「な、なんですの、あれは!」
不二子は悲鳴に似た声をあげるが、ころねは淡々としたものだった。
「ゲームにはない怪物ですね。人を襲うようです。とりあえず撤退して様子を見ましょう」
ころねが城門の向こうに下がろうと動きはじめる。
「そ、そうですわね。あなたとの勝負がつかなくて残念ですが、仕方ありませんわね。皆さん、城門の中へ!」
不二子はそう指示して自らが先に城門へと飛び込んだ。
しかし、城門に殺到する不二子の取り巻きの女生徒たちは、思いの外早く移動する怪物に追いつかれていた。攻撃を受けていた、というわけではない。前進しようとする怪物は、
「きゃああ!」
悲鳴が響き、
「どうやら、ゲームのルールには
それを見たころねが言った。
「それだけは助かった、というべきでしょうか」
不二子は
ずん、と
「こいつ……なんですの?」
「外部からのハッキングによって生み出されたようですが……。何か目的を与えられているのでしょう。それを目指してのみ行動していると思われます」
「それじゃあ、逃げれば、わたくしたちは関係ないってことになりますの?」
「多分」
「じゃあ、早々にそうするべきかと思いますわ……」
不二子は逃げようとしたが、その時、怪物の行動に変化が生じたのに気づいた。ただ前進しようとしていたのが、足を止め、前足を振り上げて立ち上がる。ビルがクレーンでつり上げられたような、いきなり大地が
「ひっ!」
ゲームとは知りつつも、恐怖感はぬぐい去ることは出来ない。不二子が逃げようと振り返った時、怪物がどうしてそのような行動をとったのかが理解できた。
「あ……阿九斗様!」
やってきた阿九斗に反応して怪物が立ち上がったのは明白だった。その感情のない目が、城塞に向かって歩いてくる阿九斗を追って動いていた。
「目標が魔王、というのも妙な話ですね」
ころねがつぶやく。
すると、怪物の背後側から大きな声がかかる。
「そいつが
絢子の声だった。
○
速度は怪物の方が早かった。そのため、追いついたのは、城塞に
「そいつが封印されていた魔王だ!」
絢子は叫ぶ。
「魔王? 何を言ってらっしゃいますの?」
不二子の声が返ってくる。
「この空間には、元々、封印されていたものがいるらしい。そいつが外部からの
絢子は説明する。
「封印されていた?」
「だから、魔王だ、と元からこの空間に居た者が言っている。もしかしたら、何代目かの魔王かもしれない」
「本当に?」
不二子は考えこむように目を伏せたが、改めて怪物の様子を確認して声をあげる。
「いや、阿九斗様を見て反応したからには、本当にそうかもしれませんわね」
「阿九斗が来ているのか?」
絢子の問いかけに、不二子はうなずいた。
「今、お越しになりましたわ!」
「紗伊阿九斗を見てあの怪物が反応した?」
絢子はそこに引っかかりを感じ、淑彦を見やる。が、淑彦は特にそのことは気にしていないようだった。
「何か関係があるのかな? いや、ともかく彼と話ができればいい。あいつを倒して突破できれば……」
「倒すと言うが、
淑彦の言葉を聞いたけいすが言った。
が、絢子は首を横に振る。
「しかし、生徒がなぎ倒されたのを見ただろう? その具合からするに、幸い、怪物とてゲームの規則には則っているようだ。ということは、倒せるということだ」
絢子は怪物の背中に飛び道具である
怪物は意に
「いける。違うか?」
にやりとする絢子に、淑彦はうなずいた。
「やってみよう」
二人は怪物の後方からその足に斬りかかる。絢子と淑彦の剣による攻撃は、怪物に
「それでは、拙者も……」
けいすは背中の刀を
「ぬ!」
けいすは異常に気づくが、その時にはすでに
蛇はけいすの手を噛んでいた。
けいすの目の色が消え、立ち
淑彦も絢子も、そのけいすの様子には気づいていなかった。
――よし……! うまく行った!
蛇は
その蛇は、もちろん
――蛇の姿で助かった。この毒の効果があればこそ、後の細工も可能になる……!
2Vはけいすの手を離れ、服の
そして、2Vは得意の術を使うことになる。人形を
けいすの服の中に完全に蛇の姿が消え、ようやくけいすの身体の
しかし、けいすの目の色は
○
阿九斗はころねより状況を
「つまり、あれはゲームにないキャラクターだと?」
「そのようです」
「しかし、ゲームの規則には従っている。どういうことなんだろう?」
「外部からの干渉か、あるいは最初から仮想異空間内にいた存在がゲームの影響を受けたのか。いずれにせよ簡単に断言はできません」
「そうか……。でも、あれを消してしまわない限り
阿九斗はころねに指示を出す。
「NPC軍勢の再編制を。そして、城塞が崩れた
ころねはうなずいた。
「
そして、ころねはオークやゴブリンの軍勢に指示をするが、そこに噛みついたのは不二子である。
「きぃー! その役目はわたくしがやりたかったのに!」
「そうでしたか。残念でしたね」
ころねは淡々としたものだ。不二子はあからさまにむくれる。
「……役職を譲る、とか、そういう
「クラスチェンジにはチケットが必要です。チケットはオンラインストアで
機械的に答えるころねである。
「……そういう商売のやり口だとは知りませんでしたわ」
不二子はぼやいた。
と、怪物が激しく暴れはじめた。城塞を破ろうとしていたのが、不規則にもがき、その巨体を
「うまくやってくれていますね。特に、彼が持っている武器は凄まじい
ころねが軍勢の再編成を進めつつ、怪物の
淑彦の両手剣、つまり『イビルスレイヤー』は凄まじい
城塞を崩してこちらに
「崩れますわよ!」
不二子が警告の声をあげた。
それを聞いた阿九斗が命じる。
「軍勢を突っ込ませるんだ。城塞の上に
その命令で魔王の兵と
「ああっ……! この
不二子が身もだえする。
いくら人間でないとはいえ、見た目にはリアルな魔獣兵士である。人造人間でもないのにそれを犠牲にする戦略を実行できるあたり、阿九斗も
その作戦は図に当たった。倒れた怪物は立ち上がったのだが、その身体には血を吸うダニか何かのようにオーク兵たちが取りついていた。怪物は
そこに城塞が崩れる間、後方へ
「行けますわね」
不二子が
「何もしていないのに余裕ですね」
ころねが言うが、不二子は意に介さない。
「わたくし、阿九斗様の心の支えになっておりますもの」
が、そう言った不二子の
「阿九斗様!」
不二子が悲鳴をあげる。
阿九斗は身構えた。
「
そう言った阿九斗だったが、その言葉の後半を発することはできなかった。
触腕の攻撃が阿九斗を横なぎに襲った。それを受け流そうとした阿九斗の動きは
十メートル以上も阿九斗は吹き飛び、
「うぐっ……!」
阿九斗の身体はほとんど岩に
「阿九斗様!」
不二子は心配そうな声をあげるが、阿九斗はそれに軽く手を動かして答えた。
「大丈夫。それに、どうやらこの攻撃もゲームの
阿九斗は言うが、そこに慌てた声が
「それは違うぞ! どうやら、こいつが目的としているのは、貴様の命だけでなく、城にあるという
絢子の言葉に、阿九斗は軽い驚きを覚える。が、少し考えてみれば、どうやらその言葉には十分な整合性があることにも気づいた。
――そういえば、元のゲームから
「くっ……」
阿九斗は立ち上がり、城の方に下がろうとする。が、怪物は阿九斗に向かって再度の突進を試みようとしていた。
「回復
阿九斗は自らに回復魔法を使おうとして、それが使えないことに気づいた。
「魔王は自己再生能力があるかわりに回復はできないんだよ! 魔術を使っても
淑彦が解説する。
「それは……まずい」
阿九斗は死を
淑彦と絢子の努力にもかかわらず、怪物はその動きを止めることはなかった。触腕が再び阿九斗を襲う。
「しまった……」
阿九斗は自らの
触腕が迫ってくる。
阿九斗は思わず目を閉じた。
岩に巨大なものが激しくぶつかる音が響いた。
「ゲームで良かった。次からはきちんと……」
そうつぶやいた阿九斗だったが、痛みも何もなく、ただ何かが身体に
――ん? ゲーム内でも痛みはあったはずだけど……。
そして、目を開け、どうやら自分がまだゲーム内にいることに気づいた。
「……って、あれ?」
しかも、宙に浮いている。合戦のあるこのゲームでは飛行は
――ということは……。
「もう、しょうがないなぁ。あーちゃんはあたしがいないと何もできないね」
けーながたしなめるように言った。
「あそこに居るように言ったのに。……でも、助かったよ」
阿九斗はほっとして言った。けーなは自分を
「でも、危険だから、やっぱり君は帰るべきだよ」
そう言って、阿九斗は下を見る。
「さぁ、降ろしてくれ。あいつを倒さないと」
が、けーなは首を横に振った。
「駄目だよ。あーちゃんはそうやって全部自分でやろうとするのが悪いところだよ。あいつは、あーちゃんだけ狙っているんでしょ? それなら、みんなに指示を出して、その通りにしてもらった方がいいよ」
けーなのその言葉は、
「確かに……。僕独りで決着をつけようとした結果がこれだからな……」
阿九斗はため息をつき、意を決したように首を振ると、下に向かって呼びかけた。
「
「はい! 阿九斗様!」
不二子は喜んでうなずいた。
「後ろの二人は、視界の奪われた怪物の足を攻撃して方向感覚を失わせて!」
「わかった!」
絢子と淑彦が目配せをしあってうなずいてから答える。
「ころねは、兵士の生き残りを使って怪物の口を開けてくれ!」
「
ころねが言った次の瞬間、阿九斗は不二子に合図をした。
「先輩!」
「承知しましたわ!」
不二子が答える。そして、立ち上がり、体勢を立て直そうとする怪物に、目くらましの煙を発生する薬品を投げかける。
完全に立ち上がる前だったため、薬
しかし、その瞬間、怪物の後ろ足に絢子と淑彦が斬りかかった。伸び上がった怪物は、力を入れた瞬間の足を斬られ、体勢を崩す。
「ころね!」
阿九斗の指示で、ころねは動いた。まだ怪物の身体にとりついていた兵士を首もとに移動させると、そこに向かって
痛みにうめくような咆哮とともに、怪物は空に向かって