3 魔王と聖 杯 の行方
「……通信ユニットそのものが向こうにあれば、中との通信が可能というのは幸いだったな。腕だけをこちらに送り込んだのは正解だった」
切り離した腕には、それだけで活動できるように通信ユニットが埋め込まれている。情報収集時に、手の入るところであればどこでも
蛇はジャングルに潜み、
「どうやら、あのお
2Vはつぶやいた。
最初からこの世界に潜んでいた者。それがこの世界に不確定要素として関係してくるはずだ。
「そいつのことを、もう少し調べておかなくては……。幸い、まだメギス神の神官どもは誰も気づいていないようだしな」
そう独り言を
2Vは
しばらく時間はかかったものの、2Vはいくつかの関連するファイルを見つけた。そこには
「これは……! 思った通り……。いや、予想以上か……!」
○
「従ってくれとは言いにくいですが、万が一の危険がないように諸注意を述べさせていただきたい」
淑恵――ここでは
校庭に多数いる生徒たちは、それを聞いているのかいないのか、かなりざわついていた。不安半分、気楽なゲーム感覚半分。いずれにせよ、とても
――まいったなぁ。みんなには安全に現実に帰ってもらって、私は2Vの行方と
そこで淑恵はスクリーンを開いて、現在の状況を
そこで淑恵は、ころねが気づいたのと同じく、ゲームの法則に従っていない者が仮想異空間の中にいることを知った。
――2V? いや、あれも私と同じように取り込まれたのだから、ちがうか。まして、あいつは腕だけ……大したことはできないはずだよね。すると、まさか、この仮想異空間に最初から誰かがいた……? ともかく、これは危険だな。それと
淑恵は慌てた。だが、それでも生徒たちを前に説得力を保てるような物言いが出来るとは思えない。
「困ったな。
淑恵はつぶやいた。必要なのだからしなければならないとは思うが、軍を指揮するような力量が必要な
「知識的にはあなた以外にできないとは思うが?」
――え?
淑恵は、はっとしてそちらを向く。絢子が自分を元気づけるように微笑んでいた。
「し、しかし、私は部外者である上に、人の上に立ったこともない。言うことを聞いてくれるだろうか?」
「そういうことならば、私が代わって言葉を発してもいい。そうでなくとも、手伝いはさせてもらう」
絢子が言った。
――いい人だな……。助けてくれるなんて。今は苦しい時だから、本当に助かるよ。
淑恵は安心して
――えっと、お礼をしないと……。今は男だから……
「そう言ってもらえると素直に
――って、言うとカッコイイかなー?
そう内心で思っていた淑恵だったが、その微笑みを見た絢子は、ぷい、と顔を
「そういう意味ではない。あなたのことを信用していない、と言っているのだ」
――あら、あんまり効かなかったか……。いや、そんなことで落ち込んだりしている場合じゃないってば。
「それでは
「う……む。わかっているならばいい」
絢子は口ごもりつつ言った。
そして淑恵は演台上にあがった。
「皆さん、聞いて
淑恵に注目が集まる。皆ひとまずは話を聞いてみようという気にはなったようだ。
「
淑恵は、そう言って絢子を指さした。
生徒たちは、おお、と声をあげた。そして、口々に賛同しはじめる。
「
「彼女、
「魔王との関係もいろいろ言われているが……あの戦争で戦った人だからな」
絢子は驚きに口をO字に開いたが、淑恵が手を
「確かに、この人を信用するのは、もう少し自分たちで動いてみて結果を見てからだ。それまでは、我々は
絢子の声に、皆、気合いの入った声をあげた。
それを見た淑恵はいたく感心した。
――かっこいい人だなぁ。私はこういうことできないから感心するよ。
「君は
淑恵は感心のあまり、思わず絢子の耳元でささやく。
「そ、そうか……? そうでもないぞ……」
絢子は顔を赤らめ、口ごもった。
――
と、淑恵は絢子の
「これがこの地の姿だ。彼女の指揮でこの地を
淑恵は、ふと言葉を切った。
地響きのような
それはジャングルの向こうから
「こ、これは?」
絢子が聞いてくる。
しかし、当の淑恵も土煙には
「ま、まさか、あなたにもわからない事態が?」
絢子が驚きに目を見開いた。
――こ、ここはみんなを安心させないと……。多分、これは軍勢だから、それを用意できるのは、魔王側……。
「い、いや、さすがに行動が早すぎることに驚いただけだ」
「早すぎる?」
「あれだけの軍勢を指揮できる者は、魔王側にしかいない。だが、それがこの数時間で行動を開始するなど、
淑恵は
が、それ以上、何を言ったらいいのかはわからない。立ち尽くしていると、絢子が声を張った。
「全員、戦闘に備えろ! これは魔王の軍勢だ!」
その声で、淑恵もはっとした。
――ゲームとわかっていても……実際に身体感覚を
しかし、落ち込んでいる場合でないことには、さすがに淑恵も気づいている。あらためて生徒たちの状況を確認する。
生徒たちの総数は五百名。
彼らとて、『コンスタン
「あ……あれ?
「ナイフはあるけど……マナがこもっていない!」
「強化
生徒たちはほぼ空身で校庭に立ち尽くしていることになった。しかも五百人固まって。
「こ、これではいい的ではないか!」
絢子が慌てて淑恵を見やった。
淑恵は考えをまとめるのに必死になっていた。
魔王が
淑恵は考えをまとめ、努めて大きな声を出す。
「校舎の中へ! 軍勢は私がなんとかする!」
そう
「私も行こう」
絢子は演台から飛び降り、当惑している生徒たちの列の間を抜け、校庭の
「私も!」
淑恵もそれに続いた。そのさらに後ろから、ナイフなどのあり合わせの武器を手にした生徒たちも続く。
ジャングルの向こうから
そして、ある者は逃げまどい、ある者は淑恵に続きはじめた生徒たち総勢五百名の、その目の前で、ジャングルがぱっくりと割れた。
ジャングルの木々を
「ごははははは! 魔王軍が一番
サイの上に備え付けられた
これには淑恵に続いた生徒たちも突進を止めた。
「うわ!」
「あ、ありゃあ何だ!」
「やばいぞ、こりゃあ……」
「ゲームったって、無理ゲーじゃんかよ!」
生徒たちは悲鳴をあげた。
淑恵も絢子もさすがに前進を止める。
「か、彼女は?」
「ころねだ。人造人間の
淑恵の問いに、短く絢子が答えた。
「知り合いなのか?」
「そうだ」
「それならよかった。話ができるかもしれない」
「話が通じるかな? ここでは彼女は敵側に回っているってことだろう? こういうとき、ノリノリになるのがころねだからな」
絢子は
そして、その通りになった。
「話し合いではない! 皆殺しと言ったのだ!」
ころねの無感情な、それだけに
サイ――モンスターのベヒーモス――にまたがったころねの差しだした
「ぎゃああ!」
「ひっぃいい!」
そのうち二名が空中で
「……まだシステム通りか」
淑恵は胸をなで下ろした。
そして、ころねに向かって声をあげる。
「待て! このゲームには不確定要素が
すると、ころねは、その言葉には思ったよりも素直に応じた。ベヒーモスを淑恵たちの前に止め、二人を見下ろす。
「わかっています。ですから、生徒たちを早く現実に返そうと皆殺しをしているのです。こちらでもデータを調べさせていただきました。
「そうだ。あなたは、すると、ゲームのルールに従っていない何者かがいるのもわかっているのか」
ややほっとする淑恵である。
「はい。しかし、人間は不便ですね。殺されれば素直に元の世界に
「いや、普通、あれは
思わず絢子はつぶやく。
と、ころねはそれを聞いてうなずいた。
「しかし怖がられているというのは都合がいいですね。逃げる者は効率よく殺せます」
ころねは腕を組み、堂々と言い放つと、手に持った杖を振った。と、ベヒーモスが開いた道から、配下の
彼らは残った淑恵と絢子の横を走り抜け、逃げていく生徒たちを背中から
「うわぁああ!」
「いやだぁああ!」
悲鳴とともに、次々と生徒たちが塵になる。
「男は殺せ! 女は
無表情、無感情にころねは叫ぶ。