第Ⅲ章 折れた杖
1
「杖を折ったんですって?」
突然、部屋の扉が開いて、リウイとは同期の女性魔術師、アイラが飛びこんできた。
リウイはちょうど腹筋を鍛えていたところで、上半身裸になって床に転がっているという格好だった。
(この女、狙ってるんじゃないか?)
この前も、裸でいるときに入ってきた。
鍵をかけていないリウイも悪いといえば悪いのだが、常識的な人間なら、声をかけてから入ってくるものだ。
〝四つの眼〟という魔法の眼鏡をかけたアイラの顔を見あげながら、リウイは側に放り投げていた上着を手にして立ち上がった。
「そんな体格なのに、まだ鍛えないといけないの?」
開いたままの扉を今頃ノックしながら、呆れ顔でアイラは言った。
「ああ、ぜんぜん鍛えたりないな」
リウイはそう答え、あの怪力女に力負けしないためにな、と心のなかで付け加えた。
「筋肉隆々なのは、あまり好みじゃないんだけどなあ……」
ひとりごとのようにつぶやくと、アイラは後ろ手に扉を閉めて、リウイの部屋のなかに入ってきた。
「それより魔術師の杖のことよ」
何かを期待するように、アイラは表情を輝かせる。
「ああ、見事に折れた」
リウイはさすがに憮然とした顔になった。
赤肌鬼との戦いのとき、狙いの外れた一撃が、遺跡の壁にぶつかったのだ。そして破滅の音とともに、魔術師の杖は真ん中からきれいにふたつに折れてしまった。
「あんな硬い杖をねぇ」
杖が折れた状況を聞いて、アイラは感心したように言った。
「わたしなんかじゃ、腕のほうが折れてしまいそう」
魔術師の正装である長衣の袖をまくりあげて、アイラはしげしげと自分の腕を見つめる。
透きとおるような白い肌をしていることもあって、彼女の腕はたしかにか細く見える。
「おまけに大事な杖をね」
魔術師の杖は魔術師ギルドに属するという証であり、魔術師の魂ともいうべきものである。魔術師の杖があればこそ、術者の魔力を活性化できるのだし、即応呪文で、古代語魔法を発動することもできる。〝杖を折る〟という言葉は、魔術師を辞めるという意味にさえ使われているのだ。
「それで、どうするの?」
「決まってるだろ。新しい杖を作ってもらうさ」
問われて、リウイは答えた。
「カーウェス様に?」
「仕方ないだろ。オレの導師は、あの爺さんなんだから」
「魔術師の杖を作るには、五百年は生きた樫の古木が必要なのよ。おまけに三日を超える魔法の儀式」
「爺さんは、いや最高導師はやってくれるそうだ。もっとも、素材になる樫の古木は取ってこないといけないけどな」
「五百年もの古木よ。どこにでも生えているわけじゃない」
アイラの言うとおり、そんな古木がそうそう生えているわけがない。王都の近郊の森などには入るだけ無駄だろう。
「〝争いの森〟にでも行ってみるさ。十本ばかり取ってくれば、来年の見習いたちの分にも足りるだろう」
「簡単に言うわねぇ」
アイラは両手を広げて、呆れたといった身振りをしてみせる。
「争いの森ターシャスには、妖魔どもが棲んでいるのよ。それから、恐ろしい魔獣」
「森は広いんだ。そうそう出会うわけじゃない。あの森に入って仕事をしている者もいるんだから」
「毎年、何人かは命を落としているそうよ」
不吉なことを、アイラはさらりと言った。
「オレは大丈夫だ。妖魔ぐらいなら、やっつけてやる。この前と同じようにな」
「そうして、せっかく集めた杖をまた折ってしまうわけね」
痛いところを致命的に突かれ、リウイは言葉を詰まらせた。
「こ、今度は、そんな間抜けなことはしない。ちゃんと剣を使って戦うさ」
「魔術師の杖がないと魔法が使えないんだから、止めるわけにはゆかないわね。あなたのお仲間は当然、手伝ってくれるんでしょ?」
「それはない!」
リウイは即座に否定した。
あの三人の女たちには関係ないことだ。それに彼女らは、リウイが魔術師の杖を折ってしまったことを、完全に馬鹿にしている。遺跡から帰る途中、罵声の言葉をどれだけ浴びたかしれない。
「それじゃあ、一人で行くの?」
目をぱちぱちさせながら、アイラは言った。
「そうなるな」
「ふ~ん、そうなんだ……」
アイラは考えに耽るように、しばらくのあいだ沈黙した。
そして、
「だったら、今晩ちょっと付き合ってよ」
と、言った。
「どういう脈絡でそうなるんだ?」
「だって、行ったきりになるかもしれないじゃない。あなたとの思い出を、ちょっとでも増やしておきたいのよ」
ふふっ、と意味ありげな笑みを浮かべながら、アイラは言った。
「勝手に言ってろ!」
「冗談よ、冗談。でも、付き合ってはもらうわよ。冒険の話とか、聞かせてほしいから」
そう言うと、リウイより二つ年上の女性魔術師は返事も聞くことなく、部屋から去っていった。
それを呆然と見送って、リウイは女たちに弄ばれる毎日が心底、恨めしいと思った。
「オレのことを羨む奴がいるのなら、代わってほしいもんだぜ」
それはリウイの心の底からの言葉であった。
2
「……杖を折ったのです」
悔しさのあまり涙が滲む目で、戦の神の侍祭メリッサは、マイリー教団の最高司祭ジェニを見上げた。
「魔術師の象徴ともいえる大事な杖を。それも赤肌鬼ごときに殴りかかって……」
そして、メリッサは不本意ですと五回、繰り返した。
(これは重症だわね……)
メリッサ侍祭の訴えを穏やかな顔をして聞きつつも、〝剣の姫〟と謳われた老女は、心のなかでは憤りを覚えていた。
メリッサが不本意だと言っている相手は、仕えるべき勇者であるとの啓示を、マイリー神から授けられた男なのだ。そして個人的には親友の息子であり、子供の頃から可愛がっていた。
「女性のいる前でわざわざ裸になるなど、野蛮人と誹られて当然の行為。協調性のかけらもなく、なんでも一人でやろうとする。自分勝手な行動をしたあげく、自らを生命の危機に晒す。もしも彼に死なれでもしたら、神の啓示を果たせなかったわたしは、もはや信仰を捨てるしかありません」
それなら今すぐ捨てたら、と言いたい気持ちを抑え、メリッサの言葉にジェニはうなずいてみせる。
(リジャールなんか、女性の前でこそ裸になりたがったものよ)
オーファンの建国王となったあの戦士は、自分の鍛えあげた肉体が、女性に性的魅力を感じさせると信じて疑っていなかった。
獣ではあるまいし、人間の女性には好みというものがある。優しい男が好きな女性も大勢いるのだ。それが、あの男には分かっていない。
(それに、肉体の美しさなら、わたしのほうが上だったわ)
ジェニは、そうも思う。
戦いには美しさが必要だという信念を、若き日のジェニは持っていた。
女性として均整の取れた肉体をいつも保っていたし、戦いのときにも剣舞を演じているような独特の技で相手を倒していった。剣の姫とは、それゆえについた呼び名なのだ。
「どうしたものでしょうね……」
ジェニは、メリッサに声をかけた。
彼女の聖職者としての素質を、ジェニは高く評価している。体力的には劣るものの、戦士としての技量もなかなかのものだ。
そして若い信者を集めて、教団の布教に役立ってもいる。
将来的には教団を背負って立てるだけの人材なのだ。しかし、今はまだ若すぎる。育ちがよいためなのだろう。潔癖すぎる性格もなんとかならないかと思う。
彼女が夢想しているような英雄は偶像みたいなもので、現実には存在するはずがないのだ。品があろうがなかろうが、食人鬼のような体格をしてようが大地の妖精のような体型をしてようが、偉大なるマイリー神はまったく気になさらないであろう。
「わたくしは、どうすればよろしいのでしょうか?」
すがりつくような目で、メリッサはジェニを見つめる。
「最高司祭様の御言葉に従います」
「わたしの声などより、神の声に従いなさいな」
諭すように、ジェニは言った。
「啓示はすでに下されているのですから。魔術師リウイは、偉大なる神が勇者とお認めになった人物なのでしょう。彼の資質を見極めなさい。それが分からないのは、あなたの信仰が足りないためです。繰り返して言いますが、相手の胸に飛びこむほどの覚悟がなければ、勇者に仕えているとは言えないのですよ」
ジェニがそう言うと、メリッサは一瞬、とてつもなく嫌そうな顔をした。
こんな従者を側において平気だとしたら、それだけで勇者の資質としては十分なようにジェニには思えた。
(ウーくんは優しい子だったから)
ジェニは子供の頃のリウイの姿を、彼の愛称とともに思い出した。
これがもしもリジャールだったら、メリッサ侍祭はどんな扱いを受けたことか。
恐い考えになりかけたので、ジェニはあわててそれを振り払った。
(自覚はないでしょうけど、あなたは本当に幸せなのよ)
力無くうなだれる侍祭の姿を見つめながら、ジェニは心の底から思った。
「あなたのほうから、もっと積極的に会いにお行きなさい。日常の姿にこそ、勇者の資質は示されているかもしれないのだから」
「……御言葉に従います」
嫌いな食べ物を咀嚼もせずに飲み込んだあとのような顔をして、メリッサは答えた。
そして、ふらふらと立ち上がって、礼拝所を後にした。
「杖を折ったってわけよ」
身振り手振りをまじえたミレルの話に、情報屋のサムスは、腹を抱えんばかりに笑い転げた。
「間抜けな魔術師もいたもんだな」
「でしょ? 誰だって、そう思うわよね」
ミレルも一緒になって笑ってから、情報屋のほうに一歩、二歩と近づいていった。
「どうしたい?」
情報屋はまだ笑い続けながら、ミレルを見つめた。
「よくもこのわたしに、カスをつかませてくれたわね!」
笑顔から一瞬にして怒りの表情に変わり、ミレルは情報屋にくってかかった。
「おいおい、そういう危険は覚悟のうえだろ」
まったく猫の目のように表情を変える奴だなと思いながら、情報屋は勘弁してくれよ、と言った。
「危険は、もちろん承知よ。だけど、あなたも良心の呵責を感じない?」
ミレルは普段の顔に戻って言う。
「まあ、悪かったぐらいには思うわな」
「そう思うんなら、ちょっとぐらい払い戻さない?」
何千枚という銀貨を使って、実入りはまったくなし。こんなひどい赤字になるとは思ってもいなかった。路上で〝猫〟をしていた頃と異なり、最近のミレルはひどく貧乏なのだ。
「それをしちゃあ、商売になんねぇ」
サムスはそう言ったあと、何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。
「しかし……」
「しかし、何なの?」
瞳を輝かせて、ミレルがサムスに顔を近づける。
「他ならぬ、ミレルの頼みだしな」
「そうそう、あたしの頼みなのよ」
ミレルはにこにことうなずき、情報屋の次の言葉を待った。
「それじゃあ」
と言って、サムスは満面に笑みを浮かべた。
「な、何よ、その顔」
情報屋に顔を近づけていたミレルは思わず後ずさった。
まるで鼬の屁を喰らって顔をしかめる野犬のような笑顔だった。
「ほれ、笑顔の払い戻し……」
「ざけんじゃねぇ!」
ミレルは叫ぶと、反射的に回し蹴りを放っていた。
見事に足を払われて、情報屋の身体は宙に舞い、それから盗賊ギルド直営の地下酒場の床に叩きつけられた。
「ひ、ひでぇことするな。冗談なのによ」
強かに打ちつけた腰をさすりながら、サムスは立ち上がって抗議をする。
「八つ当たりに来ているあたしに、そんな悪質な冗談を言うほうが悪い」
ミレルはきっぱりと言い、
「おかげで少し気分が晴れたわ」
と、笑顔に戻って続けた。
「そりゃ、どうも……」
サムスは服についた埃を払いのけてから、酒場のカウンターのほうにミレルを誘った。
「今度は、冗談はなしよ」
「あんなめに合うと分かっていて、誰が言うもんか」
ミレルはサムスの横に並び、カウンターに両肘をつく。
「おまえの相棒の名前、確かリウイとかいったよな?」
「何、言ってるの。あんたに教えてもらったんじゃない。それも銀貨百枚で」
「ああ、教えた。魔術師ギルドの最高導師カーウェスの養子にして正魔術師。おまけに、札付きの不良で、オレたちの仲間とも何度も揉め事をおこしている」
「お頭が盗賊ギルドに引き入れたい、とか言ってたんでしょ?」
「ああ、あの体格で、あの度胸だ。鍛え方しだいじゃ、大物に育つかもしれねぇ」
「でも、あいつ、不器用そうよ」
この前の冒険のときの手際などを見ているだけに、ミレルにはリウイが盗賊に向いているとは思えなかった。
「まあ、その話はいいんだ。ただ、そのリウイって野郎のことで、ミレルに言い忘れていたことをひとつ、思い出したんだ」
「お金は出さないわよ」
ミレルはすかさず釘を刺した。出したくても、今はまったく余裕がない。
「情報料はこの前もらっているからな。こみにしておくさ」
「助かるわ。それで、どんな情報?」
「情報というか……、あいつの生まれなんだがな。よく分からねぇんだ。産んだ女が誰だとか、父親が誰だとか」
「ふうん」
情報屋の言葉に、ミレルは興味を覚えた。
分からないということは、分かるというより貴重な情報であるときもある。盗賊ギルドの情報網は広い。その気になって調べれば、たいていの事は明らかになる。盗賊ギルドが生まれをつかめないような人間は、そうそういるものではない。
「話は読めたわ」
ミレルはにこりと笑って、サムスに向かって片手を広げた。
「あいつの生まれが分かったら、あんたに教える。カーウェスといったら超大物だものね。案外、面白い情報がつかめるかもしれない」
「しっかりしてやがる」
サムスは顔をしかめながらも、宝石を一個、ミレルの手にのせた。
(銀貨二百ぐらいか……)
瞬時のうちに、ミレルは値踏みした。
少なくない金額だった。リウイの生まれに対する情報屋の関心の深さが、分かろうというものだ。
ミレル自身もあの巨漢の魔術師に興味を覚えつつあった。なんというか、これまでに見たことのない男だった。よい意味でも悪い意味でも常識外れなところがある。
(冒険のたびに一緒に行動するんだもの。何か分かるわよね)
安易に考えて、ミレルは胸のあいだに吊していた巾着のなかに宝石を放り込んだ。
そして、サムスに別れを告げて、地下酒場を出た。
「杖を折ったわけさ」
そう話を締めくくった後、ジーニは嘲るような笑いを浮かべた。
話し相手は昔、ジーニがレイドの傭兵ギルドにいた頃の仲間である。名前をバーブといい、腕も気もいい男だった。
年齢不詳の顔をしているが、三十半ばぐらいのはずだ。
「信じられない魔術師だな」
バーブは呆れたような顔をしながら、ジョッキに注がれた麦酒に口をつけた。
鼻の下にたくわえた髭に白い泡がつく。
「それにしても、あんたがオーファンの騎士になっていたとはな」
傭兵時代のバーブは、とても品行方正とは言えない性格だった。
とても騎士が勤まるようには思えない。
「この国は生まれてまだ新しい。人材が不足しているのさ。傭兵として雇われて、三年目ぐらいかな。剣術大会で、いいところまで行ったんだ」
「それで、オーファンの近衛隊か……」
普通の国であれば、近衛隊の騎士は代々、王家に仕えた名門の出身者が務める。
しかし、一代で王になったリジャールには、そのような騎士がいるはずもない。そこでオーファンの近衛隊は出身に関係なく、もっとも腕の立つ者を集めて組織されている。
アレクラスト最高の戦士と謳われたリジャールならばこそ、そんな思い切った人選ができるのだろう。そうでもなければ、素性も知れない人間を側に置いておけるものではない。
「おまえほどの腕前なら、間違いなく入れるだろうがな……」
「女だから無理、というわけか」
ジーニは冷ややかな笑みを浮かべた。
同じようなことを過去に言われたのを思いだす。女には族長は勤まらない、そう糾弾する男たちの顔が、彼女の脳裏をよぎる。
「そんなことは百も承知だ。それに、わたしは王国などに仕える気はない」
「これから、どうするんだ?」
「さっき話したとおりさ。今は、仲間たちと冒険者をやっている。しばらくは、続けるつもりだ」
「今はいい。それより、将来だ」
「わたしはまだまだ若い。年を取ってからのことを心配するのは、もっと後にするさ」
「たとえば、傭兵に戻る気はないのか? なんなら、オーファンの傭兵隊に……」
戦さえなければ、傭兵は気楽な稼業である。そしてオーファンの近隣には、今のところ戦の兆しはない。
「国などのために、戦う気はもう失せたな。自分の成功のためだけに、魔物どもを相手に剣を振るうほうが気が楽だ」
ジーニは、肩をすくめながら答えた。
「そうか……」
残念そうな表情を浮かべて、バーブはゆっくりと立ち上がった。
「わたしはこれから城へ戻らねばならないが、おまえは?」
「ここで仲間たちと待ち合わせさ。冒険の失敗の憂さを晴らさないとな」
「わたしの館は大通りの外れにある。相談ごとがあったら、いつでも来てくれ。できるかぎりの協力はする」
そう言ってから、近衛騎士バーブはわずかにためらうような仕草を見せた。
ジーニはそれを見逃さず、
「どうした? 言いたいことがあるなら」
と、バーブに声をかける。
「い、いや、たいしたことじゃない。館には、その……、一人で住んでいるんだ。それを言っておこうと思ってな」
「そうか? それなら、訪ねやすいな」
ジーニは屈託のない笑顔を見せた。
「ああ、歓迎する」
「しかし、騎士になったのだろう。はやく、夫人をもらわないとな。格好がつかないぞ」
ジーニの言葉に、バーブの顔は一瞬、渋面になり、次いで苦笑に変わった。
「まったくだな」
そして、別れの言葉を元傭兵仲間の女戦士に告げてから、近衛騎士バーブは酒場から出ていった。
3
「なんで、あんたらが……」
私服姿のアイラを連れて、上品な雰囲気のする酒場に入ったところで、リウイは正面のテーブルにジーニたち三人が座っているのを見て、愕然となった。
三人の視線が、リウイと隣にいるアイラに一斉に注がれる。
彼女たちの表情はそれぞれ違ったが、この偶然を歓迎している様子ではない。
「そっちこそ! おまえの遊び場は、こっちじゃないだろ」
ジーニが不機嫌そうに言う。
確かにリウイがいつも遊び歩いているのは、裏通りの歓楽街だ。だが、今日はアイラが一緒にいる。あんないかがわしい所へ連れてゆけるはずがない。
「もしかして、あなたの冒険のお仲間?」
アイラが囁くように訊ねてくる。
リウイは渋い顔をしてうなずいた。
「お互いに、不本意なんだけどな」
その答に、アイラはふうんと鼻を鳴らして、ジーニたち三人を観察する。
「綺麗な人たちね。砂塵の王国の後宮にいる気分なんじゃない?」
〝砂塵の王国〟エレミアの後宮には大陸各地から何十人もの美女たちが集められ、国王の夫人として囲われているという噂がある。
どこがだと叫びたい気分を、リウイは何とか抑えた。後宮というより、拷問部屋にいるような気分なのだ。
しかし、そんなことを声に出そうものなら、この酒場が血で染まることになる。
「場所を変えよう」
リウイはアイラに耳打ちした。
「どうして? せっかく会ったんじゃない。わざわざ場所を変える必要はないでしょう」