Part 01: 圭一(私服): なぁ、菜央ちゃん。『不思議の国のアリス』って、結局どういう物語だったりするんだ? 菜央(私服): どうしたの、藪から棒に。何か気になることでもあったのかしら? 圭一(私服): あ、いや……少し前に遊園地でパレードをやった時に、菜央ちゃんたちがアリスのキャラに扮していたよな?確か菜央ちゃんが帽子屋で、アリスは……。 菜央(私服): アリスは一穂ね。ちなみに美雪は時計ウサギよ。 圭一(私服): …………。 圭一(私服): アリスって、千雨ちゃんじゃなかったか? 菜央(私服): もう、何を言ってるのよ。千雨があんな格好をしろって言われて、素直に従うわけがないじゃない。 圭一(私服): ……確かにそうだよな。なのに、どうして俺は千雨ちゃんがアリスを演じていたって思ったんだろう……? 菜央(私服): あたしに聞かれてもね。ちょっとした記憶違いとか……かしら? 圭一(私服): だよな。……まぁそれはさておき、よくよく考えたら俺って『アリス』のキャラは知っていても、物語自体はよく知らないんだよ。 圭一(私服): えーっと……確か魔法使いに会って願い事を叶えてもらうために旅をする、ってお話だったっけ? 菜央(私服): それは『オズの魔法使い』。主人公が女の子ってだけで、2つの作品がごっちゃになってるわよ。 圭一(私服): ははっ、悪ぃ。……けど、俺はもちろんだが#p興宮#sおきのみや#rのクラスの連中に聞いても、『アリス』ってあまり印象に残っている感じじゃなくてさ。 圭一(私服): なのに、長い間ずっと名作として残り続けている……これってどうしてなんだろう、って思ったんだよ。 菜央(私服): 言われてみれば、確かにそうね……。シェイクスピアみたいに物語を構成する要素を詰め込んだ、感動的なオチ付きの作品じゃない。 菜央(私服): むしろ、展開としては行き当たりばったりというか……結末がアリスが見ていた夢だった、と聞いたことで妙に納得したことを覚えてるわ。 圭一(私服): だな。夢ってのは筋書きを追いかけるだけで伏線やそれの回収といった展開じみたものはないから、目覚めた時には印象に残らない。まさに『アリス』だ。 圭一(私服): にもかかわらず、本を読まないやつまで『アリス』のキャラクターは知っているほど作品自体は有名って……なんか不思議だよな。 菜央(私服): うーん……。 千雨: ……どうした、2人とも。図書館の前で頭を抱えて、何をうなってるんだ? 菜央(私服): あ……いいところに!ねぇ千雨、バトル系やスポーツ系以外の質問で申し訳ないけど……聞いてもいいかしら? 千雨: ……人を筋肉バカみたいに、そっち系以外は何も考えたことが無いように決めつけるな。……で、何の話だ? 菜央(私服): 実は……。 千雨: ふむ……なるほどな。私も以前、2人と同じ感想を持ったことがあって母さんに聞いてみたことがあったよ。 千雨: 餅は餅屋、本のことはその専門家に聞くのが一番早いって思ったからな。 圭一(私服): ? 千雨ちゃんのお母さんって、そういった物語とかに詳しかったりするのか? 菜央(私服): あら、言わなかった?意外かもしれないけど千雨のお母さんって、図書館の司書さんなのよ。 圭一(私服): おぉ……! ってことは、本のプロと言っても間違いないってわけだな? 圭一(私服): 確かに武闘派、肉体派のイメージが強い千雨ちゃんのお母さんが文学系ってのは……意外というか、突然変異って気がするぜ。 千雨: ……悪かったな。どうせ私は、本を読むよりも引き裂くことが得意そうに見える女だよ。 菜央(私服): いや、そこまでは言ってないけど……できるの? 千雨: ノーコメントだ。……で、話の続きだが。 千雨: 母さんの話によると……『不思議の国のアリス』は教訓的な内容が含まれない、当時は画期的な作品として人気を博してたらしい。 圭一(私服): 教訓的な内容……って、どういうことだ? 千雨: いわゆる、道徳というやつだな。悪いことをしたらいずれ罰が当たるとか、いいことをしたら報われるとか……。 千雨: 『アリス』以前の子ども向けの作品には、そういった教育的な要素が含まれているのが通常というか、必須事項だったらしい。 千雨: まぁ、童話ってのは情操教育の教材として使われることが多いから、致し方ないと言えばその通りなんだろうが……。 千雨: 子どもってのは、説教臭い話になると逆に興味を失ったりするもんだ。……実際、2人だってそう思うだろう? 菜央(私服): えぇ、わかるわ。あたしも、教訓とか勉強とかを抜きにしてただ物語を楽しみたい時があるしね。 圭一(私服): へへっ、だよな。ギャグマンガなんて、頭を空っぽにげらげら笑うものじゃなきゃ面白くないって。 千雨: ……で、これは母さんの立てた推論だが。固定されたテーマ性がなく、解釈自由なお話だからこそキャラクターに対して各々の印象が違ってくる。 千雨: たとえば時計ウサギにしても……人によっては優しい性格だと感じたり、あるいは逆にそそっかしく落ち着かないやつだという印象を持ったりしてな。 千雨: さらに愛着だの、想像だのが入り込むから……時代や読む人のニーズによって『アリス』は、様々な形態へと変わり、マスコット化されていく。 千雨: 加えて『アリス』には時代性が含まれてないこともあって、物語がいつまでも古臭さのないものとして現代まで語り継がれてきた……らしいぞ。 圭一(私服): な、なるほどな……。やっぱり本のプロともなると、分析の着眼点がなんか理論的な感じで、すごくためになるぜ。 菜央(私服): 本当ね。あたしも今の話を聞いて、すごく勉強になったかも……かも。 千雨: で……前原。菜央ちゃんたちが『アリス』の衣装でパレードに参加してたってことはともかく、どうしてその話題を持ち出すことになったんだ? 圭一(私服): あぁ、実はさ……。 Part 02: 圭一(私服): えっ……? 俺も菜央ちゃんたちと一緒に、『アリス』のキャラクターになって遊園地のパレードに参加しろってのか? 魅音(私服): 頼むよ~、圭ちゃん! この前やった仮装パレードが、ニュースになるくらい大好評でさ~! 魅音(私服): 特に、『アリス』衣装が可愛いから土日限定でもやってくれ、って要望が事務局の方にものすごく集まっているんだよ……! 圭一(私服): で、せっかくだからもっとキャラクターを増やして定番化したい……ってのは、まぁ理解できたぜ。 圭一(私服): けど、それだったら俺みたいな素人じゃなくてちゃんと劇団の俳優を雇ったほうが絶対いいと思うんだが……何があったんだ? 魅音(私服): いや……その、説明すると長くなるからかいつまんで言うと、早い話が……。 詩音(私服): お姉の発注ミスです。 魅音(私服): っ、し……詩音んんっっ?! 詩音(私服): それ以外に説明しようがないじゃないですか。他の『アリス』のキャラクターはまぁ……美雪さんたちに土下座で頼んでゴニョゴニョしてもらうとして。 詩音(私服): 今回から追加されたトランプ兵の衣装が、男しか着ることができない寸法になっていましてね。他に頼れる人がいないんですよ。 圭一(私服): ゴニョゴニョって……詩音。まさかとは思うが、美雪ちゃんたちの方もこれから頼む気だとか言わねぇよな……? 詩音(私服): ……暗い話題が続きましたね。では、次は今日行われたスポーツの結果です。 圭一(私服): いきなりニュースキャスターになってごまかすんじゃねぇっ!てか、いい加減美雪ちゃんたちも怒ると思うぞ?! 魅音(私服): 頼むよ~、圭ちゃん!バイト代ははずむし、なんだったらエンジェルモートのデザフェ招待券も山ほどあげるからさ~! 圭一(私服): いや……悪いが、その招待券は俺の机の中ですでにぎっしり詰まっているから、もういらん。 圭一(私服): とりあえず……今度の土日だけだな?次の週はちゃんと正式にオファーを出して役者さんが演じてくれるんだよな……? 詩音(私服): えぇ、もちろんです。ちゃんと依頼をかけてくれましたよね、お姉? 魅音(私服): …………。 圭一(私服): ……魅音? 魅音(私服): あ、あははは……あは……。 詩音(私服): さっさとスケジュール押さえてこいっ!全速力ッッ!! 魅音(私服): は……はいぃぃいぃっっ!! 圭一(私服): ……てなことがあったわけだ。 千雨: ……。連絡もらってたか、菜央ちゃん? 菜央(私服): いいえ、まだよ。今頃自宅で、留守番中の一穂か美雪が電話をもらってる頃かも……かも。 千雨: ……イベントの企画とか資材の手配とかはほぼ完璧にできるやつなのに、人員配置だけうっかりポカするのはどうしてなんだ? 菜央(私服): あたしに聞かれても……。わざとやって人件費を安くすませよう、とはさすがに考えてない……とは思いたいけど。 圭一(私服): まぁ、忙しい時にミスが出ちまうのは仕方のないことだしな。魅音らしいって言えば、らしいと思うぜ。 菜央(私服): ……心が広いわね、前原さんって。あたしだったら、こうもミスが連続するとどこかのタイミングで怒っちゃうと思うわ。 圭一(私服): そりゃまぁ、仲間だからな。あと、魅音には#p雛見沢#sひなみざわ#rに越してきた時から何かと世話になってきたからさ。 千雨: ……それを持ち出されると、私たちも弱いな。まぁ、バイト代が出るだけよしとしておこう。 菜央(私服): そうね。……って、千雨は『アリス』をやらなくていいんだから別に引き受けなくても大丈夫でしょ? 千雨: っ……確かにな。なんで私、『アリス』に出るつもりになってたんだ? 菜央(私服): いや、だからあたしに聞かれても……。 圭一(私服): まぁそういうことがあって、引き受けた以上はどういうキャラクターなのか把握しておきたいと考えて……図書館に来てみたってわけさ。 千雨: なるほどな。……で、『アリス』の本は見つかったのか? 圭一(私服): いや……ちょうど誰かが借りた後らしくてな。それで菜央ちゃんなら内容を知っていると思って、偶然会えたのをこれ幸いに質問してみたんだ。 菜央(私服): そういうことだったのね。だったら、もちろん協力するわ。それと……。 菜央(私服): トランプ兵の衣装って、もう預かってる?もし寸法が合ってないようだったら、調整してあげるわ。 圭一(私服): おぉ、そいつは助かるぜ! 実は袖と裾が少し長めで、お袋に頼むつもりだったんだが……あいにく打ち合わせで東京に出かけちまって、どうしようって思っていたんだ。 圭一(私服): 俺の家はここから近いから、すぐに持ってくるぜ!ちょっとだけ待っていてくれよ~! 菜央(私服): ……行っちゃった。まったく、魅音さんにも困ったものね。 千雨: あぁ……そうだな。 菜央(私服): ? どうしたのよ千雨、浮かない顔して。やっぱりちょっと、腹が立ってたりするの? 千雨: いや、そういうわけじゃないんだが……。 千雨: ……なんでもない。きっと私の勘違いだ。 菜央(私服): …………? Part 03: 魅音(キャスト): というわけで……よろしくね、圭ちゃん!あと一穂と美雪、菜央ちゃんも頼んだよ~! 美雪(白うさぎ): へいへい。まぁ、千雨の時みたいに際どい人魚の衣装とかじゃないだけ、まだましと言えばましだもんねー。 千雨: ……止めろ、思い出すな。私としては闇に葬りたい記憶だ。 美雪(白うさぎ): んー、でもキミの全身写真って確か以前どこかの新聞に掲載されてたよ。 美雪(白うさぎ): 『秋の季節、美味の料理とともに人魚が……』なんてうたい文句だったかな~。 千雨: なっ……?それは初耳だぞ、本当か?! レナ(キャスト): はぅ~、レナも新聞の記事で見たよー!ポーズをした千雨ちゃん、とってもかぁいかった~♪ 千雨: っ、くそ……こんな形で、全国デビュー……?末代までの恥だ……! 美雪(白うさぎ): 大丈夫だって。名前が出たわけじゃないし、白黒の荒い印刷だから記録として残ってもなんとかうまくごまかせる……と思う……。 千雨: いや、そこは嘘でも断言しろよ。 詩音(私服): えー、では皆さん。早速ですが、パレードの準備にかかってください。最初はメイドさんチームで、その次ですから。 美雪(白うさぎ): よしきたっ!行くよ一穂、菜央っ! 菜央(マッドハッター): ちょっ?待ちなさい、まだこっちは――って、もういない……? 千雨: 演じた役通り、ウサギみたいにすばしっこいやつだな。確かにはまり役かもしれん。 千雨: で、今回から参加の前原だが……。 圭一(トランプ): ……どうだ、レナ?菜央ちゃんが寸法を調整してくれたんだが、おかしなところはないか? レナ(キャスト): ううん、全然っ!さすが菜央ちゃん、圭一くんの体型に衣装がぴったり合わさっているよ~! 菜央(マッドハッター): そ……そう?レナちゃんがそう言って褒めてくれるのなら、頑張った甲斐があったかも……かも。 魅音(キャスト): ……あと、圭ちゃん。この前話していたように、パレードに加わる前に寸劇をやってもらうわけだけど……大丈夫? 圭一(トランプ): あぁ。確か、バラ園でアリスと出会ってからやり取りをして、パレードに合流するんだったよな? 圭一(トランプ): 台詞こそあまりないが、頼んだぜ一穂ちゃん! 一穂(アリス): う、うん……!失敗して迷惑をかけないよう、頑張るよ……! お客A: おっ、始まった……!ほらほら、こっちからだとよく見えるぞ! 女の子A: あははっ、みんな可愛い~とっても綺麗~♪ 変態医師: おおっ……おおぉぉおおっっ?素晴らしい素晴らしい、まさに桃源郷のような光景!またしても変わり種メイド服を拝めるとはっ!! 変態医師: あぁ、こんな光景を写真に収められるなんて……何たる至福、何たる光栄ッッ! 変態医師: やはり、強引にでも休みを取って正解でした……!こうなったら明日も、仕事は全日パスしましょう!なんなら明後日も、そして来週もッッ!! 鷹野: 何をバカなことを口走っているんですか、先生!ジロウさん、とっとと連れ出して頂戴!! 変態医師: ちょっ……や、止めてください!私はもう、医者ではない!ただの愛に支配された、奴隷なんですッ!! 富竹: す、すまないイリー……気持ちはわかるが、鷹野さんに軽蔑されるわけにはいかないんだ!無力な僕を許してくれッ! 千雨: ……行ったか。とりあえず、武力行使をせずにすんだだけよしとしておこう。 詩音(私服): 『さて、パレードはバラ園の横を通過します。……おや? 誰か中にいるようですねー』 圭一(トランプ): 『ふんふん、ふーん♪白い花びらを、真っ赤に染めて~っと』 詩音(私服): 『どうやら、女王配下のトランプ兵のようです。なぜか白いバラを、赤いペンキで真っ赤なバラに変えていますね』 一穂(アリス): 『あ……あのっ、何をしてるんですか?』 圭一(トランプ): 『んー?あぁ、うっかり赤いバラを植えるつもりが間違えて白バラにしちまってさ』 圭一(トランプ): 『女王様にバレたら全員首を斬られるから、急いで赤いバラに変えているところさ』 一穂(アリス): 『え、えっと……それでうまくいくんですか?』 圭一(トランプ): 『ははっ、さーてなっ。んじゃ、後は頼んだぜ』 一穂(アリス): えっ? ちょ、ちょっと……?! 一穂(アリス): こ、この展開は聞いてないよ……!ど、どうしよう……? 詩音(私服): 『おおっと?ここでバラ園の管理をしている魔女がやってきました!』 一穂(アリス): えっ……? 魅音(キャスト): 『あんた……何をしているんだい?よりによって女王陛下お気に入りのバラ園を、白いバラにしちまうなんて……!』 一穂(アリス): ええっ? 梨花(堕天使): 『みー、証拠は押さえたのです。不届き者は、ここで成敗してやるのですよ』 一穂(アリス): ちょっ……?! 沙都子(天使): 『をーっほっほっほっ!女王陛下に代わって、お仕置きですわ~!』 羽入(ヴァンパイア): 『か、覚悟するのですよ……あぅあぅ』 一穂(アリス): そ、そんな~~っ?! 千雨: おい……一穂の演技がどう見ても演技に見えないんだが、大丈夫か? 詩音(私服): あっ……いっけない。うっかり一穂さんの台本だけ、前のVerを渡してしまったみたいです。てへっ♪ 千雨: てへ、じゃないだろっ? 絶対わざとだな?! 詩音(私服): いやー、その方が寸劇に迫力が出ると思いまして。……ほら、見てください。 美雪(白うさぎ): 『ちょっと待ったぁぁあ!!』 菜央(マッドハッター): 『犯人はこいつよ!処刑するなら、こいつをやっちゃって!』 圭一(トランプ): 『く、くそっ……!うまく責任を押しつけられると思ったのに……!』 …………。 千雨: おい……なんだ、あれは。 詩音(私服): 普通に原作通りに展開すると、観ている人も退屈すると思いましてね。……どうです? 千雨: ……独自解釈、入れすぎだ。