第章 折れたつえ



    1


「杖を折ったんですって?」

 とつぜんとびらが開いて、リウイとは同期の、アイラが飛びこんできた。

 リウイはちょうどふつきんきたえていたところで、上半身はだかになってゆかころがっているというかつこうだった。

(この女、ねらってるんじゃないか?)

 この前も、裸でいるときに入ってきた。

 かぎをかけていないリウイも悪いといえば悪いのだが、常識的な人間なら、声をかけてから入ってくるものだ。

〝四つの〟というほう眼鏡めがねをかけたアイラの顔を見あげながら、リウイはそばほうり投げていたうわを手にして立ち上がった。

「そんな体格なのに、まだ鍛えないといけないの?」

 開いたままの扉をいまごろノックしながら、あきれ顔でアイラは言った。

「ああ、ぜんぜん鍛えたりないな」

 リウイはそう答え、あのかいりきおんなに力負けしないためにな、と心のなかで付け加えた。

きんにくりゆうりゆうなのは、あまり好みじゃないんだけどなあ……」

 ひとりごとのようにつぶやくと、アイラは後ろ手に扉を閉めて、リウイの部屋のなかに入ってきた。

「それより魔術師の杖メイジスタツフのことよ」

 何かを期待するように、アイラは表情をかがやかせる。

「ああ、見事に折れた」

 リウイはさすがにぜんとした顔になった。

 赤肌鬼ゴブリンとの戦いのとき、狙いのはずれたいちげきが、せきかべにぶつかったのだ。そしてめつの音とともに、魔術師の杖は真ん中からきれいにふたつに折れてしまった。

「あんなかたい杖をねぇ」

 杖が折れたじようきようを聞いて、アイラは感心したように言った。

「わたしなんかじゃ、うでのほうが折れてしまいそう」

 じゆつせいそうである長衣ローブそでをまくりあげて、アイラはしげしげと自分の腕を見つめる。

 きとおるような白いはだをしていることもあって、彼女の腕はたしかにか細く見える。

「おまけにだいつえをね」

 魔術師の杖は魔術師ギルドに属するというあかしであり、魔術師のたましいともいうべきものである。魔術師の杖があればこそ、術者の魔力を活性化できるのだし、即応呪文カントリツプで、古代語魔法を発動することもできる。〝杖を折る〟という言葉は、魔術師をめるという意味にさえ使われているのだ。

「それで、どうするの?」

「決まってるだろ。新しい杖を作ってもらうさ」

 問われて、リウイは答えた。

「カーウェス様に?」

「仕方ないだろ。オレのどうは、あのじいさんなんだから」

「魔術師の杖を作るには、五百年は生きたかしの古木が必要なのよ。おまけに三日をえるほうしき

「爺さんは、いや最高導師はやってくれるそうだ。もっとも、素材になる樫の古木は取ってこないといけないけどな」

「五百年もの古木よ。どこにでも生えているわけじゃない」

 アイラの言うとおり、そんな古木がそうそう生えているわけがない。おうきんこうの森などには入るだけだろう。

「〝争いの森〟にでも行ってみるさ。十本ばかり取ってくれば、来年の見習いたちの分にも足りるだろう」

「簡単に言うわねぇ」

 アイラは両手を広げて、あきれたといったりをしてみせる。

「争いの森ターシャスには、ようどもがんでいるのよ。それから、おそろしいじゆう

「森は広いんだ。そうそう出会うわけじゃない。あの森に入って仕事をしている者もいるんだから」

「毎年、何人かは命を落としているそうよ」

 きつなことを、アイラはさらりと言った。

「オレはだいじようだ。妖魔ぐらいなら、やっつけてやる。この前と同じようにな」

「そうして、せっかく集めた杖をまた折ってしまうわけね」

 痛いところを致命的クリテイカルかれ、リウイは言葉をまらせた。

「こ、今度は、そんなけなことはしない。ちゃんとけんを使って戦うさ」

魔術師の杖メイジスタツフがないと魔法が使えないんだから、止めるわけにはゆかないわね。あなたのお仲間は当然、手伝ってくれるんでしょ?」

「それはない!」

 リウイはそくに否定した。

 あの三人の女たちには関係ないことだ。それに彼女らは、リウイが魔術師の杖を折ってしまったことを、完全に鹿にしている。せきから帰るちゆうせいの言葉をどれだけびたかしれない。

「それじゃあ、一人で行くの?」

 目をぱちぱちさせながら、アイラは言った。

「そうなるな」

「ふ~ん、そうなんだ……」

 アイラは考えにふけるように、しばらくのあいだちんもくした。

 そして、

「だったら、今晩ちょっと付き合ってよ」

 と、言った。

「どういうみやくらくでそうなるんだ?」

「だって、行ったきりになるかもしれないじゃない。あなたとの思い出を、ちょっとでもやしておきたいのよ」

 ふふっ、と意味ありげなみをかべながら、アイラは言った。

「勝手に言ってろ!」

じようだんよ、冗談。でも、付き合ってはもらうわよ。ぼうけんの話とか、聞かせてほしいから」

 そう言うと、リウイより二つ年上のは返事も聞くことなく、部屋から去っていった。

 それをぼうぜんと見送って、リウイは女たちにもてあそばれる毎日がしんそこうらめしいと思った。

「オレのことをうらややつがいるのなら、代わってほしいもんだぜ」

 それはリウイの心の底からの言葉であった。


    2


「……つえを折ったのです」

 くやしさのあまりなみだにじむ目で、いくさの神のさいメリッサは、マイリー教団の最高司祭ジェニを見上げた。

じゆつしようちようともいえるだいな杖を。それも赤肌鬼ゴブリンごときになぐりかかって……」

 そして、メリッサは不本意ですと五回、り返した。

(これはじゆうしようだわね……)

 メリッサ侍祭のうつたえをおだやかな顔をして聞きつつも、〝つるぎひめ〟とうたわれた老女は、心のなかではいきどおりを覚えていた。

 メリッサが不本意だと言っている相手は、つかえるべき勇者であるとのけいを、マイリー神からさずけられた男なのだ。そして個人的には親友の息子むすこであり、子供のころから可愛かわいがっていた。

「女性のいる前でわざわざはだかになるなど、ばんじんそしられて当然のこう。協調性のかけらもなく、なんでも一人でやろうとする。自分勝手な行動をしたあげく、自らを生命の危機にさらす。もしも彼に死なれでもしたら、神の啓示を果たせなかったわたしは、もはやしんこうを捨てるしかありません」

 それなら今すぐ捨てたら、と言いたい気持ちをおさえ、メリッサの言葉にジェニはうなずいてみせる。

(リジャールなんか、女性の前でこそ裸になりたがったものよ)

 オーファンの建国王となったあの戦士は、自分のきたえあげた肉体が、女性に性的りよくを感じさせると信じて疑っていなかった。

 けものではあるまいし、人間の女性には好みというものがある。やさしい男が好きな女性も大勢いるのだ。それが、あの男には分かっていない。

(それに、肉体の美しさなら、わたしのほうが上だったわ)

 ジェニは、そうも思う。

 戦いには美しさが必要だという信念を、若き日のジェニは持っていた。

 女性としてきんせいの取れた肉体をいつも保っていたし、戦いのときにもけんを演じているような独特のわざで相手をたおしていった。剣の姫とは、それゆえについた呼び名なのだ。

「どうしたものでしょうね……」

 ジェニは、メリッサに声をかけた。

 彼女のせいしよくしやとしての素質を、ジェニは高く評価している。体力的にはおとるものの、戦士としての技量もなかなかのものだ。

 そして若い信者を集めて、教団のきように役立ってもいる。

 将来的には教団を背負って立てるだけの人材なのだ。しかし、今はまだ若すぎる。育ちがよいためなのだろう。けつぺきすぎる性格もなんとかならないかと思う。

 彼女がそうしているようなえいゆうぐうぞうみたいなもので、現実には存在するはずがないのだ。品があろうがなかろうが、食人鬼オーガーのような体格をしてようが大地の妖精ドワーフのような体型をしてようが、だいなるマイリーしんはまったく気になさらないであろう。

「わたくしは、どうすればよろしいのでしょうか?」

 すがりつくような目で、メリッサはジェニを見つめる。

「最高司祭様の御言葉に従います」

「わたしの声などより、神の声に従いなさいな」

 さとすように、ジェニは言った。

けいはすでに下されているのですから。魔術師リウイは、偉大なる神が勇者とお認めになった人物なのでしょう。彼の資質をきわめなさい。それが分からないのは、あなたのしんこうが足りないためです。り返して言いますが、相手の胸に飛びこむほどのかくがなければ、勇者につかえているとは言えないのですよ」

 ジェニがそう言うと、メリッサはいつしゆん、とてつもなくいやそうな顔をした。

 こんなじゆうしやそばにおいて平気だとしたら、それだけで勇者の資質としては十分なようにジェニには思えた。

(ウーくんはやさしい子だったから)

 ジェニは子供のころのリウイの姿を、彼のあいしようとともに思い出した。

 これがもしもリジャールだったら、メリッサさいはどんなあつかいを受けたことか。

 こわい考えになりかけたので、ジェニはあわててそれをはらった。

(自覚はないでしょうけど、あなたは本当に幸せなのよ)

 力無くうなだれる侍祭の姿を見つめながら、ジェニは心の底から思った。

「あなたのほうから、もっと積極的に会いにお行きなさい。日常の姿にこそ、勇者の資質は示されているかもしれないのだから」

「……御言葉に従います」

 きらいな食べ物をしやくもせずに飲み込んだあとのような顔をして、メリッサは答えた。

 そして、ふらふらと立ち上がって、れいはいじよを後にした。


つえを折ったってわけよ」

 り手振りをまじえたミレルの話に、情報屋のサムスは、はらかかえんばかりに笑いころげた。

けな魔術師もいたもんだな」

「でしょ? だれだって、そう思うわよね」

 ミレルもいつしよになって笑ってから、情報屋のほうに一歩、二歩と近づいていった。

「どうしたい?」

 情報屋はまだ笑い続けながら、ミレルを見つめた。

「よくもこのわたしに、カスをつかませてくれたわね!」

 がおからいつしゆんにしていかりの表情に変わり、ミレルは情報屋にくってかかった。

「おいおい、そういう危険リスクかくのうえだろ」

 まったく猫の目のように表情を変えるやつだなと思いながら、情報屋はかんべんしてくれよ、と言った。

「危険は、もちろん承知よ。だけど、あなたも良心のしやくを感じない?」

 ミレルはだんの顔にもどって言う。

「まあ、悪かったぐらいには思うわな」

「そう思うんなら、ちょっとぐらいはらもどさない?」

 何千枚という銀貨ガメルを使って、りはまったくなし。こんなひどい赤字になるとは思ってもいなかった。じようで〝猫〟をしていたころと異なり、最近のミレルはひどくびんぼうなのだ。

「それをしちゃあ、商売になんねぇ」

 サムスはそう言ったあと、何かを思い出したようにぽんと手をたたいた。

「しかし……」

「しかし、何なの?」

 ひとみかがやかせて、ミレルがサムスに顔を近づける。

ほかならぬ、ミレルのたのみだしな」

「そうそう、あたしの頼みなのよ」

 ミレルはにこにことうなずき、情報屋の次の言葉を待った。

「それじゃあ」

 と言って、サムスはまんめんに笑みをかべた。

「な、何よ、その顔」

 情報屋に顔を近づけていたミレルは思わずあとずさった。

 まるでいたちらって顔をしかめる野犬のような笑顔だった。

「ほれ、笑顔の払い戻し……」

「ざけんじゃねぇ!」

 ミレルはさけぶと、反射的にまわりをはなっていた。

 見事に足を払われて、情報屋の身体からだは宙にい、それからとうぞくギルド直営の地下酒場のゆかたたきつけられた。

「ひ、ひでぇことするな。じようだんなのによ」

 したたかに打ちつけたこしをさすりながら、サムスは立ち上がってこうをする。

「八つ当たりに来ているあたしに、そんな悪質な冗談を言うほうが悪い」

 ミレルはきっぱりと言い、

「おかげで少し気分が晴れたわ」

 と、笑顔に戻って続けた。

「そりゃ、どうも……」

 サムスは服についたほこりを払いのけてから、酒場のカウンターのほうにミレルをさそった。

「今度は、冗談はなしよ」

「あんなめに合うと分かっていて、だれが言うもんか」

 ミレルはサムスの横にならび、カウンターにりようひじをつく。

「おまえのあいぼうの名前、確かリウイとかいったよな?」

「何、言ってるの。あんたに教えてもらったんじゃない。それも銀貨ガメル百枚で」

「ああ、教えた。魔術師ギルドの最高導師アークメイジカーウェスのようにして正魔術師ソーサラー。おまけに、ふだきの不良で、オレたちの仲間とも何度もごとをおこしている」

「おかしらが盗賊ギルドに引き入れたい、とか言ってたんでしょ?」

「ああ、あの体格で、あの度胸だ。きたえ方しだいじゃ、大物に育つかもしれねぇ」

「でも、あいつ、ようそうよ」

 この前のぼうけんのときのぎわなどを見ているだけに、ミレルにはリウイが盗賊に向いているとは思えなかった。

「まあ、その話はいいんだ。ただ、そのリウイって野郎のことで、ミレルに言い忘れていたことをひとつ、思い出したんだ」

「お金は出さないわよ」

 ミレルはすかさずくぎした。出したくても、今はまったくゆうがない。

「情報料はこの前もらっているからな。こみにしておくさ」

「助かるわ。それで、どんな情報?」

「情報というか……、あいつの生まれなんだがな。よく分からねぇんだ。産んだ女がだれだとか、父親が誰だとか」

「ふうん」

 情報屋の言葉に、ミレルはきようを覚えた。

 分からないということは、分かるというよりちような情報であるときもある。盗賊ギルドの情報もうは広い。その気になって調しらべれば、たいていの事は明らかになる。盗賊ギルドが生まれをつかめないような人間は、そうそういるものではない。

「話は読めたわ」

 ミレルはにこりと笑って、サムスに向かって片手を広げた。

「あいつの生まれが分かったら、あんたに教える。カーウェスといったらちよう大物だものね。案外、おもしろい情報がつかめるかもしれない」

「しっかりしてやがる」

 サムスは顔をしかめながらも、宝石ジエムを一個、ミレルの手にのせた。

(銀貨二百ぐらいか……)

 しゆんのうちに、ミレルはみした。

 少なくない金額だった。リウイの生まれに対する情報屋の関心の深さが、分かろうというものだ。

 ミレル自身もあのきよかんの魔術師に興味を覚えつつあった。なんというか、これまでに見たことのない男だった。よい意味でも悪い意味でも常識外れなところがある。

(冒険のたびにいつしよに行動するんだもの。何か分かるわよね)

 あんに考えて、ミレルは胸のあいだにつるしていたきんちやくのなかに宝石ジエムほうり込んだ。

 そして、サムスに別れを告げて、地下酒場を出た。


つえを折ったわけさ」

 そう話をめくくった後、ジーニはあざけるような笑いをかべた。

 話し相手はむかし、ジーニがレイドのようへいギルドにいたころの仲間である。名前をバーブといい、うでも気もいい男だった。

 ねんれいふしようの顔をしているが、三十半ばぐらいのはずだ。

「信じられない魔術師だな」

 バーブはあきれたような顔をしながら、ジョッキにがれた麦酒エールに口をつけた。

 鼻の下にたくわえたひげに白いあわがつく。

「それにしても、あんたがオーファンのになっていたとはな」

 傭兵時代のバーブは、とても品行方正とは言えない性格だった。

 とても騎士が勤まるようには思えない。

「この国は生まれてまだ新しい。人材が不足しているのさ。傭兵としてやとわれて、三年目ぐらいかな。けんじゆつ大会で、いいところまで行ったんだ」

「それで、オーファンのこの隊か……」

 つうの国であれば、近衛隊の騎士は代々、王家につかえた名門の出身者が務める。

 しかし、一代で王になったリジャールには、そのような騎士がいるはずもない。そこでオーファンの近衛隊は出身に関係なく、もっとも腕の立つ者を集めて組織されている。

 アレクラスト最高の戦士とうたわれたリジャールならばこそ、そんな思い切った人選ができるのだろう。そうでもなければ、じようも知れない人間をそばに置いておけるものではない。

「おまえほどの腕前なら、ちがいなく入れるだろうがな……」

「女だから無理、というわけか」

 ジーニは冷ややかなみをかべた。

 同じようなことを過去に言われたのを思いだす。女にはぞくちようは勤まらない、そうきゆうだんする男たちの顔が、彼女の脳裏をよぎる。

「そんなことは百も承知だ。それに、わたしは王国などに仕える気はない」

「これから、どうするんだ?」

「さっき話したとおりさ。今は、仲間たちと冒険者をやっている。しばらくは、続けるつもりだ」

「今はいい。それより、将来だ」

「わたしはまだまだ若い。年を取ってからのことを心配するのは、もっと後にするさ」

「たとえば、傭兵にもどる気はないのか? なんなら、オーファンの傭兵隊に……」

 いくささえなければ、傭兵は気楽なぎようである。そしてオーファンのきんりんには、今のところ戦のきざしはない。

「国などのために、戦う気はもうせたな。自分の成功のためだけに、ものどもを相手にけんるうほうが気が楽だ」

 ジーニは、かたをすくめながら答えた。

「そうか……」

 残念そうな表情を浮かべて、バーブはゆっくりと立ち上がった。

「わたしはこれから城へ戻らねばならないが、おまえは?」

「ここで仲間たちと待ち合わせさ。冒険の失敗のさを晴らさないとな」

「わたしのやかたは大通りのはずれにある。相談ごとがあったら、いつでも来てくれ。できるかぎりの協力はする」

 そう言ってから、近衛騎士バーブはわずかにためらうようなぐさを見せた。

 ジーニはそれをのがさず、

「どうした? 言いたいことがあるなら」

 と、バーブに声をかける。

「い、いや、たいしたことじゃない。館には、その……、一人で住んでいるんだ。それを言っておこうと思ってな」

「そうか? それなら、たずねやすいな」

 ジーニはくつたくのない笑顔を見せた。

「ああ、かんげいする」

「しかし、騎士になったのだろう。はやく、夫人をもらわないとな。かつこうがつかないぞ」

 ジーニの言葉に、バーブの顔はいつしゆんじゆうめんになり、次いでしように変わった。

「まったくだな」

 そして、別れの言葉を元傭兵仲間の女戦士に告げてから、近衛騎士バーブは酒場から出ていった。


    3


「なんで、あんたらが……」

 私服姿のアイラを連れて、上品なふんのする酒場に入ったところで、リウイは正面のテーブルにジーニたち三人がすわっているのを見て、がくぜんとなった。

 三人のせんが、リウイととなりにいるアイラにいつせいそそがれる。

 彼女たちの表情はそれぞれちがったが、このぐうぜんかんげいしている様子ではない。

「そっちこそ! おまえの遊び場テリトリーは、こっちじゃないだろ」

 ジーニがげんそうに言う。

 確かにリウイがいつも遊び歩いているのは、裏通りのかんらくがいだ。だが、今日はアイラがいつしよにいる。あんないかがわしい所へ連れてゆけるはずがない。

「もしかして、あなたの冒険のお仲間?」

 アイラがささやくようにたずねてくる。

 リウイはしぶい顔をしてうなずいた。

「おたがいに、不本意なんだけどな」

 その答に、アイラはふうんと鼻を鳴らして、ジーニたち三人を観察する。

れいな人たちね。じんの王国の後宮ハーレムにいる気分なんじゃない?」

〝砂塵の王国〟エレミアの後宮には大陸各地から何十人もの美女たちが集められ、国王の夫人として囲われているといううわさがある。

 どこがだとさけびたい気分を、リウイは何とかおさえた。後宮というより、ごうもんにいるような気分なのだ。

 しかし、そんなことを声に出そうものなら、この酒場が血でまることになる。

「場所を変えよう」

 リウイはアイラに耳打ちした。

「どうして? せっかく会ったんじゃない。わざわざ場所を変える必要はないでしょう」