Part 01: 菜央(冬服): はぁ、素敵っ……最高よ、レナちゃんっ!次はカメラ目線で、こっちを向いてね! レナ(にゃんコス): はぅ……こ、こんな感じでどうかな、かな?えっと、にゃ……にゃぅん……? 菜央(冬服): ほわぁぁ~っ! いいわ、ばっちりっ!お、おもっ……おもちっ……!! レナ(にゃんコス): レナをお持ち帰りぃ~……するにゃん? 菜央(冬服): もっ、ももも、もちろんっ!お持ち帰りとお持ち帰られ、あたしはどっちでもウェルカムよっ! 美雪(にゃんコス): いや菜央、キミねぇ……。撮影会だって言うから渋々着替えたってのに、私の方は完全無視ってどーいうことさ? 菜央(冬服): あっ……ああぁっ!最後のフィルムが……終わっちゃったぁ……。 美雪(にゃんコス): って、聞いてないし。そりゃまぁ、あれだけ連写しまくってたらフィルムだってあっという間だっての。 魅音(冬服): あっはっはっはっ! 菜央ちゃんって、ほんとにカメラ撮影が大好きなんだねぇ。まるで富竹さんを見ているみたいだよ。 美雪(にゃんコス): いや……菜央の場合は被写体がレナ限定だから、プロの人と比較するのは失礼じゃないかなぁ。 詩音(冬服): くすくす……でも、富竹のおじさまだって鷹野さんを撮影している時は息を荒くして、あんなふうに盛り上がっていたりしますよ。 美雪(にゃんコス): ……え、マジで? それはそれで危ないねー。 菜央(冬服): ほわぁ……たくさん撮っちゃったぁ。現像してどんな仕上がりになるのか、今からとっても楽しみだわ……♪ 魅音(冬服): いやー、撮ったというか、撮りまくったねぇ。あれだけあったフィルムを全部使い切るとはさすがに思わなかったよ。 沙都子(冬服): 菜央さん……満足を通り越して、解脱のような表情をしておりますわね。大丈夫なんですの? 菜央(冬服): えへへっ……ふへへ……♪ 詩音(冬服): ……しばらくダメそうですね。地球に魂が戻ってくるまで、このままにしておいてあげましょう。 美雪(冬服): はー、着替え終わったぁ。とりあえず、猫を呼び寄せるっていう呪いが解除できただけでもよかったよ。 美雪(冬服): っていうか、まさか尻尾にマタタビが仕込まれてたなんてさ……そりゃ、村中の猫も集まってきても当然の話だっての。 一穂(冬服): あ、あははは……呪いというより、単純な効能だったってわけだね。 羽入(冬服): あぅあぅ……きっとあの服を作った人は猫と仲良しさんになりたくて、そういう仕掛けを施したのだと思うのですよ。 梨花(冬服): みー。今回の騒動が起こった前後に神社の裏山に猫が集まってきていたのは、きっとそのせいだったのです。 梨花(冬服): そう思うと、ボクの口癖に猫のような鳴き声が入っているのも……あるいは古手家由来の呪いがかかっている可能性があるのですよ。みー。 羽入(冬服): そ、それはさすがに言いがかりなのですよー!あぅあぅあぅ~! 魅音(冬服): まぁまぁ、終わりよければ全てよしってね。呪い云々の話はこの辺にしておこう。 魅音(冬服): あれ……そういえば、レナが戻ってきてないね。おーいレナ、どうしたの? レナ(にゃんコス): あ、ごめんね魅ぃちゃん。もうちょっとだけ、待ってもらってもいい? レナ(にゃんコス): この『猫変化』の服、また古手家の倉庫の中にしまっちゃうんでしょ?だったらあと少し、着ていたいなって……はぅ。 詩音(冬服): お気に召したみたいですね……レナさん。まぁ可愛い衣装ですし、お気持ちはわかりますが。 美雪(冬服): とはいえ、あんな騒ぎに巻き込まれた後も平然と着続けてられるとはねぇ……やっぱレナにはかなわないよ。 梨花(冬服): みー。もし気に入ったのなら、それは2人に差し上げてもいいのですよ。 美雪(冬服): えっ? わ、私にも……? レナ(にゃんコス): ほんとに? いいの、梨花ちゃん?! 梨花(冬服): はいなのです。倉庫の中で眠っているより、誰かに喜んで着てもらえるほうが服だってきっと幸せだと思うのですよ。 レナ(にゃんコス): はぅ~っ、ありがとう梨花ちゃん!大事に使わせてもらうねっ! 美雪(冬服): い、いや……大事に使うっていってもレナ、それをどこで着るの? いつ着るっての?外出着どころか、普段着だって無理でしょうに。 梨花(冬服): みー。#p雛見沢#sひなみざわ#rの人たちは部活のおかげで変わった衣装を見慣れていますので、生暖かい目で受け入れてくれると思うのですよ。 美雪(冬服): ……逆に嫌だよ、そんな懐深さは!しかも生暖かいって、こっちが居たたまれない! レナ(にゃんコス): はぅ~、でもかぁいい猫さんたちとお話ができるんだから、レナはいつでも大歓迎だよ~♪ 菜央(冬服): もちろん、あたしも大歓迎よ。今度はフィルムの数を2倍用意してもらって撮影に臨ませてもらうから、よろしくね。 魅音(冬服): おっと菜央ちゃん、いきなり戻ってきたねー。あと確認だけど、このフィルムは私の方から全部現像に出しちゃうってことでいい? 菜央(冬服): えっ? えぇ、そうしてもらえるとすごく助かるけど……いいの? 菜央(冬服): フィルムを提供してもらった上、現像までやってもらうと結構お金がかかっちゃうのに……。 魅音(冬服): そこはまぁ、今回の『ヤエモン騒動』を手伝ってもらった見返りの一部としてね。 魅音(冬服): あそこで手伝ってもらわなかったらもっと面倒なことになっていたはずだし、遠慮なく受け取ってよ。 菜央(冬服): そういうことなら……。えっと、魅音さん。出来のいい写真があったら、大判にしてもらえる? その分のお金は払うわ。 魅音(冬服): あっはっはっはっ、任せて!あと、追加料金もこちら任せでいいからね! 詩音(冬服): ずいぶん太っ腹ですねー、お姉。まぁ、今回の一件はそれだけの価値があったと思いますし……。 詩音(冬服): あら、どうしたんです沙都子?なんだか妙な表情をしていますが。 沙都子(冬服): あ、いえ……そもそものお話なんですけど。あの『猫変化』の衣装って、写真にちゃんとうつるんですの? 一穂(冬服): えっ……沙都子ちゃん、それってどういうこと? 沙都子(冬服): 異種動物と意思疎通が可能になる品なんて超常というか、霊的というか……そういう類いのこの世ならざるものなのでは、と思いまして。 美雪(冬服): お、おぅ……いきなり怖いのブッこんできたね。ん? ちょっと待って、それってまさか……?! 一穂(冬服): え、えっと……服が写真にうつらない場合は、レナさんがは、裸に……っ? レナ(にゃんコス): は……はぅぅっ……?! 菜央(冬服): 魅音さん、そのフィルムは全部焼却して!それから、通りすがりに撮影していった人を全部捕まえてカメラごと回収っ! あとは――! 羽入(冬服): だ……大丈夫なのです!古手家の巫女が過去に着た事例はありますし、白黒ですけどうつっている写真もあるのですよ! 一穂(冬服): えっ……そ、そうなの? 沙都子(冬服): でしたら、一安心ですわね。もしやと思って、少し焦ってしまいましたわ。 レナ(にゃんコス): あははは……でも、その写真も見てみたいな。梨花ちゃんの何代か前の巫女さんってことだよね? 詩音(冬服): いや……白黒写真の時代にあんなのを着せられて、写真に残されるって……。 魅音(冬服): 鬼畜だ……鬼の所業だね……。 羽入(冬服): あ、でもみんな結構似合っていたのですよ。中には、大胆な格好をする人もいたりして……。 梨花(冬服): ……そこまでにするのですよ、羽入。私のご先祖さまの恥をさらすなんて、あんたは何を考えているの……?! 羽入(冬服): あぅあぅっ?つ、ついうっかり口が滑って……?! 梨花(冬服): みー。口が滑りすぎないよう、しっかりと戒めておきましょうなのです。……1週間3食キムチなのですよ。 羽入(冬服): ひぎゃぁぁはぁぁっっ?! 美雪(冬服): あ……でもさ、使用事例があったんだったらどうして着るだけで猫語がわかるのか、誰が作ったとか……そういった言い伝えはないの? 梨花(冬服): みー。残念ながら、ボクは知りませんのです。羽入はどうですか? 沙都子(冬服): ……えっと、梨花。羽入さんは急に倒れて、白目をむきながら泡を吹いているんですけど……。 羽入(冬服): はわあわ……ゴポゴポ……。 梨花(冬服): 平気なのですよ。その辺に転がしておけばすぐ回復しますのです。 一穂(冬服): り……梨花ちゃんって、羽入ちゃんには容赦がないっていうか、厳しいんだね。 菜央(冬服): それだけ仲がいいってことでしょうけどね。ただ、さすがに放っておくのも可哀想だと思うんだけど……。 レナ(にゃんコス): じゃあ、レナが運ぶよ。着替えた部屋にソファがあったから、そこで休ませてあげようね。 菜央(冬服): あたしも手伝うわ、レナちゃん。 レナ(にゃんコス): あははは、大丈夫だよ。羽入ちゃんはかぁいくて、軽いもん! 魅音(冬服): まぁ、羽入があぁ言っているんだからフィルムは処分しなくてもよさそうだね……ん? 詩音(冬服): どうしたんです、お姉? 魅音(冬服): いや、外でなんか動いた気がしてさ。 一穂(冬服): あっ……ほら、見て。この前のヤエモンが、生け垣の向こうから顔を出してるよ。 詩音(冬服): あの猫、興宮まで出てきちゃったんですか?雛見沢の中ならともかく、こっちの住民に見つかったりでもしたら、また騒ぎに……。 一穂(冬服): えっと……私、ヤエモンに聞いてくるね。 一穂(冬服): あの、ヤエモン、さん……。 ヤエモン: 『おぉ、お前か……先日はすまぬことをした』 一穂(冬服): あ……よかった。やっぱりまた、あなたとお話ができるんだね。 ヤエモン: 『我の声は、お前たちの脳へ直接伝わるようになっているからな。……まぁ、ここまではっきりと届けられるのは、この前の呪いの影響でもあるが』 一穂(冬服): あ、あははは……それで今日は、どうしてこの興宮にまで来たの? ヤエモン: 『いや……我のこのヒゲが何かを感じたのだ。引き寄せられたと言うべきかもしれぬ』 ヤエモン: 『すまぬが、中へ入れてはもらえぬか。決して迷惑をかけるつもりはないゆえ』 一穂(冬服): そうだね……ここだと人目についちゃうし、中で話す方が私もいいと思う。 ヤエモン: 『邪魔をするぞ』 美雪(冬服): いやー、でかいね。改めて見ると、すごい迫力だよ。 菜央(冬服): よくここまで、誰の人目にもつかずに来ることができたわね。で、今日は何のご用件かしら? 一穂(冬服): えっと……この中に、気になるものがあるんだって。 魅音(冬服): ここ? 普段は空っぽのゲストハウスだから、猫たちが気になるようなモノなんて特には置いていないはずなんだけど。 沙都子(冬服): このハウスに何もないのであれば……答えは私たちというのが一番自然ですわね。 一穂(冬服): もしかして……『ロールカード』のこと? ヤエモン: 『…………』 梨花(冬服): みー、ボクは「アレ」しかないと思うのです。……レナ、ちょっと来てくださいなのですよ。 レナ(にゃんコス): は~い。 レナ(にゃんコス): どうしたの……って、この前の猫さん……? ヤエモン: 『っ……やはり、これか……?』 Part 02: 魅音(冬服): ふむふむ……つまり一穂の通訳によると、この「にゃんにゃんコスチューム」にはヤエモン……あんたと同じ力があるというんだね。 ヤエモン: 『うむ。そのように感じるのだ』 梨花(冬服): にゃんにゃん……いつの間にそんな名前になったのですか? 魅音(冬服): たった今。『猫変化』だと、いまひとつ可愛らしさが足りない感じがしてさ。 梨花(冬服): みー……確かに。なんとなくオカルト感があって、ボクも内心でどうかと思っていたのですよ。 美雪(冬服): 酷い言われようだね……まぁ、気持ちはわかるけどさ。 美雪(冬服): あ、でもレナと私が着てた服からヤエモンと同じ力があるってことは……服に、猫の何かが使われてるってこと? 菜央(冬服): えっ? それってまさか、昔の三味線みたいに……。 沙都子(冬服): ホンモノの猫の毛皮とかが使われている……とでも言うんですの? ヤエモン: 『いや……皮を剥いだということはなかろう。もしそうであれば、怨念を感じるはずだからな』 ヤエモン: 『しかし、毛並みは我と同じ。そこから感じる波動も……そこが不思議なところだ』 ヤエモン: 『この足で触れることが叶えば、もっとよくわかるかもしれぬ……触れてもよいか?』 レナ(にゃんコス): はぅ……そのに、肉球でぽむぽむってしてくれたりするのかな? かな? 詩音(冬服): いや、レナさん。さすがに着替えてからがいいと私は思いますよ。 梨花(冬服): みー、ボクもお着替えに賛成です。このヤエモンはオスなのですよ。 ヤエモン: 『こら小娘、いきなり我を持ち上げてどこを見ておるのだ。この無礼者め』 沙都子(冬服): 怖れ知らずのチャレンジャーですわね、梨花……。 レナ(にゃんコス): わかった。じゃあ、ちょっと待っていてね。 美雪(冬服): んー、じゃあ私が着てた服も確認する? ヤエモン: 『うむ。黒い毛並みは我の好みだ』 美雪(冬服): 一穂……今ってヤエモン、なんて言ったの? 一穂(冬服): へ、変なことは言ってないよ……っ?(変なこと言わないでよ、ヤエモンさんっ……!) 美雪(冬服): んー、まぁいいや。それじゃ、取ってくるね。 美雪(冬服): お待たせ~。2着とも持ってきたよ。レナも服を着たらすぐ戻ってくるから、先ににゃんにゃんだけ渡しておくね。 梨花(冬服): ヤエモン、お望みの品なのです。どうですか? ヤエモン: 『では……確かめさせてもらおう』 沙都子(冬服): ……。ふみ……ふみ……。 菜央(冬服): ……ふみ……ふみ……。 美雪(冬服): えっ? そうやって、床に置いた服を踏んでいくのが確かめる手段だっていうの? ヤエモン: 『#p然#sしか#rり。この足で触れればと申したであろう』 美雪(冬服): いや……なんだろこの、この癒やされ感は。 レナ(冬服): はぅぅっ~、かぁいいよ~! 美雪(冬服): おっ来たね、レナ。見ての通り、ちょっと予想外の展開になってるよ。 レナ(冬服): どうしたのかな、かな?それが気に入ったの? 猫さんって確か、お気に入りの場所をふみふみするんだよね。 菜央(冬服): この仕草、母猫のおっぱいをもらう時の動作に由来しているって聞いたことがあるわ。 レナ(冬服): もしかして、このふわふわの服にお母さんを感じたりしているのかな、かな……? ヤエモン: 『母ではない。だが、この毛並みに宿るのは間違いなく我と同じ力……』 一穂(冬服): ……ヤエモンさんって、いったい何者なの? ヤエモン: 『そのような問い、我に答えのあるはずもない。生まれてより今に至るまで、このように在るだけ』 一穂(冬服): でも、普通の猫ではないよね……? 菜央(冬服): このサイズだし、しゃべってる時点で普通とは明後日の方向に突き進んだ存在よ。 ヤエモン: 『我の力は、我が父に備わっていたものと同種だ。ならば代々受け継がれてきた一族の力と考えるのが筋であろう』 詩音(冬服): ……一穂さんの通訳を介して聞いた限りだと、要するにあなたは親猫から何も聞かされずに育ってきたってことですね。 ヤエモン: 『素性や来歴など、我には必要なかったゆえ』 詩音(冬服): ふぅむ……となるとヤエモンと関係がある、というところで糸は切れてしまいそうですね。 美雪(冬服): だね。少なくともヤエモンは、『ツクヤミ』とは違うルールで存在する生きものだと思うよ。 菜央(冬服): そうね。あの時だって倒した『ツクヤミ』から影響を受けていただけで、あたしたちの知る力は持っていない様子だった。 一穂(冬服): 神様がいるなら……妖怪がいても、不思議じゃない。 梨花(冬服): みー……妖怪、ということはオカルトなのです。つまり、この場合は土着的なおとぎ話などの方が参考になるのかもしれないのですよ。 美雪(冬服): んー、この村にはそういう言い伝えに詳しい村の長老みたいな人っているの? 魅音(冬服): うーん、どうだろう。村の守り神とかの話は誰もがしているけど、妖怪は……聞かないねぇ。 詩音(冬服): 鬼婆もああ見えて、超リアリストですもんね。 沙都子(冬服): ……。ご老人ではありませんが、そういうお話が大好きな人なら、1人心当たりがありますわ。 レナ(冬服): うん。レナも、「あの人」かなって頭に浮かんできたから……きっと喜んでお話をしてくれると思うよ。 美雪(冬服): ちなみに……ヤエモンがこのにゃんにゃんコスの持つ力に惹かれてきたってことは、ひょっとしてこれを手に入れたかったの? ヤエモン: 『この装束からも感じる力はあるが……どうも弱い気がする。よくわからぬというのが正直なところだ』 ヤエモン: 『我は、自分の同胞が存在するのではと感じたから出向いた。……ただの残滓であるなら、手に入れたとて意味はない』 レナ(冬服): そっか……猫ちゃんたちは仲間でも、やっぱり違いは感じちゃうもんね。寂しかったんだね。 ヤエモン: 『…………』 美雪(冬服): じゃあさ、ヤエモンはどうしたいのさ?ここまで来たってことは「知りたい」っていう気持ちがあったんだろうと思うけど。 ヤエモン: 『……。我のことを解する人間がおるのなら、話を聞いてみたいと思う』 美雪(冬服): よし、じゃあ決まりだね。沙都子、レナ、その人ってやっぱり……。 Part 03: ヤエモン: 『その鷹野#p某#sなにがし#rとやらは、我のような存在なのか?』 沙都子(冬服): うーん、なんと言えばいいのかしら……? 梨花(冬服): みー、ただのオカルトマニアなのです。 美雪(冬服): あははっ、身も蓋もないねぇ。 ヤエモン: 『≪おかると≫……とは、なんだ?』 美雪(冬服): 現実では考えがたい怪異を指す言葉だよ。 ヤエモン: 『ふむ、お前たちが我を見て抱く感情がその根本というわけか』 美雪(冬服): まぁ、なにが怪異かなんて人間が勝手に決めてるだけなんだけどさ。 ヤエモン: 『我らからすれば、お前たちがゴミ山と呼んだあの場所は≪おかると≫だと言えよう』 沙都子(冬服): 確かに、反論の余地はございませんわね。 ヤエモン: 『話を聞いて、お前たちも害を被っていることは理解できたが……あれほどになる前にどこかで留めることはできなかったのか』 梨花(冬服): ボクもそう思いますです。これから少しずつ解消していきたいので時間をくださいということになるでしょうか。 ヤエモン: 『……お前たちのことは信ずると決めた。我らにできることがあれば手を貸すと約束しよう。ところで我らはどこへ向かっておるのだ?』 美雪(冬服): 雛見沢唯一の診療所だよ。 沙都子(冬服): 身体の不調を見て癒やしてくれる先生のいるところ……と言えば伝わりますの? ヤエモン: 『ふむ。薬師のようなものか』 沙都子(冬服): その解釈でだいたい合っておりましてよ。 美雪(冬服): ……沙都子って、対応力がすごいね。そっか、そういう言い方をすればヤエモンにも伝わりやすいわけか。 美雪(冬服): 薬師って言い方するってことは、少なくとも百年は生きてそうだね、キミ。 ヤエモン: 『……数えたことがない』 梨花(冬服): ……。確かに、長く生きる上でそれは大事なことかもしれません。 美雪(冬服): えっ……数えないことが? 梨花(冬服): みー、なんでもないのです。……ところでヤエモン、あなたは身体を小さくすることはできないのですか? ヤエモン: 『……やったことがない』 梨花(冬服): 一穂を人間から猫に変化させることができたくらいなので、そのくらいはお茶の子さいさいかと思ったのですが。 ヤエモン: 『小さくなる必要があるのか?』 沙都子(冬服): それができれば、こうして人目につかない夜に行動しなくても済むという話ですわ。 ヤエモン: 『なるほど。模索はしてみるが、すぐにはできそうにない。すまぬな』 美雪(冬服): まぁ今回は診療所が終わるのを待つのと、鷹野さんに事前に話を通しておくためもあったから、気にしなくてもいいって。 沙都子(冬服): その説得の方は大丈夫なんですの? 梨花(冬服): レナが猫さん1匹を連れて『猫変化』の――いえ、にゃんにゃんコスを持っていきましたから、信じてもらえないということはないでしょう。 美雪(冬服): え、でもアレって着ないと効果わからないよ?鷹野さんが着るの? 梨花(冬服): …………。 沙都子(冬服): 今はじめて、思い至ったという顔をしておりますわね……。 梨花(冬服): 盲点でした。想像すると……すごくイカガワシイのです。 美雪(冬服): ちょ……今の感想は絶対、鷹野さんに内緒だよ? 沙都子(冬服): 着きましたわ。 ヤエモン: 『……なんとも、禍々しき屋敷であるな』 美雪(冬服): あー、ははは……コンクリートだもんね。 梨花(冬服): みー、菜央が外で待っているのです。……どうしたのでしょう? 美雪(冬服): おーい、菜央~。 菜央(冬服): あっ……遅かったじゃない、何をしてたのよ? 美雪(冬服): どうしたの?遅いから迎えに行けとでも言われた? 菜央(冬服): ううん、そうじゃないんだけど……鷹野さんがその、予想以上に話に食いついて怖くなっちゃって……。 ヤエモン: 『……ここは恐ろしいところなのか?』 沙都子(冬服): まぁ、実害はないと思いたいのですが、興味の方向性に問題がありと申しますか……。 美雪(冬服): だからこそ、今回の相談でご指名されたわけだけどねー。 菜央(冬服): 今は、レナちゃんと前原さんが相手してくれてるわ。鷹野さんが服の仕組みを調べたいって言って、色々と……。 梨花(冬服): みー。このままでは、圭一の青春の1ページが強引にめくられてしまうかもしれません。 沙都子(冬服): ……? なんですの、それ? 美雪(冬服): んー、よくわかんないけど……急いだ方がいいってことだね! 梨花(冬服): ヤエモン。一応様子を見てきますので、ボクたちがいいと言うまで部屋の手前で待っていてください。 ヤエモン: 『承知した』 圭一(冬服): ふへ……ふへへへ……。 梨花(冬服): ……みー。手遅れだったのですよ。 レナ(冬服): 梨花ちゃぁぁぁん!圭一くんが……圭一くんが~! 梨花(冬服): 説明しなくてもわかりますのです。鷹野ににゃんにゃんコスを貸して、着ようとするのを止められなかったのですね? レナ(冬服): うん……だって着ないと猫さんの言っていることがわからないし……。 レナ(冬服): 着てもらって、お話はできたんだけど……でもね、胸がちゃんと閉じられなくて突然ぼーん! って前が開いて……。 菜央(冬服): 前原さん、がっかりだわ……そういう時は、とっさでも視線をそらして見なかったことにするのがマナーでしょ? 圭一(冬服): すまん……どうしても好奇心と欲望で、視線が吸い寄せられちまったんだ……。でも俺は、後悔していないぜ……! 菜央(冬服): いや、してちょうだい。あと、反省もね。 鷹野(ナース): くすくす……ごめんなさいね、前原くん。お見苦しいものを見せてしまって。 圭一(冬服): と、とんでもないです……夢のようなにゃんにゃんタイム……でした。 一穂(冬服): (……正直なのは彼のいいところだけど、こういう発言は聞きたくなかった……) 鷹野(ナース): この衣装は、レナちゃんにお返しするわ。あら、みんなも来たのね。いらっしゃい。 梨花(冬服): ……鷹野。一連の話は聞いたと思いますが、信じてもらえましたですか? 鷹野(ナース): ええ。実に興味深いわ。猫にされてしまったという一穂ちゃんの話も、猫の言葉がわかるこのコスチュームもね。 鷹野(ナース): かなり力のある妖怪のなせる業だと思うわ。 美雪(冬服): ……妖怪って、すんなり受け入れてるっぽいね。 鷹野(ナース): 私は科学万能の信奉者じゃないもの。……あと、そのヤエモンさんにも会わせてくれるのよね? 梨花(冬服): はいなのです。ではヤエモン、入ってきてくださいなのです。 ヤエモン: 『うむ。邪魔をするぞ』 鷹野(ナース): まぁ……。 ヤエモン: 『…………』 鷹野(ナース): まぁまぁまぁ……! ヤエモン: 『……抱きつかれるとこそばゆいのだが』 鷹野(ナース): あら、ごめんなさいね。本当に聞いた通りの大きな猫だったから、興奮してしまって。 鷹野(ナース): 早速解剖する?それとも私を猫にしてみる?! 一穂(冬服): ひっ……ひいいいぃ……! 圭一(冬服): あの……鷹野さん。さすがにメスはしまってもらってもいいですか。 鷹野(ナース): あら、私のメス捌き、鮮やかすぎて痛くないって評判いいのに。 美雪(冬服): だから、言ったでしょ!解剖はナシだってば! 鷹野(ナース): やだもう、冗談よ♪ 圭一(冬服): ったく……それはともかくとして、なにかこういう大猫に関して文献で見たとか、心当たりはありませんか? 鷹野(ナース): そうねえ……みんなは『猫又』という妖怪を知っているかしら? 菜央(冬服): フィクションの中で聞いたことはある、程度ね。 一穂(冬服): うん、ちゃんと調べたことは……ないね。 鷹野(ナース): 日本全国に言い伝えのあるメジャーな妖怪だと思ってくれていいわ。 鷹野(ナース): 雛見沢の近くでとなると……ここから北へ東へと行った先に猫又山という場所があってね。 鷹野(ナース): そこにはとある修験者から異能の力を与えられた猫がいたらしいの。大きな力を持つようになって、山の名前になるほどだった。 ヤエモン: 『……それが我が祖であると?』 鷹野(ナース): そこまではわからない。でも、伝承の中でその猫又は修験者を主として尊崇して、主のもとへ馳せ参じるために猫又山を去ったというの。 鷹野(ナース): その時に残した言葉が、『鬼の棲まう郷へ向かわねばならぬ』だったと……。 鷹野(ナース): その部分がとても私の興味を惹いたの。雛見沢がなんて言われている場所か、みんなも知っているでしょう? 羽入(冬服): ――っ……?! 羽入(冬服): 鷹野のあの話……。 羽入(冬服): すごく心に引っかかる内容なのでした……。 羽入(冬服): むかしむかし……記憶もおぼろげな、旅路の果て。 羽入(冬服): 傷つき力尽きそうになっていた猫がいたような気がするのです。 羽入(冬服): 僕は……。 梨花(冬服): 羽入、ここにいたのですか。 羽入(冬服): 梨花……。 梨花(冬服): どうかしたのですか?帰ってきてからずっと、様子が変なのですが。 羽入(冬服): …………。 羽入(冬服): なんでもないのですよ。もう、ちゃんと覚えていないのです。