7
「タイプが似ているからな」
エドがつぶやいた一言に、シスタは奇妙そうに顔をしかめた。横目で見て、部下の表情から感情を読み取る。どうも本気で意味が分からなかったようだ。ということは自覚もなかったのか。
面倒くさいなと付け足しつつ、言い直す。
「手こずったんだろう。あの連中を取り押さえるのに」
「手こずってなんて──」
呼吸を速くして、シスタは反論しかけた。が、途中で気になったのか、別のことを言い出した。
「タイプが?」
「あの若いのだ。男のほう。君と似たタイプだ」
「わたしはあんな、軟弱ですか」
彼女は憤慨し、鼻で笑った。いかにも忌々しいと言いたげに。
自分としてはまったくどうでもいいと思っている話に予想外に食いつかれて、エドは既に鬱陶しさを覚えていた。が、この無駄に広い魔術学校の校庭を通り抜けて玄関までもどるのにはもうしばらく歩かねばならない──シスタの目の色を見るに、ここで片付けておかないと後を引きそうだ。あの連中に手を焼くのは二度目になるため気にしているかもと思ったのだが、変に気遣って話しかけるのではなかった。
「性格など知らん。術に優れていてそれを頼りに堅い戦術を立てる。あれの両親を知っているが、よく似ている」
「後れを取ったのはベクターです。甘く見てるから」
「君だって今、見くびっているだろう。あれでも《
「…………」
納得はしなかったのだろうが、彼女は言葉を呑み込んだように見えた。
暗い庭を歩きながら、あたりを気にしたようでもある。声をひそめて訊ねてきた。
「結局、《
らしくもなく、声は震えている。疲労か。恐れか。
本当に恐れているのはその問いの答え、そのものではないだろう。リベレーターだ──キエサルヒマが本当にすべて敵として侵略を開始したのか、それを怖がっている。
エドは告げた。
「それこそ知らん。不安要素ではある。だから、できれば排除したいが」
「〝魔王の娘〟の手前、それはしない?」
いちいち突っかかってくるシスタに、エドは嘆息した。
「気に入らんようだな」
「みんな同意見ですよ。マシューもベクターも。話してませんがビーリーもでしょうね」
「部下の意を
「……すみません」
出過ぎたと察したのだろう。シスタは詫びたが、それでも、と食い下がった。
「プライドは傷つきます。子供に指南されてるんですから」
「そこまで卑屈になるな」
こんな程度の低い話をしないとならないのは馬鹿馬鹿しく、それこそ卑屈な心持ちではあったが。エドは続けた。
「我々が分析していた五百六の状況に対して彼女が齟齬を
「どうも納得しづらいです。隊長が、あの子供のことになると違う顔を見せるようなので」
「親戚の子のようなものだし、息子の相手をしてくれる数少ない友達だ。それは置いておいても、興味深い才能を持っているのは否めない。才能について言えば、魔王術まで修得した魔術戦士が嫉妬するのはみっともないな」
「わたしは……」
「どうとも思っていないなら、それこそそんな話に付き合わされるのはうんざりだ」
「…………」
うつむいて、シスタが黙り込む。
戦術騎士団の弱点だ、とエドが考えている部分だった。志願者を募って戦闘訓練し、大きな秘密を共有させる。適格者は多いとは言えず、機密を維持するには基準を下げるわけにもいかなかったため少数精鋭を目指さざるを得なかった。必然的に自尊心は高くなるし、脱落者を出さないため相互監視のカルト化する。
ただでさえ
(必要なのは、勝ち戦なのだがな)
魔王オーフェンの救出作戦が上げられてきたのは、そんな理由もあるだろう。唱えたのは騎士団員たちと、それに担ぎ上げられたクレイリーだ。分かりやすい目的と勝ちやすい敵を選びたかったのだろう。
どうにか彼らを満足させないと、妙な派閥に分裂しかねない。組織で戦っているのだ、と身に染みる。そんな内部のせめぎ合いとも戦わなければならない。
校舎が近づいてきた。
第一教練棟に避難者はいないが、事務局に詰めかけている者がいるなら人目は気にする必要がある──こんな時、戦術騎士団が泣き言を言っていたなどと知られるのは得策ではない。シスタもそこまで前後を失ってはいなかった。
しゃんと背筋を伸ばし、眉間に皺を刻んでそれらしくしかめ面を作った上で。
顔さえ作れば愚痴でも見栄えは誤魔化せる。シスタは小さく言ってきた。
「正直、あの姉妹を見るのは居心地が悪いです」
「エッジ・フィンランディについてはうまく面倒を見てくれた」
「嫌っているのではなくて、どうも怪物じみていて……」
「怪物には慣れておけ。こうなると、本当にバケモノとやり合うことになるのかもしれない。リベレーターがどんな悪意のくじを引いたのか、まだ分からんからな」
校舎前だ。あたりには誰もいなかったが、聞かれても構いはしないと、エドは普通に告げた。
「当面の敵はリベレーターだ。喜べ。近いうちに奴らを血祭りにあげる」