Part 01: 沙都子(私服): ……梨花、羽入さん。そろそろ#p綿流#sわたなが#rしに向けて、私たちも諸々準備をしておかなくてはいけませんわ。 梨花(私服): はいなのです。ボクの奉納演舞の稽古は今のところ順調なので、当日は楽しみにしていてくださいなのですよー。 沙都子(私服): えぇ、もちろん。梨花ならきっと、立派に成し遂げてくれるものと期待していましてよ……って、そうではなく。 沙都子(私服): お祭りとくれば、当然様々な屋台がたくさん立ち並ぶことになりますわ。となるとやはり、行われるのは……。 梨花(私服): みー。もちろん魅ぃたちと一緒に、屋台巡りをしながら部活対決なのですよ~! 沙都子(私服): その通りですわ!今年はひぃふぅみぃ……全員参加すれば、10名。となると、題して『十凶爆闘』ですわね。 沙都子(私服): そこで高得点を挙げ、立ち塞がる強豪を退けて上位に見事ランクインするためにも……対策を講じておくべきだと考えましたのよ。 羽入(私服): あぅあぅ……沙都子の言う対策とは、具体的にどんなことをやればいいのですか? 沙都子(私服): そうですわね……種目として中心になるのはやはり早食いと大食い、それと面白食い。 沙都子(私服): それらをいかに負担なく、他の方々よりも好成績でクリアするか……今から3人で検討しておくべきですのよ。 羽入(私服): あぅ……?早食いと大食いはともかくとして、面白食い?それはいったい、どういう食べ方なのですか? 沙都子(私服): TV番組などでよく見かける、アピール重視の食事対決ですわ。 沙都子(私服): たとえば、ラーメンの中にケーキを入れてペロリと完食してしまうとか……。 梨花(私服): ……実においしくないのですよ。 沙都子(私服): あら、意外と新しい味の発見などができて楽しいかもしれませんのよ?……私は断固、ご遠慮させていただきますけど。 羽入(私服): あぅあぅ、僕だって見えている地雷を自分から踏み抜くのは御免なのですよ~。 沙都子(私服): あとは……そうですわね。食べ物対決の他、射的やくじ引きなどについてもどう立ち回るべきか考えておくべきでしてよ。 沙都子(私服): それと、あいにく前回は見かけませんでしたが輪投げなどの練習も……。 羽入(私服): あぅあぅ、前回……?沙都子は去年の綿流しで屋台巡りをしたことを覚えているのですか? 沙都子(私服): をーっほっほっほっ、当然ですわ!まだ圭一さんや一穂さんたちはいなくとも、魅音さんたちのおかげで楽しめましたもの♪ 羽入(私服): 楽しんだ……?あぅあぅ、本当に去年は楽しかったのですか?だってあの時の沙都子は、確か――。 羽入(私服): ……って、ふぎゃああぁぁぁああぁっっ?! 梨花(私服): みー……ごめんなさいなのです、羽入。小腹が空いたので、食べ残しのキムチをついつい一気食いしちゃったのですよ。 羽入(私服): き、キムチは小腹が空いた時に食べるようなものではないのですよ……がくっ。 沙都子(私服): ?……なんだかよくわかりませんけど、2人はお腹がお空きになったんですの? 沙都子(私服): でしたら羽入さん、何か簡単なものを作って差し上げますわ。梨花と一緒にそこで待っていてくださいまし。 羽入(私服): あ、ありがとうなのです……。やっぱり沙都子は優しくて気が利くので、僕は大好きなのですよ~……。 梨花(私服): ……みー。だとしたら気の利かないボクは、ここでひたすらキムチを食べまくるのです。もくもぐ。 羽入(私服): ほんぎゃぁああぁあぁっっ?ぼ、僕は梨花が鬼とか悪魔とかだなんて、全く思ってなんかいないのですよ~?! 梨花(私服): 本音が出ているのですよ、羽入。キジも鳴かずば撃たれまいに……むしゃむしゃ。 羽入(私服): や、ややや、焼ける焼けるっ?口の中が大火事で大惨事なのですよぉぉぉお?! 沙都子(私服): 相変わらず2人とも、楽しそうですわね……っと。よく見たら調味料がいくつか切れていましたわ。 沙都子(私服): ちょっとひとっ走りして買ってきますので、梨花と羽入さんは待っていてくださいまし。 梨花(私服): 行ってらっしゃいなのですよ、にぱー☆ …………。 羽入(私服): あ……あぅあぅ……いきなり酷いのですよ、梨花ぁ……! 梨花(私服): ……それくらいの罰は当然よ。まさか沙都子に去年の話題を振り向けるなんて……危うく嫌な記憶を思い出させるところだったわ。 梨花(私服): あの子が去年の綿流しの前後にどれだけ苦しんだのか……あんただって私と一緒に見てきたんだから、よく知っているはずでしょう? 羽入(私服): も、もちろん覚えていますし、僕だって去年の綿流しのことを持ち出すつもりは全然なかったのですよー! ただ……。 梨花(私服): ただ……なによ?沙都子の言動に、何か気になることでもあったの? 羽入(私服): ……本当に気づいていないのですか、梨花?沙都子はさっきの会話で、去年の綿流しが「楽しかった」と言ったのです。 羽入(私服): そんな感想、たとえお世辞であっても沙都子の口から出てくるはずがないのですよ……! 梨花(私服): あっ……?! Part 02: 昭和57年、6月20日――。 「あの子」の憔悴した表情は、今もなお思い出しても痛々しくて……胸が締めつけられるものだった。 魅音(私服): へーぃ、親父ぃ! 今年も来たねぇ!また根こそぎかっさらっていくから覚悟しときなよー! 屋台親父: がっはっは!園崎のお嬢ちゃんは今年も元気がいいなぁ! 屋台親父: ……おっ?そっちの子は新顔かい? 魅音(私服): ふふ~ん、この子はね、竜宮レナ。こう見えても結構やるよー?! レナ(私服): あはははは……そ、そんなことないよ。よろしくお願いしますね! 屋台親父: おぅ! こっちこそよろしくなぁ!今年もいろいろ景品を持ってきたんだぜ!もちろん真剣勝負だ!! 屋台親父: 根こそぎ持っていけるもんなら、どーんと持ってけってんだぁ~! 梨花(巫女服): みー……レナは、かわいいものを見ると普段の何倍にも増して強力になるのですよ。 魅音(私服): あー、あのぬいぐるみとそっちのぬいぐるみはレナの好みだねぇ。 レナ(私服): わ、わ、わ?! レナ(私服): はぅ~!! かぁいいねぇ?!おもおも、お持ち帰り~!! 屋台親父: だだ、駄目だよ、まだ準備中だよー!!わ~~!! 魅音(私服): あっはっはっは!! レナ、だめだめ。まだ準備中だってさぁ。 魅音(私服): その代わりちゃんと開店したら、根こそぎさらってやりなー! レナ(私服): はぅ~~、もうダメだよレナのものなんだよー!お持ち帰り~~! レナが元気そうにはしゃいでいる様子を見て、居合わせた人間たちはみんな大笑いした。 ただ……その賑やかな中にあっても、沙都子はつられて笑い出しはしなかった。 沙都子だけは、瞳を曇らせたまま……この輪に加わる資格がないかのように、少し外れてひとりぽつんと立っていた。 梨花(巫女服): ……み~☆ そんな様子を心配した私は、満面の笑みを浮かべながら沙都子にすり寄った。 沙都子(私服): っ……な、なんなんですの……梨花。 梨花(巫女服): ……今日は何も考えなくていいのですよ。いっぱい楽しく過ごしましょうなのです。 沙都子(私服): …………。 沙都子は再びうな垂れると、私から目をそらす。 今日だけを楽しく過ごしたって。……今ある辛い現実、家庭環境から解放されるわけじゃない。 梨花(巫女服): ……沙都子。意地悪な叔母さんは、今日のお祭りには来ませんですよ。 沙都子(私服): そ、……そんなことはわかってますわ。 梨花(巫女服): ……なら、いっぱい笑って、いっぱい楽しくなるのですよ。にぱ~~☆ 沙都子(私服): …………。 梨花(巫女服): ……にぱ~~☆ 沙都子(私服): …………。 梨花(巫女服): ……にぱ~☆ 沙都子(私服): あ、……生憎ですけど、……そういう気分になれませんの。申し訳ございませんけど、……放っておいて下さいませ。 梨花(巫女服): ……どうして、沙都子は笑いませんですか? 沙都子は一瞬、むっとした表情でこちらを睨むように見つめ返してきた。 そんなこと、今さら私の口から言わせなくとも知っているくせに……そんな思いが無言でも伝わってくる。 今日だけ笑ったって、楽しんだって……あの意地悪な叔母が家で待っている。 その事実がある以上、祭りが終われば容赦なく現実に引き戻される。 この時間が楽しいほど、その分の落差が生まれる。そして絶望も、辛辣なまでに大きくなる……。 そんな現実を理解しながら、どうして今だけ笑えと……? 梨花(巫女服): ……では沙都子。沙都子の辛いのが、今日でおしまいになるなら、笑ってくれますですか…? 沙都子(私服): ……っ……。 はっ、と沙都子は一瞬息をのむような表情になったが……すぐにその顔には、影が落ちていく。 おそらく、私が何か救いの手を差し伸べてくれると思ったものの、あり得ないと否定したのだろう。 ……当然だ。この時点で私は、沙都子の信頼を得ていない。そして、仲良くも……ない。 そんな人間が、どうやって自分の不幸を取り除くというのだ?何のために? 何を根拠として? ……そんな疑いを持って、当然のことだ。彼女の胸の内は手に取るように理解できる。 沙都子(私服): 梨花。下らない気休めは聞きたくないですわ……。 梨花(巫女服): ……沙都子。 だけど、なおも信じようとしない沙都子に私は口調を強め……きっぱりと言った。 梨花(巫女服): ……もう決まっていることなのです。 沙都子(私服): は……?何が決まっていると言うんですの? 梨花(巫女服): ……。もう、決まっていることなのです。 それだけを伝えて、私はくるりと踵を返す。 梨花(巫女服): (……こう言われたところで、沙都子の心を癒やすことはできないだろう。だけど……) せめて、事実だけは伝えておきたかった。その後に待ち受けている喪失……そして、新たな「世界」に向けた挑戦のためにも――。 Part 03: 魅音(私服): さぁ! 早食い、大食いと続いてそろそろお腹もパンパンになって苦し……もとい、勝負も佳境に入ってきたわけだが! 魅音(私服): みんな、まだまだ力は有り余っているかー?! 一同: 「「おおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉっっ!!」」 魅音(私服): 続いての競技も、食べ物対決で全力を出し切るだけの余力はあるかー?! 一穂(私服): おーっ!!……って、あれ? 一同: 「「…………」」 美雪(私服): んー……なんだかんだで、結構食べたしね。頑張っても、次くらいでもう十分かな……。 菜央(私服): ……あたしはそろそろ限界かも、かも。 圭一(私服): うっぷ……俺もだ。やっぱかき氷の早食いで、金魚すくいの水を氷溶かすのに使ったのがよくなかったぜ……。 レナ(私服): はぅ……大丈夫、圭一くん?お腹が痛いんだったら、救護テントから監督を呼んでくるけど……? 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!圭一さんの胃袋なら、きっと大丈夫ですわ。ですわよね、圭一さん……? 圭一(私服): ぎゅ、ぎゅおおぉぉぉおおおっっ?こ、ここで腹を押さえてくるのはやめろぉぉ?! 沙都子(私服): あらあら、どうされましたの……?ちなみに、ここでリバースなんてことになったらこれまでの得点は全て没収でしてよ……? 羽入(私服): お、鬼なのです……!ここには、ホンモノの鬼がいるのです……! 魅音(私服): よーし、みんなの状態はわかった!じゃあここはひとつ、趣向を変えてゲーム対決と行こうじゃないか! 一穂(私服): えぇっ?せ、せっかく調子が出てきたのに……! 詩音(私服): まぁ、一穂さんのお気持ちはわかりますがこれ以上は皆さんのお腹がもちませんしねー。……かくいう私も、もう勘弁って感じです。 美雪(私服): 序盤の段階で突き放しておくべきだったねー。……ご愁傷様、一穂。 魅音(私服): そんなわけで、対決する種目を選ぶよ!次は……あの射的だぁぁぁ!! 詩音(私服): えっ……?ちょっとお姉、あれって園崎組の構成員が仕切っているやつじゃないですか。 魅音(私服): その通り! まぁ、たまたま私の知人がたまたまどんな的を持ってきたのか、そしてどこを攻略すれば落ちるのか……。 魅音(私服): 全てをたまたま教えてくれたっていう偶然というか幸運があったんだけどね~?くっくっくっ……! 詩音(私服): ……そんなに「たま」がいっぱい出てきたらパチンコ屋だと叩き出されて出禁ですよ、お姉。 美雪(私服): おぅ……魅音、それはないんじゃない?コミッショナーが内部情報を入手済みなんて、さすがに反則だと思うんだけど。 魅音(私服): 問題なし!会則第2条、勝利のためならあらゆる手段と努力が許される、ってやつだよ~♪ 菜央(私服): ……微妙に書き方が変わってるわね。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!魅音さんがそう言うのでしたら、私も遠慮なく「対策」を披露させていただきましてよ~! 圭一(私服): おい沙都子、対策って……何をやってきたんだ? 沙都子(私服): 『彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず』……とくとお目にかけて差し上げますわ。 沙都子(私服): では、まいりましてよ……そらそら、そらぁぁっ! レナ(私服): は……はぅぅぅううっっ?さ、沙都子ちゃん……あんな大きな置物を連続射撃で撃ち落としちゃった……?! 魅音(私服): え……えぇぇえぇえぇっ?あ、あの置物は射的のコルク弾だと軽くて絶対落とせないはずなのにぃぃっ?! 美雪(私服): ……んー、やるねぇ沙都子。空気銃のコルク弾だと、銃口への装填で大幅なタイムロスが発生するけど……。 菜央(私服): その時間を短縮するためあらかじめ弾を3つの空気銃に仕込んで、発射してすぐに持ち替えて連続発射を実現したってわけね。 圭一(私服): 1発の射撃だと弱くても、3発連続ならそれなりに威力が増す……ナイスな作戦だぜ、沙都子! 詩音(私服): おやおや……くっくっくっ!あれだけの大物を撃ち落とされたんじゃこの勝負は沙都子に軍配ですねー、お姉。 魅音(私服): くっ……次だ、次!その隣の屋台の、輪投げなんてのはどう? 魅音(私服): これは去年はなかったやつだから、さすがに対策はしてきていないでしょっ? 沙都子(私服): ……をっほっほっほっ!では魅音さん、ここはひとつ私と一対一で勝負してくださいませんこと? 沙都子(私服): もし私が負けたら、今までの得点は全て魅音さんにお渡ししますわ。その代わり、私が勝ったあかつきには――。 魅音(私服): くっくっくっ……いいよ、乗ってやろうじゃん!あとで吠え面かいても知らないからねー?! 魅音(私服): う……うああぁぁぁああぁぁっ?なんで、どーして?!沙都子、あんたまさかぁぁぁあ?! 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!当然この展開も想定して、万全の練習を重ねてまいりましたのよ~! 沙都子(私服): さて……残るはあと1つ。私の勝ちは揺るぎませんけど、完全勝利というのもある意味で武士の情けというものですわね……っ? 魅音(私服): や……やめろおおおぉぉぉおおおっ?武士の情けどころか、完全に死体蹴りじゃんか?!敗者をオーバーキルして楽しいかぁぁあっ?! 沙都子(私服): えぇ、最っっ高ですわー!!というわけで、……いただきますわー! 魅音(私服): ふ……ふふふ、ふぎゃぁあぁぁああっっ?! 一穂(私服): た……楽しんでるね、沙都子ちゃん……。 …………。 羽入(私服): あぅあぅ……梨花。やはり沙都子は、1年前の#p綿流#sわたなが#rしのことを覚えていない様子なのです。いえ……。 羽入(私服): 正確には、1年前の記憶が別のものに差し替わっている可能性があるのですよ。 梨花(巫女服): そう。……具体的には、どう変化しているの? 羽入(私服): これは、魅音たちにそれとなく聞いて確かめたことなのですが……。 羽入(私服): まず、沙都子は去年の綿流しよりも早期に僕たちとの同居を始めているようなのです。 梨花(巫女服): 早期って……どれくらい早まっているの? 羽入(私服): どうやら、沙都子のご両親がいなくなった2年目の『#p祟#sたた#rり』の直後にそうなったようです。 羽入(私服): だから、祭りが終わってからも北条鉄平夫妻のもとへ帰る必要は全くなく、酷い仕打ちに意識を向けなくてもいい……。 羽入(私服): それくらいに気持ちが吹っ切れて、整理ができている心理状況だったようです。 梨花(巫女服): ……。だとしたら、4年目の『祟り』はどうなっているのよ? 犠牲者は鉄平の妻と、「彼」じゃなくなっているの……? 羽入(私服): いえ、それは僕たちの知る通りのままです。北条玉枝は綿流しの夜に何者かの手で惨殺され、同時に悟史も行方不明になっています。 羽入(私服): にもかかわらず、沙都子はその件についてショックを受けた様子がありません。綿流しの夜に起きた事件のせいで、兄が失踪したのに……。 梨花(巫女服): あえて強がっている……ようには見えないわね。いったい、どうなっているの……? 羽入(私服): …………。 沙都子(私服): をーっほっほっほっ!さて、続いての対決は……? 魅音(私服): も……もう、降参です。お代官様、どうかお慈悲をぉぉぉ……?! 沙都子(私服): 何を言っているんですの、魅音さん!まだまだ宴もたけなわ、どんどん攻めて攻めて攻めまくりましてよ~!!