「……なるほど」
「ふたつめ。この世界で死んでも、元の世界に帰るだけです。逆に言えば、死ねば
「え?」
さすがにその言葉には皆、
「それを信用するのは難しいな」
皆、口々にそのようなことを言い出し、首をひねった。
――確かにそれは信用できないよなぁ……。ええと、どうすれば……。そうか!
「このあたりに動物は? 学院で飼育していたりするものがいれば」
淑恵が聞くと、生徒の一人が校舎の
「あれ? 小屋は無くなっているのに、鶏はいる……」
「あの鶏を見ていてください」
淑恵は鎧に差してあった
「なんてことを!」
女生徒たちは悲鳴をあげて目を覆ったが、しっかりと鶏の姿を見ていた者は驚きの息をもらした。
首を飛ばされた鶏は、その首も、二歩ほど走った
「え?」
驚きの声が周囲からあがる。
淑恵は内心でほくそ
――ふぉおお! さすがゲーム。短剣投げなんて普通は当たらないはずなのに、ばっちりだよ。いやぁ、
「一方、この中で生み出された動物は……」
淑恵は、一度は鶏の血に
「あの兎ですが」
淑恵は再び短剣を構えた。
「えー?
兎の近くに居た女生徒が、兎に歩み寄った。
赤い目をくりくりとさせ、耳をぴんと立てた兎は、可愛い仕草でその女生徒に歩み寄ってきた。
「危ない!」
淑恵が短く言い放った。
「え?」
女生徒は戸惑う。
と、兎が
ぴょん、などという可愛らしいものではない。明らかに女生徒の殺害を意図したのど元への一直線の
しゃああああ!
「きゃああ!」
女生徒は顔を手で覆った。だが、兎はのど元を
しかし、女生徒の身体に兎が跳びかかるより一瞬早く、淑恵の短剣がその首をはね飛ばしていた。
どさり、とふたつ
「消えない……?」
女生徒がつぶやく。
「これは首
淑恵の説明に、絢子が口を
「しかし、戻るためには死んで見せろと言うのも問題があると思うが……。
その答えを淑恵が少し考えている間に、髪の長い美人が口を開いた。
「確か、仮想異空間では、そこでの予定を
不二子である。先程も鋭いことを言っていた、と淑恵は感心した。
「そうですね。ゲームを終えることも脱出の条件になるでしょう。では、まずは簡単にゲームのルールを説明します。ここでは、皆さんの性格に応じて配役が決められます。ここで戦い、勝利すると、経験値が溜まり、レベルがあがります。そして、ここが仮想異空間の有効活用実験たるゆえんなのですが、ここで身に付いた
淑恵のその説明に、察しの良い生徒たちは喜びの声をあげはじめた。
「そいつはいい。一週間、ここであの兎みたいのを
――これならゲームを楽しんでもらえそうだ。
淑恵は喜び、うなずく。
「それでは、現実世界でネットを見るようにマナスクリーンを展開してみてください」
淑恵がそう指示した。
皆、生徒手帳からマナスクリーンを展開する。と、そこには各自のパラメーターと、ゲーム内で使用するコマンドが記されていた。
「そこにパラメーターと、ルールに関係するコマンドが表示されます。
淑恵が言うと、不二子が疑問を口にした。
「それでゲームのクリア条件は何ですの?」
「このゲームでは、クリア条件は魔王を倒すことです」
淑恵がそう口にした
「魔王を?」
「倒す?」
生徒たちがざわつく。
「そういえば、紗伊阿九斗がいない」
「
生徒たちが周囲を見回しながら声をあげる。
――妙な反応があるけど、彼は魔王だから
性格に応じてゲーム世界での配役は決まっている。ということは、こちらの魔王は阿九斗ということになるだろう。
淑恵は妙な方向に話が流れていくのを感じるが、周囲の雰囲気はさらに危険な方向へと向かっていく。
「いいね! ここを抜け出すためには、
「しかも、死ぬことにリスクはなし、か。あえて死ぬことはないが」
その認識が生徒たちの間に広まり、ざわめきが喜びの
――あれあれ? 妙なことになったぞ……。ええと、どうしよう……。なんとかこの場をまとめないと……。
淑恵は慌てる。気がかりな2Vの存在もある。彼が不確定要素となって、何が起こるかはわからない。
――それでも最終手段としては、この鎧があるけど……。リセットスイッチとしての役にしか立たないだろうなぁ。なんとか生徒たちをまとめて、全員を生きたまま元の世界に帰さなくちゃ……。
淑恵は着ている鎧に手を
○
「どうやら、人間の意志で世界が変化する要素があるようです」
ころねがマナスクリーンを
「前もそうだったね。本の内容をある程度は僕らで変化させることができた」
阿九斗はうなずいた。
「このゲーム世界で適した配役が
ころねはマナスクリーンを展開することを早めに思いついていたので、そこのマニュアルに目を通すことで、淑恵が説明したようなことは、ほぼ
「適した配役ねぇ……」
阿九斗はぼやいた。
今、阿九斗、ころね、そして、けーなが居るのは、どことも知れぬ
そして、そこに
「あーちゃん、
はしゃいでいるのはけーなである。けーなはローブ姿で、どうやら神官といった
「お
けーなはマナスクリーンを展開し、自分のパラメーターを表示させた。
クラス:神官
レベル:10
HP:20
筋力:6
兵力:10000
「兵力?」
「このゲームは、自分の指揮する軍隊を持てるゲームだったでしょ?」
けーなは指を鳴らした。すると、広間に鎧の上に白いマントを羽織った神官兵たちが並んで
「なるほど、戦争ごっこか」
阿九斗は
「つまり、みんな、僕を倒しに来るわけね」
「そうでしょうね。ところで、
「そういえばそうなのかな」
ころねの言葉に、阿九斗は自分のマナスクリーンを開いてみる。
クラス:魔王
レベル:99
HP:9999
筋力:25
魔力:25
兵力:200000
「全部最高値だね」
「人間の限界筋力と魔力は18に設定されているそうです」
けーなところねが阿九斗のパラメーターを
阿九斗としても複雑な気持ちである。
「これだけ強いと、みんないっぺんにかかってくるんだろうな。でも、
「えー?
けーなは文句を言うが、阿九斗にとっては聞く義理はない。
「駄目だよ、一週間過ぎたら、みんな危ないことになるかもしれないんだから。出来る限り早く負けるほうがいい。なんなら、この場で自殺しても……」
「ちょっと待ってください」
ころねが阿九斗を制した。
「どうしたのさ?」
「内側から調べられる
「危険な?」
「はい。どうやらみっつの要素がこの世界に
「みっつの要素?」
「ひとつは、曽我けーな。つまりあなたです」
ころねはけーなを指さした。けーなはきょとんとしている。
「あたし?」
「どうやら、仮想異空間への干渉は、あなたのマナの固有
「ルール改変? そんなことしないよ。だって、このゲーム、あたしが知ってるゲームだもん」
けーなは笑いながら言う。が、阿九斗はころねの言葉に納得した。
「そうか、本に入ったのも、けーなの力がきっかけだった。今回、すんなりと世界に入れたのも、けーなが最初から知っているルールが元になっているからなのか」
「おそらくは」
「とはいえ、それなら安全じゃないか。けーながちょっとゲームを楽しんだら、やっぱりここを出てしまえばいい」
「いいえ。ふたつ目の要素。これは仮想異空間制御装置そのものがこの世界に持ち込まれていることです」
「普通、そういうものは外に置いておくんじゃあ……」
「はい。何らかの手違いがあったのでしょう。これでは制御装置そのものに制御装置が干渉できることになります。場合によっては、何も制御できないという取り返しのつかない事態になるでしょう」
「それも深刻だけど……まだあるのかい?」
阿九斗は息をのんだ。どうやら、気楽なゲーム体感というわけにはいかないらしい。
「みっつ目。仮想異空間内に、ルールに従わない存在がいます」
「え? あるわけないだろう。だって、ルールに従って仮想異空間を発生させたんじゃないのかい?」
「原因はわかりません。しかし、データをすべて
「わかった。それがいるとしよう。どんな不都合があるんだい?」
「細かい不都合は予測不可能です。ただ、一番大きな不都合は、ルールに従わない存在によって、危害を加えられた者は、ゲームとしてでなく、本当にダメージを受けてしまうであろうことです」
「それは……危ないね」
阿九斗は言われていることの深刻さに気づいた。
どこかに
「そのルール無視の存在は……どこにいるんだい?」
「わかりません。捕捉は不可能でしょう。そもそも悪意を持っているかどうかもわかりません。
「わかった。どちらにせよ、お楽しみの時間はないな。やっぱり、すぐにこの世界を出ることを検討しないと」
阿九斗は玉座から
「ですから、駄目なのです。ゲームのルールでは魔王は自殺しない。つまり、あなたが消えても、プログラムが作り出した存在、いわゆるNPCが魔王になるでしょう。あなたは良くても、
「ああ、そうか」
「ですから、いずれにせよ、早めのゲームのクリアが一番安全でしょう」
「じゃあ、
「いいえ、もっと簡単な方法が」
「簡単な方法? そんなものあるわけない」
阿九斗は首を横に
「
「は?」
「皆殺しによる完全勝利。魔王側から軍勢を率いて
「ちょ、ちょっとそれは……」
阿九斗もさすがに
「何を
ころねは
確かに正論だった。どこにも論理に
「でも……」
「デモもストもありません。まだ未熟なうちに冒険者を
ころねは、ぐい、と阿九斗に向かって顔を突き出した。その
「……ひょっとして、殺したがってない? ゲームだと思って」
「まさかそんなことはありません。あ、全員を
そう言ってから、ころねは阿九斗の前に
「ご命令をいただければ、この
「……いや、君、意外と楽しんでるだろ」
阿九斗は迷ったが、悪ふざけの部分を別にすれば、確かにころねの言う通りにするのが安全そうだった。
「わかった。任せるよ」
「ありがたき幸せ。必ずや魔王に勝利をお届けいたします。
ころねが手を突き上げると、けーなも喜んでそれに呼応した。
「悪に栄光を!」
「悪に栄光を!」
と、さらにそれに
「悪に栄光を! 悪に栄光を! 悪に栄光を! 悪に栄光を!」
――これはまた……ゲームとはいえ、えらいことになったなぁ……。
阿九斗は内心でぼやいた。