第Ⅰ章 魔術師ギルドの異端児
1
古代王国として知られるカストゥール王国の滅亡とともに、魔法の時代が終わった。
およそ五百年前の出来事である。
その後に続く時代は〝新王国期〟あるいは〝剣の時代〟と呼ばれている。
魔法の時代に蛮族と蔑まれた人間が、剣の力によって新しい王国を次々と興していったからだ。五百年ものあいだに、いくつもの王国が生まれ、あるいは滅んでいった。
そして、アレクラスト大陸で、もっとも最近、建国された王国が、ここオーファンだ。〝竜殺し〟の英雄リジャールの剣によって興されたゆえ、〝剣の王国〟と呼称されている。
だが、剣の時代、それもこの剣の王国においても、古代王国の魔法文明は完全に失われたわけではない。〝魔術師〟と呼ばれる古代の魔術の使い手たちがいるからだ。
そして、そういう魔術師たちのなかに極めて希だが、戦いの技に長けた者もいる。
魔法を操る戦士ゆえ、彼らは〝魔法戦士〟と呼ばれている。
「おめでとう」
祝福の声が響いて、陶器の酒杯が四つ、高々と掲げられた。
「ありがとう」
長身で体格も立派な一人の若者が、四人の祝福に応えて酒杯を軽く上げる。そして薄く泡立つ赤色の液体に口をつけ、一気に飲みほした。
麦酒である。心地よい苦みと酸味が、口のなかに広がってゆく。
「あいかわらずだな」
若者の右隣に座っている別の若者が、呆れているのか感心しているのか分からないような口調で言った。
「この体格だもの、一樽だって一気に飲みほせるわよ」
同じテーブルを囲む五人のなかで唯一の女性が、隣に座る巨漢を横目で見ながら言った。
茶色がかった金髪が酒杯に落ちないよう、空いているほうの手で軽く押さえながら、舐めるように酒杯に口をつけている。
「いくらなんでも、一樽は無理だ」
そう答えながらも、若者は同時にエールのおかわりを店員に頼んでいた。
「一杯ぐらいじゃ、喉の渇きが収まらないのも確かだけどな」
そう言って、不敵な笑いを浮かべる。
若者の名前は、リウイ。
今年の夏で、十九歳になる。世間では、ようやく成人と認められる年齢だ。オーファンの王都ファンの街にある魔術師ギルドに入門している。
資格は、正魔術師。職人の世界に例えるなら、門弟というところだ。
他の四人も、全員が正魔術師である。
十年前に入門した同期生であり、見習い時代から同じ導師のもとで、あらゆる分野の知識と古代魔法王国の文化遺産ともいうべき古代語魔法を勉強してきた。最初、同期生は百人近くいたのだが、現在までギルドに在籍しているのはこの五人だけだ。
「結局、オレが最後になったな」
運ばれてきた二杯目の酒杯を見つめながら、リウイは一人ごとのように言った。
正魔術師になったのは、五人ともほとんど同時期だった。
〝上位古代語〟と呼ばれる魔法言語を唱え、古代語魔法を発動させられれば、正規の魔術師と認められる。そして魔法の発動体たる〝魔術師の杖〟とともに魔術師の組合を発足させた大賢者マナ・ライが著した基本の魔術教本が与えられるのだ。
この書物を完全に修めると、教本が変わる。古代王国時代の遺跡から発掘された古代の魔術書にである。
この〝古代魔術書の授与〟の儀式をもって、オーファンの魔術師ギルドでは、ようやく一人前の魔術師と認められる。一人ずつに担当の導師がつき、その指導のもと、独自の研究活動が許されるようになる。同時に、魔術師ギルドへの奉仕が義務づけられるようになり、たいした額ではないが俸給も与えられる。
リウイが古代魔術書の授与の儀式を受けたのは三日前。五人のなかで、いちばん最後だった。右隣にいるダリルと比べれば、たっぷり二年は遅れている。
ようやく仲間たちに追いついたわけだ。今日の酒宴は、その祝いとして、仲間たちが開いてくれたものだ。
「いちばん最後も何も……」
同期生のなかでただ一人の女性であるアイラが、口を開いた。
彼女はリウイより二歳、年上である。五人のなかでも最年長だ。
「あれだけ怠けていれば、遅れて当然だわ」
ぴしゃりとした口調だった。
いつものことなのだが、彼女は言葉を選ぶということを知らない。
「心外だな。オレだって、毎日、夜遅くまで魔術書と格闘してたんだぜ」
リウイは惚けるように言った。
「時間をかければいいってもんじゃないわ。取り組む姿勢の問題ね。リウイって、まるで研究に集中しているように見えないもの。立派な魔術師になりたいと思ってるのかどうか疑問だわね」
「適性がないだけさ」
リウイは苦笑まじりに答えると、運ばれてきたエールのおかわりに口をつけ、ふたたび一気に飲みほした。
「適性……ね」
リウイが空にした二杯目の酒杯を見つめながら、アイラは肩をすくめた。
「その体格に、その飲みっぷり。確かに、世間の人が思い描いている魔術師とは似ても似つかないわね」
「好きで、こんな体格になったわけじゃない。酒だって、美味いと思うから飲むだけだ」
アイラが言うとおり、リウイの体格はおよそ魔術師らしくない。
武勇を誇るオーファンの騎士たちのなかに入っても、リウイの体格と体力は抜きんでているに違いない。
「カーウェス様の親戚だというのにね」
オーファン魔術師ギルドの長であり、この王国の宮廷魔術師を務めるカーウェスは、アレクラスト大陸で最高の魔術師の一人である。
リウイはこの大魔術師の遠縁にあたり、赤子の頃、両親を失ったため引き取られたのだ。
「爺さんのほうが、特別なんだよ」
リウイはきっぱりと答えた。
正確には養父なのだが、年が離れているため、子供の頃からそう呼んでいる。
「魔術師の親戚が全員、魔術師になれるんだったら、今頃、大陸中に魔術師が溢れかえっているさ」
ダリルがそう言って、笑う。
「魔術師は皆、古代王国人の青い血を受け継いでいると言われてるけどね」
「怪しいものだな」
ダリルの言葉に、リウイは戯けて応じる。
魔法文明で栄えたカストゥール王国人の血どころか、カーウェスと血が繋がっているかどうかも疑わしいと、彼自身は思っている。
偉大なるカーウェスは一度も妻帯したことがなく、兄弟がいるという話も聞いたことがないからだ。
リウイは別に、血の繋がりのあるなしを気にしているのではない。そんなものがあろうとなかろうと、カーウェスが養い親であることに変わりがないのだ。育ててもらったことを、感謝している。
ただ、自分の身体のなかに流れている血が、魔術師とは異質であるように思えてならないだけだ。
「カーウェス様から与えられたのは、どの系統の魔術書なんだ?」
リウイが黙りこんだのを見て、気分を害したと思ったのか、ダリルが話題を変えて、訊ねてきた。
「基本魔術だよ。基本呪文の唱え方と呪文の効果の拡大について記述されているそうだ」
そう答えるリウイの顔は、やや憮然としていた。
「カーウェス様は基本が大事と教えておられるものね」
アイラが、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「オレは拡大魔術の系統を研究したかったんだけどな」
拡大魔術というのは、古代語魔法のなかで肉体的能力の拡大を得意とする系統である。瞬間移動や遠見といった呪文も、この系統に含まれている。
「それだけの肉体をしていて、まだ不満があるの?」
アイラがあきれたという顔をする。
「リウイらしいよ」
ダリルが楽しそうに言った。
「そんなに身体を鍛えたいなら、冒険者でも雇って、古代遺跡の発掘に行けばいいのさ」
「それはいい考えだ。リウイが研究材料を見つけてきて、僕たちが研究する。そのほうが効率がいい」
リウイの向かいの席に座っている二人が、そう言って笑いあう。
「冒険者か……」
彼らは冗談で言ったのだろう。
だが、リウイは心の奥で、真剣にそれを考えていた。
冒険者──
アレクラスト大陸全土を股にかける遺跡荒しのことだ。
五百年前に栄えた古代王国の遺跡に潜入し、そこに埋蔵されている莫大な財宝、貴金属や宝石、芸術品、そして魔法の宝物などを持ち帰ることを生業とする者たちだ。
彼らはまた英雄予備軍でもある。大陸各地に跳梁する怪物を退治したり、山賊団や海賊団を掃討することもあるのだ。
もちろん、すべての冒険者がそんな大仕事をしているわけではない。冒険者の多くは、隊商の護衛や金持ちの館の警備、その他、種々雑多な問題を解決することで、日々の糧を得ている。いわば、〝何でも屋〟である。
それでも、冒険者たちの生き方は自由かつ波乱に富み、頼りになるのは自分自身の才覚であることは間違いない。
リウイは、そこに魅力を感じている。
「仲間になろうと言ってくれる奴でもいればな……」
リウイは、ぽつりとつぶやいた。
そのときには、同期生たちの話題はすでに変わっていて、彼のひとりごとを気に止めた者はいなかった。
運ばれてきた料理の皿に手を伸ばし、リウイは仲間たちの話題に加わっていった。
祝いの酒宴は、夜遅くまで続いた。
2
祝宴が終わって、リウイたちは魔術師ギルドの宿舎に与えられたそれぞれの部屋へと戻っていった。
他の四人はかなり酔っているから、明日は魔術の研究どころではないだろう。
しかし、リウイはまったく飲みたりなかった。いったん飲みはじめると、とことん飲むまで満足できない性格なのだ。中途半端なところでやめると、かえって気分が悪くなる。
リウイは私服に着替えると、一人、街へと戻っていった。
自然に、足が裏通りへと向く。
街の西南の一角に、ちょっとした歓楽街があるのだ。真面目な人間なら、絶対に近づかないような場所。
だが、リウイはそこの常連だった。
魔術師になる──
リウイは赤子の頃からそう思っていたし、またそのようにも育てられてきた。
読み書きは二歳の頃から教えられたし、玩具はすべて魔法の宝物だった。
合言葉を唱えると様々に形を変える真銀の球や、小型の魔法人形や人造人間などだ。
そんな環境で育ったわけだから、魔術師になる以外の生き方など考えもしなかった。
だが、魔術師ギルドに入り、見習いになった頃から、決められた生き方に対する疑問が芽生えだしたのだ。
ただの反抗だと思う。
魔術師としての修業に身が入らなくなったのはそれからだ。もやもやとした気分が晴れることなく、魔術書を読むのにさえ、集中できなくなった。
得体の知れない衝動に突き動かされるように、リウイはこの歓楽街に足を運ぶようになった。酒を飲み、賭け事をし、女を抱き、喧嘩をする。そういう刹那的な快楽に身を任せていると、いくらか気分が晴れる。
だが、完全に満たされるわけではない。
そして、どうすれば満たされるのかも、リウイは分からずにいた。
大通りを曲がって、リウイは真っ暗な路地を、正面に見える明かりに向かって進んだ。
塵のすえた臭いが鼻をつき、人の気配を感じた鼠たちが逃げ惑い、リウイの足にぶつかってくる。どこからか、犬の遠吠えが寂しげに聞こえてくる。
そのときであった。
リウイが目指している方向から、突然、誰かの怒鳴り声が響いた。何かが壊れる派手な音と、歓声とも悲鳴ともつかぬ声がそれに続く。
この界隈では聞き慣れた声であり、音であった。
「喧嘩だ!」
瞬間的に、リウイは走りだしていた。
一歩ごとに高揚感が沸き上がってくる。楽しい夜になるかもしれない。
喧嘩の舞台は、繁華街に入ったところにある比較的まともな酒場だった。逆に言えば面白みのない店で、これまでリウイは行ったことがなかったのだが、今夜ばかりは行く価値がある。
酒場の入口を取り巻くように、二十人ほどの野次馬が集まっている。かなり激しい喧嘩のようで、物が壊れたり倒れたりする音が、店のなかから響いてくる。
リウイは人垣をかきわけて、店のなかへと入っていった。店に入れば、喧嘩に巻きこまれる可能性だってある。内心、それを期待していた。喧嘩は見ているだけでも楽しいが、やるのはもっと楽しいのだ。
だが、喧嘩の現場を見て、リウイは思わず唖然となった。
喧嘩をしているのが、男二人と女三人だったからである。そして、一見しただけでも分かるほど、女たちのほうが優勢だった。はっきり言えば、一方的である。
三人の女たちは、初めて見る顔だった。
一方、相手の男たちのほうには見覚えはある。職人のような格好をしているが、オーファンの騎士見習いである。
以前、彼らの隣のテーブルで飲んでいるとき、二人の会話を聞くとはなしに聞いたからだ。はっきりと身分を言ったわけではないが、話の内容からリウイには、彼らの正体はすぐに分かった。
真面目ばかりではいられないという人間は、どこにでもいるということだ。もっとも、オーファンは建国してからの歴史が浅いので、騎士とはいえ、傭兵や流れの戦士たちとあまり違いはない。そのかわり、武勇を誇る気質は衰えていない。見習いであっても、厳しい戦闘の訓練を受けている。そして、そのなかには格闘術もあるのだ。
だが、そんな二人の騎士見習いを、三人の女は問題にもしていなかった。
女の一人は、リウイと同じぐらいの体格をしていた。長い赤毛と豊かに膨らんだ胸がなければ、男と間違えていたかもしれない。革製の部分鎧をつけ、手首と足首には白布を硬く巻きつけている。露出の多い肌は浅黒く日焼けしていて、文字とも模様ともつかぬ印が頬や太股、二の腕などに描かれていた。
オーファンの北部、ヤスガルン山脈に住む小部族の習慣だと、リウイの知識は教えていた。何かの理由があって、集落から出てきたのだろう。
勇敢な山の民で、オーファン建国のおりには何十人もの戦士を派遣し、建国王リジャールに協力している。その功績によって王国から自治を認められ、昔ながらの暮らしを営んでいると聞いている。
もう一人は、ゆったりとした衣服を身につけた金髪の女性だった。口許には上品な笑みを浮かべていて、喧嘩に加わっているようにはとても見えない。しかし、やっていることはまったく容赦なかった。
痣だらけになりながら向かってくる男に、優雅な動作で平手打ちを入れる。手首の返し方が見事で、男はそれだけで床に倒される。
形よく膨らんだ胸の左には、戦鎚を意匠化した紋章が刺繍されている。
戦の神マイリーの紋章だ。
神聖魔法の使い手である司祭なのか、ただの信者なのかは分からないが、彼女が戦神マイリーを信仰しているのは間違いない。
最後の一人は小柄な少女だった。
鼠を弄ぶ仔猫にも似た表情を浮かべ、俊敏に立回りながら、二人の騎士見習いに低い体勢から蹴りをたたきこんでいる。
少年のような体形で、胸の膨らみも浅く、腰の曲線にもまだまだ硬さが残っている。ランプの明かりに、きらきらと輝く黒い瞳が印象的だった。普通にしていれば、きっと愛らしく見えるだろう。
三人ともまだ娘といってよい年齢だった。リウイともそう年齢は変わらないだろう。
その三人娘は、二人の騎士見習いを徹底的に叩きのめしている。
店の内外にいる野次馬たちは、げらげらと笑いながらそれを見物していた。確かに、見せ物としては面白い。だが、いくらなんでもやりすぎだった。ここまで容赦なくやられては、騎士見習いたちも後に引けなくなる。
「こりゃあ、死人が出るかもな……」
酒杯を片手にリウイの隣で見物していた男が、目を輝かせながらつぶやく。
リウイも同感だった。だが、人死にを期待するほど、彼は悪趣味ではない。
(止めるべきかもしれないな)
リウイは思った。
だが、それを望んでいる者は、やられっぱなしの騎士見習いを含めて誰もいない。
(どうしたもんかな?)
そう自分の心に問いかけた瞬間、騎士見習いの一人が、ついに剣の柄に手をかけた。
歓声とも悲鳴ともつかぬ声が、あちこちから起こる。
「衛兵だ!」
それと同時に、店の外の野次馬たちから、そんな叫び声が聞こえてきた。
路地の騒ぎを聞きつけて、大通りを巡回していた衛兵がやってきたのだろう。新興国だけに、オーファンの治安は悪くはない。騒ぎがあって、それを見て見ぬふりをしたことが発覚したら、重罰を受けることになる。
「それを抜いたら、生命がなくなるよ」
赤毛の女戦士が、不敵な笑みを浮かべながら、騎士見習いを睨みつけた。
リウイの肌にも鳥肌が立つほどの凄みが感じられる。
その迫力に、騎士見習いは一瞬、躊躇した。だが、やはり騎士の誇りは捨てられなかったようだ。腰の剣を引き抜くと、白刃を夜の明かりに煌めかせた。
もう一人の騎士見習いも、当然のように同僚に倣う。
「殺しあいだって、受けてやるさ」
女戦士は悠然と答え、護身用に持っていたらしい短剣を抜いた。
小柄な少女も、どこに隠し持っていたものか、細身の短剣を取りだしている。
もう一人の金髪の女性は、武器こそ取りださなかったが、精神を集中させて明らかに魔法を唱えようという態勢だ。どうやら、彼女は神聖魔法の使い手である司祭のようだ。戦士の訓練を受けた神官戦士なのだろう。
両者は互いに睨みあっているが、動きがあった次の瞬間には勝負は決すると思えた。負けるのは、もちろん、騎士見習いのほうだ。
(放っておくわけにはゆかないな)
リウイは決心した。
喧嘩は好きだが、命のやりとりまでする必要はないと思っている。
だいたい衛兵たちがやってきているのだ。彼らがこの現場を見れば、騎士見習いたちの立場は更に悪くなる。女に喧嘩で負けたことが知られれば、一生の笑い者だ。
女たちのほうも、もはやこの街にいられなくなるだろう。もともと流れ者かもしれないが、賞金首になるのは本意ではあるまい。
「そこまでにするんだな!」
お節介とは承知しつつ、リウイは大声を上げて、両者のあいだに割って入っていった。
周囲の野次馬から不満の声があがる。もっとも、新しい展開を期待する歓声も数人分ほど混じっていた。
自分のことを知っている者たちだな、とリウイは思った。
いつもの彼なら、喧嘩を収めたりはしない。むしろ、大きくする。だが、今日のところは、そういうわけにはゆかない。
リウイの行動は決まっていた。五人の男女があっけにとられているあいだに、電光のように動いた。
武器を構えたまま硬直している二人の騎士見習いを左右の拳、一発ずつで叩きのめす。そして振り向きざまに、女戦士の顔面を殴りつける。
不意をつかれた女戦士は、リウイの拳をもろに受け、酒場の壁まで飛んでいった。
「何をしやがる!」
声はかわいらしいが下品な物言いで、小柄な少女が低く回し蹴りを放ってきた。
かわせないと知ったリウイは、足を踏ん張って、その蹴りを受け止めようとする。
鞭のように鋭い蹴りが、左の太股に命中した。
「痛ぇ!」
だが、そう叫んだのは、小柄な少女のほうだった。
「てめえの足は、丸太かよ!!」
愛らしい顔を苦痛と怒りで歪めながら、少女は足を抱えてうずくまる。