Part 01: 菜央(私服): レナちゃん。クッキー生地は、こんな感じでいいかしら? レナ(私服): ありがとう。ちょっと見せてね。 菜央ちゃんから手渡されたボウルを受け取り、指先で軽く生地を押して弾力を確かめる。 レナ(私服): (うん……ちょうどいい硬さ。これならおいしい、クッキーができそう) 任せた時からある程度の期待はしていたけど、ちゃんと応えてくれたことが本当に嬉しい。 彼女がすごいのは、その腕前だけじゃない。私がうっかり言いそびれたことも事前に察して、さりげなく手順の中に加えてくれるところだ。 料理が下手だと言う人の代表的な行動に、既存のレシピに従わないというものがある。 既存のレシピを、自分好みの味に寄せるのは楽しいから……その気持ちは、わからなくもない。 だけど、料理に慣れない人が下手に思いつきでアレンジをしようとすると、ほとんどの場合で大変なことになる……。 圭一(私服): ……なぁ、レナ!これを入れてみたらいいと思うんだが、どうだ?! 特に、圭一くんのような思いつきはもはや致命的。……ほぼ大惨事レベルだ。 レナ(私服): 圭一くん……その瓶に入っているのってノリの佃煮、だよね……? 圭一(私服): あぁ、白いご飯のベストパートナーだ! 圭一(私服): ハロウィンってのは、黒かったりオレンジだったり……紫色を使うとそれっぽくなるって言っていただろ? 圭一(私服): これをクッキーに入れたら黒っぽくなるし、ザラメせんべいみたいに甘じょっぱくてうまいクッキーができるんじゃないか?! 菜央(私服): ――ボツ。 圭一(私服): ボツ?! 菜央(私服): 前原さん……お菓子作り、ナメてる? 菜央(私服): ただでさえ材料をキッチリと計量しても、レシピと湿度が温度とちょっとでも違ったら同じ味にならないのがお菓子作りなのよ?! 菜央(私服): なのに! よりにもよって!ノリの佃煮ぃぃ?! 菜央(私服): ボツよ、大ボツ!輪廻転生して頭冷やしてきなさいッッ!! 圭一(私服): そ、そこまで言わなくてもいいだろ……?!れ、レナっ! お前は、どう思う?! レナ(私服): はぅ、圭一くん……食べ物で遊ぶのは、レナもよくないと思うよ。 圭一(私服): うぐぁぁあっ!子どもに言い聞かせるみたいに、たしなめられた!普通に怒鳴られるより、胸が痛い……! レナ(私服): 今作っているクッキーは、エンジェルモートの料理担当の人に出すテスト品なんだよ。 レナ(私服): だから、もしかしたら圭一くんのも美味しいのかもしれないけど……みんなが安心できるものを出さないと。 レナ(私服): 今回は部活と違って、お金をもらう商品になるんだから。……真面目に作らないとだめだよ? 圭一(私服): わ、悪かった……け、けどよ?俺だって、悪ふざけのつもりで提案したんじゃねぇぞ! 圭一(私服): 俺なりに新しくて、美味しいものを作ろうとしたんだ!……その気持ちだけは信じてくれ! レナ(私服): うん、わかった。信じるよ。……じゃあ圭一くん、冷蔵庫に入れていたクッキー生地を延ばしてくれる? 圭一(私服): おうっ、カボチャ入りのやつだな!任せろ!! しょんぼりしていたのが嘘のように、圭一くんは嬉々として冷蔵庫へ向かう。 レナ(私服): (圭一くんの無神経……無邪気な言葉には、たまに困った気分になることもあるけど……) それを差し引いても、素直に頑張ってくれる姿は素敵だと思う。良くも悪くも、彼は真面目な人なのだ。 菜央(私服): 前原さんったら……今の状況わかってるのかしら。時間がない分、必死に頑張らないといけないのに。 レナ(私服): はぅ……確かにそうだけど、あんまり根を詰めすぎてもよくないから遊び心も少しは必要だよ。 レナ(私服): それより……菜央ちゃんは大丈夫?疲れていたりしないかな、かな……? 菜央(私服): ううん、平気。レナちゃんがいろんなことを教えてくれてとても楽しいもの。 そう言って菜央ちゃんは、少し照れくさげに可愛らしい笑顔を浮かべてくれる。 ……これまでにも私は、学校の授業などで年下の子に料理を教える機会があった。 その中でも梨花ちゃんは、きっと天才の域に達していると本気で思う。 なにしろ、レナが教える料理手順の一手先を読んでいるかのように……動きに無駄がない。 ……ちゃんと聞いたことはないけど、梨花ちゃんは亡くなったお母さんに教わっていたのか、基礎がしっかりしていた。 ……それに比べると、菜央ちゃんの技量はまだ拙い。だけどきちんと手順を確認して、コツコツと腕を積み重ねている。 さらに、向上心とひたむきさを持ちながらも常に謙虚で……褒められても私のおかげだと、感謝を返すことを忘れない。 もし、私が先生だったら依怙贔屓と指摘されてもつい菜央ちゃんに目をかけてしまうと思う。……それほどに彼女は、魅力的な「生徒」だ。 だけど……いや、だからこそ少し気になってしまう。彼女の物わかりの良さは、まるで……。 レナ(私服): それにしても、菜央ちゃんの提案してくれる料理のレシピはどれも素敵なものばかりだね。 レナ(私服): たとえば、この黒いビスケットにマシュマロを挟んだお菓子なんて……レナは今まで見たことがなかったよ。 菜央(私服): 『スモア』って言って、アメリカやカナダのキャンプでよく食べられるお菓子らしいわ。 菜央(私服): で、この白いところにチョコペンを使ってこうすれば……。 レナ(私服): あはははっ……!白くてかぁいいオバケが、ビスケットの間に隠れているように見えるよ~♪ レナ(私服): はぅ……本当に菜央ちゃんはいろんなことを知っているんだね。 菜央(私服): 実はこれ、美雪に教わったのよ。キャンプの定番のお菓子らしいわ。 圭一(私服): えっ……そうなのか? 菜央(私服): そうよ。今回のハロウィンのことといい、美雪って意外な知識を持ってるのよね。……あたしも、もっと勉強しなくちゃ。 その口調には、嫉妬では決してないけれど……どこか焦燥感のような、緊張が滲んでいる。 さすがにあからさまだったので、私だけでなく横にいた圭一くんもそれを聞いて何かを察したように……怪訝そうな顔になった。 圭一(私服): あのさ……菜央ちゃん。勉強したいって気持ちは大事だと思うけど、そんなに焦らなくてもいいんじゃないか? 菜央(私服): 焦ってないわ……ただ、必要を感じてるだけよ。だって一流のデザイナーになりたいんだったら、たくさん勉強しなきゃいけないもの。 菜央(私服): それに、世界にどんな料理やデザートがあるのか今のうちに知っておくことも……大事なこと。 菜央(私服): それが相手の文化を知り、話題を作って人との繋がりを生み出すきっかけになる。 菜央(私服): そう言ってお母さんが、海外出張のお土産で買ってきてくれたり……自分で作って再現してくれたりしたんだもの。 レナ(私服): そうなんだ。……菜央ちゃんのお母さんは、優しくて素敵な人なんだね。 菜央(私服): ……えぇ。 こくり、と頷くその横顔を盗み見ると……なぜか菜央ちゃんは笑みもなく、遠い目で寂しそうな表情を浮かべている。 ……なぜだろう?彼女がこんな顔をする時は、私の胸の内が締めつけられるように苦しくなる……。 圭一(私服): 菜央ちゃんのお母さんって、厳しい人なのか?デザイナーになるためにはもっと勉強しろって怒られたりしたのか? 菜央(私服): いいえ、怒られたことはないわ。けど……。 レナ(私服): ? どうしたの、菜央ちゃん……? 菜央(私服): あ……ごめんなさい。ちょっと新作レシピについて、考え事をしてただけよ。 菜央(私服): それはそうと、ハロウィン向けの料理は沙都子にとって災難だったわね。……まさか、あんなにもカボチャが嫌いだなんて。 レナ(私服): あははは……嫌々でも一応は食べてくれるし、本当は苦手意識がついちゃっただけなのかもしれないんだけどね。 菜央(私服): だからって、カボチャ尽くしのご馳走だと並んでもあの子への嫌がらせにしかならないわ。何か代案を考えないと……えーっと……。 そして菜央ちゃんはああでもない、こうでもないと言いながら……カボチャの代わりになりそうなものを食材の山から手に取っている。 ハロウィンだからとカボチャに固執せずに、嫌いな沙都子ちゃんでも楽しめるレシピを考える努力を惜しまない……。 そんな姿は、とてもいじらしくて微笑ましい。心優しい彼女と出会うことができた奇跡に、私は心から感謝したい思いで一杯だ。 だから私は、どうしても彼女に……。 レナ(私服): あっ……?菜央ちゃん、栗なんてどうかな……かな?味と食感はちょっと似ていると思うよ。 菜央(私服): 栗……いいわね、それ!野菜独特のえぐみとかはかなり軽減されるし、なにより秋っぽいもの! レナ(私服): じゃあ、早速試作を……あ、でも今から作ると圭一くんの帰りが遅くなっちゃうかな? かな? 圭一(私服): 俺は大丈夫だ! むしろ栗のクッキーなんて絶対うまいものを食わずに今ここで帰ったら絶対後悔する、と第六感が囁いてる……! 菜央(私服): 帰りが遅くなって、事故に遭ったりしないでよ?さぁレナちゃん、早速試作してみましょう! レナ(私服): ……うん。 Part 02: 圭一(私服): いやー、栗入りクッキーなかなか美味かったな!美雪ちゃんと一穂ちゃんが帰ってこなかったら全部食っちまうかと思うくらい、美味かった! すっかり暗くなった道を、自転車を押す圭一くんと並んで歩く。 圭一(私服): ……ただ、粗めに砕いた栗入りクッキーがポロポロと崩れやすいのは想定外だったな。いや、味はよかったけどさ。 レナ(私服): あはは、作ってみないとわからないことってあるよね。 レナ(私服): 特にお菓子はいろんな影響を受けやすいから、簡単にレシピの内容を変えちゃいけないって言われているんだよ。 圭一(私服): なるほど……量だけじゃなくて、材料の相性も重要になってくるんだな。 圭一(私服): 今までなんにも考えずに食っていたけど、お菓子って繊細なんだってよくわかったぜ。 レナ(私服): うん。だから今日はたくさん試作して、一番美味しい配合を突き止めたんだよね……菜央ちゃん、本当によく頑張ってくれたよ。 屈託のない、かぁいい菜央ちゃんの笑顔を思い出す。 いつもは、かぁいいものを考えている時のようにほわっと心があたたかくなる……はずなのに……。 レナ(私服): 菜央ちゃんって……あのまま大人になるのかな? かな? 圭一(私服): ? そりゃ、生きてりゃ子どもだっていつかは大人になるだろ? レナ(私服): そうだけど、そうじゃなくて……。 レナ(私服): 菜央ちゃん……一度もレナにワガママを言わないまま大人になるのかなって、思っちゃったから。 さっきまでみんなでワイワイ騒ぎながら試食会をして、楽しかった反動だろうか。 ぽろり、とこぼれた言葉は自分でもそうとわかるほど……寂しさに満ちていた。 レナ(私服): 菜央ちゃんの気持ち……レナも、わかるんだよ。 レナ(私服): 好きな人にワガママを言って、困らせたり……自分のこと嫌いになったらどうしようって思ったらきっと……すごく怖いんだろうな、って。 圭一(私服): まぁ……菜央ちゃんって俺たちから見ても、レナのことが大好きって感じだもんな。 圭一(私服): けど菜央ちゃんって、美雪ちゃんと一穂ちゃんにはワガママ……?とは、ちょっと違うかもしれないけどさ。 圭一(私服): 時々けんか腰で、沙都子みたいに生意気なことを言ったりしているぜ。 レナ(私服): ……そうだね。美雪ちゃんと一穂ちゃんには甘えられるけど、レナには甘えにくいのかな……はぅ。 圭一(私服): 甘え、か……レナも、菜央ちゃんに甘えられたいのか? レナ(私服): ……どうなんだろう。自分でもよくわかんないかな、かな。 菜央ちゃんが、レナのことを大好きだと思ってくれていることを疑う気持ちはない。 でも、好きでいてくれるならそれで十分だと割り切れなくて……モヤモヤしてしまう自分が、なんだかすごく嫌だった。 圭一(私服): それで、レナはどうやって人に甘えるんだ? レナ(私服): はぅ……? 予想外の問いかけに、思わず足が止まった。 圭一(私服): よくよく考えてみたら、俺……レナが人に甘えているところを見たことないんだよな。 レナ(私服): そう……かな?レナは結構、普段からみんなに甘えていると思うよ。魅ぃちゃんには色々と助けてもらったり、あと……。 圭一(私服): それって最初だけじゃないか?今だって魅音を助けるために、いろいろ考えて頑張っているわけだしさ。 圭一(私服): ……もしかしてレナって、菜央ちゃんと似て人に甘えるのが苦手なんじゃないか? レナ(私服): (……それは) そうかもしれない、と思うと同時に……少しだけ苛立ちにも似た衝動が湧き上がる。 レナ(私服): (何も、知らないくせに……) 子どもが真っ先に甘える対象である両親は……「レナ」にとってはもう、そうじゃない。 父親は私の甘えを受け止められない、とわかってしまったし……母親に至っては論外だ。 レナ(私服): (そんな状況で、誰に甘えろって言うの……?) こみ上げる激しい感情をぐっと飲み込んで……なんとか、「レナ」としての笑顔を浮かべる。 レナ(私服): はぅ~……確かにそうかもしれないねー。 とにかく今は、この会話を流して終わりにしたい。圭一くんを怒鳴りつけて、困らせてしまう前に――。 圭一(私服): じゃあさ……レナ。ここで俺に甘える練習をしてみろよ! レナ(私服): ……えっ? 圭一(私服): 任せろ。レナの甘えを、全部受け止めてやるから! ほら、とわざわざ圭一くんは両手で押していた自転車のスタンドを立て、こちらに向けて両手を広げてみせる。 レナ(私服): はぅ……え、えぇっ……? 圭一(私服): ほら、来いよレナ! そう言って、無邪気に笑う圭一くんの姿に私も最初は戸惑っていたけど……。 レナ(私服): あ、あは……あはははっ!! なんだか無性におかしくなって……気づけば、私は誰もいない夜の道端でお腹を抱えて笑っていた。 レナ(私服): そんなこと、急に言われても……あははっ!何をどうしたらいいのかわかんないよ……あはははっ! 圭一(私服): じゃあ……考えてくれよ。それで、菜央ちゃんに見せてやろうぜ! 圭一(私服): しっかりしてるレナだって、たまにはこんな風に人に甘えることがあるんだってな! レナ(私服): はぅ……菜央ちゃん、びっくりしないかな? 圭一(私服): 詩音からハロウィンの相談を聞いた時に、ちょいと教えてもらったんだけどよ……。 圭一(私服): ハロウィンの日は、ちょっとくらい誰かを驚かせても許されるらしいぜ! Part 03: 美雪(私服): 店内に設置する、撮影用背景看板の完成祝い!そして配布用クッキーの大試食大会だー!! 羽入(私服): あぅあぅあぅ、なのですよ~!! 菜央(私服): ……今日の羽入は、一段と元気ね。 羽入(私服): だって、クッキー食べ放題と聞かされて元気が出ない子なんていないのですよーっ! 梨花(私服): ……クッキー食べ放題のイベントではなく、試食会なのですよ。 沙都子(私服): まぁ、食べきれないほど作ってくださるとレナさんは言っていましたし、実質食べ放題と呼んでも差し支えないのでは? 沙都子(私服): ……と、言いたいところですが。私たち、どうしてここで待たされていますの?玄関で全員集合はさすがに狭すぎましてよー? 美雪(私服): だって、リビングでレナと前原くんが店内に設置するための撮影用書き割りや小道具をセットしてるからさ。 美雪(私服): ちなみに美雪ちゃんたちも、大道具小道具諸々の作成頑張りました!……で、それを使ってやってみたいことがあるんだって。 魅音(私服): へー、やってみたいことって?菜央ちゃん、何か聞いていない? 菜央(私服): ……知らないわ。 詩音(私服): ずいぶんと不機嫌ですね。……どうしたんですか? 圭一(ハロウィン): よし、もういいぞー!みんなこっちに来てくれー! 一穂(私服): っ、あの豪華な椅子に座ってるのって……? 沙都子(私服): レナさん……ですわね。 レナ(ハロウィン): あはははは……今年のハロウィンも、人間たちは極上の菓子を献上してきたわね。 レナ(ハロウィン): そんなに私が恐ろしいのかしら?……あははは、当然ね。 レナ(ハロウィン): だって、ワタシのような吸血鬼にかかれば人間なんて簡単に死んでしまうもの。 レナ(ハロウィン): 供物はワタシの存在を認め……畏れ、そして敬う証拠。 レナ(ハロウィン): ワタシの存在を否定するなら、こんな供物なんて献上するはずがない。 レナ(ハロウィン): そう! 供物があるという事実こそが、このワタシの存在を認めているという確固たる証拠なのよ! レナ(ハロウィン): ……供物の味がよければ、しばらく人間は襲わないであげようかしら? レナ(ハロウィン): あははは……あっははははははっっ! 圭一(ハロウィン): おお……あれが年に一度しか作れず、しかし全部吸血鬼へと捧げられる……食べると寿命が伸びると言われる極上の献上品! 圭一(ハロウィン): ハロウィンの今日だけ蘇ったガイコツ人間の俺でも、あの菓子を口にしたら生き返ることができるのか……?! 圭一(ハロウィン): 食べてもなにも変わらないかもしれない……いや、だが口にしなければなにも変わらない! 圭一(ハロウィン): やってやるぜ……吸血鬼女王の目を欺き、あの幻のお菓子を口にして再びこの夜に蘇ってやらぁぁああぁっ……! 圭一(ハロウィン): ……以上、吸血鬼の女王様と! レナ(ハロウィン): お宝を求めて吸血鬼の根城へ飛び込もうとするハロウィンに蘇ったガイコツ人間のお芝居でしたっ! 満面の笑みで、状況を説明……したけれど。 しん……と静まり返った場の中でみんなは身じろぎもせず、まるで金縛りにでもあったようにぼぅっと佇んでいた。 圭一(ハロウィン): おいおい、どうしたんだよみんな!そのぽかーんとした反応は何だぁ? 美雪(私服): ……お、おぅ。いや、えっと……うん。うん? 詩音(私服): いや、ぽかーんとしか言いようがありませんよ。突然何が始まったかと思いましたので。 レナ(ハロウィン): あははは。この衣装はレナが作ったんだけど、作っていくうちにパッて舞台のワンシーン?……みたいな映像が浮かんできてね。 レナ(ハロウィン): どうしてもなりきってみたくて、圭一くんに無理やりお願いして一緒にやってもらったんだよ~♪ レナ(ハロウィン): せっかくのハロウィンだし、みんなを驚かせたかったから……はぅ。 沙都子(私服): まぁ……確かに驚きましたわ。ただ、おそらくハロウィンの驚きとは方向性がちょっと違うような気が……。 沙都子(私服): レナさん、演劇に興味がありましたの? レナ(ハロウィン): そういうわけじゃないけど……ちょっとした気分転換かな、かな。 圭一(ハロウィン): いやー、レナのワガママにつきあうのは大変だったけどよ……まぁ、たまにはこうやって甘えられるのもいいもんだぜ! わははは、と笑いながらと圭一くんがこちらを見てくるので……私はそれにウインクで返す。 二人で一生懸命考えた、『レナのワガママ』。 普通は頼まれてもやらなくて、でも叶えてもらって後々尾を引いたりせず。 これで全部おしまい、と一日限りで終了のカーテンを引ける……。 菜央ちゃんに見せられる「ワガママ」を考えるのは、ハロウィンクッキーに混ぜる素材の最適な割合を考えるより大変だった。 レナ(ハロウィン): (他のみんなも驚かせちゃったみたいだけど……) 詩音(私服): ……にしても、驚きましたよ。レナさんがこんなことするなんて。しかも、圭ちゃんを巻き込んで……。 レナ(ハロウィン): はぅ……レナもたまにはワガママを言ったりするよ? 魅音(私服): っていうか、また変わった方向のワガママの主張だねぇ……? 美雪(私服): ある意味で、壮大なごっこ遊びってやつかな。社宅にもいたなぁ、女の子が無理やり誘ってやりたくないおままごとに巻き込まれる男の子がさ。 一穂(私服): レ、レナさんも前原くんも上手だったよ!最初はびっくりしたけど、本当に舞台のワンシーンみたいで……。 一穂(私服): ね、菜央ちゃん……? 菜央(私服): ……い。 圭一(ハロウィン): えっ?悪ぃ菜央ちゃん、今なんて言った……。 菜央(私服): ずるいわ、前原さん! 圭一くんが問い返した直後、菜央ちゃんは勢いよく顔をあげると同時に叫んでいった。 菜央(私服): レナちゃんに相談されたのに、なんであたしには教えてくれなかったの?! 菜央(私服): あたしだって!レナちゃんの相手役くらいはできたのにっ! くしゃっ、と顔を歪ませた菜央ちゃんは震えながら小さな握りこぶしでぽすんっ、と圭一くんのお腹を叩いて抗議を始めた。 圭一(ハロウィン): え、え……ええぇ……?って、ちょっ、待って菜央ちゃん!痛……くはないけど、待って待って! そのまま小さな拳で前原くんを叩く菜央ちゃんを見て、美雪ちゃんがくす……と苦笑いをもらしていた。 美雪(私服): おぅ……確かに、菜央の駄々っ子攻撃だ。 一穂(私服): 前原くん、大丈夫?菜央ちゃん、あんまりワガママ言ったら前原くんが困っちゃうよ……もぐもぐ。 梨花(私服): みー……心配しながらもクッキーを食べる手が進んでいるのですよ。 羽入(私服): だってこのクッキー、美味しいのですよ~!もぐもぐもぐ……! 菜央(私服): ずるいずるい、ずるいわ前原さんっ!! 美雪(私服): 頑張れー、前原くん。うちの菜央の精一杯の甘えをしっかと受け止めてあげて? レナ(ハロウィン): (……あれって、菜央ちゃんなりに甘えている感じなの?) もしかして、というなんとなくの予感がひとつの確証を帯びて……目の前の光景に対する感情が変化する。 レナ(ハロウィン): はぅ……いいなぁ、圭一くん。 圭一(ハロウィン): えっ?! レナ(ハロウィン): 菜央ちゃんに甘えられて……はぅ。 圭一(ハロウィン): え? こ、これ甘えなのか?いや、言われてみればそうかもしれないけど……! 詩音(私服): よかったですね~、圭ちゃん。かわいい女の子に左右から物欲しそうに迫られて。 魅音(私服): あっはっはっは! 頑張れ圭ちゃん!モテる男はつらいね~!! 沙都子(私服): ぷぷぷっ……頑張ってくださいませ、圭一さんっ! 圭一(ハロウィン): 他人事だと思っているだろ、お前ら! 菜央(私服): ずるいずるいずるい~っ! レナ(ハロウィン): はぅ……圭一くん、いいなぁ……。 圭一(ハロウィン): い、いったいこれのどこが羨ましいんだっ?だ、誰か! 誰かーっ! 圭一(ハロウィン): お菓子をあげるから、俺を助けてくれ~っ!!