Part 01: ……意識を取り戻した直後、私は自分の置かれた状況がすぐに理解できなかった。 梨花: ここは……どこ……? 辛うじて動く頭を傾けて左右に視線を向けると、怪しげな機械の数々が電子音を立てながらよくわからない数字とグラフを表示させている。 さらに、それらから伸ばされた管やコードが私の腕や胸、頭にまでびっしりと繋がれて……その不気味すぎる姿に思わずぞっとなった。 梨花: ……っ……?! もっと驚かされたのは、自分の腕と身体だ。沙都子より幼児体型なのが悩みでもあったのだが、今の私はおぞましいほどに痩せこけている。 まるで意識を失った重症患者が、生命だけを維持させられているような光景を見せつけられて……私は恐怖で気がおかしくなりそうだった。 梨花: ……っ、……ぐ……っ……。 それでも私は、力がほとんど入らない全身に鞭を打つ思いで……なんとか上体を起こす。 そして、声ではなく自分の頭の中へと働きかけるように念じながら……想いを込めて「あの子」に呼びかけていった。 梨花: (羽入……聞こえる? どこにいるの?返事をして……お願いっ……!) 目をぎゅっと瞑り、懸命に、何度も……ともすれば気を失いそうな苦しさを覚えながら私は力を振り絞って、念じ続ける。 それは、私が『カケラ』を移動した時に行う儀式のようなものだ。「あの子」の返事を聞くことで私は自分の現状を確認し、冷静さを取り戻す……。 数え切れないほど、同じことを繰り返してきたのだ。だから今回も、すぐに返事がある……はず……。 …………。 だけど、戻ってくる声は……ない。それどころか、気配の繋がりさえ全く感じられなくて……。 梨花: ……っ……! 恐る恐るまぶたを開いても……世界は何も変わらず、ただ冷たくて厳然たる光景が私の視野に広がっているだけだった。 梨花: 羽入が……いない……?!いったい何が、どうなっているのよ……っ? ぞわりと心を闇で覆い尽くそうとしてくる絶望に抗いながら、私は声を上げて叫ぶ。 乾いた喉を震わせたことで激痛が迸り、咳がこみ上げて肺が潰れそうになったが……それでも必死に、かすれた声を絞り出した。 梨花: ……っ、けほっ、げほ……!だ、誰か……、私に、説明して……ごほっ……! すると、その願いが通じたのか偶然なのか……部屋の外からコツコツと固い床を叩く足音が複数、こちらへと近づいてくるのが聞こえてきた。 本来なら不安を感じるべきところなのに、自分以外の存在がいたことに安堵を覚え……私は泣きそうな思いを抱いてしまう。 しかも、続いて聞こえてきた一言は停止状態だった思考が再び動き出すほどの刺激と現実感を私に与えてくれた。 隊員: 『……入江二佐』 梨花: っ、入江……ぐっ……?! 名前を聞いて身を乗り出しかけたが、その反動で全身に激痛を覚えた私はその場にうずくまってしまう。 そして、胸を押さえて苦しさにあえぎながら顔を必死に上げると……扉の向こうから、入江らしき人物たちの話す内容が聞こえてきた。 隊員: 『ここは危険です……早くお逃げください。まもなくL5症状を強制的に引き起こされた村人たちが、この地下施設にまで達するものと思われます』 隊員: 『山狗部隊が退路を確保しましたが、それも時間稼ぎ程度でしかありません。……どうか、お急ぎを』 入江: 『わかりました。……Rの運び出しは、どうなっていますか?』 隊員: 『偽装したバンがここに到着する予定です。Rはそちらで搬送しますので、入江二佐は同行する別の車にお乗りください』 入江: 『いえ、私もRと同じ車でお願いします。変化の様子を逐一観察して、万が一の時に対処できる者がいなければいけませんので』 入江: 『……それとも、私がRと一緒に乗ってはいけない理由でもあったりするのでしょうか?』 隊員: 『いえ、そんなことは。我々は上層部の命を受けてあなたの身を保全すべく差し向けられた、≪服≫としての役目を担う者……』 隊員: 『ですから、何かあった時にあなたのご安全を優先する意図で別々の車をご用意した次第です』 隊員: 『あなたの頭脳は、この国の未来にとって何をおいても重要……どうか我々をご信頼の上で、この場を無事に逃れることのみをお考えください』 入江: 『……いや、失礼なことを申しました。私もこのような状況で、少々気が立っていたようです。どうか忘れていただけると助かります』 隊員: 『……ご安心を。私は元々忘れやすい性分です』 入江: 『いずれにしても、Rの身柄はなんとしても≪東京≫の管理下の医療施設まで護送してください。あと……タカノさんはどちらに?』 隊員: 『それも抜かりなく。オーナーには数日前より所用を設けて、#p雛見沢#sひなみざわ#rから遠く離れた場所にてご避難をいただいております』 隊員: 『この騒ぎがあのお方のお耳に入ることは、おそらくないものと考えて差し支えありません』 入江: 『……そうですか。罪と知った上でその罰を受ける覚悟を持つ身と、無知が故に罪と罰を意識することもないまま天寿を全うする者……』 入江: 『そのどちらが幸せなのか、神ではない私にはその判断はつきかねるところですね……』 梨花: …………? いったい彼らは、何を喋っているのだろう。その内容を確かめようと、私はベッドから降りるべく体勢を変えて――。 梨花: ……っ……? 強引に向きを変えたせいで、私の頭に繋がっていたコードの1本が外れ……突然室内に、警報音ががなるように鳴り響く。 梨花: な……なんなの、これ……はっ……? そう言葉に出した次の瞬間、私の意識は急速に遠のいて……。 やがて世界は、再び闇に閉ざされていった。 Part 02: …………。 暗闇に覆われた視界が徐々に明るさを取り戻し、意識が私のもとへ帰ってくる。 梨花(私服): ……っ……。 青空がいっぱいに広がる中、まぶしく地上を照らす太陽。周囲の空気はやや暑さを伴って流れ、どこからともなく響き渡る蝉の鳴き声がやかましい。 手足の肌には、ちくちくとしながらも柔らかくて少し湿った感触。……どうやら私は、芝生の上で大の字になって寝転がっていたようだ。 梨花(私服): ここは……古手、神社……? もうすっかり見慣れた場所なので、すぐにわかる。そして、少し離れたところに#p雛見沢#sひなみざわ#rを一望できる展望台があるのが目に映った。 梨花(私服): …………。 寝起きのようにおぼろげな気分のまま、立ち上がった私は展望台へと足を向ける。 眼下に広がる光景は、もう数え切れないほど眺めてきたふるさとの光景だ。 ただ、どれだけ年月を経ようとも愛着だけは全く変わらない……自分にとっては誇らしく、そして大切な宝物だった。 梨花(私服): さっきのは、夢……? それとも……。 夢にしてはリアルすぎる上、やけに色濃く記憶として残っていることに違和感を覚えながら……私は大きく、ため息をつく。 そして、脳裏に浮かんできた自分のおぞましく痩せ衰えた姿に怖気を抱き……なんとか忘れようと激しく首を振り続けた。 沙都子(私服): あら……梨花? と、背後から聞こえてきた声に反応して私は振り返る。そこには太陽に負けないほどまぶしくて愛らしい、沙都子の姿があった。 梨花(私服): 沙都子……っ……。 なぜだろう。毎日のように家族同然で顔を合わせてきたはずなのに……彼女を見た途端、懐かしさにも似た思いで泣きたくなる。 というより、本当に感情が高ぶって嗚咽がこみ上げ……少し涙をこぼしてしまった。 沙都子(私服): ど……どうしましたの、梨花っ?何か嫌なことでもありまして?! 梨花(私服): みー……そうではないのです。ただ……。 梨花(私服): 怖い夢を見てしまったのです。それで……。 沙都子(私服): 夢……ですの?もしよろしければ、話してくださいまし。 その言葉に安らぎを覚えて……私は、さっき見た「夢」の話を語る。 …………。 沙都子は時折怪訝そうな表情をしたものの、最後まで私の話を黙って聞いてくれた。……それが私にとって、とてもありがたかった。 沙都子(私服): なるほど、そんな夢を……。確かに、突然自分が寝たきり状態になったとしたらパニックになっても当然ですわね。 梨花(私服): ……みー。夢にしては現実味がありすぎて、とても恐ろしかったのです。 梨花(私服): 現実ではないものを怖がるなんて、情けないと自分でもわかっているのですよ。でも……あの夢は……。 沙都子(私服): 現実だったかもしれないから……恐ろしい。きっと、あなたの中にその実感があるのでしょうね。 梨花(私服): えっ……? その言葉に違和感を覚えた私は、改めて沙都子に目を向けて……はっ、と息をのむ。 すると彼女は、感情を消した表情でこちらを見据えながら静かに口を開いていった。 沙都子(私服): ……ところで、梨花。あなたは『胡蝶の夢』というものをご存じでして? 梨花(私服): みー? 一応、知ってはいますが……それが? 沙都子(私服): 以前、美雪さんから教えていただきましたのよ。夢の中だと蝶であったその人は、人間であることが本当に現実なのか、夢なのかわからなくて……。 沙都子(私服): その2つを区別する、確証のようなものをどうやったら手に入れることができるのか、その方法を追い求めていたそうですの。 沙都子(私服): そして考えて、考えて、考え抜いた結果……。 沙都子(私服): 今の現実を信じられるか、それとも疑うか……その認識ひとつで世界は一変するのだという結論に至ったとのことですわ。 梨花(私服): ……っ……。 沙都子(私服): だから……梨花? あなたがその夢を現実に近いと思えば思うほど……ひょっとすると現実との境が曖昧になるのかもしれませんわね。 梨花(私服): っ……沙都子、怖いことを言わないでくださいなのです。 梨花(私服): ボクは、あの夢を現実だなんて認めたくはないのです!いつまでも沙都子たちと一緒に、ずっと……! …………。 梨花(私服): えっ……沙都子……? 沙都子っ……?! そう叫んでうつむき、再び顔を上げると目の前に立っていたはずの沙都子の姿が……跡形もなく消え失せていることに気づく。 いや、それだけじゃない。周りに見えていた木々も、芝生も……空さえも色あせて……輪郭を失って……。 梨花(私服): あ……あぁぁっ……?! またしても「世界」は、私の意識を飲み込んで闇へと閉ざされていった……。 Part 03: 梨花(私服): ……っ……? ……意識を取り戻した時、私の身体は激しい振動に揺さぶられていた。 地震……? いや、これは機械的な振動だ。つまり私は、乗り物の中に寝かされてどこかへ運ばれようとしているのか……? 入江: ……おや、気がつかれましたか? 闇に閉ざされた視界の中、聞き慣れた声を感じた私は反射的に目を開ける。 急に光が飛び込んできたので、目がくらみそうになったけれど……それでも視界に映ったその顔は見間違えることなく「彼」のものだった。 梨花(私服): い、りえ……っ……? 入江: ほぅ……? これは驚きました。3年前に一度顔を合わせただけの私のことをよもや覚えておられるとは……。 梨花(私服): 3年、……前……? 全身に力が入らないせいか、私は情けないくらいにオウム返しでしか会話を続けることができない。 しかし、そんな私の惨めな心境などどうでもいいかのように入江は酷薄な笑みを浮かべ、私を楽しげに覗き込みながら言葉を繋いでいった。 入江: とにかく、意識を取り戻されたのは何よりです。……古手梨花さん。あなたにはこれから、この世界を統べる「救世主」になっていただきます。 梨花(私服): なん、ですって……? 台詞を繰り返すだけになるのは御免だという意地から、私はなんとか文言を変えて彼の顔を見る。 ……至近からまじまじと観察したことで、気づいた。これは入江であっても、「あの」入江じゃない。 私のよく知る彼は、やや気弱で小心ながらも慈愛に満ちた人だった。物事を真剣にとらえて、常に相手を思いやった言動を心がける……。 こんなふうに、子どもを小馬鹿にした……いや、むしろ虫けらでも見るように蔑んだ目を向けるような人では決してなかった。 いったい、彼の身に何があったというのか?わからない、私にはさっぱりわからない……! 入江: そういえば眠っている間、ずいぶん必死に沙都子さんの名前を呼んでおられましたね……。 入江: 失礼ですが、古手梨花さん。あなたはいつから、そんなに彼女のことをご存じだったのでしょう? 入江: あなたをここの病室でお預かりするようになったのは、もう3年も前のことになります。その頃はダム戦争でまだ村が真っ二つになって憎み合い、衝突して……。 入江: 特に反対派の御三家と、賛成派のリーダー格である北条家との対立は激しいものでしたので……あなたたちは、さほど仲良しではなかったはずです。 入江: にもかかわらず、梨花さん。どうしてあなたは、沙都子さんのことをそんなにも求めたのです? 梨花(私服): ……っ……?! あぁ……そうか。要するに今の私は、そういう『カケラ』に移動したということだろう。 沙都子とは接点のない……羽入もいない、間違いなく最悪で、最低の世界。 そして入江は、まるでかつての※※のように研究にしか興味を持たない、狂気に満ちた人間となって私のことを実験動物のように扱っている……。 梨花(私服): ……夢を、見たのよ。 だから、……答えた。もはや取り繕う余裕も隠し事をする必要も感じられず、投げやりに私は言葉を繋いでいった。 梨花(私服): 私と沙都子が、一緒に暮らしている夢よ。何もないけど、平和で、穏やかで……幸せに満ちた世界だったわ。 梨花(私服): もちろん入江、そこにはあなたもいた。あなたは誰に対しても優しくて、真摯で……医者としての職務を真面目にこなす人だった。 梨花(私服): ……今のあなたとは、似ても似つかない顔。いえ、もはや別人と言っても差し支えないでしょうね。 入江: ははは……これはなかなか辛辣なことを。ですが、職務に真面目であることについては今の私も、そう変わりはないと思いますよ。 入江: まぁもっとも、それは医師としてではなく研究者としてかも知れませんがね……。 梨花(私服): ……だから、別人だって言ったのよ。そもそも、私の知るあんたは――、っ? 力の続く限り、思い切り罵ってやろうと息を深く吸い込んだ次の瞬間……突然がくん、と揺れて車が停止する。 その衝撃のあおりで座席から落ちかけ、痛みと苦しさで思わずうめき声を上げたが……入江はそんな私を見ても、一顧だにしなかった。 入江: どうしました……?急に停まって、何か前方にありましたか? 隊員: 入江二佐。村人の一部がこちらの進路に侵入して立ちふさがっているようです。……どうしますか? 入江: 面倒です。そのまま車で轢いて、跳ね飛ばしなさい。 入江: あぁ……でもそれだと、車が傷ついて故障の原因になってしまいますね。それはあまり、よいことではありません。 梨花(私服): ……っ……! ……さらに確定だ。もはや私のそばにいるこの男は、入江ではない。彼の皮を被った狂人……いや、悪魔だ……! 入江: 仕方ありません……梨花さん。さぁ、腕を出してください。あなたの血、少しだけお借りします……。 梨花(私服): ……っ、ぐ……っ! すると、私の同意を求めるよりも早く入江は鞄の中から注射器を取り出して私の腕にずぶり、と針を突き刺す。 痛みはそれほど感じなかったが、急に血を採られたことで意識がわずかに遠のくのを覚えて……そして……。 梨花(私服): なっ……? 信じられない光景を見せつけられた私は、思わず息をのんで目を大きく見開く。 ポケットから黒い「カード」のようなものを抜き取った入江が、その表面に私から採取した血液を何滴か垂らして窓の外に放り投げると……。 それは瞬く間に闇をまとった塊へと膨れ上がり、異形の姿をした「怪物」へと変化していった……! 梨花(私服): あ……あれは、いったい……?! 入江: ……『ウツシロ』ですよ。といってもあなたは、その名を教えたところでどういうものかは想像もつかないと思いますが。 そう語る彼の目前で、怪物は奇声を上げながら群がる人々に襲いかかっていく。 暗がりに包まれる中、まるでゾンビのようにわらわらと押し寄せてくる村人たちの姿にも恐ろしさを感じたが……。 それ以上に、彼らを羽虫のごとく払って食いちぎり、次々に容赦なく屠っていく怪物の残酷な振る舞いに……私は吐き気を覚えずにはいられなかった。 入江: ははは……素晴らしい、実に素晴らしいッ!!古手梨花の血を用いれば、このような奇跡も現実のものにできるとは……!! 入江: やはり、あのお方は正しかった!この術をさらに確立すれば、私たちは新たな生命の誕生を実現……! 入江: いや! 神による創世さえも可能となる!選ばれし者のみが存在し、真に平和な世界が夢から現実となるのです……ッ!! 梨花(私服): ……ふざけないで。そんなものを現実にして、たまるものか……ッ! そう言って私は、懸命に身体を引きずって車のドアを開け……外に転がり落ちる。 梨花(私服): ぐっ……? 地面に身体をぶつけた衝撃で激痛が迸り、思わず泣きそうになったが……それでも私は、必死に車から離れようとした。 入江: ……困ったお方だ。そんな痩せ衰えたお身体で、どこに逃げようというのです? 入江: あなたにできることは、私たちのために生きることです。そして新たな世界の神として、君臨していただきます。 入江: さぁ、お戻りください。そして自らに課せられた運命に従うのです……! 梨花(私服): 神……か……。そういう生き方も、何かの刺激になるかもね。でも、だったら……! 梨花(私服): 自分の死に場所くらいは、自分で決めさせてもらうわッッ!! そう、叫んだ次の瞬間……。村人たちを食らい尽くした怪物が、こちらへと向かってくる。 次は私を食うつもりか、と思わず身構えたが……それは私を通り過ぎ、背後にいる入江たちへと襲いかかった。 入江: なっ……? 馬鹿な、そんなことっ――?! その言葉を最後に……彼の声は、聞こえなくなる。そして――。 梨花(私服): ……ぁ……? 不思議なことに、痩せ細り骸骨同然だった私の身体が……記憶の中にあった元の姿に戻っていることに気づく。 さらに、這うだけで精一杯のはずの力が急に身体の中で膨れ上がり……自然に二本の足で立てるまでになっていた。 梨花(私服): っ……どういうこと?これって、いったい……?! 一穂: ……おめでとう。梨花ちゃんもついに、その力に気づいたんだね。 梨花(私服): えっ……?! 聞き覚えのある声……そして、長らく抱き続けてきた違和感をまとった「彼女」の気配を感じて、私は振り返る。 すると、果たしてそこには「彼女」がにこやかに……そして妖しく笑いながら、こちらへ手を差し伸べる姿が見えた。 一穂】: さぁ……始めよう。あなたのその力が、私には……ううん、私「たち」には必要なんだよ。 一穂: ……大丈夫。必ず終わらせるから。こんな悪夢のような「世界」は元々、存在しちゃいけなかったんだ。 一穂: だから……信じて。あなたたちが守りたかったものはきっと、私が取り戻してみせるから……。 梨花(私服): ……っ……。 甘美で優しげなその声の響きを聞きながら……吸い寄せられるように、「彼女」へと歩み寄る。 そして、背後から警鐘を鳴らし続ける何かの意思を理解しながらも私は、差し伸べられた手に恐る恐る自分の手を伸ばして……そして――。