でー……。 詩音: す? 放課後の分校、満面の笑みを浮かべながら扉を開けて教室に入ってきた詩音さんは……その場で目を点にしながら固まっている。 一穂(バニー): ……うぅ、うぅうっ……。 そして、彼女の視線は……バニー姿で膝を抱えて涙ぐむ私をばっちりがっちりとらえていた。 詩音: ……えーっと、一穂さん。なんとなく経緯は想像できるんですけど、一応質問しておきますね。 詩音: どうしたんです、その格好?似合っているとは思いますが、さすがに読者サービスが過ぎると思うんですが。 一穂(バニー): そ、そんなつもりじゃないよっ!ただ、その……うぅっ……! 美雪: あー……一応解説をさせてもらうと恒例の部活で私たち、さっきまでカードゲームをしてたんだよ。 詩音: あ、やっぱり。それだけでわかりました。つまりは罰ゲームでその衣装ってことですね。 分校の生徒でなくとも、長い付き合いなので詩音さんは全てを理解してくれる。……全く有難くもないし、嬉しくもないけど。 詩音: それにしても、カードゲームって……確か一穂さんって、そのテのゲームが一番苦手って言っていませんでしたか? 菜央: あたしたちもそう思って、一度は止めたのよ。でも一穂が、代案に出した『ツクヤミ』バトルはもう嫌だ、って言い出して……。 魅音: そっちをやるくらいなら、ってカードゲームをやることになったんだよ。……で、結果がこの格好ってわけ。 一穂(バニー): ……う、うぅっ……! 詩音: ……前々からちょっと思っていたんですが、一穂さんってマゾ気質ですか?鴨ネギ理論の自爆行為にしか思えないんですけど。 一穂(バニー): きょ、今日は勝てるかもって思ったんだよ!それに……それに……! 確かにカードゲームが苦手なことは、十分に自覚していた。そして負ければ、恥ずかしい罰ゲームを受けることも……! 一穂(バニー): (でも……でも私は、みんなと普通の部活がしたかったんだよ……!) いくら自分有利に運べるとしても、『ツクヤミ』バトルは私の望んだ部活じゃない……違和感があるというか、ありまくりだ。 というわけで私は、本来あるべき部活の姿を望んだのだ……結果はご覧の通りだけど……。 レナ: はぅ~、でもウサギちゃんな一穂ちゃん、とってもかぁいいよぉ~♪ 詩音: いや、レナさんが喜ぶ流れはともかく……この格好はちょっとやり過ぎだと思いますよ。一穂さん、涙目じゃないですか。 羽入: あぅあぅ……一穂、大丈夫なのですか? 一穂(バニー): だ、大丈夫だよ……でも、でも……っ! 一穂(バニー): あと少しで、ビリは回避のはずだったのにぃぃっ!! 沙都子: ……衣装の恥ずかしさよりも、負けた悔しさが勝っているようですわね。 魅音: うんうん。一穂もわが部活の空気に馴染んできたみたいで、おじさんは嬉しいよ~。 沙都子: それを順応ととらえるか、あるいは洗脳と嘆くか難しい判断ではありますけどね……。 梨花: ……よしよし、一穂はよく頑張ったのですよ。 梨花ちゃんの小さな手が、私の頭を優しく撫でてくれる。……ただその温かさに、さらに悔しさが増してくる気分だった。 美雪: はいはい一穂、元気出して。帰ったらカードゲームで勝つコツをいくつか教えてあげるからさ。 菜央: カードゲームってのは、要するにだまし合いよ。あんたはもっと、相手の考えの先を読むことをちゃんと意識しなさい。 一穂(バニー): う、うん……。 魅音: ……んで詩音、あんたは何しに来たのさ?何か報告があるって言っていたみたいだけど。 詩音: あぁ、すみません。突然のバニーに気を取られちゃいました。……実は、皆さんにお知らせがありまして。 詩音: 先日、季節に合わせたエンジェルモートの新作料理と、ウェイトレスの限定コスを提案してもらったことを覚えていますか? 一穂(バニー): 新作料理と、限定コス……? 美雪: あれ……?ひょっとして忘れちゃったの、一穂? レナ: ちょっと前にみんなで話し合った件だよね。もちろん覚えているよ。 一穂(バニー): え、えっと……。 沙都子: 一穂さん……涙と一緒に、記憶まで流れてしまったんですの?まだ最近のことだったはずなんですのに。 一穂(バニー): ご、ごめんなさい……? なんとなく、そんな話し合いがあったような気がしないでもないけど……よく覚えていない。 とりあえず、話の腰を折るのも申し訳ないので詩音さんに説明を続けてもらうことにした。 詩音: その料理とコスが、予想以上の好評でしてね。#p興宮#sおきのみや#rだけでなく、穀倉のお店でも導入したところかなりの売上になっているそうなんですよ! レナ: はぅ……そうなんだ!確かあれって、美雪ちゃんと菜央ちゃんが色々とアイディアを出してくれたんだよね? 美雪: ま、まぁ……アイディアって言うより、東京で流行っているのを参考までに紹介しただけなんだけどね。 魅音: いやいや、謙遜しなくてもいいって。私たちが知らなかったことを、いっぱい教えてくれたんだからさ。 魅音: 冷たいスープやスパゲッティを提案された時なんて、絶対まずい!おいしくないッッ! 魅音: ……とか思っていたけど、意外や意外!すっごくおいしくて食べやすくて、おじさんたちは全員驚いちゃったよ! レナ: はぅ~、まさか牛乳の代わりにお豆腐として固める前の豆乳をそのまま使うなんて、思わなかったよ。 レナ: 豆乳ってクセがあると思っていたけど、味付け次第であんなに食べやすくなるんだね。 レナ: ほんのり甘いのに牛乳よりさっぱりしてて、とってもおいしかったよ~。はぅはぅっ♪ 梨花: みー。暑い夏といえば冷麺やそうめんが定番と思っていましたが、冷たいスパゲッティも季節にとても合っていたのですよ。 羽入: あぅあぅ……僕はあの木製のメニュー板にびっくりしたのです。 羽入: まるで窓を開けるようでワクワクして、写真の料理もとってもおいしそうに見えたのですよ~♪ 菜央: あれは、その……最近できたファミレスが導入してたのを、たまたま思い出したのよ。 沙都子: をーっほっほっほっ!今回のてこ入れ策は、まさに発想の勝利!お二人の大手柄でしてよ~! 美雪・菜央: あ、あははは……。 魅音さんたちが大絶賛してくれる一方で……美雪ちゃんと菜央ちゃんの視線が、明後日の方向へとふらふらと逃げていく。 私は、2人のアイディアに関わったわけではないのだけど……その出所を知るだけに、やはり若干の気まずさを感じていた。 沙都子: それにしても……菜央さんと美雪さんは、どこであんなアイディアを思いついたんですの?まるでプロの発想と着眼点でしたわ。 美雪: んー、それは……宇宙のどこかからの電波を受信して、閃いたというか……。 美雪: えーっと、そのなんだろう。サメのお告げ、そうサメの……ぐぶぇっ?! 歯切れの悪い口調で、なんとか答える美雪ちゃん。そんな彼女の脇腹に、どすっと菜央ちゃんの肘が突き刺さって悲鳴が上がった。 菜央: 美雪……いい加減なことを言わないで。 菜央: さっきも言ったように、あたしたちはもう東京とかにあるものを提案しただけよ。……とても威張れるようなことじゃないわ。 美雪: そ、そういうこと……うん。言ってしまうと、カンニングってやつだねー。 一穂(バニー): あ、あははは……。 レナ: はぅ……でも、たとえ東京で流行っていてもレナたちは知らなかったことなんだし……。 レナ: それに、誰かが考えたものを他の人が真似して広がっていくのが、本当の流行なんだと思う。 レナ: だから、美雪ちゃんや菜央ちゃんがズルいっていうのとは少し違うんじゃないかな……かな? 魅音: そうそう、レナの言う通り!0から1のアイディアを生み出すのも凄いけど、1から100に膨らませるのだって才能だよ! 詩音: えぇ。少なくとも私たちは、今回その恩恵に預かったわけですからねー。 美雪: う、うん……まぁ、だったらその気持ちは有難く受け取っておくよ。 詩音: というわけで、ここからが相談なんですが……。 詩音: 今回の成功を受けて、オーナーが穀倉にもうひとつ新しい店を出そうって言い出したんです。 羽入: あぅあぅ……つまり、エンジェルモートを穀倉にもう一店作るのですか? 詩音: あ、いえいえ。同じ店を近場で出すと、お客の取り合いになってしまいますよ。 詩音: 今の店が超繁盛してお客さんがさばききれない!なんて嬉しい状況になったら、話は別ですけどね。 一穂(バニー): じゃあ……何を作るの? 詩音: 同じ飲食店です。ただ、新店舗はコンセプトから変えたものにしたい、との意向でして。 一穂(バニー): ??? 美雪: つまり、親元が同じで別ブランドのお店を作ろうってことだよ。たとえるなら牛丼屋が、ハンバーガー屋を別に作るような感じだね。 美雪: 違う客層をターゲットにした2つの店だと、それぞれ競合もなく売上を見込むことができて……かつ、食材をまとめて安く仕入れられるってわけ。 一穂(バニー): な、なるほど……飲食店って、そんなふうに展開していくこともあるんだね。 菜央: それで……新しいお店はどういう形態にしたい、といったイメージはできてるのかしら? 詩音: いや、その……一応、テーマは決まっていますけどねー。 沙都子: ……要するに、テーマ以外はまだ決まっていないってことですのね。 詩音: ……実はそうなんです。しかも、そのテーマがまた厄介というか……。 梨花: みー、どんなテーマなのですか? 詩音: 「非日常を味わえる場所」……とのことで。 羽入: あぅあぅ、「非日常」とはなんですか? 詩音: ……すみません。言っておいてなんですが、私もわかりません。 詩音: ただ、新店舗の出資者……何も知らないけどお金だけは持っている、素人同然の偉い人が決めたらしくて……。 沙都子: 何も考えないまま、ふわっと決めた……という印象ですわ。 詩音: そうなんですよ。当然のようにみんな、困っちゃいましてね。 そういって詩音さんは、遠い目になって大きなため息をつく。 ここまで彼女を困らせるなんて、ひょっとして園崎家の中でも結構な力を持っている人だったりするんだろうか……? 一穂(バニー): (知りたいような、怖いような……) 詩音: まったく、言うだけならタダとはよくいったものですよ。なのに結果だけは、シビアに求めてきますからねー。 魅音: 詩音……あんた、仮にも出資者なんだからさ。不遜な態度なんかみせたりしないでよ? 詩音: わかってますよ。ここでしか言いません。 詩音: ……で、最終的にそういうことは詳しい人に提案してもらったほうがいいかなってことになりまして。 菜央: ……つまり、あたしたちに丸投げってこと? 詩音: いやいや、そんな人聞きの悪い……と言いつつ、実質そうなっちゃいますねー。 詩音: 今回の売上アップの功労者の案です、って肩書きがあれば発言の価値も高まりますし……。 魅音: あー……でも、こう言っちゃなんだけど詩音の気持ちもわかるなぁ。私だってこんな依頼、丸投げしたくなるって。 詩音: そうなんですよ!私にもできるけど丸投げするのと、お手上げだから丸投げするのは違うんです! 詩音: というわけで、今回は後者なんです!本気で一穂さんたちにしか頼めないんですよ……! 一穂(バニー): だからって、そんなふうに力説されても……。それに、エンジェルモートも十分非日常じゃないかな? 魅音: いや、非日常なのは店員さんの服だけで、メニューとかは普通のファミレスだしね……。 レナ: つまり、何から何まで普通じゃないようにしなきゃいけないってことなのかな……かな? 梨花: そういうことだと思うのですよ。 羽入: あぅあぅ……でも、具体的にはどうすればいいのでしょうか? 沙都子: そこが一番難しいところですわね。 菜央: 確かに……。 菜央ちゃんはそう言って、ひとり考え込む。そしてしばらくした後にため息をついてから、詩音さんに向かっていった。 菜央: とりあえず、何か考えてみるわ。けど……。 菜央: さすがにすぐ出てくるようなものじゃないから、少し時間をもらってもいい? 詩音: もちろんです。次もアッと驚くようなアイディア、期待していますよ~! 美雪: んなこと言われてもねぇ……。 Part 02: 帰宅後……私たちは夕食をとりながら、持ち帰った議題をテーブルにあげた。 ちなみに、今日は美雪ちゃんが作ったビーフシチュー。特売の安いお肉が嘘のようにほろほろと柔らかく、味わい深くなっている。 一穂(私服): うん……おいしい……。 美雪ちゃん曰く、この肉の柔らかさは余熱調理という手法によるものらしい。……よくわからないけど、ご飯にぴったりだ。 いつもだったら、残りを一気に食べて2杯目はカレーのようにご飯へかけたものをスプーンで食べたいところなんだけど……。 美雪(私服): ……はー。 菜央(私服): 詩音さんの件、どうすればいいのかしら……? 2人のどんよりとした気配の中、さすがにおかわりは言い出しにくかったので我慢することにした……。 美雪(私服): そもそも、以前私たちが提案したのって他のみんなの提案が行き詰まったから、仕方なく苦肉の策として……だったからねぇ。 菜央(私服): このままだとエンジェルモートが危ない、って詩音さんがいうんだもの。協力しないわけにはいかないじゃない。 美雪(私服): いや……でもあれは、絶対に誇張表現だよね。詩音に上手く乗せられちゃったなぁ。 菜央(私服): 乗せられたとはいえ、10年後の知識を使おうって言い出したのはあたしたちよ。責任転嫁はよくないわ。でも……。 そう美雪ちゃんをたしなめながらも、菜央ちゃんは若干の後悔をにじませながらため息をひとつついていった。 菜央(私服): やっぱり……未来のノウハウを披露するのはズルをしてるみたいで、いい気分じゃないわ。 一穂(私服): そうだね……あと、未来の知識や技術をここで先取りしちゃうと、他の人にも伝わって歴史に影響がないとは言い切れないし。 美雪(私服): ……とは言え、一度成功しちゃったからなぁ。次も期待されるのが世の常か。 一穂(私服): あ、でも……今回はたまたま成功しただけで、次は失敗するんじゃって思われたりしないのかな……? 菜央(私服): あたしたちのことを嫌ってるなら、それもあるかもしれないけど……おそらく、そうはならないわね。 菜央(私服): 一穂。あんたが今食べてるビーフシチュー、美雪にまた作ってってお願いする時、次は美雪が失敗するかも……って思ったりする? 一穂(私服): 思、わない……。むしろ次は、もっとおいしいかもって思っちゃう……気がする。 菜央(私服): つまり、そういうことよ。 美雪(私服): ありがと、一穂。そんなに喜んでもらえるとは思ってなかったから、やってよかったって思うよ。 美雪(私服): だから……うーん、期待してもらえるのって本当はありがたいことなんだよ。希望を持ってもらえるうちが華とも言うしね。 美雪(私服): ただ……前に評価された「あれ」については、私たちが実力で生んだアイデアじゃないってことがネックになってるんだよねー。 菜央(私服): せめてこの時代のものを参考にしてアイデアを出したのだったら、まだ問題も減るんだけど……。 一穂(私服): 実際には素人でしかない私たちに、今の実力以上のアイディアを出すのは無理だよ。 一穂(私服): ただ、あれだけ期待されてるんだから少しくらいは応えたいのも事実だし……どうしたらいいんだろう? ビーフシチューを口に運びつつ、三者三様に考え込む。 ただ、かなり乱暴な話だけど……別に断ってもいいのだ。なにしろこれは、プロでさえ逃げ出している案件なのだから。 一穂(私服): (ただ、このままだと詩音さんたちが困っちゃうよね。なら、どうすれば……) 美雪(私服): よしっ!!! 菜央(私服): ほわぁっ?! その時、パァン、と音が鳴り……菜央ちゃんがびっくりした猫のように座ったまま飛び上がった。 菜央(私服): いきなりなによ、急に大声出して……びっくりしちゃったじゃない。 美雪(私服): 決めたんだよ。今回は失敗覚悟、玉砕上等、却下前提でやってみるってのはどう? 一穂(私服): えっと……それは、どういうこと? 美雪(私服): 早い話が、成功を狙わず自由にやろうってことだよ。 美雪(私服): もし、次も私たちの知識や記憶を使ったアドバイスをしたら、きっとまた何度も繰り返すことになると思うしさ。 美雪(私服): だったら今回は、年相応というか……今ここの私たちらしく、自由な発想で企画を提案してみるってわけさ。 菜央(私服): ……そんなことしても、提案内容の質が落ちるだけよ。美雪……あんたってば、詩音さんたちの期待を裏切れって言うの? 美雪(私服): 引き受けた以上はしっかり応えたい、って菜央の真面目な気持ちはよくわかるよ。 美雪(私服): もちろん私だって、期待してくれてるのにその人を裏切りたくないって気持ちは同じだ。 美雪(私服): ……でもさ、そもそも詩音たちは私たちが未来の知識を持ち込むから期待してくれてるのかな? 美雪(私服): むしろ、斬新なアイデアを持ち込んでくるって思ってるから、期待してくれてるんだよね?……だから、原点に戻ろうよ。 菜央(私服): …………。 美雪(私服): レナはあぁ言ってはくれたけど、この時代の別の場所に存在するものを伝えるだけならともかく……。 美雪(私服): 未来のものを持ち込んで感謝されたり、ご馳走してもらったりするのはやっぱり私も引け目があるんだよねー。 美雪(私服): それに……引け目を感じながら詩音たちの期待に応え続けるのは辛い、って私たちも気付いちゃったわけだしさ。 美雪(私服): そろそろ……本来のあるべき姿に戻るべきじゃないかなって私は思うんだけど、一穂と菜央はどう思う? 菜央(私服): ……そうね。 とっさに見やった菜央ちゃんは、美雪ちゃんと同じくらい冷静で……少し寂しい瞳をしていた。 菜央(私服): レナちゃんやみんながすごく喜んで褒めてくれるから、ちょっと調子に乗りすぎてたかも……かも。 一穂(私服): そんなにダメなことなのかな?私たちはただ、詩音さんたちに喜んでもらいたかっただけなんだから……。 菜央(私服): ……いいえ。美雪の言う通り、自分でダメかもしれないって思ったなら……一度立ち止まって考えてみるべきよ。 菜央(私服): デザインの世界って、取った取られたが日常ではあるんだけど……。 菜央(私服): やっぱり、最初に考えたオリジナルの作者が一番得をして利益を受け取らなくちゃダメだって、お母さんが言ってた。 菜央(私服): でも現状、あたしたちは作者に還元できてない……する方法がない、とも言えるけど。 菜央(私服): だから引け目を感じた時点で、潮時なのかもしれないわ。 美雪(私服): 菜央……。 菜央(私服): とりあえず、年相応に……自分が思いつく「最先端」「異端」を提案して――。 菜央(私服): 詩音さんたちに苦笑いされながら、ボツにされたほうがまだ気が楽かもね。 一穂(私服): ……。デザインの世界も、色々あるんだね。 菜央(私服): もちろん聞いた話だけどね。でも……色々とあるみたいよ。 菜央(私服): 自分たちがダメだって思った時に、こんな悩みと考えが思い浮かぶ……だったら立ち止まって、方向転換をしましょう。 一穂(私服): そっか……そうだね。 菜央ちゃんの語りを、私は頷きながら聞き終える。 彼女はアイデアを未来から持ち込むことを、アイデアを盗むこととどう違うのか……?私が思う以上に悩んでいるようだった。 一穂(私服): (だから詩音さんに、時間を頂戴ってお願いしたんだね……) 相手を喜ばせたい。……でもこれ以上、未来からアイデアを盗みたくない。 その板挟みになっていたようだけど、どうやら彼女の中で答えが出たのだろう。 一穂(私服): 2人が決めたなら、私は賛成するよ。 菜央(私服): ありがと、一穂。 一穂(私服): でも、詩音さんは新しい企画を待ってるって私たちに言ってたよね?それはやっぱり、断ったほうがいいのかな……? 菜央(私服): あたしたちだけの力で、企画を作りましょう。……ただ、たとえ没になるとしても手抜きはしたくないわね。 美雪(私服): みんながびっくりするくらい突拍子のないことを全力で考えよっか。 美雪(私服): ……でも、そうなると『非日常』ってテーマが正直邪魔なんだよねぇ。 美雪(私服): ふわっとしてるのに妙な存在感があって、無視するにはちょっと……ねぇ? 菜央(私服): 邪魔とか言わないの。クライアントが決めたんだったら、あたしたちはそれに従うだけよ。 美雪(私服): んー、割り切りが早い。……じゃ、とりあえず軽く考えてみようか。 一穂(私服): う、うん。 菜央(私服): 『非日常』……『非日常』って、そもそもどういう意味なのかしら。 美雪(私服): 普通の人は体験できないような、でもちょっと覗いてみたいような……そんな世界って感じじゃない? 一穂(私服): うーん……。 なんとなくニュアンスは伝わるものの、でもやっぱり具体的なイメージが思い浮かばなくて……私たちは頭を抱える。 そしてふとため息まじりに顔をあげると、つけっ放しにしていたテレビ番組の映像が私の視界の中に入ってきた。 ブラウン管の画面に映っていたのは、週末にテレビで放送する映画の宣伝CM。 一穂(私服): ねぇ……これ、なんてどうかな? 菜央(私服): えっ? 一穂(私服): これなら、この時代にあるものだし……ズルではない、よね? 一穂(私服): ムチャクチャかも、しれないけど。 Part 03: ――数日後の、放課後。 普段であれば賑やかで騒がしい教室は、魅音さんたち全員が揃っているにもかかわらず異様なほどの静けさに包まれていた。 魅音: …………。 詩音: …………。 まとめた書類の束を、魅音さんと詩音さんがぺら、ぺら、とめくる音だけが響いている。 そんな2人の様子を私と美雪ちゃん、菜央ちゃんは緊張の面持ちで見守っていた。 一穂: あ、あんな内容で本当に大丈夫……かな? 美雪: んー、「大丈夫」でしょ。逆方向とはいえ突っ走ったという意味では、渾身の出来のはずだからさ。 菜央: ……深夜のテンションって、怖いわね。あの企画書をもう一度読めって言われたら、あたしは全力で拒否するわ。 魅音さんたちには聞こえないようにひそひそと話しながら、……私たちは固唾をのむ。 正直言って、反応が怖かった。さすがに怒ったりはしないと思うけど……とんでもない内容だという自覚はすごくある。 一穂: (もし、魅音さんたちにがっかりされたら美雪ちゃんと菜央ちゃんの名誉のためにも、私が作ったと言って誠心誠意で謝ろう……) 実に情けない覚悟だけど、そんな決意を私は心に秘めていたりした。 魅音: ……。これは……、確かに斬新……だね。 詩音: え、えぇ……非日常とは言いましたが、こう来るとは思っていませんでした。 詩音: 『非日常』というテーマに沿っているものの、ちょっと信じがたい企画内容です……。 沙都子: あの……一穂さんたちって、そんなにすごいものを考えてきたんですの? 羽入: あぅあぅ、僕たちにも見せて欲しいのですよ~! レナ: 気持ちはわかるけど……魅ぃちゃんたちが内容を読み終わるまで、少し待っていてあげようね。 梨花: みー、今は我慢なのですよ。 少し離れた場所でレナさんたちが、まるで傍聴席で判決を待つように不安と期待をないまぜにした表情で控えている。 ただ……ごめんなさい、みんな。今回の提案はどう考えてもどう見ても、勝算が見込めなさそうな逆張りで……。 笑い話になればしめたもの、そうでなくても今後私たちに依頼が来なくなることを狙った、「失敗狙い」のありえない内容なんです……。 美雪: ……魅音たち、いい感じに引いてるね。 菜央: そりゃそうよ。企画書の内容も全力、衣装も全力でデザインしたんだもの。……マーケティングは完全に無視したけど。 美雪: あからさまな手抜きにはしない、ってのが基本コンセプトだったもんねー。その分、思いっきり趣味全開にしてさ。 一穂: ご、ごめんね……2人と違って私、色塗りしか手伝えなくて。 美雪: いやいや、一穂の彩色が加わったおかげでイメージは伝わりやすくなったと思うよ。……悪い方向にね。 美雪ちゃんが意地悪っぽく笑い、菜央ちゃんが同調するように頷く。 そんな様子を見ながら、私はほっとしたような少し寂しいような、複雑な思いに駆られていた。 一穂: (……これでもう、お店の新メニューを考えたりすることはなくなっちゃうのかな) とはいえ菜央ちゃんの言う通り、今までがズルをしていたようなものなのだ。仕方ないとは理解している。 けど、お店についてあれこれ考えるのは楽しかったので……少し寂しさも感じるのはきっと私のわがままなんだろう。 一穂: (でも、これでよかったんだよね。未来を変えちゃうかもって心配することも今後はなくなるわけだし……) 魅音: ……詩音。 詩音: ……お姉。 書類を読み終えた魅音さんと詩音さんが、同時に顔を上げる。そして――。 魅音&詩音: 面白いッッ!! 一穂: …………。 菜央: ほわぁっ?! 美雪: お、おぅ……?! 一拍を置いて、予想外の返答を聞いた菜央ちゃんと美雪ちゃんが顔を引きつらせる。 私に至っては、目が点だ。鳩が豆鉄砲顔だ。驚きすぎて、……声も出ない。 魅音: いい! いいじゃんこれ!こういうのを待っていたんだよ! 詩音: さっそくオーナーに見せて……いえ、まずは電話ですね!ちょっと職員室で借りてきます! 魅音: あ、私も行く!こいつだけは何が何でも通さないとっ! 詩音: くすくす……ずいぶんと乗り気ですね、お姉。 魅音: こんなものを見せられちゃ、ねぇ……!乗らないわけにはいかないでしょ! 魅音&詩音: くっくっくっ!! 魅音さんと詩音さんは大盛り上がりで、企画書を片手に教室を飛び出していく。 ……ひゅるりら、と妙に乾いた風が開きっぱなしの扉から吹き込んできた。 一穂: ……。えっ、と……。 菜央: 嘘でしょ……?確かにちゃんと作り込んだけど、ぁい……でも、だからって……?! 美雪: お、おぅ……。 一穂: こ、後半なんて3人でおかしな感じになって、内容を見直しながら大笑いしてたのに……?! 一穂(私服): あは……あはははっ!さすがに、これはないって!2人とも、ちょっとやりすぎだよ~! 美雪(私服): あははははっ、一穂こそ!いやー、酷い! すっごい酷い! 菜央(私服): ふふふっ……本っ当に、酷いわね……! 菜央(私服): これを衣装にしたらアイデアはともかく、接客業ってことの想定が自分の中でできてる?できてないでしょ? 現実味がないわね~。 菜央(私服): ……てな感じに言われて、絶対ボツよ! 美雪(私服): 確かに、商売として不採用間違いなしだよ!そもそもこんなサービスに、お客さんが来るわけないって! 来たら変態だよ! 一穂(私服): う、うん……『非日常』体験と言っても、こんな体験はしたくないなぁ。 美雪(私服): いやー、でも実際にあったら怖いもの見たさで行ってみたいかもだよ? 菜央(私服): えぇ、ちょっと心はくすぐられるのよね。……でも、現実味がないわ。 美雪(私服): そうそう! 一穂: とかなんとか言ってたのに……! 美雪: 甘く見てた……園崎姉妹を甘く見てた……!! 一穂: えっ……? 美雪: そもそも、東京で流行ってるからってすんなり受け入れられるわけがないでしょ?土地柄とか価値観とか、時代も違うんだし! 美雪: なのに、今までそういうことを受け入れられてきたってことは……調節役の能力が高すぎたんだ! 一穂: つ、つまり……? 菜央: あたしたちは、世間一般じゃなくてあの2人が受け入れられないものを作るべきだったってこと……? 一穂: ……受け入れちゃったよ、魅音さんたち。すっごくノリノリの感じで……! 美雪: しまった……完全にミスった……!わざと獲物から外すつもりで適当に鉄砲撃ったら、弾の飛んだ先に飛び込んできちゃったよ……。 菜央: しかも、なまじ全力で作り込んだからクリーンヒットを通り越したジャストミートになっちゃったじゃない……どうするのよ……?! レナ: は、はぅ……大丈夫、菜央ちゃん? 沙都子: あの……一穂さんたち。企画がお通りになったのに、どうして頭を抱えておられますの? 梨花: みー、ちらっと中身を見ただけですが……ボクは面白そうだと思いましたのですよ。 美雪: 嘘っ、マジで?! レナ: はぅ~、レナもあんなレストランだったら一度は行ってみたいなぁ、って思ったよ。 菜央: そ、そりゃあたしだって一度なら……って、レナちゃんも興味を持っちゃったの?! 美雪: お、恐るべきは昭和のおおらかな価値観……いや、おおらかなのは#p雛見沢#sひなみざわ#rの土地柄か?くそっ、寛容すぎるのも考えものだなぁ! 一穂: ど、どうするの……?このままだと、「あれ」が現実にできることになっちゃうけど……うん? 圭一: よっ、元気していたか? 一穂: ま、前原くん……どうして分校に? 圭一: ちょっと#p興宮#sおきのみや#rの先生に頼まれて、届け物をな。ついでに顔を出させてもらったぜ。 圭一: そういや、さっき魅音と詩音がすげぇ勢いで職員室に入っていくのが見えたんだが……何かあったのか? 一穂: えっと……な、なんて説明したらいいのか……。 菜央: あたしたちの全力を尽くした悪ふざけを、魅音さんたちが全力で通そうとしている……と言えば、わかってもらえるかしら? 圭一: ? いや、わからん。どういうことだ? 美雪: つまり、全力に全力を足して全力で渡したら園崎姉妹が全力にターボを取り付けて走り出しちゃって、もう大変なことに……。 圭一: ……ますます意味不明だ。すまんレナ、わかりやすく教えてくれ。 レナ: はぅ……レナにも、よくわからないの。新しいお店の面白い企画を考えてくれたのに、一穂ちゃんたちは落ち込んじゃって……。 梨花: みー。簡単に説明すると3人が作った企画を魅ぃと詩ぃが気に入って、それの実現に向けていろいろと動き出したのですよ。 圭一: ……いいことじゃないか。なのにどうして、一穂ちゃんたちはこんなにも暗い顔をしているんだ? 沙都子: さぁ、私たちもさっぱりでしてよ。 羽入: あ、あぅあぅ……。 不思議そうにしているみんなの視線が、どうにも痛くて申し訳ない。 ただ……この絶望感をどうやってみんなに伝えればいいのかわからず、私たちは押し黙るしかなかった……。 魅音: たっだいまーっ!あの企画、無事に通ったよ~! 美雪: って、早っ? あれでほんとに、今回の出資者が納得したの?! 詩音: えぇ、即決でした。もっともこの後、一応コンペにかけるのであくまで第一関門を突破ってところですが。 一穂: そ、そうなんだ……。 美雪: ……第二関門でぶつかって、そのまま爆散する方がいい気がする。 一穂: 美雪ちゃん、しー……! 魅音: あれ、圭ちゃん来てたんだね!なら、ちょうどよかったよ! 圭一: な、なんだなんだ……?俺に、何か用でもあるのか? 詩音: はい。私たち、すっごく面白いことを思いついちゃったんですよ。 魅音: せっかくだから、新しく作るお店を宣伝する活動をしてもっと盛り上げるのはどうか、ってオーナーと出資者が言ってくれてさ。 魅音: ここにいるみんな……圭ちゃんだけじゃなくてレナたちにも力を貸してもらいたいんだけど、どう? レナ: はぅ、協力……?もちろんいいけど、何をすればいいのかな、かな? 詩音: くっくっくっ、それはですねぇ……。 Part 04: ……そんなことがあってから、数日後。 牢獄の中に閉じ込められた俺は、叫び続けても意味が無いことを悟り……ずるずると鉄格子に身体を預けて座り込んだ。 圭一(囚人): くそっ、どうなってるんだよ……。 圭一(囚人): 誰かに拉致されて、ここに閉じ込められた……?にしても、いったい誰が……? 圭一(囚人): ここまで恨みだの、罪だのを買うようなことをした覚えはねぇんだが……。 圭一(囚人): なんだ……? 何がダメだったんだ? 圭一(囚人): アイス棒に細工して当たりを偽装して、セブンスマートでもう1本もらったことか……? 圭一(囚人): それとも、ガキの頃に飼っていたメダカをエサの量を間違えて、死なせたことか……? 圭一(囚人): あるいは、お一人さま1つまでの卵を服装を変えて、2個買っちまったことか? 圭一(囚人): 悪いことだよな……あぁわかってるさ、俺は情けねぇ、小悪党だってことくらいはな。 圭一(囚人): あ……いや、でもさすがにそんなことでここまでされるのは理不尽だよな……? ぶつぶつと小声で口に出しながら、俺はこれまで犯した自分の罪を振り返る。 ただ、清廉潔白とは言えない人生ではあるものの黙って監獄の中に叩き込まれるような罪は……どうやっても思い当たりそうになかった。 圭一(囚人): それとも、何か……?俺が忘れている、何か大きな罪でもあるっていうのか……? と、そこへ……ふいに何か気配がして、洞窟の奥に目を向けると……。 圭一(囚人): ……えっ? 鉄格子の、向こう側……暗闇に目が慣れたことで、その先の方に通路らしきものが続いているのが見えた。 さらに、ぼんやりと浮かび上がるように現れたのは……小さな光。 最初こそ俺は目の錯覚を疑ったが、やがて光が動いていることに気がつく。 その光はやがて強さと、大きさを増して……人のかたちをふたつ、暗闇の中に形作った。 レナ(私服): ……あっ、圭一くん! 圭一(囚人): なっ……? レナ?それに、菜央ちゃんも……?! レナ(私服): はぅ、探したよ……!そんなところにいたんだね、圭一くん! 菜央(私服): 見つかってよかったわ……! 思ってもみなかった仲間たちの来訪に、俺は驚き、目を見張るしかなかった。 レナ(私服): 怪我はしていない? 気分はどう? 圭一(囚人): あ、あぁ……今のところは、なんともないぜ。 圭一(囚人): けど……2人は、どうして俺がここにいるってわかったんだ? レナ(私服): その話はあとだよ。今は見張りもいないみたいだから、早く脱出しよう……! 菜央(私服): ライトはあたしが持つわ。レナちゃんは、その鉄格子の扉を……! レナ(私服): お願いね、菜央ちゃん。 そう言いながら、菜央ちゃんに燭台を手渡してレナがポケットから取り出したのは……。 圭一(囚人): ……鍵、か?どうしてそんなものを、レナが……? レナ(私服): それも、後で説明するから……よし、開いたよ。 そしてレナは、鉄格子の一部に設けられた扉を開き……俺を手招きしていった。 レナ(私服): 急いで、圭一くん。出口はこっちだよ! 菜央(私服): 前原さん、早く出て! 時間がないわ! 圭一(囚人): お、おい待てって!俺を置いていかないでくれッ……! すぐに身を翻して駆け出したレナたちを追いかけるべく、俺は扉をくぐって牢を抜け出した。 圭一(囚人): くそ……!いったい誰が、こんな真似をしやがったんだ? 圭一(囚人): 無事に脱出したら絶対警察に連絡して、逆にそいつらを牢屋へ放り込ませるよう動いてもらおうぜ! 脱出できた解放感と安堵もあって、俺は憎々しい思いで悪態をつく。 が……そんな憎まれ口をたしなめるように、横に並んで走る菜央ちゃんが冷たい声で淡々と告げていった。 菜央(私服): ……やめたほうがいいわ。あなたが監禁されてるっていう事実は、すでに警察の手によって隠蔽済みよ。 菜央(私服): それに、もしあの看守たちに目をつけられたら……命が危ない……! 圭一(囚人): 看守たち……?その看守ってのはいったい何者なんだ?そもそも2人は、なんでそのことを知って……。 レナ(私服): ――――。 圭一(囚人): うぉっ?! 先導して突き進んでいたはずのレナの背中が、急に目の前まで迫り……俺は慌てて立ち止まる。 圭一(囚人): ど……どうしたんだ?  : すると、突然足を止めたレナのそばに菜央ちゃんが駆け寄り……2人はくるり、と身を翻すや俺に向き直ってきた。 圭一(囚人): ひっ……?! 2人の少女の、空洞のような瞳を向けられて俺は息をのみ……一歩、二歩と後ずさる。 知っていたはずの少女たちが、知らない人のように見えて……俺の背中を、戦慄が駆け抜けていく……! 圭一(囚人): ど……どうした?れ、レナ……? 菜央ちゃん……? レナ(私服): 圭一くん、知っているかな……かな?監獄の中にいる人間に危害を与えたりするのはご法度だけど……。 レナ(私服): 逃げ出そうとした不届き者は……殺されても、文句が言えないんだよ。 菜央(私服): あぁ、残念……本当に残念だわ。あなたがそんな人だったなんて、思わなかった……。 圭一(囚人): なっ、なっ……。 菜央(私服): 残念だけど前原さん、これであなたの有罪が確定したわ。 菜央(私服): 飼い主の言うことを聞けないペットには、しつけをしなくっちゃ……そうよね? レナ(私服): あはははは、そうだね。しつけは大事だもんね。 圭一(囚人): そ……そりゃどういう意味だっ?そもそもなんで、有罪とか――ぉがっ?! 2人の言葉の真意を問いただそうと、泡を食った俺は気がつかなかった。 圭一(囚人): がっ……?! 突然後頭部に衝撃を受け、その場に崩れ落ちる。 驚愕と痛みに包まれた俺の身体を、冷たい土の地面が受け止めた……。 圭一(囚人): な、なんで……。 薄れゆく意識の中……その耳に届いたのは。 魅音&詩音: くっくっくっ……。 同じような、少し違うような……そんな2人の女の、笑い声だった。 魅音&詩音: くっくっくっ……! Part 05: ……やがて、俺は再び目を覚ます。 圭一(囚人): こ、ここは……? 顔をあげ、かすむ瞳を凝らしながら自分がいる場所を確かめようとして……。 圭一(囚人): ひぃっ?! その動作を、……俺は後悔した。 部屋の壁一面にずらりと並べられていたのは、恐ろしい道具……器具! 装置! 圭一(囚人): あ、ぁ……うぁっ?! そして俺は、自分が罪人を縛り付けるための磔台のようなものに組み込まれていることを知り、顎を落とさんばかりに口を開いた。 圭一(囚人): な、な、なんだこりゃ……? 腕を振って抗おうとしたものの、冷たい金具で関節の部位が固定されて……指をわずかに動かす程度しかできない。 圭一(囚人): く、くそっ……なんで俺が拘束されなくちゃいけないんだ?! そう叫びながら、どこにいるかもわからない黒幕に向けて憎しみと怒りをぶつけようとしたその時だった……。 魅音:看守: くっくっくっ……気がついたね、囚人番号K-1。 圭一(囚人): だ……誰だっ?! 暗闇の中から響いた声へ投げた誰何の問いに、返事はない。 ただ、その代わりだと言わんばかりに闇の中から姿を現したのは……。 魅音(看守): 私たち看守の目を抜けてあの監獄から脱出するたぁ、いい度胸しているじゃないの……! 堅苦しくも、どこか匂い立つような色気を秘めた服装に身を包んだ……美しい女看守だった。 圭一(囚人): お、俺はただ仲間に助けられて、外に出ただけで……! 圭一(囚人): っていうか、なんで俺は閉じ込められていたんだ?!それを先に説明しろよ!! 詩音(看守): ……説明? くすくす……。 女看守の後ろより、同じ顔をした……少しだけ違う服装の別の看守が姿を見せる。 詩音(看守): そんなのひとつしかないじゃないですか。私たちが、あんたを気に入らなかった……それだけの話ですよ。 圭一(囚人): 理由がめちゃくちゃだ!俺は何も、悪いことなんかしちゃいねぇ! 圭一(囚人): とっとと帰してくれ!今日は見たいテレビ番組があるんだよ! 魅音(看守): おんやぁ……? 魅音(看守): くっくっくっ、あんたはまだ自分の立場ってものがわかっていないみたいだねぇ……! 魅音(看守): それとさ、あんたが仲間だって言っていたあの子たちだけど……なんで仲間だと思ったの? 圭一(囚人): そりゃ、俺を外に出して……っ?! はっ、と俺は気付く。 圭一(囚人): まさか……おい、嘘だろ……。 魅音(看守): あぁ、遅い遅い。気がつくのが遅すぎるよ!馬鹿だねぇ、あの子たちにそそのかされて牢から出なければこんな目に合わなくて済んだのに! 圭一(囚人): れ、レナたちが裏切ったってのか……?!俺が外に出るかどうか、試しやがったのか?! 詩音(看守): はぁ……気付くのが遅すぎますよ。 詩音(看守): まぁとにかく、助けてほしかったらおとなしく私たちの言うことに従ったほうがその身のためですよ? 詩音(看守): そうでなければ、あっちの愚か者のようになるのがオチです……ほら。 看守の一人が指さした先に視線を向け……俺は言葉を失った。 沙都子(私服): うぅ……ぁあぁぁ……っ……。 そこには、俺の自由を奪っている磔台と同じものに縛り付けられ……ぐったりとうなだれる少女の姿を、見つけたからだ……! 圭一(囚人): さ……沙都子っ?お前ら、あいつに何をしやがったんだ?! 詩音(看守): 別に、変な真似なんかしていませんよ。 詩音(看守): 囚人番号3105のことを思い、願い……世の中の理や常識とやらを懇切丁寧に指導してあげただけです。 詩音(看守): あぁ……ご安心を。これからあなたにも、私たちがちゃぁぁあんと指導をして差し上げますので。 詩音(看守): 楽しみにしてくださいね……くっくっくっ……! 魅音(看守): それじゃ、そろそろ始めようかねぇ。まずはこの、ウェルカムドリンクで乾杯と行こうじゃないか……。 そう言って嗤う看守の手には、足の長い優雅なグラスが握られている。 だがそのグラスを満たす液体は……血を連想させるほどに、真っ赤。 わずかに揺れる動作にも、淑女のドレスの裾のような緩やかさがあり……どろりとした液体は血にしか見えなかった。 それを、口に入れられる……?飲み込まされる……?! ……想像しただけで、俺は恐怖に震える。命の危機を覚えるには、十分すぎる代物だった。 圭一(囚人): な、なんだそりゃ……?よせ、やめろっっ?! 魅音(看守): こいつを一口飲めば、あんたも素直になれるさ……さぁ、グイっといくがいい…… 圭一(囚人): た、助けてくれ……ぎゃ、ぎゃあぁぁぁあぁっっ?! ……拷問室の一角に響く、俺の悲鳴。その絶叫は、誰にも届かず……立ち消えた。 Epilogue: 美雪(私服): はい、カーット! ひりついた空気を打ち消すように、美雪ちゃんの明るい声が響き渡る。 美雪(私服): うんうん、いい感じの映像になったよ!んじゃ、ちょっと休憩しよっか! 詩音(看守): はーい! 魅音(看守): お疲れさまー。 その瞬間、前原くんを押しつぶすような笑いを投げつけていた看守姿の魅音さんと詩音さんが、ぱっと表情を緩めた。 魅音(看守): ごめんねー、圭ちゃん。お芝居とはいえ、乱暴に縛りつけちゃってさ。 魅音(看守): ……手、痛くない? 大丈夫?今外すから、ちょっと待っていてね。 そう言って申し訳なさそうにしながら、魅音さんがテキパキと彼を拘束していた道具を外していく。 その一方で前原くんは、全く気にしていないように快活な笑顔を浮かべていった。 圭一(囚人): へーきへーき。全然痛くなかったぜ!めったにできない体験で面白かったな。 圭一(囚人): あと……さっきの飲み物、見かけはともかく結構うまかったな。おかげで一瞬顔が緩みそうになったぜ。 詩音(看守): くすくす……それは当然ですよ。レナさんお手製の、特製スープですからね。 レナ(私服): 隠し味に、少しお味噌を使っているんだよ。この前菜央ちゃんが考案したレシピを参考にね。 圭一(囚人): へー、あれって味噌が入っていたのか。全然気がつかなかったぜ……。 菜央(私服): あ、あたしもあとでいい?飲みたい飲みたい、全部飲み干したーい! レナ(私服): あははは、もちろんいいよ。圭一くんももう一杯どうかな、かな? 圭一(囚人): おぉ、さんきゅー!……うん、うまい! ぐびぐびとグラスに残ったスープを、前原くんが一気にあおり飲む。 圭一(囚人): ……にしても、拷問を受けるシーンに沙都子までいるとは知らなかったぜ。 圭一(囚人): つーか沙都子、本気で気絶しているように見えるんだが……。 圭一(囚人): まさか、ほんとに拷問をやったんじゃないよな?違うよな? 沙都子(私服): うぅ……最初は演技のつもりだったんですけど、飲まされたジュースがカボチャと聞かされて……っ。 フラフラの沙都子ちゃんに、レナさんが慌てて駆け寄る。 レナ(私服): はぅ……ごめんね沙都子ちゃんが飲むって知らなかったから、カボチャのスープにしちゃって……。 梨花(私服): みー。ですから沙都子の役はボクがやると言ったのに……。 羽入(私服): あぅあぅ、無茶しすぎなのです! 沙都子(私服): でも、この脚本を作った責任を取りたかったんですのよ……ふっ。 沙都子ちゃんが、震える腕を持ちあげ親指を立てる。 一穂(私服): さ、沙都子ちゃん……!カッコイイ、カッコイイよ! 沙都子(私服): ありがとう、ございます……わ。 詩音(看守): 沙都子のおかげでリアリティが出ましたね。 魅音(看守): コンセプトレストラン『ザ・監獄』のプロモーション映像……これで完璧だね! そう……今までの流れは、言ってしまえばただのお芝居。 ウエイトレスさんを看守、お客さんを囚人に見立ててご飯を食べさせてもらうという体験ができる、ちょっと……いや。 かなり変わったレストランのコンセプトをわかりやすく伝えるための映像を作っていたのだ。 魅音(看守): いやいや……にしても沙都子、いい脚本を書いたじゃん!なかなか迫力のあるストーリーだったよ。 沙都子(私服): を……をーっほっほっほ!私の手にかかればこの程度、朝飯前ですわ~! 沙都子(私服): ……と言いたいところですが、書いたのはほとんど美雪さんですわ。 美雪(私服): 私は沙都子の意見をまとめて、足りない部分をちょっと足したくらいだよ。 美雪(私服): なんだろう、調書をまとめるってこんな感じかな?……私、書類仕事が向いてるのかもね。 一穂(私服): 調書って……取り調べの様子をまとめた書類のこと……だよね? 羽入(私服): あぅあぅ、まるで沙都子が悪いことをしたみたいなのです~! 美雪(私服): ごめんごめん、例え話だよ例え話。沙都子が面白いアイデアを出してくれたから、いい感じで台本を書けたんだ。 魅音(看守): 仲間に裏切られるところなんて、最高だったよ!複数人で来たお客さん向けの演出だよね、アレ。 沙都子(私服): えぇ、囚人体験だけではなく、囚人を陥れる体験もできる方が複数回来店していただけると思いまして。 一穂(私服): そ、そこまで考えてたんだ……。 圭一(囚人): にしてもあの脚本、わかりやすかったな。おかげで演技もしやすかったぜ。 梨花(私服): 圭一は役者向きなのかもしれないのですよ。 羽入(私服): あぅあぅ、未来の大スター誕生なのですよ~! 圭一(囚人): ただ、見たいテレビがある~は、口にしたらちょっと間抜けな感じのセリフだな。もう少し緊張感があるセリフにしたらどうだ? 沙都子(私服): でしたら、別の言い回しを考えてみますわ。 美雪(私服): 犯した罪の設定はあんな感じでいい? 圭一(囚人): あぁ、あっちはいいんじゃないか?俺はやったことないけど、心当たりがあるヤツもいそうだしな。 圭一(囚人): でもアイス棒の偽造とかメダカ殺しとか卵複数買いとか……もしかして美雪ちゃん、やったことあるのか? 美雪(私服): いや、やってないって!あくまでお芝居の台詞だからね、台詞! 詩音(看守): ちょっとちょっと。圭ちゃんだけじゃなくて、こっちについての感想もくださいよ~。 レナ(私服): はぅ~、2人ともす~っごく格好よかったよ! 大石: 確かに、ちょっと脚色過剰でしたがなかなか面白かったですよ。んっふっふっ! その時、離れた場所からパチパチと軽い拍手とともに大石さんが近づいてくる。 今日の撮影が始まる前に、どういうわけか詩音さんが連れて来たのだ……アドバイザーという、肩書きで。 魅音(看守): どうでしたか、大石さん?女看守ってあんまり資料がなくて、なんとなくイメージでやってみたんですけど。 魅音(看守): ……あんな感じで、本当に大丈夫? 大石: えぇ、とっても素敵だと思いますよぉ。リアル感は大事ですが、迫真すぎると逆に引いてしまいますからね。 大石: まぁ、あんな感じで尋問を受けたら、いろんな意味で震えて自白しちゃいそうですよ。んっふっふっふっ! 詩音(看守): ありがとうございます。本物の警察が監修してくれているっていうのは、お店のいい売り文句になりますからねー。 大石: 元、警察でお願いしますよ?お店がオープンした頃にはもう定年でしょうし。 美雪(私服): 公務員が副業禁止ってのは知ってますけど、無償でもダメなんですか? 大石: 色々複雑でしてねぇ。そんなこともダメなの? ってやつはあるんですよ。 詩音(看守): ま、それも元がつけば問題ないですよね? 詩音(看守): 実際にオープンした際は、アルコール付きで大盤なサービスを振る舞っちゃいますので。 詩音(看守): 楽しみにしていてくださいね~♪ 大石: それは楽しみですなぁ。なっはっはっはっは! 一穂(私服): お、大石さんまで取り込んでる……。 菜央(私服): このままだと、本当に監獄風レストランがオープンしそうね。 美雪(私服): いや、これはどちらかというと参加型舞台っぽくない? 一穂(私服): (どっちでもいいけど……) 一穂(私服): (私たち、昭和の歴史を余計に歪めちゃってない、かな……?) みんなのやりとりを見ながら、私は空を仰ぐ。……よく晴れた空の青さが、妙に眩しかった。 一穂(私服): やっぱり#p雛見沢#sひなみざわ#rの人たちって普通と何か感覚が違ってる……のかなぁ……。 詩音(看守): ねぇ、沙都子。 沙都子(私服): なんですの?さすがにこれ以上のかぼちゃ責めは、まっぴらごめんでしてよ~! 詩音(看守): そうでなくて……さっきのシーンで、何か、こう思い出しませんか? 詩音(看守): 忘れている……大事なもののこと、とか。 沙都子(私服): ……? いえ、なんのことだか……。 詩音(看守): そうですか……。 沙都子(私服): 詩音さんにとって大事なことですの? 詩音(看守): えぇ。でも、私も忘れていたことを思い出させてもらいましたから。 詩音(看守): 沙都子のことをどうこうなんて、言えないんです。 沙都子(私服): ……詩音さん? 詩音(看守): まぁ、それはそれとして……思い出すまでカボチャで責めちゃいますから、お楽しみにっ! 沙都子(私服): き、記憶にない罪で責められることほど辛いことはありませんのよーっ?! こだま: ませんのよー……んのよー……のよー……よー……。