1 どっきり健康診 断
もちろん、転入時の健康診断の場で将来の職業が魔王と判定されたことが
「今回は、
下着姿で保健室に並んでいると、
「確かに気になるよね」
阿九斗も応じた。
どういうわけか、当日の朝になっていきなり健康診断があることが告げられたのである。生徒たちは
「採血があるのか」
阿九斗の前の生徒が、医師に
「アニキ、注射苦手なんすか?」
ヒロシがニヤニヤしながら聞く。
「そりゃ、痛いからね」
真顔で返す阿九斗である。
そういう答えを予測していなかったヒロシは、さすがに
「アニキって、確か自分から高温プラズマに飛び込んだり、自分の
「痛いものは痛いんだよ」
「えー?」
そうこう言っている間に、阿九斗の番が回ってきた。差しだした腕に注射針が
「い、痛いんすか?」
ヒロシが聞く。
「痛いよ」
そんな小学生のようなやり取りはあったものの、男子の健康診断そのものは何事もなく終了した。
「いや、何もなくて良かったよ。最近、いろんなことがありすぎて、急な健康診断なんて、何かたくらみがあると思ってしまうようになってしまったよ」
服を着た阿九斗は、女子の検査の待ち時間に外に出て、ヒロシと時間をつぶしていた。
「確かに、アニキがらみだと事件が起こってもおかしくないっすよね。いや、むしろ起きないとなんか足りないっていうか」
「否定できないのが
阿九斗は肩をすくめた。
と、その時、阿九斗は校舎裏に
「やっぱり何か起こるっすね」
「
人影は、こそこそと隠れるように移動していた。校舎裏の
阿九斗とヒロシは二人組の人影に見つからぬように移動を開始する。
二人組は、どうやら姿を隠すための
「あっしが回り込むっす。アニキはあっしがあいつらを
ヒロシが耳打ちする。
「どーん、とやるのはどうかと思うけれど、まぁ、
阿九斗はうなずいた。
ヒロシが大きく校舎裏の茂みを回り込んで反対側へ移動。そして、遠くから阿九斗にうなずいて見せると、タイミングを計って、
「うわぁああ!」
驚いて声をあげたのは、迷彩マントをかぶっていた二人組である。
二人組は逃げだそうとしたが、その前に立ちはだかったのが阿九斗だった。
「待て。逃げるな。何者なんだ?」
いきなり目の前に現れ、短く言い放った阿九斗を見て、二人組は慌てた。完全に我を失ったと言ってもいい。
「う、うわぁあ! 出たぁあ!」
二人組は悲鳴を上げて、予告もなく阿九斗に魔術の
「
阿九斗は反射的に手を上げた。
その結果……。
――しまった……!
阿九斗は二人組を傷つけまいと、
二人組は顔を
校舎の
二人組は顔を覆ってしばらく
阿九斗もほっとした。どうやら
「驚かすつもりはなかった。だけど、迷彩マントを使うなんて……」
が、そう言いかけた阿九斗は、言葉を止めた。地鳴りのような妙な音に気づいたからだ。
――え? なんだ……?
その疑問はすぐに解消された。
校舎の
「うわぁあ!」
二人組は飛びのいた。
壁が倒れ、ずん、と低く重い音が響く。二人組も阿九斗もあまりのことに言葉を失ったが、それだけで終わりではなかった。
阿九斗の眼前に何人もの
いや、正確には出現したわけではなく、女子の健康診断会場の壁をぶち抜いてしまっただけだ、と阿九斗が気づくまで、しばらくの時間が必要だった。そして、何が起こったか
「そうか……
それを見て、阿九斗は二人組が何をしようとしていたかに気づいた。だが、それはこんな時に言う言葉ではなかった。
「きゃあああああああああ! いやぁあああ!」
何層にも重なった悲鳴が周囲の空気を
「
裸の上に急いで上着だけ羽織った少女が、
「いや、これには事情が……」
「壁を
「話を聞いてよ。
「さっき自ら〝覗きだったんだ〟と言ったばかりではないか! 壁を壊すほど興奮して、覗きという目的すら見失った者の独白だな、あれは!」
「だから、覗きは僕じゃなく……」
阿九斗は周囲を見回した。しかし、
「あれ? いなくなってる……」
「何をとぼけたことを言っているか!」
「とぼけていないよ。ここにいたんだって……」
「問答無用!」
絢子は木刀を振るった。阿九斗はそれを避けることができなかった。魔力の乗った木刀は
○
「採血を一番最初にしたのは
そう言って
その
「あとは逃げればいいだけなのだから、問題ないでしょ。目的のものは手に入ったんだ」
「
淑恵はつぶやいた。
「こんなタイミング良く健康診断が行われるとはね。簡単にコトが進んだものだ。では、これはこちらで持ち帰ってサンプルは後で送るんでよろしく」
2Vが言うと、淑恵はうなずいたが、ふと後方を見やる。爆発音を聞きつけたのだ。
「何かあったのかな?」
淑恵は気にするが、2Vは首を振った。
「いけないね。こういうときは目的以外のことは気にしないものさ。いや、といっても、あなたは曽我けーなの顔が見たかっただけだったっけ。ホントに
2Vは少し考えた後にうなずいた。
「私はこのまま帰りますんで、ご自由に。とはいえ、
そう言われた淑恵はうなずいて爆発音の方に向かって歩きはじめた。
体中から
「つまり、どういうことが起こってこうなったのかな?」
淑恵は阿九斗を見下ろしながら言った。
阿九斗は顔をあげた。
「……説明すると事情が複雑になるんだ。ともかく僕は身体には問題ない」
そう言って阿九斗は立ち上がった。細かい傷がいくつも身体についている。額からは絵に
「それで
淑恵はもっともなことを言った。が、阿九斗は首を横に振る。
「当然そう思うだろうけれど、本当に身体が
「本当に?」
淑恵は着ていた白衣を破いて、阿九斗にしゃがむように手で示した。
「服を破くことはないんじゃあ……」
阿九斗は戸惑った。が、淑恵は何事もなかったようにうなずく。
「白衣は道具にすぎないからねぇ。そもそも私のものじゃあないんだよ。気にしなくていいから」
「聞いてみれば合理的な話だね」
阿九斗は
一見したときは気づかなかったが、顔立ちはかなり整っている。気づかなかったのは、各パーツに派手なところがなかったからだろう。地味ながらじっと見続けて良さに気づく、そういう顔だ。
それほど手入れされていない
淑恵は阿九斗の
「と……」
阿九斗は思わず顔を引いた。
「動かないでくれる? よく見えないんだよねぇ」